「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」

――Full Charge――

電王の掛け声に応えるように、チャージされたフリーエネルギーがデンガッシャーの剣先へと収束されて行く。
チャージが完了し、デンガッシャーから離れたオーラソードは、周囲のワームの身体を切り裂きながら飛んで行く。
電王が振るうデンガッシャーに合わせて、空を舞うオーラソードは滑るように飛んで行くが――

「えぇっ……!?」
『Protection,EX』

その先にいたのは、高町なのはであった。
なのはの危機を察知したレイジングハートは咄嗟にバリアを展開し、オーラソードを弾く。
しかし、直撃を防ぐことには成功したが、それでも衝撃はなのは側にも伝わる。
結果、バリア毎弾かれたなのはの体は、そのまま地面へとたたき付けられることとなった。

「ハイパー……キック!!」

――Rider Kick――

ハイパーカブトは真っ直ぐに、宙に浮かんだコキリアワームへと真っ直ぐに飛んで行く。
まるで竜巻のようなタキオン粒子を纏ったその脚は、激しい火花を散らせながら、コキリアワームを打ち貫いた。
着地すると同時に、時間は元の流れを取り戻し、展開されたカブトの装甲も元の位置へと戻って行く。
やがて、変身を解除すると同時に意識を失った天道は、過度の疲労からか、その場に倒れ込んだ。

その後、意識を失った天道は、すぐにアースラの医務室へと運び込まれた。
幸い天道のダメージはそれほど重い訳でも無く、すぐに意識を取り戻す事が出来た。
それも起きるや否や、天道の態度は相変わらずの尊大さ。
流石の加賀美もはやても、呆れずにはいられなかったという。
勿論、呆れた反面、天道がいつも通りの態度であることには安心を覚えたが。

「どう? 美味しい?」
「……んー…………」

現在は、はやてがお見舞いついでに作った料理を、天道が食べている最中である。
メニューの内容は“オムライス”。
単純で平凡な料理でありながらも、料理人の実力を見る事が出来る料理だ。
そんなオムライスを、しばらく味わった天道が出した答えは。

「……まぁまぁだな」
「うんうん、まぁまぁかぁ……って! 美味しくないんかい!!」
「……まぁまぁだな」

はやての料理に対する評価は一言のみ。“まぁまぁ”だ。
そんな天道の態度に多少の落胆を覚えたが、なんだかんだで美味しそうに食べてくれている。
まぁ、これはこれでいいのかな?等と考えながら、はやては天道を眺めていた。


ACT.20「FULL FORCE-ACTION」前編


それから数日の日をおいて。
今日も天道は、このアースラ内での生活を強いられていた。
……と言っても最近は以前程の危険人物扱いでは無く、良太郎並の行動は許されていたが。
良太郎はたまに元の家に戻っているらしいが、まぁそんなことは天道にとってはどうでも良かった。
それよりも天道にとって最も重要なのは、今の自分がこの戦艦内でどう生きていくかだ。
そしてその答えが、天道が今まさに立っている場所にある。
目の前にあるのは、沢山の食材に、まな板、包丁、その他諸々。
そう。ここは厨房だ。アースラの食堂で、皆の料理を作る、厨房だ。
そんな場所に、天道総司は立っていた。
それも、白いエプロンを着けた―――コック姿で。

「よし、では今日も一日。旨い飯を作るぞ!」
「「「はいッ!!」」」

天道の掛け声に、厨房の料理人達は声を揃えた。
すぐに天道は自分の持ち場につき、局員達の昼食の準備を始める。
手慣れた手つきで、冷蔵庫から持って来た新鮮な野菜に包丁を突き立てて行く。
その包丁さばきは見事の一言。
素早く野菜を捌きながらも、決して形を乱すこと無く、常に一定の間隔で綺麗に捌いている。
厨房で料理を作る局員達は、目を輝かせてそんな天道の包丁捌きを見詰めていた。
さて、何故天道が食堂で料理を作っているのかと言うと―――時は数日前へと遡る。


それはある日の事だった。
いつも通りに、クロノに持って来られた料理を完食した天道。
そんな天道が、箸を見つめながら、ぽつりと言った。

「やはり……旨くないわけじゃないが……旨い訳でもないな」
「失礼な。だいたい君はそんな贅沢を言える立場じゃないだろう?」

天道の食べっぷりを黙って見ていたクロノであったが、これには流石に呆れ顔。
クロノも小さなため息を落としながら、むすっと言い返す。
一方で天道は、箸を持ったまま、何かを考えるような姿勢で食器を見詰めるのみ。

