ACT.19「それぞれの傷」後編

涼しげな波の音が聞こえる砂浜に、なのはとフェイトは居た。
無数のワームに囲まれながら、たった二人で立川を守り抜くために。

「ディバィィィン――……」

高町なのはが、群がるワームの大軍の中心に向かってレイジングハートを構える。

「バスタァァァアアアアアアアアアアアッ!!!」

『Divine Buster.Extension』
そして、レイジングハートの声と同時に、発射。凄まじい威力を誇る砲撃魔法は、ワームの大軍を焼いて行く。
命中したワームは残らず緑の炎に消えるが、それでも数は減らない。
倒しても、倒しても。いくら倒しても、ワームが湧いて来るのだ。
少し油断すれば、安全と思われていた背後からもワームが現れる始末だ。
「何でこんなに……フェイトちゃんっ!」
「うん……わかってる!」
なのはがその名を呼ぶと同時に、一瞬で立川の背後にフェイトが駆け付ける。
そして、手に持つ大剣をワームの群れに構える。
刹那、大剣――バルディッシュザンバーの刀身が巨大化し、稲妻が走る。
自分の身長を遥かに越える剣を大きく振りかぶったフェイトは、それを一気にワームの群れへとぶつけた。
電撃を纏った剣がワームの体を纏めて斬り裂き、後に残るのは緑の炎のみ。
二人が一度の攻撃で倒すワームの量は、通常の出撃時に倒す総数にほぼ等しい。
それ程の数のワームを倒しても倒しても、次から次へと湧いて出るのだ。

そんなワームの中に、二人の人間がいた。一人は黒いローブを身に纏い、眼鏡を掛けた長髪の男。
もう一人は、黒い喪服姿の女性……なのは達も知っているワームの幹部――間宮麗奈だ。
やがて男は、ゆっくりとなのは達の前に歩み出ると、まるで長髪するかのように喋り出した。
「ごきげんよう。魔導師の諸君」
「何……!?」
それに気付いたなのは達が、デバイスを構え、男に視線を飛ばす。
だが男は動じない。確かに彼女らは無数のワームを葬って来たが、男にとっては、デバイスなど恐れるに足りないのだろう。
そう。なのは達人間はただの“餌”でしか無いのだから。餌がいくら強がろうと、何の恐怖も感じないのだ。
「餌にしてはよくやった方だが……がっかりだよ」
言うと同時に男は跳躍し、上空にいたフェイトに並んだ。
「跳んだ……ッ!?」
「まずは君からだ」
刹那、男は凄まじい脚力で飛び上がり、それこそあり得ない程の速度で、力強いパンチを放った。
フェイトは咄嗟にバルディッシュを構え、そのパンチを受け止めるが――
「嘘……!?」
威力を殺すことは出来ずに、フェイトの体は砂浜にたたき付けられた。
激突の瞬間にバルディッシュが落下の速度を落としてくれた事で、大したダメージにはならなかったが。
着地し、微笑む男。今度は、男を取り囲むように、輝く光弾が現れる。
なのはが放ったアクセルシューターが、男を全包囲から狙っているのだ。
やがてアクセルシューターは男に向かって加速するが――
「……消えた!?」
それは叶う事無く、アクセルシューターの光弾同士が何も無い場所で激突し、地面に落下する。
そう。男が消えたのだ。なのは達の視界から、一瞬で。
「見えているのだよ。君達の攻撃は」
「……なッ!?」
次の瞬間、なのはの背後に現れた男は、なのはを軽く持ち上げ、投げ飛ばした。
だが、空を飛ぶ事が出来るなのはにとって、投げられる程度ではそれほどの恐怖は感じない。
先程のフェイト同様、落下の直前に足首に翼を展開し、上手く着地。
そのままフェイトと並び、男を睨んだ。
「貴方は……ワームなの!?」
「……フッ」
なのはが問い掛けるが、男は一切答え無い。
ただ微かな笑みを浮かべ、なのは達を見詰めるのみ。
男はなのはの質問に答えるつもりは毛頭無いらしく、逆になのは達を指差し、挑発的に言った。
「魔導師の諸君……君達の目的は、あの男を守る事では無いのかな?」
「何……!?」
「見たまえ」
男が親指で、自分の背後を指差す。そこにいるのは――

「そ、そんな……!!」
「立川……さん!?」
立川の目の前にいるのは、緑とも麗奈とも違う、別のワーム。
以前、学校で一度倒した事がある、コキリアワームと同タイプのワームだ。
いや、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、コキリアワームの腕の位置。
それは、なのは達にとっては認めたく無い現実。
仲間の腹部に突き刺さる、ワームの腕。
なのは達が見る限り、コキリアワームの腕は見事に立川の体を貫通し、その命を奪ったように見えた。
否、見えただけでは無い。実際に突き刺さっているのだ。
コキリアワームがその腕を引き抜くと同時に、立川はその場に崩れ落ちた。

