拠点をゆりかごに移してから一週間が経ち、スカリエッティとウーノは、ゆりかご内にあるデータバンクの解析を行っていた。
 膨大な情報が表示され目移りする中、レリックウェポンと呼ばれる項目に目を通す。

 レリックウェポンとは、人体にロストロギアを移植することで、人体強化を行う方法だと書かれていた。

 「人体にロストロギアを移植……どの時代、どの世界でも同じ事を考える人はいる様だね……」

 スカリエッティもまた同じ考えを持っており、彼の所有物の中にジュエルシードと呼ばれるロストロギアがある。
 これは二年前に起きたP・T事件の発端となった“願い事を叶える”と言われていた次元干渉型エネルギー結晶体で、
 スカリエッティはジュエルシードを活用方法として、人体に移植する実験を行う予定であった。

 この時スカリエッティは考え始める。…このレリックウェポン技術を基に人造魔導師の技術を応用すれば、
 更に強力な人造魔導師を造り出せるのではないのかと。
 と、そんな時、一通の連絡が秘書のウーノに届く……


                 リリカルプロファイル
                   第五話 壊滅


 場所は変わり、此処は時空管理局・地上本部の中にある訓練場、此処で二人の男が模擬戦を行っていた。

 「どうした、もうへばったのかアリューゼ」
 「勘弁…してくれ……ゼスト隊長……」

 首都機動防衛隊、通称機動隊の設立者の一人で機動隊隊長でもあり、
 更にストライカーと呼ばれる実力者、ゼスト・グランガイツと、
 ゼストの部下で機動隊隊員のアリューゼである。

 首都機動防衛隊とは、二年前に設立されたAランク以上の局員で構成された部隊で、
 現存する首都防衛隊とは異なり、優秀な局員で構成された少数精鋭である為、
 迅速に現場に向かう事が可能となり、様々な事件や事故に対処、解決に導き、
 事実上ミッドの地上を護ってきたと言っても、過言ではない実績を誇っていた。

 話は戻り、アリューゼが肩で息をしながら両手を付いてへばっていると、
 二人の女性がゼスト達の元へ。一人は黄緑かかった髪で派手そうな女性、
 もう一人は対照的に大人しそうな、紫の髪の女性である。

 「だらしないわね、アリューゼ」
 「なんだ……メルとメガーヌ副隊長か」

 アリューゼに話しかけてきた黄緑かかった髪の女性の名はメルティーナ、彼とは同期でそれ以来の腐れ縁。
 そしてもう一人はメガーヌ、ゼストの部下であり、機動隊の副隊長でもあった。

 「模擬戦終わったんだったら早く退いてくれない?邪魔なんだけど」
 「うるせぇな……15のガキが……」
 「何よ文句あるの?18のおっさん!」
 「メルティーナ……それは私達に対する挑戦状と受け取っていいの?」

 微笑みながらメルティーナを威圧するメガーヌ。
 彼女はメルティーナと同じAAランクとはいえ、レアスキル持ちで戦闘経験も豊富、その威圧感は凄まじく、
 冷や汗を垂らして目を背けるメルティーナ。それを尻目にゼストはメガーヌに話題を振る。

 「そういえばメガーヌ、子供は元気か?」
 「あっ!えぇ、もう一歳になるわ」
 「…その年頃だと可愛い盛りだろう」

 不意に後ろから話題に乗る男がやって来た。男の名はゲンヤ・ナカジマ、
 ゼストの友人でメガーヌの友であるクイントの夫でもあり、機動隊設立者の一人で現108部隊長である。
 因みにクイントとゲンヤを結ばせたのは、メガーヌで、結婚式の仲人はゼストであった。

 …と話は戻し、普段はお互いの立場を尊重し、友人とはいえあまり仕事場には立ち寄らないこの男が、
 此処へ来た事にゼストは疑問を持ち、ゲンヤに問いかける。

 「珍しいな、お前がここに来るとは。一体何かあったのか?」
 「まぁな、今日本局に用事があったんだが、その時にゼスト……いやゼスト達の噂を耳にしてな」

 ゲンヤの噂とは先日起きた本局のスーパールーキー、高町なのはが撃墜された事件に絡んだ事で、
 事件後、なのはの様態は思わしくなく、二度と飛べないかもしれないと診断された。
 そこで本局は、彼女の穴埋めとしてS+ランクのゼストとAAランクのメガーヌ、アリューゼ、メルティーナを出向させるというものであった。
 しかし、その内容にアリューゼ達は反発を覚える。

 「冗談じゃねぇ!俺達は代用品じゃねぇんだぞ!」
 「そうよ!それに今回の事件は本局のムチャが祟ったって言う話じゃないの!」

 メルティーナが聞いた話では、高町なのはとは、二年前のジュエルシード事件、そして闇の書事件の功労者で、
 本局は彼女の実力を高く評価し、様々な数多くの任務を与えてきた。
 しかし、二年前の事件で彼女の肉体には、戦いよって蓄積された負担を抱えており、
 更に本局の激務が重なり、彼女は心身共に疲れ果てていた。
 それが今回の事件の引き金であったのだと。

