◆
「ちょっとちょっと……これはやり過ぎだって……!」
一方で、アースラのブリッジ。
このある意味いつも通りの空間で、いつも通りにエイミィが呟いた。
しかし、今回は一つだけいつも通りではない。
これまでにも数々の怪人を見て来たエイミィに、今更“やりすぎ”とまで言わせるもの。
それは、彼女達が仮面ライダーに出会ってから、未だかつて経験した事の無い規模での事件。
「どうしたんだ、エイミィ」
「どうしたもこうしたも、これはやり過ぎだよ!」
エイミィの背後から、クロノが声をかける。
エイミィは冷や汗を流しながら、自分が見ていた映像をブリッジ全体に見えるように、巨大なモニターに表示させた。
「なっ……!?」
と、同時に唖然とした。
それは、クロノの表情が次第に青ざめて行くのが見て取れる程。
モニターに映った映像は、町の銀行らしき施設をこれでもかという程に破壊する緑の怪人。
周囲に無造作に散らばる物は、怪人が銀行から奪った大量の札束。
そして何よりも二人を驚愕させたのは、怪人の周囲を取り囲む、数十台のパトカーだった。
これまでのアンデッドやワーム、オルフェノクは全て、割と目立たない範囲で活動していた。
だからこそ、管理局側もライダー達も、秘密裏にそれを鎮圧することが出来た。
仮に、多少規模が大きな戦闘が発生したとしても、ZECTが派遣したゼクトルーパー
達が立ち回ってくれたお陰で、大事にはならなかった。
それなのに、今回あの怪人が襲ったのは、よりにもよって銀行という公然的な施設。
そんな銀行を襲えば、すぐに警察に連絡は行くし、人々も集まってしまう。
結果、今回の事件は今までのように人々に隠し通すのは無理なレベルにまで発展してしまったのだ。
どうしたものかと、エイミィは思考する。
今連絡が取れる戦力は、なのは達魔導師組と、天道に剣崎、それにクロノと良太郎。
ちらりとクロノを見ると、クロノの身体には未だに対カブト戦での傷が生々しく残っていた。
もし再び戦闘に巻き込まれれば、下手をすれば傷口が開いてしまうかも知れない。
しかしクロノは、例え怪我をしていようが自分の仕事とあらばすぐにでも駆け付けるつもりなのだろう。
それを考えると、今回のようなすぐには手出しが出来ない状況も一概に最悪とは言えないのかも知れない。
と、そんなことを考えていると、背後にもう一人の気配を感じた。
エイミィが振りかえると、ドアの前に立った良太郎が、顔をしかめながら、モニターを見つめていた。
「良太郎君……?」
「僕が行くよ」
まるで暴れまわる怪人に対して、怒りを露わにするように。
手に持ったライダーパスをぎゅっと握りしめながら言った。
「大丈夫なのか?君は……」
「大丈夫……やらなきゃいけない事は、わかった気がするから」
「……わかった。だけど今回は今までとは違う。警察や一般人がいることを忘れないように」
「うん。わかったよ、クロノ君」
小さな微笑みを浮かべると、良太郎は踵を返した。
どこか頼りない微笑みだが、どこか安心出来る微笑み。
矛盾しているが、どういう訳か、良太郎を止める気にはなれなかった。
そうして、良太郎が現場に赴く為、ドアの扉を開けると―――
「どうも! ウィーアー・チームデンライナー署です!」
その先に拡がっていたのは、何処までも続く砂漠と、巨大な赤い列車。
ポカンと口を開ける良太郎達三人を尻目に、列車――デンライナーから顔を除かせた少女は、笑顔でライダーパスを突き出した。
パスに描かれたマークは、どう見ても97世界の“警察署”に酷似したマーク。
良太郎は思わず自分のパスと、少女――ナオミの持つパスを見比べた。