ただじっと、絶望的な表情で立川を見詰めることしか出来ないなのは達を尻目に、男は言った。
「フン……今回は、我々の勝ちだ。直にZECTの諸君も来るだろう。
 ……また会おう、魔導師の諸君」
別れの言葉。それだけ言うと、男は直ぐにこの場所から姿を消した。

男が居なくなったせいか、先程までは無数にいたワームの数も一気に減り、この場に居るのは間宮麗奈と、いつも通りのワームのみとなった。
「残念だったな、高町なのは。フェイト・テスタロッサ」
「間宮……麗奈……ッ!」
嘲笑する麗奈を、フェイトが睨む。こうして相対するのは初めてだが、フェイト達にとっても、この女は許してはいけない存在だと言う事は解る。
やがて麗奈は、白い装甲をその身に纏い、シオマネキと呼ばれるカニ特有の巨大なハサミをなのは達に向けた。
なのははレイジングハートを、フェイトはバルディッシュを。再び構え直し、麗奈――ウカワームと相対する。
「カブトが来る前に、お前達を始末する」
「出来る物なら……!」
ウカワームの言葉に、フェイトが大剣を突き付け、対抗する。
その時だった。

「おっと、そうはいかねぇなぁッ!!」

響きやすい低い声が、なのは達の耳に入った。
なのは達には、この声に確かな聴き覚えがあった。
そう。なのは達の背後に現れたのは――
「良太郎君っ!?」
最早お馴染み、イマジンに取り付かれた状態の、野上良太郎だ。
良太郎はゆっくりと歩を進め、立川のすぐ側に立ち、横たわった立川へと視線を落とす。
良太郎に取り付いた、名も無きイマジン。
性格こそ破天荒で無茶苦茶ではあるが、人の死を何とも思わないようなイマジンでは無い。
「でん……おう…………」
僅かに目を開け、その名を呼ぶ立川。最早喋る事もままならないらしい。
良太郎は、何処か淋しげな目線を立川に落とした後、静かに言った。
「……もう黙っとけ。これ以上喋るんじゃねぇ
 おっさんの仇は、あいつらワームは、俺が全部ブッ倒してやるからよぉ」
言うが早いか、良太郎の腰にはデンオウベルトが巻かれていた。リズムの良い電子音が流れる。

「やい、テメェら! もう俺の出番は終わりって言うけどなぁ……!
 こんなもん、黙って見てられる訳が無ぇに決まってんだろうが……!」
何処からか取り出したライダーパスを握りしめ、良太郎は勢い良くその手を振り上げた。

「だからよ……そこで見てろよ、おっさん。俺のカッコイイ――」
振り上げられた手は、さらに勢い良くベルトに翳された。
同時にベルトは赤く光り輝き、変身終了の合図を告げる。
「――変身をッ!!」

『Sword Form(ソードフォーム)』

「俺……参上ッ!!」
赤いオーラアーマーを纏った電王は、自分の顔に親指を突き立て、派手に手を広げると、高らかに叫んだ。
こちらへ向き直るウカワームを尻目に、電王は腰に装着されたデンガッシャーを組み上げ、ソードモードへと変形を完了させる。
デンガッシャーを構えた電王は、群がるワームへと一直線に走り出した。
……が、電王が狙う相手はサリスでは無い。
狙うは明らかにボスらしき貫禄を見せているウカワームかコキリアワームのみ。
「行くぜ、カニ野郎ッ!」
電王は、一気にウカワームとの間合いを詰め、力強くデンガッシャーを振り下ろす。
ウカワームはそれを腕の巨大なハサミで受け止め、弾き返す。そして繰り出されるハサミでの一太刀。
電王はその一撃を胸に受けるが、その程度で終わる筈も無く。
「甘いんだよっ!」
ウカワームがハサミを振り抜いた瞬間に、デンガッシャーを頭上に振り下ろした。

「クッ……」
「行くぜ行くぜ行くぜぇっ!!」
油断したウカワームの頭に、ほんの一瞬の隙に何度も何度もデンガッシャーを振り下ろす。
命中する度に火花が散り、ウカワームの硬い殻にダメージを与えていく。だが、やはり致命傷には至らない。
ウカワームはすぐに腕のハサミでデンガッシャーを受け止めると、前蹴りで電王を突き放した。
「うわっ」などと言いながら、後方へと引き下がるする電王。だがバランスは崩さない。
再びデンガッシャーを構え直した電王は、ウカワームにデンガッシャーの刀身を突き付けた。

