あの悲劇から1週間が経とうとした。なのはがその間に教会からいなくなったのだが、ヴェロッサはただ「わかった」とうなづいただけで、何もしようとしない。
 いや、何もしてないのだ。今のヴェロッサは廃人のように壊れていた。


 その頃次元航行空間に浮かぶ謎の物体の中では、1週間前にゼラバイアがグラントルーパーに敗れる映像をカリムが見ていた。

「ふ、私に楯突く愚かな者たちよ。いかに自分達が愚かな存在か知るがいいわ。
苦しみ惑う者たちよ。統制と安堵、そしてひさを与えてあげましょう」

 カリムがそう言うと自分のいる部屋の中心に何かを指示し、そこから上へと光が飛んでいく。そうミッドチルダに向かう光だ。



 第15話 想いが衰える時



 スバルは慣れないバイクを駆ける。スバルは16歳になったばかりでバイクの免許も取り立てほやほやでティアナやヴェロッサのようにうまく運転できない。
 しかしそれでもスバルはバイクで道路を駆ける。いなくなったなのはを捜すために……。

(なのはさん、あたしが追い詰めちゃったのかな……。あの時あたしがなのはさんをグランカイザーに乗せたから……)

 フェイトとティアナがいなくなる前にスバルはなのはにひどいことを言ったままなのはが行方知れずになったのを少し後悔した。
 しかし後悔しても戻る事はできない。それをスバルは認識している。

(なのはさん、必ず見つけますよ)


 城の整備室では、マリーが不機嫌そうにテレビニュース討論を見ていた。その討論の内容はゴッドグラヴィオンと先日現れたグラントルーパーの事で、
 グラントルーパーの方がある意味ではグラヴィオンよりもいいと言う意見にマリーはテレビを見ながら反論する。

「もうーーーーーー! ただ単にグラントルーパーに乗ってる人が1機体に1武装しか使えないだけでしょ!」

 思わずマリーは手に持っていたスパナをテレビに向かって投げようとしたら、肉まんを持ってきたシャーリーが止めに入った。

「マリーさん、とりあえずこれ食べて落ち着いて……」
「あ、ありがとう。どうもおなかがすいてたのもあって……」

 マリーはシャーリーの持ってきた肉まんで何とか落ち着いた。
 そして肉まんを食べながら修理中のグランディーヴァを眺める。

「後3日もあればまた合神可能だよ」
「そう……ですか…」

 シャーリーは突然下の方を見て俯く。シャーリーの視線にはGドリラーの片割れがあった。それはティアナの乗っていたものだ。
 ティアナはあの戦いの後行方不明となってしまったのだ。

「ティアナ、無事だといいけど……」
「大丈夫だよ。あの子結構頑丈でしょ」
「そうですけど……」

 そんな重苦しいシャーリーにマリーは肉まんをシャーリーの口に押し付けた。

「………、もうマリーさん!」

 シャーリーが息切れを起こしかけたようにマリーに怒る。

「ごめんごめん、でも泣かないでよシャーリー。私ね、グラヴィオンの修理が終わるまでは泣かないって決めたの。
泣いたらつらい気持ちも紛れるけど、でもそれでつらい気持ちから逃げたくないって考えてるの…。
だから私は今出来る事を精一杯して戦って戦いきろうと思うの。そういうつらい気持ち全部背負ってね…」
「そうですね、だったら私も泣きません!」
「よーし、そうなったら今夜も徹夜だ!」
「私も手伝わせていただきます!」

 マリーとシャーリーは気合を入れてグランディーヴァの修理に力を注ぐ。


「質問してるのはこっちよ!」

 地上本部の医療室では、地上部隊に拾われたティアナが怒りながらウーノに問いかけていた。

「なのはさんは? グランカイザーはどうしたの? フェイトさんのドリラーは!? スバルは無事なの!?」

 ウーノが呆れたかのように答える。

「何度言わせればいいのですか? あなたは一応怪我人です。おとなしくしてもらわないと困ります」
「助けてもらったのは感謝してるわ。でもだからっていくら地上本部でもあたしを拘束してもいい訳じゃないでしょ。機動六課は本局所属なんだから……」
「……、そうね。ですがあなたのリンカーコアにあるG因子の計測が終われば……」

