「ふぅ、これで良しと。あぁモスキー君、ちょっとかよ子さんの所までコレ届けて貰える?」
「あ、はい。このタッパーですか?」
「そうそうそれ、明日はレッドさんとの対決だからヤル気を出して貰う為にもちゃんと精をつけて貰わないと♪あ、中の汁が漏れるといけないからちゃんと水平に持ってね。」
「解りました。それじゃあ行って来ま~す!!」
「電線に引っ掛からない様に気を付けてねぇ~それとレッドさんにもちゃんと挨拶するんだよ~!!
………はぁ………」
ヘンゲルとの会談から数日経った夕方、ヴァンプは今日の夕飯のおかずを調理しその一部をお裾分けする為、赤い大きな目が特徴の蛾型怪人モスキーに頼んだ。
だが彼が去った後に漏れたヴァンプの溜め息はどこか疲れた様子だった…
『天体戦士リリカルサンレッド』この物語は川崎にて繰り広げられる善と悪の壮絶な闘いの物語である―――
FIGHT.00『忍び寄る、異世界への魔手!!』(後編)
~翌日~
「ったくお前らは毎度毎度懲りずによぉ…」
いつもの公園にて繰り広げられた善と悪の壮絶な戦いの後、半ズボンに妙な文章がプリントされたTシャツ(今日は『カラスの天敵はユリカモメ』と書かれている)、
そしてヒーロー独特のデザインをした赤いマスクが特徴的な男性…溝ノ口発の真っ赤なヒーロー『天体戦士サンレッド』がタバコを吹かしながらフロシャイムの面々に説教をしていた。
無論ヴァンプをはじめとしたフロシャイムのメンバーが正座をしているのは言うまでも無い…
「大体よぉ、自分達から時間を指定しておいて遅れて来んのはどう言う事だよ?やる気あんのかア゛ァ?」
「そんな滅相も無い!!私達やる気は充分に「うるせーから黙ってろ。」す、すいません…」
レッドはヴァンプの抗議を遮り二本目のタバコに火を付け、少し間を置いてから話を続ける。
「おまけによぉ…何で相手がまたコイツなんだよ!?前に倒したじゃねーか、パワーボムでっ!!」
レッドが怒鳴りながら指を指した先にはヴァンプの隣で鼻血を垂らしつつも無表情…もとい何も考えずにボーッと正座している細身ながらも逞しい体つきをした青い狼型怪人、
タイザがいた。
「実はこちらの書類ミスで今日来る筈だった怪人が来なくて…それで都合のつく怪人がタイザ君しかいなくてその…」
ヴァンプは弁明をするがどうも歯切れが良くない。
「それでまたコイツかよ…もういい加減にしてくれよ。意志疎通の取れない奴や花粉症になってる怪人が出て来るわ…最近グダグダ過ぎるんだよお前ら!!
ホンットこっちのヤル気も失せてくるわ、マジで!!」
「えぇそんなぁ!?ヤル気を出して貰う為に昨日お裾分けしたじゃないですか、ブリ大根!」
「どこの世界にブリ大根を貰ってヤル気の出るヒーローがいるんだよ!? だいたい昨日のは生臭かったしよぉ!」
レッドは感情に任せて怒鳴り散らし、ヴァンプも反論をするがあっさりと一蹴されるが…
「アレ、レッドさんもやっぱり生臭く感じたんですか?」
そこに割って入った者がいる。タイザの隣で正座をしていたフロシャイムの戦闘員2号だ。
「え、もしかして2号も?」と、更に隣で正座をしていた1号も続く
「1号もか。いやぁ良かったぁ~昨日の晩もしかして俺だけなんじゃね?と思って心配したんだよ。」
「あ~解る解る(笑)。ヴァンプ様に限ってまさか…と思って中々言い出せなくてさぁ~タイザさんはどうでした?」
「わすれた~でもおいしかったぁ~。」
「えぇそうだったの!?そう言えば昨日は生姜を入れ忘れてたような…あらやだどうしよう、後でかよ子さんに謝らないと。」
「お前ら俺を無視して話してんじゃねぇ!!つーかヴァンプ、俺には謝んねぇのかよ!?」
「え~だってレッドさん、味音痴じゃないですか…」
「臭い位解るんだよ俺でもっ!」
そんな問答を繰り返していく内に、だんだんと話がそれていく。
