クラナガン上空。
転送されたΖガンダムはそのままウェイブライダーへ変形。
本局から送られたデータに記された、出現位置目掛けて一気に飛ぶ。
既に機動六課が迎撃している。
それを見たカミーユは、変形と同時に叫ぶ。

「Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫

コックピット内のカミーユを光が包む。
カミーユのバリアジャケットは、心なしかクワトロ・バジーナのあの赤い服と、なのはのバリアジャケットの折衷のような衣装であった(さすがに腕の長袖付き&スカートなし)。
しかも二つの白いリボンが巻かれていた。
バリアジャケット装着が完了すると同時に、Ζガンダムが変形しながら輝き始める。
それはまるで、元の色のまま輝きだしたかの様に……。
変形と、稼動携帯への移行が終わったΖガンダムの姿は、まるで全身が元の色のままメッキを施されたかのようであった。
それを見ていたヴィータが呟く。

「本物がエクストラフィニッシュバージョンになった……」

そんなヴィータの呟きなど露知らず、Ζガンダムは魔力式ビームライフルをガジェットの一体に向け、引き金を引く。
カミーユの急速に肥大化する魔力により、更に強力になって放たれたビームは掠っただけでガジェットたちをなぎ払い、直撃した地点にいたガジェットを瞬時に蒸発させる。
直後に、まるでモビルスーツの核融合炉を破壊した時の如き大爆発が起き、巻き込む形で他のガジェットを破壊した。

「非殺傷設定でも、AMFをものともしない威力をもたらすのが俺の魔力か。これならバルカンで十分に対応できる!」

バルカンから、なのはのそれと全く同じ色の魔力弾が雨となって放たれる。
距離を置こうとしたガジェットが瞬く間に蜂の巣にされ、爆発。
それを見て判断した他のガジェットが、接近して足元からの攻撃を試みるが、瞬く間に全部踏み潰される。
別のガジェットは接近を諦め距離を置こうとして離れた瞬間に、バルカンで吹き飛ばされた。

「死角に回り込もうとせずに近づくから簡単に踏み潰される! オマケに人が動かしているわけではないから、退こうとしない。でもスカリエッティの機械なら引き際を判断出来てもいいだろうに! それが出来ないから追撃されるんだぞ!」

叫ぶカミーユ。
傍目にはΖガンダムは呆然と立っているように見える。
とそこに、エネルギー弾がΖガンダムの右足目掛けて飛んできた。
Ζガンダムはそれに気付き、紙一重で足を上げて回避。
直後に起きた激しい爆発でバランスを崩しそうになりながらも片足立ちを維持する。
その威力にカミーユは戦慄を覚え、直感でガジェットではない誰かが撃ったと悟った。

「Ζのビームライフルと同じ威力の砲撃!? ガジェット? 違う! 今のは人が撃った!!」

一方、エネルギー弾を撃った方はチャージしながら、「足を上げる」という方法で自分の一撃を回避したΖガンダムに驚愕する。

「アタシの一撃をあんな方法で避けるなんて……。RX-78の血が流れているから!?」
「今はファーストガンダムは関係ないだろう!」

Ζガンダム越しに、カミーユの声がディエチに放たれる。
それからすぐに、Ζガンダムが再びビームライフルの引き金を引く。
ディエチの方もタイミングよくチャージが完了しており、Ζガンダムより先に引き金を引いた。
イメーノスカノンとビームライフルの撃ち合い。
何の偶然か、カミーユは非殺傷設定でディエチ自身に、ディエチはビームライフルに照準を合わせていた。
二つの軌跡はそのまま衝突、激しいプラズマの四散という形で相殺される。

「相殺!?」
「ディエチ!」

驚くディエチの耳に、ウェンディの声が聞こえた直後、彼女の体はイノーメスカノンごと宙に浮く。
ディエチが視線を移すと、自分の手を掴み、必死でライディングボートを乗りこなすウェンディの姿が見えた。

