次の日、機動六課のある一室。
フェイトがはやてとなにやら話し込んでいる。
どうやら査察絡みのようだ。

「地上本部からの臨時査察?」
「そや。うちは突っ込み所が多いからな。下手すると査問に進展するかも知れへん」
「……突っ込み所自体、ここ数日で一気に増えたし……。無事に終わりそうにないかも」

深刻そうな表情で話すフェイト。
と、そこに一人の青年が話しかける。

「フェイト執務官、八神部隊長、どうしました? 深刻そうな顔をして」
「あ、バーナード、実はね……」

フェイトから査察の一件を聞いたバーナードは、呆れるようにため息をつく。
何となくではあるが、地上側の意図に気付いた様だ。

「粗探しするヒマがあったら、対AMF予算を通せばいいのに。全く……」
「バーニィ、そんなこと言わんの。レジアス中将も色々考えとるんよ」
「……アレの何処が尊敬できるのさ」

バーナード……バーニィの呆れるような問いかけ。
フェイトも呆れた表情である。
しかし、はやては暖かな微笑を浮かべながらキッパリと答えた。

「ミッドチルダの平和を願う気持ちは本物やし、何より正義感と責任感も強いやん。あんな使命感が強い人、そうおらんよ。正に『地上の正義の守護者』や」
「あんなのが、尊敬してくれてるはやてを『犯罪者』呼ばわりして蹴ろうとしたのが、ねえ……」
「優しすぎるよ、はやて……」

はやてのことが急に不憫に思えてきたフェイトとバーニィであった……。
付き合いきれないとばかりに、バーニィは足を動かす。
それを見たフェイトはどこに行くのかを尋ねた。

「何処に行くの?」
「早朝に向こうからザク・マシンガンのマガジンとSマインの予備弾にザク・バズーカの部品、そして大佐用の新しい機体が届いたんでザクの点検も兼ねてチェックして来ます」

彼はバーナード・ワイズマン。
あの時ギンガたちに保護されたザクの「中身」である。


その頃、カミーユたちはクワトロの運転する車で、あの二人が入院している病院へと向う。
クワトロの車は結構な大きさのワゴン車であったため、カミーユとなのはだけでなく、スバル、ティアナ、エリオ、キャロも同行した。
まだ休日なので、みんなでお見舞いに行こう、と言うスバルの提案の結果である。
ふと、ティアナはカミーユとなのはの方を見て、あの時のことを思い出す。
無茶な訓練を繰り返し、なのはの教導を無視した挙句、頭を冷やされそうになった瞬間のことを。

「頭冷やそうか……」、なのはが泣きそうな目でそう呟き、攻撃態勢に入った直後にすぐ近くで見学していたカミーユがいきなり割って入った。
庇うように立ちはだかり、なのはを止めた直後にカミーユはティアナの方を振り向き、悲痛な表情で呼びかける。

「みんなを心配させてまで強くなって、何の意味があるんだよ……。そんなやり方でティーダさんが喜ぶのかよ!?」
「……! 何でここで兄の名を出すんですか!」
「……歯を食い縛れ、お前の無茶がどれだけなのはとスバルを悲しませているか、教導してやる!!」

カミーユは叫んだ直後、ティアナの頬に全力で平手を炸裂させる。
その衝撃でティアナは倒れるが、胸倉を掴み、さらに平手打ちを繰り返す。
自分の頬がはたかれる音に混じって、何かが呻く様な音を聞き、更に顔に何か熱いものが落ちる感触が走る。
ティアナは、呻くような音はカミーユの嗚咽であり、顔についた熱いものはカミーユの涙であったことに気付く。

「どうして……? どうして泣いているんですか!?」
「泣くしかないじゃないか……。お兄さんを誇りに思っているティアナ・ランスターが、兄の魔法じゃなくて兄を侮辱したクズの世迷い言の方を信じていると知ったら、泣くしかないだろう!! アア……うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

結局、号泣しながら両襟をつかんでティアナをシェイクするカミーユの方が頭を冷やされ、ドタバタのままその時の訓練は中途半端に終わってしまう。
その一件と、その後でカミーユとシャマルに見せられた「アレ」のせいで、自分が思い詰め過ぎているだけと知り、反省できたのがせめてもの幸運だった気がする、とティアナは思った。

