「やべぇよ皆いねぇよー!」
〔ねぇよー〕
〔ぇよー〕
〔よ-〕
洞窟から太陽の輝きが広がる森林でケロロの血の叫びが兒玉した。
第2話「ケロロ小隊、散らばっちゃった。であります!」
それは数分前に友達となったスカリエッティから船の修理を提案され、ケロロは喜んで彼に頼る事にし。
研究施設から歩き、その先に広がる落盤した土砂により塞がれていた洞窟の出口をドゥーエとトーレの二人によって退かしてもらうと。
確かに壊れたケロロの宇宙船らしき物体があった……無残にもボロボロになっており。墜落の衝撃を物語っている。
直ぐさま、歪んで開かなくなったハッチをこじ開けてケロロはスカリエッティ達と共に船内に入り。中に居るであろう仲間を探したが……。
「ギロロ伍長、クルル曹長、タママ二等兵……みんな、みんな……。」
誰ひとりとして居なかった。(約一名を忘れて。)
雲泥のように気分が落ち、重たい足取りでへし折ってしまったレバーの根本へと歩み寄り。それを握って動かそうとしたが動かない。
ケロォ……。
真ん丸の眼は悲しみの涙で潤み、ホロリと雫があふれてくる。
「ケロロ君……。」
「ケロちゃん……。」
「ケロロ……。」
そんな彼の姿をウーノ達は可哀相に思い、スカリエッティが歩み寄ってしゃがみ……彼の小さな身体を優しく抱きしめた。
「ケロロ君、どうして居なかったのか解るか?」
辛いことを聞いてしまうが、スカリエッティにとっては力になるためには聞かなくてはならない。
「多分、次元時空転位までレバーを下げてしまった我輩のせいであります……。それで墜落の衝撃で皆は違う世界に転移したんだと思うであります。」
手の甲で涙をぐしぐしと強く拭い、ケロロは折れてしまいそうな気持ちを持ち直そうとする。
どうするか……。
ケロロの震えを身体で感じ、スカリエッティは考えを張り巡らす。
そして、ある案が頭の中で弾き出された。
「少し調べてみた。が、君の星の技術は我々とはかなり違うものだ。これを修理するのはかなり時間が掛かる。」
やはり、そうでありますか……。
スカリエッティの言葉にケロロは納得した。が、涙は拭っても拭っても溢れ出て、頬や手を熱く濡らす。
「でも、何年かかってもケロロ君。君の仲間を探す手伝いをしよう。約束だ……。」
「スカ殿……。」
「そうだケロロ君さえ良かったら私達と暮らそう。」
優しく暖かいスカリエッティの言葉にケロロは言葉を失う。
こんな……こんなにペコポン人は優しいのでありますか。
そして、ゆっくりと頷く。
「うん。」
それは小さな子供のように純粋な応えであった。
スカリエッティ達は何か替えがたい存在を手に入れたかのように暖かく喜び……ケロロが泣き止むまで抱きしめることにした。
「とゆうと……ケロロ君はこれからは私達の弟ね。」
「カエルの弟か……まあ、かわいいし。無くは無いかしらね。」
「ケロロ。」
ウーノ達から歓迎の言葉を掛けられ、ケロロは痛いほど心に染み渡る。
我輩にはまだ、帰れる場所があるんだ……。
こんなに嬉しいことは。ないであります。
わかってくれるよね?みんなにはすぐ会いにいけないけど……。
こうしてケロロはスカリエッティ達と暮らす事になったのであった。
※※
『我輩がちぎっちゃったんだー。なーんだ、そっかー……ケロロォォォ!!』
「ケロロ貴様あぁ!!」
悲痛な叫び声をあげるなんとも頭の悪い仲間の名を怒りと呆れが混じった気持ちで叫んだ。
首を掴んで揺さぶるために勢い良く身体を起こしたが……当のケロロの姿は眼の前には無く。
両手は空を掴む。
赤色の肌を持つケロン人ギロロ伍長はそこで意識が覚醒した。
「って……はぁ、ゆ--」
脱力し「夢か。」と自分は言いたかったんだろう。
そう言って済ませたかったのだろう。
