第3話「未知との邂逅」


 機動六課の初出動から一夜明けた朝、はやては部隊長オフィスにて情報の整理を行っていた。背後の窓から
は暖かい陽光が射し込み、朝独特の清清しい雰囲気を創り出している。勉強も朝の内にやれば捗ると、長期休暇
となればよく言われると聞いたことがあるが、まさにその通りであると実感していた。これで朝専用のコーヒー
があればもはや言うことはあるまい。
「ん~~……。はぁ…、もう八時か」
 時計を仰ぎ見れば、ちょうど八時を過ぎた頃だ。できれば八時半までには今の作業を終わらせてしまいたいの
で、彼女は再びデスクと向き合う。機動六課本来の任務、レリックの回収と護送に関する報告書等は昨日の内に
纏めてしまっていたので、今朝は最終確認だけで済んだ。今彼女が行っていること、それは昨日現れた次元漂流
者に関する情報収集と報告書の作成である。エイリム山岳丘陵地区においてその存在を確認した時には戦闘機が
四機、更に彼らを保護しに臨海第8空港へ向かうと旅客機クラスの大型航空機一機が駐機していた。後に判明した
が、あれはAWACSという機種らしい。フォワード部隊には全員を保護し、機動六課の隊舎まで連れてくるように
指示を出したが、人数が多い為往復することとなった。その点に関して、ヴァイスには申し訳なかったと思う。と
りあえず、彼らへの質問は所属と階級、名前くらいの簡単なものに留め、その後は隊舎の余っている部屋を割り当
てて休んでもらった。疲れていることなど聞かなくとも理解できていたし、何より安心してもらいたかった。突然
異世界へと飛ばされ、何が起こったのか分からないまま偶発的にとはいえ、戦闘まで行ったのだ。肉体的にも精神
的にも相当堪えていることは想像に難しくない。
「ふわぁ…。おはようございますです、はやてちゃん」
 ちょうどその時、はやてから見て正面の自動ドアが開き、彼女の家族でもある小さな来訪者がやってきた。目を
擦っている仕草から見て、いかにも眠そうだ。
「おはよう、リイン。もうちょっと寝ててもええんとちゃうかな?えらい眠そうやで」
「むー、リインはもう子供じゃないですよー」
「あはは、ごめんごめん」
 頬を膨らませて抗議の意を示すその姿がまたなんとも可愛らしい。そしてまだ眠そうに見えることはこれ以上言
わないことにした。リインも昨日はよく頑張ってくれた。レリックの回収、護送、次元漂流者の保護、フォワード
の新人達共々大きなミスも怪我も無く、これらの任務を完遂してくれた。疲れていたのは彼女も同じなのだろう。
彼女はそのままふわふわと自分のデスクまで飛んで行き、椅子に腰掛けると空間ディスプレイを呼び出す。
「今は何をやっているですか?」
「昨日の人らに関する情報収集と報告書の作成、やね。今そっちに回すな」
 はやては自分が纏めている情報の一部を、リインの空間ディスプレイに転送する。表示されたものは主に人に関
する情報で、その内の何人かは見覚えがあった。
「えっと、この人達が戦闘機のパイロットで、後の人はあの大きい航空機の乗員さんですか?」
「うん、私らが最初に把握したのはこの四人やね。なかなか賑やかな人らやと思うんよ」
「はいです!ちょっと恐そうでしたけど、明るい人達でした!」
 昨日ヘリに同乗していたリインが、彼らについてそう述べた。実際にどういう会話をしたのかは機会があれば聞
いてみたいが、好印象であったことははやてとしても嬉しいところだ。新人達を含め他の者の彼らへの印象も気に
なるが、特に揉め事も起きていないことからそれほど問題は無いように思える。こちらを警戒していて、無用な争
いを避ける為に気を遣っている可能性もある。それでも、良識ある行動を心掛けてくれているならありがたいこと
だ。
「あ、やっぱりリインもそう思うやんな?私も昨日……お?」
 途中まで言いかけたところで、また自動ドアが開く。次に入ってきたのは、栗色の髪をサイドポニーにしている
女性と、長い金髪をなびかせている女性の二名だ。
「おはようございますです、なのはさん、フェイトさん」