「あ、あの……これは?」
「良太郎! いいから早く乗って!」
「ちょ……ちょっと!?」
良太郎の混乱を知ってか知らずか、ナオミの背後から現れたハナが、良太郎の腕を掴み、車内に引っ張り込んだ。
エイミィとクロノは唖然とした表情で、ただ見ているだけしか出来なかった。
「デンライナー署、初出動です!」
と、そんな二人の耳に、ナオミの明るい声が響いた。
◆
パトカーに囲まれる中で、札束が無造作に詰め込まれた袋を持った怪人が、警察官達を威嚇する。
警察官達は一斉に銃を発砲するが、怪人の身体には何のダメージも与えられない。
この怪人、名をカメレオンイマジンと云う。
何故これ程の大金を欲しているのか―――それは、このイマジンが契約した人間が、“死ぬ程金が欲しい”と要求したから。
警察官達は圧倒的な力の差を見せ付けられながらも、パトカーの影から銃を放ち続ける。
そんな中、その中の一人が、パトカーの窓から無線機を引っ張り出して、大声で怒鳴った。
「五代雄介! 今何処に居るんだ、五代雄介!」
と、幾度かその名を呼ぶが、反応は無し。
こんな時に連絡が取れない事に苛つき、男―――「一条 薫」は小さく舌打ちしは、無線を車内に放り投げた。
そして、一条はすぐにパトカーから離れる。
同時に、カメレオンイマジンの放った炎が命中したパトカーは爆発。
物影に隠れながら、手に持った銃を睨む。
こんな銃では奴に傷を負わせる事すら出来ないだろう。
だが、それでも諦める訳には行かない。
物影から銃を突き出し、カメレオンイマジンを狙う。
しっかりと照準を定め、引き金を引く指に力を込める―――その時だった。
カメレオンイマジンの身体が大きく爆ぜ、その身体が1mほど後方に吹き飛ばされる。
―――五代か!?
思い当たる名を心の中で呼びながら、何が起こったのかと周囲を見回す。
そして一条の視界に入ったのは、カメレオンイマジンの前方に立つ一人の戦士。
クワガタムシを摸した頭。緑の複眼。赤いライダースーツ。そして、それを覆う銀の鎧。
ダイアを象った赤い銃を構え、カメレオンイマジンへと走り出した。
◆
――俺は強い。
赤いライダー――ギャレンは、走りながら、右腕で構えたギャレンラウザーを、
左腕に乗せ、連射。カメレオンイマジンを、撃って撃って撃ちまくる。
撃つ度にカメレオンイマジンのボディは爆発し、攻撃が通っていることを実感する。
それは、ギャレン――橘に精神的な安息を与える。
――俺は強い……そうだ、何も心配する事は無い。俺は強いんだ!
ギャレンラウザーからの発砲を続けながらカメレオンイマジンに組み付いたギャレンは、
力任せにカメレオンイマジンを殴りまくる。
一発、二発と。凄まじいラッシュをカメレオンイマジンの身体に打ち込む。
「ワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「……クッ!」
ギャレンの連続パンチがカメレオンイマジンのボディに減り込み、
その衝撃でカメレオンイマジンは徐々に後退して行く。
ギャレンの咆哮は止むこと無く、まるで怒りをぶつけるかのようにひたすらに殴る。
それこそ、一切の反撃を許さない程に荒々しく、目茶苦茶に殴りまくる。
やがて、ギャレンは腰にセットしたギャレンラウザーを再び抜き、カメレオンイマジンの身体に密着させ―――連射した。
ギャレンの咆哮に重なり、カメレオンイマジンが苦痛の声を漏らす。
それでも銃撃の嵐は留まる事をせず、カメレオンイマジンの身体を爆ぜさせる。
撃たれ続けたカメレオンイマジンは、銀行の扉に激突。同時に銃撃は収まる。
―――俺の勝ちだ!