「ったく…おい戦闘員、二人共コーヒー買って来い。微糖な。で、いったいどうしたんだよヴァンプ?」
レッドは呆れながらもベンチに腰掛け、戦闘員をパシらせてからヴァンプに問う。
「え、何がですか?」
「とぼけんな。対決がグダグダになんのはいつもの事だけどよぉ、お前が誰かに言われるまで料理の失敗に気づかねぇ何て結構な『事』じゃねぇか…一体何があったんだよ?」
ヴァンプは最初キョトンとしていたがレッドの指摘に言い返せず、ゆっくりと口を開く
「あの、実は…悩んでる事があるんです。」
「はぁ?悩み?何だよ珍しいじゃねぇかお前に悩みなんてよぉ、何だリストラか?それともクビか?まさかその歳になって恋の悩みとか言い出すんじゃねぇだろうなぁ~(笑)」
レッドは興味深げに身を乗り出し、四本目のタバコに火をつける。
「いえ、そう言うのじゃなくて…実はその、異世界への出張があるんですよ。長くて一年ほど…」
「はぁ出張?何だよ全然たいした事ねぇじゃねーかツマンネェ…」
レッドはヴァンプの期待外れな悩みに肩を落とす。
「そ、そんな…レッドさんは私達が一年も出張するの心配じゃ無いんですか!?」
「何でヒーローが悪の組織の心配しなきゃならねーんだよ?俺は一年もお前らに振り回されずにすむんで清々するぜ。」
「ヒ、ヒドイ!私が向こうの水は合うかとか言葉は大丈夫かとか、向こうの病院にかかる時保険料はどうなるのとかで色々と悩んでいるのにそれを他人事みたいに…」
「まんま他人事じゃねーか…だって俺、他人だし。」
「すいませーん遅れました!!」
「はぁはぁ、コーヒーが売り切れてまして…コンビニまで行ってました…ってどうしたんですかヴァンプ様!?」
戦闘員達が息を切らして戻って来たのは丁度ヴァンプがワナワナと震えだした時だった。
「もぅいいです!!私達は来月の金曜に出発しますけどレッドさんなんか他の怪人にヤられちゃえばいいんです!
1号、2号、行くよ!!ほらタイザ君も起きて。全くレッドさんがここまで薄情だとは思わなかった、私。」「フガ、フアァイ…」
「あ、ヴァンプ様待ってくださ~い。」
「レッドさん、コーヒーです。失礼しましたっ!」
ヴァンプはいつの間にか寝ていたタイザを起こし、プンプンと言うSEが似合う剣幕でスタスタと帰ってしまう。そして戦闘員もレッドにコーヒーを渡して後を追う。
「おぅおぅ行ってこい。そんでハクでもつけて戻って来いやぁ~!! ……………ったくあんな怒んなくてもよ…」
レッドは帰ってくヴァンプ達に野次を飛ばす。そして彼らが去った後ボソリと愚痴り、ベンチの背にもたれながら貰ったコーヒーに口を付ける。
「チッ、アイツら微糖つったのにまた甘ったるいの買ってきやがって…」そう呟くとレッドはグイッとコーヒーを飲み干した。
~出発当日~
「町内会の池田さんやお向かいの森末さん、それにかよ子さんや他のご近所の皆さんとも挨拶を済ませたし…それじゃあ皆、忘れ物は無いね?」
荷物を纏め、支度を済ませたヴァンプは同行する戦闘員、怪人達に声をかける。
ちなみに今回同行するのは戦闘員1号、2号、タイザ、メダリオ、カーメンマン、ウサコッツ、デビルねこ、Pちゃん改、ゲイラスの9人であり、他の怪人たちは後発組として出発する事になっている。
「じゃあロウファー、後の事はお願いね。解らない事とかがあったらちゃんと聞くんだよ。ご近所の皆さんや怪人の皆は良い人だから教えてくれるし。」
「うん、任せて兄さん。兄さん達がいない間、ちゃんとアジトの番をしとくよ。」
川崎支部の指揮にはヴァンプの弟でありフロシャイム静岡出張所隊長であるロウファーが研修を兼ね川崎支部将軍代理として就くことになった。
「うん、天井さんもいるしロウファーなら大丈夫だしね…それじゃあ皆、少し早いけど行くよ。新宿駅に行くからまずは溝ノ口に向かうね、
道中は一列になって進むから車に注意してね~」