「おはよう、リイン、はやてちゃん」
 なのはとフェイトの二人は、はやてのデスクの近くまで歩いてくる。
「ごめんな、忙しいのに。フォワードの子らはどうしてる?」
「皆元気だよ。今は食堂で朝食を食べてるんじゃないかな」
 フェイトが柔らかな声でそう答え、新人達に変わりが無いことを聞いたはやては安心したように微笑んだ。一
夜明けたぐらいで何かが変わる訳でもないが、昨日は初めての実戦であり、未知との遭遇もあった。多少の心配
は抱いていたし、変わり無いと聞いて安心しない者はいないだろう。
「そうか、それはなによりやな。…あっと、それ聞く為に来て貰ったんやなかった。なのはちゃんからお願いし
てもええかな?」
 ここではやては本題に入ることを切り出す。二人を呼んだ理由は、やはり昨日の次元漂流者に関することだ。
なのはとフェイトの二人にはそれぞれ可能な範囲で情報収集を行ってもらった。彼らから入手できた情報は、所
属、名前、階級と彼らが搭乗していた機体ぐらいの限られたものにすぎないが、貴重な手掛かりであったことも
確かだ。
「あの人達の機体についてはかなり分ったよ。はやてちゃんの言った通り、私達の世界にも同じものがあったみ
たい」
 やっぱり、とはやては内心で呟く。なのはは空間ディスプレイに調べた情報を表示し、読み上げていく。
「機体の名称はF‐14Bトムキャット、私達の世界だとアメリカ海軍とイラン空軍が運用している艦上戦闘機って
種類の機体みたいだよ。」
「あー、やっぱりアメリカ製か。どこかで見たことがあると思ってたんよ」
「かっこいいですよねー」
 思わずリインはそう漏らした。確かに、スバルやヴィータあたりはその優美かつ洗練された造形美に目を輝かせ
ることだろう。シャーリーを初めとするメカニック陣は違う面に釘付けになっているかもしれないが。可変後退翼
という独特な主翼に空気抵抗を考慮した流れるようなデザイン、空を飛べば見る者を魅了する美しい機体だ。反面、
維持費が非常に高額な為、保有できた国はアメリカとイランのたった二カ国だけである。つまり、運用している国
が少ないということは、それだけ的を絞れるということだ。はやてはアメリカを手掛かりにしていけば良いと考え
たが、なのはの報告によって否定されてしまった。
「でも、今回のあの人達にアメリカは関係無いよ」
「何でなん?」
 開発国はアメリカで、運用もほとんどアメリカだけの高価な機体だというのに。だが、なのはの次の言葉に納得せ
ざるを得なくなった。
「アメリカ海軍はもうF-14を運用してないんだって。何年か前に全機退役になったみたいだよ」
 退役とは人間の場合は軍隊を辞めることだが、兵器の場合は現役を退くこと、即ちその多くが解体か予備役として
保存されるかになる。イランという例外を除けば、なのはやはやての出身世界である第97管理外世界において、F-14
が飛ぶ姿を見ることはできないということになる。
「アメリカとちゃうんか…。イランでもないやろうし、私らの世界とは関係無いってことになるんかな?」
「おそらくそうだと思うよ。私としてはこっちの方が驚いたかな」
 なのはは空間ディスプレイを操作し、次の情報を表示する。そこにはあのAWACSという機体の画像が映し出されてい
た。
「あれはE-767っていう機体で、私達の世界では四機しか存在しないAWACS(早期警戒管制機)だよ。それも、その全
部が日本の航空自衛隊で運用されているんだって」
「日本で!?」
 思わぬ事実にはやては声を上げてしまった。第97管理外世界で僅か四機しか運用されていないとする軍用機の全てが、
彼女やなのはの母国である日本にあるというのだ。その運用数の少なさもさることながら、全機が自分の国にあるとは
俄かには信じられなかった。しかし、これでまた一つ明らかになったことがある。
「すでに退役済みの機体に、たった四機しか存在しない機体の組み合わせ。私らの世界じゃ考えられへんな…」