「そんなに不満なら、食べなければいいだろう? それか、君が自分で作れば――」
「――それだ」
「へ……?」
「俺をここの厨房へ案内しろ」
「…………」

クロノが言い終えるのを待たずに、天道はすっくと立ち上がった。
困ったクロノは、渋りながらも艦長であるリンディに連絡を入れ、指示を仰いだ。
結果、答えは即座に帰って来た。

「面白そうだから、いいじゃない」

と、これがリンディ・ハラオウン艦長が出した答えであった。
アースラで起こったあらゆる責任を負うべき館長である筈なのに、そんなに軽くていいのかと
クロノは突っ込みたくて仕方がなかったが、どうせ自分が何を言っても無駄なのだろうと。
またしてもクロノはため息を落としながら、リンディの思いつきに付き合うことにした。
そういう訳で、早速天道は食堂へと招かれ、自慢の腕前を奮って見せた。
リンディとクロノ、二人分の晩御飯を作ることになった天道は、“味噌汁”、“鯖の味噌煮”、に、白米という非常に単純な料理を作った。
当初はあまりの平凡さに、期待外れだ何だと言っていたが―――
一口食べればそんな考えはすぐに吹き飛んだ。
天道の料理を食べた二人がどんな反応を示したのか。それは最早想像に難くない。
料理も単純ながら、二人の感想も至って単純。「旨い!」の一言。
こうして天道の料理の噂は瞬く間にアースラ内に響き渡り、翌日には厨房で実際に料理を作る立場に。
翌々日には、厨房の料理長のポジションを任せられる程になっていた。
これが、アースラ内での天道の自由な行動を許す大きなきっかけになったのは、まず間違いないだろう。
たった数日ではあったが、天道の料理を食べた人は、明らかに天道に対して好意を抱いていたからだ。
実際、この数日間、アースラの局員達はこの食堂の料理ばかりを好んで食べるようになったと言う。
と言うのも、天道の料理は、食べた者を昇天させてしまう程の美味しさなのだ。
そうなるのも当然と言えば当然だろう。


と、こうして料理長として料理を作る事になり、現在に至る訳である。
天道が野菜を刻んでいると、ふと背後から何者かの気配を感じた。

「止まれ。俺が料理をしている時、その半径1m以内は神の領域だ」
「…………」

背後の気配が止まった。流れる沈黙。
キリのいい所まで作業を終わらせた天道は、ゆっくりと背後へと振り向いた。

「なんだ、クロノか。どうしたんだ?」

天道に話しかけた相手は、他ならぬクロノ・ハラオウンであった。
当初は厨房の料理人にアドバイスでも頼まれたのかと思ったが、相手がクロノなら話は別だ。
一応形だけでも天道はクロノの指示に従っている以上、蔑ろにする訳にも行かない。
天道も警戒心を解き、エプロンを外して応対した。

「何だ。そんないつも通り真剣な顔をして」
「天道……君の処分が決まった。一緒に艦長室まで来てくれるかな。
 ……あといつも通り真剣な顔って何だ。」
「気にするな……ようやくか。待ちくたびれたぞ」

クロノはどことなく心外そうに呟くが、天道はお構いなしにエプロンを脱ぎ始める。
考えてみれば、天道がクロノとこんな風に話すようになったのも、ごく最近――
とくに、暴走したカブトを、ザビーが身を呈して救った時からなのだろう。
あれ以来、天道は少しだけクロノという人間を見直したのだ。あくまで少しだけだが。
きちんとエプロンを畳んだ天道は、それをクロノに渡しながら、不敵に微笑んだ。


それからややあって天道は、クロノに案内され、艦長室の前まで連れられた。
どうやらクロノは艦長室の中まで同席する必要はないらしい。
案内を終えたクロノは、「自分の役目は終えたから仕事に戻る」と、そのまま天道の前から姿を消した。
調度クロノの姿が見えなくなると同時に艦長室のドアは開かれた。
中から、自分を呼ぶリンディ・ハラオウン艦長の声が聞こえる。
声に導かれ、天道は一歩踏み出す―――刹那、室内の予想外の和風さに一瞬とは言え天道は自分の目を疑った。
無理もない。これまで天道は、アースラ内部で機械的な部屋ばかりを見て来たのだ。
それなのに、まさか艦長室がこんなにも庶民的な部屋だと一体誰が想像しただろうか。
と言っても、天道にとって和風の空間というのはかえって落ち着ける空間なのだが。