 「実力があってもまだ12歳の女の子、そんな子に激務を与えるだけ与えて
  使えなくなったらポイ捨てする本局なんてゴメンだわ!」

 アリューゼもメルティーナの話に賛同し、命令を下されたとしてもこれを拒否する姿勢を見せる。
 尤も、元々二人は本局勤めを断って此方に来た節があり、当然といえる結果だった。
 無論ゼストもメガーヌも乗り気ではない。機動隊の要ともいえる四人を同時に失うという事は
 機動隊の、ひいては地上本部の戦力低下に繋がると言えるからだ。

 だが本局は何を考えているのだろうか?向こうの戦力は此方より遥かに揃っている。
 今更局員数を増やしたところで、戦力の差が増すばかり。

 (いや、もしもそれが目的だとしたら……)

 ゼストは考え込み…辺りは静まり重い空気が淀む中、メガーヌは話題を変えようとゲンヤに話を振った。

 「そっそういえば、ゲンヤの娘さんは元気ですか?」
 「あっあぁ、上はもう九歳になる」
 「もうそんなになるんですか」
 「だが、まだまだ甘えたい盛りだよ」
 「………そんな時期は直ぐに過ぎるぞ」

 後ろからゲンヤに釘を刺す低い声が、振り返るとそこには信じられない人物が立っていた。
 レジアス中将、地上本部の最高権力者で機動隊設立者の一人である。

 予想外の人物に一同敬礼をするが、レジアスは一言言って皆を休ませると、
 先ほどの言葉が腑に落ちないのか、ゲンヤはレジアスにくってかかる。

 「それはどういう意味だレジアス」
 「そのままの意味だ、男親などそんなものだ」

 ゲンヤの問いにレジアスは淡々と答える。洗濯物を分けられたり、先に風呂に入るなと言われたり、
 自分の反対を無視して入局したりと、次々に例を挙げていく。
 だが、その答えにゲンヤは反発する。

 「それはお前の娘だからだろ、私の娘達はそんな風にはならない!」
 「それはない、誰もが通る道だ…」
 「………レジアス、そんな話をする為にわざわざ来たのか?」

 レジアスとゲンヤが熱くなっている処に割って入るゼスト、レジアスは一つ咳をして本来の話を始める。

 「…ゼスト、ゲンヤ、“例の奴ら”の件だ」

 その一言に一瞬にして顔色を変える二人。…とはいえ部下がいるこの場所では正直話しづらい。
 其処でレジアスは、二人を会議室に連れて行くことにした。


 場所は変わって此処は会議室、中にはレジアス、ゲンヤ、そしてゼストが座っていた。
 レジアスの持ってきた話とは、今から四年前に発見された戦闘機人研究施設と、同じ研究施設を発見したというもの。
 そしてその研究施設はほぼ間違いなく、“例の奴ら”と関わり合いがあるという。

 「ゼスト頼むぞ」
 「あぁ、その為の“機動隊”だ」

 そう言うとゼストは立ち上がり、会議室を後にし、
 残される二人、だがゲンヤは顎に手を当て考え込んでいた。

 「……どうしたゲンヤ」
 「…アッサリ見つかり過ぎている気がしてな、杞憂ならいいんだが……」

 確かに此処に来て、中々尻尾を出さなかった“例の奴ら”の、しかも巧くすれば、
 足取りも物的証拠も入手出来るかもしれない程の有力な情報。

 だが…実はこれが“例の奴ら”が仕掛けた罠だとしたら…
 …そんな一抹の不安を感じるゲンヤであった。


 時間は遡りここはゆりかご内のラボ、此処でレザードとクアットロが戦闘機人の研究をしていた。
 現在スカリエッティは、ゆりかご内のデータバンクの解析に勤しんでおり、代わりにレザードが引き継ぐ事となったのだ。

 「博士、基礎フレームの件、どうですか?」
 「……そうですね…まだ改良の余地がありそうです」
 「さっすが博士!そこがしびれる!あこがれるぅ!!」
 「…………今度は何に影響されたんですか」

 クアットロ曰く、スカリエッティの寝室に置いてあった本の影響だという。
 そう言えばスカリエッティの本棚には、沢山の漫画本が並んである。
 恐らくその中の本の一つに影響されたのだろう。

 と話は戻り、レザードは呆れながらも作業を行っていると、
 モニターの右上にスカリエッティの映像が表示される。

 「……噂をすれば影というは、こういう時に使うのでしょうね」
 「一体何の話だね?」
 「いえ…其方こそ用があって連絡をしてきたのでしょう?」

 スカリエッティは頷き、用件を話し始める。
 先ほど最高評議会から連絡があり、彼等がかつて保有していた研究施設に調査が入るらしく、
 その施設のデータは最高評議会にとっては危険な代物の為、
 調査員の抹殺、更には施設の破壊を依頼されたのだという。

 だが現在スカリエッティは忙しく手が回らない、其処でレザードにこの依頼を頼むことに決めた。
 理由としてレザードの実力を見込んで…もあるが、先日の施設破壊の一件で、見事な破壊を見せてくれたからである。

