切り替わる仮面。

自らを映し出す心の鏡。

映るのは自分だけとは限らない。


<02: Montage>


AM12:53

機動六課、隊長室。そこでは、現在重苦しい空気が流れていた。

「――で、この人に助けてもらったと」
「うん……」

世界が時間を取り戻し、六課のシステムが復旧した頃、なのはと青年は六課に保護され、現在部隊長であるはやてに事情を説明していた。
しかし、その内容はとても信じられるようなものではなく、はやては頭を抱えたくなった。
当事者の一人である青年は連れてこられてすぐは物珍しげに辺りをキョロキョロと見回していたが、今は大人しくなのはの隣で、フェイトとデスクに腰掛けたはやてに向き合っていた。
はやては青年の顔を見つめる。この青年も訳が分からない。
六課に保護したはいいが、何故か腰に銃を下げていた。質量兵器が禁止されているというのにどうやってそれを入手したのかは知らないが、押収してみるとその正体はアンティークのようなもので、弾丸は出ない仕様になっていた。
着ている制服らしき服はタイまで締められ、首から提げていたのは携帯型の音楽プレーヤー。
戦地にいたとしてはおかし過ぎる格好だ。浮世離れした奇妙な存在感を、彼は放っていた。加えて、
「シャドウに影時間、か……」
隠された時間。止まっていた時間。映像記録の繋がりの不自然さも物語っている。
確認した映像記録では、ほんの一秒前まで存在していなかった青年がなのはの隣に立っていたのだ。
自身も体験している以上、影時間というものの存在については認めざるを得ないだろう。
しかし、なのはの言う「化け物」はどうにも要領を得なかった。それを語るなのは自信も困惑した様子で、「手が沢山生えた影のような化け物」とこれだけだ。
しかしなのはの言葉からは嘘は感じられなかったし、隣の青年の証言も合わせて考えるに、それはどうやら事実であるらしかった。
証拠がないからと言って十年来の友の言葉を軽く扱うはやてではない。
シャドウと呼ばれる怪物にどう対応すればいいのか……。
鍵は、目の前の青年が握っているらしい。

AM12:00

時間は影時間に遡る。
「あの、さっきはありがとうございました」
「……気にしなくていい」
あの後、なんとか立ち上がったなのはは、彼に話を聞いていた。
彼が道に迷っていたこと、偶然なのはを見つけたこと。そして、影時間のこと。
「影時間?」
「そう。一日と一日の狭間に存在する、隠された時間。
この時間の中では特殊なものを除いて一切の機械が動かなくなり、人間も、一部の人たちを除いて、「象徴化」し、棺型のオブジェになる」
青年の話は胡散臭いことこの上ない。
しかし、異常なこの現状や、先ほどの恐怖が拭い去れずにいるなのはは、それ併せて考え、青年を信じることにする。
頷いて、続きを促した。
「その一部の人たちは、「ペルソナ使い」と呼ばれる。
僕がさっきして見せたように、精神の力を具現化させることができる、素質を持った人たち。
さっきの怪物…僕が「シャドウ」と呼んでいるアレは、その素質を持った人を襲う」
「それって……」
なのはの呟きに、今度は彼が頷いた。そう、と呟いて、言葉を続ける。
「あなたにも、ペルソナを使う素質がある」
青年の言葉から数分後、影時間が終わり、周囲があるべき時を取り戻し始めた。
ガジェットもこれまでと同じように活動を再開する。
ちょうど一時間前と変わらない光景に、なのはは気を引き締めると、レイジングハートをセットアップした。
「それは……?」
驚きに目を見開く彼に微笑みかけると、残るガジェットを殲滅すべく、なのはは空に戻って行った。
青年は、魔導師を見たことは無論なく、ましてやこの世界の常識が一切分からない。
とりあえず目の前の女性が壊している機械を見て、自分も参戦して手伝おうかと思ったが、どうやら必要なさそうだ。
一気に手持ち無沙汰になってしまった青年は傍若無人にもズボンのポケットに両手を収めると、戦闘を傍観し始めた。
彼女に話を聞かない限りは自分はここで行き倒れるかもしれない。
転生してすぐそれはごめんだった。ならばここはこの戦いが終わるのを待つしかない。
なのはとしても、青年が下手に動かない方がやりやすかったこともある。
しかしそんな判断がその事態を招いたのかも知れない。
なのはから遠く離れ、射程から離脱していたガジェットは、近くにいた青年の後ろに回り込むように旋回していたのだ。
なのはが気づいた時には既に遅く、ガジェットは青年に攻撃を仕掛ける寸前だった。
「危ない、後ろ!」
なのはの声に咄嗟に振り返った青年は、ガジェットの攻撃をかろうじて回避した。
なのはは安堵の溜息をつき、しかし彼の矛盾に内心首を傾げた。
何故あれ程の怪物を倒せておきながら、攻撃に参加しないのだろうか?

