次元空間航行艦船アースラ、食堂―――08:02 p.m.
一同は現在、一つのテーブルを囲うように座っていた。
メンバーは五代雄介と、彼をここへ連れて来たなのは、フェイト、はやて、シャマル。
それから、そこにアースラの艦長であるリンディ・ハラオウンを追加した6名だ。
五代以外の全員は配られた名刺に目を通しながら、各々の反応を見せる。
五代はそんな一同の表情を眺めながら、にこやかに微笑むのみ。
そんな中、リンディとなのはが、そこに書かれていた文字を読み上げた。

「夢を追う男……」
「2000の技を、持つ男……?」
「はい。俺、五代雄介っていいます。改めてよろしくお願いします!」

それに続いて、五代が笑顔で自己紹介をする。
なのは達に配られた名刺に書かれていたのは、五代雄介という名前。
それから、「夢を追う男」や「2000の技を持つ男」という一文。
ここに来るまでで簡単な自己紹介は済ませているのだが、一応改めて名刺を渡し、自己紹介をし直したらしい。
生活に必要なものではないため、ここに来るまででこの名刺を所持品に含めて考えてはいなかったが、
コートの内ポケットをよく探ると、そこにはいつも携帯していた名刺ケースが入っていたのだ。
それ故に、やはり自己紹介においてこの名刺は欠かせないだろうと、五代は早速一同にこの名刺を渡したのである。


EPISODE.04 時空


さて、何故ここに五代がいるのかというと、それは至って簡単な事。
ゴウラムを追って東京まで来たなのは達は、偶然か必然か、五代雄介という一人の青年と出会った。
五代は魔法というものを全く知らないのだろう。しかし実際、五代はなのはの目の前で異世界のロストロギアと思しき
未確認飛行体を合体させたバイクに跨っていた。勿論そんな五代を放っておく訳にも行かず、なのは達は自分たちの素性と、
魔法という技術についての簡単な説明をし、任意でアースラまで同行してもらったのだ。
案外五代は快く自己紹介を受け入れ、魔法という言葉にも割とすんなり馴染んでくれた。
お陰でややこしい展開にはならなかった事だけはせめてもの救いである。
といっても、アースラに転移した時など、五代も頭では解っていながら驚かずにはいられない事が山ほどあったが。

「いやぁ~、それにしてもびっくりしましたよ。魔法なんてものがほんとにあったなんて!」
「五代さんはすぐに信じられたんですか? 魔法なんて普通はもっと驚くと思うんですけど……」
「ん~……まぁ、確かに全然驚いてないって言ったら嘘になっちゃうけど、信じるよ」

そして、現在に至る訳である。五代はなのはに苦笑いを浮かべながら言った。
なのは自身も、魔法というものを初めて知った時はもっと驚いていたというのに、五代はそれをすぐに受け入れた。
そこにほんの少しだけ意外そうな表情を浮かべながら、なのはもそうですか、と五代に小さな笑みで返した。

「……ところで、五代さんが今まで居た世界……西暦2001年について、もう一度よく聞かせて貰えますか?」

と、リンディは五代に再び話を聞くために話題を切り出した。
五代の話を纏めると、五代は2001年という過去の世界から、三年後である現在――つまり2004年へとタイムスリップしたのだという。
しかしリンディ達にとって、次元世界や並行世界という概念はあっても、タイムスリップなんて聞いた事もない。
それ故に五代が居た2001年についてもっと詳しく聞き出そうと考えたのだ。
その質問に対し五代が話した内容は、それこそ特撮やアニメの世界でしか考えられないような、突拍子もない話であった。
簡単にその全容を纏めると、2000年1月に突如現れた「未確認生命体」は、平和に暮らす人々を殺す殺人ゲームを繰り広げていたという。
人々は恐怖のどん底に叩き落されたが、そんな時現れた「クウガ」という一人の戦士が、人々を守るために戦った。
そしてクウガと警察の連携により、未確認事件は一年という長い戦いの末に、最後の敵である「0号」の撃破をもって終了した、とのこと。