 「なるほど、まぁいいでしょう。ですが一つだけ条件があります」
 「何かね?」
 「チンクとの同行を許可して貰いたい」

 レザード曰く、実戦データの収集と局員相手に、彼女がどこまで通用するか調べたいとの事。
 するとスカリエッティはレザードの条件を二つ返事で受け、チンクの同行を認めた。

 ………だが後ろでチンクに対し、嫉妬の炎を燃やしているクアットロの姿を知る由もなかった。


 場所は変わって此処は戦闘機人の研究施設、中では機動隊が調査を行っていた。
 メンバーはゼスト、メガーヌ、アリューゼ、そしてAランクの局員七名の計十名で構成されており、
 メルティーナはメガーヌの子の面倒を見るため局に残った。本人は納得していない表情をしてはいたが…

 そして機動隊メンバーには此処の施設は違法魔導師のものと伝えてある。
 何故なら“例の奴ら”の件はゼスト達個人の問題、彼らを巻き込む訳にはいかないというのが主だった。

 それはさておき、研究施設の奥には人体標本や実験動物の檻などが点在しており、
 更に奥の施設には幾つかのカプセルが置いてあった。
 既に施設の電源は死んでおり、カプセルの中にはミイラ化した遺体が入ってる。

 「ひでぇなこりゃ……」 

 アリューゼが一つ愚痴をこぼし、更に奥へ進むと吹き抜けの天井が印象的な広場へと出る。
 周囲の壁には幾つかの傷があり、どうやら此処は訓練場だとゼストは考えた。

 「やはり、ここで戦闘機人の研究をしていたようだな」
 「だが、何で戦闘機人なんかを?」
 「……あなた方がそれを知る必要はありませんよ」

 アリューゼの質問に答えるかのように声が部屋に響き渡り、
 ゼスト達が声の主を捜していると、丁度真っ正面にある出入口から足音が近付き、
 薄暗い出入り口から足を覗かせ、声の正体が現れる。

 その姿は青を基調とした服に黒いマントを羽織った眼鏡の青年で、
 魔導師である事が一目で分かるその風貌に、ゼストは青年に質問をぶつける。

 「お前は誰だ?」
 「答える必要はありません」
 「何故、此処にいる?」
 「答える必要はありません」
 「…お前は此処と関係があるのか?」
 「答える必要はありません」
 「此処で、何が行われていた!」
 「答える必要はありません」

 質問に対し、淡々と答えにならない答えで対応する青年。
 その人を食った態度にアリューゼを始め周囲は苛立ちを覚える中、ゼストは冷静に質問を変える。

 「俺達をどうするつもりだ…」

 青年は眼鏡に手を当て、不敵な笑みを浮かべながらこう言い放った。

 「当然、此処で死んで貰います」

 すると青年の腰に付いていたナイフが輝き、魔導書となって左手に収まり、
 ゼスト達もまたデバイスを起動させて、戦闘準備に入る。
 両者が睨み合う中、青年が右手をゼスト達に向け宣言する。

 「開け冥界の霊柩。……直ぐにこの者達を送呈してやろう…」

 それはまるでゼスト達を死へと誘う死神の様な宣言、
 ゼストは部下に警戒を促そうとした次の瞬間、青年はファイアランスを詠唱、
 二つの槍のように鋭利な炎が生まれ、一人の局員に矢のように向かい、回避する間もなく迫り突き刺さる。

 「ぐっぐあああああああっっっ!!!」

 受けた局員は一瞬にして火だるまとなって、辺りを転げ回り、
 その光景に他の局員が必死に炎を消そうとするが、全く勢いが変わらず、
 結局その局員は黒く煤けるまで燃やされ続けた。

 一瞬にして仲間がやられ、怒りの眼で青年を見つめる局員を後目に、
 青年の足下に五亡星が輝き青年の姿が消え、転移魔法と考えたゼストは周りに気を配る様叫ぶ。

 「どこから来るんだ」
 「っ!!後ろだ!」
 「フッ遅いですよ」

 ゼストがいち早く気配を感じたが、間に合わず局員の後ろを取った青年が手を向け、
 アイシクルエッジを詠唱、氷の刃が局員に突き刺さる。

 「ゼ…ゼスト隊ちょ――――」

 彼が叫び終わる前に、氷の刃から彼を蝕む様に凍り付かせ、無惨にも砕け散った。
 アイシクルエッジ、この魔法はクールダンセルと同じ氷系の魔法であるが、
 後者と違うところは、誘導性が無い速度重視で仕上げた氷の刃である所だ。
 不意を付かれ更に速度重視の魔法では局員に避ける、または逃げる余裕は無かった。

 だが、仲間をやられて黙っていられるアリューゼではない、
 手に持つ身の丈ほどの巨大な剣の柄を堅く握りしめ、青年に突撃した。

 「野郎!!」
 「迂闊に飛び込むな!アリューゼ!」

 だがゼストの制止を無視し剣を振り抜くが、既に転移した後で残像のみを斬り払い、
 当の本人は、最初に立っていた位置に戻り、次に指を鳴らす。

 「ポイズンブロウ」

 そう唱えると、一人の局員の足下に紫の五亡星の魔法陣が現れ、紫の濃霧が立ち上り、
 その霧が晴れると局員の体は紫に変色し、喉を掻き毟りながら、声にならない叫びをあげその場に倒れた。

