第14話 砕かれる友
リインが再び倒れて2日が経った。命に別状は無いがリインは目を覚まさない。
ヴェロッサは目を覚まさないリインに付っきりになって、ろくに食事も取っていなかった。
そんなヴェロッサにヴィヴィオ達は心配して色々世話をしようとするもヴェロッサは「後でいい」などと言って、他の事をしようとしなかった。
「身体的には問題はないわ。意識が戻らないのは精神的ショックが原因ね。現実を恐れてるのね」
シャマルが廊下でクロノと二人で話し合う。
「しかし、このままの状態が続くとリインや他の子達の状態も……」
クロノの言う通り。クロノが窓から外を見てみると、外ではスバルとティアナが少し思い雰囲気で座り込んでいた。
「なのはさんのせいなの?」
「そうは言ってないよ。でもなのはさんはよくわかってないんだよ。何気なくやったことがどれだけ相手に影響を与えるか…」
「なのはさんはなのはさんなりにやったんじゃ…」
「だから余計に許さない。自分のものさしで考えてたから……」
スバルの顔に怒りが少しにじみ出る。
「ニコニコしてて、いい事してるつもりでも、ズレてるの。なのはさんは痛いってことがわからないのかな?」
スバルがそう思っていた頃、なのはは庭でユーノと話していた。
「ねえ、ユーノ君」
「何?」
「私間違ってのかな?」
なのはもなのはなりに落ち込んでいた。
「小学1年生の頃、アリサちゃんがすずかちゃんとからかってたのを見て、私思わず手を出した事があるんだ」
なのははふと過去の事を思い出す。なのはが魔法と出会う何年も前、1年生の頃同級生であったアリサ・バニングスが同じクラスの月村すずかのリボンを取ってからかっていた時、
なのははそれを見てみぬ振りが出来ず、なのはは思わずアリサに平手を打ちをかました。
なのははその時、アリサにこう言った。
(痛い? 私だって痛いよ。でもそれ以上にあの子が痛いんだよ!)
その言葉でなのはとアリサがケンカしかけたが、それをとめたのがいじめられていたすずかであった。
それ以降3人は仲良くなり、なのはが魔法と出会ってしばらく経つまでは3人はよき友達として仲良く過ごしていた。
「今の私を見たら、アリサちゃんなんて言うんだろう……」
「僕にはよくわからないけど、なのはが間違ってるとは思ってないよ」
「ユーノ君」
なのはが改まってユーノの方を見る。
「ただ少しやり方が違っただけ。僕はそう思うよ。だってなのはは本当は優しい子だって僕は知ってる」
なのはが魔法と出会うきっかけを作ったのはユーノである。魔法と出会って以降なのははユーノをよきパートナーでよき友達として接していた。
そしてもう一人なのはを支えてくれた人がいる。
「なのはーーーーー、なのはーーーーーーー」
フェイトが走ってなのはの下に駆け寄る。
そうもう一人とはフェイト・テスタロッサである。
「フェイトちゃん」
「なのはここにいたの」
「フェイトちゃん……私……」
「私はなのはを責めるつもりは無いよ」
「フェイトちゃん」
「なのはは少し不器用なだけだよ。私にはわかる。だってなのはは私の大事な友達だもん」
なのはは泣きかけていた涙を拭いて笑顔で礼を言う。
「……ありがとう、ユーノ君、フェイトちゃん」
そんな時ゼラバイア急襲の警報が鳴り響く!
「行かなきゃ…」
「なのは、無理しないでね」
「うん」
司令室に向かうシャーリー達の前に既にヴェロッサが司令室にいた。
「ヴェロッサさん、いいんですか?」
「リインのそばにいなくても…」
「確かにリインの事は気になるけど今はゼラバイアの方が優先しないと…」
「……、わかりました」
シャーリー達はヴェロッサの事を心配しつつもオペレートに入る。
「ゼラバイアは廃棄されたダムの上に着陸した模様」
「ジャミングが展開されて、これ以上は状況がわかりません」
「ヴェロッサさん、GシャドウとGストライカーにファントムシステムの搭載が完了したそうです」
「ロッサ、グランナイツの動揺があるようだが本当に戦えるのか?」
クロノが心配そうにヴェロッサに尋ねた。
「だがこれしか道は無い」
グランナイツの方も皆集合して、それぞれ自分の機体に乗り込もうとすると……。
「スバル」
「はい?」
「今日はグランカイザー、私が乗りたいけどいいかな?」
「なのはさん」
なのはは少しでも罪滅ぼしがしたいのか、スバルは少し考えた末答えを出す。
「わかりました。今日はなのはさんが乗ってください。あたしはGアタッカーにします」
「スバル……、ありがとう」
なのははスバルに礼を言ってグランカイザーに乗り込み、スバルもGアタッカーに乗ってそれぞれ発進した。
「現場の状況は不明。ゼラバイアの分析が終わるまで無理な行動はしないでくれ」
『了解』
皆が現場に着く。現場に着いた途端ゼラバイアはグランディーヴァを攻撃する。
「いきなりか…、早く合神しましょう」
「確か2機は無人よね」
「このまま合神したらグラヴィオンの出力61%、かなりのリスクになる」
「合神はもう少し様子を見てからの方がいいかも……」
フェイトの忠告を受けたのか、なのはは合神を控えようとする。
「各員で攻撃」
なのはがそう言うとグランカイザーは敵に突っ込んでいく。