「――俄かには信じがたい話だけど……あの“ゴウラム”を見る限り、嘘では無さそうね……」
「はい、嘘じゃないですよ。未確認生命体4号って知ってるでしょ?」

五代はきょとんとした表情でリンディに問いかける。
が、リンディは浮かない表情を浮かべ、五代を見つめるのみ。
そんなさも当然そうな表情で聞かれても、リンディにとって未確認生命体などという言葉は聞いた事もない。
一時的な措置としてアースラの格納庫に保管されているゴウラムとBTCSと呼ばれるマシンを見る限り、
明らかにこの世界の技術では無い。それ故に五代の話が丸っきり嘘だとも考えにくいが。
そうしていると、先ほどまで黙って五代の話を聞いていた一人――八神はやてが、口を開いた。

「あの、五代さん。私たちは未確認生命体なんて今初めて聞いたんですけど……」
「……え?」
「多分、私たちの居る世界……この2004年と、五代さんが居た2001年は、別の世界やないかと思います」
「えぇ……!? 別の世界って、どういうこと!?」

流石に今回ばかりは驚いたのか、五代は驚愕の表情を浮かべ、言った。
それに対する答えは、至って簡単。リンディは五代を落ち着かせるように宥めながら、それを説明した。
この世界とは別々に存在する無数の次元世界のうち、恐らく現在のこの世界と限りなく似た管理外世界が何処かにあるのだろうというもの。
五代はその世界の住人で、未確認生命体と呼ばれる怪人達はその世界のみの生き物なのではないかと。
そこまで説明したところで、五代はようやく納得したのか、「なるほど」と一言呟いた。

「それこそ突拍子もない話でしょうけど……信じてくれるかしら?」
「はい、やっぱりまだ完全には理解できないかも知れないけど……多分もうなんでもありなんだと思います」

リンディの問いに、五代は静かに言った。
元々タイムスリップという考えに至った事自体、普通では考えられない事なのだ。
それも新聞の日付やなのはから聞いた日付という実体験から、仕方なくタイムスリップと判断しただけに過ぎない。
さらにこんな戦艦や、明らかに五代の常識では考えられない魔法という技術を見せつけられた以上、彼女らの話を信じないわけにもいかなかった。
実際ここで五代を騙す事は彼女らにとっても利益など存在しないし、五代が騙されなければならない理由も存在しない。
それ故に今までアマダムやゴウラム等といった、常識では考えられない力を嫌と言うほど見てきた五代は、割と簡単にそれを受け入れることが出来た。

「でも、じゃあつまりこの世界はずっと平和だったんですね」
「えぇ、まぁ……未確認などという脅威が存在しない分平和だったと言えるでしょうね」
「そっか……」

リンディの言葉に五代は小さな微笑みを浮かべていた。
この世界に未確認は存在しなかったということは、それだけこの世界の人々の笑顔は無駄に奪われなかった事になる。
五代が居た世界とここまで限りなく似た世界で、未確認だけは一緒では無かったというのは、五代をほんの少しだけ安心させた。
しかし、五代にはまだ安心できない点が一つだけ存在する。

「あの~……それはともかく、俺この世界で自分の家無いみたいなんです……おまけにお金もなくて」
「あ、その点に関しては安心して下さい。五代さんとゴウラムは私たち時空管理局が、責任を持って元の世界へ帰れるように努力します。
 まずは五代さんが居た西暦2001年の座標を発見しないといけませんけど……それまでの生活に関しても此方で出来る限りサポートするつもりです」
「あ、そうですか~……それなら良かった、ありがとうございます!」

リンディの説明に五代は笑顔で一礼した。
元の時代、元の世界に帰るための手助けをして貰えるばかりか、生活までサポートしてくれるのだ。
それは五代を安心させるには十分な話であった。

「じゃあ、当面はアースラでの生活になると思いますけど、それで構いませんか?」
「いやもう、全然大丈夫ですよ! これからどうしようかと思ってたんで、断る理由なんてないです!
 ……まぁ、本音を言えばもうちょっとこの世界を冒険してみたかったですけど、贅沢言えませんもんね」

五代はそう言って、苦笑いをした。
元々冒険家である五代に、並行世界なんて可能性を見せてしまえば、それこそ胸に秘めた冒険魂が騒ぎ出すのは当然の事。
出来ればこの世界を色々と見て回りたいという考えもあったのだが、管理局の人たちがここまで良くしてくれている中で、
自分だけが我儘を言う訳にも行かないということは、五代にも簡単に解った。
と、話がまとまりかけたその時であった。八神はやてが、小さく手を挙げ、口を開いた。