彼はただ単にこの世界がどういうものか分からなかったし、戦う必要も思い当たらなかったので手を出さなかっただけなのだが、それでも今の不意打ちには思うところがあったらしい。
ホルスターの銃を抜くと、その銃口を躊躇うことなく、自らの頭に向けた。
「何を……!?」
するの、となのはが言い終わる前に、そのトリガーは引かれた。体を銃身に、精神を火薬にして。
果たして放たれた弾丸は、彼の心の仮面。自らを守護する精神の鎧であり、剣。
「オルフェウス……!」
最も目を引くのは背に背負われた巨大な竪琴だ。
そして、異様に細長い付け根と、その先に円筒を取り付けただけのような異形の手足。
腹部にはスピーカーのようなへこみがあった。アンバランスなシルエット。
青年に似ているようで、細部で大きく異なる異人。
「あれが……ペルソナ」
現れ出でし幽玄の奏者は、その背に背負う竪琴を後ろに振りかぶると、か細い腕のどこにそんな力があろうかという勢いで、思い切りガジェットに叩きつけた。
凄まじい衝撃にガジェットは地面にたたきつけられ、外郭である装甲がひしゃげる。
その一撃はガジェットの内部に損傷をきたしたらしい、ガジェットの機能は完全に沈黙した。
実験とも言えるオルフェウスでの物理的な攻撃の結果は予想通り。
シャドウ以外にも、この世界の機械にペルソナの攻撃が通用することがわかった。
それだけを確認すると、彼は自らの内で心の仮面を付け替える。
更なる標的のガジェットを見定めると、再びトリガーを引く。知らず、彼の口元には微笑すら浮かんでいた。
放たれたのは、兜を頂く隻眼の男。北欧神話の主神、
「オーディン!」
マントと雷をその身に纏う雷神、オーディン。その姿はまごうことなき王者たる威光を放っていた。
オーディンはその手に持つ槍「グングニル」を天に掲げた。
万雷を孕む黒雲が辺りに立ち込め、周囲に雷鳴を轟かせながら雷を降らし始める。
「マハジオダイン」。強大な雷は周囲に散らばっていたガジェット全てを貫き、撃ち洩らすこともなく破壊していった。
大規模な雷の嵐が静まり、黒雲が消えうせると、オーディンの姿もそれに伴うように露と消えた。
彼は周囲を見渡すと、呆然としているなのはを見上げた。
「終わり?」
「う、うん」
あっけなくガジェットを殲滅してみせた青年の能力は、なのはの想像以上だった。
青年は銃をクルクルと手で回転させてみせ、ホルスターに収める。
気障なパフォーマンスだが、青年はそれを自然体でやっているらしい。見惚れるほどさまになっていた。
正直彼には驚かされっぱなしで呆然自失のなのはだったが、その後、とりあえず彼を保護するとともに六課へ帰還、事の経緯をはやてに説明し、今に至る。