グランカイザーのパンチでは相手の固い装甲を壊す事は出来ない。しかし相手はその固い装甲をパージさせ、いくつもの小さなゼラバイアへと分離させた。
「増えた!」
「きゃああああ!」
「スバル!」
なのははゼラバイアの攻撃を受けているGアタッカーをすぐに救援した。
「なのはさん!」
「合神します!」
「…わかった」
なのはがヴェロッサに承認を求め、ヴェロッサも承認する。しかしなのはとヴェロッサはどこか焦っているようでもあった。
「グランナイツの諸君、合神せよ!」
「エルゴ、フォーーーーーム!!」
ヴェロッサの承認を受け、なのはが叫びグランカイザーからエルゴフィールドが発せられいつものように合神使用としたその時、
突然モニターにゆがみが生じる。それは分離したゼラバイアがエルゴフィールドに侵入。グランカイザーと強制合体したのだ。
「うううう、ああああああああ!」
なのはは苦しむ。そして合体を邪魔されたため、各グランディーヴァは吹き飛ばされた。
その様子はジャミングが無くなった司令室でも確認されていた。
「こんなやり方、卑怯よ!」
「合神の瞬間を狙って、グランカイザーを封じるとは……!」
「……、まさか!?」
ヴェロッサには嫌な予感がした。その影にカリムの存在を見た。
「ゼラバイア、グランカイザーに侵食していきます」
グランカイザーに取り付いたゼラバイアはなのはの意思に関係なくグランカイザーを操る。
「きゃあああああああああああ!!」
「「なのはさん!」」
「なのは!」
スバル、ティアナ、フェイトがなのはの身を案じる。
「ゼラバイア、グランカイザーの重力子エネルギーを吸収しています」
「このままだとパイロットが付加に耐え切れません」
「なのはさーーーーーーん!」
「グランカイザーを食いつくそうって言うのね。だったら左右から攻撃してなのはさんから離すけどいい?」
「「わかった」」
フェイトとティアナが了解して、合神の為分離していたGドリラーを合体させて空からGアタッカーと共同で攻撃しようとする。
しかしグランカイザーからグラヴィトンアークに似た技がゼラバイアの部分から放たれ、Gアタッカーをかすめる。
「うわああああああ!」
「スバル! 動いてよ! 私の言うとおりに動いてよ! グランカイザーーーーーーーー!!」
なのはは叫ぶがその叫びは届かず、グランカイザーはゼラバイアの思い通りに動く。
「ダメです、これ以上近づけません!」
「でもこのままだとなのはが……」
Gドリラーが近づこうとするもグランカイザーからエネルギー波が連射されてうかつに近づけない。
そのうちの一つがGドリラーの前に放たれ、Gドリラーは吹き飛ばされる。
「ティアナ、フェイトちゃん!」
グランカイザーは暴れ続ける。
「お願い! もうやめて! もうやめてよ! グランカイザー!」
なのははその時、前に見たグランΣが世界を壊した時の映像を思い出し、皆に告げる。
「私を殺して」
『え!?』
「このままじゃ、グランカイザーが完全暴走して、この世界がランビアスみたいに…、パイロットがいなくなればグランカイザーは止まるはず、
もう嫌! 私のせいで誰かが傷つくのはもう嫌!」
「なのは……」
「何言ってるんですか!? あなたは!」
スバルは怒る。
「そんな事したらヴィヴィオや他の人が悲しむだけです! 絶対あたし達で助けます、なのはさん!!」
「私には人を守るなんて出来ないんだ。もういいの、お願い早く殺して……」
「なのは、今僕が行く!」
ヴェロッサが指令室を出ようとするとなのはが呼び止める。
「ヴェロッサ、私約束を守れなかった…」
「なのは!!」
その時、フェイトが覚悟を決めた顔でGドリラーを分離させようとした。
「フェイトさん! 何を!?」
「ゼラバイアはグランカイザーから重力子エネルギーを吸収している。
その真上に接触して、引き出されたエネルギーをGドリラーの重力子巡回システムに介して増幅させれば、グランカイザーを…、なのはを救い出せるかもしれない」
「そんな事出来るんですか?」
ティアナが不安そうに聞くとフェイトは手を胸の前にして手と手の間に何か光るものを出す。
「私ならできる。私は母さんに作られた『プロトグランディーヴァ』だから……」
「え!?」
「『プロトグランディーヴァ』? どう言う事ですか?」
「フェイトちゃん」
「ヴェロッサがミッドチルダに来て少し経った頃にプレシア母さんと会って、ヴェロッサの技術と母さんの科学者としての力で生み出されたのが私、フェイト・テスタロッサ」
フェイトが光りだすのは司令室でもわかっていた。
「フェイトさんがプロトグランディーヴァ……」
「フェイトさんがプロトグランディーヴァモードに移行します!」
「遮断して!」
「ダメです! 全グランディーヴァ制御不能。機能を全部フェイトさんに抑えられてます」
全グランディーヴァがフェイトの支配下に置かれ、フェイトは単身グランカイザーに突っ込んでいく。
「ダメ、フェイトちゃーーーーーーーーーーん!!!」
フェイトの乗るGドリラーに向かってエネルギー波が放たれ、Gドリラーに直撃する。
「きゃあ!」
「フェイトちゃん!!」
「はああああああああ!!」
それでもフェイトは負けじとGドリラーを突っ込ませた!
