~ミッドチルダ中央区画湾岸地区・住宅地某所~

 「ヴァンプ様、食器はここでいいですか?」
 「あぁそこで大丈夫だよ1号。よく使う食器は目線の位置に、コップ類は上の方、大皿とかの重いのは下の方に入れといてね。あ、ガラスのコップ類は滑り止め代わりに下にコースターを置いとくんだよ。」

 「ヴァンプ様ぁ~冷蔵庫ここで良いですかぁ~?」
 「タイザ君、冷蔵庫はそこじゃなくてこっちだよ。置く時は壁との間に少し隙間を開けてね。」
 「あい。」

 「ほぉら高い高いでちゅよぉ~これで高い所にも手が届きまちゅねぇ~(笑)」
 「ちょ、やめてよ!?僕飛べるんだからさぁ!!」
 「真面目にやろうよカーメンマン…ιウサちゃんも嫌がってるんだしさぁ。」
 「何、もしかしてお前もやりたいのかよネコ?だったら俺がやってやるよ。」
 「ほらほら四人とも遊ばないの、もうすぐ2号とPちゃんが買い出しから戻ってくる筈だから…そうしたらお昼にするからね。」

 川崎からミッドチルダに現れたヴァンプ達は『フロシャイムアジトミッドチルダ支部(仮)』の運営に向け着々と準備(荷ほどき)を進めている。そして彼らは次元征服の先駆けとしてある一大作戦を決行しようとしていた。

 「それにしても良い物件が見つかりましたねぇ~ヴァンプ様。」
 「うん、ホントに良かったよぉ~何でも元々学生寮だったらしいんだけど老朽化で取り壊す予定だったみたいでね、そこをウチ(フロシャイム本部)が安く借りたんだって。
 おまけに日本出身の人が設計したらしいから日本風の家屋で落ち着いた雰囲気だしね。」
 「あぁ~それで何かあっち(川崎支部)と似た感じなんですね。」
 「そう、そこが気に入ってるの私。交通の便はあまり良いとは言えないけど海が近くて見晴らしも良いし、空気もきれいだから飛べる子にも良いと思ってね。それになんと言っても町の雰囲気が良いと思うの。」
 「確かに治安とかも良さそうですもんね。少し歩いた所に警察署みたいなのもありますし。」

 彼等は荷物の整理をしながら悪の組織とは到底思えぬ程の平和な会話をしていた…そしてそれも休憩に差し掛かろうとしていた。
 「只今戻りましたぁ~」
 「℃¥$¢£%◇◎§@*」
 「あ、帰ってきたみたいだね…それじゃ皆~今やってる作業が終わったらお昼にするからねぇ~。そしたら午後からはちょっと出かけるよぉ~!!」
 ヴァンプは2号達が買い出しから帰ってきた事に気付き皆に声をかける。そして周囲から『は~い!!』という元気な返事が返ってきた時、近くにいた1号がふと思った事を尋ねる。

 「あれ?ヴァンプ様、まだ結構荷物が残ってますけど良いんですか?」
 「うん良いの。荷ほどきは後でも出来るけど、午後にやる事は大事な事だからね…よし!」
 1号の問いに答えながらヴァンプは割烹着の紐を結びキッチンへ向かい、午後からの内容をを口にする。

 「午後から頑張らないと…『ご近所への挨拶回り』!!」

 フロシャイムミッドチルダ支部(仮)が行う最初の作戦。それは新参である自分達と地元の住人との円滑なコミュニケーションを進め、相互理解を深める第一歩『ご近所への挨拶回り』である…

 『天体戦士リリカルサンレッド』この物語は川崎から現れた怪人たちがミッドチルダにて繰り広げる善と悪の壮絶なる闘いの物語である―――

 FIGHT.01『邂逅、法の守護者と悪の組織!!』

 ~ミッドチルダ中央区画湾岸地区・古代遺失物管理部「機動六課」本部隊舎~


 雲一つ無い青空の下、機動六課本部隊舎では多くの人間が机やその他事務用品等の様々な機材を隊舎に運び入れており、隊の始動に向けて着々と準備を進めていた。そしてその隊舎の前にある広い敷地に二人の女性が佇んでいる…

