その夜、電灯の光の下キャロ・ル・ルシエは一人涙を流していた。
長きに渡って共に戦ってきたパートナーから殴られた頬を押さえ、誰も通る気配のない公園のベンチで俯いている。
そんな彼女を心配するかのように愛龍フリードはたった一匹主人の顔を覗き込むが、その表情が変わることはなかった。
「うっ……」
自らの言動の後悔とエリオから殴られたという事実で目から涙を流し続け、膝に乗せた両手に落とし続ける。
感情任せに彼を侮辱し、自分勝手なレッテルを貼り付けた。それでは殴られても当然かも知れない。
もしかしたら、もう戻ることはできないのだろうか――
そう考えると更に涙が溢れ出てくる。
そんな彼女の前に二つの人影が暗闇から姿を現す。
「キャロ、どうしたの!?」
ミッドチルダ首都、クラナガンの時空管理局地上本部。
現在キャロは人通りの少なくなったロビーで、備え付けられた椅子に座りながら、自分がよく知る人物二人にいきさつを説明した。
一人は見る男性全てを魅了させてしまうような美貌と母性を併せ持つ容姿、煌めくような金髪、制服の上からでも確認出来る抜群なスタイル。
元機動六課ライトニング部隊隊長であり現在は次元執行部隊執務官、エリオとキャロの恩師でもあるフェイト・T・ハラウオン。
もう一人はフェイトと同じような制服を身に纏い、肩まで届くオレンジ色の長髪、リーダーの如く人を率いる強さを感じさせる容姿。
キャロが機動六課に所属していた頃共に戦い、現在はフェイトと同じく次元航行部隊執務官であるティアナ・ランスターだった。
二人は最近ミッドチルダ各地で起こる事件の捜査をしていた。
何の前触れもなく次元震動が発生し、そこから発生しては消える謎の魔力反応が検出されるという奇妙な現象の多発。
そんな怪事件の調査を元機動六課隊員である二人に依頼される。しかし手がかりは一切得られず、難航の一途を辿るばかりだ。
報告書の提出の為に地上本部に帰還する途中、公園に通りかかったところで偶然キャロを見つけた。
事情を知ったフェイトはあまりの衝撃で声も出なかった。
彼女は後悔した、自分のいない間に仲の良かった2人が互いに啀み合うという悲しいことが起こってしまった。
やはり仕事を放棄してでも家庭に専念すべきだったのだろうか。
「ティアさん、フェイトさん……私はエリオくんに酷いことを……」
「キャロ、そんなに自分を責めるんじゃないの」
後悔の声を打ち消すように隣に座るティアナが言う。
「それに本当に悪いと思ってるんだったら、まずエリオにちゃんと謝るべきじゃないの?」
「ティアさん……」
涙で目を赤くするキャロの顔を覗き込みながら続けるが、意気消沈したままで変わる気配は見られない。
それに見かねたティアナは溜息をつくと椅子から立ち上がる。
「フェイトさん、あたしはエリオを探してきますからキャロを」
「……お願い」
ティアナが頷き、エリオを探す為に外に向かって走っていった。
フェイトは涙を流すキャロの肩に手を乗せるが、そこからどうすればいいのか分からなかった。
頭の中が自己嫌悪で溢れている今の彼女には何を言っても通じないのかもしれない。
そんな二人を監視する二つの影が存在したことに気付いた者は誰もいない。
戦うのは得策ではないと考えたのか、何もせぬまま闇へと消えていく。
そして一人の少年は心に深い傷を追った――
04 再臨する蜂
クラシックな雰囲気の漂う黒のスーツに身を包む赤毛の少年――エリオ・モンディアルは人の気配がない公園の道で一人、自らの右腕に巻いている黄色いブレスレットを見つめている。
これは異形の生命体――ワームの暴行を受けたあの日、キックホッパーである矢車から受け取った代物だ。
彼に何の意図があって自分にこれを渡したのか、正体は何なのか、エリオには分かっていない。
そして何かをはめ込むことのできそうな穴が中央に空いているが、何か意味があるのだろうか。
矢車に疑問を何度かぶつけたことがあるが、その度に意味不明なことを言われはぐらかされてしまう。
少なくともマスクドライダーなる未知の技術を用いた戦闘スーツを所持している人間が所持しているのだから、ただのブレスレットではないはず。
そもそも、ワームのような怪物と互角に戦い合うことの出来る兵器を作ることが出来る世界とはどのようなところなのだろう。もしやミッドチルダをも上回る技術力を誇っているのだろうか。
ブレスレットと似たような形状で思い出したが、長らく共に戦ってきた相棒――ストラーダは今どうしているのだろう。
整備の為にメカニックに預け、そのまま姿を消してしまった。もしストラーダが今の自分を知ったら失望するかもしれない。
いや、もしかしたらもう失望しているだろう。自分は感情任せにパートナーを殴りつけ、逃げ出した。