ギャレンはラウザーのカードトレイを展開し、二枚のカードを取り出した。
一枚は、ダイアの5「ホエールドロップ」。
一枚は、ダイアの6「フライファイア」。
この二枚をラウズすることで放つコンボ技、「バーニングスマッシュ」で奴を倒す。
しかし、ギャレンがこれらのカードをラウズすることは無かった。
慢心からか、ギャレンはカードをラウズする為、一度立ち止まってしまったのだ。
つまり、特になんの対策もすることなく、敵の前で堂々と無防備な姿を曝してしまったのだ。
勿論、それは敵にとっては十分な隙。そんな一瞬の隙を突いたカメレオンイマジンが、
カメレオンを摸した腕の触手を伸ばし、ギャレンラウザーを叩き落とした。
「ウ、ウワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
触手はギャレンラウザーだけには留まらず、ギャレン本体にまで跳ね飛び、ギャレンをめった打ちにする。
全身から激しい火花を散らせながら、数歩後退するギャレン。
一撃一撃が痛々しくギャレンを傷つけ、橘の悲痛な叫び声が響く。
そのままカードとギャレンラウザーを落としたギャレンは、
カメレオンイマジンが放った炎に焼かれ、装甲を爆発させながら宙を舞う。
「うわぁっ!?」
そして地面に落下すると同時に、ギャレンバックルから飛び出したオリハルコンゲートがギャレンの変身を解除させる。
人間としての無防備な姿を晒してしまった橘は、何もする事が出来ずに、ただ尻餅をついたまま後退りを続けるのみ。
「貴様……さっきは随分と遊んでくれたな?」
「う……うわぁあああ……!」
迫りくるカメレオンイマジンから逃れようと、近くに置き去りにされたパトカーに縋り付く。
どうやらギャレンが戦っている間に大半の警官は退避したらしく、ここにいるのは橘のみ。
カメレオンイマジンは、橘にトドメを刺すべく、橘の眼前にまで迫っていた。
「死ねッ!」
「ウ、ウワァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
橘が絶叫した、その時だった。
すぐ近くから銃声が響き、放たれた小さな弾丸がカメレオンイマジンの身体に減り込む。
何のダメージも無いものの、当たった銃弾はカランと音を立てて地面に落下。
完全に怯え切った橘を尻目に、カメレオンイマジンは銃撃の方向に視線を送る。
視線の先に居るのは、停められたパトカーを盾代わりに、背後から銃を突き付ける一人の刑事――一条だった。
「貴様……」
最早橘に興味が無くなったカメレオンイマジンは、一条に向き直り、拳を振りかぶる。
腕に装着された触手を伸ばし、遠距離からの一撃で一条を仕留める為だ。
振り上げた拳を、一気に振り下ろす事で、触手は真っ直ぐに一条へと飛ぶ。
一条は、咄嗟に腕で頭をかばうような動作を取る。
それというのも、一般人である一条に、人間の目視できる速度を遥かに越えた攻撃を回避出来るわけがなく―――
「……なに?」
――否。一条に触手が命中する事は無かった。
一条の視界を、黒いワンボックスカーが遮り、同じようにカメレオンイマジンからの視界も遮られる。
イマジンが触手を伸ばすと同時に、二人の間に一台の黒いワンボックスカーが割り込みをかけたのだ。
「デンライナー署」と描かれたワンボックスカーのドアが開くと同時に、カメレオンイマジンは自分の目を疑った。
なんと、ワンボックスカーの中にいる一人の少女が、自分に向かって巨大なバズーカを構えているのだ。
「な……嘘だろ!?」
「行っけぇぇぇっ!!!」
しかし少女は――ハナは何の躊躇いも無くバズーカを発射。
放たれた巨大な砲弾は、カメレオンイマジンのボディに直撃し、そのまま遥か後方へと吹っ飛ばした。
ビルの壁にたたき付けられたカメレオンイマジンは、崩れ落ちてきた瓦礫を払いのけながら、何とか立ち上がる。
正直言ってハナの砲撃もそれなりに迷惑だが、誰もそれに突っ込む者はいないので問題は無い。
ハナの砲撃に続き、ワンボックスカーから降りた良太郎は、腰にデンオウベルトを巻き付け、カメレオンイマジンを睨んだ。
良太郎がライダーパスを翳すことで、デンオウベルトのターミナルバックルは白く輝く。
ターミナルバックルから舞い散るように現れた白い粒子は、良太郎の身体を包み、
黒い装甲を顕在させていく。
