ミッドチルダ中央区画クラナガンの南東に存在するホテル・アグスタ。
今回行われるオークションの会場でもあるこの場所へ、ガジェットと不死者による襲撃を行った。
襲撃の目的はオークションに出品される品物を回収する為だ。
だが管理局は六課を前線へと向かわせ応戦、結果的にガジェット並びに不死者は全滅した。
其処で今回の指揮官でもあるレザードが囮役を担い、その間にガリューがホテル・アグスタへ潜入、目的の品を回収する事となった。
ガリューが回収する品物は三つ、スカリエッティが望む品が一つとレザードが望む品が二つである。
しかしホテル・アグスタには未だ本局の局員による厳重な警備が敷かれていた。
そしてガリューは局員にその存在を悟られず更に迅速に品物を回収を行われなければならないのである。
…今ここにガリューの任務が開始された。
此処はアグスタから少し離れた森の中、ルーテシアのブンターヴィヒトによってガリューはこの場所へと転送された。
ガリューは早速、環境迷彩を行いアグスタへと赴く。
環境迷彩とは、自分自身を魔力で覆い周りの環境に合わせる能力である。
この能力は気配を抑える効果があり、闇の中であればその存在を確認するのは皆無。
つまり今回の任務に打って付けの能力なのである。
ガリューはアグスタ正面に辿り着くと入り口には局員が二名で警備しており、正面からの潜入は無理と判断した。
其処でガリューは主であるルーテシアと念話で連絡を取る。
(…どうしたの?…そう、やっぱり地上ルートは無理があるのね……)
となると地下駐車場からの潜入が望ましいとガリューに進言、ガリューは頷くと念話を切り地下駐車場の入り口へと向かった。
地下駐車場は薄暗く環境迷彩には打って付けな場所であった。
暫く地下駐車場を探索しているとオークションの品物を運んでいたと思われる車両を発見、早速ガリューは車両の荷台を調べた。
しかし車両の荷台には何も残されておらず、荷台から降りると話し声が聞こえてきた。
ガリューは車両の隙間に身を潜め、話し声に耳を傾ける。
「なぁ、やっぱ今日のオークションは中止だよな」
「そうだろうな…まぁ出品物はオークション会場の出品置き場に置いてあるし、ほとぼりが冷めたら始めるんじゃないか?」
二人の話を聞いたガリューはその場を静かに離れ、地下駐車場に存在するエレベーターへと向かった。
ガリューはエレベーターに乗り一階のロビーを目指す、オークション会場の位置を知るためである。
エレベーターは一階に着きガリューはロビーへと赴くと、ロビーには局員が三人おり、談話を行っている様子であった。
ガリューは静かに局員の動きを警戒しながら慎重に進み、ロビーに存在するオークション会場の案内板を調べる。
案内板には別館の二階と書かれており、別館に向かうには中庭を通らなければならないようである。
ガリューは場所を確認すると、静かにロビーを後にした。
ガリューは中庭へと向かう通路を進み庭へと出る。
アグスタの中庭は別館に続く道を中心に左右に分かれており、そして中庭には局員が数名で警備していた。
しかしガリューは中庭には目もくれず別館の一階正面玄関へと向かう。
正面玄関には局員が三名で警備しており、とてもでは無いが突破するのは無理があった。
そこでガリューは他に入り口はないか中庭にある草の壁を背にして、辺りを伺いながら別館を一周する。
別館には他に入り口が二つほどあったが、どれも鍵が掛けられていた。
其処でガリューはルーテシアにアドバイスを貰う為、連絡をとる。
(…そう…表のルートは全て防がれているの……だったら裏のルート…例えば通気口とかから潜入出来ない?)