こんなのは騎士を目指す者のやることではない、卑怯者のやることだ。
そう考えたエリオは悲しみが混ざる深い溜息をついた。
ふと気がつくと、この公園は機動六課に所属していた頃の初めての休日にキャロと共に訪れた場所だ。
あの日の彼女は見るもの全てに安心感を与えるような笑顔に溢れていた。でも自分はその笑顔を奪ってしまった。
後悔の気持ちが頭の中を駆け巡っていくと、一人の人物が通りかかる。
桃色のショートヘアーを持ち、管理局の制服に身を包む小柄な少女。
エリオはその人物を見て目を丸くし、不意に名前を呟いた。
「キャロ……?」
自分と共に戦ってきたパートナー、キャロ・ル・ルシエだった。
一瞬、あの日のようにワームが擬態した偽物かと疑ったが、相棒であるフリードがそばにいるので本物で間違い無さそうだ。
キャロは暗い表情で俯きながら公園のベンチで一人座り込んだ。その脇には愛龍フリードがパタパタと飛んでいた。
エリオは一人、木の陰からその様子を見つめるだけだった。恐らく彼女は自分のことに気付いていないだろう。
普段ならこういうキャロを見たらそばに行って何か言葉を掛けるかもしれないが、今の彼にそんなことはできなかった。
彼女を殴りつけた自分が今更何を話せと言うんだ。キャロはもう自分のことなど軽蔑しているに違いない。
顔を見るだけで自己嫌悪と罪悪感が沸き上がってくる、エリオはもう一秒でもここには居たくなかった。
もう自分にはパートナーでいる資格なんて無い、いや自分なんていなくなった方が彼女にとっていいのかもしれない。
そう思いながらエリオはキャロから逃げていくかのように広場から去っていった。
燦々と輝く太陽の光を遮るかのような人の通る気配が感じられない路地裏。
微妙に湿気が漂うその道で、影山瞬と神代剣の二人は共に悲哀の表情を浮かべながら道端に座り込み、俯いていた。
「なあ剣、俺達って兄貴の光を遮ってるだけなんだよな」
弱々しい言葉に反応するかのように剣は顔を上げ、影山の方に向ける。
「俺達は所詮ワーム、この暗闇からは抜け出すことができないんだ……」
自らを嫌悪するかのようにぽつりと呟く。
かつて彼らのいた世界では、スコルピオワームである剣の命を犠牲にしたワーム掃討作戦が行われた。
その作戦が成功し、機密組織ZECTは存在を公にし残党狩りの為にワームの探索する効果のあるネックレスを民間に配布した。
影山はそれを数個も首にかけてしまい、ワームの亜種――ネイティブへと強制的に変えられてしまった。
ネイティブの事など何も知らない影山は自分がワームになってしまったと思いこみ、生きることに希望を失ってしまう。
そんな彼を救う為に矢車は彼の命を奪ったが、ある日このミッドチルダに流れ着いてネイティブの体を持ったまま復活した。
そしてワームの肉体を持つ剣がそんな影山に共感するのに時間は必要なかった。
「影山兄さん、生きてるって何なんだろうね……」
「虚しいよな……俺達に安息なんてないのかな」
共に人間の肉体を持たない二人は傷をなめ合うかのように悲痛の表情を浮かべながら呟く。
自分らには幸せを掴み取る権利などない。
自らを卑下し続ける彼らの前に、突然彼は足音と共に現れた。
「その格好は何なんだ!」
不意に声をかけられ驚いた影山と剣は顔を上げると、その男が立っていた。
年齢は二人とほぼ同じだろう。
体つきはガッチリしており、上半身はお洒落なスーツと首に絞めた黒のネクタイに包まれ、その下の筋肉は鍛えてありそうだ。
現れた男――名護啓介は一切の迷いもぶれも見られない表情を浮かべ、彼らのことを睨み付けてくる。
「何て汚らわしい……不愉快だ!」
名護はいきなり横柄な態度で二人に食って掛かった。
表情、言動、態度、全てにおいて癇に障るものなのか、彼らは顔を歪める。
「そんな変な格好で馬鹿なことをしてないで、今すぐ社会の為に何ができるかを考えなさい」
その一言が引き金となって彼らの中で何かが切れた。
そのまま二人は立ち上がり、血に飢えた野獣のように名護を睨み付ける。
「何なのさ……俺達のこと笑いに来たの?」
「ゴゥ、チュ~……ヘェル!」
『Standby』
名護の言葉が気に食わないのか二人から憤怒の感情が沸き上がり、剣は隠し持っていたサソードヤイバーを取り出す。
それに反応するかのように空から電子音と共にサソードゼクターが降ってきて、剣は右手で掴み取る。
同時にパンチホッパーの変身ツール、ホッパーゼクターも跳躍しながら影山の手元に飛んできた。
「何のつもりだ!?」
「剣、こんなやつ殺っちゃおうぜ……変身」
『Hensin』
「分かってるよ兄さん、俺は弱いものをいたぶることにおいても頂点に立つ男だからさ……変身」
『Hensin』
驚愕の声を上げながら二人を睨む名護に対して影山はベルトに、剣はヤイバーにそれぞれのゼクターを装填する。