「さ、さすがにイノーメスカノンは重いっス!」
「少しだけ我慢して。もう一発撃つから!」

ディエチは叫ぶと同時に、三発目を撃つ。
Ζガンダムはまた避けようとしたが、回避行動に出る前に、別の誰かが発動させた防御魔法にぶつかったエネルギー弾はそのまま霧散した。
Ζガンダムのコックピットの前に立ち塞がるように、なのはが宙に浮いている。
今の結界はなのはが発動させたものであった。

「今のはなのはが!?」
「にゃはは……余計だった?」
「まさか。おかげで向こうに隙ができた!」

カミーユは答えるのと同時にグレネードランチャーを発射。
ウェンディは発射されたグレネードの機動から、当てずっぽうで撃ったと思い込む。

「ガンダムでも戦闘機人を狙うには腕と集中力がいるっス! そんな撃ち方じゃ落せないっス!」
「生身の人間に当てるつもりはないさ!」

カミーユの狙いは、グレネードランチャーの直撃ではなく、爆風によってライディングボートのバランスを崩すこと。
一緒に乗っているならともかく、ウェンディが片手でイノーメスカノンごとディエチを吊り上げている状態では、近くで爆風がおきただけでも失速に繋がる。
ましてや、飛んできた破片でバランスを崩すこともあるのだ。
当然、廃ビルの壁スレスレで飛んでいたウェンディは、そのビルに命中、爆発したグレネードが起こした爆風と、飛んでくる破片をまともに受けてバランスを崩す。

「これが狙いだったか、あのガンダム!!」
「謀ったなー! っス!!」

物の見事にライディングボートは着地に失敗。
ディエチとウェンディは得物諸共転がりまわる。

「ぺっぺっ! よくも……」
「勝負はまだ……」

戦う意志を捨てていないディエチとウェンディは尚も得物をΖガンダムに向けるが……。
直後に、スバルが背後からディエチの首根っこを掴み、ティアナがクロスミラージュをウェンディのうなじに突きつけた。
それを見ていたカミーユは、Ζガンダム越しに二人に声をかける。
何故かΖガンダムはサムズアップした。

「ナイス不意打ちだ」

カミーユの言葉に、顔を向けることなく、スバルとティアナは空いている手をΖガンダムに向け、Vサインをした。
それからすぐに、ディエチとウェンディはバインドで拘束される。
こうして、ストレージ(?)デバイス、Ζガンダムの初陣は終わった。


その頃、地上本部にあるレジアスの執務室。
画面にはΖガンダムの戦闘映像が移っていた。
それを見て、レジアスはあっと言う間に表情を強張らせる。

「この映像は何だ? 何故あの質量兵器がガジェットを攻撃している!?」
「先程までの、時空管理局本局古代遺物管理部、機動六課の戦闘映像です。MSの隣にいる女性は、空戦Sの所属魔導師です。MSに関しては、恐らく本局側によって既に動力と武装を魔力式に改造されているかと。搭乗者に関しては、本人が自発的に協力しているとのことです」

淡々と解説するオーリス。
更に一言付け加える。

「ちなみに、4日前に市内に突如迷い込んだザクの搭乗者、『ワイズマン』はある部隊との接触が目的でしたが、その部隊とは他ならぬ機動六課のことです。また、既に接触を果たしており、身柄は向こう側預かりとなっています」
「いつの間に……。それに、地上部隊にSランクの空戦魔導師なぞいたのか?」
「彼女は教導隊所属で、書類上は出向の身ですから。ちなみに名前は高町なのは。もっとも、それ以前に、中将に言えば話がこじれるだけであることを向こうは察知しているものかと」
「第97管理外世界出身の、ガジェットモドキの元半死人か。……機動六課の後見人と部隊長は?」

レジアスのこの一言に、オーリスは仏頂面で端末を操作。
三人の姿が映し出される。
レジアスは服装から、本局と教会の者であることを察した。

「リンディ・ハラオウン総務統括官とその御子息、クロノ・ハラオウン提督、そして聖王教会の教会騎士団所属騎士であるカリム・グラシア女史の計三名です」
「英雄気取りの青二才どもが。特にこの2匹、闇の書の暴走で逃げ遅れて、グレアムに自分の艦ごと消し飛ばされた大間抜けのクライド・ハラオウンの身内ではないか!」
「……何年か前にそのような暴言をクローベル幕僚長の前で言って、大将への昇格が見送られたことをお忘れですか? なお、部隊長は八神はやて二等陸佐。魔導師ランクは総合SS。同隊にはフェイト・T・ハラオウン執務官も所属しています」

