今回の任務の目的地へ向かうJF-704式ヘリの搭乗席では機動六課の隊長
達とリインフォースIIによる再度、任務の説明が隊員達に伝えられていた。
「それじゃあ、今日の任務のおさらいをするよ」
機動六課の今回の任務先は首都クラナガンの南東の森林に囲まれた所にある
ホテル・アグスタで開催される骨董美術品オークションの警備。
出展品の中にはロストロギアも含まれており、それをガジェット・ドローンが
六課の調査の対象となっている「レリック」と誤認し、襲撃を行った場合に
備える為である。
「先に副隊長の2名が現場に到着しているから、前線ではそちらの指示に従って」
今回の任務ではフォワード陣のみならず、部隊長の八神はやてと彼女に仕える
守護騎士であるシャマルと蒼き狼ザフィーラも参加している。
そして
「エックス君、何か質問は?」
「いえ、特にありません」
機動六課のメンバー達が搭乗するヘリにエックスも搭乗していた。
エックスのコールサインは「スターズα」
第04話『動き出す進展』
時間は一週間前に遡る。エックスは、フェイトとはやてに仕える守護騎士の一人であり、ライトニング
分隊副隊長であるシグナムと共に、管理局地上本部に出向いていた。コンピュータルームにて前の戦闘
で破壊、及び捕獲されたメカニロイドの残骸の写真データを解析してもらっていたのだ。
エックスの当初の推測は、何者かによる召喚的行為によってミッドチルダに転送されたと言う物だった。
しかし、その考えはさすがに変だと自己回答する。
大半のメカニロイドには外部から不法なアクセスによる遠隔操作を受け付けないようにする為、警戒用の
セキリティプログラムが敷かれている。そのプログラムは容易にハッキングされるような"ヤワ"なシステム
ではない。しかし、セキリティシステムに関して精通すればコントロールを乗っ取る事も不可能ではない。
問題になるのは、遠隔操作をする対象の数である。二機から五機程度までならまだしも、三〇機となると
直接指示を送るのは技量的に困難となる。
しかし、メカニロイドに予め自分から一括で指示できるようプログラムしているのなら話は別である。そう
なると、セキリティプログラムも内部からの指示と認識してしまうのだ。
前者と後者、後者が正しいとするのならば、あのメカニロイドは全て自前で改造されていた可能性が高い。
そして調べた結果、後者である事がほぼ確定だと判断できる物をフェイトは発見した。それと同時に
フェイトは、動揺を隠せなかった。
「!!……これを見て」
「これは…名前が刻まれたプレートですか?」
動揺したフェイトが発見したのは、メカニロイドの内部メカに文章が記されたプレートだった。
注目したのはその文字が、ミッドチルダで使われている文字であった事と、その文章の内容にあった。
「やっぱり、ジェイル・スカリエッティ…!」
「ジェイル・スカリエッティ… 一体誰なんですか?」
「違法研究で一級捜索指定されている、次元犯罪者だよ…」
ジェイル・スカリエッティ、生命操作や生態改造等の違法研究により広範囲に指名手配されている科学者。
数ある事件で多くのデータや痕跡を残しているが、逮捕歴は無し。精密機械に関しても深く精通しており、
ガジェットドローンを作ったのも彼である可能性が高いらしい。違法研究さえ無ければ歴史に残る人物だと言う。
「と言う事は、その男がメカニロイドを操作を行っていたと言うのですか…?」
「…スカリエッティなら考えられない事もないね」
「……作られたイレギュラー…?」
次にモニターに映し出されたのはエックスが破壊したガジェットIII型であった。先の戦いにおいて、
エックスが戦場に来るのを待っていたかの如く、現れた途端、動きが消極的から活性化したタイプだ。
その動きはまるで、予め自分を狙う様にプログラムされたように思えた。
「ガジェット…そんな物を作れるのなら、何故スカリエッティは戦闘用メカニロイドだけじゃなく、
作業用や攻撃力の低いメカニロイドも―――!?」
III型の電子頭脳を構成する部分に画面が切り替わり間も無い時、次はエックスの表情が動揺した物へと変わった。