異なる電子音と共に彼らの体はヒヒイロノカネに包まれ、やがてそれはアーマーへと変化していく。
『Change Punch Hopper』
パンチホッパーへと姿を変えた影山、サソードのマスクドアーマーに包まれた剣を見て名護はほんの一瞬だけ怯むが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「お前達、まさかライダーか!?」
「へぇ、ライダーのこと知ってるんだ」
「それを何処で手に入れた、答えなさい」
「関係ないだろ!」
名護の問いに対してパンチホッパーは仮面の下で不気味な笑みを浮かべながら歩み寄ってきて、自らの拳を打ち出してくる。
それを名護は持ち前の反射神経を用いて体を転がせるように避けて距離を空ける。すぐに体勢を立て直し二人の前に立った。
「もしや青空の会以外にもライダーシステムを作る組織が存在しているのか?……ならば仕方がない!」
言い放つと、名護は何処からか機械質のベルト――イクサベルトを取り出し、バックル部のロックを外す。
それを自らの腰に巻き付けるとバックルがロックされ、装着される。
スーツのの内ポケットから変身ツール――イクサナックルを取り出し、自らの拳に当てる。
『Ready』
ZECT製のマスクドライダーシステムが放つ音程とはまた別の機械音が響く。
名護には目の前の二人が一体何者で、何故ライダーシステムと思われる物を所持しているのかは見当がつかない。
しかしここで彼らを野放しにしておくのは危険だ。
そう判断した名護は、イクサナックルをベルトに装填した。
「変身!」
『Fist on』
電子音が発せられると同時にベルトから金の十字が現れ、回転しながらアーマーを形成していく。
やがて形成されたアーマーはパワードスーツとなり、それは姿を現す。
クロスシールドに守られた頭部のイクサメット。
聖職者をモチーフとされたアーマー。
胸部に装着された動力源のソルミラー。
負担を軽減する為に全身に備え付けられたデルタアース。
人類をファンガイアの脅威から守る為に「素晴らしき青空の会」が科学技術を結集させて作り上げた『Intercept X Attackker System』
通称イクサシステムの研究成果である正義の戦士――仮面ライダーイクサへと名護啓介は姿を変えた。
セーブモードの状態で現れたイクサを見て、サソードとパンチホッパーは仮面の下で驚愕の表情を浮かべるが、すぐに落ち着きを取り戻しイクサの元へ駆け寄る。
パンチホッパーは自らの拳をイクサのアーマーを目標に打ち出すが、乱暴な一撃は軽く避けられて、逆にカウンターのパンチを脇腹に浴びてしまう。
それを見たサソードは短期戦で決着をつけようと判断し、サソードゼクターのニードルを強く押し込む。
ガチャン、という全身のマスクドアーマーが浮かび上がる音がする。
「キャストオフ!」
『Cast Off』
機械音声と共に装甲がイクサ目掛けて弾け飛ぶ。
それを防ぐ為なのかイクサの胸部に内蔵されたイクサエンジンがフル稼動でそのエネルギーを全身に巡らせる。
それによってマスクを守るクロスシールドが四方に開く。
真紅の両眼が現れるのと同時に灼熱の波動が周囲に発せられ、装甲を地面に叩き落とした。
『Change Scorpion』
サソードとイクサはもう一つの姿を現した。
片やサソードはワームに対抗する為のクロックアップ機能が備え付けられ、サソリを連想させる紫のアーマーに包まれたライダーフォーム。
片やイクサは能力を制御する為のセーブモードから100%の力を発揮できるバーストモードへと覚醒した。
互いの形態が変わるのと同時に、イクサは何処からか専用の武器――イクサアームズの一つ、イクサカリバーを取り出しそれを構える。
通常形態である銃型のガンモードのパワートリガーを引く。凄まじい勢いで放たれた弾丸はパンチホッパーとサソードの装甲に容赦なく激突する。
イクサはエネルギー弾を連射したまま、二人のライダーを退けていく。元々ファンガイアとの戦いの為に用いられる弾丸だが、ライダー相手でも効果があるようだ。
しかし一方的に攻撃を受けたままではない。二人は弾丸を左右に避け、それぞれ異なる方向から攻撃を仕掛ける。
パンチホッパーは乱暴な打撃を、サソードは洗練された剣術を用いてイクサの装甲にダメージを与える。
イクサ自身の戦闘力は決して低くはないが、同じく強大な戦闘力を誇るライダー二人が相手では徐々に劣勢に追い込まれていく。
この状況を打破する為に、イクサは接近戦で戦うことを選ぶ。イクサカリバーのマガジンを、グリップ内部へと押し込むと、本体から赤いブレードが現れる。
イクサカリバー・カリバーモード。