あの時の回想を中断し、ティアナはため息をつく。
心配そうにスバルが話しかけてきた。

「どうしたの?」
「……カミーユさんに泣かれた時のことを思い出したのよ」

ティアナは苦笑しながら答える。
短気で子供っぽいところがある割りに、何が正しいかを考えて物を言う彼。
自分を省みることができるようになる程、彼は激情家だった。

「……ティアって、いい意味で変わったね」
「……カミーユさんに泣かれた上にあんなの見せられたら、『いい意味で』変わった挙句にそれ自覚できるようになるしかないでしょ」

疲れたように呟くティアナを見て、スバルも苦笑してしまう。
二人の会話を聞いていたエリオとキャロもつられて苦笑い。
それを見ていたカミーユだけが首を捻り、なのはは微笑む。
一方のクワトロは、病院にいるシャッハから、とんでもない報告を聞かされていた。

「何だと? 検査の合間を突かれて、二人に逃げられた!?」
「申し訳ありません、ダイクン卿。こちらのミスです」
「そんなものは挽回すればいい。それよりも、私の名字は『バジーナ』だ。ピースにもそう伝えておくように」

この会話を聞き、なのはたちも驚く。
お見舞いのはずが、逃げた二人の捜索劇に出る羽目になり、なのはとクワトロ以外は少しげんなりする。


クワトロたちが病院に着いた直後、シャッハが大急ぎで近づいてきた。
一帯の封鎖と避難が完了している旨を説明する。
そのことに、なのはとカミーユだけが眉をひそめているのに、クワトロ一人が気付く。
かくして、二人の捜索が始まった。
院内の一角、シャッハがあの二人の詳細を説明しながらクワトロと行動を共にしている。

「魔力はかなりのレベルでしたが、それ以外は普通の子供でした」
「なら、どうしてわざわざこのような厳戒態勢にする? 気付いたのは私だけだったが、カミーユとなのはは怒っていたぞ」

避難が完了しているせいか、院内は無人であり、かなり寂しく感じる。
この厳戒態勢を不審に思ったクワトロは、それと無く毒を放つ。
シャッハもこれには気付いた。

「……検査中だった上、更に人造生命体であることが判明しました。どのような危険性が秘められているか、分かりません」
「だから、見つけた後は検査を再開、危険性の有無に関わらず後は隔離か? 『強過ぎる力は災いしか呼ばない』と考え行動すれば、その強過ぎる力が招いた災いを真っ先に味あわされるぞ。真龍を怒らせた、『ルシエ』とかいうマヌケ部族のようにな」
「……たった一人の友人を復讐のためと称して罠にはめ、更にロリコンでもあるのに人の道を説くのですか!?」

クワトロの言葉にムッとしたのか、シャッハはこの一言で返す。
クワトロはただそれに苦笑するだけであった。
何気なしに窓の方に視線を移し、なのはとカミーユ、そして逃げ出したと思われる二人の少女が中庭にいるところを目撃する。
少し遅れてそれを見たシャッハは、何を考えたのかデバイスを起動させた。

「どうやら、カミーユ君となのは君の大金星のようだな。……シャッハ、何を!?」
「逆巻け、ヴィンデルシャフト!」


院内の中庭を探していたなのはとカミーユは、運良く逃げ出した少女たちと遭遇する。
一人は金髪のオッドアイ、もう一人は紫色のウェーブのかかった髪であった。
その内、紫の髪の少女はカミーユを見て驚く。
今の姿になる前に、かつてティターンズに「兄」として刷り込まれた彼の姿に。

「お兄ちゃん、……お兄ちゃん!」

その言葉に困惑するカミーユ。
しかし、カミーユは同時にデジャブを感じる。
その仕草、言動、自分を見る目、年齢以外ほぼ同じなのだ、『ロザミア』に。
そしてカミーユはようやく、彼女が『妹』であることに気付く。

「そんな……。どうしてそんなに小さくなったんだ!? ロザミィ!!」
「ええ!?」

この叫びに困惑するなのは。
彼女が「機動戦士Ζガンダム」で見たロザミィは、明らかにカミーユより年上であった。
だが、今目の前にいる「ロザミィ」はカミーユより遥かに年下(5歳児ほどに見える)。
混乱している内に、いつの間にか戦闘態勢のシャッハがロザミィともう一人の少女の前に立ち塞がった。
それを見たなのはとカミーユは、シャッハの肩を掴み、二人から遠ざける。

