“私がやってみる、援護を頼むぞ!”
二人の頭の中で、エップスの声が響く。
遠距離で話が出来ない、又は聞かれたくない話をする場合に使われる、“念話”
と呼ばれる通信方法だ。
“了解しました、ポッドマン陸曹!”
二人の返答がハモるのと同時に、岩の向こう側で爆発が起こり、大量の砂が彼ら
の上に降ってきた。

エップスは少し考え、かつてティアナ・ランスターがガジェットドローンのAMF
を破る時に使ったのと同じ方法を採る事にした。
まずはカートリッジを1発チャージする。
次に出現した魔力弾に、魔力の層を幾つも重ねて厚くコーティングしていく。

その間にもメガザラックは、自分目がけて雨あられと撃ち込まれるアクセル
シューターをものともせず、プラズマ弾を次々と撃ち返してくる。
“陸曹! まだっすか!?”
ロアラルダルからの悲鳴に近い念話も無視して、エップスは弾を練り上げる
のに集中する。

持ち堪えられない!
限界だと感じたロアラルダルは、三分の二程無くなった家の壁から離れ、後ろ
の家目指して駆け出す。
メガザラックは、それ視認するや即座に砲撃を中止して砂の中に潜り込む。
「ロアラルダル陸士! 戻ってください! ヤツが地中から来ます!!」
意図を悟ったグーダが叫ぶが、無我夢中で走るロアラルダルには聞こえない。
次の瞬間、ロアラルダルの数m手前で砂煙が吹き上がり、メガザラックが
跳び出して来た。
それと同時にエップスも魔力弾の練成を終え、ロアラルダルを今にも潰さんと
飛び掛るメガザラックに撃ち込む。
弾はメガザラックの右脇腹で炸裂、ロアラルダルをかすめて横向きに砂地へ
突っ込み、完全にひっくり返る。
間一髪で命拾いしたロアラルダルが隣家の陰に隠れるのと同時に、メガザラック
は反動をつけて元の姿勢に戻る。
「何てこった! 全然効いてねぇ!」
何事もなかった様に態勢を立て直したメガザラックを見て、デ・カタが毒づいた。


共同用の井戸がある集落の中央広場では、不時着したエグゼンダとローレンス
がフェイトの応急手当を行っていた。
墜落する直前、必死になって姿勢を水平に保ったおかげで地面に叩き付けられる
のは避けられたものの、その時の衝撃でフェイトの傷口が開き、出血が再び
始まったのだ。
「執務官、気をしっかり持って下さい! すぐに血を止めますから!!」
肩の肉が深くえぐり取られる大怪我にも関わらず、ローレンスはエグゼンダと
共に応急用の治癒魔法で、必死になってフェイトの出血を止めようとする。
「ローレンス陸士…私は…大丈夫……それより…あなたの…怪我…が…」
フェイトはそう言って微笑もうとするが、苦しげな息遣いと途切れがちな言葉が、
容態が相当悪い事を示している。
“陸曹! ハラオウン執務官の怪我が!!”
エグゼンダからの念話に、エップスは自分と真向かいの家の入り口の陰で、メガ
ザラックに攻撃している蛇と人間の会いの子の女性衛生兵に呼び掛ける。

“衛生兵!”
突然呼び掛けられた衛生兵は、慌てて攻撃を中止してエップスに振り向く。
“は、はい! 陸曹!”
“名前は?”
場違いな質問に衛生兵は戸惑うが、一呼吸して気分を落ち着けると、自分の名字
と階級を名乗る。
“ラベバ・イナーマシュ一等陸士であります!”
エップスは頷くと、イナーマシュに命令を伝える。
“よし。イナーマシュ陸士、急いでハラオウン執務官の所へ行ってくれ。一刻を
争う容態だ”
“了解しました!”
イナーマシュが敬礼して下がろうとした時、エップスはもう一言付け加えた。
“そうだ、デュラハも連れってくれ”
“はい!”
エップスは、傍らで蹲りながら戦闘を見守っているデュラハの頭を叩いて言った。
「デュラハ、あのお姉さんと一緒にハラオウン執務官の所へ行け」
デュラハは、不安げな表情でエップスを見上げた。
「陸曹は!?」
その問いに、エップスは破顔して親指を立てながら言った。
「私は管理局の陸士だ、専門の訓練を受けてるから大丈夫。さあ、早く!」
陸曹がそう言って肩を叩くと、デュラハは忍者の如く素早く道を横切ってイナー
マシュの所へ行く。
二人が後ろへと走り始めるのを見送ると、エップスは自分の言葉に苦笑した。
「専門の訓練…か」


イナーマシュとデュラハがフェイト達の所へ駆けてくると、エグゼンダがパニック
寸前の状態で叫んだ。
「出血が酷くて、俺達では抑えられないんだ!」
イナーマシュはフェイトの様子を診ると、矢継ぎ早に指示を下す。
「エグゼンダ、あなたはローレンスの肩の止血処置をしてから陸曹の支援に回って!」
「りょ、了解!」
エグゼンダがローレンスの手当てを始めたのに続いて、イナーマシュはデュラハに
振り向いて尋ねた。
「デュラハ、塩はある?」
「え?」
「塩よ! 食塩!!」
「え、ええと…」
イナーマシュの剣幕に気押されながら、デュラハは少し考える。
「確か、大抵の家ならどこにでもあったと思うけど…」
「じゃあ探して来て! それから水も!」
「うん、わかった!」
デュラハは、ほぼ鎮火しかけている家の方へと駆け出した。

ローレンスの治療を終えたエグゼンダが、エップス達の所へ向かったのと入れ替わり
に、デュラハが塩の入った小さな壺と、陶器の鍋いっぱいに入った水を持ってイナー
マシュの処へ駆けて来た。
「持って来たよ!」
デュラハがそう云うと、イナーマシュは自分のすぐ横を手で示した。
「ありがとう、ここに置いて!」
ローレンスが、イナーマシュの意図を悟って言う。
「即席の生理食塩水っスか!」

輸血用の血液がない場合、失血死を防ぐ為の応急処置として、点滴に使う生理食塩水
を血液の代わりに使う事がある。
イナーマシュは、出血著しいフェイトへの輸血用に、食塩と水でそれを作ろうという
のだ。

「分かってるなら手伝って!」
イナーマシュの怒鳴り声に、ローレンスは慌てて彼女の横に付いた。


メガザラックの圧倒的な火力の前に、魔導師たちは後退を与儀なくされていた。
彼らが一発撃ち込むごとに、メガザラックはその十倍は強力な弾を、十発撃ち
返して来る。しかも狙いが極めて正確で、射撃する度にすぐ移動しないと、
プラズマ弾か散弾の餌食になってしまう。

エグゼンダは、宗教家が聞いたら卒倒しかねかないような極めて冒涜的な卑語を、
幾つもの次元世界言語で喚き散らしながら、メガザラックに一連射浴びせる。
反撃が来る前に必死になって駆け出した次の瞬間、自身のデバイス“シューティング
スター”がエグゼンダに話しかけてくる。
「マスター、次元航行艦との通信が繋がりました」
それを聞いた直後、エグゼンダは背後で起きた爆発に吹き飛ばされ、砂地に顔面
から突っ込む。
這って安全なだと思われる場所まで下がると、口から砂を吐き出しながらエグゼンダ
はシューティングスターに言う。
「わかった、 一番近い次元航行艦に至急繋いでくれ!」

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最終更新:2008年07月27日 14:47