 「なんやこーして隊舎をみてると、いよいよやなぁって気になるなぁ…」
 「そうですねはやてちゃん…いえ、八神部隊長!」
 陸士の制服の上から厚手のコートを肩にかけた短い茶髪の華奢な女性、六課部隊長の八神はやてと同じく陸士の制服の上から白衣に身を包んだ金髪でショートボブの女性、医務官のシャマルは六課隊舎と向かい合う様な形で談笑をしている。
 その暖かな雰囲気は姉妹の様であり母子の様でもあったが、そこから感じられる親愛の「絆」と言うものには何ら変わりは無かった。

 「いい場所があって良かったですねぇ。」
 「うん、交通の便がちょう良くないけどヘリの出入りしやすいし機動六課には丁度ええ隊舎や。」
 「それに…なんとなく海鳴に雰囲気が似てますしね。」
 「あはは、そう言えばそうやな♪」
海風に髪やコートの裾をたなびかせながら、二人はまるで新学期の始まりを楽しみにしている子どもの様に話に花を咲かせる。だがそんな中、はやての通信端末に連絡が入る。

 『失礼します。八神部隊長、今お時間宜しいでしょうか?』
 はやてが端末を開くと、それは栗色の長髪に幼い顔立ちで眼鏡をかけたロングアーチスタッフの女性、シャーリーことシャリオ・フィニーノからの通信であった。
だがその表情はどこかぎこちなく、普段の彼女の明るさと比べると暗い感じがする。
 「あぁシャーリー、今大丈夫やけどどないしたん?何かちょい元気が無さそうやけど。」
 『今玄関に団体の方々が見えていらっしゃるのですがその、どの様に対応をしたら良いのか困っておりまして…』
 はやては六課がまだ始動前と言うこともあり、いつものフランクな態度になるもそれに対するシャーリーは少し困ったような表情を浮かべ、苦笑するばかりであった。
 「団体の来客?特に今日はそんな予定は無かった筈やけど…まぁえぇ、私は今日はまだ暇やし玄関に行けば良いんやね?念の為応接室の用意をしといてな。」

 そう言うとはやては端末を切りシャマルを伴って玄関へと向かい、件の団体に対する予想を立てながら歩き始める。
 (シャーリーは若くても優秀なロングアーチのスタッフや。そのシャーリーが応対に困るほどの相手…管理局と対立をしている団体かもしれへん。
 確かにここに六課が建つ時も少なからず近隣住民からの反対があった。以前理解を求めるための説明会を開いたけど納得出来ていない人もいた。だからそんな人達が抗議に来てもおかしくは無い…でも、だからこそ今ここで理解を深めて貰う為にもきっちり話をせなあかん。)
 はやては気持ちを引き締め玄関へと足を進める。そしてその先にはある意味予想を上回る一団がいた。

 「あ、どうも~川崎から参りました『悪の組織フロシャイムミッドチルダ支部』将軍のヴァンプです。あのこれ…お口に合えば良いんですがウチの組織で作っている『フロシャイムソーセージ』です。つまらない物ですがどうぞ~」

 引き締まった肉体に特撮物に出てきそうな格好の集団、リーダーらしき小柄な男性?の側には抱き上げたくなる様なぬいぐるみ…
 更に見た目とは裏腹に目の前にいる集団からは敵意や殺意等の攻撃的な気配は感じられず、逆にこちらが和んでしまいそうな程ほのぼのとした空気を纏っている。
 (確かにこれは応対に困るわな…)
 「初めまして、古代遺失物管理部機動六課部隊長、八神はやてです。」
 はやては見た目と空気のギャップに辟易気味になりながらも応対を始めた。



