――俺がいつ生まれたのかは覚えてねぇ――

    ――物心ついた頃にはもう此処にいた…デバイスを握ってな――

    ――コイツの名はバハムートティア…コイツがそう言ってた――

    ――そしてコイツはこう言った……“俺の名”は――


         リリカルプロファイル外伝
             アリューゼ


 此処はとある管理世界の街アルトリア、かつて隣国ヴィルノアと戦争状態であったが管理局が介入、
 戦争は一応に終結したが隣国そして管理局との折り合いは悪くなっていた。
 その街で一人の男が姿を現す、男の名はゼスト・グランガイツ。
 彼が此処に来た目的はヴェルノアに駐在していた魔導師を暗殺した犯人が潜伏しているという情報を得たからである。
 空港に着くなり新たな情報を得る為、街に駆り出すゼストであった。

 風情のある大通りを歩き横路から路地裏に入ると風景が一瞬に変わる。
 路地裏には浮浪者がひしめき合い、中には年半ばもいかない少年少女の姿もいた。
 戦後、戦争によって住処を無くした民衆・兵士は行き場を無くし路地裏または街を出て暮らしていた。
 狭い路地裏を通っていると、酒瓶を持った無精ひげの男がゼストに話しかけてくる。

 「アンタ…この街の人間じゃねぇだろ…こんな所に何の用なんだ」
 「人を捜している、コイツだ」

 ゼストは懐から一枚の写真を取り出す。
 写真には頭にバンダナを巻き、手にはボウガンを持った男が写っていた。

 「なんだコイツか……」
 「知っているのか?」
 「この街でコイツを知らねぇ奴なんざいねぇよ」

 スリ・強盗・強奪・詐欺・誘拐・人身売買…数え出したらキリがないと男は語る。

 「今回は一体何をしでかしたんだ?」
 「………殺人だ」
 「あ~あ、とうとうそこまで手を出したか」

 男は酒瓶をラッパ飲みすると腕で口元を拭く、どうやらこの犯人はかなりの悪人のようだ。

 「コイツの居場所を知らないか?」
 「知らねぇな、だがよ奴がよく行く酒場なら知ってるぜ」

 そう言うと男は手を差し出す、ゼストは金を握らせると男は話し出した。
 酒場は今いる路地裏を進み突き当たりを左に向かった先だと。
 ゼストは早速向かうと、情報通り一件の酒場を見つける。
 酒場に入ると中には昼間から酒浸りな連中がたむろしていた。
 ゼストはマスターから情報を得る為カウンターへ赴き席に着く。

 「いらっしゃい、何にする?」
 「この男を捜している、此処によく来ると聞いたんだが…」
 「コイツか…前まではな…」

 ここ最近は顔すら見せていないとマスターは語る。
 マスターの話では大きな仕事でも一週間ぐらいで現れるのに、もう二週間近く現れていないという。
 ゼストは他に行きそうな場所はないかと聞いてみると、幾つか教えて貰いメモを取る。

 「ダンナ、あの男を捜してるんだったら伝えておいてくれ、いい加減ツケ払えってな」
 「あぁ、伝えておく」

 そう言うとゼストは席を立ち酒場を後にすると、次の場所へと向かった。

 ゼストの後方数メートル先、其処に一つの影がゼストを追っていた。
 影は屋根まで登るとゼストを上から見つめていた。
 ゼストが立ち止まり、右手で懐からメモを取り出し見つめていると、その隙を突いて影が動き出す。
 影は身の丈を越える大剣を構えるとゼストに切っ先を向け飛び降りる。
 自由落下しながら影はゼストとの距離を詰めて行く。
 ゼストに直撃する瞬間、左手を伸ばし大剣の切っ先を掴むと、そのまま相手を見ずにゴミ捨て場に投げつけた。

 「何だ?刺客か?」

 ゴミ捨て場を睨み付けるゼスト、ゴミ捨て場には足のみが表に出ていたが、すぐに起き上がり姿を現す。
 影の正体は上半身は薄汚れたタンクトップ、下半身はボロボロの緑のズボンに裸足、髪は茶色の十代前半の少年であった。