心のどこかであの光景が夢でありますようにと願掛けを行いながら辺りを見回す。
「夢だったのか……。」
真っ白い天井、悪くはないふかふかとした布団の感触からベッドで寝ていたのだと解釈する。が……。
「あ、あなた……?」
隣から聞こえた誰かの声にギロロは声のした方へと向き直る。
そこには青い軍服のような服に身を包み、水色の長い髪を後ろで纏めた誰かが自分を驚いた表情で見て立っていた。
姿形から、船の中で見た資料にあったペコポン人の女性だと認識し、ギロロはそこでアレは夢でなかった事に気付かされると同時に緊張が走る。
くっ、ペコポン人に捕まったのか……。
リンク出来ることを確認し、何時でもデータ倉庫からライフルを呼び寄せられるようにギロロは黙って眼の前の女性の出方を伺う。しかし……。
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたね……。」
ふるふると頭を振り払い、女性はなんでもないと言うように微笑んでそう告げる。
あの人と声が似ているだけで動揺するなんて……。
「いや……。何故俺は此処に居るんだ?」
「ほんの数分前、私達が任務に当たっている時に貴方がこの艦のブリッジに転送されてきたの。」
女性から話された言葉にギロロは思い出す。
『隊長さんよぉ。やべぇぜこりゃ、次元時空転移までずり落ちてやがるぜ。クーックックック。』
認めるのは悔しいが、情報操作や兵器開発をさせれば右に出る者のいない生意気な仲間の言葉を思い出す。
なら、アレが原因でどこともわからない場所に飛ばされたのか……俺は。
自然に何もできなかった自分への怒りでわなわなと身体が震える。
「怪我も無かったようで、でも軽い脳震盪を起こしていましたからそれでこの医務室に。」
何?
気を失った自分をどうにかするのでは無いのか。
彼女からの言葉、視線や物腰から敵意が無いことにギロロは敵性宇宙人の罠ではないのか?と疑問を抱きながら。
データ倉庫へのリンクを中断しないまま頭を下げる。
「すまん、介抱してくれたとはな……。助かった。」
礼を述べるギロロに女性は気にしていないと微笑んで首を横に振って答える。
「困った時は助け合うものです。
自己紹介がまだでしたね。私はリンディ・ハラオウンです。使い魔さんのお名前を教えてくださる?」
「使い魔……なんだソレは?俺はガマ星雲第58番惑星ケロン星から侵略の為に来たケロロ小隊のギロロ。階級は伍長だ。」
ギロロと名乗った赤い宇宙人が告げたいくつもの単語にリンディは耳を疑い。今度は逆に聞き返すことになった。
「し……侵略!?」
※※
「僕、タママ。ケロン星の軍人ですぅ。」
にこやかと黒い色の肌を持つケロン人・タママは二人の少女を眼の前に挨拶をしていた。
豪邸とも言えるひとりの少女の家の一室でくりくりとした眼の彼は大皿にあけられたクッキーを頬張る。
「私、月村すずか。よろしくねタママちゃん。」
「私はアリサ・バニングス。よろしくねタママ。」
「よろしくですー。」
何故、タママがこうして二人と言葉を交わすのか……。それは遡ること一時間ほど前。
アリサ、すずかが学校から下校し。いつもの帰り道である海鳴公園に差し掛かった時。
二人の眼の前に突如として光が彼女達の視界を覆うように発生し……すぐに光が晴れた。
何があったのか恐る恐る眼を開けると白いお腹に若葉マークに似た模様のあるオタマジャクシのような生物が足元で気を失って倒れていた。
どうすれば良いか考え、とりあえずアリサは自分の家へと彼を運び込んで介抱し、今に至る。
眼を覚ましたタママは二人に礼を述べ、自分の事を話す。
「でも、宇宙人なんてホントに居たのね……。」
ケロン星の事を聞かされ、アリサはクッキーを頬張ってから述べた。
映画の中だけの話じゃないわ。