オーリスは、若干棘のある言葉で戒めながら続ける
その一言に、レジアスは一気に声を荒げた。

「八神はやてだと!? グレアム共々『闇の書事件』の首謀者ではないか!! それにフェイト・テスタロッサはP・T事件の容疑者の一人だぞ!」
「……グレアム提督はその件で自主退役しており、彼女の方は既に執行猶予を満了しています。それ以前に事件自体、彼女まで首謀者と見なすのはどうか?、という意見も未だにあります。ハラオウン執務官の方は、当の昔に無罪が確定しておりますが」
「犯した罪は消えん! 二匹とも闇の書諸共消滅すればよかったものを! プレシア・テスタロッサの走狗だった出来損ないのクローンの時といい、今回といい、本局と『海』は正義を何だと思っているのだ! あのような犯罪者に隊を任せるとは……」

はやてだけでなく、フェイトのことも罵り始めるレジアス。
「正義」に相応しくない悪辣な口ぶりと表情に、オーリスは表情を変えないまま露骨に嫌悪感を抱いた。
流石に頭に来たのか、それと無く毒が込められた一言で、レジアスに釘を刺す。

「今の椅子と命が惜しかったら公共でそのような発言はしないようにお願いします。中将はここ数年、地上部隊用のAMF対策予算を全て棄却しています。危機意識があるのならまずそれを通してください。無策だから向こうが代わりに行動したと考えるべきです」
「ぬぐ……。オーリス、近く査察しろ。徹底的に粗を探せ。もし見つかったらあの二匹を査問だ」

釘を刺されても尚懲りないレジアス。
「手土産持ってはやてちゃん側に寝返りたくなりそう」と、考えながら、とりあえず従うオーリス。
無論、言葉の毒を残すことも忘れない。

「了解しました。その代わり、AMF対策の予算は通してください。いつまでも地上部隊でガジェットに強いのが『リジーナ』の魔力式改良型を使う陸士新生64部隊だけでは、余りにも格好がつきません」
「ぐぅ……。分かっておる……」

その光景を、死神が嫌悪の感情を露にしながら見ていた。

「醜い……。自分以外の英雄を認めようとしなかった為に、英雄になり損ねた無様な男。その腐った魂、私の方から願い下げ……。オーリスは……良かった、はやての側に乗り換えるかで迷っている。早く寝返ろ、お前の人として堅実な理性も、私の欲する魂♪」

さっきとはうって変わって満面の笑みでオーリスを見つめる死神。
一週間以上前に感じた視(死)線を背後にまた感じたオーリスは振り向くが、既に死神は姿を消していた。


(さっきまで、あの死神がいた……。お父さん……、だけじゃない、私のこと『も』値踏みしていたと言うの……?)

一方、ジェイル・スカリエッティのラボ。
潜伏中のナンバー2の報告から、ガジェットを指揮していたディエチとウェンディが捕縛されたことを知り、ジェイル・スカリエッティは荒れていた。
それを、オールバックの女性と、リーゼントの男性が呆れた顔で見ている。

「大将、落ち着けよ。二人捕まっただけだろ」
「二人『も!!』だ! 私の娘が二人も! 捕まったんだぞ!」
「すぐに救出、は勘弁してくれよ。捕まえたのは機動六課だ、地上部隊とは違って傷物にはしないさ」

男の言葉に、女は無言でうなずく。
一方のスカリエッティは、途端に弱気になる。

「ちょっと待ってよ、アリシア君にジェリド君! 貴重な戦力なんだよ!? 君たちの仲間でもあるんだよ!?」
「だから落ち着け。いくらAMFがあっても、カミーユと、あんたが向こうに行った際に余計な手を加えたΖガンダム相手じゃ分が悪いぞ」
「むぅ……」