 「すいません、荷物が多くて…ちょい落ち着かないかもしれへんけどまぁくつろいで下さい。」
 「いえいえ良いんですよ、こちらが押し掛けて来たんですし…それじゃあお言葉に甘えて失礼しますね。」
 簡単な自己紹介を行った後、はやては先程シャーリーに手配を頼んだ応接室にヴァンプ達を招き入れていた。本来なら突然来訪した者にする事では無いが彼らが悪の組織と自ら名乗っている以上、素性や目的等の話を聞く必要があると判断したのだ。

 「お茶とお菓子をどうぞですぅ~。」
 「おい見ろよカーメンマン、リ○ちゃん人形が浮いてるぜ。」
 「ばーかよく見ろ、あの体型のバランスはバ○ビーだろうが。」
 「違います!リィンはリ○ちゃんでもバ○ビーでもGIジ○ーでもありません!!」
会談は銀の長髪を持つ小さなユニゾンデバイス『リィンフォース・ツヴァイ』が茶を用意し、カーメン達のからかいから始まった。

 「そう言えばヴァンプさん達は川崎…つまり地球から来たんやねぇ~、私らと一緒や!」
 「えぇ、はやてさんもですか!?もしかして地球の大阪からとか…?」
 「いやぁ私はこんなしゃべり方やけどちゃいます。六課の中では私と私の家族、それと両分隊長が地球…日本の海鳴からですねん。」
 はやてから海鳴という地名が出た瞬間、ヴァンプ達の間に衝撃が走る。その表情は伺えないがじんわりと汗をかき、警戒というよりは怯えの色が強く場の雰囲気は静寂につつまれ約一名の煎餅を食べる音だけが響いていた…

 「(ねぇねぇ、海鳴ってなんだったっけ?)」
 「(バカ、覚えてねぇのかよウサッ!?先月の春のフロシャイム便り『怪人が行ったら凄く危険な場所ベスト3』に北海道と同一首位で載ってただろ!!)」
 「(そうだぞウサ、しかも海鳴は十数年近く一位にいてなぁ…吸血鬼やメカメイド、超能力者や退魔師に妖狐がいるとかでウチの支部がないんだよ!!俺だってあそこの地域限定のカップ麺は我慢してるんだ…)」
 「(ちょっと皆、人の地元の悪口を言うのは良くないよ。)」
 「タ、タイザさん…家じゃないんですからあんまりボロボロとこぼしたらだめですよι」
 「ヨーユゥ、ヨーユゥ♪」
 「う~ん、私も10年以上海鳴にはいたけどその話は聞いたこと無いわぁ~」

 ウサコッツ達は小声で話、1号がタイザに話しかける事で場を取り繕うとしたが聞こえていたらしく場に気まずい空気が流れる。
 「ね、ねぇヴァンプ様!僕飽きちゃったからねこ君達と遊びに行っても良い?」
 「そうなのウサコッツ?でも帰るのがいつになるかわからないし…う~んどうしようかなぁ。」
 「ごめんな~退屈させてもうて…そや、もし良ければ隊舎の中を見てかへん?」
場の空気を変えようとしたウサコッツに対してはやては隊舎の散策を提案する。フロシャイムの面々に対して初対面ながらもつい仲間内の様にフランクな感じになってしまうが、決して警戒を解いたわけではない。
 ここでバラバラに動かれるよりはまだ自分の目が届く、見られても困る物が未だ無い六課の中にいてもらった方が良いと考えたのだ。

