魔法少女リリカルなのは ULTRA SEVEN story
第二話 ランナウェイ

それは太陽のように熱く、太陽のように真っ赤な巨人であった。突如として現れた
巨人は咆哮をあげる怪獣に勇猛果敢に迫り、怪獣も巨人の接近に気がついたのか、
今以上の雄叫びをあげ、巨人を迎え撃つように走り出した。二つの巨体が走るたびに
地響きがおき、周辺の森に住む動物が騒がしく暴れ、逃げ出してゆく。
巨人は理性を殆ど持たない怪獣に飛び掛り、肩を掴んで身動きを封じようとした。
しかし、怪獣も大人しくするはずも無く、大きく体を揺らすと巨人の腕を振り払う。
さらにそれが気に触ったのか、短いが太く強靭な腕を巨人目掛けて振り下ろす。巨人
はすぐさま振り下ろされた腕を受け止めると、そのまま怪獣の腹に蹴りを入れ、怯んだ隙を狙って怪獣の頭に何度もチョップを食らわせる。

『ダァアア!』
『ゴオオォォォ!』
「こんな巨大な戦いがあるなんて……」
「真竜クラスの竜でもここまで巨大なものは存在しません。これが……怪獣」

両者は雄叫びを上げ、肉弾戦を続ける。そんな光景を目の当たりにしたエリオ
とキャロは愕然とした。今まで巨大な生物同士の戦いといえば、キャロの竜の
一匹、ヴォルテールと白天王と呼ばれた生物だけだろう。それでも二匹の身長
は15m程度、しかし目の前で繰り広げられる戦いは40m以上の生物の戦いであり、
スケールが違った。
怪獣の存在そのものは昔から確認されていた。現存する生物がなんらかの当然変異
を遂げたものなのか、それともロストロギアなどで生み出されたものなのか、はたまた
怪獣そのものがロストロギアとも言われ、管理局でもその生態の調査はなされていた。
しかし確認された固体数は少なく、また保護も捕獲も難しい怪獣の生態は未だ不明の
ままでいた。今回の密猟団の摘発により保護された怪獣がミッドチルダに輸送されず、
現地で預かっていたのはそういった危険性があるからである。

「ユーノ先生、あの怪獣、どうするんですか? まさか、殺したりは……」

たとえ暴れまわる怪獣であっても元々は密猟され、自分の意思とは関係なしに
連れてこられた怪獣に非はないだろう。不安げに問いかけるキャロにユーノは
安心させるように微笑みながら答えた。

「大丈夫、多少手荒いことはするけど、大人しくさせるだけだから」
「そうですか、よかった」

その答えに安心したのかホッと胸をなでおろすキャロ。
同時に巨人と怪獣の戦いも佳境を迎えていた。巨人から次々と繰り出される
スピーディな攻撃に対応できない怪獣はしだいに動きが鈍くなっていた。それ
を見計らってか、巨人は怪獣との間合いを取り、両腕をあわせるとその先から
リング状の光線を発射した。光線が命中した怪獣はまるで電撃が走ったように
体を痺れさせるとゆっくりと倒れ、目を閉じた。気を失っただけらしく、息は
あった。まるで暴風が吹いているような音を出しながら息をしているのがその
証拠である。
巨人は倒れた怪獣を持ち上げると、そのまま宙に飛ぶ。数十トンはあるはず怪獣
を軽々と持ち上げ、さらに飛行まで可能とする巨人の能力に驚きである。巨人は
一気に速度を出して何処かへと飛んでいってしまう。

「あ、巨人が……」
「エリオ君、本部に戻ってくれないかな。セブンもそこに行っているはずだから」
「セブン? わ、わかりました」

エリオはユーノに言われたとおりにフリードに指示を出す。移動を開始して数分
とたたないうちにエリオは気になっていたことをユーノに質問した。

「ユーノ先生、一体、あの巨人は何者なんです? 先生は何か知っているよう
ですし、それにどうして管理局の魔導師が僕たちを襲ったんでしょうか? 本部
とも通信が取れなくて、さらに保護した怪獣が外に出て暴れて……第一、今朝の
ニュースでユーノ先生は行方不明って聞きましたけど」
「う~ん、一度に説明するのには時間が掛かるかな。あの巨人の名はウルトラ
セブン、僕はセブンに助けられここにいる。怪獣のことや局員のことは保護隊
本部についてから説明するよ。とにかく、僕たちはまたとんでも無いことに巻き込まれてしまったのさ」
「とんでもないこと……ですか?」