オタマジャクシがマスコットキャラと化したような風貌からそう確信できるが何よりもタママのくりくりとした瞳を見れば信じるに足りた。
「お友達が心配だよね……。」
呟くように述べたすずかの表情は悲哀の色が出ていた。
友達と離ればなれは淋しいよ。と考えれば考えるほどタママの状況を辛く思える。
「ねぇ、タママ。私の家で暮らしたら?」
すずかと同じことを考えていたアリサは眼の前の宇宙人に提案する。
予想外の言葉にすずかは喜び、タママは驚いた表情で彼女を見上げた。
「良いんですか?僕が居ても。」
「問題無し。困ってるんなら助けてあげるわ。」
にっこりと微笑み、心地よく即答したアリサに出会えたことをタママは有り難く思い。
「ありがとうですー!」
と心からお礼を述べた。
「よかったねタママちゃん。」
「はいです。」
にっこりと自分のことのように喜ぶすずかに頷きながら内心、すでにタママはある人を案じて目が血走っていた。
軍曹さん……待っててくださいですぅ。僕が1番に見つけてやるですぅ……。
「おのれ……この化けガエル……もう我慢ならん、そこになおれ!!レヴァンティンの錆にしてくれる!」
「私もだ!もう許せねぇ、ぶっつぶしてやる!!」
ある次元世界で。
静かでいて穏やかな海が広がる場所……浜辺で奏でられる波の音を遮るかのように女性と少女の激昂の叫びがあがった。
女性は体操着を着て剣を
少女はスクール水着を着て槌を
二人は頬を赤らめて着崩した服を直しながらそれぞれの相棒を片手に瓶底眼鏡をかけた黄色いカエルに怒りの表情を向けている。
「やれるもんならやってみな~。クーックックックッ」
そんな二人を嘲笑うかのようにカメラを片手に……涙を浮かべながら独特な笑い声をあげたのはカエル……いや、クルル曹長であった。
カンに障る彼の笑い声、プツンと何かが切れ……彼女達は得物を握り直す。
「紫電--」
「轟ォ天爆砕ッ!ギガント--」
その気迫は並の者なら後退りすらできないほどに険しく、鋭い。
貫くかのような叫びと共に大技が発動される。
しかし、クルルは動揺をみせようともせずに頭に装着しているヘッドフォンの側面に手を沿え。何かのスイッチを起動する。
その瞬間。
「ぐあああああぁ!黒板を爪で引っ掻くなぁぁ!」
「あぎゃぁぁぁぁ!下手くそなバイオリン聴かせるなぁ!」
突然頭に響きだしたトラウマの音に二人は得物を落とし、背中をのけ反らせて耳を両手塞ぐ。
だが、それでも頭に嫌な音は鳴り響きつづく……。
数十分ぐらいまでトラウマの音に苛まれて、ついに二人は目を回して倒れ込む。
「クーックックックッ、良い写真も撮れたしなぁ。リンカー・コア蒐集だっけか?面白そうだから手を貸してやっても良いぜぇ。シグナムにチンチクリンよぉ。クククッ、クーックックックッ。」
嫌味ったらしく告げるクルルに二人は薄れゆく意識の中で共通の印象を抱く。
嫌な奴ぅ……。
黄色い肌のケロン人クルル曹長が二人と会ったのは数分前のことであった。
シグナムとチンチクリンことヴィータが自分達の主である八神はやての家でリンカー・コア蒐集の件の話しをしていた時、二人がいた部屋にこのクルルが突然姿を現した。
主はやてはシャマル、ザフィーラと買い物に出ていた為におらず。
デバイスの調整をしながら他言無用の話を聞かれた。と思った二人は秘密を漏らさないために結界を使用して始末してしまおうと戦いを挑む。
何十も戦いの場に身を置いてきた彼女達には彼はたいしたことのないように思えた…………しかし、魔法ではない怪しげな何らかの力を使うクルルにより騎士達は手も足も出なくなる。
そこでクルルは二人の口から小耳に挟んだ存在が好奇心を擽り、彼女らがやっていることを手伝おうと判断し。
同盟を持ち掛けた。