スカリエッティを黙らせるジェリド・メサ。
一方、それを見ていたアフランシ・アリシア・レビルはそっと口を開く。

「最高評議会とレジアスはあくまでも広告代理店兼スポンサー、それも最低最悪のな。当てにはできぬ。だがこちらは時間がいくらでもある。愛娘たちの口の堅さを信じ、ゆっくりと救出のための策を練るべきぞ」

何処となく偉そうな口ぶりで話すアリシア。
その姿は、かつて闇の書の闇に囚われた時のフェイトを激励したあの時とは完全に違っていた。
ティターンズという道具でアースノイドもスペースノイドも減らそうとした漢、ジャミトフ・ハイマンを髣髴とさせる。

「忘れるな、我々の最終目標は第97両管理外世界と宇宙世紀世界という二つの地球を、『モビルスーツが人間を支配する星』にすることだ。それが『ディム・ティターンズ』の理想であることも、な」

その言葉にそっと頷くスカリエッティ。
しかし内心では、どうやってディエチとウェンディを救出しようかとさり気なく考える。
そこに、外部からの通信が入った。
端末をチェックし、最高評議会からのものと確認する
ジェリドは顔をしかめながら通信に出た。

「スカリエッティ・ラボ」

画像が映し出されると同時に、ジェリドは一応ハキハキとした声を出す。
そこに映っているのは、容器に入れられた3つの脳髄。
ジェリドとアリシアは何度も見たが、決して慣れない、それ以前にその言動と思想に対する嫌悪が脳髄への視覚的嫌悪感を極限まで増幅していた。
そして開口(?)一番に、その脳髄たち、最高評議会は件の戦闘の一件を口にする。

「人形の内、2体が『機動六課』如きに鹵獲されたそうだな。単刀直入に言う。その2体を処理せよ。奴らの口から我々の繋がりが露見する恐れがある」
「何を言うんですか! あの子達はそんな事はしない! 父たる私を裏切るような真似をする可能性があるとでも?」
「裏切らない可能性も『ない』。呪うなら『紛い物』を人間らしくし過ぎた己の才を呪え。これは命令だ」

最高評議会はそれだけを言って、一方的に通信を切る。
相変わらずの言い草に、スカリエッティだけでなく、ジェリドとアリシアも怒りを覚えた。
特にスカリエッティの方は、手を握る力が強すぎる余り、爪が掌に食い込み始める。
とそこに、今度はレジアスからの通信が来た。
相変わらず、やたら威圧的で尊大すぎる態度が前面に出ている。
怒りを何とか抑え、スカリエッティは応対した。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ふん……。決まっておろう。機動六課とやらに鹵獲された戦闘機人に関してだ。六課ごとでも構わん、2匹とも始末しろ」
「あの子達が、自白するとお思いなのですか?」

予測通り、レジアスもディエチとウェンディの処分を要求してきた。
怒りのボルテージが一気に跳ね上がる。
スカリエッティたちの怒りの上昇など露知らず、レジアスは当然のように続けた。

「違法研究の産物の分際で、妙に人間臭いからな。向こうに懐柔されて、いつ我々のことを洩らすかわからん」
「随分な言い草じゃないですか……。その違法研究の産物を戦力にしたがっている方のお言葉ではありませんね。そんなに疑わしいなら、査察の名目で御息女に様子を見てもらえばいいじゃないですか」
「いいアイディアだな。ちょうど査察させるつもりだったのだ。まあ、あの2匹の命運は、オーリス次第だな。では、そろそろ会議なのでな。これで失礼させてもらおう」

レジアスからの通信が切れる。
その直後、スカリエッティの顔が瞬時に憤怒の形相になったことを、ジェリドとアリシアは見逃さなかった。
すかさず、二人はスカリエッティの背中をそっと押す。

「大将、そろそろ潮時じゃないのか? 向こうの言いなりになるのも……。自分の子供と、わが子を物扱いするスポンサー、どっちをとる気だ?」
「元々奴等の手助け無しでも十分な資金と資材は確保できるだけの力を持っているだろう。今が奴らに思い知らせる時と思うぞ」