「これは……」
「酷い、私たちがいない間にこんなことになっていたなんて」

約一時間掛けて、本部へと帰還したエリオとキャロが見たものは戦闘が行われた
痕跡がある本部の姿であった。半壊した本部の周辺には恐らく先ほどの怪獣が
暴れたためか酷く荒らされていた。ふと、そのときユーノがセブンと呼ぶ巨人と
その巨人に運ばれたはずの怪獣の姿が無いことに気がついた。

「ユーノ先生、巨人と怪獣は一体どこへ?」
「怪獣が保護されていた場所にいると思う。その前にコイツらをどうにかしないとね。一先ず降りよう」

その後、荒れた地面に降り立った三人。その際キャロはフリードを幼竜の姿に
戻した。三人は気絶し、バインドを掛けられている局員を半壊した本部に運んで
いく。さすがに身内組織の人間を牢に入れるのは気が引けたが、用心のためである。
ここでも違和感があった。誰一人として保護隊の人間と出会わなかったのだ。

「隊長も皆も一体どこに行ったんでしょう?」

疑問に思ったことをつい口にするキャロの言葉にユーノがすぐさま答えた。

「他の牢にいるよ」
「え、どうしてです!?」
「彼らと同じさ。怪獣を解き放ったのもここの人間だ」
「そんな、一体どうして?」
「操られていたんだ」
『え?』

突然三人の後ろから聞き覚えの無い声が返ってきた。振り返るとそこには見知らぬ
青年が立っていた。エリオとキャロは警戒するがユーノは反対に親しげに話しかけていた。

「カザモリさん、怪獣は?」
「あぁ、眠らせて保護区に戻した。他の二体も無事だ。恐らく、この密猟騒ぎ
は囮だろう、そうでなければここまで大げさな行動には出られない」
「一応、局員は牢に入れておいたけど」
「気を取り戻したら、様子を見よう。大丈夫なようなら協力を仰ぎたい」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

突然、エリオが二人の会話に割ってはいる。事情がよく飲み込めなかったため
である。突然現れた謎の男はどうやら敵ではないようだが、自分たちは彼のこと
を良く知らないのだ。一体どういう関係なのかを聞き出したかった。

「ユーノ先生、この人は一体誰なんですか? 局の人でもないようですし、それ
に囮とか操られているとか……」
「あぁ、ごめんごめん。彼はカザモリ・マサキ、僕の命の恩人さ。彼の言うとおり、
彼らはなんらかの精神操作を受けている。さっきの騒ぎもそのせいさ」
「命の恩人? ユーノ先生、さっきはあの巨人に助けられたって……まさか!」
「カザモリさん」
「別に構わない。『今』は隠す必要はないからな」

カザモリの了承を得て、ユーノはカザモリの事と自分が何故ここにいるかを説明
を始めた。

「二人とも、ニュースで僕が行方不明になったことは知っているよね? 実は
僕も局員に襲われたんだ。あまりにも突然だったから、抵抗も出来なくて、
バインドを掛けられたんだ。なんでこんな事をって言ってみたんだけど、答えて
くれる訳も無くてね、無限書庫をあさり始めたんだ」
「無限書庫を?」
「あそこの情報量は半端じゃないからね。敵もそれを狙ったんだろう。僕を捕
らえたのも情報を引き出すために利用しようとしたんだろう。もちろん、僕は
拒否したけどそしたら次は実力行使にでようとしてね、僕は抵抗できない状態
だったし、万事休すかと思った時に彼が来たんだ。それからはすごかったなぁ、
敵も彼の出現に浮き足立ってしまって、一瞬で撃退された。その時は何がなんだ
か分からなかったんだけど、とりあえず、書庫にプロテクトを掛けて、彼と一緒
に逃げたんだ。その後ごらんの通りさ」
「そんなことが……それじゃ、ミッドの地上本部の局員は全員操られているんですか?」
「いや、今頃は全ての局員が入れ替わっているだろう。そして、ここでも同じ
ようなことが起きたに違いな。ここは保護隊とは言え、そう簡単に局員全てが
操られるとは思えない。敵が侵入していると見て間違いないだろう」

エリオの質問に答えるようにカザモリが言った。操られているや入れ替わって
いるなども気にはなるが、敵というのが一体何のかエリオは知りたくて、問う
ように返事を返した。

「敵……ですか?」
「あぁ、エリオ君と言ったね、キャロちゃんでもいい。ここ最近で妙に挙動が
大人しくなった者や、ボケっとした者はいないか? とにかく、普段とは何か
違う局員がいないか思い出して欲しい」
「ン……特に無いですけど……キャロは?」
「私も……皆さん普段と変わった様子はなかったと思います」
「そうか、ありがとう」

急にそのようなことを聞かれても、一々他人の挙動を細かく観察するものなど
そうはいない。よほど観察眼が鋭いか物好きなだけである。ある程度は予想して
いた答えだったのか、特に気にした様子もなく、カザモリは軽く礼を言った。