「あの~……それなら、五代さんさえ良ければですけど、うちに来ません?」
「……え?」
「いや、五代さんって何か……悪い人って感じせぇへんし、私たちの世界で過ごしたいのなら、調度ええんちゃうかな~って思ったんですけど」
「でも、いいの? はやてさん……ヴォルケンリッターの皆だっているのに、大変じゃないかしら」
「ええ、調度ひと部屋余ってますし、今更家族が一人増えたくらいどうってことないですよ」

はやては優しい笑みを浮かべ、リンディにそう説明する。
次にはやてはシャマルに視線を向け、シャマルの意見を聞いてみる事に。

「シャマルはどう思う?」
「え? 私は、はやてちゃんさえいいのなら別に問題はないと思いますけど……」
「そっか、ありがとうシャマル」

シャマルに感謝の意を込めて微笑みを向ける。
ヴォルケンリッターの4人ははやてさえそれで良ければ文句は言わないのだろうと想像はついていたが、
シャマル自身も五代の人の良さには好感を抱いていたのだろう。それ故に、否定する言葉も思いつかなかった。
はやては次に五代に視線を向け、話を纏めにかかる。

「そういう訳やけど、五代さんはどうやろ? 簡単な家事の手伝いとかさえしてくれたらうちは大歓迎やねんけど……」
「あ、俺はそれでも全然大丈夫! 家事なら寧ろ得意な方だから」
「じゃ、決まりやな!」

嬉しそうに微笑む五代に、はやては嬉しそうに言った。
一方の五代も、目の前の関西弁の少女が、ポレポレでバイトをしていた関西弁の少女にどこか雰囲気が似ている気がして、何となく好感が持てた。
八神はやてという少女とヴォルケンリッターと呼ばれる人たちの関係は未だに良く分からないが、そこは今は気にしなくて大丈夫だろう。
なんにせよ、五代にとってはこれ以上の条件など存在する筈もなく、はやての申し出を断るつもりにもなれなかった。
はやてははやてで、五代が家事が得意だと聞いて満足そうに笑っていたし、問題は無いのだろう。
家に誰かが泊まりに来たり、家族が増えたり。そういうイベントははやてにとっても楽しいことなのは間違いないし、
何よりも五代が“家事が得意”という点は、即ち八神家の家事がさらに楽になるということなのだろうと言う事を暗示しているのだから。

こうして話は纏まった。
これからリンディ以外のメンバーは皆元の世界に戻って、夕食を食べる時間だ。
五代自身も今日一日何も胃に食べ物を入れていなかっただけに、初めて食べる八神家の食卓が楽しみでしかたがなかった。
それ故に早足で歩きだそうとした五代であったが。

「あ、そうだ……ちょっといいですか?五代さん」
「え? なになに?」

ふと、後ろを歩くなのはに呼び止められた。
それに続いてフェイトも五代に話があるらしく、なのはの横に並ぶ。
対する五代は、二人の身長に合わせるように、腰を低く屈め、答えた。

「あの……ゴウラム、凄く疲れてましたよね」
「あぁ、うん……世界を超えてずっと飛んで来たから、疲れちゃったのかなぁ」
「いえ……違うんです」

憶測を述べる五代に、今度はフェイトが答えた。
五代はきょとんとした表情を浮かべながら、二人に視線を合わせる。

「最初はゴウラムのこと、ただのロストロギアだと思ってて……私たちが攻撃してしまったんです」
「その時は逃げられちゃいましたけど……多分ゴウラムが疲れてたのはそのせいだと思います……」

二人の説明に五代はゆっくり立ち上がり、うーんと、考えるような仕草を見せた。
事実二人がゴウラムを襲ったのは、ゴウラムを未確認飛行体としか判断していなかったからで、管理局側で捕獲しようとしていたから。
その為にも、撃墜さえしてしまえばゴウラムも持ちかえれて結果オーライだと思っていたのだが、今考えると少し悪い事をしたような気持ちになる。
五代も未確認事件の間は、未確認生命体と思しき人物を発見した際は、有無を言わさず直ぐにクウガに変身していた。
きっとそれと同じで、なのは達もゴウラムを知らなかったから、こんな結果になってしまったのだろう。
それは五代にしてみれば悲しい事ではあるが、相手は言葉が通じないゴウラムであり、それも仕方ないと言えない事もない。

