なのははふらふらと街を歩く。どこにも行く当てはない。ただふらふらしているだけであった。
 ふらふら歩いてるなのはは無意識のうちに前にいた人とぶつかる。

「あ、ごめんなさい!」

 なのはが少し後ろに下がって謝る。するとぶつかった人はこう言った。

「いいんだよ」

 なのははその声に聞き覚えがあった。下げていた頭を上げ、そのぶつかった人の顔を見るとそれは懐かしい顔であった。
 ぶつかった人は少女だった。その顔、その赤い髪、少女の着ているドクロがプリントされている服、短いスカートと黒のニーソ。なのはは知っている。

「ヴィータちゃん?」
「久しぶりだな、なのは」



 第16話 紅のキバ



 ドゥーエは潜入をしていた。それは地上本部に対してであった。これは任務ではなく私情だ。

(とりあえず、どこかしらね…)
「あら、ドゥーエお姉さまじゃない」

 ドゥーエは突然後ろから声をかけられる。その声の主は自分と同じスカリエッティの戦闘機人ナンバー4のクアットロであった。
 クアットロは自分が手塩にかけた戦闘機人でもっともドゥーエを敬愛している。

「バカンスに行ってるとばかり思ってましたけど、こんなところで何をしてるのですか?」
「実はね……」


 同時刻、聖王教会指令室では先日の戦闘での経過を確認していた。

「先日グラントルーパーが倒したゼラバイアの消滅地点を中心に重力異常地帯が拡大中」
「やはりあれは重力子撹乱物質のようだな、ロッサ」
「うん、そうだね」

 クロノが隣に座るヴェロッサに聞き、ヴェロッサもうなづく。

「重力子撹乱?」

 アルトが少し聞き覚えの無い言葉を聞き、ルキノが教えた。

「重力エネルギーを媒介させるのが重力子、それを撹乱する物質の事」
「さすがルキノ、よくわかってるね」
「あれが蒔かれてる地域はとても空間が不安定なの」

 その不安定な空間にヴェロッサの嫌な予感はますます嫌になってきていた。

(スバル、急いでくれ)

 なのは発見をスバルに託すヴェロッサ。
 スバルはなのはをノーヴェ達と探すがなかなか見つからずにいたが、謎の通信が入りスバルはその通信を信じて行ってみることにした。


 なのははヴィータにある場所につれてこられた。その場所はかつてなのはとヴィータが遊んでいた海鳴公園によく似ている公園であった。

「ここって……」
「似てるだろ? 海鳴公園に…。あそこでよく遊んだよな」

 ヴィータが昔を思い出したようにふける。よくなのはとヴィータはヴィータの趣味のゲートボールをして遊んだりしていた。
 それにはアリサやすずかも一緒になって遊んだりもしていた。

「あたしと会って、1年くらいだったよな。ヴェロッサが来たのは……」

 ヴィータはヴェロッサが来た時の事を思い出す。ヴェロッサが来たのはなのはとヴィータがあって1年、なのはがちょうどユーノと魔法に会って1年が経った時だ。
 ヴェロッサを海鳴市で見てからちょくちょくなのはとヴィータが遊んでいる様子を見ていたが、ヴェロッサの姿を見なくなったのと同時になのはの姿も見なくなった。

「あの時は何があったのかわからなかった。お前があいつに誘拐されたのかと思った」
「それは……」

 なのはは当時、魔法の事を言うに言えなかったのだ。魔法の事を家族や友人に言えたのはヴェロッサに連れられる時に初めて言えたのだ。
 その時なのははヴィータにも伝えようとしたが、都合が悪くヴィータがたまたまいないときであり、時間が無いとの事でヴィータに告げれないまま別れてしまった。

「あたしもお前がいなくなってしばらくして魔法の事を知ったよ。お前がヴェロッサに連れられたのはお前のリンカーコアの中にG因子があるからって事も後で知った。でもそれはあたしも同じだ」
「?」
「あたしも数少ないリンカーコアにG因子を持つ存在だ。でもヴェロッサはお前を選んだ。それはお前の潜在能力を期待したんだと思ったんだが違ったな」
「え?」
「お前はゼラバイアに負けた」

 その言葉になのはは驚愕を思い出す。

「Gドリラーのパイロットの一人は死んで、もう一人は行方不明。二人を失ったのはお前の責任だ、なのは…」
「やめて…」

 そしてヴィータはもう少し酷いことを言う。

「挙句の果てにお前は責任放棄。これじゃあいなくなったあいつらが浮かばねえぞ」
「やめてよ!」

 なのはの目には涙が現れていた。

「わかってるよ! そんな事わかってるけど…」
「なのは、あたしと一緒に来い。あたしならお前といいコンビも組めるだろうし、お前ならグラントルーパーを使いこなせるはずだ。ただお前は戦えばいいんだ」

 ヴィータの誘いになのはは乗ってしまいそうになる。その時!