「やい、カニ野郎! さっきから地味な戦い方しやがって……
 俺に前フリはねぇ! 最初っから最後までクライマックスなんだよッ!!」
「クライマックス、か……そうだな。どうやらお仲間が駆け付けたようだぞ?」
「あん? 仲間だぁ?」
ウカワームの言葉に拍子抜けしながらも、電王もその視線の先を見遣る。
その先にあるものは、二人の男が、何かを叫びながら走って来る姿だった。
それがどうしたと言わんばかりに電王が視線を戻す。
すると、ウカワームの前に3匹のサリスが現れ――
「あ……おいっ、待ちやがれっ!!」
3人の仮面ライダーと二人の魔導師が相手では流石に不利と感じたのだろう。
電王の叫び声も虚しく、ウカワームはこの場所から姿を消した。


「立川ぁーーーーッ!!!」
天道の少し先を走る男……加賀美が、大きな声で名前を叫ぶ。ようやく見付けた立川に追い付く為に。
天道も加賀美の後ろを必死に走るが、暴走したことによる疲労と、ザビーから受けたライダースティングによるダメージは相当のもの。
どうしても本調子という訳には行かない。
それでも、立川という切り札をここで失ってしまう事は、天道にとって最も避けたい事態だ。
やがて先を加賀美の身体は、「変身」の掛け声と共に、銀色のマスクドアーマーに包まれる。
その姿は仮面ライダーガタック・マスクドフォームの物となり――
両肩のガタックバルカンから発射されるイオンビーム光弾がなのは達に群がるワームを焼いて行く。

天道の視界に映るガタックは、すぐになのは達へと駆け寄って行った。
「なのはちゃん、フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「私達は大丈夫……ちょっと魔力使いすぎちゃっただけだから……」
「それより立川さんが……!」
「何だって……?」
フェイトの視線の先を見るガタック。そこにいるのは、力無く横たわった立川その人。
仮面の下で、悔しげな表情を浮かべ、拳を握りしめるガタック。その態度を見るに、よっぽど悔しいのだろう。
だが、ようやく掴んだヒントを手放す天道の悔しさは、ガタックのそれを遥かに上回る。
フェイトの言葉を聞くや否や、直ぐに天道は立川に向かって、全力で走り出した。

「おい……! 立川ッ!! しっかりしろ!!」
直ぐに立川に寄り添った天道は、立川の身体を激しく揺さぶりながら、その名前を叫ぶ。
だが、既に立川の意識は朦朧としており、いくら呼びかけても返事は帰って来ない。
それでも、天道は立川の名前を叫び続けた。まだ立川には聞きたい事が山ほどあるのだ。
「立川! おい! おいッ!!」
強い口調で呼び続ける。
暫らく叫び続けていると、やがて立川の目はゆっくりと開かれた。
「立川……!?」
天道の手も止まり、何かを言おうとしている立川に意識を集中させる。
「皆既日食を……さが……せ…………」
「皆既日食……」
「ひよりさんは……そこ……に……居……」
最後の力を振り絞って、立川は手を差し出した。それを天道はしっかりと握りしめる。
……が、立川がそれ以上口を聞く事は無かった。
完全に事切れた立川の手は、天道の手からずり落ち、砂浜に落下。
それを見届けた天道は、もう一度立川の肩を揺する。起きて欲しいと願いながら――
死ぬなと願いながら。
「立川……おい……、立川……立川ッ!?
 おい! おぉぉぉおおおおおいッ!!」
さらに強く、声を張って叫ぶ。だが、今度こそ、いくら呼ぼうが返事は来ない。
立川が最期に天道に渡したのは、緑に輝く石。
立川の手がずり落ちる間際、立川から直接受け取ったのだ。

「…………」
流れる沈黙。天道はそれ以上何も言わなかった。ただ、黙って受け取った小さな石を眺めるのみ。
冷たい風が天道の頬を撫で、周囲の砂を飛ばしてゆく。
天道の前で横たわる遺体は、既に人間立川大悟では無い。
緑の異形……サリスワームだ。
立川の最期を看取った天道は、受け取った石を強く握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
目の前で命を散らした立川に、黙祷を捧げて。


「天道……さん?」
ただじっと、拳を強く握りしめて立ち尽くす天道に、言いようの無い違和感を感じたフェイトが、小さく呟く。
俯いた天道の背中は、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。
どこか淋しげな、それでいて、深い悲しみのような……そんな感情だ。
「(もしかして天道さん、怒って……る?)」
さほど天道と親しみを持たないフェイトにすら、天道の怒りと悲しみは伝わってきた。
だが、フェイトにはその気持ちが解らない筈が無かった。それは恐らく天道だけが感じている感情では無いのだから。
「なのは……」
「うん、解ってるよ。フェイトちゃん」
親友の名前を呼び、フェイトもゆっくりと立ち上がる。
同じようになのはも立ち上がり、レイジングハートを構え直した。
例え立川の正体がワームであったとしても、立川は紛れも無くなのは達の仲間だったのだ。
その仲間の死に、怒りや悲しみといった感情を抱くのは当然のこと。
なのはは、レイジングハートの切っ先をワームに向け、言った。
「私達も、戦うよ……!」
『マスター、もう戦えるのですか?』
「うん……大丈夫だよレイジングハート」