エネルギーが通るエナジーラインが内蔵され、特殊金属・ブラッディメタルで生成された刃、ブラッディエッジで構成される。
イクサカリバーをライダー達に振るうが、サソードヤイバーに止められてしまう。そして互いに渾身の力を込め、刃を弾く。
カリバーとヤイバーの金属がぶつかり合い火花を散らす中、この路地裏の中に静かな足音が響く。
それに気付いた三人のライダーはその方向を向いた。
「羨ましいな、お前ら」
現れたのは薄汚れた漆黒のコートに身を包む男、矢車想だった。
その手には自らの変身ツールであるホッパーゼクターが握られている。
「兄貴」
「兄さん!」
パンチホッパーとサソードは仮面の下で歓喜の表情を浮かべる。
「何だお前は」
「俺も是非笑って貰いたい……変身」
『Hensin』
イクサの疑問を無視するかのように矢車はホッパーゼクターをベルトに装填すると、エコーの強い電子音が狭い道に響く。
そしてヒヒイロノカネがその肉体を包み、アーマーが形成される。
『Change Kick Hopper』
矢車はバッタを連想させる緑のアーマーを持つ戦士、キックホッパーへと姿を変え、両腕をだらりと下げながらイクサの前に立つ。
三人のライダーに囲まれたイクサは一気に不利な状況に追い込まれたと判断する。
イクサメットの口部分に手を当て、本当の力を発揮する為のエネルギーパック――イクサライザーを取り出した。
「見なさい、これがイクサの本当の力だ」
イクサライザーを横に広げ、機能を発動させる為のボード――コーリングコンソール上のボタンにコマンドを打ち込む。
『1』
『9』
『3』
『RISING』
『ENTER』
コマンドを全て打ち込むと、イクサ特有の電子音が辺りに響く。
そしてイクサの体を太陽の如く眩い光が辺りを包み、三人のライダーは思わず仮面の下で目を瞑った。
やがて光が消えたので、ライダー達は目を開ける。
しかしどういう訳かそこにイクサの姿は無かった。
喫茶店――カフェ・マル・ダムール
「うわぁ!」
ミッドチルダでイクサに変身して三人のライダーと戦っていた最中、突如光に包まれた名護は床に激突した。
その体を包むイクサのアーマー、専用武器のイクサアームズは消滅している。
すぐに起きあがり、周囲を見渡した名護は今いる場所が見慣れた喫茶店であることを知る。
「な、名護さん!? 何処から出てきたんですか」
いきなり現れた名護を見て驚愕の表情を浮かべる青年――紅渡の事などお構いなしに名護は先程経験した妙な出来事を思い返す。
「あの三人は一体何者だったんだ。それに、あそこは一体……?」
ミッドチルダ
同時刻。
エリオとキャロの喧嘩から数週間、ティアナは任務の合間を縫ってエリオを探し続けているが未だに見つからない。
通信端末で連絡を取ろうとしたがストラーダは現在整備中でメカニックに預けている事を知る。念話も何度か飛ばしてみたが一切の返答がなかった。
やがて立ち止まり、辺りを見渡すとそれが起こる。
目の前の空間にいきなり亀裂が生じ、それは裂け目へと変わっていく。やがてそこから膨大なエネルギーが噴出された。
「何これ、次元断層!?」
ティアナが驚愕の声を上げていると、世界を崩壊させるような爆音と視力を低下させかねないほどの閃光に辺りが包まれ、思わず目を閉じてしまう。
焦げ臭い匂いが漂うので恐る恐る目を開くと、それが目に飛び込んできた。
「痛っ……何が起こったんだ」
硝煙の中から現れたのは、ハンチング帽を被りカジュアルな服装に身を包む一人の青年だった。
年齢は20代前半に近く、それなりに顔が整っていてあらゆる女性を誘惑させてしまうことができそうだ。
ミュージシャンなのかその脇には黒のギターケースが置かれている。
ティアナは一瞬その容姿に見とれてしまうが、ハッと我に返り青年の元へ駆け寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
怪我でもしているのか苦痛の表情を浮かべ、肩を押さえながら蹲る青年はティアナのことに気付く。
その途端、一変して表情がにこやかな笑顔へと変わる。
「これはこれは、俺としたことが見苦しいところを見せるとは」
「いえ、別に大丈夫です」
見るもの全てを虜にしてしまうような笑顔で青年は会釈するが、それに気を取られることのないようにティアナはある推測をする。
着ている服はミッドチルダでもよく見られるが、いきなり目の前の空間に裂け目が生じてそこから人間が出てくるという話など聞いたことがない。
この男はミッドチルダの住民ではないことを一瞬で察した。
「あたしは時空管理局執務官のティアナ・ランスターと言います。あなたは次元漂流者の方ですよね」
「時空管理局? 次元漂流者? 失礼ですが何のことでしょうか」
青年はそれらの単語に聞き覚えがないのか、怪訝の表情を浮かべた。