「カザモリさん、もしかしたら、ここにはもういないんじゃないかな?」
「かも知れないな。港に逃げたか……」
「あ、そういえば、ユーノ先生、港は封鎖されているはずなのに、どうしてここへ?」

エリオはふと思い出し、ユーノに問いかけた。港の封鎖の主な原因は世界を
繋ぐ次元間が不安定だということである。そんな状態で次元航行艦は運行で
きない。下手をすれば未開拓地に飛ばされるか、永遠に次元間を彷徨う事に
なるのだから。そんな危険な状況下にあるにも関わらず、ミッドチルダにいた
はずのユーノがいるのはほぼ不可能である。

「港は封鎖されていない。まぁ言い方を変えれば封鎖されているともいえなくはないか……」
「どういうことですか?」

次はキャロが質問した。

「さっきも言ったが地上本部とやらの局員は全て異星人によって占拠されている。
人知れずな」
「異星人?」
「宇宙人って事ですか?」
「キュクルー?」

二人と一匹が頭をかしげる様は中々可愛らしいものがあった。カザモリはフッと
笑みを浮かべると、すぐさま真剣な顔つきに戻る。

「問題はこれからどうするかだが……」
「一度、ミッドチルダに戻ってみないか?」
「危険だと思うが?」

ユーノの提案にあまり賛同的ではないカザモリ。しかし、危険だということは
ユーノも理解しているはずである。それなのにそういう提案をするということ
は考えがないわけではないのかも知れないと、カザモリは聞き返した。

「何か考えがあるのか?」
「一応ね、もしかすると彼女たちも捕まっているかも知れないけど、心強い味方がいる」
「彼女たち?」

ユーノの言う彼女たちと誰なのかはカザモリは知らない。しかし、エリオとキャロ
には心当たりがあった。確かに、彼女たちならこれと無い味方になるのは当然だろう。

「元機動六課のメンバー!」
「確かに、皆さんなら心強いです!」
「正解、地上本部になら、なのはやはやて、ヴォルケンリッターたちがいるはず
だ。彼女たちならそう簡単にやられるとは思わない。どちらにせよ、ミッドチルダ
の現状を知らなければ、奪還も出来ない。出来る限り、協力者を集めたい」
「ふむ……俺はその機動六課という部隊は知らないが、君たちがそこまで言う
人材が揃っているのなら期待は出来るな。保護隊の人間が目を覚ましたら、彼ら
にも協力してもらおう。たった四人で敵の本拠地に乗り込めば、返り討ちにあう」
「わかった。港も奪還しなければいけないしね」



「……ッ!」

同時刻、ミッドチルダ地上本部にて、大勢の局員に囲まれていたはやてと
リイン。いつの間にか周りを取り囲んでいた局員に気がつくのと局員たちが
デバイスを構え、魔法を発動しようとする瞬間はほぼ同時。

「捕らえよ、凍てつく足枷!」

凍てつく足枷・フリーレンフェッセルンは本来、設置型の凍結・拘束魔法で
あるが、リインはそれを周囲の局員にぶつけるように放とうとするが、地上本部
の空気中の水分はあまり多くはない。それは地上本部の空調管理による温度や
湿度の調整によるものだ。その為、人間にとって程よい湿度でもフリーレンフェッセルン
を発動させるには条件が厳しい。ベルカ式魔方陣が現れても氷を精製するのに時間が
掛かってしまった。主を守ろうとするリインのとっさの行動だったが、あまりにも
突然のことそのことを忘れていたのだ。
その隙を狙って前方を固める局員のデバイスから射撃魔法が放たれてしまう。
直後に魔法を放った局員は凍結されるが、すでに手遅れである。

「マイスターはやて!」
「リイン!」
「やらせん!」

まさに疾風のようにとはこのことである。局員たちの頭上、正確に言えば天井
を駆け、現れた蒼き狼。瞬時に強固なシールドを発生させ、主を攻撃から守る。
感極まるはやてとリインは現れた狼の名を叫んだ。

『ザフィーラ!』
「この盾の守護獣、主に指一本触れさせはせん!」

そして現れたのは盾だけではなかった。突然、左右の局員たちが一瞬にして
吹き飛ぶ。右側の通路には長剣を構え、左側の通路には鉄槌を構えた騎士が
立っていた。

「シグナム!」
「主を守るのが我らの務め、ご無事で何よりです」

右側の騎士、シグナムははやての下に駆け寄り、彼女の言葉に答えるように
返事を返した。

「ヴィータちゃ~ん!」
「おいおい、泣くなよリイン」

左側の騎士、ヴィータは泣きながら、飛んでくるリインを受け止めながら、
シグナム同様はやての下へと駆け寄る。現れたのは剣、主の敵を打ち砕く剣たち
であった。そして、もう一人。