 「えぇ、良いんですか!?」
 「勿論ですよ。リィン、案内をお願いな。」
 「はいですぅ!!」
 「う~んそれじゃあお願いしましょうか…ウサコッツ、デビルねこ君、Pちゃん、ちゃんとリィンちゃんの言う事を聞くんだよ。初めての場所だからってはしゃいで周りの人に迷惑をかけないようにね。」
 「「「はぁ~い(∇≒≪♪♭♯‰√)!!」」」
 「それじゃあ行くですよぉ~」
 リィンの号令を合図にアニマルソルジャーの皆はトテトテと集まり、はやては先程のやりとりを見てまるで親子みたいやな…と思い苦笑する。
だがその時、先程から顔色の優れなかったデビルねこが突然倒れる。最初は只転んだだけかと思ったが息が荒く、体も小刻みに震えているのでどうやら違うらしい。
 「デビルねこ君まさか…」
 「だ、大丈夫ですかぁっ!?」
 「なんや、どないしたんや!!」

「はぁ、はぁ…ご、ごめんなさいヴァンプ様。今日ゴタゴタしてたから…インシュリンを射ち忘れちゃって…」
 デビルねこはいつもよりも耳をピクピクさせ、目に涙を浮かべている。

 「しっかりしてデビルねこ君!!だ、誰か糖分を…飴よりも吸収の良いジュースとかを!」
 「タイザさん、甘いお菓子か何か持って無いんですか!?」
 「食ベタ、食ベタ!!」
 「糖尿!?こんなかわいらしい子が糖尿なんか!!シャマル~ちょいと来てぇっ!!」
 この後、はやて達は話をする所ではなくなったのは言うまでもない…

 『天体戦士リリカルサンレッド』この物語は川崎から現れた怪人たちがミッドチルダにて繰り広げる善と悪の壮絶なる闘いの物語である―――



 続く


~おまけ~
 『ホントは凄いぞ!!フロシャイム怪人図鑑(ミッド編)』

 ヴァンプ…本作の主人公でありカリスマ主夫な現ミッドチルダ支部(仮)の将軍。ミッドに来た感想は「地球と似た雰囲気で安心できる」との事。
出張目的は『異世界でのアジト運営に向けてのデータ収集』であるがヴァンプ自身はご近所付き合いや自治会への積極的な参加を第一に、後は買い物ルートや新たな献立、新しい怪人のスカウト等ついでに打倒サンレッドに繋がる何かがあれば良いと思っている。

 戦闘員1号&2号…フロシャイムの戦闘員。わかりやすい違いは額の数字と声、別に技の1号力の2号と言う訳ではない。ミッドでの抱負は「新しいメンズブランドの開拓」

 ウサコッツ…ウサギのぬいぐるみ型怪人。かよ子(レッドの彼女)と当分会えなくなる為少しブルーだったが見知らぬ土地に来て興奮気味、ミッドでの抱負は「今度こそ自分が『可愛い』ではなく『恐ろしい』怪人である事を証明する」必殺技はデーモンクロー

 デビルねこ…ネコのぬいぐるみ型怪人。糖尿は治りかけていたが油断してしまい再発、ミッドでの抱負は「今度こそ糖尿を完治させる」必殺技は頭突き

 Pちゃん改…トリのぬいぐるみ型怪人。現在はデバイスの音声機能を自身に組み込もうか思案中、ミッドでの抱負は「改造に使えそうな技術を探す」必殺技は破壊光線とアトミックミサイル

 タイザ…オオカミ型怪人。ミッドに来た感想は「楽しい」との事、目標も必殺技もとくに無し

 メダリオ…ヒト型怪人。ミッドに来た感想は「こっちのカップ麺は無添加で驚いた」との事、ミッドでの抱負は「ミッド製カップ麺の全ラインナップ制覇」必殺技はマシンガンシャワーにメダリオキャノン、ツインデスアタック(カーメンマンとの合体技)

 カーメンマン…ミイラ型怪人。愛車のビッツが法律上の問題でミッドに持ち込めなかった為気落ちしている。ミッドでの抱負は「ビッツをミッド規格に改造する為にバイトをする」必殺技は太古の呪いにヴァジェットウィップ、ツインデスアタック(メダリオとの合体技)



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最終更新:2009年05月07日 17:08