気を取り直すかのようにティアナは話を切り替える。
「あ~……事情聴取をしますのでひとまずご同行お願いします」
「喜んで、私でよければ何処までもついていきます」
「ではまずあなたの名前を教えて下さい」
質問に対して青年は再びにこやかな笑顔を浮かべ、自らの名前を名乗った。
「風間大介と言います」
それがティアナ・ランスターと風間大介、二人の銃使いの出会いだった。
エリオは暗い表情で顔を俯かせながら公園を出ようとしていた。
不思議なことに先程から誰ともすれ違わないが、今の彼にとっては都合が良かった。
キャロの顔を見れば見るほど罪悪感が沸き上がり、自己嫌悪が頭の中を支配していく。
その気持ちから生まれる表情は酷いものに違いない、そんなの誰かに見られたくなかった。
その時、彼のそんな思考を打ち消すかのように絹を裂くような悲鳴が公園に響いた。
少女のものと思われる。
その声に聞き覚えのあるエリオは無意識に来た道を戻っていった。
エリオは再び公園の広場に出た。
そこにはとても人間とは思えない後姿が見えていた。
まるでムカデを連想させるような醜悪な顔付き、茶色に染まった全身の筋肉に生えたムカデの足、鋭い爪を持つ巨大な怪物――ジオフィリドワーム。
そしてその背中越しには追い詰められ、絶望と恐怖を浮かべて後ずさるキャロとワームを睨み付けるフリードの姿。
彼らがワームに襲われていることを理解するのに時間は必要なかった。
だがエリオに体を動かすことなど出来ず、目の前の光景をただ眺めるしかできなかった。
自分はもう彼女と何の関係もない、それにストラーダも持たないのに行くなど自殺行為だ。
でも、このまま放っておいてもいいのだろうか? ここで彼女を見殺しにしたら自分は一生卑怯者のままだ。
放っておけばいい。
助けるべきだ。
エリオの中で二つの思いが交錯する中、ワームは徐々にキャロに迫ってくる。
彼女はワームのことなど何も知らないのか、目の前に立つ異形の怪物を見て体が膠着してしまっている。
そんなキャロを守る為にフリードはワームの顔に飛び掛かるが相手になるはずが無く、あっさりと地面に叩き付けられてしまう。
「フリード!」
気を失ったフリードの元へキャロは駆け寄ろうとするが、ワームの打撃を受けてしまい後頭部を木に叩き付けられ、同じように意識を喪失させる。
それを見た途端、エリオの不安定な精神に変化が現れた。
彼は無意識のうちにワームの元に走り出し、体当たりで突き飛ばした。
そしてエリオはキャロとフリードの盾になるように両手を広げて立ちはだかっていく。
何故こんな事をしているのか彼自身分からないが、ある思いが彼を支配していた。
二人を守りたい。
やがて起きあがってきたジオフィリドワームは生理的嫌悪感を与えるような鳴き声を発しながら、醜悪な顔でエリオを睨み付けてくる。
しかし彼は臆することはない。例えパートナーから嫌われても、いくら自己嫌悪に陥ろうとも悪に屈しない正義の心は未だ宿っていた。
エリオはキャロからワームを引き離す為に必死になって腕にしがみつくが、すぐに振り落とされてしまう。
地面に叩き付けられたエリオに追い打ちを掛けるかのようにワームはその足で彼の胸を踏みつけてくる。
「がはっ……!」
肺が破裂するかと思うほどの衝撃が彼を襲う。
一瞬、気を失いそうになった。
しかし負けるわけにはいかない、ここで負けたらキャロとフリードが危ない。
そう思ったエリオは両手に渾身の力を込めて足を押さえつけ、そのまま突き飛ばしていく。
足下を狙われたワームはバランスを崩してしまう。
エリオはその隙をついて立ち上がり、苦痛に耐えながらキャロとフリードを抱え少しでもこの場から離れようとする。
しかしその途端、ワームは再び拳を彼の体に叩き込む。
鉄パイプで殴られたかのような衝撃が体の芯にまで響くが、倒れている暇なんて無い。
標的がキャロから自分に変わったのが唯一の救いなのかもしれないが、この状況を打破出来る要因には成り得なかった。
ストラーダを持たない今のエリオには目の前の脅威を打ち破る手段など持ち合わせていない。
「キャロ……僕は君のことを殴りつけておきながら逃げ出した最低の卑怯者だ、これじゃあフリードに嫌われてもしょうがないよね」
意識を失っているキャロに向かってエリオはぽつりと呟く。
確実に聞こえていないだろうが、言わずにはいられなかった。
「でも、僕は君を守るから……守ってみせるから」
僕の心臓はまだ動いている。
僕の中に流れる血はまだ止まっていない。
まだ終わっていない。
まだ生きている。
まだ諦めない。
でも、このままじゃ負けてしまう。
例え卑怯者に成り下がろうとも、どれだけ軽蔑されても構わない。
力が欲しい。
目の前の怪物を倒せる力が欲しい。
二人を守れる力を――!