「で、あの「力」はなんや?魔法か?」
はやての言葉は、青年に向けられたものだった。
映像記録に残されていた彼の戦闘の映像は、すでに眼を通していた。
常ならざる能力であることは確かだが、その正体は不明のままだ。
見た感じでは、キャロの召喚術に似ていないこともない。
彼は少し思案し、やがて首を横に振った。そして、一言だけ単語を口にする。
「ペルソナ」
「え?」
「『ペルソナ』という能力。シャドウに対抗し得る、唯一の力」
「……詳しく聞かせてもらえる?」
フェイトが続きを促した。はやても頷く。彼は逡巡する様子を見せた。
自分の中で考えを纏めているような感じだ。
「これは、僕の主観ですが」
やがて彼は自分の心臓の位置に手を置き、そう前置きしてから話し始めた。
「……皆さんの使う魔法とは、全く別のものです。
潜在意識にある心の力を具現化したもの。言葉に表すならそんな感じです」
……ペルソナについて一通りの説明を終えた彼は、もう話すことはない、とでも言うようにポケットに手を収めた。
「つまり…別の次元から何かを呼び出す召喚術とは、違う召喚術ってことかな?」
フェイトの問いかけに、彼は頷いた。
「ペルソナは内なる心の力。引き出すのに必要なのは技術じゃない。
魔法は技術、ペルソナは能力。そう解釈してもらえれば分かりやすい。
召喚器で頭を打ちぬき、仮想の中で内なる力を引き出す。
安定した召喚を行うにはこのプロセスを行う必要がある。でも、必ずしも必要な訳じゃない」
青年は頭のこめかみに手で作った銃を押し当て、引き金を引く真似をした。
「……それで、君はなんでそんなに事情に精通してるんや?」
はやての質問は、核心を突くものだった。彼は物思いに耽るように眼を瞑ると、やがて口を開いた。
「……僕は、この世界の人間じゃない」
三人は一様に驚く。薄々、この世界の人間ではないのでは、と思ってはいたが。
職業柄、次元漂流者というものにはまま、遭遇することがある。
しかしその殆どは自分の身に何が起こったのか理解していない。
しかし彼は自分が別世界にいることを明確に理解していた。
彼は、自分と自分の居た世界、そしてここに来ることになった経緯を説明する。
「――その後、僕は気づいたらこの世界にいた」
ユニバースの力の事や、デスを封印してからの経緯の事など、自分が向こうの世界では死んだ身であることは黙っていた。
自分でもうまく説明できる自信がなかったし、何故か彼は、目の前にいる人たちに自分は死んでいたのだということを知られたくなかったのだ。
「んー、なんやとてつもない話やなぁ……」
「それじゃあ、なんでこの世界に影時間があるのかは、分らないの?」
「……はい、僕もこちらに来たばかりで事情がよく……。次は、僕の質問に答えてもらえますか?」
この世界について、彼はまだ殆ど何も知らなかった。
目にした魔法にも興味があったし、この世界を知ることは不可欠だ。
その後も情報交換のようなやり取りは続くが、当然のように話はペルソナに帰結した。
この世界に影時間とシャドウがある限り、その脅威を退けられるのはこの力だけなのだ。

「基本的にペルソナは一人一体。僕のように、同時に複数のペルソナを所持することができる人も稀に存在します」
「私たちがペルソナを出すには、どうしたらええの?」
「……多分、召喚器で頭部を撃ちぬくことで、僕と同じようにペルソナを引き出すことができます。
でも、不安定なままの力を無理やり形にして引き出すようなものなので、下手をすれば暴走する」
自分にも経験があるのでわかる。
暴走を避けて安定して引き出したいならば、自然に覚醒するのを待つしかない、ということになる。
そんな悠長な、とはやては言うが、こればかりはどうしようもない。
「それで、これからのことだけど……」
そんな中、フェイトが言い難そうに話を切り出した。
「しばらくはここで身元預かりってことになると思う。
自由な行動ができなくなるから、申し訳ないんだけど……」
「いえ、是非お願いします」
身一つでこの世界に放り出された彼にとっては、衣食住もままならない状況が好転したといえる。
フェイトはすまなそうにしているが、制限がつくとはいえ、身元預かりとは願ってもない待遇だ。
「そういえば、自己紹介もまだだったね。私は高町なのは。」
確かに。なのはの言葉に漸く気づいた。苦笑を洩らしながら、彼は名乗った。
「僕は……藤堂、綾也です。」