 ポイズンブロウ、対象の足下に魔法陣を張り、猛毒の霧を発生させて攻撃、
 更に受けた相手に毒を与え追いやる効果を持つ魔法で、
 バーンストームと同じく指を鳴らさないと発動しない仕組みとなっており、
 それがまた青年のこだわりの部分である。

 …仲間が次々にやられ、今目の前で猛毒に苦しみ死んだ同胞を目の当たりにした一人の局員が、
 横たわる遺体に目を向け、恐怖の余りに逃げ出すのは仕方がなかった事かもしれない。
 だが、青年はその存在を見逃すつもりは無かった。

 「チンク」

 青年が小声で言い放つと、青年が現れた出入口から三本のナイフが飛び出し、
 的確に逃げた局員の後頭部、延髄、心臓の順に貫き、局員は絶命した。
 そして青年は、転がる死体を一つずつ指を指しながらこう言い放つ。

 「焼死、凍死、毒殺、刺殺、……さぁ、どのような死に方がお望みか」

 それはまるで注文を取るウェイターの如き言い方で、眼鏡に手を当て微笑む。

 すると青年が出て来た出入り口から、灰色のコートを纏った銀髪の少女の姿が現れ隣に立ち、
 手には、局員を刺殺したナイフが握ぎられていて、
 彼女が刺殺し、また青年が口にしたチンクとは、彼女の名だとゼストは判断した。


 次々に優秀なAランクの局員が殺害されていき、事態は最悪な方向。
 このままでは全滅は免れない、ならばとゼストは大声で叫ぶ。

 「ここは私とアリューゼ、そしてメガーヌで押さえる!他の局員は今すぐこの場から去れ!」

 ゼストはAランクでは勝てないと判断し全滅を防ぐ最良の処置と考え、この様な命令を下し
 局員達は後ろ髪を引かれつつも、次々に逃げ出し、それを遠くで見つめる青年とチンク。

 「博士、逃げられてしまうぞ」
 「それは困りますね」

 そう言うと右手を地面に向け、彼の体から青白い魔力が吹き上がり、
 地面には桜色の五亡星の魔法陣が浮かび上がり、光り輝くと直ぐに消える。

 「これで良し………」
 「今のは…もしかして!」

 青年の一連の行動を見たメガーヌは、馴染みがあると感じた瞬間、
 部下達を逃がした暗い出入り口から叫び声が次々に上がり顔を向ける。

 「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
 「くっ来るなぁぁぁ!!!」
 「たっ助け――うぁぁぁぁぁ!!!」

 辺りに悲痛な叫び声が木霊し消えて行くと、今度は地響きのような足音が響き始め、
 出入口から巨大な白骨の肉体に、竜に似た頭蓋骨、手には身の丈ほどの刃物を持つ化け物、
 ドラゴントゥースウォーリアと呼ばれる不死者〈グール〉が姿を現し、
 右手に持つ刃の先には、逃した局員の一人が串刺しになっていた。

 「…まだ食事が終わっていないのですか、早く済ませなさい」

 青年の窘めを受け不死者は、串刺しにした局員をゆっくりと、頭から飲み込み、そして噛み始め、
 ゴキゴキッと砕かれる音の後、ガムでも噛んでいる様なクチャクチャと音が響き、

 飲み込む音を最後に静寂が辺りを包み、一様の光景を目の当たりにしたメガーヌは、
 口元に手を当て嘔吐、青年はその反応を見て含み笑いを浮かべていた。
 とその時、アリューゼとメガーヌにゼストからの念話が届く。

 (聞こえるかメガーヌ…お前はガリューと一緒にあの化け物を叩いてすぐに脱出しろ!
  そしてアリューゼ、お前は銀髪の少女を叩け、恐らくあれは戦闘機人だ、油断するなよ…)

 ゼストの見立てではこの施設の生き残り、もしくは研究成果と考えていて、
 最初は魔導師という線も考えたのだが、魔力と似た、しかし異なる性質を持つ反応をデバイスが感知、
 だが何より少女の反応が余りにも機械的な印象を覚えたのが、最大の要因だった。

 (…で 隊長はどうするんで?)
 (私は眼鏡の男を叩く!)