エリオの思いに共鳴するかのように、腕に巻いているブレスレット――ライダーブレスから光が放たれる。
やがてその光は徐々に増してゆき、ジオフィリドワームを怯ませていく。
それに気付いたエリオは全身に力が宿り、傷も癒えていく。
一体どういう事なのか。
疑問が頭の中に芽生えてくる中、それは現れた。
空の彼方から流星の如くジオフィリドワームに高速で飛び込んで、その体を突き飛ばしていく。
それは自らの動きを止め、何が起こっているのか理解出来ないエリオの目の前に姿を晒す。
「は、蜂……?」
そこに現れたのは蜂だった。
ただし集団で行動し巣を作る生物のそれではなく、人工的に作られたと思われる機械質な蜂だ。
それはスケルトンイエローの羽根をばたつかせながらエリオの手の平にそっと乗っていく。
彼は無意識のうちにそれを握りしめた。するとどういう理屈なのかは分からないがこの手から膨大な情報量が頭の中に流れていく。
エリオは握りしめた物体、矢車から授かったブレスレットの正体を知る。
その名はザビー。
やがて彼は自分がやるべき事を瞬時に導き出した。
それは、目の前の怪物からキャロとフリードを守ることだ。
体力を取り戻した彼はワームと対峙する。
「……変身」
『Hensin』
エリオは握りしめた蜂――ザビーゼクターを右腕に巻いたライダーブレスにはめ込んだ。
エコーの低い電子音が発せられると、眩い光が体を包み込んでいく。
彼は感じた。
圧倒的な力が全身の血液、神経の流れに乗って巡っていくのを。
この力があればワームと戦える。
この力さえあれば自分が傷つけた大切な人を守ることが出来る。
やがて彼の体はヒヒイロノカネに包まれ、それはアーマーを構成していった。
あらゆる悪を焼き切るかのような激しい光から現れた姿は、既にエリオではなかった。
その体を包むのは、バリアジャケットとは違いあまりに機械的で無骨なアーマーだ。
常人以上の聴力を得られるアンテナと視野をカバーするスコープを持つ仮面。
上半身を包む銀色のマスクドアーマー。
全身の活性化の為に頬部と両肩に付けられたラングスリット。
下半身を守る黒のサインスーツ。
完全調和の名の元に戦い、機密組織ZECTが生み出したマスクドライダー第二号機――仮面ライダーザビー マスクドフォームへとエリオ・モンディアルは姿を変えた。
危機を感じたジオフィリドワームは自らの拳をザビーに振るうが、左手で軽く受けとめられてしまう。
反対にそこから強烈なカウンターの拳がワームの胴体に決まった。
よろけるワームに対してザビーは追撃のパンチを数発決めていく、やがて重量感のある最後の一撃でその体を突き飛ばしていった。
勝てる。
圧倒的なザビーの力を手にしたエリオはそう確信した。
本来ならばエリオは槍を使った戦い方が得意で、今のように肉弾戦で戦うなど専門外だ。
しかし今の彼は無意識のうちに体がボクシングスタイルで戦うように動いている。もっとも、乱暴なスタイルになってしまうのは仕方がないが。
やがてその拳でワームを吹き飛ばしたザビーの頭の中で、決着を付ける為にやるべきことが瞬時に流れ込んだ。
ザビーゼクターのウイングを反対側に持ち上げる。
ガチャン、という音と共にマスクドアーマーが外れていく。
両肩。
両腕。
胸部。
頭部。
順番に装甲が浮かび上がっていくと、ザビーはその言葉を叫んだ。
「キャストオフ!」
『Cast Off』
ザビーゼクターを180度回転させると機械音声が周囲に響き、上半身を守るマスクドアーマーが弾け飛んでいく。
『Change Wasp』
音声と共にそれが現れると、両眼を光らせていく。
蜂を連想させる形を持つ仮面――ボーンシェルメット。
黄色く輝く胸部の装甲――ザビーブレスト。
鎖骨部を守り肩甲骨部へと伸びたショルダーブレード。
蜂を思わせる姿の戦士――仮面ライダーザビーは真の姿を現した。
攻撃力重視のマスクドフォームから俊敏な動きが可能となったライダーフォームへと姿を変えた。
身軽になったザビーを見て、ジオフィリドワームは突如自らの姿を消していった。
周囲を見渡すと物凄い勢いで公園から離れようとするワームの姿が見える。そのスピードはソニックムーブに匹敵するかもしれない。
このままでは逃げられてしまう。
そう判断したザビーはベルトの側面に付いているスイッチに手を掛ける。
「クロックアップ!」
『Clock Up』
スイッチをスライドさせると機械音声が発せられ、全身に力が流れ込む。
ザビーは地面を蹴ると、ワームと同じように世界からその姿を消していった。
世界の時間が止まっている。
いや、彼らが世界の流れる時間より早く動いているのだ。
超加速機能――クロックアップを発動して二人は戦っていた。
突如出現したザビーを見て逃げ出そうとしたワームに動揺が走る。
もう後がないと判断したのか無茶苦茶に拳を振るう。
