AM6:30
太陽が上るミッドチルダの朝…
時空管理局古代遺失物管理部「機動六課」
湾岸地区に置く六課の隊舎に「彼」はいた。
「ふぅ~っ………この世界の朝も俺の世界と変わらないんだな」
両腕を上げ背伸びという「人間くさい」動作を取った彼は「自分の世界」と
「この世界」における一日の始まりの風景がほとんど同じ事に少し関心していた。
エックスである。こうして朝日を見つめて太陽エネルギーの充填を行うのは
ミッドチルダに来てから数日の間、エックスの日課の一つとなっていた。
「さて、玄関の掃除でも始めるか」
第02話『機動六課の青いロボット』
見慣れぬ場で謎の敵の襲撃を受けたところを「高町なのは」に助けられたエックスは
彼女の所属するとされる部隊の隊舎に案内されると、他の職員の次の案内により接客室と
思わしき部屋で待たされる事となった。
「………」
エックスは一人になると、部屋にあった椅子に腰をかけて、現状までの出来事を振り返ってみることにした。
見知らぬ風景、アンノウンの襲撃、まるで魔法使いを思わせる高町なのはと名乗った女性の事
考えると色々と滅茶苦茶であると思える。
もしもこれが最近話題になっているテレビ番組「ドッキリでロボット!!」による仕掛けなら
早くネタバラしをやってほしい物である、というのがエックスの心情であった。
しかし、これがドッキリだとしたら演技がさすがに懲りすぎである。あのアンノウンの攻撃も
その爆発も演出だとするなら、あまりにもリアルすぎだし、なのはに関しても
エックスの視点からしたら、あまりにも現実離れをしていた。
考えても無駄に頭がまとまらなくなると机に幾つか置かれていたパンフレットらしき
物を手にして読んでみる。パンフレットに記載されている文章は文字こそ自分の知っている
英文に似ているが微妙に違っている。
「まさか…本当に俺は…」
重苦しい表情を浮かべながらエックスの不安と疑問がほぼ確信へ変わりつつある所へ
ドアが開いて三人の女性が入ってきた。茶色で短めの髪型の女性と金髪でロングヘアの女性、そして高町なのはである。
しかし、なのはのその姿は先程の魔法少女のような衣服やツインテールの髪型ではなく
制服らしき服装であり髪型もサイドポニーになっていた。最初の姿との印象の違いに少々驚くエックス。
「お待たせしてしまってすいません」
「いえ、そんな事はありませんよ」
「まず、自己紹介をしないといけませんね、もう名乗りましたけど、改めて自己紹介させていただきます。
わたしは管理局機動六課所属の高町なのはです」
「同じく、機動六課所属のフェイト・T・ハラオウンです」
「私は機動六課部隊長の八神はやてです」
(機動六課…?やっぱり管理局と言う名称と同じで聞いた事がない名前だ)
「次にあなたのお名前をお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい、わかりました。私はエックス……エックスです」
以外にもアッサリと自分の名前を名乗るエックスではあるが、この時点ではまだ自分が
イレギュラーハンターである事は伏せておいた。
「エックスさん…ですね?」
「あの…私には対して別に敬語でなくても大丈夫ですよ」
「そうやね…それじゃあエックス君?」
彼の緊張を少しでも解くために隊長陣はそうする事にした。
そんな中、次に口を開いたのは、なのはとはやてである。
「まず…エックス君の状況だけど…ここはあなたの世界とは違う異世界なの」
「自分の世界とは違う異世界…ですって?」
「そうや、ここは魔法文化の世界ミッドチルダや…エックス君は自分とは違う世界に飛ばされてしまったんや」
「そういった人の事を次元漂流者といってその人を保護し元の世界に帰すのが時空管理局の勤めの一つなの」
彼女達の説明によってエックスは今までの不安や疑問は完全な確信に変わった。
それも自分達の科学文化とは違う魔法文化である。これならあのアンノウンや
なのはの事についてもある程度は説明が付くだろう。この後「ミッドチルダ」の事や
「時空管理局」の事を聞き少しずつ納得するエックス。
「俺は…私は戻れるんですか?」
「せやから、エックス君のいた世界の事を教えてくれると助かるんやけど…」
「そうですね…わかりました」
エックスは自分の言えるだけの事を出来るだけ話した。
自分の達の世界の事、自分の事、レプリロイドの事、人間とロボットの社会の事
イレギュラーの事、イレギュラーハンターの事、レプリロイド達による反乱の事
そして…自分が反乱軍、即ちかつての同僚達と戦った事……
「人間とロボット…科学が発達した世界…ミッドチルダとは逆の世界なんだね」
「でも、エックス君の経験したと言う戦い…とても辛かったんやね…」
「イレギュラー…人の為に造られた筈なのに…なんだか可哀想…」
「はい…でも、人々の「剣」となって「盾」となるイレギュラーハンターである俺の役目です。
それに、イレギュラーは必ずしも破壊される訳ではなく、社会復帰する例もありますから」
「エックスもレプリロイドなんだよね?本当に人間と同じの様だね」
自分達の世界の事を説明したらいつの間にかちょっとした雑談となっていた。話も本題に戻り
エックスの説明をこれを基にデータベースに該当の世界の検索が行われる。
なんとか自分は元の世界に戻れるのかとエックスは安心する…。しかし、この後のはやての
報告にエックスはショックを受ける形となる。
「残念やけどエックス君の説明した該当世界はデータベースには無いんよ…」
「え……!?」
まさかとは思ったが…辛い回答に気を落とし、しょんぼり気味なるエックスに
なのはとフェイトのフォローが上手く入る。
「でも安心して、ちゃんとあなたを元の世界に帰してあげるから」