良太郎の「変身」という声に合わせて、良太郎の姿は電王・プラットフォームに変化。
戦闘能力はソードフォームには遥かに劣る、電王の素体フォームだ。
勿論それは良太郎にも十分わかっている事だし、このままで敵に勝てるとも思っていなかった。
だが、それでも良太郎に、モモタロスを呼ぶつもりは毛頭無く。
………………
…………
……。
◆
戦闘が始まってから、どれだけの時間が経っただろうか。
電王はがむしゃらに向かって行くが、結局カメレオンイマジンには一撃もダメージを与える事が出来なかった。
どんな攻撃を繰り返しても、返され、流され、反撃される。
それもその筈だ。プラットフォームには、対した戦闘力など存在しないのだから。
だがそれでも、電王はカメレオンイマジンに立ち向かう。
効かないと分かっていながら、震える拳を振り上げ、力いっぱい殴り付ける。
「フン!」
「うっ……」
勿論、すぐに受け止められ、反撃の一撃を受ける。
「何やってるの良太郎! 早くモモタロスを呼んで!」
ハナの声が聞こえるが、電王はまるで意に介さず、カメレオンイマジンとの戦闘を続ける。
そもそも良太郎が、モモタロスの助けを必要としていないのだ。
いや、出来る事なら一緒に戦ってほしい。でなければ死ぬ。
だが、それを理解していても、良太郎には、モモタロスを戦わせたくない理由があった。
故に、良太郎は絶対にモモタロスを呼ばない。
今頃モモタロスは、アースラ内で一人で悶々としていることだろう。
何せ戦うために現代に来たのに、戦わせてもらえないのだから。
そんな勝ち目の無い戦闘が随分と続き、やがてカメレオンイマジンが口を開いた。
「おっと……俺の目的はお前じゃない。
こんな事をしている間に金が無くなってしまっては元も子も無いな」
「うぐっ……!」
意識が朦朧とし始めた電王の耳に届いた声。
行かせるものかとばかりに電王は立ち上がるが、すぐに背中に重い肘打ちを貰い、再び地面に倒れ伏してしまう。
何も出来ない電王を尻目に、カメレオンイマジンは札束が押し込まれた袋へと近寄ろうと歩き出すが――
「させないよ」
「何!?」
そんなカメレオンイマジンの眼前に、桜色の光の柱が聳え立った。
慌てて動きを止めたカメレオンイマジンは、すぐに光の発信原である空中に視線を送る。
そこに顕在したのは、白きバリアジャケットを身に纏った少女――高町なのは。
なのはは、ゆっくりとカメレオンイマジンの目前に降り立つと、レイジングハートを突き付け、言った。
「こんな大金、どうするつもりなのかな……?」
「お前には関係ないだろう!」
カメレオンイマジンが答えると同時に、レイジングハートの先端から、轟音と共に桜色の閃光が轟いた。
ディバインバスターのチャージを短縮した、ショートバスター。なのはの技の中では、比較的威力の低い技だ。
問答無用のショートバスターに飲み込まれたカメレオンイマジンは、フラつきながらも、なんとか持ちこたえる。
「何なんだお前は! いきなり攻撃なんて卑怯だろう!」
「質問してるのは私だよ。もう一回、頭冷やしてみる?」
「な……!?」
刹那、カメレオンイマジンは、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
なのはと目を合わせた途端に、まるで蛇に睨まれた蛙のように。
なのはの目付きに、カメレオンイマジンは素直に恐怖という感情を抱いたのだ。
それもそのはずだろう。
なのはは今、非常に怒っていた。
理由もまた、非常に簡単。
一つは、銀行強盗まがいの犯罪を起こし、警官や多くの人を傷付けた事。
一つは、橘や良太郎といったなのはの仲間達を傷付けた事。
それらはなのはの中の怒りのスイッチを入れるには十分過ぎる理由であった。
しかし、カメレオンイマジンにそんなキレた人間の相手をするつもりは毛頭無く。
というよりもこんなおっかない相手と戦う気は毛頭無く。
「ちっ……こ、ここは一度退いてやる! 覚えていろ!」
「……な!?」
有りがちな捨て台詞を残したカメレオンイマジンはすぐにその体から体色を抜き始めた。
そして、なのはが再びショートバスターを放とうとした時には既に、カメレオンイマジンはその姿を消していた。
これもカメレオンイマジンの能力の一つ。自分の姿を消してしまうという、悪質な能力だ。
なのははレイジングハートを握り締めながら、小さなため息を落とした。