その言葉に、スカリエッティの何かが切れた。
ジェリドとアリシアの言うとおりだと気付いたのである。
憤怒の形相のまま、スカリエッティは吼える。

「そうだよ……。お金と物資は既に十分過ぎるほどあるんだ! そうと決まれば、行動あるのみだ! 思い知らせてやるぞ、最高評議会とレジアス・ゲイズ。誰のために指名手配されてあげたと思ってやがんだ!! 後は戦力の更なる充実化だけだ!」

その言葉に、ジェリドとアリシアは笑顔でハイタッチする。
「これで二つの地球は支配したも同然」とばかりの笑顔で。
と、ジェリドは何故か今まで押し込んでいた疑問を、口にしてしまう。

「ところで大将、ディム・ティターンズの『ディム』って何だ?」
「DIMENSIONの最初の三文字をとってDIM(でぃむ)」


機動六課、取調室。
スバルとティアナが、ディエチとウェンディを取り調べていたが、二人とも一向に口を割る様子は無かった。
名前を聞いた際に、「ディエチ」、「ウェンディっス。一応ディエチの妹っス」と答えたくらい。
その口の堅さに、スバルとティアナが根を上げかけた頃、様子を見に来たカミーユが入ってきた。

「思っていた以上に、口が堅いようだな」

スバルは、カミーユの方を見ながらこう洩らす。

「茶髪の子がディエチ、赤毛の子の方がすぐ下の妹でウェンディ、という名前なのが分かったぐらいです。読心術か何かで心の中を読めたら楽勝なんですけど……。」
「……ニュータイプでも、そうホイホイと心の中は覗けないし、覗く気にもなれないよ」
「やっぱり……」

ガックリとうな垂れるスバル。
ティアナも頭を抱え始める。
カミーユの方は、少し申し訳無さそうな顔でスバルを見ていた。
この光景を見たディエチたちは、「隙だらけ」と判断する。
実際、3人とも隙だらけ。
ディエチがカミーユたち目掛けて机を蹴り飛ばす。

「二人とも避けろ!」

瞬時にそれを察知して飛び退いたカミーユが叫び、遅れてスバルとティアナが飛んでくる机を避ける
机は紙一重で外れ壁に激突、それを見計らいウェンディがカミーユに肉薄した。
肉弾戦でかなりの強さを見せたスバルとティアナとは違い、カミーユの身体能力はそれほどでもないと判断した結果。
カミーユを人質にして、ここから逃げ出して仲間の所へ戻るつもりなのだろう。
ウェンディ、残念だがカミーユはホモ・アビスと空手のおかげで、体力と腕っ節はかなり付いている方だぞ。
当然、羽交い絞めにしようとして避けられ、逆に右腕と首を掴まれ壁に叩きつけられる。

「今抵抗しても、無意味だってことぐらい、分かれよ! ここが機動六課じゃなかったら、連帯責任云々で姉まで痛い思いをしていたかも知れないんだぞ!」

悲痛な顔で叫ぶカミーユ。
その表情と気迫に、ウェンディはおろかディエチも戦慄する。
カミーユの方は、不意のあの時のことを思い出す。
あの子の声が頭の中に響く、「見つけた、お兄ちゃん!」――――――

「もうお兄ちゃんはお前を殺したくないんだ!」

いきなり訳の分からないことを口にし、錯乱状態になるカミーユ。
危険と判断したティアナが、慌ててカミーユを拘束する。

「わああああああああああああ!!」
「カミーユさん落ち着いて! お願いですから!」

カミーユの悲鳴を聞きつけ、慌てて入ってきたヴィータが、カミーユをそのまま外へと引きずり出す。
ディエチとウェンディは、驚きの余り、動くことが出来なかった。


医務室。
ベッドに横たえられているカミーユは、アイマスクをつけられていた。
シャマルは、ヴィータにカミーユの状態を説明する。

「多分、『ロザミィ』ちゃんのことを思い出しちゃったのよ。彼女とウェンディちゃんが重なって、取り乱したようね」
「『妹』以外の共通点が無いのにか!?」
「……それだけ引き摺っているのよ、カミーユ君は。一度自分のニュータイプ能力に押し潰されて、それから立ち直った後も」