「うーん……誤解とはいえ、なのはちゃん達にもゴウラムと戦わなきゃいけない理由があったんだろうし、仕方ないと思うよ」
「でも……仕方ないの一言じゃ済まないよ。多分、私たちの攻撃でゴウラムはあんなに弱ってるんだと思うし……」
「うん……そうだね。じゃあさ――」

それだけ言うと五代は、今まで浮かべていた微笑みを消し、真剣な表情を作った。
再び腰を屈ませ、目線をなのは達と同じ高さに合わせる。

「――そんな時は、どうすればいいと思う?」
「そんな時……やっぱり、ゴウラムにきちんと謝らないと……」
「うん……私も、次に会った時にごめんなさいって……」
「うん、そうだよ。わかってるじゃない。自分が悪いと思ったら、素直にごめんなさいって言えるかどうかが大事なんだよね。
 なのはちゃんもフェイトちゃんも、一番大切なことがわかってるみたいだから、大丈夫!」

そう言い、五代は再び先ほどまでの微笑みを取り戻した。
ゴウラムにきちんと謝ると言ったなのはとフェイトに対して親指を立てると、五代は優しい笑みを向ける。
なのはとフェイトの二人も少し安心しながら、顔を見合わせた。

「それに多分、ゴウラムは大丈夫だから。きちんと謝ればきっと許してくれるよ」
「うん……ありがとう、五代さん」

なのはは、嬉しそうな微笑みを五代に向けながら、一礼した。フェイトもそれに続く。
少し離れた場所から、はやても微笑ましくその光景を眺めていたという。




薄暗くも、数人の人間が集まれる程の広さを持った広間に、黒髪の女は立っていた。
女の傍に展開された空間モニターに映し出されているのは、宙に浮かぶ小さな金のかけら。
何処かに保管されているであろう金のかけらが三つ、女の視線の先に浮かぶ。
しかし、それを眺めるのは女だけではない。その周囲に立った数人の人間も、同じようにかけらを見つめる。

「――で、ベルトの欠片は一つでも見つかったのかしら?」
「いや」
「この役立たずが」

黒髪の女の質問に答えた一人の男は、女の一言に表情を歪める。
ベルトの破片は見つかったのかと問われたから、男はそれを否定する答えを返した。
それに対する女の一言は、「役立たず」。その言葉は男を怒らせるには十分だった。
そもそも単純にベルトの破片集めなどといった雑用をさせられている事自体が不満なのだが。
それ故に男は、一歩前に踏み出し、言った。

「リントがあまり調子に乗るなよ」
「あら、私に手出しするつもりかしら? 解ってると思うけど、貴方たちは私には触れる事は出来ない
 仮に私に攻撃が届いたとしても、私を殺せば貴方はゲゲルへの参加資格を失ってしまうのだから」

男は、女の前に現れた見えない障壁に触れる前に、その脚を止めた。
女が魔法という厄介な技術を使っている限り、彼等は女に触れることすら叶わないのだ。
それが解っているだけに、より一層不愉快そうな表情を浮かべ、女を睨みつける。

「貴様、いつか絶対に―――ボソギデジャス……!」
「あははは、貴方に出来るのならね!」

高らかに笑う女に、男は赤いマフラーを翻して、女とは逆方向へと歩いて行く。
プライドが高い彼にとって、こんな仕打ちを受けること自体が不愉快極まりないのだ。
そうしていると、もう一人の若い男が、親指の爪を噛みながら、女の前に歩み寄った。

「僕は別に何でもいいけど……本当に君ならゲゲルを再開出来るんだろうね」
「ええ、勿論よ。だいたい、私に回収されなければ貴方たちはあのまま死んでたんだから。それを忘れないように行動して頂戴」

男はそれだけ聞くと満足したとでもいうように、なよなよと腰をくねらせながら、女の前から立ち去って行った。
その表情は、全くの無表情。感情など存在しないかのような不気味な視線で、男はただ歩き続ける。
それに合わせて、周囲に立っていた数人の男たちも、黙って部屋から出ていった。
やがて全員が居なくなった後で、女は小さく呟いた。

「今度こそ誰にも邪魔はさせないわ。あの子は―――アリシアは今度こそ、生き返らせて見せる」

そのためには彼らを利用する。その先にある“力”なら、間違いなく愛する娘を生き返らせることが出来ると確信して。
女は――プレシアは野望を胸に、指に付けた奇妙な形をした指輪を、そっと撫でた。


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最終更新:2009年01月06日 13:24