「シスター・シャッハ、二人を怯えさせてどうするんですか!」
「それでも聖職者なのかよ!」

二人の気迫に押され、シャッハは後ずさる。
それを見たロザミィともう一人は、不思議と安心した。
そして、なのはとカミーユが優しく微笑みながら二人に近づく。

「ごめんね、驚かせた?」
「大丈夫か? ロザミィ」

落ち着いたところを見計らい、なのはは自分の名前を言い、直後にもう一人の少女に名前を尋ねた。

「私は高町なのは。あなたのお名前は?」
「……ヴィヴィオ」
「可愛いお名前だね。ねえ、どうしてヴィヴィオとロザミィは逃げ出したの?」

なのはは穏やかに、一緒に逃げ出した訳を尋ねる。
シャッハから庇ってくれたことで信頼してくれたのか、ヴィヴィオは口を開く。

「ロザミィのお兄ちゃんを、カミーユを一緒に探してたの」
「そうだったの……。もう大丈夫だよ、ロザミィのお兄ちゃん、見つかったから」

なのはにそう言われ、更にカミーユに抱きつくちびロザミィを見る。
そこに、クワトロが駆けつけてきた。
騎士甲冑姿のシャッハと、ヴィヴィオとロザミィをあやす、なのはとカミーユの姿を見て、クワトロはさり気なくシャッハの方に話しかける。

「どうやら、二人を怒らせてしまったようだな」
「放って置いてください……」

屋内の方で、ヴィヴィオたちを探していた残りの四人は、無事ヴィヴィオとロザミィが保護された光景を窓越しに見て安堵していた。
しかし、同時に局員と思しき連中が大挙して敷地内に乗り込んでくる一部始終も見えてしまう。
しかもなのはたちは気付いていない。
これを見たティアナはスバルたちに耳打ちする。
かくして、フォワード四人の静かなる大立ち回りが始まった。


これで一安心と安堵するクワトロであったが、何重にも響く足音を聞きつけ、いつの間にか手にしていた本型のデバイスを開く。
それを見たシャッハも身構え、なのはもレイジング・ハートを手にする。
なのはとクワトロの声が、同時に響く。

「レイジング・ハート」 「『旧約』夜天の書よ」 『セットアップ!』

なのははおなじみの白いバリアジャケット、クワトロははやてのそれの影響を多分に受けたような意匠の赤い騎士甲冑を身にまとっていた。
なのはは、セットアップの際にクワトロが言った「夜天の書」という言葉に反応し、その赤い騎士甲冑の意匠に軽く驚く。
そして、局員と思しき者たちが包囲するように現れた。
その中の、隊長と思しき下劣そうな男が口を開く。

「クワトロ・バジーナとカミーユ・ビダンだな……。首都航空第13部隊の者だ。恐縮だが地上本部に任意同行願おうか」
「……何の理由があってそれを言うのかね?」
「昨日の、クラナガン中央公園内での質量兵器使用に関してだ。レジアス中将直々の命令でね、悪く思わないでくれたまえ」

呆れ果てた顔で隊長を見るクワトロたち。
Ζガンダムは本局の方で、ズゴックはかなり前に支局でデバイスに改造済みである。
ミゼットのことだから当の昔に伝えてあるはず。
質量兵器と言っていきなり押しかけてきた時点で言いがかりだと暴露しているようなものであり、クワトロも突っ込みを入れてしまう。

「……気に食わないから連行しに来た、と言った方がよっぽど説得力があるぞ」
「黙れ! 自分たちだけ活躍しやがって……」

隊長の口から出た本音に、心底呆れる一同。
しかし、彼に率いられた局員はその言葉に揃って頷いていた。
とうとうシャッハがキツイ一言を口にし、カミーユも相槌を打つ。

「……そちらが活躍できないのは、レジアス中将が頑なに対AMF対策を拒絶しているのも一因です。文句を言う相手を間違えるにも程があります!」
「そうだ、そうだ!」

だがその言葉も届かなかったらしく、隊長は声を荒げる。

「犯罪者がまとめる様な部隊に協力している分際で……。忘れてもらっては困るぞ、魔法を使う手段がないのが3人もいて、殺傷設定の我々を追い払えると思っているのか?」

嫌らしい笑顔を浮かべて言い切る隊長。
局員たちが、バリアジャケットをつけてすらいない、カミーユ、ロザミィ、ヴィヴィオにデバイスを向ける。
カミーユは微動だにしなかったが、ヴィヴィオとロザミィは地上部隊の悪意を敏感に感じ取り、怯えてしまう。