 恐らく青年の実力はSランクに近い、でなければ資質もなく人を一瞬にして、消し炭や凍結させる威力を誇る
 魔力変換魔法を扱えるハズがない、つまりAAランクの二人では荷が重すぎると考えたからだ。
 そんなゼストの提案にメガーヌとアリューゼは小さく頷き、それぞれ戦う相手を定めた。

 「……やれやれ、大人しくやられれば良いものを」

 手のひらを返し肩をすくめ馬鹿にした表情を浮かべる青年、その余裕のある仕草にゼスト達は苛立ちを覚えるつつ、
 起動させたデバイスを構え、暫く睨み合いが続くと、先手を取ったのはゼストだった。

 ゼストは真っ直ぐ二人に向かい、手に持つ槍を振り下ろし、青年とチンクを左右に別れさせると、
 アリューゼが合わせる様にチンク目掛け突進、しかしチンクは両手に持ったナイフ・スティンガーを交差させて、アリューゼの突きを防いだ。

 「なるほど、私とチンクを引き剥がしたかった訳ですか」

 青年は敢えてゼストの誘いに乗り、距離を取るやファイアランスを詠唱、炎の槍がゼストを襲う。
 だが、ゼストは槍を目の前で回転させて、右から左へ勢い良く凪払うと、衝撃波を生み出し、
 ファイアランスをかき消し、その勢いは衰えることなく青年に襲い掛かる。

 しかし青年は移送方陣で上空へと逃げ、ダークセイヴァーを詠唱、するとゼストの周りを闇が包み、
 闇が刃へと変わる瞬間、ゼストはタイミングを合わせてバックステップで回避、
 続けて槍を構え、刃先を青年に向けるや勢い良く突撃、
 しかし青年は右手を向け、シールド型のガードレインフォースを詠唱、青白く光る魔力の盾でゼストの攻撃を防いだ。

 「うおおおおおおっ!!!!」

 シールドと槍がぶつかり合い、魔力素がまるで火花の様に散る中、
 ゼストは気合いと共に槍の先端に魔力を込め更に加速、すると青年のシールドにひびが入り
 砕け散るその瞬間、青年はとっさに左に回避、だが完全に回避する事は出来ず、
 ゼストの矛先が青年の右頬を掠め、抜けて行く。

 突撃後、ゼストは次の青年の攻撃に備え直ぐ様振り向くが、
 青年はその場に立ち尽くし、掠めた右頬に手を当てる。

 血は流れていない、だがミミズ晴れのようになっている。
 しかし、痛みは斬られた時と同じ、非殺傷設定とはこういうものか……と青年は思っていた。

 「なるほど……少々侮っていましたよ」

 青年が振り向くと先程のような人を小馬鹿にした表情は無く、真剣な瞳に変わる。
 ゼストの実力は青年の予測を大きく超え、他の二人とは一線を越えている様子、
 先程までの戦い方では倒すのは至難と言う考えにいたり、
 ゼストもまた、青年の態度の変化に気を引き締めつつ、槍を強く握り締めた。


 一方メガーヌはガリューを召喚、不死者と対峙していた。
 ガリューとは、皮下組織や骨格を変化させて武器にする能力を持つ、
 人間サイズの召喚虫で、メガーヌが最も信頼している召喚虫でもある。
 メガーヌはバインドで、不死者の右手に持つ刃ごと腕を縛り付け、動きを封じるや、ガリューに命令する。

 「ガリュー!」

 意志疎通が可能な二人ならではの、一言だけの命令にガリューはすぐさま反応し、攻撃を仕掛ける為接近、
 だが不死者は懐に入らせまいと、左手に持つ刃でガリュー目掛けて振り下ろした。

 ところがガリューは不死者の攻撃に合わせる様に右に回避、続け様に顔面に右のハイキックでカウンターを決め、
 ガリューの蹴りは不死者のこめかみに的確にヒット、その巨体をぐらつかせるが、
 不死者は直ぐに態勢を立て直し、右のバインドを力任せに引きちぎり、ガリュー目掛けて横に振り払う。

 だが、ガリューは前宙の動きで攻撃を回避しつつ、かかと落としで不死者の頭を蹴り、
 続けて頭を足場にしてから、バク宙でメガーヌの位置まで下がる。

 ガリューの流れるような連続攻撃、それも拳やかかとの皮下組織を硬質化させ
 更に魔力を纏った強力な一撃、しかし不死者には大したダメージを与えている様子は無かった。

 「ずいぶん丈夫みたいね、これはまさしく骨が折れる仕事だわ……」

 メガーヌは自分で美味い事を言った様子でほくそ笑むが、ガリューは呆れた様子を見せており、
 意志疎通が出来ても、メガーヌのセンスには付いていけない様子を呈していた。
 だが今は、目の前の敵に集中する事が優先と考え、二人は不死者を見据えた。


 その頃アリューゼは、チンクに突進を止められ、鍔迫り合いが続いていた。
 チンクとアリューゼの体格の差は大きくまさに大人と子供、
 だがふたを開けてみればその体格差を物ともせずの拮抗、これが戦闘機人の実力なのだろう。

 となればこのままの鍔迫り合いでは埒があかないと考え、
 アリューゼは一旦後方へ飛び大剣を肩に掛け拳に魔力を込めた後、力一杯左に振り払う。
 レイチングスイング、アリューゼがもっとも得意とする力技である。

 しかしチンクはバックステップで攻撃を回避、勢い余って背を向けたアリューゼの心臓に狙いを定め突撃。

 「甘ぇ!!」

 既にチンクの行動を先読みしていたアリューゼは体を更に回転、左の裏拳がチンクの左頬を捉える。
 スピニングバックナックル、大振りの多いアリューゼの技の中で、大振り特有の隙を埋める為の技である。