なのはに送ってもらい、宛がわれた自室に入ると、綾也はベッドに倒れこんだ。
久しぶりに力を行使したからだろうか、眠気が酷い。
この世界で目覚めた時、気づいたら影時間の只中だった。
混乱するも、ここが別の世界だということを思い出し、とりあえずあてもなく歩きだす。
途中で見つけた人影と、今まさに襲いかからんとするシャドウ。咄嗟だった。
定位置である腰のホルスターに手を伸ばすと、召喚器を手に取りペルソナを召喚した。
今になって考えると不思議である。
なぜ自分はこの月光館学園の制服を着て、携帯音楽プレーヤーを身に着け、あまつさえ召喚器を持っていたのか。
思考は眠気にかき乱される。
気を抜けば失いそうな意識をなんとか繋ぎ留め、残ったなけなしの気力で起き上がった。
もぞもぞとブレザーを脱ぎ、タイを解いてそれらを床に放り出すと、綾也は再びベッドに倒れこみ、今度こそ意識を手放した。

違和感に目を覚ますと、そこは一面藍色だった。
ベルベットルーム。夢の中にいながら、これは夢だと自覚しているように、矛盾を感じる時がある。ベルベットルームにいるときは、そんな感覚に襲われる。
「また、お目にかかりましたな」
呼び出しておいてよく言う、と思うがそれは黙っていた。
「さて、今宵あなたを呼び出すのは二回目ですな。先ほど、と言ってよろしいものか、話の続きがございます」
「僕も聞きたいことがあった」
それはそうでございましょう、とイゴールは笑いながら頷いた。
「さて、何からお話致しましょうか……。そういえば、紹介がまだでしたな。」
 イゴールが示したのは隣の麗人だった。
「初めまして。マーガレットでございます」
「……エリザベスさんじゃないんですか?」
イゴールに視線を送るが、老人はただ黙して笑みを深めるだけだった。
「妹は行方不明でございます」
「妹!?」
以外だった。エリザベス……彼女に姉妹がいたなんて。マーガレットと名乗った彼女に初めて会った気がしないのも、納得できる気がした。
しかし、行方不明とは。この世界の住人にも、そんなことが起こりえるのだろうか。……ありえそうだ、彼女なら。
「ずっと興味を惹かれておりました。妹を打ち倒す程の力を持った殿方……。一度、手合わせ願いたいものです」
「……ッ」
マーガレットは微笑んだ。綾也は肌が粟立った。一瞬だったが、自分に向けられたプレッシャーは凄まじかった。
無意識に、反射と無効を持たないペルソナにチェンジしてしまう程に。
間違いない、この人は強い。これまでに培ってきた経験が、警鐘を鳴らしていた。
「それほどにしておきなさい、マーガレット」
「これは私としたことが、つい」
 冷汗が頬を伝う。内心、イゴールにこれほど感謝したのは初めてだった。
「それでは、本題に入りましょう。あなたはこの世界に誕生した際、ユニバースの力を失いました」
「!」
「いかにユニバースの力といえど、ここまでの奇跡は無理があったようですな。
大いなる奇跡の反動にか。それは定かではありませんが、今のあなたはユニバースを使えません」
なんとなく、気がついてはいた。自分の中にあった、あの「不可能な気がしない」感覚が抜け落ちていたのには。
だからと言って何か問題があるかと言われれば、答えはノー。今までが異常だったのだ、ただ元に戻っただけ。
「……僕はこれからどうすれば?」
「あるいは、意味や目的などないかもしれませんな。人生そのもののように曖昧で、あなたの行く末は私にもわかりえません。
深い漆黒の闇に覆われ、見通すことのできない前途。多難でございますな」
イゴールはフフ、と笑った。笑いごとではない。
「とりあえずは日々を気ままに過ごしてはいかがでしょうか。いずれ来るであろう試練に」
自分がここ来た事。そこに意味あるのだろうか。イゴールの言うとおり、意味などないのかもしれないが。
それでも、やるべきことはある。
「今は休まれるのがよろしいでしょう。そろそろ目覚めの時間ですな」
またもあの感覚だ。意識が浮上し、ベルベットルームを離れるのがわかる。
「それでは、ごきげんよう……」