「ただ…無数にある世界の中から幾つかの情報から一つの世界を特定するのには時間が掛かるの」
「それまであなたは次元漂流者として機動六課で保護を受ける事になるよ」
「すいません…しばらくの間よろしくお願いします」
かくして次元漂流者…即ち次元を超えた迷子になったエックスは機動六課で保護を受ける身となった。
なのはが生活用の部屋へ案内する時にエックスに少々気になる事を話しかける。
「エックス君はロボット…レプリロイドだって言ってたけど動力とかは大丈夫なの?」
「俺は太陽エネルギーで動いてますからエネルギー等の事は基本的に大丈夫ですよ。あとは定期的に
オイルの交換などすれば普段時に関しては問題ありません」
「へぇ、なかなかエコロジーなんだ…これなら動けない等の事は大丈夫だね……じゃあ何かあったら
遠慮なく聞いてね。」
「ありがとうございます…なのは…さん?」
「それでいいよ、皆そう呼ぶから。今日は色々あって疲れてるよね?ゆっくり休んでね」
「わかりました。それじゃあご遠慮なく…」
エックスに笑顔を見せると、なのはが部屋から出て行きドアが閉まった。エックスは部屋のベッドに倒れることにした。
自分が寝る時はエネルギー回復用のカプセルに入って眠るのが大半だったので、ごく普通のベッドで寝る事は
エックスにとって何かしらの新鮮感があった。その後、やはり疲れたかのように大きくため息をついて。
「俺は本当に魔法文化の世界に飛ばされたのか……」
レプリロイドであるエックスでも疲れるのは無理が無い。何の前触れも無く「異世界に飛ばされました」
なんて言われたら誰でも驚きは隠せないだろう。他のレプリロイドより更に一倍考え「悩む」事が
出来るエックスにとっては尚更であった。
「魔法の世界…時空管理局…ミッドチルダか……今はやっぱり休む事にしようか」
今日の出来事、聞いた事を思い出し、疲れたエックスは窓から見える湾岸とその先から見える街を
少し眺めると、なのはの言う通りその日はぐっすり休む事にした。
「えーっと、あなたですね?はやてちゃんの言っていた迷子の方は」
「はい…えーっと、君は……妖精…なのかな?」
「うーん、妖精と言ってくれるのは嬉しいですけど、ちょっと違いますね。私はこの機動六課部隊長
の補佐であり、ロングアーチスタッフのリインフォースIIです。リインと呼んで下さい!」
「ああ、よろしくリイン…(本当にこの世界は色んな人がいるんだな…)」
次の日、隊舎案内役のリインフォースIIを見てからエックスは、あまり驚かなくなるようになる。
何度もこちら側の世界と比べたら色々な意味で気力が持たないらしい。
隊舎の案内をしてもらった後に食堂でニュースらしき番組を見てエックスが色々気づく事もあった。
ロボットと魔法の事を除けばこの世界の社会も自分の世界の社会と変わりが無いように思えた。
この世界に少しながらも興味を持ったエックスにとってこれ等は楽しみと言う物があったようだ。
「八神部隊長、お茶が入りました」
「あーエックス君、わざわざおおきにな」
「いえいえ、これ位はお安い御用と言う物ですよ」
「でもエックス君ってホンマ律儀やね。色々とお手伝いしてくれて関心やわ」
「寝床を貸していただいてるのに、何もしない訳にはいきませんから」
次にエックスが努めた事は、六課のお手伝いに徹する事であった。
エックスは特に人情深い訳ではないのだが、元の世界に帰れるまで、ただ単に何もしないと言うのは
やはり何かしら申し訳無い気持ちがあったのだ。まずは、お茶を入れる事から始まり、次に玄関掃除
廊下掃除、トイレ掃除、窓拭き、外の草むしりに芝刈り、さらには局員の服の洗濯(ただし、男性用限定)
ご飯作りの手伝いまで、その範囲は止まる事を知らない。おまけにエックスの手際の素早さや
人柄の良さもあり、その姿勢は局員も目を見る物があった。数日の間でエックスは次元漂流者と言うよりも
機動六課のお手伝いロボットと言う印象が付くようになっていた。
しかも、ご飯作り時に関しては手をとにかく綺麗に洗って更にはエプロンまで着るから尚更である……
エックスは仮にもイレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長と言う名の肩書きを持っているのである。
部下達がこれを見たらある意味唖然するかもしれない光景である。というか隊長を勤めるような
レプリロイドに見えない……
「よし、今日はやる事はもう無いかな」
六課の手伝いを終えて自分の部屋へと戻るエックス。
「早く俺の世界、見つかると良いんだけどな…皆は大丈夫だろうか…」
エックスは自分の世界の事が心配であった。イレギュラーハンターの事や
自分の部下達の事、そして何よりイレギュラーの事で心配であった。
今でも自分の世界ではイレギュラーが発生し、自分抜きで他のハンター達が戦っている事を考えると
エックスは辛くなってしまう。それに自分の事で皆も心配している筈である。
願わくば、このまま何事も無く無事に自分の世界に帰れればと考えるエックス。
だが、ミッドチルダで起こる事件に巻き込まれる事をエックスはまだ知らなかった………
おまけ……のような物
エックスはゲーム機の電源をオンにするとあるモードを選んだ
何やらキーワードのような文字を入力、それが終わるとスタートを押す。
そして―――――
ブブ~~♪
エラーの音である。
パスワード…それは昔のゲームでは中断後に再開する為の重要な物である。
しかし、そのパスワードを忘れてしまったら一からやり直しである。
「パスワード…エラー……だって……?」
はやてに元の世界が見つからなかった事を告げられた時以上に酷く
愕然とするエックス。
やっぱりメモは必然である………
最終更新:2009年03月08日 19:10