一先ず、カメレオンイマジンは後回しにするとして、この状況を把握する為、周囲を見渡す。
横転し、炎上するパトカーが数台に、「デンライナー署」と描かれたワンボックスカーが一台。
そして、ボロボロになった良太郎に駆け寄るハナと、気を失った橘。
そして、見知らぬコートを来た男――一条。
今来たなのはには、この状況が理解出来る筈も無く。
なのはは再び、今度は一際大きなため息を落とした。
◆
銀行から数km離れたオフィス街の工場で、カメレオンイマジンはその姿を顕在させた。
「クソッ……何なんだ、あいつらは! お陰で計画が台なしだ!」
工場の壁を叩きながら、なのは達に対する愚痴を零す。
奴らさえ現れなければ、自分はとっくに金を奪い、契約者と結んだ契約を果たし、過去へ飛べた筈なのだ。
成功すれば過去をぶち壊して、イマジンの支配する世界に変える大きな一歩となる筈だったのに。
そんなことを考えながら歩いていると、前方から一人の女が現れた。
黒い喪服を着た女は、表情一つ変えずにカメレオンイマジンの目前まで迫る。
「力が欲しいか?」
「何だ、貴様は!?」
「我々はワーム。貴様らが望む闇の世界に、我らの力が欲しくないか?」
カメレオンイマジンは、暫し悩んだが、結局女の申し出を受ける事にした。
計画を果たす為になら、最早手段は選んでいられない。
確かにこの女は胡散臭いが、過去に飛んでしまいさえすえばこちらの物なのだから。
こうして、今ここにイマジンとワームの連合軍が結成されたのであった。
◆
「ねぇ兄貴……今の聞いた……?」
「……闇の世界、か……」
一方で、カメレオンイマジンと喪服の女が話している場所から
やや離れた物陰で、三人の男達が静観していた。
一人は、影山瞬。地獄兄弟、弟だ。
一人は、矢車想。同じく地獄兄弟、兄。
「闇の世界は、俺達だけの世界だ」
「うん……あんな奴らに、俺達の世界を語って欲しくないね」
二人は顔を見合わせ、物陰から鋭い視線をカメレオンイマジンに飛ばす。
まるで自分のテリトリーを侵される事を嫌う野生の獣のように。
そんな二人の声に反応して、すぐ側で寝転がっていた三人目の男が、気だるそうに起き上がった。
「……勝手にしろ。餌さえ取れれば、それでいい。」
三人目は―――浅倉威は、不敵な笑みを浮かべながら、矢車に向き直った。
そんな浅倉の背後の窓ガラスには、三匹のミラーモンスターが、腹が減ったと言わんばかりに咆哮していた。
スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE~
プロローグ・Ⅴ~」
「何なのよ、一体!」
プレシア・テスタロッサは、ただひたすらに走っていた。
とにかく帰ろう。早く家に帰ろう。
その一心で、ひたすらに走り続けていた。
突然現れた仮面ライダー――シザースは、プレシアに一言だけ、
「逃げてください」と告げ、そのまま緑の化け物に向かって行ったのだ。
状況はさっぱりわからないが、プレシアにも、自分には何の力も無いという事だけはわかっていた。
それ故にただ逃げ続けるしか出来ずに、訳も分からず言われるままに逃げるのみ。
そうして何処まで走り続けただろうか。
走り続けて疲れ果てたプレシアの元に、一人の少年が現れた。
「また貴方なの……?」
「あはは、久しぶり、プレシア」
プレシアを呼び捨てで呼ぶ少年――キング。
キングは、楽しそうに笑いながら、プレシアの周囲を歩き始める。
「それよりさ、まだ自分のこと思い出せないの……?」
「……貴方は私の事を知っているの?」
「さぁ、どうだろうね?」
キングは、楽しそうに笑いながら、1枚の写真を取り出した。
写真に写っているのは、金髪のロングヘアーをツインテールで束ねた少女。
携帯で撮った画像をプリントアウトしたんだ 等と自慢げに語りながら、
キングはその写真をプレシアに手渡した。
「一つ教えてあげるよ。その子の名前はフェイト・テスタロッサ」
「フェイ……ト……?」
「そう、あんたの大切な大切なたった一人の娘だよ。」
愉快そうに言うキング。
プレシアは、「フェイト」と呼ばれた少女の顔を見ていると、何故か頭が痛くなる気がした。
何か、大切な事を。どうしても思い出さなければいけない事を、自分は忘れているような。
そんな気がしたからだ。
最終更新:2008年09月12日 03:50