立川の遺体の前で立ち尽くす天道の背後から、コキリアワームが接近する。
コキリアワームは天道のすぐ真後ろにまで迫るが、天道は微動だにしない。
「変身ッ!!」
……いや、コキリアワームがさらに一歩踏み出した瞬間に、天道は鋭い後ろ回し蹴りを放った。
同時にカブトゼクターをベルトに押し込みながら。
電子音と共に、銀のアーマーに包まれながら。すぐにコキリアワームとの距離を縮め、再びキックを放つ。
コキリアワームはさらに後方へ飛び退き、それを回避。だがカブトの攻撃はまだ終わらない。
ベルトに装着されたカブトゼクターのゼクターホーンを倒し、そのアーマーを弾き飛ばす。

『Change Beetle(チェンジビートル)』
『Change Stag Beetle(チェンジスタッグビートル)』

それに合わせるかのように、ガタックも同様にアーマーをパージ。
二人のライダーは一瞬でライダーフォームへと変化した。

『One,Two,Three!』
直後、一際音階の高い電子音が響いた。最早聞き慣れた電子音――ガタックのライダーキックだ。
ガタックはそのままサリスワームの群れへと突っ込んで行く。そして――跳躍した。
「ライダーキックッ!!」
刹那、ガタックの声を復唱するかのように響いた『Rider Kick』の電子音。
ガタックの右足が青く光り輝き、その蹴りは数匹のワームを纏めて爆散させた。

「ディバィン……バスタァーーーーッ!!!!」
『Divene Buster,Extension』
なのはが叫ぶと同時に、地面をえぐるように発射された桜色の閃光がワームを纏めて消し去る。
その砲撃には多少の怒りも込められているのだろうか。
本日の撃墜数No.1は間違いなくなのはで決定だ。
しかし、なのはは完全に油断していた。
この状況でワーム意外からの襲撃を受ける等とは、夢にも思わなかったのだ。

電王が、ワームの群れに真っ直ぐに突っ込む。
擦れ違い様に、ワームの体をデンガッシャーで斬り付け、そのまま一気に走り抜けて行く。
そしてワームの群れを突破し、何処からか取り出したのは、ライダーパス。
“俺の必殺技”を使う為に重要なキーアイテムだ。

『Full Charge(Fullフルチャージ)』

電王は、ライダーパスをベルトのターミナルバックルにセタッチすると、高らかにその技の名を叫んだ。
「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」
同時に、デンガッシャーから離れたオーラソードが、デンガッシャーの振り抜きに合わせて、空を駆ける。
飛び立った赤き剣は、今しがた自分がダメージを与えた全てのワームの同体を真っ二つに切り裂き、そのまま往復。
一度切り裂いたワームの体を、もう一度切り裂き、巨大な弧を描く。

――しかし、それはミスだと言う事に、電王はすぐに気付いた。
一気に敵を倒せるのはいいが、動きが大きすぎるのだ。
電王の派手な動きも相俟って、飛び交うオーラソードは、すぐ近くにいたなのはへと、真っ直ぐに加速する。

なのはは完全に油断していた。
この状況で、ワーム意外の襲撃を受ける等とは夢にも思わなかったのだ。
レイジングハートのアラートに、気付いたなのはは、直ぐに右報告を振り向いた。
「ちょ……えぇっ!?」
奇声を上げるなのは。自分目掛けて飛んで来るのは、凄まじい速度で飛来する赤い刃。
「レ、レイジングハート!?」
『Protection,EX』
咄嗟に防御魔法を展開。オーラソードを弾くバリアが現れ、なのはの身を護る。
「きゃっ……!?」
だが、それでも電王のエクストリームスラッシュを完全に防ぎ切る事は出来ずに、なのはの体は地面へとたたき付けられた。

『ちょっと! 何やってるの!?』
電王の中で一部始終を見ていた良太郎が、電王の頭の中に怒鳴り声を響かせる。
まさか自分が味方である筈のなのはに攻撃する羽目になるなどと、誰が想像出来ただろうか。
「う、うるせぇなぁ! ありゃ、あんなところにいたアイツが悪いんだろうが……!?」
……と、脳内討論が始まろうとした所で、電王は何者かに肩を押された。
「どけ」
「……んだと天道この野郎ッ!?」
そこにいたのは、紛れも無いカブトその人。元々カブトとも戦うつもりであった電王は、カブト相手にデンガッシャーを構える。
だが、電王とは対象的に、カブトには最初から電王と戦うつもり等無いのだ。
故にカブトは電王を無視。カブトゼクターの3つのボタン――フルスロットルを順番に押しながら前進して行く。
行く先にいるのは、最後に残った数匹のサリスワーム。
ワームにトドメを刺すべく、カブトは一撃必殺の必殺技を発動させた。