「うん。それに私達の世界から密輸した物だとしても、どっちも維持費が高すぎて国家規模の予算が必要になるし、
部品の入手も難しいから運用するだけのメリットは無いと思うよ」
 戦闘能力は確かに高いが、その代償として維持費が高額で整備が難しい機体と存在そのものが高価な機体。定期
的に部品の入手ができなければ運用もままならない。部品の複製も可能なのだろうが、それを行うにも高度な技術
が必要となるし、投資する額が凄まじいものになる。ある程度余裕のある組織や国家でなければ、保有しているだ
けで弱体化してしまうだろう。それならもっと安価で部品の調達も容易な機体を求める筈だ。昨日の接触で予想は
できていたが、彼らが犯罪者の類でないことは確実となった。
「正規のルートやなかったら機体も部品の調達も難しく、購入できたとしても高価で維持費も高い、か。金持ちや
ないと無理やろうなぁ。やっぱり正規軍てことになるんかな?」
 はやては椅子に腰掛け直し、溜息をつくかのように自らの結論を述べた。F-14の一機くらいなら犯罪組織等でも
なんとかなるかもしれないが、四機に加えてAWACSだ。先進国並みの経済力がある国家でなければ同時に運用
することは難しい。
「隊長さんが所属を名乗ったし、そうだと思う。アメリカ並み、とは言わないけど経済力のある所じゃないと持て
ないよ」
「ふむ…。まぁ、機体に関してはこの辺にしとこか。次はフェイトちゃん、あの人らの世界について何か分かった?」
 ここで一旦機体に関する考察を打ち切ったはやては、彼らの世界についての調査を担当していたフェイトに目
を移す。
「昨日はやてに言われた通り、管理局で把握している管理世界や管理外世界を当たってみたけど…」
 その話し方にはどこか影があるようで、フェイト自身も俯き加減だ。こういう時は決まって良い知らせは無いも
のだが、それは彼女の目の前にいる親友にも当てはまっているらしい。
「該当する世界が無かったんやね?」
 このことも予想の範囲内ではあったが、実際に聞いてみると心が痛む思いだ。どこからか飛ばされて来た以上彼
らが帰るべき世界は必ずあるが、それが自分達の手の届かない所にあると言われているに等しい現実が重くのしか
かる。調査を担当していたフェイトが沈んだ表情であるのも頷ける。これがただの犯罪者や次元漂流者ならこうも
気に掛けなかったが、昨日の通信を聞いた限りでは悪い人達には見えない上、放っておいても良かった筈の貨物列
車を命懸けで守ってくれた。なんとか報いたいが、現状ではできそうもない。小さく頷いたフェイトは詳細の報告
を続ける。
「どの世界にもオーシア連邦っていう国名の国は無かったし、第97管理外世界と同じ兵器を使用している世界も無
かったよ。管理局が把握していない世界から来たことは間違いないと思う」
「未知の世界、それも私らの世界と似た文明を持った世界…」
 次元世界は無数にある。違う歴史を歩んだもう一つの地球とも言うべき世界があるのかもしれない。まだ彼らの
世界について不明な点は多いが、二人からの報告で有益な情報がもたらされた。
「えっと、お二人の調査を纏めると、あの人達が乗ってきた機体は第97管理外世界の物と同じだけど、管理局が把
握していない世界から来た可能性が高い。ということですか?」
「そういうことになるね」
 リインの簡潔な要約になのはが頷く。世界の特定まではできなかったが、何も分からなかった状態と比べれば格段
に進展した。この情報を基に調査を続けていけば、いずれ彼らの世界を見つけることができる筈だ。はやてはデスク
から立ち上がり、満面の笑顔で二人に感謝の言葉を述べる。
「二人とも、おおきにな。現時点であの人らに関する情報はこれでええと思う。あとの詳しい事情を聞くのはこれが
終わってからにしよかと…」
 もう一度時計を見上げると、既に八時半を過ぎてしまっていた。
「もうこんな時間なんか。じゃあそろそろ用意始めよかな。リイン、戦闘機の四人を応接室に呼んで貰ってな。対応
は私がしとくよ」
「はいです!」