「待ってください! なのはさん!」

 スバルがなのは達の前に現れたのだ。

「お前はスバル・ナカジマ……」


 その頃ティアナは閉じ込められているような気分で病室にいた。

「早くここから出ないと……」

 その時誰かが部屋のドアのロックを解除して入ってくるの感知して急いでベッドに戻る。
 そしてドアが開くとそこには三つ編みでメガネをかけた女性が入ってきた。クアットロである。

「あら、ちゃんといたのね。いましたわよ、ドゥーエお姉さま」
(ドゥーエ?)

 ティアナがドゥーエの名前を聞いて薄らと目を開ける。その目の先にはクアットロとドゥーエが映っていた。

「ドゥーエ!」

 ティアナは驚いた。まさか裏切ったはずのドゥーエが自分の前に現れたのだから…。

「しらばくね、ティアナ」
「ドゥーエはわかるけど、そちらさんは?」
「あら、私はドゥーエお姉さまの妹のクアットロですわ」

 クアットロは少し嫌味混じりなようにティアナ自分を紹介した。何故クアットロがドゥーエと一緒にいるのかというとドゥーエの話を聞いて面白そうだと思ってやっただけの事だそうだ。


 戻って公園ではなのはがスバルに話していた。

「もう私は忘れたいんだ。グラヴィオンの事、教会の事、皆の事も……」
「なのはさん」
「私は人間じゃなくていい。スバルに言われたように悪魔でいいの!」

 なのはの目から涙が溢れ出す。

「もう何も感じたくない。何も考えずに敵を倒す機械のようでいい」
「おい、いくぞ」

 ヴィータがなのはの手を引っ張ってなのはを連れて行こうとすると、スバルがヴィータが握っているなのはの手を持つ。
 スバルの手にはフェイトがしていた黒いリボンがあった。そしてスバルは怒り交じりに言う。

「ふざけないで下さい、なのはさん」
「スバル…」
「フェイトさんの事も忘れる気ですか? これを見ても何も感じないのですか!?」
「もうやめて!」
「フェイトさんも可哀相な人ですね。こんな人の為に無駄死にしたんだから!」

 なのはは思わずスバルに思いっきり平手打ちをかました!

「なのはさん…、やりましたね!」

 スバルも平手打ちで返す。そしてなのはとスバルは次第に拳で殴りあうケンカを始めた。

「お前ら、なのはやめろ!」

 ヴィータが止めようとするも二人はやめない。

「あなた一人で戦って様な顔をしないで下さい。フェイトさんが死んで悲しいのはあなた一人じゃないんですよ」
「黙ってよ。フェイトちゃんは子供の頃から一緒だったんだよ」
「面倒ばかり起こして、心配かけるのもいい加減にしてください!」
「誰も心配してくれなんて言ってないよ!」
「本当に迷惑をかけたと思ってるんなら、リインのそばにいてくださいよ!」
「リインの……」

 なのはの手が止む。ヴィータがなのはの元に駆け寄る。

「なのは!」

 その時、グラーフアイゼンから緊急通信が入った。

「「「ゼラバイア!!」」」

 そうゼラバイアが先日の戦闘で発生した不安定なフィールドから現れたのだ。
 そのゼラバイアは最初に現れたのとそんなに変わらない姿だが、違う所があった。それは体を展開させて、左右に自分の体の真ん中を開けたのだ。

「ゼラバイア、地上400メートル付近で静止」
「変形のためか、ゼラバイアを中心とした半径500メートルに空間の歪みが確認されます」

 聖王教会で動きをキャッチし、クロノは手をアゴに添えて考えるもヴェロッサはすぐに答えを出す。

「歪み、やはり……」

 そしてゼラバイアの展開させた穴はゲート状になり、歪みのゲートから数ヶ月前に倒したゼラバイア達が大量に現れたのだ。

「デストロイヤークラスのゼラバイアを中心に転送空間が発生! 次々にウォリアークラスのゼラバイアが送り込まれていきます」
(カリム義姉さん……)


 次元航行空間に浮いている謎の物体にいるカリムはその様子を見ていた。

「美しい、美しいわ、私のゼラバイア。抗ってみなさいロッサ。あなたで脆弱でちっぽけな力を…。見せてみなさいあなたが信じる人の可能性と言うものを……」


「そう言えば、何でスバルはここに?」

 スバルの運転するバイクの後ろに乗るなのはがスバルに尋ねる。

「ドゥーエさんから連絡がありまして…、ドゥーエさん、なのはさんの事を調べてたみたいで……。前にいた場所によく似た場所に行くんじゃないかって…」
「ドゥーエが……」
「なのはさんにも思い出の場所ってあるんですね。安心しましたよ。さてと飛ばしますよ! ティアとドゥーエさんが待ってます!」
「うん!」

 スバルのバイクはさらに速さを増す。ティアナとドゥーエの元へ走る!