ルーテシアのアドバイスを聞き通気口を探すガリュー、そして通気口を探し出すと柵を外そうと力を込める最中、
草の壁の向こうから足音が聞こえ、ガリューはとっさに草の壁にひっつき息を殺した。
そして足音はガリューの位置の真反対で止まり、まさかバレたか!と全身に緊張が走るガリュー。
すると先程聞こえた足音の位置とは反対方向から足音が聞こえ始め、同じくガリューの真反対の位置で止まる。
そして局員二人は挨拶を交わすと談話を始めた。
「なぁ聞いたか?今上空にいるあの魔導師、アンノウンを召喚したみたいじゃねぇか」
「あぁ、何でも今回の騒動の首謀者らしい」
「うぇマジかよ……まぁ、此方にはあのエリート部隊、六課がいるから問題ねぇだろな」
「だな、もし俺が犯人だったら裸足で逃げ出すよ」
「俺もそうさ!」
二人は談話しながら大笑いをすると、別れの挨拶を交わし場を後にする。
その様子を壁の向こうで聞いていたガリュー、あの者達はレザードの恐ろしさを知らないからあの様な楽天的な事が言えるのだろう。
八年前にレザードの力の鱗片を知っているガリューだからこその意見であるが、今は任務を優先しようと行動に移る。
ガリューは通気口の柵を外し中へと潜入した。
通気口を入るとそこは通路ではなく縁の下のように広がっていた。
ガリューはホフク前進で進んでいくとブロックに囲まれ光が漏れている場所を発見する。
光はブロックの囲いにある鉄網の部分からで中を覗いてみると、中は深く掘り下げており瓶が並べられていた。
ガリューは局員がいない事を確認すると鉄網を破り中に潜入する、どうやら此処はワインセラーの様だ。
年代物のワインが並ぶ中、ガリューは扉を開き向かって左にある階段を上り、更に扉を開けると厨房へと出る。
厨房は今まで料理を行っていた形跡があり、スープに湯気が立っていた。
ガリューはワインセラーの出入り口から見て左の位置に存在する外への扉の鍵を開ける、その後厨房の出入り口へと向かった。
厨房の出入り口から見て右側に料理用のエレベーターが存在していたが、当然ガリューの体が入る訳もなく泣く泣く諦める。
そして反対の左の方へ歩くと前方にはトイレに続く道、左側に料理の受け取り口が存在する十字路にあたり、右に曲がって通路を進む。
ある程度長い通路を進むと、広いロビーにたどり着く。
ロビーはガリューの居る位置を主体に正面に同じ様な通路があり、右側には一階フロアの入り口、
左側の奥には正面入り口が存在しており、そこから二階へ上がる弧を描がいた階段が左右に一つずつ存在していた。
ガリューは早速二階へ上がろうと足を進めた瞬間、後方から人の気配を感じる。
ガリューはとっさに壁に張り付くと様子を伺う。
通路には一人の局員がこっちに向かって歩いてきており、どうやらトイレに行っていた様子だ。
ガリューと局員の距離が縮まる中、局員は唐突に腹を抑える。
「ぐおっ!!また…腹がぁ~~~……だっ駄目だ!!」
そう言うや今度はお尻を押さえそのままトイレへと向かった。
ガリューは一つ息を吐くと通路から局員が歩いていくのを発見する。
そこでガリューは局員と、ある程度距離を詰めてついて行く事にした。
局員は二階への階段を上り、奥にあるオークション会場の入り口へと向かう。
入り口には受付の格好をした局員が眠たそうにしており、局員が起こしに入る。
「おい!起きろ!」
「んあ?………交代か?」
「中にいる奴とだがな」
「あれ?もうそんな時間なのか……もう一人の奴は?」
「コーヒー牛乳を飲んで腹を壊している…」
「アイツまたか!?腹壊すんだったら飲まなきゃいいのにな」
「……好物らしい」
「腹壊すのにか??意味わかんねぇな……」
何気ない会話の後局員は扉を開け中に入っていく、そしてそれを確認した局員は腕を組み眠りに付こうとしていた。
それを見たガリューはゆっくりと静かに入り口へと向かう。
入り口の局員は眠りこけており、ガリューは静かに扉を開けていく。
そして静かに中に入るとゆっくりと扉を閉めた。
オークション会場内は円テーブルが多数並べてあり、それぞれのテーブルには料理などが乗せられていた。
そして入り口から右側に多数の料理が並べられており、バイキング方式をとっている様子であった。
すると局員が二名ステージから現れると入り口へと向かっていく。
どうやら先程の局員と交代した様子である。
そしてガリューは会場の奥にあるステージへと進む。
ステージに上がった先には左右に伸びた通路があり、ガリューから見て左の通路には品物が置いてあろう二部屋の前に局員が二人警備を行っていた。
次に反対方向へ進むと同じく局員が一人で警備を行っていた。
ガリューはどうするか考えていると、急拵えの待合室のような場所を発見する。
其処には四角いテーブルとロッカーが存在しており、ガリューはロッカーを見るやある方法を思いつく。