ため息をつくシャマルとヴィータ。
そんな二人をよそに、半強制的に鎮静化され、眠りについていたカミーユはうなされていた。
そこに、なのはが入ってくる。

「カミーユ君、大丈夫なの?」
「……取り乱しただけで、起きた時には元に戻っているわ。流石にアレくらいで押し潰されるカミーユ君じゃないわよ」

シャマルの一言に安心するなのは。
ヴィータも安心はしたが、不安は拭いきれなかった。
カミーユがいつ、また、可笑しくなるのかが気がかりで。

「最高のニュータイプ、ってのも、考え物だな……」
「キツイこと言うな。ニュータイプなのは今更否定はしないけど」

いつの間にか目が覚めていたのか、ヴィータの呟きにカミーユはアイマスクをつけたまま返す。
起き上がり、アイマスクを取ったカミーユは、軽く驚く3人の表情を見て思わず微笑む。
シャマルとなのはは呆然とするが、ヴィータは頬を膨らます。
なのはは、ここに来た理由を思い出し、カミーユに告げた。

「そうそう、はやて隊長からの伝言だよ。明日から2日間休むこと、だって」
「……なんで?」
「……今日のアレが原因だと思う。いきなりパニックを起こしたって聞いて、はやてちゃん心配してたよ」

そう言われ、黙り込むカミーユ。
確かに心配はするだろう。
だからって、いきなり休ませるものか? とカミーユは考える
それに感づいたのか、なのはが付け加えた。

「スバルたちも、ちょうど明日から二日間休みになるの。それに合わせたみたい」
「……俺は見張り役かよ」
「見張り役はスバルたちの方だと思うの……」
「ガキ扱いするのかよ」

カミーユのぼやきに苦笑するなのは。
シャマルとヴィータもつられて笑い出す。
カミーユだけが不貞腐れていた。
だからガキ扱いされるのさ。


次の日、クラナガン中央公園。
かなりの面積を誇るその公園は、まばらではあるが人が多かった。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロらと共にそこに来ていたカミーユは、芝生に座りくつろいでいる。
今ここだけは平和だな、と感じながら。

「俺たちがこうやって和んでいる時でも、どこかでスカリエッティはロクでも無いことを企んでいるんだよな……」
「きゅくるー」

しみじみと呟くカミーユ。
しかしスバルたちは春の陽気に誘われ眠りこけており、聞いていたのはフリードリヒだけであった。
それから10分後、彼女はようやく目覚める。
とりあえず、カミーユたちは集合時間と場所を決め、思い思いに公園を散策することにした。

エリオとキャロは、森の中を進んで行く中である音に、何かを引きずる音に気付く。
木々に遮られているために見えないが、近くから聞こえる。

「すぐ、近くだね……」
「うん……」

木々を掻き分け、音が聞こえる方に急ぐエリオとキャロ。
二人は見つけた。
何かが入ったケースをを手に持ち、それを引きずって歩いていた二人の少女を。
エリオは慌てて、携帯電話でカミーユに連絡する。

その頃、敷地内のかなり大きい池の近くで涼んでいたカミーユは、エリオからの着信に出る。
エリオからの連絡に、カミーユは血相を変えた。

「持っていたケースの中にレリックが入ってた!? 場所は……」

カミーユが場所を聞こうとした直後に、轟音が響く。
空を見上げると、ガジェットに混じってモビルスーツが飛来したところであった。
そのまま一気に着陸するモビルスーツ。
カミーユはその機体が、「ティターンズ」が使っていたものであることに気付く。

「バーザム? 誰が乗っているんだ!? エリオ、ガジェットと一緒に、モビルスーツが来た! キャロと一緒にその子たちを連れて避難するんだ!」

通話を切り、携帯電話をなおすカミーユ。
不意に、バーザムと目が合ったかのような感覚が襲う。
あのバーザムは俺を狙っている、そう確信できる。
バーザムがビームライフルを構える直前に、唐突に池の水面から何かが飛び出す。
その何かは、バーザムをその腕で突き飛ばした。
それも、ビルスーツ。

