――歪みのユグドラシルの頂上、其処に一人の魔導師が存在した――

 ――その魔導師は神の力を得て、自分の欲望の儘にその力を振るった――

 ――だが…どんなに強大な力でも“愛しき者”を手にする事は出来なかった――

 「神とは…思い描いてたほど万能ではなかった…」

 ――魔導師は“愛しき者”への思いと共に光の粒子となって消滅した――


         リリカルプロファイル
          第一話 接触


 とある次元世界の森の中、二人の女性が計器を頼りに何かを詮索していた。
 一人は霞かがった金髪の女性、もう一人は紫のショートヘアの女性である。

 「反応だと、この辺りなんだけど…」
 「あれではないのか?」

 紫の髪の女性が森の中を指し、その方向には青を基調とした服に、黒いマントを羽織った眼鏡の青年がうつ伏せで倒れていて、
 金髪の女性はその青年を見るや否や、誰かと連絡を取る素振りを見せ始めた。

 「ドクターは何と言っている、ドゥーエ姉さん?」

 ドゥーエと呼ばれた女性によると、ドクターと呼ばれる者は倒れている青年に興味があるらしく、
 自分達のアジトに連れてきて欲しいとの事だった。

 「という訳で頼んだわよトーレ」
 「えっ私がか!?」
 「当たり前でしょう、アナタは戦闘型なのだから」

 ドゥーエに指で鼻をつつかれた紫の髪の女性トーレは、
 渋々と、そして軽々と青年を担ぎ上げ、二人はその場を後にした。



 ――暗い闇…青年は考えていた…


 何故“愛しき者”は振り向いてくれないのか…


 “愛しき者”に釣り合う程の力も得たというのに…


 そして青年は考えた…“愛しき者”が自分の物にならないというのなら…


 自分を愛する“愛しき者”を創ればいいのだと――



 「むぅ…此処は一体……」

 青年は目を覚まし起き上がる。そこは白いカーテンで周りを囲ったベッドの上で、
 カーテンを開けると周りには似たようなベッドが並んでおり、青年は此処が医療室だと理解した。

 …自分は確か魂を消滅されたハズ、青年はそう考え始めていたその時、不意に扉が開く音が聞こえ、
 青年は思わず音の方向へと目を向ける。

 「やっと起きたか」

 青年が目を向けた先には、紫の髪の女性トーレが部屋に足を運び入れていて、
 彼が目を覚ました事を確認すると、誰かに連絡を取る様子を見せた。

 「…ドクターがお前に会いたいと仰っている。付いて来い」

 そう青年に告げるとトーレは部屋を出て行く。青年は一人この場に残されたが、
 このまま此処にいても仕方がないと考え、ベッドから降りトーレの後を追う事にした。

 暗く長い通路を進んだ先、明るく広い部屋に通され、その部屋は至る所に標本などが並んでいた。
 どうやら研究室の様子で、その部屋の中心部に二人の人物が立ち並んで作業をしている。
 一人は白衣を着た紫の髪の男性、もう一人は紫のロングヘアーの女性で、男性の影のように立っていた。

 「ドクター、例の人物を連れて参りました」
 「あぁ、ありがとうトーレ、下がっていいよ」

 トーレは白衣の男に一礼をすると、そのまま来た道を帰って行く。
 そして白衣の男性は振り向き青年に声をかけた。

 「やぁ、目覚めはどうだい?」
 「…ベッドが悪質だったおかげで、良い目覚めでしたよ」

 青年は皮肉が混じった返事を交わす。しかし白衣の男は「それは良かった」と皮肉で返し、
 そんなやりとりの中、青年は白衣の男に質問を投げかける。

 「いくつか質問をしてもよろしいですか?」
 「構わないよ」
 「此処はどこです?」
 「私のラボだよ」
 「どうして此処に?」
 「君が森の中で倒れていたからだよ、三日も前の事だが」

 森の中?私は確かユグドラシルの頂上にいたはず…
 まさか…魂が消滅される際に、ここに転移されたのか?

 顎に手を当て考え込む青年に、今度は白衣の男が質問を投げかけた。

 「此方も質問をしても良いかい?」
 「……どうぞ」
 「率直に聞こう、君は一体何者なのだね?」
 「……質問の意味が分かりかねますが」
 「失礼ながら君が眠っている間、君の体を調べさせてもらったよ。安心したまえ何もしてないよ
  いや…“何も出来なかった”…と言った方が正しいかな」

 白衣の男によると、青年の体内にあるリンカーコアの魔力が圧倒的に高いと告げられた。
 リンカーコアと言うのは魔法を使うために必要な魔力を生み出す、器官のような物らしい。

 「だがそれだけではない!君の体には更に圧倒的な力が眠っている。
  私はその力を調べようとしたが、君の体は見たことのない術式で封印されていた。
  いや…むしろその術式でその力を制御していると言った方がいいだろう」

 青年は少し驚いた。白衣の男にとって自分の力は未知の力の筈、
 なのに内に秘めた力を其処まで分析されるとは思っても見なかったからだ。
 そして、それと同時に彼の能力と好奇心を高く評価した。

 「一体その力は何なのだね?」
 「まぁ…愚神の力とでも言っておきましょう」

 愚神?それは何かと訪ねてみたものの、青年にうまくはぐらかされてしまい、
 白衣の男は一つ咳をして気を取り直し、本来の目的である青年との交渉を始める。

 交渉の内容とは自分が立てている計画に青年の力を貸して欲しいという事。
 そして、力を借りる代わりに青年の要求をなんでも呑むというものだった。

 …青年は少し考えさせて欲しいと背を向け考え始める。
 交渉の内容は青年に有利な物なのだが、青年は利用する事は好むも、利用されるのは好まない。

 だが、此処で意固地になったところで状況が変わる訳ではない、
 今自分がいるこの世界は明らかに自分がいた世界とは異なるのは
 白衣の男の口振りから明白、ならばこの世界の事を知る為にも手を組む事は吝かではない
 それより何より、青年は男の考えている計画に興味を抱いていた。

 「まぁいいでしょう、せっかくのお誘いです。協力しましょう」
 「では交渉成立と言うことだね、私の名はジェイル・スカリエッティ……君の名前は?」

 白衣の男は名を名乗り、右手を差し出す。

 「……私の名はレザード、レザード・ヴァレスです」

 レザードは不敵な笑みを浮かべながらスカリエッティの手を取った。



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最終更新:2011年06月05日 12:56