『Rider Kick(ライダーキック)!!』

ベルトから頭部へと走った電撃は、そのまま右足のライダーストンパーへと集束される。
眩ゆい輝きを放ちながら、カブトはその右足を大きく振り上げた。
狙うはワーム、この一発で纏めて倒す……!
「ライダーキック……!」
そして放たれた回し蹴りは、固まっていたサリスを巻き込み、見事に全て爆発。
カブトがライダーキックによって放った脚を戻し、着地しようとした……その時だった。
カブト、ガタック、電王の間を一陣の風が駆け、そのバランスを崩されてしまう。

そう。最早言うまでも無いだろう、ワームのクロックアップだ。
先程のコキリアワームが、クロックアップ空間の中でカブト、ガタック電王の3人に連続攻撃を仕掛けているのだ。
右から殴られ、左から殴られ、予測不能な攻撃の連続。それを受けたカブトは明らかに体力を消耗していく。
ただでさえ消耗していたというのに、これ以上、攻撃を受け続ける訳には行かないと考えたカブトは、コキリアワームのパンチをワザと受け、地面に転がった。
これこそカブトが狙ったチャンス。どこにでも現われるハイパーゼクターを転がり様にキャッチするのを阻止するなど、ほぼ不可能と言える芸当だからだ。
そうしえ、カブトは起き上がり様に、空間を裂いて現れたハイパーゼクターを掴み取った。

『Hyper Cast off(ハイパーキャストオフ)!!』

ハイパーゼクターをベルトの左側に装着。ハイパーゼクターから発せられた電撃が、カブトの装甲を駆け巡る。
同時にカブトの赤き装甲――ヒヒイロノカネは大型化され、巨大な銀色の装甲――ヒヒイロノオオガネとなる。
最後にカブトの頭部に輝くカブトホーンが、大型化。より巨大なカブトムシを摸した形へと変化することで、フォームチェンジは完了。
カブトがハイパーカブトへと進化した事を告げる電子音が、高らかに鳴り響いた。

『Charge Hyper Beetle(チェンジハイパービートル)!!』

ハイパーフォームへと進化したカブトにとって、最早クロックアップ等恐れるに足り無い。
何故なら、ハイパーカブトにはクロックアップをも凌駕した力が与えられているのだから。
故にハイパーカブトは、左腕でハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込んだ。
「ハイパークロックアップ」

『Hyper Clock Up(ハイパークロックアップ)!!』

同時に、全身に装着されたカブテクターが解放され、背中からは眩ゆい光の翼が姿を表す。
それに伴い、クロックアップの数倍の速度を誇るハイパークロックアップによる空間が周囲に広がる。
周囲の全ての時が停止し、見えざる敵の姿が、限りなく静止画に近い速度にまで減速する。
この世界の何者も追い付く事を許さない、最速の力。
それは、言わばネクストレベルとも言うべき、進化したクロックアップ。
目の前で、クロックアップ空間からガタックと電王に攻撃を仕掛けていたコキリアワームに向き直る。

『Maximum Rider Power(マキシマムライダーパワー)』

再びハイパーゼクターのゼクターホーンを押し込み、ハイパーカブトの全ての力をカブトゼクターへと送り込む。
それからの動作は、いつもとなんら変わりはない。
いつも通り、フルスロットルを3回押しこみ、その力を発動させるのみ。

『One,Two,Three――』

「ハイパー―――キック……!!」
そしてハイパーカブトは、カブトゼクターのゼクターホーンを先程のライダーキックと同じように、力強く押し倒した。

『Rider Kick(ライダーキック)!!』

ハイパーキック。ライダーキックをも越えた、マキシマムライダーパワーによるハイパーカブトの必殺キックだ。
背中の翼を羽ばたかせ、ハイパーカブトは宙に舞う。
カブトゼクターとハイパーゼクターから送られたタキオン粒子が、ハイパーカブトの右足で渦巻く。
まるでサイクロンの如き旋風を巻き起こしながら、ハイパーカブトの蹴りは真っ直ぐにコキリアワームへと飛んでいく。
一度飛び立てば、例え雲の彼方へでも飛んで行けるであろうハイパーカブトの蹴り足が、凄まじい爆音と共にコキリアワームに減り込む。
時間が止まったままのコキリアワームの身体は、キックにより叩き込まれたタキオン粒子の衝撃に、跡形も無く爆散した。