だが自暴自棄なだけの敵の攻撃など、今のエリオ――ザビーにとっては何の脅威にもならない。
乱暴に迫る大振りな拳を半歩身体をずらすだけで軽々と躱し、強化された右足による反撃の回し蹴りをワームの頭部に叩き込む。
脳髄に響いたのかふらついていく。それを見たザビーは力強く拳を握りしめる。
「ライダースティング!」
『Rider Sting』
ザビーゼクター上部のフルスロットルを押すと、電子音と共にゼクター内部からタキオン粒子がニードルを中心に全身に駆け巡っていく。
ザビーはあらゆる力を右手に集中させる。
心臓から流れ込んでゆく血液。
全身を駆け巡る神経の流れ。
ゼクターから噴出されてゆくタキオン粒子。
全てを右手に込めていき、ワームの元へ駆け抜けていく。
それを見たワームは逃げだそうとするが、もう遅かった。
「はあああああっっっっっっ!」
ワームの心臓を目掛けて、ザビーは渾身のストレートを放つ。
突き刺さったニードルからザビーの込めたあらゆる力がジオフィリドワームの全身に駆け巡っていき、細胞の破裂音が響く。
やがて断末魔の叫びを上げるかのようにその体は砕け散り、爆発四散し消え去った。
『Clock Over』
時間が正常な流れに修正されるのを知らせるかのように機械音声は響く。
そして、凄まじい爆音と爆風が周囲に押し寄せる。
その様子を見つめていた者がいたことを、知る者はいなかった。
漆黒に包まれた部屋の一室。
無意味に広いその部屋には、窓がなければ階段もなく、エレベーターもない。あるのは巨大なモニター画面だけだ。
そんな部屋に、年齢を特定することのできない白衣に身を包んだ一人の男が目の前の画面を眺めている。
その名はジェイル・スカリエッティ。
本来ならばここにいるべき男ではない。
生命操作や生体改造、精密機械に通じた科学者である彼は三年前、自らが起こしたJS事件によって逮捕され、無期懲役の判決を受けた末に第9無人世界の「グリューエン」軌道拘置所第1監房に収容されていたはずだった。
そんな彼にある時、転機が訪れる。
『ワーム』と名乗る存在が面会に来て、ある計画の協力を持ちかけてきた。
無論、スカリエッティはそんな話を信じなかった。だが聞いていく内に彼の持つ無限の探求欲が刺激されていき、飛びついていくのに時間は必要なかった。
そして彼は『ワーム』の協力により脱獄に成功する。当初は騒ぎにならないかと思案したが、スカリエッティが脱獄したことなど誰にも気付かれることはなかった。
「キックホッパー、サソード、パンチホッパー、そして新たに現れたマスクドライダーザビー、プロジェクト・Fの残骸が資格者か……興味深い」
モニター画面に映るのはミッドチルダに現れたライダー達とワームの戦いの記録だった。
その様子をスカリエッティは不気味な笑みを浮かべながら眺めている。
そんな彼の元にハイヒールの音が近づいてくる。
「間宮殿、どうなされたのですか」
スカリエッティは背後を振り向くのと同時に、音は鳴り止んだ。
そこに立つのは見る男全てを虜にしてしまう美貌を持ち、喪服に身を包む一人の女だった。
名前は間宮麗奈。
ワームの中でも特に優れた知能と戦闘能力、冷酷性を持つ。
彼女はかつて多くのサリス・成虫体と共に人間社会に潜伏し、ワームの益となる情報を探った。
しかしある時ワームの記憶が失ってしまい、人間として『間宮麗奈』となりある男と恋に落ちる。
やがて彼女はワームの記憶を取り戻すが、愛した男――風間大介の手にかかり命を落としたが、蘇っていた。
その容姿からは想像出来ないくらいに圧倒的な威圧感を放っている。凡人ならばそれを感じ取った途端、尻餅をつくかもしれない。
しかしスカリエッティは微動だにしなかった。
「スカリエッティ、計画は進行しているか」
「勿論ですとも」
「モニターにもあるように、ザビーの新たなる資格者が現れた」
「そのようですね」
スカリエッティは邪悪な笑みを保ったまま、再びモニター画面に目を通す。
「ライダーはキックホッパー以外危険視する必要はない」
「何故でしょうか」
「キックホッパーの戦闘能力は他のライダーとは比べものにはならない。恐らくカブトと互角、あるいはそれをも上回るだろう」
「ほぅ……」
麗奈は機械のような冷たい表情で淡々と語る。スカリエッティはそれをただ聞くだけだった。
かつて麗奈は部下を率いてカブトと戦ってた最中、突如現れたキックホッパー一人に圧倒されていた。
体力的にも戦力的にもこちらに分があると思われたが、相手は有利に戦っていた。
そういう出来事があって、若干だがキックホッパーに対して畏怖の念を麗奈は抱いている。
「ハイパーゼクターの捜索状況はどうなっている」
「未だに発見されません、あの虚空の中にあるというのは確かなのですが」
「何としてでも見つけ出せ、あれは我々の勝利の鍵だ」
「仰せのままに……」
スカリエッティが含み笑いを浮かべると、一匹のサリスワームが部屋に現れる。