 左頬にめり込んだ裏拳にも魔力が込められてある為、チンクを吹き飛ばし、
 チンクは錐揉みしながらも、両手を床に付けて体勢を立て直し激突を避けた。
 だがアリューゼの追い込みはまだ終わっていなかった。今度は魔力を刀身に纏わせ力一杯振り下ろす。
 ハイウィンドと呼ばれている振り下ろしである。
 しかしチンクは後方に飛び跳ねて攻撃を回避、空中でコートの中からナイフを取り出し再び心臓を狙いを定め投げる。
 だが、アリューゼはその長い刀身を盾にナイフを弾く。
 チンクの攻撃は正確で、ナイフの投擲においては的確に急所を狙ってくる。
 流石戦闘機人と言えるだろう。並の相手では、それこそAランクの魔導師では歯が立たない。
 だがアリューゼは違う。ランクの違いもあるが、ゼストについている為踏んで来た場数が違う。

 それに相手は製造したてなのか攻撃も単調、しかも急所しか狙ってこない訳で
 急所さえ防いでおけば何も問題はなく、アリューゼの敵ではなかった。

 「さてと…そろそろてめぇの顔も見飽きたぜ!」

 ナイフの軌道もチンクの行動も読め始めた今、アリューゼは切り札を切る。

 「バハムートティア!カートリッジロード!!」

 アリューゼの気合いを込めた叫びと共に大剣型アームドデバイス・バハムートティアから薬莢が二つ排出、
 すると刀身は熱せられた金属のように真っ赤に染まり、アリューゼは突きの構えから突進してくる。

 「奥義!ファイナリティブラスト!!」

 加速されたその突進力を本能的に危険と察知したチンクは、高々と飛び跳ね上空へと逃げるが、
 アリューゼが突き進んだ後に爆炎と爆風が吹き荒れ、身の軽いチンクを更に上空へと吹き飛ばす。

 すると今度はアリューゼは斬り上げる構えで急上昇、チンクに迫るが、
 コートからナイフを三本取り出し、アリューゼの右肩、左腿左目に狙いを定め投げ付ける。
 ところが右肩左腿に向かうナイフを弾き、左目に向かうナイフをギリギリかすめる形で回避、
 アリューゼの勢いは止まらず、徐々にチンクに迫りその距離を縮めていく。

 「これで……終わりだぁ!!」
 「それは…貴様の方だ!」
 「なにぃ!?」

 チンクの一言と同時に、弾き回避した三本のナイフがアリューゼの周囲に集いその後爆発、
 ランブルデトネイターと呼ばれる中距離間の遠隔操作及び一定時間触れた金属を爆弾に変えるチンクのISで、
 ナイフ程度の大きさであれば、それ程時間をかけること無く爆弾に変える事が出来る。

 黒煙がアリューゼを包み込む中、黒煙の下の部分からアリューゼが力無く落下し、そのまま床に叩きつけられ、
 その衝撃で頭部から血を流し目は白目、口から耳から煙が立ち上り、
 バリアジャケットも黒く焦げていて、その威力を物語っていた。

 「……撃破完了」

 チンクはそんなアリューゼの姿を横目でやりつつ、落下しながら次のターゲットを探し始めた。


 時間は少し遡り、メガーヌはガリューのとの戦闘を目の当たりにして、
 不死者が結構な堅さとタフさがあると判断、ガリューに補助魔法で対象の攻撃力を上げるストライクパワーと
 加速力を上げるアクセラレイションを与え続いて命令を下す。

 「ガリュー!フルパワーよ!!」

 メガーヌの命令を聞きガリューの体の関節部分から牙の様な刃が現れ
 次の瞬間、矢の如き速さで懐に入り、左の硬質化した正拳が体の中心辺りを貫く。
 更に回転し鋭利な牙が付いた左肘、右膝、左後ろ回し蹴りと叩き込み、
 続いて魔力を込めた右アッパーで顎を打ち上げ、不死者の顎が跳ね上がると、
 今度は縦に回転、左の踵から出る鉤爪状の牙で顎を引っかけ弧を描いて持ち上げるや、頭を床に叩き付け、
 叩き付けられた頭は見事に砕け、頭を失った体は光の粒子となって消滅した。

 とメガーヌ達が不死者を撃破した直後、爆発音が響き、
 爆発音がした方向を振り向くと、自然落下していくアリューゼの姿を発見。

 (…あの爆発だと助かってはいないかも…ゴメンねアリューゼ)

 メガーヌは半ば強引に自分を納得させ、ガリューと共にゼストの命令通り出口に向かい脱出を狙う。
 一方ターゲットを探しているチンクは、その目に出口に向かっていく二つの姿を発見、床に着地するなり後を追い、
 メガーヌ達が出口手前まで来た瞬間に追いつき、メガーヌはガリューを使って応戦を始める。