周りのは~いと言う返事の後、ヴァンプを先頭にしたフロシャイム先発組はゾロゾロと連なって歩き出す。だがその道中にある人物が現れた。
「おいおいお前ら…まるで遠足みてぇじゃねぇか。」
「あ、レッドさん…」
レッドである。彼は普段の格好(今回は無地)でヴァンプ達の前に立っていた。
「どうしたんですかレッドさん?ま、まさか忍び寄る魔の手から異世界を守る為に私達を抹殺しに…」
「バカ、そんなメンドクセーことしねーよ… ほらよ、餞別だ。」
レッドはそう言うとポケットからあるモノを取り出し投げ渡す。ヴァンプや怪人達は若干身構えていたが、ヴァンプは落としそうになるも何とか投げられたモノをキャッチする。
その手にあるのは赤い色をした一見おもちゃの様に見える銃だった。
「これってサンシュートじゃあ…悪いですよこんな大切なのを貰うなんて!?」
「バカ、誰がやるなんて言ったよ。貸すだけだ『貸す』だけ!!帰ってきたら返せよな。
それによぉ…勘違いいしてんじゃねぇぞ?この前かよ子に棚の修理やらされて、そん時に偶然見つけたんだ。そんで手ぶらだと何か落ち着かねーから持ってきただけだ
…別にお前らの為にわざわざ探した訳じゃねぇんだからな!!」
レッドは普段から赤い顔を更に赤くさせながら捲し立てる。
「レッドさん…まさかヒーロー物お約束の『悪の組織に武器を奪われピンチになる』と言うシチュエーションをグスッ、わざわざ…あ、1号ちょっとティッシュ貰える?御膳立てしてくれる何て…」
「だぁから違うつってんだろ殴るぞテメェー!! つーか時間とか大丈夫なのかよ?」
「あらやだ困る、せっかく転送ポートを手配して貰ったのに遅れたら迷惑がかかっちゃう。それじゃあレッドさん、コレ借りてきますんで」
ヴァンプは涙ぐんでいた顔を切り替え行こうとするが、急に立ち止まりレッドの方を向く。
「あの、レッドさん…」
「何だよ?」
「再び我等が現れる時それがサンレッド、貴様の最後となる…それまでせいぜい首を洗って待っておるのだ!!」
「いいからさっさと行ってこいバカッ!!」
「痛っ!?」
いらんことを言って殴られるヴァンプであった。
「レッドも素直じゃないよねぇ~」
「アレじゃね?ほら、いつも苛めてた奴が引っ越すんで寂しいとか?」
「あ~言えてる言えてる。何かそんな感じじゃん(笑)」
「テメェ等もゴチャゴチャぬかんしてんじゃねーよ!!」
「「「痛ぇっ(い)!」」」さらに殴られる怪人達だった。
~新宿駅~
「う~んやっぱり平日でも新宿は混んでるねぇ…」
「それでヴァンプ様、転送ポートってどこにあるんですか?」
「ちょっと待ってね、確か京王百貨店口改札の男子トイレだから…あぁこっちこっち。」
ヴァンプ達は京王線京王百貨店口にある男子トイレの個室に向かう。そして戸を開けるとそこには青く輝く魔方陣がある。
「それじゃあ皆、準備は良い?他の人に気付かれないように早く入っちゃおうね。」そしてフロシャイムの面々は転送ポートへ順に入り、次元航行艦の前に現れる。
「あ~向こうに着いたら彼女に連絡しないとなぁ…」
「あ、そう言えば1号も遠恋か。俺も連絡しないとなぁ~」
「魔法の世界って楽しみだねネコ君!!」
「うん、良い糖尿病治療があると良いなぁ…」
「℃¥$¢£%#♂♀°*&∞∴」(とにかく楽しみらしい)
「向こうでバイト探さないとなぁ~」
「俺、向こうのカップ麺がどんなのか楽しみだぜ♪」
「またカップ麺かよ(笑)つか船に乗って酔うなよな~」
「お出かけ!お出かけ!」
(レッドさん…頑張ってきますね、私達)
彼らはそれぞれの思いを胸に船へと乗り込む。
だがボディーチェックの際サンシュートが管理局法に引っ掛かり、急遽ゲイラスがレッドへの返却の為に後発組へとシフトすることになった…
~続く~
最終更新:2009年03月07日 03:14