『Hyper Clock Over(ハイパークロックオーバー)』

「はぁ……はぁ……」
やがて、全身のカブテクターが元の場所に戻り、光の翼も消失。
コキリアワームを倒したハイパーカブトは、力を使い切ったとばかりに地面に膝を付いた。
それでもゆっくりと立ち上がると、ガタックや電王、なのは達が自分に注目しているのが分かった。
「(……立川……)」
放置された立川の遺体に一瞬だけ目を向け、心の中でその名を呼ぶ。
仇は取ったと言いたいのか、それとも別の意味が込められているのか。それは天道自信にしか解りはしない。
だが、疲労とダメージの蓄積したハイパーカブトは……いや、天道は、これ以上自分の意識を保つ事が出来なかった。
これ以上何も考えることが出来なかった。気付けば、吸い寄せられるように地面に倒れ込んでいたからだ。

「天道ぉーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

薄れて行く意識の中、友の声がかすかに聞こえた。




次に天道が目を覚ました時、そこは見知らぬベッドの上だった。目覚めるや否や見知らぬ天井が広がり――
「(いや……ここは)」
否。天道には、この場所に心辺りがある。
天井や、周囲の見慣れぬ機械の形状から察するに、ここはあのけったいな戦艦――
アースラの内部だ。

「あ……天道さん、目覚めたみたいやね」
「…………?」
横から聞こえる声に、顔を傾ける。
そこにいるのは、八神はやて。それと、赤い髪の毛を三つ編みに括った少女が一人と、もう一人は―――加賀美だ。
自分が寝てる間、こいつらが看病してくれたのか? と考えるが、天道はすぐにそれを否定した。
何故ならば、ハイパーカブトが意識を失ってからそれほどの時間が経っていないという事は、天道自身がよく分かっているからだ。
「もう……いきなり倒れたっていうから心配してんで?」
「ったく、心配かけさせやがって……目覚めの気分はどうだ? 天道」
横から聞こえる二人の声に、天道はため息混じりに天井へと視線を動かし――
面倒だが答えてやるか……とばかりに、天道は口を開いた。
寝起きの第一声となる言葉を。

「……腹が減ったな」

「「…………」」
同時に、室内が一気に静まりかえる。
二人の少女はぽかーんと口をあけ、加賀美は安心したとでも言いたげな軽い笑みを浮かべている。
「何だよ、凄い大物って聞いてたから期待して来てみれば……なんか随分と小さそうな奴だなぁ」
「あはは……ヴィータ、そんなん言うたらあかんよ」
天道の第一声を聞いて、大きなため息を落とす少女――ヴィータに、はやてが苦笑気味に返す。
「(ヴィータ……そうか、成る程な)」
天道の中で、合点が行く。ヴィータという名前には聞き覚えがあるからだ。
確か……シグナム、シャマル、ヴィータの3人は、この八神はやてという少女の家族だと聞いた筈だ。
……あと一人居たような気がするが、あまり話に出て来なかった為に忘れてしまった。
「(確か……ザフィなんとか……? ……まぁいいか)」
少し考えるように目を閉じたが、すぐに考える事を止めた。それほど興味が無いからだ。

ややあって、隣にいたヴィータがその口を開いた。
「何でもいいけどさ、あんま心配かけさせんなよ。はやてはただでさえ心配性なんだからさぁ」
「………………」
その言葉に、天道はヴィータのポジションを何となくにだが理解した。
要するにヴィータもはやてのことが心配なのだろうと。ヴィータ自身も十分に心配性じゃないか、と思いながら、天道は言葉を返す。
「……勘違いするな。心配してくれ等と頼んだ覚えは無い」
「……なっ!? んだとテメ……!?」
「だが――」
憤慨したヴィータの言葉を遮り、天道がゆっくりとヴィータに視線を送る。
「心配してくれたことには素直に感謝“してやる”」
「なっ……“してやる”じゃねーっ!?」
「ま、まぁまぁヴィータ、ちょぉ落ち着き」
ガタン! とイスを倒し立ち上がったヴィータを、宥めるようにはやてが制する。
天道は、微笑みながら一部始終を眺めている加賀美が少し気になったが、まぁ敢えて気にしない事にした。
気にするだけ無駄だと感じたのだ。どうせこのバカには何を言っても無駄だと。
天道は隣で騒ぐはやてやヴィータを、全く以て騒々しい連中だと思いながら、ぼんやりと天井を眺めていた。
すると、先程までヴィータを宥めていたはやてが、「あっ」と口を開いた。
「そうや、天道さん」
「なんだ」
「お腹空いたって言ってたやんな?」
「ああ、言ったな」
「じゃあ私が食堂借りて何か作って来よう思うねんけど……」
「ほう……?」
天道の視線が、再びはやてに向けられる。
この申し出には少しばかり興味がある。
そういえば料理が得意とか言っていたな……と、そんな噂を聞いた記憶があるからだ。
世界のありとあらゆる名店の味を覚えた天道にとって、はやての料理に多少なりとも興味が無いと言えば嘘になる。
ならば、返す言葉は一つだ。
「どうやろ……余計なお世話かな?」
「いや……是非作ってくれ。食べてみたい」
口元で小さな微笑みを作りながら、天道は答えた。久々の、天道の優しい笑顔。
一方のはやても、その言葉を聞いて表情が一気に明るくなる。
もちろん天道の返答が嬉しいのだが、それ以上によっぽどの自信があるのだろう。
「ほな、今から作ってくるから、待っててな。行こ、ヴィータ」
「おう! はやての料理はギガウメーからな!」
立ち上がったはやてに、ヴィータが付いて行く。
天道と加賀美を部屋に残し、二人はこの医務室を後にした。