 「邪魔をするな!虫が!!」

 チンクは空中からナイフを呼び出す、どうやら彼女の能力はナイフを呼び寄せることも出来るらしい。
 そして片手ずつ持つやガリューに接近、近接戦闘を仕掛ける。

 ガリューもまた応戦する姿勢で拳を硬質化、チンクの左手に持つナイフを受け止め
 右拳を振り抜くがチンクはこれを回避、むしろカウンターを狙い右手に持つナイフで貫く姿勢、
 しかしガリューはこれを弾き、回転しつつ左の裏拳で後頭部を狙うが、チンクはこれを読み頭を下げて回避、
 左に持つナイフを逆手に持ち替え回転と同時にガリューのわき腹を貫く作戦に出るが、
 ガリューは硬質化させた左肘と膝でナイフを挟み込み、刃を砕いてこれを防ぐ。
 チンクは一つ舌打ちを鳴らしガリューと距離を置くや右手に持つナイフを投げる体制に入る。

 「ガリュー!くっついて!!」

 メガーヌの指示を聞き、瞬間的に加速してチンクとの距離を詰めるガリュー。
 距離を置かれては、アリューゼとの戦いの際に起きた爆発を使用される可能性を考慮した為だ。
 恐らくはあのナイフに秘密があると、メガーヌは考えていた。

 それに接近戦はガリューの独擅場、更に補助魔法の効果で高速戦も可能となっている。
 戦況は此方が有利、そう思われたが、チンクの実力もかなりのもので
 ガリューと拮抗しており、このまま長引けば戦局は此方が不利になりかねなかった。


 その頃ゼストと青年の戦いは熾烈を極めていた。彼が放つ魔力変換魔法の威力は凄まじく、資質持ちなのではないのかと思える程、
 だがゼストも負けず劣らず、手に持つ槍の矛先に魔力を込め、撃ち放たれた魔法を切り裂き、
 衝撃波などを発生させては青年を牽制、接近戦を仕掛け
 実力は均衡していると端から見ればそう思われる戦いぶりであった。

 ところがゼストは青年の何処か余裕のある雰囲気を感じており、本気で戦っているとは思え無くなり始め、
 このまま長引けば此方に勝ち目がなくなり全滅は必死、
 其処で此処は一つ、メガーヌを脱出させる為にあの戦闘機人を撃破しよう、そう考えた。

 一方高速による接近戦にガリューとチンクの双方に疲れが見える中、
 ガリューの疲労による一瞬の足のふらつきを見逃さなかったチンク。

 両手に持つナイフを巧みに操りガリューの動きを封じ、
 空中にナイフを呼び出すや操作、死角からの多方向による急所攻撃を行おうとしていた。

 「これで終わりだ!」
 「そうはさせん!!」 

 チンクから見て後方の上空で叫ぶゼスト、次の瞬間ガリューに襲い掛かるナイフが砕け散り
 チンクの持つナイフの刃も砕け本人は宙を舞い、ゼストはいつの間にか床に着地していた。

 フルドライヴ、ゼストの切り札でオーバーブーストによる自身の能力を限界以上に高め
 殺人的な加速力、攻撃力を実現、代償に体への負担を完全に無視した技である。

 故にゼストはその場で膝を付き、口端から血が垂れる。どうやら内蔵の一部をやられた様子。
 そして宙を舞ったチンクは頭から床に着地、そのまま力無く倒れた。

 一方その一部始終を目撃した青年、一瞬の隙…相手の実力を知り余裕のある素振りを見せた矢先の出来事。
 この様な結末は青年は望んでおらず、また認められる訳も無く、それが叫び声となって辺りに木霊する。

 「っ!!レナァァァァァァァァァス!!!!」

 青年は急いでチンクに駆け寄り抱えると、チンクの状態は思わしくなく、
 右目は完全に潰れ、両手のぶらりと垂れ下がり、内蔵にも影響を及ぼしているのか、口端から血も除かせていた。

 「は………かせ………申し訳…………御座い………ません」
 「もう喋らなくて結構です。今はゆっくりと、お休みなさい」

 青年はそう告げると安心したのか、静かに眠るチンク。
 そしてチンクを優しく床に寝かせ、ゆっくりと立ち上がりるや、肩を震わせる。

 「よくも……よくも私の“レナス”を!!許せん!!!!」

 振り向いたその瞳には怒りと憎しみが宿り、大激怒しているのは明白。
 次の瞬間、青年の体から魔力が溢れ出すや、左手に持っていた魔導書が輝き光に包まれ、
 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃がついた槍へと変化、右手に収まる。

 「何だその槍は!」
 「黙れ!!」

 青年はゼスト達に向けて槍を振り払うと強烈な衝撃波を生み出し、
 その強烈な衝撃波は瞬く間にゼスト達を吹き飛ばし壁へと激突、血反吐を吐いて床に倒れ込んだ。
 ゼストは先程のフルドライヴで内蔵をやられ更に衝撃波で左腕、左足を骨折、
 ガリューもメガーヌを庇って重傷を負いフラフラの状態、
 先程とは全く異なる青年の実力、それは別人を相手にしているそんな印象を抱く程だった。

 「まずは貴様からだ」

 青年はゆっくりと風前の灯火となったゼストに近づいていくと、ガリューが立ち上がり
 力を振り絞り立ち向かう。だが満身創痍の体で戦える程相手は甘くは無く、
 槍を投げつけ、ガリューを三度切りつけた後、衝撃波を生み出して床へ叩きつけた。