 「何だ…ただの小僧か…」
 「おっさん!命が欲しけりゃ金目の物を出しやがれ!!」

 少年は大剣を向け脅すが、ゼストは見向きもせず背を向けその場を後にしようとする。
 少年は無視するな!っと言った表情で大剣を振り下ろすが、難なくかわされる。

 「今お前に構ってやれる時間はないんだがな」
 「うるせぇ!さっさと出しやがれ!!」

 少年は左右からのけさ斬りや、突きからの斬り上げ、更に前宙からの振り下ろしなど怒涛の連撃を行うも、ゼストには掠りもしなかった。
 少年は怒涛の連撃に疲れを見せ始めていたが、気合いを入れ直し大きく振りかぶると、真っ直ぐゼストに向け鋭い一撃を繰り出す。
 だがゼストは振り下ろしに合わせ左に回避、握った左拳が少年の腹部を捉えると、そのままゴミ捨て場まで吹っ飛ばした。
 ゼストは今度こそ、この場を後にしようと背を向けると少年はゆっくりと起きあがり大剣を肩に構える。
 ゼストはまだやるのか?とあきれた表情を見せるが少年の一言に顔色を変える。

 「バハムートティア!カートリッジロード!!」
 「何ぃ!?」

 少年は叫ぶと大剣バハムートティアから二つ薬莢が排出されると、刀身が熱せられた鉄のように真っ赤に染まっていく。
 ゼストはその様子を見るやデバイスを起動させ、少年に向け振り払い衝撃波を作り出した。

 「奥義!ファイナリティ―――」

 少年が技を繰り出す前に衝撃波はバハムートティアを弾き少年を直撃、壁に激突すると少年の意識を刈り取った。
 ゼストは驚愕した、この世界でカートリッジシステムを持ち、更に使いこなしている少年の存在に。
 驚きを隠せないゼストであったが、自分の目的を思い返しその場を後にした。
 数十分後、少年は起きあがると敗北感からか悔しそうに拳を地面に叩き付けていた。
 そして少年の胸の内にゼストへの復讐心が燃え上がっていた。

 その後、ゼストは幾つか犯人が寄りそうな場所を訪ねたが、有力な情報は得られずにいた。
 宿屋に戻ったゼストはウィスキーが注がれたグラスを片手にモニターを開いていた。
 モニターには女性の姿が映っており連絡を取っている模様だった。

 「申し訳ありません隊長、本来なら私の任務なのですが…」
 「いや…構わんクイント、それに面白い物を見つけたしな」

 画面のクイントは首を傾げると、ゼストは昼間に起きたことを語り出す。
 昼間、路地裏で一人の少年がゼストに襲いかかった。
 その少年の一撃はゼストには届かなかったが、一つ一つが鋭く重みも見て感じたと、
 だがそれ以上に驚いたのはその少年はカートリッジシステムを使用していた事だと語る。

 当時のカートリッジシステムは一部の近代・古代ベルカにしか使われておらず
 ゼストの仲間内でもクイントぐらいしか使い手がいないほどのシステムであった。

 話を戻し、その少年はカートリッジを二発使い更にその魔力を制御していたと、酒が入っている為なのか饒舌に語る。

 「アレは磨けば磨くほど光るタイプだ、こんな所で腐らせるには惜しい逸材だよ」
 「隊長がそこまで言うのでしたら、管理局へ誘ってみたらどうです?」

 クイントの提案に顎をなで考え込むゼスト、確かに次見かけたら誘ってみるか…そんな事を考えながらウィスキーを口にした…

 次の日、ゼストは朝から聞き込み調査を行っていた、だが未だ犯人の手掛かりを掴めないでいた。
 そして路地裏を転々と歩いていると昨日の少年が腕を組み仁王立ちで道を塞いでいた。

 「小僧か……何のようだ」
 「小僧じゃねぇ俺の名はアリューゼだ!!」

 アリューゼは名乗りを上げ人差し指をゼストに向け突き指す。

 「……ではアリューゼ、一体何のようだ、私はコイツを追うのに忙しいんだ」

 そう言って懐から写真を取り出しアリューゼに見せる。

 「なんだ…コイツか」
 「アリューゼも何か知ってるのか?」
 「…さぁな、だけどもし知ってたとしてもてめぇに教える気はないね!!
  俺はてめぇみたいなスかしてる奴が大っ嫌いなんだよ!!」
 「そうか…だが私はお前のようなバカは嫌いじゃないが」
 「なっ!?」