「これがミッドチルダの平和を守る、地上部隊のすることなのかよ」
「黙れ、我々は正義だ! レジアス中将と言う正義の、代行者である我々に異を唱えた奴は全部悪なんだよ!」

余りにもイかれた発言に呆れ果てる余り、クワトロたちは開いた口が塞がらなくなる。
なのはに至っては、あくびをする始末であった。

「ふわわ……。世迷い言はもう終わり?」


なのはのこの一言に激昂した局員たちが一斉にカミーユたちにデバイスを向ける。
が、カミーユの背後にいた隊員が、デバイスを持っていた方の手を突如として撃たれ、デバイスを落としてしまう。
その隊員は振り向くが、そこには誰もおらず、他の隊員たちも混乱する。
その一瞬の隙を突き、カミーユは振り返るのと同時に構え、正拳突きをその隊員のみぞおちに直撃させた。

「…………!」
「正当防衛だぞ!」

うずくまった所を見計らい、後頭部に追い討ちでかかと落としを食らわせる。
後頭部に掛かった強い衝撃で、その隊員はそのまま失神。
それを見ていた別の二名が慌ててデバイスをカミーユに向けるが、彼らの目の前、否、周囲にティアナの姿をしたものが大量に出現。
隊長が真っ先に驚き、不思議な感覚に陥る。

「な、何だこれは!? しかもどこかで見たような?」

その隙に、なのはとクワトロが残りの二人に肉薄。
なのははレイジング・ハートを片方の顎に突きつけ、クワトロはもう片方の顎に狙いを定めて拳を構える。

「ショートバスター!」 「シュヴァルツェ・ヴィルクング!」

桜色の魔砲と、魔力を帯びた鉄拳が二人の顎に直撃。
その衝撃で彼らは宙に舞い、車田飛びよろしく顔面から地面に叩きつけられる。
それに思わず見とれるカミーユであったが、彼の耳には残りの局員たちが次々と撃破される音も聞こえていた。
カミーユが振り向くと、そこには顔を殴られた痕や、焼け焦げた痕、感電したような痕がついている状態で倒れている局員たちと、隊長を睨みつけているスバル、エリオ、キャロの姿が。
よく見ると、シャッハの足下に棒状のもので殴られた痕が残った状態で倒れている者もいる。
そして2秒ほどしてから、ティアナもその姿を現した。

「フェイク・シルエット、見違えるほど凄くなったな」
「エヘへ……、カミーユさんに泣かれましたから」
「……ティアナはそのネタを引っ張るのが好きみたいだな」

カミーユに褒められ、満更でもないのかティアナは、さり気なく憎まれ口を入れながらも喜ぶ。
カミーユの方も、ティアナの言葉に苦笑する。
一方、偶然にも最後まで無事だった隊長は、カミーユが発した「ティアナ」と言う名前に反応した。
ティアナ……、かつて部下だった男、ティーダ・ランスターの妹の名前。
それを思い出した瞬間、隊長の頭に血が上る。
彼はティーダほどではないが優秀だった。
しかし、殉職したティーダの葬儀の際にティアナがいる前で堂々と「無能」と断じてしまい、「人格に非常に問題あり」とされ内定していた違う隊の隊長就任が取り消されてしまう。
レジアスの狂信者であったため、レジアスの熱心な擁護により降格は免れたが、それでも出世が大幅に遅れたことは事実であった。
今の隊長の地位も、反省したフリをして必死にネコを被り続け、数ヶ月前にやっと手に入れたもの。
そして彼は、未だに「ティーダとその妹のせいで出世が遅れた」と、ランスター兄妹を逆恨みしているのだ。

「また、また俺のジャマをするのか! 貴様ら兄妹は!」

隊長は殺傷設定のまま迷わずティアナの顔面を狙って射撃魔法を放つ!
運良くそれに気付いたカミーユは、ティアナに回避するように言うよりも、こちら側に引っ張って強引に避けさせた方がいいと判断。
ティアナの手を掴み、一気に自分の方へと引っ張った。
いきなり手を掴まれ混乱するティアナであったが、引っ張られたサイに視界が移動し、隊長の構えた姿から「自分目掛けて攻撃魔法を放った」ことに気付く。
カミーユの判断は正解であったが、それでも、殺傷設定の魔法がティアナの首筋を掠め、そこの肉が裂け、血が出る。
しかし、それもお構い無しにティアナは的確かつ俊敏に隊長のデバイスを狙い撃ち、破壊した。