暫しの間を置いて、先程まで微笑んでいた加賀美が口を開いた。
「珍しいじゃないか、天道。天道が素直に感謝してやるー、だなんて」
「……まぁな」
にやにやと笑う加賀美に、天道は目を反らしながら答える。
別にそれが羞恥等という訳では無いが、嬉しそうな加賀美を見ていると、いつもため息を尽きたくなるからだ。

「天道……お前は一体、どう思ってるんだ? はやてちゃんやなのはちゃん達のこと」
「………………」
加賀美が問うが、天道は何も答えない。何も言わずにただ天井を眺めている。
「俺はさ、いい子達だと思うぞ。あいつらのこと」
「………………」
尚も無言は続く。加賀美が一人で喋り続けるのを、天道は黙って聞くのみ。
どこか幸せそうに、微笑みながら喋る加賀美の声を聞いていると、こんなゆっくりとした時間はいつ以来だろうか……と思えてくる。
思えばひよりが消えてから、天道に心が休まる時など無いに等しかったからだ。
今もひよりが心配なのは変わらないが、管理局と関わるようになってからはさらに落ち着ける余裕など無かった。
そもそも天道にとって時空管理局絡みでいい思い出など何一つ無いのだから。
故に、その時から考えると、今が1番落ち着いている気がした。

「そりゃあ、たまに何するんだこいつら! って思った事だってあったけどさ。天道が捕まった時とか……
 でもさ、俺思ったんだよ。ちゃんと話してみたら、何か変わるんじゃ無いかな?って。今のはやてちゃんとか見てたら特にさ」
天道の返答に関わらず、微笑みながら言葉を続ける加賀美。
「だから……まぁ俺にもなんて言ったら良いのかわかんないけどさ、とにかく、信じてみないか? なのはちゃん達のこと……」
「……わかってるさ。俺にだって……」
「え……?」
言葉を遮る天道に驚いた加賀美。
何の話をしているのだろうか? 何についてわかってると言いたいのか?
突然の天道の言葉にそんな疑問を抱きながら、少しだけ身を乗り出す。

「俺だって馬鹿じゃない。奴らが悪い奴じゃないって事くらい、わかってると言ったんだ」
「じゃ、じゃあ……!」
「加賀美」
「…………!?」
これは和解出来るかもしれない。そう考えた加賀美は嬉々とした表情でさらに身を乗り出すが、またしても天道に言葉を遮られる。
何かを言わんとする天道の言葉に、目を輝かせる加賀美。
……だが、帰って来たのは加賀美が期待した言葉では無かった。

「……さっきは暴走した俺を、よく止めてくれたな。」
「え……? あ、あぁ……それはクロノに言ってくれよ……俺じゃない」
「ああ、そうだな」
言いながら、フッと軽く笑みを零す天道に、加賀美は何故か少しだけ不満を感じたが、まぁ気にしない事にした。
話を反らされたというか……ああは言ったが、一応自分も天道を止める為に戦ったのに……というか。
そんな加賀美の心を知ってか知らずか、天道は続ける。
「加賀美……俺と約束しろ」
「約束……?」
「そうだ。もしも再び暴走スイッチが働き、俺がひよりを殺そうとした時は……
 その時は、お前が俺を倒せ」
「な、何言ってんだよ……! そんなこと……」
「ただし……!」
「……ッ!?」
「その逆の場合は、俺がお前を倒す。いいな……?」
ややあって、加賀美は天道の言葉に静かに頷いた。
もしも自分に……ガタックに仕込まれた暴走スイッチが働いた場合は、カブトがガタックを倒す。
そう言われると、反論が出来なかった。自分にだって暴走する可能性はあるのだから。

「それにしても……暴走スイッチか……本当にガタックにもそんなものが……
 それに、結局ネイティブが何なのかも、わかんないままになっちゃったな……」
加賀美の言葉に、天道はゆっくりとベッドから立ち上がった。何か言いたい事でもあるのだろう。
立ち上がった天道の顔を見詰めたまま、加賀美が続ける。
「何なんだろうな、ネイティブって。ドレイクに変身したり、カブトゼクターを操ったり……
 それに1番解らないのは、ZECTが立川を守れと指令を出したことだ」
「あぁ、俺にはもっとワームを倒せと言いに来た」
「一体何なんだ……ネイティブって」
天道が、ゆっくりと視線を加賀美に向け直すことで、加賀美と天道の視線が合う。
ややあって、天道は非常にゆったりとした口調で、過去の自分に起こった出来事を語り始めた。