 思わぬ返答に動揺するアリューゼ、それを知ってか知らずか更に話を続ける。

 「どうだ、私と一緒に管理局で働かないか?」
 「…冗談じゃねぇ!誰がてめぇとなんざ!!」
 「そうか……残念だ」

 次の瞬間、素早く回り込み延髄に一撃をお見舞いすると一瞬でアリューゼは意識を失う、
 ゼストは少し卑怯だったかなと考えつつも本来の任務を続行した。

 それから約一週間が過ぎても、未だに手掛かりが掴めないでいた。
 ゼストはここの住人は余所者に対し冷たい印象を感じた。
 それもそのハズ、戦時中はスパイやテロ活動などが頻繁に行われていた為、住人の警戒意識は高く聞き込みをしても断られる事が多いのである。
 路地裏で途方に呉れているとアリューゼがやってくる。

 「よぉ、おっさん」
 「何だアリューゼか……何のようだ…」
 「随分だな、折角奴の情報を持ってきてやったのに」

 アリューゼは一枚のメモを見せ付ける、それは犯人の居場所を示すメモであった。
 此処の住人にとって犯人は鼻つまみ物で逮捕されるのは願ってもない事だと語る。
 だが管理局が逮捕するのは面白くない、その為冷たい反応を示していたと。
 だが現地の人間には甘いらしく、アリューゼはいとも簡単に犯人の居場所を突き止めたと語る。

 「……でいくら欲しいんだ?」
 「金じゃあ渡せねぇな」

 そう言うとデバイスを起動させ、ゼストに向ける。

 「俺と勝負しろ!てめぇが勝ったら情報はくれてやる、だが俺が勝ったら俺の手下になれ!!」
 「…分かった……いいだろう」

 ゼストはアリューゼの申し出を了承するとデバイスを起動させ構える、そして二人は激突した。


 それから数十分後、路地裏には鼻から血を垂らしたアリューゼが大の字に倒れていた。
 アリューゼは目を覚まし起きあがろうとするが、体が言うこと聞かずそのまま力尽きる。

 「ちっ……完敗か」

 敗北を認めたアリューゼ、その瞬間胸の内に沸いていたゼストへの敗北感や復讐心が一気に抜けスッキリした気分を感じていた。
 そしてアリューゼは空っぽになった胸の内に一つの決意を秘めると、ゆっくりと起き上がり場を後にした。

 その後アリューゼからもたらされた情報を元に犯人を確保、ゼストは空港で護送機を待っていた。
 暫くすると護送機が着陸、護送機にはクイントも同行しており犯人をクイントに受け渡すと、ゼストは昇降機に足を伸ばす。
 すると後ろから呼び止める声が響く、振り返ると其処にはアリューゼが立っていた。

 「もう動けたのか、それにどうやって此処―――」
 「おっさん!よく聞け!俺はもっと強くなって、てめぇの所でいつかてめぇをこき使ってやる!覚えてろ!!」
 「アイツ……私はおっさんじゃない!ゼストだ!!」

 お互いに叫び合い人差し指で指すと、ゼストとアリューゼは笑みを浮かべる、そしてゼストは昇降機を登りきるとアリューゼに言い放つ。

 「強くなれよ!アリューゼ!!」
 「ったりめぇだ!!」

 アリューゼの返事を聞き護送機へ入っていくゼスト、そしてそのまま護送機は離陸した。
 その姿をただただ見つめているアリューゼであった。

 護送機の中ゼストは窓の外を見つめていた、すると隣にクイントが座ってくる。

 「隊長、あの子が隊長の言ってた?」
 「あぁ、アイツは強くなる」

 そう言うと微笑むゼストであった…



 …それから数年後、首都航空隊の新兵の列には、
 黄緑かかった髪に派手な格好の少女やオレンジの髪の真面目そうな青年などがおり、
 その中で茶髪でオールバックの管理局の制服を着たアリューゼの姿があった……




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最終更新:2009年04月18日 21:18