「……今思い出しました。兄の葬儀の時にお会いしましたね……」

冷たく言い放つティアナ。
片手で首筋を押さえながら、もう片方に持ったクロスミラージュを突きつける。
殺傷設定のまま魔法を放ち、それ以前に兄を侮辱した男に対して慈悲をかける気はない。
そういわんばかりの表情のティアナに、隊長は居直って尚も喚く。

「俺は、俺は悪くないぞ! 人質なんかに配慮した結果殉職するような奴を無能呼ばわりして何がいけないってんだ!!」

風が吹く……。
死神が吹かす、破滅の風が……。
本のページをめくる音が聞こえ、そして……。

「闇に沈め……! ブルーティガードルヒ!!」

余りにも醜い戯言を聞いたクワトロは殺傷設定にしたかったのを堪えつつ、非殺傷設定でブラッディダガーを隊長に放つ。
発音の方はドイツ語の方で。
ブラッディダガーは着弾と同時に爆発。
隊長を物の見事にズタボロにした。

「……この本が蒐集した“魔法”の試し撃ちに付き合ってもらいたいが、他にも貴様を叩きのめしたがっているのが3名いる。口惜しいが私は彼らと交代だ」

クワトロがそう言い放ちその場を引いた直後、今度はスバルが拳を構えた。

「ナックルダスター!」

スバルの鉄拳が、隊長に直撃し、勢い余って壁に叩きつける。
ブラッディダガーとナックルダスターの直撃で満身創痍となった隊長はそのまま壁に寄りかかったまま崩れ落ちた。
しかし、なのはとカミーユは止めとばかりに近づき、仰向けに倒れた隊長を見下ろす。

「……頭冷やそうか。長期入院が必要な程度に」
「そこのチンピラ! ティアナを殺そうとした代償がどれほど大きいかを教導してやるよ!」
「ま、ま、ままま……。ぎゃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!」

なのはの非殺傷設定の攻撃魔法と、カミーユの空手の技の情け無用なコラボレーションが始まった。
流石にヴィヴィオとロザミィが見ないように、二人の前にクワトロが立って視界を遮る。
なのはとカミーユ以外でこの制裁を直視できたのは、クワトロとスバル、ティアナだけ。
この制裁は、クワトロとシャッハが止めるまで続いた。
結局、首都航空隊第13部隊の面子は全員入院、六課側はティアナが首筋を負傷するもキャロの手ですぐに治癒と、なのはたちの圧勝。
クワトロたちは、連中が何をしたかったのか分からないまま、ヴィヴィオとロザミィを連れて六課へと戻っていった。


帰路にある車内。
カミーユとなのはは連中が来た理由に関して話し合っていた。

「質量兵器使用で聞きたいことがあるとか言ってたけど、結局何がしたかったんだろう?」
「……さあ。レジアス直々の命令で来たらしいから、何となく察しはつくけど……」
「何がしたいのかな? レジアス中将は……」
「レジアス・ゲイズだもん。自分たち地上本部は戦力不足だから、戦力が豊富な本局と『海』は持っているモビルスーツを全部こっちに寄越せ、って考えているんだよ。質量兵器云々を建前にして、魔力で動くように改造してあっても」

レジアスが何をしたいのかがわからず戸惑うなのはと、レジアスのことをバカにし切っているカミーユ。
スバル、エリオ、キャロは複雑な表情であったが、少なくともティアナはレジアスを否定するカミーユの態度に好感を持ち始めていた。
これ以上レジアスのことを思い出すのが嫌なのか、カミーユは気分を切り替えるためにある疑問を思い出し、クワトロに尋ねる。

「クワトロ大尉、少し聞きたいことがあるのですが」
「どうした?」
「……昨日、どうして公園の池から出て来たんですか? ズゴックに乗って」

カミーユの至極もっともな疑問。
実は、クワトロははやてたちに昨日の内に同じことを聞かれ、その時に答えたが、あいにくカミーユはそれを聞かず、いつもの通りナカジマ邸に早々と帰宅。
なのはたちもヴィヴィオとロザミィのことが気がかりで聞くのを忘れていたのだ。
と言うわけで、質問したカミーユだけでなく、なのはたちも興味しんしんでクワトロを見る。
クワトロからの答えは、単純だった。