「おのれ……ギャッ!」

奇跡的に無事だった右側の局員の一人が震える手でデバイスを構えるが、魔法
を放つ瞬間に頭部に分厚い本が直撃し、気を失う。そこには虚空から伸びる手が
あった。一見、奇妙な光景だが、はやてにはそれがなんなのか分かっていた。

「遅いぞ、シャマル」
「シグナムが早すぎるのよ~」

えげつない攻撃で局員を倒したのが癒し手であるシャマルであった。シグナム
に文句を言いながら、はやてに駆け寄るとすぐさま怪我が無いかを確認する。

「良かった、怪我はないみたいね。ごめんなさい、遅れちゃって」
「皆、よう来てくれた!」
「我らヴォルケンリッター、主の危機に黙っているわけには行きません。主はやて、
現在この地上本部は危険です、一旦本部を抜け出します」
「うん、そうしたほうがえぇみたいや。よう分からんけど、地上本部は墜ちた
と見てえぇみたいや」

はやてが了承すると同時に周りが騒がしくなる。恐らく増援だろう。しかし、
今度ははやてがデバイスを起動させる時間は十分にあった。眩い光に包まれ、
はやては騎士甲冑に包まれ、同時に指揮を取る。

「シャマル、接敵まではどれ位?」
「この距離だと五分……いえ、向こうも急いでいるから、三分!」

クラールヴィントのセンサーを最大に発揮し、周囲の状況はシャマルの手の中
にあった。どこに敵がいるのか、どこから攻めてくるのかなども彼女には逐一
クラールヴィントから情報を得ていた。

「正規の脱出ルートは封鎖されとるはずやから、私の部屋の窓から逃げる。その前に、
隔壁を閉鎖、進行を遅らせる!」

はやてはすぐさまデスクの端末を起動させ、周囲の隔壁を下ろさせる。本来
なら警備室からの操作でなければ、いけないのだが、はやてを含め、一部の
局員のデスクからならば、その周囲のみの隔壁を閉鎖が可能である。その後、
隔壁が降りる音が響くが……

「はやてちゃん、隔壁が上がっているわ!」

センサーのよって、それを確認したシャマルが叫ぶ。

「チッ……警備室も墜ちとったか……皆、長居は無用や、脱出するで!」
『了解!』

六人は一斉に窓から外へと飛び出す。はやてを中心にリインははやての肩に
ザフィーラとシャマルが彼女の左右に付き、さらにその前をシグナムとヴィータが固める。

「ヴィータ、本部を壊さん程度に攻撃!」
「あいよ、アイゼン!」
『シュワルベフリーゲン』

威力を抑えたヴィータの誘導弾が本部の壁を直撃する。すると、はやての部屋
の警報がなり響き、窓の隔壁が降りる。これは外から襲撃を想定したものである。
誤認を防ぐために特定の攻撃、たとえば魔法による攻撃に反応して隔壁が下ろさ
れる。この隔壁はたとえ警備室でも解除には時間が掛かる。これである程度の時間稼ぎが出来る。

「どこへ向かいます?」

シグナムの問いかけにはやてはすぐさま答えた。

「局の関連施設は全部墜ちとるはず。一先ず、聖王教会へ。多分、カリムは
この事件の事を予測しいてたはずや。教会騎士団もおるし、対策はとっとる
はず。そう簡単に墜とされるとは思わへん」
「しかし、教会からなんの警告が無いというのは……」
「情報を遮断されとったか、その時、すでに本部は墜とされとったか……教会
が手を出そうにも、局が問題無いと言えば手が出せへん」

局員の様子を見る限り、教会からの警告も了承しつつなんの対策もとっていない
ことは明白、とるはずが無い。はやての下に情報が届かなかったのも情報操作が
なされていたのだろう。

「味方の本拠地から逃げるか……奇妙なもんやね」
「二年前よりも酷い状況です」
「局の怠慢のせいじゃねーのかよ?」

ヴィータの言い分も正しいのかも知れないが、はやてはどうしてもそれだけ
とは思えなかったのだ。いくら管理局が怠慢していると言え、そう簡単に本部
が乗っ取られるとは思えない。

「とにかく、カリムの所に行けばある程度分かるはず……急ぐで!」

味方に追われるという奇妙な逃避行の始まりであった。何故なのかという疑問
が残るなか、はやてたちは飛び続ける。
そして、今日この日より、人知れず、全次元世界の平和を守るはずの管理局地上
本部は墜ちたのだった。


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最終更新:2008年07月08日 12:09