ガリューは局員に聞こえるようにロッカーを叩きすぐにテーブルに身を隠す。
「ん?何の音だ?」
音に気づいた局員はロッカーに近づいていく、するとガリューはテーブルから出てゆっくりと局員に近づくと、後頭部目掛け殴りかかる。
すると局員は前頭部をロッカーにぶつけ、後頭部の衝撃とロッカーからの衝撃により気絶した。
そしてガリューは局員から鍵を取り出すと、鍵を開け部屋の中へと入っていったのであった。
部屋の中は薄暗く様々な骨董品やロストロギアが陳列されていた。
ガリューは陳列された骨董品の中にスカリエッティが望む品を発見する。
妖精の瓶詰め、オークションの出品リストにある説明欄には、
古代ベルカのユニゾンデバイスが保存されている瓶と書かれてあるが、
実際には邪悪な錬金術師が、本物の妖精を瓶詰めにしたアーティファクトの一つである。
ガリューは目的の品を見つけたが、他の品物は此処には無い為、他の部屋に移動しようとドアノブに手を伸ばす。
すると不意にこのまま表に出ても仕方がないのではとガリューは考え込む。
何故ならば、他の部屋に行こうにも奪った鍵は一つだけで、他の部屋の鍵が無い為入ることが出来ないからだ。
ガリューは腕を組み考えていると、足元に通気口を発見する。
もしかしたらとなりの部屋に繋がっているのでは?と考え柵を外し突入した。
通気口は狭くガリューは必死に進む中、T字路にぶつかると左に隣の部屋に通じる通気口を発見、そのまま進み無事に隣の部屋に移った。
隣の部屋もまた荷物置き場になっていたが、目的の品は発見できなかった。
ガリューは仕方なく通気口を通り先程の部屋とは反対側の二部屋に向かう為、左に進む事にした。
ガリューは長い通気口を進み反対側の一部屋に出る。
そして出品物を調べていると、レザードが求めていた品物を発見する。
操呪兵設計図面…リストの説明欄には、かつて存在してたと言われる巨人兵の作り方が書かれたパピルスと書かれてあるが、
実際にはアーティファクトの一つでゴーレムを製造する為の設計図であった。
目的の品を発見したガリューは通気口を通って最後の部屋へと向かう。
最後の部屋に入ると早速出品物を調べる、そしてカゴの中に入った金色の鶏を発見する。
レザードが求めていた最後の品、黄金の鶏である。
黄金の鶏の説明欄には金の卵を産む珍しい鶏と書いてあったが、
本当は失われた技術によって造られた魔法生物で、
与えられたエサによって様々な能力をランダムに高める事が出来る、金の卵を生み出すアーティファクトである。
目的の三品を手に入れたガリューは最初にいた部屋まで戻り、環境迷彩を解く。
何故ならば環境迷彩の効果は自分自身のみであるし、品物を抱えている時点で意味が無いからだ。
行きよりも見つかるリスクが高い帰りだが仕方がないと割り切るガリュー、すると外から声がするので扉を開き顔だけを出す。
「どっどうした!?」
「すまない、敵の襲撃を受けたみたいだ」
「何だって!?今連絡――――はぅ!?」
「どうした?」
「は………腹が!!」
「おっおい!」
「ダメだ!後は頼む!」
そう言ってトイレへ向かう局員、残された局員は唖然とすると頭を掻きながら連絡を取った。
「司令部、司令部」
《こちら司令部》
「敵の攻撃を受けた!敵の位置は不明、これより警戒態勢に入る!」
《了解、増援を送る》
それを聞いたガリューは頭を引っ込め部屋の中で考え込む。
まさかあの下痢男がここに来て障害になるとは思っていなかったからだ。
そしてガリューはルーテシアからアドバイスを貰う為、連絡を取る。
(うん、それは困ったね…どこかに身を隠せる場所とか無い?通気口の中とか…あと、あの天井にあるあの蓋は何?)
ルーテシアのアドバイスを聞き、上を見上げると外れそうな一部分がある、どうやら天井裏への入り口のようだ。
通気口は柵が壊された形跡がある為バレる可能性がある、となると天井裏しか無いだろうと考えまず入り口の蓋を外す。
次に荷物を入れ自身を乗り込むと扉の方から声が聞こえる。
「おい!鍵が開いているぞ」
「本当だ……まさかこの中か!」
その声を聞いたガリューは急いで天井の蓋を閉めたのであった。
天井裏は薄暗く配線や柱などで複雑に入り組んでおり、足元に気をつけながら中腰の形で進む。
そしてパーティー会場の天井辺りまで歩いていると、激しい衝撃が建物全体を揺らす。
不意の揺れにガリューは思わず手に持っていたカゴを落としてしまう。
すると落とした衝撃で扉が開き鶏が逃げ出してしまった。
慌てたガリューはすぐに捕まえようと進むが、鶏はあざ笑うように跳ねながら逃げていく。
これは時間が掛かると感じたガリューはルーテシアに内容を伝える。
(…分かった、博士にはもう少し時間を稼ぐように言っておく……でも早く捕まえてね…)