「ズゴック、セットアップ」
≪Set Up!≫

操縦者の声が出た直後にシステム音声が響き、モビルスーツ、「ズゴック」の目と額に当たる部分に「仮面と角飾り」が付く。
機体色と相まって、「赤い彗星」を髣髴とさせるオプション(?)に、カミーユは何故か感心した。

「凄いセンスだ」

モビルスーツが地面を踏む衝撃により、一帯が軽く揺れた。
だが、市民たちはモビルスーツ同士の対峙に興奮している。
一ヶ月以上も前に突如として飛来したΖガンダム、数日前にガジェット相手に大立ち回りを演じたザク。
そして今度はモビルスーツ同士の対峙である。
逃げるのを忘れてひたすら見入っていた。
無論、カミーユは冷静である。

「何で逃げないんだよ。流れ弾の衝撃だけでも人は死ねるんだぞ!」

ビームライフルを使われる前に、赤いズゴックは一気にバーザムに肉薄する。
が、バーザムは人間じみた動きでズゴックを殴り飛ばした。
バーザムのパイロットは思わず舌打ちする。

「ビームライフルを使わせたくないようだな」
「戦闘機人は無益な殺戮が好みのようだな」
「ふん……、そこまで言うなら、貴様はビームライフル抜きで相手をしてやる!」

バーザムは手に持ったビームサーベルを起動、ズゴック目掛けて振り下ろすが、紙一重でズゴックはかわす。
ズゴックのパイロットは、不敵に笑いながら、挑発する。

「見せてもらおうか、ジェイル・スカリエッティの手でパワーアップした、ガンダムMk-IIの量産型の性能を!」
「見せてやろうじゃないか! 『赤い彗星のシャア』!!」

モビルスーツ同士の激しい格闘戦は、普通に歩く以上に激しい揺れを生む。
もはや局地的な地震である。
その激しさ故、同行してきたガジェットたちも揺れに耐えながら静観するしかない。
気のせいだろうか、それともズゴックの爪がヒートクローにでも改造されているのだろうか、ズゴックの爪とバーザムのビームサーベルが鍔迫り合いをしている。
埒が明かない、そうカミーユが考えた直後に、轟音と共に大きな影が飛来。
それは、ウェイブライダーであった。

「……あの時と同じだ。勝手に動いている!」

ウェイブライダーは変形してΖガンダムになり、直後にカミーユの眼前に着地。
コックピットハッチを開け、その手をカミーユに差し出した。
「乗って」という合図と悟り、カミーユは困惑しながらも乗り込む。

「まるで俺の危機に駆けつけたみたいに……。こうなったらなる様になれだ! Ζガンダム、セットアップ!」 ≪Set up≫

「デバイスとしての」稼働モードに入ったΖガンダムを見て、硬直していたガジェットたちは行動を再開。
Ζガンダム目掛けてレーザーを放つも、シールドから発生する防御魔法でことごとく無効化される。
「右」腕に装着したシールドを構えたまま、Ζガンダムは脚部の魔力式ハイブリットエンジンで飛翔、距離を詰めて着地も兼ねて、ガジェットの内の数体を踏み潰す。
そして、空中にいるガジェットに対して、「左」手に持ったビームライフルを構え、発射。
ガジェットたちは瞬く間に撃ち落された。

「こっちより遥かに高い位置にいれば、気兼ねなく撃てる!」

Ζガンダムの姿を確認したバーザムは、ズゴックと距離をとり、ガジェットを盾にしてかく乱。
標的をΖガンダムの方へ変え、急接近する。
ビームサーベルの斬撃を、シールドで防ぎきるΖガンダム。
不意に、バーザムのパイロットからの怒号がコックピットに聞こえてくる。

「さすがだな、ガンダム。妹たちを囚われた悔しみ、その命で晴らさせて貰うぞ!」

パイロットがそう言うのと同時に、バーザムはゼロ距離でビームライフルを発射。
衝撃で後退させはしたが、それでも防ぎ切られてしまう。
それと同時にΖガンダムはバルカンで牽制……するはずが、カミーユの膨れ上がる魔力のせいで強力化していたため、バーザムの装甲に十分な打撃を与えることに成功する。