「……俺は……以前にもあのタイプのワームを見た事がある」
「何ぃ……!?」
あのタイプのワーム……というのは、通常のサリスからツノを生やした――
つまり、立川が変身していた、通常とは異なるサリスワームの事。
それに対し、加賀美は相変わらず間抜けな表情で答える。
「18年前……俺の両親を殺して擬態したのも、あのタイプだ」
「な……!? ネイティブは人間を傷付けないんじゃないのかよ!?」
「そんなこと俺が知るか」
何処ぞのカブトムシライダーが言っていたような台詞を、天道が口にする。

「……だが、奴は自分の事をネイティブと呼んでいた。恐らく、俺達の知っているワームとは別の種類のワームなんだろう」
「ま、待てよ……! じゃあ、ネイティブは7年前の渋谷隕石どころか、18年前から……いや、もしかしたらもっと前から……!?」
推測する加賀美。確かに、ネイティブと呼ばれる連中が一体いつからこの地球上にいたのかなど、誰も知ることではない。
だが、それ故に現状ではこれ以上いくら考えたところで、所詮は推測にすぎないのだ。
天道はこれ以上、何も言う事は無かった。ただじっと、ポケットに手を入れたまま、天井付近を見上げていた。


「ねぇ……なんでなのはちゃんを攻撃したの……?」
「うっせぇなぁ! 何度も言わせんなよ、あんなとこにいたアイツが悪いって何度も言ってんだろうがッ!!」
赤鬼の姿をしたイマジンに、良太郎が詰め寄る。
先程の戦いで、電王の放ったエクストリームスラッシュが、なのはに命中してしまった事についてだ。
幸い大事には至らなかったが、一歩間違えれば、なのはは命を落としていたかもしれないのだ。
それ故に良太郎は、静かにではあるが、激しい怒りを抱いていた。
本当にこのイマジンを信用していいのか? とさえ思えてくる程に、良太郎は怒りを感じていた。
もしもこのままこのイマジンが何の謝罪も無いというのなら―――良太郎にも考えがある。
足を組んだまま、まるで良太郎の言う事を聞こうとはしない赤いイマジン。
イマジンの犯したミスに、激しい憤りを覚えた良太郎。
どちらにせよ、今のままの関係では共に戦う事など、到底不可能な話だ。
――どうやら二人の繋がりは、まだまだ浅いらしい。



次回予告


ようやく良太郎の体にも電王システムが馴染んで来たみたいだけど……

どうやらやっぱりまだまだみたい。戦う度に凄まじく消耗する良太郎に、電王は――モモタロスは……

――それより、そろそろ天道総司の罪状が確定する時期!?
ついに天道が、管理局から解放される!?

そして、ついに現れた、未来からの侵略者。
電王が、カブトが――二人の赤いライダーがその力を解き放つ時、この時空は赤く染まる……!

カブト編はいよいよクライマックスへ……!


『ごめんなさぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!!』


次回、魔法少女リリカルなのはマスカレード
ACT.20「FULL FORCE-ACTION」
に、ドライブ・イグニッション!! 



スーパーヒーロータイム
「NEXTSTAGE~プロローグ・Ⅳ~」

「ようやく見付けたぞ……プレシア・テスタロッサ……」
遠く離れた道を歩くプレシアを睨みながら、物影から一人の女が姿を現した。
先を歩くプレシアはこちらには気付いていない。だが、それなら好都合だ。
こちらに気付かれ無いうちに仕留める事が出来れば、それに越した事は無いからだ。
ややあって、女が目配せすると、背後に隠れていた緑の怪物が、一歩前へ出た。
今のプレシアを殺すのに、それほどの戦力は必要としないだろう。故に女は命令した。
一言だけ、「行け」と。

男は、とある命令を受けていた。
その命令の内容は、“プレシア・テスタロッサの命を守れ”。
故に男は、プレシアの危機を救うため、走り出した。
背後から迫る緑の怪物を倒す為に。
ベージュのロングコートを翻し、ポケットに忍ばせた箱――カードデッキを握りしめて。
緑の怪物がプレシアにたどり着く前に、男が怪物を蹴り飛ばす。
それに気づいたプレシアが、驚いた表情で自分を見詰める。
その視線に、男は何処か躊躇いを感じたが、迷っている場合では無い。
怪物が突き放された一瞬の隙を見て、近くのビルのガラスに翳したカードデッキ。

「変身ッ!!」

そして、叫んだ。
刹那、茶色い装甲がオーバーラップし、男の体を覆う。
そこにいるのは、さっきまでの男の姿では無い。
そう。それは、鏡の中のモンスターと契約を交わした一人の仮面ライダー――
その名を、仮面ライダーシザースと云った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月12日 03:44