「フェイトさん!」
「フェイトさん! 戻って! エリオやキャロやルーテシアが悲しみます!」
エリオとキャロもまた元々は浮浪児だったのをフェイトが拾い、聖王教会に住まわせたのだ。
ルーテシアはいなくなった母の代わりをフェイトが務めていたのだ。
(私が死んでも……、代わりが……)
フェイトの強気、想いがGドリラーに届いたのかGドリラーの先端がゼラバイアの部分を貫こうとし、ゼラバイアにひびが入る。
「生きてね………、なのは………」
しかしGドリラーはエネルギー波をまともに受けていたが為に、ゼラバイアがバラバラになったのと同時にGドリラーは砕けちり大爆発した。
「ああああああああ、フェイトちゃゃゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」
現場からはものすごい爆音が鳴り響く。エリオ、キャロ、ルーテシア、ヴィヴィオも司令室に入ってくる。
エリオはあまりの出来事にひざをつき、キャロは顔を手で覆い隠す。
「そんな……」
「フェイトさん……」
ルーテシアもヴィヴィオもその様子をただ見ているだけだった。
『フェイトさん……』
皆がフェイトの死を悼む。その大爆発の中、金色の光が空に向かって飛んでいった事を誰も気付かないほどに…。
「嘘ですよね……」
スバルやなのはも信じられないという顔をし続ける。
しかしまだ戦いは終わっていなかった。バラバラになったゼラバイアは再度合体し、今度はグランカイザーに似た形態へと変化していた。
「まだ……!」
「なのはさん、逃げてください!」
ティアナの忠告よりも先にゼラバイアの攻撃の方が早かった。ゼラバイアの伸びる腕がグランカイザーを襲うが、その前にティアナの乗るGドリラーがそれを阻む。
しかし分離しているGドリラーでは明らかにパワー不足。Gドリラーの後ろからわずかに火の手が上がる。
「ああ、ああああああああ!!」
「ティアアアアアアアアアア!!」
ティアナはGドリラーの中で気絶したままGドリラーはダムの中に入っていった。
「Gドリラーレフトコックピット反応消失。パイロット……応答ありません」
「そんな……」
「もう嫌だよ」
皆が現実から背を向けたかったがゼラバイアはそんな事お構いなしに攻撃する。
「あああああああああああ!!!」
ゼラバイアの足がグランカイザーの胸部分に刺さり、トドメを刺そうと腕を斧に変化させ、その斧を振り下ろそうとしたその時!
突然ゼラバイアの腕が吹き飛んだのだ!
「な、何!?」
スバルは突然の事で驚く。それはゼラバイアも同じだった。
ゼラバイアは何者かと思い、後ろを振り向く。そこには先ほど自分の腕を吹き飛ばしたブーメランがその持ち主の下へと帰って行き、その持ち主は山の上に立つ謎のロボットだった。
「グラヴィオン、いや違う……」
その謎のロボットグラントルーパーにはヴィータが乗っていた。
「行くぜ、野郎共!」
その隣には他にも4機ものグラントルーパーがあった。
「アタックフォーメーションV」
『了解!』
5機の機体はヴィータの機体を先頭にして、後ろに並び3機は横に並ぶ。
そしてヴィータの機体の胸が展開される。
「ライトニング、デトネイターーーーーーーーー!!」
その叫びとともに胸に集まった魔力砲がゼラバイアに直撃し、ゼラバイアは爆散した。
この様子を見ていたクロノはつぶやく。
「地上本部は量産型グラヴィオンを完成さえたのか」
「ドゥーエ……、これが君の求めたものか」
ヴェロッサの言う通り、これはドゥーエのもたらしたものだが、それがドゥーエの求めたものかはわからない。
「グランカイザー……、何と言う事だ」
グランカイザーのボロボロの姿を別のグラントルーパーに乗っているヴァイスは悲しんだ。
「帰還するぞ」
ヴィータの指示通り、グラントルーパー全機がその場を離れた。
なのははボロボロのグランカイザーのコックピットで涙を流しながらこうつぶやいた。
「空っぽだね」
最終更新:2008年10月07日 20:40