「六課の近くに転送してもらう直前に、幕僚長から中央公園にガジェットとモビルスーツが出たと聞いて急遽公園の方に変更してもらった。池から出て来たのは、水中に転送してもらい、そこから地上に飛び出したほうがカッコいいかな、と思ったからだ」

茶目っ気を見せ、微笑みながら答えるクワトロ。
カミーユとなのはは「成る程」と素直に納得したが、スバルたちは少し呆れる。
ヴィヴィオとロザミィは我ら関せずとばかりに助手席で熟睡しており、クワトロにはそんな二人が何となく恋人同士に見えた。
その後、車内での話し合いにより、今日はカミーユがロザミィを預かることになり、カミーユも快諾。
ナカジマ邸でカミーユとロザミィを降ろし、クワトロの車は機動六課へと戻って行った。


次の日、機動六課。
一人で留守番させる気になれなかったカミーユは、ロザミィを連れて出勤してきた。
「おはようございますー」と、ロザミィが元気よく挨拶する。
カミーユも挨拶するが、今一声が大きくなかったため、シグナムに笑われてしまう。

「カミーユ、兄ならもう少し大きい声で『おはようございます』と言った方が様になるぞ。それと……、これを今日中に提出するようにと、八神部隊長直々の命令だ」

シグナムは手に持っていた紙、始末書をカミーユに渡すのと同時に、はやてからの伝言を伝える。
カミーユは面食らうが、シグナムはかまわず続けた。

「昨日の、あの一件のやつ?」
「当たり前だ。クローベル幕僚長が手回ししてくれたから、これ一枚で済むのだぞ。ちなみに、スバルとクワトロ、そして高町教導官は昨日の内に提出したぞ」

渡された始末書を見ながら、カミーユはあることに気付く。
いつもなら真っ先に挨拶してくれるあの娘がいないのだ。
ヴィヴィオとロザミィより2歳ほど上程度の容姿をしたあの幼女の姿が見えない。

「あれ? ヴィータは?」
「……クローベル幕僚長の所だ。彼女はヴィータが大のお気に入りでな、大抵ガンプラで釣って逢引に持ち込むのだ。別に昨日の一件で手回ししてもらったから逢引に応じたわけではないぞ」
「……あの人の遊び相手ですか。アイツも大変ですね」

苦笑するカミーユ。
レジアス相手に派手な罵りあいをしてのけたカミーユをいたく気に入ったミゼットは、初めて会って以来何かにつけてカミーユに「小遣い」をあげている。
カミーユ自身、既に社会人のつもりであるせいか、何となく子供扱いされている感じがするので嫌がったが、結局押し切られ受け取ってしまう。
そんなにガキっぽいのかな? と首を捻りながらも苦笑するカミーユであったが、一方のシグナムはどこか哀しげな表情で、一言付け加える。

「……遊びは遊びでも、ベッドをぎしぎし揺らす方の遊びだ」



クラナガン郊外にある、ミゼットの自宅内の寝室。
既に事を終えたミゼットが、バスローブを着た状態で2枚の書類を見比べている。
それは、地上本部から引き抜かれた局員の数の、去年までの総数を記した紙。
何故か最高評議会が『機密』扱いしているため、入手するのに結構な時間がかかった代物。
地上本部にいる協力者から貰った方に書かれている総数は、入手に時間がかかった方に書かれているものより遥かに多かった。
地上本部から入手した方を見ると、20年前から急激に引き抜きの数が増えていることがわかる。

「ここ最近戦力不足云々が激しいから調べたら、偽装か……。私としたことがこんな茶番を見抜けないとは、もうろくしたかね? にしても、これじゃまるでレジー坊やを暴走させるためとしか思えないね、引き抜き数の多さは。抉ってやろうか、あの3馬鹿とその走狗どもが!」

地の底から響くような呟きに反応したのか、ベッドで(一糸纏わずに)ぐったりしていたヴィータが、ミゼットの方を見る。

「ミゼットばーちゃん、どうした?」
「……ちょっとした調べ物だよ。さて、あいつ等をどうやって潰してやろうか? まあいい。今はお前ともっと愛し合うほうが重要だ」

ミゼットは二枚の紙を机に置き、バスローブを脱ぎ去って、ベッドに横たわるヴィータにまたのしかかる。
第2ラウンドの始まりだ?
衣服? 何それ? おいしいの?



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最終更新:2009年03月10日 20:32