「どうしたのかしら? 天道さん。この部屋がそんなに意外だった?」
「……ああ。少しはいいセンスをしてるようだな」
「それはどうも」

天道がこの部屋に入った瞬間から既に表情に小さな微笑みを浮かべていたリンディだが、
天道にセンスを褒められた事に気を良くしたのか、リンディはさらに上機嫌そうに微笑み返した。
いや、天道にとってはこんな会話はどうでも良い。
重要なのは、自分に下される処分についてだ。
と言っても、管理局――というよりもネイティブの連中が天道の力を必要としている以上、
天道に実害が及ぶような処分が下されるとは思えないが。
それ故に天道は、自信満々といった雰囲気で、腕を組みながら言った。

「そんな話はどうでもいい。それより、俺に下された処分とやらを聞かせて貰おうか」
「まぁそう慌てないの……処分と言うよりも、ちょっとしたお話があって呼んだだけだから」
「話だと? 言っておくが俺は、管理局に入るつもりは無いぞ」
「ええ、その話なんだけど……」

ばつが悪そうに苦笑しながら、リンディはテーブルのボタンを押した。
同時に、リンディと天道の眼前に、宙に浮かぶモニターが現れる。
天道もいい加減見飽きた技術である為に、今更驚いたりはしない。
モニターに映し出された人物は、天道の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべ、画面に身を乗り出した。

「いやぁ~……貴方が天道さんですか! どうやら噂通りの方のようですね!」
「…………」

モニターに映る一人の男。歳は中年程。体格は小太り。
正直言って、どこにでも居そうな普通の男だ。
天道はモニターに映った男に、冷たい視線を送る。

「……どうやら噂通り、クールな方のようですね! いやぁ益々素晴らしい!」
「要件は何だ。わざわざこうして俺を呼び出したんだ。俺に何か言いたい事があるんだろう」
「いやぁ~……本当に素晴らしい、まさに天道さんのおっしゃる通り!
今回は一つ、話したいことがありましてねぇ……」

モニター画面の中で、気のいい笑顔を続けていた男の表情が変わる。
笑顔という点では変わらないが、その中にもどこか真剣な色合いを浮かべたような表情。
天道には、この男がどこか気味悪く感じられた。

「あ、その前に……私はネイティブの根岸と申します。以後お見知りおきを」
「ネイティブだと……?」
「ええ、ですがその件はまたの機会に。時間も無いので、今は天道さんへの処分だけ伝えさせて頂きます」

ネイティブという単語を耳にすると同時に、天道の目付きも変わる。
何せ今最も優先すべき謎なのだから。
天道はちらりとリンディを見やるが、リンディも申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振るのみ。
どうやらリンディ提督ですら、ネイティブという言葉についてはあまり知らないらしい。
仕方がない……と、天道はため息混じりにモニターに視線を戻した。

「えー……結論を言わせて貰うと、天道さんにこれといった処分はありません。
 そしてリンディ提督とアースラスタッフ一同には、今後は天道さんの指揮下に入って頂きます」
「「な……!?」」

不敵な作り笑顔を全く崩さないままに、根岸が言った。
対照的に、天道とリンディの二人が驚愕に表情を固める。
もちろんリンディにとってそれは不服な事なのだろうが、天道とていきなりこんなことを言われても訳が解らない。
つまりは、自分を管理局に入れるということだろうか?
だとすれば、天道はそんな命令に従うつもりは無い。
というよりも、アースラのスタッフを、それほど天道は欲してはいないのだ。
自分一人でも十分戦える以上、本当に味方として信用できるかもわからないような組織を側に置く天道ではない。
と、天道がそんな事を考えていると、横に座っていたリンディが声を張り上げた。

「ちょ、ちょっと待って下さい! それは一体――」
「まぁまぁ落ち着いて! 別にリンディ提督の階級を下げるとか、天道さんを上司
 として管理局に招き入れろとか、そんな事を言ってるんじゃありませんよ」

リンディの言葉を遮って、根岸が苦笑気味に続ける。

「リンディ提督以下アースラスタッフ一同には、ただ天道さんの手助けをして欲しいんですよ」
「手助けだと……?」
「ええ、貴方は今まで通り、ワームを倒してくれればいい。
 そのために必要であれば、彼女達の力を借りればいいんです」
「……生憎だが、俺にそんな手助けは必要な――」
「まぁまぁまぁ! そう言わずに! あって損するものじゃないでしょう!
 つまり、貴方は今まで通り、我々は貴方に協力したい……そう言ってるんですよ」

またしても天道が言い終える前に、根岸が割り込んだ。
正直あっさり納得することは出来ないが、現時点では根岸の言い分に、
天道にとって損失になるような事が見受けられないのも事実だ。
もしも向こうから何らかの要求が突き付けられたなら、また話は変わって来るが。
根岸は正直言ってZECTの加賀美総帥や三島と同じくらいに胡散臭い。
だが、根岸が自分の力を必要としていることに恐らく嘘はないのだろう。
ならば、こちらから利用してやるまで。
以上の点を踏まえて、暫く考えた後、天道は結論を出した。