 全部を言う前にウーノはうっかり口を洩らした事に気付く。ウーノにとっては珍しいミスだった。
 ウーノがみなまで言う前にティアナが怒る。

「やっぱり…、あたしの意識が無い事に変な事したのね!」
「落ち着いてください…」
「落ち着けないわ!」

 ティアナが興奮して暴れようとするのをウーノが力づくで止める。戦闘が得意ではないとは言えウーノも戦闘機人の端くれ。一般人よりは力はある。
 その様子をモニターで見ていたヴィータが心で思う。

(全然ダメだな。感情を表に出しすぎてる。そう言うが仲間はいけないと思うぞなのは)

 なのはの事を思い出しながら、ヴェロッサの事がふと頭によぎる。

(何であたしじゃないんだ。ヴェロッサ……)


「皆ごめん!」

 スバルは街に出た後、何とか休暇中のノーヴェ達を捕まえて、なのは捜索を手伝ってもらおうとしていた。

「水臭いぞ、スバル」
「そうそう、なのはさんはもうあたし達の友達なんっスから!」
「セイン、ウェンディ、ありがとう」
「おいおい、スバル」
「あたし達に例は無いのか?」
「チンクさんもノーヴェもありがとう。それじゃあ早速だけど……」

 スバルがなのは捜索網を考えようとした時、ニュースが流れ、そのニュースの内容はレジアス中将が正式にグラントルーパーの発表をしたことであった。
 その様子をどこかの飯屋で見ていたヴァイスがご飯を食べながら喋る。

「ふ、言ってくれるねーーー」

 テレビを見てご飯を食べるヴァイスの心はこう思っていた。

(グラヴィオン早く戻ってこい。俺はお前の存在に心奪われた男なんだからな)

 そんな時、ヴァイスのデバイス「ストームレイダー」に緊急通信が入る。

「この通信、ゼラバイアか!」

 ヴァイスは急いでご飯を食べ終え、ヴィータ達と合流しグラントルーパーに乗りゼラバイアのいる場所に向かった。


 ゼラバイアが来た事は当然、聖王教会でも感知されていた。

「なのははまだ発見できんのか? ロッサは?」

 クロノがシャーリー達に尋ねる。

「それが何度も呼んでるのですが、全然応答ありません」

 それもそのはず、ヴェロッサは窓のふちで黄昏ているのだから……。
 その間にゼラバイアは付近にいた船と衝突した。その船にはレジアスが乗っていた。

「どうした?」
「レジアス中将の乗っていた船が……」
「電波障害が激しくて状況はわかりません」
「状況がわかり次第連絡を入れてくれ」

 そう言うとクロノは司令室を後にした。

 レジアスの乗っていた船はと言うと実は無事であった。何故かと言うとグラントルーパーが作り出したエルゴフィールドにゼラバイアが封じらていたのだ。
 その様子はテレビ中継を介して伝えられていた。

「すごいね……」
「これがドゥーエのもたらした事か……」

 セインとチンクもその様子をただすごいとしか思えなかった。

「何とか間に合ったね」
「さてとそれでは……」
「うむ、グラントルーパー隊攻撃開始せよ!」

 レジアスの命令により、ヴィータを中心にゼラバイアに対する攻撃が開始された。
 そして国民に向かって、レジアスは演説をする。

「今ゼラバイアに対して新たな守護天使が戦っている。先の戦いで破れたグラヴィオンの魂はあれらに宿っている!」
「勝手な事言う人っスね」
「あたしはこういうお偉いさんは嫌いだな」