思ってもいなかった彼の話に二人は考え込む。が、「利用できるかもしれない。」と踏んで自分達のやっていたことに引き入れんと頷く。
そしてクルルは「ただし、無料じゃあやんねー。クーックックックッ。」と答え、二人にある条件を突き付けた。
その条件とは小遣いを稼ぐために、なかなかに需要があるシグナムとヴィータの体を使ったマニアックなグラビア撮影を行い、その写真を宇宙に売りさばくためであった。
クルルの条件に耳を疑い。もちろん、呑む訳にはいかなかった。が、何故か二人は巧みな話術に膝を屈し渋々海のある次元世界にやってきて今に至る。
「クーックックックッ、んじゃ次はジンセイニドアレバガン(こいつ)で改めてシグナムは幼女。チンチクリンは成熟の別バージョン撮影だぜぇ。」
自分達は仲間にしては厄介な奴を加えてしまったみたいだ……。
シグナムとヴィータはそう後悔するしかなく、そのまま姿を変えられてしまう。
クルルが彼女達の主に会う数分前のこと……。
※※
「身体の調子はどうかな?」
壮年の男性からの気遣い。それは未知なる世界のこの男性の邸宅に転移してきたケロン星の青い肌の迷い人にはなんとも有り難い。
身に染みる恩に対し、迷い人……ゼロロはペコリと頭を下げて礼を述べる。
「はい、おかげ様で。介抱してくださり。ありがとうございます、グレアム殿。」
律儀で丁寧な言葉に
「ゼロロ君、聞いてほしいことがある。」
厳な表情を浮かべて確認をとった彼にコクンと頷くと。
「君に黙っていてすまないと思っている事がある。」
「どうしたのですか?」 突然頭を下げた恩人にゼロロは慌ててしまうものの、彼の真剣な表情や口調から何かがあるのかと察して言葉を待った。
「気を失っていた時に診察したんだが……君にはリンカー・コアが存在している。」
「リンカー……コア?」
首を傾げて聞き返すゼロロにグレアムはこの世界の事を説明した。
質量兵器を廃止し、魔力つまり魔法による技術が主力となっていることを。
簡潔で信頼するに足りる彼の言葉にゼロロは信じても大丈夫だろうと確信する。それに隊長のケロロが見ていた画像の人……転移する前の光景を思い出してグレアムからの言葉との関連性から魔導師なんだ。と納得した。
そして、自分にも魔力の源があるという……。
ゼロロは自然と自身の手を見遣ってにぎりしめる。
僕にアサシンだけじゃない力が……ある。
「ゼロロくん、君さえよかったら私の元で勉強してみないか。」
「勉強……ですか?」
「うん、魔法の使い方を。君の自由だ。」
表情は厳なままである。しかし、優しさが奥にあった。
もとより影が薄く、皆からも気付かれなかったりする彼にはそれだけでも頷くことが出来る。
これでキャラが立つんだ!!
「グレアム殿」
ゼロロは微笑んでグレアムの手を取って述べる。
「僕に。魔法を教えて下さい。」
「……ゼロロ君。」
良い風の子だ……まるで夏に吹く優しい涼風のような
。
眼の前のカエルのような小さな宇宙人にそう印象付き、グレアムは安堵して微笑み返す。
「わかった。ではまず私の娘達を紹介したい。良いか?」
「是非、お会いしたいです。グレアム殿」
次元時空転移で各世界に各地散らばってしまったケロロ小隊はそれぞれ現地人と出会い、知ることになった。
それはケロロをはじめ彼らがさまざまな思い出と友情を築くことの始まり。
しかし……再び隊の全員が集結し、侵略を始めるのはかなり時間が掛かることをケロロ小隊はまだ解らない。
次回予告
ギロロ「く、ペコポン人の捕虜になるとは……。」
リンディ「あら、捕虜だなんて考えすぎよ。貴方には機動魔導師ギロダムF90として手伝ってもらうんですから。」
ギロロ「何だソレは!くだらん、俺は軍人だ!
次回 第3話「ギロロ、魔導師の素質あり。であります!」だ。見てくれ!」
最終更新:2008年09月04日 15:23