「フェイト隊長、さっきの写真をもう一度見せて下さい! 確か…二枚目の奴です!」
「え? うん、ちょっと待って!」
「いきなりどうした、何か気になる物でも有ったのか?」
「……俺の見間違い出なければ良いんですが」
突然焦りの顔を見せたエックスに一瞬きょとんとしたフェイトだが、すぐにガジェットの残骸が写った二枚目の写真を
モニターに表示させた。見間違いであって欲しい。そう願う心境とは裏腹に、ガジェットの内部メカに埋め込まれていた
ある一つの部品が、エックスを更なる信じ難い驚愕の渦へと引き込んでいった。
「これは…何かの制御用のチップ?」
「!!! これは……シグマのマークが入ったチップ!?」
二枚目の写真に写っていたのは、一つのマークが記されていたチップだった。そのマークは狼を思わせる
ような印にΣの文字が刻まれていた。
「何なんだ…このチップは……何故ガジェットにこんな物が?!」
「このマークについて、何か知っているのか?」
知らない訳が無かった。忘れもしない記憶。約数ヶ月前、自分達の世界で起きたレプリロイド達による
世界規模の反乱。首謀者であるシグマが率いていた反乱軍のマーク。それはエックスにとって忌まわしく、
憎むべき対象以外の何者でもなかった。
「俺の世界の……反乱軍のマークなんです!」
「まさか、以前にエックスが話した事のある戦いの…?」
「はい、罪の無い者達を死なせ……仲間達を、親友を殺した連中の…ッ!!」
「落ち着け…お前が怒った所で何かが始まる訳ではない」
冷静さを欠いたドンキホーテのように体が震え、右腕の拳に力を入れ、押し殺すかのような荒い声を唸らす
エックスにシグナムの牽制が入った。取り乱している事に気づいてエックスは申し訳が無いかのように謝り、
冷静さを取り戻す。
「…すいません、ついカッとなってしまって…。これは自分達の存在をアピールしているとしか思えません」
「やっぱり……有り得るんだね?」
「いるんです。ジェイル・スカリエッティに協力している反乱軍の残党が…!」
翌日、エックスがはやてに六課の事件調査の協力を申し出すのに、時間は大して要らなかった。
「それじゃあ、この事件の捜査と任務に協力したいんやな?」
「はい…この事件、個人的な解釈になりますが、自分としても、他人事では有り得ないのです。むこう側
の世界の何者かが、ジェイル・スカリエッティと共謀している事が考えられるのです」
「……確かに事件の捜査協力の意志は嬉しい。でも、戦闘に関してはエックス君の言うイレギュラーやガジ
ェット以外の何かとの戦闘もあるかもしれへんで。それでもええか?」
「…はい、大丈夫です。真相を突き止めたいんです。それにイレギュラー達を野放しには出来ません」
質問に対して頷いて答えるエックスの意志は固まっているだろう。はやてがエックスの申し出を断る必要性は
何処にも無いだろう。
「…わかった、イレギュラーと言う事について、こっちは情報が殆ど無い。それに関する専門家が協力して
くれるのはありがたい事や…お願いしてええかやろうか?」
「……はい、ありがとうございます!」
「ほんなら、隊長達にも話したいから、ちょっと待ってな」
なのは達がこの件を了見し、少々の手続きが終了するまでにさほどの時間は必要なかった。
「さて、今日の訓練を始める前に、六課の新しいメンバーを紹介するよ」
朝の訓練が始まる前に、なのはから六課の新メンバーの紹介があった。新人達は驚きの目を隠せなかった。
その新しいメンバーは、前の出動で颯爽の如く駆けつけた人物だったから。
「…エックスです。本日から機動六課の皆さんと一緒に捜査等の任務に協力させていただきます。今日は皆さん
と訓練に参加させていただきます、宜しくお願いします!」
常にと言う訳ではないが、その日からエックスも訓練に参加するようになる。理由としては、戦闘になる際フォ
ワード達の動きに合わせれるよう努める事である。皆の動きは見学で以前から見ていたが、連携も必要になる事を
考え、自分からなのはにお願いしたのだ。
ちなみに、連携時におけるエックスの役割はフロントアタッカーに近いが、ダッシュを使った高速機動、壁蹴り
による高い移動性能、強力な射撃武器であるエックスバスター。これ等の点からすれば、事実上は万能タイプの