(チンクさん、ドゥーエさんはチンクさんの言ってたとおり冷たい人じゃなかったです。ちゃんと仲間の事を気遣う人なんですね)


「ところで何でここが?」

 廊下を走るティアナがドゥーエとクアットロに聞く。

「この子のおかげよ」
「私の能力があればこれくらい簡単なものですわ」

 クアットロはウーノよりは劣るものの、情報処理能力はかなりの腕前を持っている。
 三人が廊下を走る中、レジアスを発見し、レジアスの護衛の二人を簡単に倒し、ドゥーエは自身の武装の鉤爪「ピアッシングネイル」をレジアスに向ける。

「中将、一緒に来てもらおうかしら」
「お前は……」

 そしてドゥーエはレジアスを連行し、クアットロ、ティアナと共に飛行艇を奪い、バイクのスバルとなのはと何とか合流した。

「君達がこんなマネをするとは思わなかったよ」
「私はドゥーエお姉さまについてきただけですわ」
「優雅な暮らしは退屈だったのよ」
「ヴェロッサ・アコースの正体は君も知ってるはず。それでも戻ろうと言うのか?」
「あいつは本気で人類を守ろうとしている。私はそれを見届けようとしたい。それにその思いはレジアス中将あなたと同じよ」
「うーむ」


 その頃、ゼラバイアのいるエリアでは避難が完了し、グラントルーパー隊が戦っているものの敵の数は多い。
 その様子をなのは達はモニターで見ていた。

「ヴィータちゃん…」
「さすがにまずい状況みたいですわね」
「早く教会に戻ってグラヴィオンで戦わなくちゃ…」
「グランディーヴァは大丈夫なの?」
「マリーさん達が直してくれてる」
「なのは、戦える?」

 ドゥーエがなのはに聞く。なのはの目には戦う闘志が戻っていた。

「大丈夫、いけるよ」

 スバル達は教会の司令室に通信を入れる。

「こちら、スバル」

 スバル達が司令室のモニターに映る。

「スバル、なのはさん!」
「ティアナとドゥーエさんもいるんですね」
「発進するんで、準備お願いします」

 クロノがスバルのいつもの元気となのは達の帰還に薄らと笑みがこぼれる。

「ロッサ? どこに…」

 ヴェロッサが司令室から出て行くのを見て、クロノが呼び止める。

「僕も、自分の責任を果たさないといけない」

 ヴェロッサは後ろを向きながらそう言い、指令室を後にした。


 その一方グラントルーパー隊がよく戦うも敵の数の多さにまいってしまい、エネルギー残量は残りわずかであった。

「くそ、エネルギー量が…」
「どうするオットー?」
「このまま逃げても同じなら戦うしかない」
「そうだ、グラヴィオンは必ず来る。それまで持ちこたえろ」

 ヴァイスが三人を励ます。

「ヴィータ、戻りなさい」
「嫌だね! あたしは負けないぞ! ヴェロッサにも、なのはにも!」


 その頃教会に戻ったなのははグランカイザーに乗り込み、他の皆もグランディーヴァに乗る。Gシャドウには意識がまだ完全に戻っていないリインを乗せて…。

「え、リイン!?」
「なのは、何でリインを乗せた!?」

 リインの姿を見たクロノがなのはに怒る。するとヴェロッサから通信が入る。

「行かせてやってくれ、クロノ君」
「ロッサ…」
「なのは、リインを頼む」
「うん」

 そしてゴッドグラヴィオンはグランフォートレスに乗り、飛んでいく。


 戦場ではもはやグラントルーパーは限界に来ていた。

「数が多すぎる……」

 珍しくヴィータが弱音を吐く。そしてヴィータがやられそうになった時、閃光が走った。

「おお、グラヴィオンか!」

 ヴァイスが叫ぶ。それはグランフォートレスが行った攻撃だが、その上にはグラヴィオンがいた。

「まずはあのゲートのゼラバイアを倒すけど、空間ごと切断しないとダメね」
「だったら超重剣で……」
「ダメだ! 超重剣はグランナイツ6人が揃わないと本来の力は発揮できない!」

 クロノの言う事実に皆驚く。

「嘘!?」

 超重剣が使えない今戦況はものすごくグラヴィオン側の不利。それでもグラヴィオンは敵に突っ込んでいくも、グランフォートレスは落とされ、グラヴィオンも敵に挟まれてしまう。

「グラヴィオンの合体機構に異常発生!」
「重力子安定指数20%にダウン」

 グラヴィオンはゼラバイアの強力なはさみ攻撃にボロボロになっていく。

「何と!? 堪忍袋の緒が切れた! 許さんぞ、ゼラバイア!」

 グラヴィオンを助けようとヴァイス機がグラヴィオンを挟むゼラバイアに向かって特攻をかける。
 しかしその特攻も虚しく周りのゼラバイアに邪魔されてしまい、墜落する。

「くそーーーーー!」

 ヴェロッサはこの事態を重く見、自分の持つ杖を振り回し、上に向けて叫ぶ!

「炎皇、召来!!」

 杖の先から光が飛んで行く! そして戦場に光の矢が飛んで来、次々にゼラバイアが倒されいく。
 その光はグラヴィオンを捕まえていたゼラバイアを倒し、グラヴィオンは何とか解放された。

「な、何?」
「今のは?」

 皆が驚きを隠せない。すると次は空から光の球が姿を現す。

「輝け、新しい太陽よ。この大地を美しく照らし出してくれ」

 その光の中には別のグラヴィオンの姿があった。


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最終更新:2008年10月17日 18:15