 ノーヴェはああ言う自分が何もしないのに偉そうな態度をとる人間をあまり好まない。それはスバルやウェンディ、他の面々も同じ。

「あたしも……。それじゃあ、なのはさんの事わかったら連絡してね」
『はいはい(っス)』

 スバルはバイクに乗ってノーヴェ達と別れてなのは探しを続行する。


 海上ではゼラバイアが4つにも分離して、グラントルーパーに攻撃をしていた。

「グラヴィトン、ミサイル!」

 グリフィスが乗るグラントルーパーからミサイルが発射され、けいせいをかける。
 ミサイルの爆風からゼラバイアはエネルギー波で攻撃するが、ヴィータの機体は簡単に避ける。 

「甘いぜ! グラヴィティ、ラーーーーーーーーング!!」

 ヴィータの機体は両肩に付いてる突起物を一つにして、それをブーメランのように投げ、ゼラバイアの一つを倒す。

「さてと隊長に負けずに俺も行きますか!」

 ヴァイスの乗るグラントルーパーが分離したうちの片割れのゼラバイアに向かって急接近を駆けた!
 ゼラバイアはそれを撃退せんとエネルギー波を出すが、ヴァイスの機体はものすごいスピードだったのにも関わらず、それを避けた。

「あえて言わせてもらおう! ヴァイス・グランセニックであると!!」


 その頃クロノはヴェロッサの事を心配に思い、ヴェロッサを捜しに行ったところ自室の窓に座り込んで黄昏ているヴェロッサを見つけた。

「ロッサ」

 少しの間をおいてヴェロッサはようやく口を開く。

「怖いんだ。カリムが僕を殺しにきたんだ」
「ヴェロッサ、しっかりしろ!」

 ヴェロッサの少し意味のわからない言葉にクロノは怒り交じりの激励を言うが、ヴェロッサの態度は変わらない。

「エルゴフィールドを発生させる時、ほんの一瞬だけど隙が生じる。グランカイザーの弱点を知ってるのは僕とカリム義姉さん…。あの人がまさか生きていたなんて……
もうおしまいだ。ふふ、何もかもおしまいだ!」

 ヴェロッサにとってカリムは自分の立ち塞がる壁であった。カリムはほとんどの面においてヴェロッサを上回っていた。知能や技術も……。
 それゆえにヴェロッサはカリムを尊敬さえしていた。自分が自慢できる姉としてだ。
 しかしその自慢の姉であると同時に壁であるカリムが生きて敵となった以上、ヴェロッサには恐怖しかなかった。
 その恐怖に怯えるヴェロッサはクロノにしがみつき、まるで命乞いをするかのようにクロノにすがりつきながら言う。

「過去の過ちを償えず、闇に閉ざされた未来に怯える意気地のない男。自分の美学を真実だと思い違った道化。愚かな男だな僕は…」

 そんなヴェロッサに対し、クロノは自身の仮面を外す。

「今更逃げ出すつもりなんですか?」

 クロノの仮面を外した顔にヴェロッサは驚きの顔を見せた。
 ヴェロッサの前にいたのはクロノの格好をしているがクロノではない。
 目の前にいたのは先ほどのクロノとは違い、髪が紫にかかって長く、女の人、そう、スバルとノーヴェの姉、ギンガであった!

「私はそんなあなたの為にこの仮面を受け継いだわけじゃないわ。答えてください。一体あなたは何のために戦ってきたのですか!?」
「それはミッドチルダを、君達が住むこの世界を僕のいた世界と同じようにさせないために…」

 ギンガは伏せこんでいるヴェロッサの襟元をひっぱり無理矢理ヴェロッサを立たせ、そしておもいっきりヴェロッサに平手打ちをぶちかました!
 その強い平手打ちにヴェロッサは倒れた。

「ミッドチルダのため、私たちのため、確かにそうよね。でもそれだけじゃないですよね。この戦いはあなたが始めて、あなた自身が決着をつけなきゃいけない戦いのはずです」
「僕自身の戦い……」