オールラウンドアタッカーに分類すると言うのは、なのは談との事。
「おー、テキパキと張り切ってんな」
「ヴィータ? まぁ色々やっておく事があってね」
コンピュータルームであれこれコンソールで入力を入れているエックスに話し掛けてきたのは、シグナムと同じく、
はやての守護騎士であり、スターズ分隊副隊長を務めるヴィータだった。
エックスがやっていたのは、メカニロイドに関するデータの作成や整理である。それ等のデータが、空間シミュレ
ータでフィードバックされ、ガジェットと同様シミュレータ上で再現が可能なのだ。
「まぁ、前向きなのは結構な事なんだどな…いつぞやみたいに書類のデータを消し飛ばしそうな事しないよな?」
「ぅ……色んな意味で心が痛む事を……」
以前、エックスがコンピュータルームで書類データの整理の手伝いをした時、自分の手違いによって一つの
書類データを危うく消去しかけた事があった。書類の内容自体はさほど重要な物ではなかったのが、幸いと
言う所だろうか。ミッド語にまだ不慣れだった事もあるが、エックスにとってあれは少々痛い経験だった。
後になのはに使い方の指導してくれたお陰で、その心配は恐らく無いだろう。
「心配ないなら良いんだけどな、程好く頑張れよ?」
「あぁ、程好く…」
それから40分余りが経過した頃、エックスは「程好く」よりも「やたら」と頑張っていた。
「エックス~今取り込み中?」
「あ、スバル、たった今終わった所だよ」
それでも"一応"ながらもデータ打ち込み作業の終えたエックスに対して、次に声を掛けて来たのはスバル・ナカジマだ。
隊長達以外でエックスに最初に興味を抱いたのがシャーリーなら、最初に快く接してくれたのがスバルだった。
エックスも決してすぐに機動六課に馴染めた訳ではない。未知の世界で一人。少なからずとも不安はあった。
そこへ好意的に話し掛けて来たのがスバルだった。異質な存在である自分に対してなのは達と同様、スバルは
そんな事を気にしはしなかった。イレギュラーハンターにおいて、一部の親友を除けば同僚達と上手くいっ
ていなかったエックスにとって斬新かつ素直に嬉しい事だった、それはティアナやエリオとキャロも同様だ。
「スバルはどうして、管理局の仕事を?」
「え?」
それはエックスの疑問の一つだった。どうしてスバルをはじめとする新人達は、若くして管理局の仕事に
就いたのか。スバルとティアナに関しては役職が武装隊だと聞く。何故その道を選んだのだろうか?
「あたしがこの道選んだのは、あの人…なのはさんに憧れたからなんだ」
「なのはさん…なのは隊長に?」
「うん、泣いてばかりの自分が悔しかったんだ…四年前のあの時から」
四年前、ミッドチルダ臨海第8空港で起こった大規模な火災。幼かったスバルは当時、その火災に巻き込まれた。
間一髪の所を助けてくれたのが、高町なのはだった。その姿に憧れたスバルはその時から決意した。あの人のよう
に強く、優しく、カッコよく、そして…誰かを助けられる人になりたいと…
「………」
「それから魔法を勉強して陸士訓練校に入学。ティアと出会ったのも…ってもしかして泣いてるの?!」
「!? ご、ごめん、想像以上にいい話だったからつい……」
気づいた時、スバルはエックスの瞳から流れ出ている液体の存在に驚いた。涙を流していたのだ。
泣く事…それは、エックスがより限りなく人間に近い感情を持っている証なのだ。
スバルの渡してくれたハンカチで涙を拭いたのはすぐ後の事である。
「でもちょっと驚いたなぁ、レプリロイド…もみんな泣く事ができるの?」
「それは…」
泣く事。自分の知る限りでそれは自分だけ。そう発しようとした時、それを遮ったのはスバルの憧れの張本人
なのはだった。
「あー二人とも丁度いいところにいたね…でも取り込み中だったかな?」
「なのはさん、大丈夫ですよ」
「みんなに次の任務の説明をしたいから、ついてきて」
その任務が、ホテル・アグスタで開催されるオークション会場の人員警護であった。
等の事があり、現在のエックスの状況へと繋がっている。ホテル・アグスタに到着した六課の内、隊長陣は会場内の