「報告します、改造手術を行っていたはずのタイプゼロ・セカンドがベルトと共に何者かによって奪還されました!」
それを聞いた麗奈は顔を顰める。
「何……?」
「更に警護に回っていたスネーク、バットが敗れエリアZのネイティブも全滅した模様です」
「分かった、下がれ」
「ハッ」
報告を終えたサリスワームは部屋を後にした。
「我々を復活させたとはいえ、ネイティブなど所詮その程度だったということか……読めていたが」
「カブトとやらの仕業でしょうか」
「その可能性は高いが、ハイパーゼクターを持たないカブトなど脅威ではない。タイプゼロ・セカンドもろとも始末することなど容易いことだ」
「あれは今後戦力になるかもしれませぬがいいのですか?」
「我々を見くびっているのか?」
「いえ、滅相もありません。不愉快にさせたのなら失敬」
睨み付けてくる麗奈に対して、スカリエッティは表向きに謝る。
そんな彼らの元に一人の男が暗闇からゆっくりと姿を現した。
「準備が整ったぞ、ドクター」
その男は眼鏡を掛け首にネクタイを巻いている。漆黒のスーツに身を包み、その上には同じ色のコートを羽織っている。
全身からは麗奈をも上回る威圧感を放ち、地獄の悪魔すらも凌駕する強さと恐怖が感じられた。
現れた男は乃木怜治。
ワームの頭領であるその男は、麗奈をも遙かに上回る戦闘力と驚異的な再生能力を誇り、数々の能力を用いてライダー達を圧倒し続けた。
時間停止。
能力吸収。
分裂。
しかしその能力もライダー達に破られてしまい、やがて乃木自身も敗北してしまった。
乃木が現れたことに気がついた麗奈は顔を振り向かせる。
「本気でこの男に力を与えるつもりか」
「当然だが」
「このような下劣な男が手に入れたら、明日にでも我々を裏切るに違いない」
「それはそれで一興だ」
顔を歪める麗奈に対して乃木は平然と答えていた。
「行こうか、ドクター」
スカリエッティは笑みを浮かべながら無言で肯く。
麗奈には乃木の真意が理解出来なかった。
スカリエッティという男は驚異的な頭脳と技術力を誇り、計画の進行に多大な貢献を与えた男だ。その点のみは麗奈も高く評価している。
だが『計画の進行』を口実に、この男は戦闘力の低いネイティブはおろか同胞であるワームまで、己の探求心を満たす為に生体実験や肉体改造を行っている。
犠牲となった数は計り知れない。
乃木はそれに対して何の感情も見せていないが、何か考えでもあるのだろうか。
だがどのような思惑があり、いかに信頼を寄せているにしても麗奈の中ではスカリエッティは『自らの欲望に駆られて行動するだけの愚かで醜い男』という評価だ。
モニター画面が放つ明かりの中、麗奈は闇の中へと消えていくまで二人の後ろ姿をただ眺めるだけだった。
戦いを終えたエリオ・モンディアル――仮面ライダーザビーはその腕に自分が傷つけたパートナー、キャロ・ル・ルシエを抱え、彼女の胸の上に愛龍フリードを乗せている。
ワームの打撃で頭を強打したのか彼らは未だに目覚めない。
もしここで目覚めたらどうすればいいのだろう。今この手で抱えている少女を自分は殴りつけてしまった。
かといってあのまま汚いコンクリートの上に放置するわけにもいかない。だが何処に連れて行けばいいのだろうか。
悩みながら足を進めていると、ザビーの前にその女性が現れた。
「あなたは……? それに、キャロにフリード……」
ザビーの仮面の下で、エリオは驚愕の表情を浮かべた。
それもそのはず、目の前に立つのは自分の恩師であるフェイト・T・ハラウオンだからだ。
自分がワームと戦っていることに気付いたのかその体はバリアジャケットに包まれ、バルディッシュも戦闘態勢に入っている。
その瞳からは暖かさと母性が感じられる。このフェイトは本物で間違いないだろう。
そう察したザビーは腕の中に抱えるキャロとフリードを無言でフェイトに突きつけた。
彼女は困惑の表情を浮かべながら二人を受け取る。そしてザビーはフェイトに背中を向けて去っていった。
「待って、私は時空管理局のフェイト・T・ハラウオンです。話を聞かせて下さい」
フェイトの言葉を無視するかのようにザビーはその場を離れていく。
今の自分は感情任せにパートナーを殴りつけて、逃げ出してしまった卑怯者だ。そんな事実を恩師であるフェイトには知られたくなかった。
まあ、キャロが目覚めたら多分知ってしまうだろう。そうなったら自分のことを失望するに違いない。
「クロックアップ……」
『Clock Up』
ぽつりと呟きながらベルトのスイッチをスライドさせる。
ザビーは全身の力を足に込めて、地面を強く蹴り出す。
そして逃げ出すかのように自らの姿を消していった。
04 終わり
次回
仮面ライダーカブト レボリューション 序章
第1話 交錯する時空
天の道を行き、総てを司る
最終更新:2009年02月07日 19:41