そう言って連絡を切ると、ガリューは腕を振り回し気合いを入れ直した。
鶏は意外とすばしっこく、なかなか捕まらないでいた。
何か方法はないか考えていると、環境迷彩の事を思い出し早速行動に移る。
天井裏は薄暗い為、環境迷彩は最適で今までとは異なり簡単に鶏を捕獲した。
そしてガリューは鶏をカゴにしまうと辺りを見渡す。
鶏を捕まえるため縦横無尽に走り回った結果、此処が何処か分からずにいた。
ガリューは辺りを見渡すと床から光が漏れている場所を発見、ガリューは床をゆっくり開けるとそこはトイレであった。
ガリューは局員がいない事を確認しそっと降りると、個室から唸り声がしてきた。
どうやら先程の下痢男が入っている様である。
ガリューは復讐でもしようと考えたが此処で騒ぎを起こす訳には行かないと考え、ぐっと堪えてトイレを後にしたのであった。
トイレから出ると其処はオークション会場の外側の通路であった。
そして前方の通路の右側にある窓から外を見ると、キノコ雲のような土煙が上がっていた。
恐らく先程の衝撃によって生み出された土煙だとガリューは判断していると、
通路にいたと思われる局員が挙って土煙を見ており、脱出するには今しかないとガリューは判断した。
ガリューはオークション会場の入口へと向かう通路を抜け入り口にたどり着くと、局員は未だ寝ていた。
あんな衝撃があっても未だ寝ている局員に対し呆れつつ、好機とばかりに階段を下り厨房へと向かう。
厨房には局員の姿がない為、そのまま外への扉をゆっくりと開ける。
中庭にいた局員達は空を見ながら談話をしていた。
「すげぇなあれ……」
「あぁ…あの魔導師死んだんじゃないか?」
二人の局員が談話をしている隙に、ガリューは中庭を通って森の中へ身を隠した。
森の中を進む中、アグスタの敷地と森の境界線とも言える柵にたどり着くと、ガリューは柵を乗り越えアグスタを後にした。
その後ガリューはルーテシアのもとへ全速力で向かっていた。
途中、爆発音が三度響いたが、気にすることなく向かっていく。
その中、自分がアグスタを脱出した事をルーテシアに伝えてなかった事を思い出し、向かいながら連絡を取る。
(そう…目的の品を手に入れて脱出したのね…それじゃその事を博士に伝えておく……)
ガリューは頷き連絡を切るとさらに速度を上げルーテシアのもとへ向かった。
ガリューはルーテシアと合流すると目的の品を渡しガリューは送還され、ガリューの任務は此処に終了を遂げ、
ルーテシア達は転送魔法でゆりかごへと戻って行った。
ゆりかごに戻ったルーテシアは手に入れた品物を届ける為、まずスカリエッティの元へ向かう。
スカリエッティはモニターにて録画したアグスタの戦況を見ており、その顔は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
そしてその隣にはウーノが六課の戦力を纏めており、その中でルーテシアの存在に気が付いたウーノがスカリエッティを呼び掛ける。
「博士、ルーテシアお嬢様がお待ちです」
「あぁ、そうだったのかい、ご苦労様だったね可愛いルーテシア……」
「…ロリコン発言も自重しないと…周りから痛い目で見られるよ……」
その言葉に乾いた笑みを上げるスカリエッティ、するとルーテシアは他の品物をどうすればいいのか聞くと、スカリエッティは気を取り直しこう答える。
操呪兵設計図面はレザードが直接受け取ると、そして黄金の鶏はナンバーズに届けてほしいと伝えた。
ルーテシアはスカリエッティの言付けに頷くと早速ナンバーズの元へ向かう、辺りが沈黙に包まれる中スカリエッティは徐に口を開いた。
「あの年頃に可愛いと言うのはいけないのかね?」
「いけなくはないと思われますが、言い方の問題かと」
ウーノの言葉に腕を組み考え込むスカリエッティであった。
一方ルーテシアはナンバーズの元へ向かっていた、目的は黄金の鶏を届ける為である。
ナンバーズは今、トーレとチンクを中心に訓練所でトレーニングを行っていた。
その場所にルーテシアが入ってきた、それに気が付いたトーレがルーテシアに話しかける。
「これはルーテシアお嬢様、何のご用で?」
「これ……博士のお土産」
そう言うとカゴを渡すルーテシア、中には黄金の鶏が入っていた。
トーレは首を傾げルーテシアに質問を投げかける。
「これは……一体なんですか?」
「さぁ?博士に聞いて……」
そう一言残すと足早に帰るルーテシア、カゴを渡されたトーレは唖然としているとウェンディが近づいてくる。
「どうしたんッスかその鳥?今日の夕飯の材料ッスか?」
あっけらかんとひどい事を言うウェンディ、その言葉に頭を掻き横に振る二人であった。
そしてルーテシアは最後の荷物を抱え、一人ゆりかごの通路でレザードの帰りを待っていたのであった……
最終更新:2009年04月18日 21:14