 「戻れ…」

 青年の一言に槍は右手に収まる。このアームドデバイスを思わせる槍は青年の意志で、自由自在に操作が可能なようだ。
 一方で傷だらけのガリューの様態は思わしくなく昏睡状態、
 これ以上の戦闘は不可能と判断、其処でメガーヌはガリューを送還、
 代わりにゼストの前で両手を広げ、立ち塞がる。
 どうやらガリューのお陰で深刻なダメージは無いが、
 それでも衝撃波の影響は大きかったらしく、メガーヌの足は震えていた。

 「どけ………女」
 「隊長を……殺らせる訳にはいかない!」

 凜とした目で青年を睨みつけるメガーヌ、その後ではゼストが逃げろと叫んでいる。
 まるで一種のドラマのワンシーンのような光景、青年は眼鏡に手を当て卑猥な笑みを浮かべた。

 「成程………女、貴様その男を好いているのだな」
 「なっ!?何を言っているの!!」
 「男も…満更では無さそうな様だしな」
 「黙れ!!!」

 ゼストは吐き捨てるかのように叫ぶが、青年は見下ろすような目線で笑みを崩さぬまま言い放つ。

 「そうだ!良いことを思いついた…今この場でこの女を“犯そう”」
 「なっ!なんだと!!」
 「お前達にとって此ほどの屈辱はあるまい……」

 青年は槍を床に刺しメガーヌの前に向かうと、右手で胸ぐらを掴み服を引き千切り、
 豊かな胸が顕わとなり、メガーヌは両手で胸を隠しその場にへたり込んだ。
 しかし青年は左手でメガーヌの髪を掴み挙げ、余りにもの痛みに青年の左手を掴み、
 その隙を突いて右手を胸元に手を向けると、赤い呪印が現れ輝き出したその瞬間―――

 「あっ!ああああああああああああああああっ!!!!」
 「メガーヌ!!!」
 「う~ん良い声で鳴く、それでこそ“犯し概”があると云うもの」
 「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
 「まだだ、まだイカセはしない、じっくり…じわじわと“犯してやろう”」
 「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 メガーヌの悲痛な叫びが辺りに木霊する中、ゼストは右手に持つ槍を強く握り締める。

 「では…そろそろイキなさい」

 そう告げると胸元の赤い呪印は更に輝き、次に呪印の上に光り輝く球体が現れ、
 すぐさま結晶化、そして、静かにゆっくりとそれは青年の手の中に落ちる。

 「貴様!メガーヌに何をした!!」
 「なぁに、輸魂の呪で魂を取り出したまでですよ」
 「魂を…だと!!」

 輸魂の呪、これを用いれば魂を自在に扱えると青年は説明する。
 だが、本来苦しむハズが無い輸魂の呪だが、青年は手術の麻酔のような役割を持つ呪式をあえて消し、
 魂が引き剥がされる苦しみを与えたのだと満面の笑みで語る。

 「この……悪魔め!!!!」
 「よく言われます…さあ、次はあなたの番です。」

 青年はメガーヌの魂を床に捨て、ゼストの方へとゆっくりと歩き出し、
 ゼストは動く右手で無造作に槍を投げるが、難なく避けられ、頭を掴まれると同じ呪印を施される。

 「さぁ…“魂が犯される”気分、存分に味わいなさい」
 「ぐっぐああああああああああああ!!!!」
 「フフフ……フハハハハハハハハハ!!!!」

 ゼストの悲痛な叫びと青年の狂った叫びが辺りに木霊する中、
 叫び終わると同時に青年の手にはゼストの魂が乗っていた。
 青年は無造作に魂を捨てゼストの遺体に手を向ける。

 「まだだ。チンクが味わった苦痛、この程度ですむと思うな」
 「――待ちたまえ、レザード」

 急に響く声、するとレザードと呼ばれた青年の目の前にモニターが表示される。

 「………何のようですドクター」
 「君はその遺体をどうするつもりかね?」
 「そうですね……焼いて不死者の餌にでもするつもりです」
 「それは勿体ない。どうだろうその遺体私にくれないか?」
 「どういう事です?」

 ドクターは今から研究しようとしているレリックウェポンの被献体として、
 S+ランクの魔力持ちとAAでレアスキル持ちである二人の遺体が欲しいのだという。

 (被献体としてボロボロにされるのもまた、一興かもしれませんね…)

 そう考えたレザードは申し出を受け、二つの遺体を移送方陣で送る。
 当初の目的である施設の破壊は予定外の“収穫”の後に達成、
 局員の殺害は予想外の被害を被ったもの、無事達成を果たし、
 レザードはチンクを抱えこの場を後にした。



 レザードが消えたこの地、静寂が包む中で一人の男がゆっくりと立ち上がる。
 痛む右肩を押さえ左足を引きずりながら、二つの魂の結晶を拾い集める。

 「ゼスト………隊長……メガーヌ………副隊長……」

 二人の魂を握り締めながら、その場でうずくまり呟くアリューゼであった………






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最終更新:2011年07月16日 00:38