 ギンガはクロノの服を脱ぎ捨てる。その服の下にはスバルのバリアジャケットによく似たバリアジャケットが装着されていた。

「あなたはそこにいていいわ。私は私のしたい事をする」

 ギンガはそう言って部屋を出て行った。


 その頃戦闘エリアではグラントルーパー部隊の活躍により、分離されたゼラバイアは残り一体となっていた。

「ふ、隊長やオットー達だけじゃなくてグリフィスまでやったんだ。俺は最後の大ボスで締めてやるか!」

 ヴァイスの機体は残りのゼラバイアの方へと飛んでいく。そしてゼラバイアはヴァイス機を撃ち落そうと先ほどまでのゼラバイア達とはエネルギー量の違う、
 エネルギー波をヴァイス機に向かって撃つが、ヴァイス機はそれを巧みに上にかわし、かわしただけでなく飛行形態から人型へと変形までやってみせた。

「人呼んで、ヴァイススペシャル!! そしてトドメだ! グラヴィトンビーーーーーム!!」

 人型に変形したのと同時に持っている銃をゼラバイアに向けて発射するも、出てきたビームは点線みたいなものでゼラバイアも避けようとせず、当たるのだがダメージが全然見当たらなかった。

「おのれーーーー! よくも俺の顔に泥を塗らせてくれたな! ゼラバイア!!」

 自分の機体のせいなのに敵のせいにするヴァイスであった。


 ギンガはヴェロッサの部屋を出て向かった先はグランカイザーの格納庫。
 そうギンガはいないなのはやスバルの変わりに自分がグランカイザーに乗り込もうとしていたのだ。

(いくらG因子が少ないからって、スバルが出来たんだ。私だって……)

 ギンガはスバルとノーヴェに母が使っていた戦術シューティングアーツを教えた師匠である。弟子が出来て師匠が出来ないはずはないとギンガは思う。
 しかし実はギンガはスバルやティアナ達と違ってG因子が足りないのである。それでもギンガは行こうと考え乗り込もうとすると…。

「すまなかった」

 ギンガは後ろからする声の方を向く。そこには乱れた服装を整え、前の白のリクルートスーツと違って白のタキシードを来たヴェロッサの姿があった。

「僕の前にどんな運命が立ち塞がろうとも、僕はそこから目を背けたらいけなかったんだね。さあ戻ろう! 僕達の戦場へ!!」

 ギンガはクロノの仮面を付け、先ほどまでのクロノの服を着る。そしてそこにはギンガの姿は無くクロノがいた。クロノは司令室へと帰ってきた。

「クロノさん、ヴェロッサさんは……」
「待たせたね!」

 すると突然クロノの方を向いていたオペレーター3人の後ろから派手な演出で口にバラを咥えたヴェロッサが現れた。

「とう!」

 ヴェロッサが高く飛び上がり、口にたずさわえたバラをシャーリー達の前に投げ、自身は指令官の場所へと着地した。

「皆に心配をかけたね。許してくれないか?」
「いえいえ」
「それより…」
『お帰りなさい!』
(そんな事してる場合じゃないでしょ)

 ヴェロッサとシャーリー達のやり取りに内心クロノはそう思ったが、すぐに状況を聞く。

「今の状況はどうなっている?」
「はい今は……」

 シャーリー達が状況を説明しようとすると、グラントルーパーが密集して残りのゼラバイアを破壊しようとしている映像が流れる。

「いけない! あれを破壊したら!」

 ヴェロッサの警告はグラントルーパー隊には届かない。グラントルーパー5体をあわせた必殺技「ライトニングデトネイター」が残りのゼラバイアを倒した。
 しかしそれと同時に光が空高く飛んで行き、散布されていく。

「あの光、カリム、とうとうあれをこの世界に使うんだね…」


 その倒した映像と共にレジアスが演説をするのをどこかの部屋で酒を飲んでいたドゥーエは持っていたグラスをTVに向けて投げつけた。

「あの狸め!」

 ドゥーエはポケットに手をやり、遊園地で撮った自分とグランナイツの皆が映っている写真を眺める。

(何考えてるのかしら、私……)


 ヴェロッサは司令室を出て、外を眺めながら考える。

「今こそ必要なのかもしれない。この暗雲を祓う太陽の輝きが……」


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最終更新:2008年10月13日 21:45