警備に。新人達は前線でシグナムとヴィータの指示に従い外のガードを固める。エックスも前線側で警備に付く事
となる。
ガジェットが現れた場合、イレギュラーも伴って来る可能性は非常に高い。もしそうだとしたら、先日の分析と合わ
せて、スカリエッティに協力者が存在している事はほぼ確定と言えるだろう。現状におけるエックスの予想だった。
「…何も起こらなければ、それが良いんだが…」
ティアナ・ランスターは疑問を抱いていた。
どうして自分が機動六課に配属されたのか。
その理由は六課の隊員達から来ていた。
「うちの部隊の戦力は明らかに異常…反則と言ってもかもしれない」
隊長達はオーバーSランクの歴戦の実力者。ヴィータ副隊長やシグナム副隊長もニアSランク。
ロングアーチスタッフもみんな、優秀で将来性の有る人達ばかり。
スバル達もそう…フェイト隊長の秘蔵っ子であるエリオとキャロ。エリオはあの歳で既にBランクを取得。
キャロは竜使役と言うレアスキルにブースト系をはじめとする補助系魔法を持っている。スバルは魔力と
体力に恵まれて、家族のバックアップもある。
そしてエックス、六課の正式な隊員ではないけれど、非常に高い機動力に戦闘能力、状況分析も極めて優秀。
総合面に関しては隊長達にも匹敵しているかもしれにない。スピードが肝心な機動六課から見れば、ほぼ文句
無しのポテンシャル。有る意味…本当の意味でのオールラウンドアタッカー。
「やっぱり機動六課で凡人なのは、あたしだけ…?」
ティアナはまだ解らなかった。自分が確実に強くなれているのかが。そんなティアナが疑問抱く最中、シャマルから
前線で待機している隊員達に連絡が入ったのは間も無い頃だった。
シャマルのアームドデバイス、クラールヴィントのセンサーがこちらに接近している多数の敵機をキャッチ。複数の
方角からの飛来である。ロングアーチはすぐさま分析を開始。敵は少なくともガジェットI型が三十五機、III型
が四機、そしてメカニロイドと思わしき機影が二十五、その内の約半数がアンノウン。その情報はすぐに他の隊員へ
告げられた。シグナムとヴィータ、ザフィーラは敵の迎撃、他のメンバーはティアナの指揮でホテル前で防衛ライン
を形成する事となる。
「前線の各員へ告げます。状況は広範囲の防御戦、ロングアーチ01の総合管制と合わせて、私シャマルが現場指揮を行います!」
「スターズ03、了解!」
「スターズ04、了解!」
「ライトニングF、了解!」
無論、このシャマルの連絡は、エックスに装備されている無線機にも届いた。
「スターズα、了解!」
メカニロイドも確認されている…やはり予想は当たってしまった。そんな考えを後回しにして、エックスは自分の右腕を
バスターへ切り替えた。戦闘態勢へと突入である。
ホテル・アグスタから離れた森林の中で、身長が高めの男と、年齢は十歳辺りであろうの少女がいた。
「ドクターの玩具とゲストの人形が…動き出したって……」
自分の召喚虫から状況を受けた少女は物静かにそう告げる。
「しかし、いいのか? お前の探しているレリックは…あそこに有る可能性は無いのだろ」
男の質問に対して、少女は男を見つめたまま無言を貫いていた。
「…何か気になる事が有るのか?」
うん、と少女は男を見つめたまま小さく頷いた。
「ハッあんな得体の知れない連中と手を組むのは、いささか気に喰わんが…またとないチャンスだ」
それとは反対側の方角の森林の中でメカニロイドを従えている一体のレプリロイドがいた。その姿は人型のボディに
鹿の頭部と言った感じである。その耳部分からは常に火が吹き出ている。この男はかつては、イレギュラーハンター
第17精鋭部隊の所属の特A級ハンターであったが、前の大戦を機に反乱軍に加担、反乱が終結した後に行方不明と
なっていた。
「エックス…俺は負けちゃいねえ。あの時の復讐は果たさせてもらうぜ…」
この男の目的は一つ、かつて自分に泥を塗りつけたB級ハンターであったエックスへの復讐。
「この…フレイム・スタッガー様の復讐をなッ!」
その男の名は「ヒートナックルチャンピオン」の異名を持つフレイム・スタッガー。
最終更新:2009年07月14日 22:10