「……いいだろう。ただし、俺の邪魔だけはしない事だな」
「えぇ、はい、それはもちろんです! リンディ提督も、分かってますね……?」
「……わかりました。私たちは今まで通り、仮面ライダーと協力して敵を倒せばいい……ということですね?」

根岸の問いに、リンディは少し表情を曇らせながら、答えた。
まぁ根岸のような胡散臭い男にいきなりこんなことを言われれば誰だってそうなるか、
などと考えながら、天道もリンディの顔を見つめる。
リンディに言わせれば、天道もまた仮面ライダーの一人。
ならば、今まで通り仮面ライダーをサポートすればいいと判断したのだろう。
リンディの答えを聞いた根岸もまた、満足そうな笑顔を浮かべ、大きく頷いた。

こうして、結果的に天道は無罪放免。
それどころか、アースラスタッフという心強い味方を手に入れる事になるのであった。


天道が食堂に戻った時には、局員達の朝食も終わり、人影も少なくなってきた所だった。
食堂に見えるのは、サボり癖があるのか仕事が暇なのかは知らないが、のんびりと朝食を食べている数人のみ。
そんな人々も次第に食事を終え、自分の持ち場に戻って行く。
そんな中で、段々と人が居なくなってゆく食堂を見守っていた天道の目に、明らかに不自然な姿をした一人の男が映った。
鋭く尖った二本のツノを持ち、頭から足先まで全身真っ赤っかという異様な姿を持った怪人。
野上良太郎に取り憑いた、赤鬼の姿をモチーフとしたイマジン。
名前は―――モモタロスというらしい。
どうやら初陣の時から、良太郎がイメージしていた桃太郎と、このイマジンのイメージが一致していたらしい。
そんな理由で、いつからかモモタロスと呼ばれるようになったこのイマジン。
本人はそんな名前のセンスに非常に不服そうだが。
良太郎に取り憑いたばかりのモモタロスは、誰とも打ち解けようとはしない。
ただ、たった一人でふて腐れたように食堂の椅子に寝そべっていた。
傍らに置かれたコーヒーは既に冷めている様子で、どうやらモモタロスは長時間ここでダラけていたのだろうという事が伺えた。


良太郎や他の局員達にいつの間にやらモモタロスと名付けられたこのイマジンは、
何をするでもなく、ただぼーっと天井を眺めていた。
モモタロスは今、非常に苛立っていた。
良太郎という特異点の少年に取り憑いてしまった事に関しては、今はそれほど悔やんではいない。
寧ろ、イマジンとして過去を侵略するよりも、正義のヒーロー電王として、侵略者を倒す方が、段違いにカッコイイ。
元々派手にカッコよく戦いたかった彼にとっては、電王として戦えるという事はプラスなのだ。
1番の問題はその後。電王としての戦いの中で、自分の最高にカッコイイ―筈の―必殺技を、なのはにぶつけてしまった事だ。
勿論、彼に言わせればあんな邪魔なところにいたなのはが悪いのだ。
だが、それでいいのかという疑問が、彼の心を苛む。

なのはが悪いと決め付けて逃げる事は確かに簡単だが、それは本当にカッコイイのか?

小さな子供を傷付けて、自分は平然と罪から逃れようとする。
そんな形が、本当に彼が望んだ物なのか?
答えは、Noだ。
今の自分が最高にカッコ悪いという事は、彼自身が1番理解しているのだ。
だが、だからと言って不器用な彼に、今更素直に頭を下げるなど、出来る筈もない。
だからこそむしゃくしゃと悩んでいるのだ。
良太郎には口を利いて貰えなくなり、何処か責められている気がしてなのは達に顔を合わせる事も出来ない。

「畜生……良太郎の奴、人を悪者みたいな目で見がって……」

天井を見詰めたまま、小さな声で呟いた。
寂しさや虚しさといった感情が嫌と言う程に込められた声。
それは、周囲の者が見ているだけでも、何処か可哀相に思えてくる程だった。
ややあって、うじうじと寝転んでいた彼の視界に、一人の男が入った。
自分を見下ろすその顔には、確かな見覚えがある。
天然パーマに、嫌に落ち着き払ったいけ好かない野郎――天道総司だ。
何か言いたい事でもあるのか、天道はただ自分を見下して気味悪く立っていた。