「馬鹿な? ガンダムMk-IIの直系のバーザムが!?」
「ガンダムMk-IIの量産機とは思えない見た目をしているから!」

止めとばかりに、Ζガンダムの鉄拳がバーザムの頭部を直撃する。
その衝撃で、バーザムはいとも簡単に倒れた。
一方、バーザムのコックピットにいる戦闘機人、トーレは舌打ちする。

「単なるメッキバージョン化ではないか……。しかし、貴様のような節操無しに捕まる気は毛頭無い。勝負は預けたぞ、カミーユ・ビダンと機動戦士Ζガンダム!」

トーレが呟いた直後、もう一人の戦闘機人が『潜り』込んできて、彼女に密着。
そのまま『潜行』して行った……。
その頃、やけに静かなのをカミーユが怪しんだ直後、ズゴックが接近し、バーザムのコックピットハッチをもぎ取った。
いるはずの戦闘機人は、いなかった。
ズゴックのモノアイ越しにそれを見た、クワトロ・バジーナは驚愕する。

「どうなっているんだ? 転送魔法でも使えるのか!?」
「クワトロ少佐、これは一体!?」
「……私にも分からん。ところでカミーユ、私は『大尉』だぞ」
「失礼しました。クワトロ・バジーナ『大尉』殿」

突如として消えたパイロットの謎に困惑しつつも、クワトロとカミーユは二人なりに異世界での再会を喜ぶ。
その後は、本当に大変であった。
駆けつけた六課による半壊状態のバーザムの移送に、今回の戦闘と、保護した少女と回収したレリックに関する報告書の作成(避難誘導に専念していたスバルとティアナは別)。
そして、クワトロことシャアに群がるガンオタたちへの応対。
結局、少女たちはそのまま入院、クワトロのズゴックはΖガンダムで運ぶこととなった。

機動六課、格納庫。
はやてとクワトロ、そしてカミーユがいた。
Ζガンダム、ザク、ズゴックの3体が並ぶ光景の中で。
はやての方はズゴックとクワトロの方を何度も見ながら、口を開く。

「幕僚長からもう一人来る、と聞いてましたけど、まさか『シャア・アズナブル』大尉とは思いませんでした」
「はやて、私は『クワトロ・バジーナ』大尉だ。ミゼット幕僚長直々の指名で機動六課に協力することになった。よろしく頼む。ところで、エリオとキャロが保護したという少女たちは?」
「検査のために聖王教会系列の病院に入院させました。あの時来たバーザムとガジェット、多分、あの子達が持ってたレリック目当てやったと思います。けど、何でカミーユ君襲おうとしたんやろ?」

あのときのバーザム飛来の原因を推理するはやて。
レリック回収をそっちのけにしてカミーユを襲おうとした原因が分からず首を捻る。
それと無く、クワトロは一言付け加えた。

「あの時、バーザムに乗っていた戦闘機人は『妹たちを囚われた悔しみ』と言っていた。恐らくカミーユを見て、レリック回収より妹たちが捕まったことへの報復を優先したんだろう。以前遭遇したことがある、眼鏡っ娘とは大違いだ」
「クワトロ大尉が会った事があるメガネに、ディエチとウェンディ、そしてバーザムに乗っていた奴……。後何人いるんだろ? 戦闘機人って。それに女ばかりなのかな?」

カミーユのさり気ない呟きに、クワトロは瞬時に反応する。

「あくまでも勘に過ぎないが、恐らく全員女だろうな。そちらの方が目の泳がせがいもある」
「だといいですねー。はやてもその方が揉みがいがあるだろうし」
「そうやなー。一人くらいロリがいてもええかなー。B地区摘まみ易いのばっかやったら流石に手応えが無いし……」

凄い馬鹿な会話に興じる3人。
このおバカなやり取りは、戻ってくるのが遅いからと、心配して来てみたなのはに怒られるまで続いた。



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最終更新:2009年03月10日 20:30