綾也は夢とベルベットルームに別れを告げると、ひどい空腹とともに目を覚ました。
とにかく朝食を口にしようと部屋を出ようとして、どこで食べればいいのか分からない事に気づき、途方に暮れる。
ちらと視界の端に映った部屋の隅には、見覚えのある青い扉があった。
「こんなところに作らなくても……」
軽い眩暈を感じたのは、憔悴のせいか、空腹のためか。
とりあえず廊下を歩いて出会った人に聞こうと、部屋を後にぶらぶらと廊下を進む。何度目かの角を曲がろうとして、意外な人物に出くわした。
「君は……綾也君」
「確か、フェイトさん……?」
眠気も一瞬で醒めるほどの美女が、驚いた様子で綾也の名を呼んだ。
昨夜の自己紹介で教えられた名を確認するように言う。
「よかった、探していたんだけど……」
「あの。朝食って……どこで食べられますか……?」
フェイトの言葉を遮る綾也の言葉が以外だったのか、フェイトは瞬きを繰り返した。

「ごめんなさい、きちんと伝えておくべきだったよね……」
「いえ……」
綾也は外見通り、基本的には小食だが、食べる時は食べる。そして今は、食べる時だった。
彼は食堂のメニューを開き、彼のスタイルを考えると信じられない程の量を注文し、黙々と平らげ続けた。
フェイトはそれを余程お腹が空いていたのだろうと解釈したらしく、すまなそうにしている。
その光景は食堂の一角において、かなり異質な取り合わせだった。見慣れない青年と六課が誇る敏腕執務官が食事を共にする。
それだけでも周囲の視線は付きまといそうなものだが、六課の職員はほとんどが女性である。
その視線の中には、明らかに綾也へ向けられる好奇の視線が含まれていた。本人には自覚がなくとも、コーヒーを口に運ぶ彼の姿はカリスマ級だ。
しかし、当の二人はその視線には全く気付かず、妙な空間を形成し続けていた。
「よく食べるんだね」
「食べないと力が出ない」
漫画の食いしん坊キャラのようなセリフを吐きながらも、走り出した食は止まらない。あっという間に三人分はあろうかという量の朝食を取り終えると、食後のデザートへ入っていった。
「食事の最中悪いんだけど……」
フェイトの声のトーンが下がり、デザートを口元に運ぶ手は休めずに、綾也は目線をパフェから外した。
「この後、呼び出しがあるの。ここの部隊長から」
「部隊長?」
「昨日、私の横にいた人」
あの人か。独特のイントネーションで話す、女性。
「昨日の部屋……部隊長室に来てほしいって。私も同行する予定だから、探してたの」
「何の要件なんですか?」
「わからないけど、大事な話って言ってたよ」
やはり影時間やシャドウ、ペルソナに関することなのだろう。綾也はパフェを食べ終えると席を立った。
呼び出されている上、待たせているとなれば長居は無用だ。フェイトの案内され、部隊長室へ向かう。
そこで、ある意味綾也の予想は肯定された。
「僕が、六課に?」
「そや。うちらはまだシャドウに対抗する力を持ってない。君の力が必要なんや。
その力を貸してほしい」
予想の中でも、かなり望ましい位置にあった申し出だ。
自分はこの世界においてエキストラではなく、役職を得ることになるし、生活にも困らない。
「僕の力でよければ、いくらでも」
「ありがとう、そう言ってくれると思っとったよ」
綾也の言葉を聞くと、はやては笑って言った。
「よろしくな、綾也くん」
差し出された右手を、綾也は握り返した。
「こちらこそ、お世話になります」

六課への入隊。それは暗闇に包まれたこの世界での一筋の光明のように感じた。
これからの旅路、行く手に何が待ち受けるのか。分からなくても、それでも何とかなる気がしていた。
ユニバースの力がなくても、自分には残っている。ペルソナと、絆が。色褪せることのない確かな輝きを放つそれが、行く手を照らしてくれように感じて。
元の世界に未練がないわけじゃない。還ることができたらどんなにいいだろう。
しかしここにも僕の居場所ができた。無責任に捨てることはできない。
今は尽力しよう。この世界の闇を晴らすことに。それが、僕のすべきことだと感じていた。
そして、夜が来る――。

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最終更新:2008年09月24日 19:33