「……なんだよ?」
「ここは寝る所じゃない。飯を食わないのなら出て行け」
「っるせぇな! 言われなくても出てってやるよ!」

言われた途端に腹が立った。
すぐに立ち上がったモモタロスは、天道に背を向けて、ズカズカと歩いて行く。
別に行く宛てはないが、今ここにいることが胸糞悪い。だから出て行く。
そう考え、食堂を出ようとするが―――

「待て」
「……あ?」
「お前、顔が赤いぞ」
「な……!? べ、別に赤くなんてねぇよ!?」

食堂のドア付近で振り向くと、何やらトレイに食器を乗せながら、天道が言った。
顔が赤い。この一言で、何故か心の中身を見透かされたような気がしたモモタロスは、少し焦ったようにそれを否定する。
いや、元々モモタロスは顔が赤い訳だが。
と、モモタロス本人も、ややあってその事実に気付いた。

「って……俺の顔は元々赤いだろうが!!」

モモタロスが怒鳴るが、天道は耳を傾ける様子も無く、マイペースに作業を続ける。
トレイに乗っているのは、魚と白いご飯。
それをテーブルに置いた天道は、モモタロスに視線を送った。

「お前、今日は何も食べてないだろう」
「別にちょっとくらい食わなくたって死にはしねぇよ」
「いいから食べろ。腹が減っていては、余計に苛々するだけだ」

天道の言葉に、モモタロスは誰が食うもんかとそっぽを向くが――
刹那、モモタロスの腹がぐうと音を鳴らした。
そういえば、昨日の夜からろくに何も食べていなかったなぁと。
そんな状態で天道の作った料理を見てしまって、腹が減らない訳が無かった。
ご飯からは白い湯気が立ち上り、味噌に漬けられた魚は美味しそうな香りを醸し出す。
気付けばモモタロスは、渋々ながら天道が誘導するテーブルの席に着席していた。
あくまで渋々ながらだ。別に食べたい訳じゃないからな! と心の中で繰り返しながら。

「……礼なんて言わねぇからな」
「いいから黙って食べろ」
「チッ……相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ……」

言いながら、天道が作った「鯖の味噌煮」という料理を箸で口に運ぶ。
口に入った鯖を、歯で噛み砕いた瞬間―――
モモタロスの目はかっと開かれ、口元が緩んだ。

「どうだ?」
「ッ……うっめぇぇぇぇぇええええええぇ!!!」

天道な問い掛けに答えながらも、残った鯖味噌と白米を、ガツガツと頬張る。
美味い。美味過ぎる、と。
あまりの美味しさに、初めての料理を次々と飲み込んで行く。
モモタロスがそんなペースで食事を続けると、鯖味噌も白米もあっという間に無くなっていた。
完食したモモタロスは心底幸せそうな表情で腹を叩きながら、椅子の背に体重を預けた。
ややあって、ふと天道を見てみると、天道はやけに自信ありげな表情で、人差し指を天井に向けていた。

「おばあちゃんが言ってた……料理とは常に人を幸せにするべきものだ……ってな。
 どうだ。少しは気持ちが楽になったか?」
「へっ、別にメシ食ったくらいで変わるかよ」

天道に顔を背け、腕を組んで答える。
確かに言われてみれば、料理を食べている間はまるですべて忘れたように幸せな気持ちだった気がする。
気はするが、素直になれないモモタロスは、改めて美味しい等とは絶対に言う気は無い。
第一、そんな気がするだけでは意味が無いのだ。
問題は良太郎やなのは達にこれからどう顔向けすればいいのか。
例え一時的に気持ちが切り替わろうが、根本的な問題を解決しない事には何も変わらないのだ。
そんなモモタロスの懸念を知ってかしらずか、天道がぽつりと呟いた。

「そうか。ならば自分はどうしたいのか……まずはそこから考え直すんだな」
「あ? 俺がどうしたいかだ?」
「変な言い訳を考えずに、素直になることも時には必要という事だ」

言いながら、天道は食器の乗ったトレイを厨房へと運んで行く。
何が言いたいんだよと言い返したかったが、どうせ天道はそこまでは教えてはくれないだろう。
自分で考えろ、と。恐らくはその一言で済まされてしまう。
ならばわざわざ自分から悔しい思いをしに行く事も無い。
それ故に、モモタロスは、一人で考える事にした。

「あぁ……さっきのメシ上手かったなぁ」

と、その前にぽつりと一言。
結局、すぐには難しい考え事には入れないモモタロスであった。
しかしもしかすると、モモタロスがこうして少しは前向きに思考出来るようになった原因は、天道の料理にあるのかも知れない。
と言っても、それは誰にも――おそらくモモタロス自身にもわからないことだろうが。

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最終更新:2008年09月12日 03:47