「あ、はやてちゃん。それなら私も手伝うよ、それくらいの時間ならあるし」
「私もいいよ」
 昨日とは違い、今日はより詳しい事情を聞くつもりだ。隊長を務める二人は、新人達への訓練も行わなければなら
ない。貴重な時間を削って付き合ってもらうには、気が引けてしまう。自然と顔色を窺うかのような表情になっている
自分に気が付いたが、それでも聞かずにはいられなかった。
「昨日よりは長くなると思うんやけど、訓練とかの方は大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫。私がしっかり育ててみせるから!」
 胸を張って語る親友の姿が非常に頼もしい。遅れたりしたら、それを理由に訓練密度をこっそり上げちゃったりでき
るしね。などという恐ろしい発言が聞こえた気がするが、きっと気のせいに違いない。
「あ、あははは。さすがは教官殿、心強いなぁ」
 はやては新人達への謝罪の言葉を胸の内で唱えつつ、三人と共に部隊長オフィスを後にした。

 朝目が覚めると、そこは自分の部屋では無かった。ベッドに敷かれたシーツの感触に違和感を覚え、朧げな
視界のまま辺りを見回すと備品の配置からして異なっていた。いつもなら手の届く場所に置いてある私物の
雑誌類も、入隊時に買ったラジオもここには無かった。意識が鮮明になるにつれ、昨日のことが頭に蘇って
くる。あれは全て夢だった、そう思い始めたブレイズを現実に引き戻すにはあまり時間はかからなかった。
「違う世界か…」
 映画や創作物にしてはありふれた展開で、夢なら自分はどれほど疲れているのか疑いたくなる。しかし、昨日
ブレイズが目にした列車も、彼が破壊した無人機も、廃空港で出会った女性も全て現実だ。彼は身を起こし、
ベッドから立ち上がる。改めて部屋の中を見ると、特に変わった物は無い。何の変哲も無い家具や備品が並んだ
ごく普通の部屋だ。これを見ただけなら、自分が異世界へ来たことなど信じられなかっただろう。昨日の事情聴取
の場面を記憶から消し去ることができれば、どれほど都合がいいか。
 あの場において、部隊長の八神はやてという女性はブレイズ達の状況について簡単に説明してくれた。彼女曰く、
今自分達がいるこの世界はミッドチルダというらしい。最初は否定したかった事実を肯定する言葉に、ある種の落
胆を覚えた。帰れることは間違いない、と言ってくれた彼女の言葉が心の支えにもなっている。
「おはようございます!八神部隊長がお呼びですので、応接室までお越し願います」
「あぁ、ありがとう。今行くよ」
 突如として静寂が破られ、昨日の続きを行うことを伝えられた。ブレイズはそれに答えると、彼を呼びに来た少
女に続いて部屋を出た。青い髪の少女、スバル・ナカジマといったか、ヘリで自己紹介を最初にしてくれた。あの
時は重苦しい空気が漂っていたが、チョッパーの気の利いたジョークを交えた自己紹介でなんとか打開できた。
「あ、あの、隊長さんの世界ってどういう所なんですか?」
 歩きながら、振り向きつつスバルが聞いてくる。
「そんなに硬くならなくてもいいんじゃないか?見ての通り丸腰だ、何もできやしないよ」
「そ、そういう訳じゃないんです」
 話題を作ろうと必死なのだろうか、緊張している様子がありありと伝わってくる。素っ気無い態度で接されるよ
りもありがたいが、もう少し社交性が欲しい。かと言ってチョッパーのようになられても困る。今こうして話しか
けてきているのは、彼女なりの努力なのだろう。
「俺の世界か…。知りたいかい?」
「はい!」
 とも思えば、良い返事もする。昨日のヘリでの件といい、勇気が無いわけではないようだ。
「ふふふ、君の想像に任せるよ」
「なるほ…、えぇ!?」
「また落ち着いた時に話すよ、それでいいかい?」
「そうですか…」
 何故それほど落ち込むんだ。未だかつてこれほどまでに感情が表に出る人間とは出会ったことが無い。
「楽しみは後にとっておくもんさ。といっても珍しい話なんて無いと思うけどね」
「そんなことないですよ。色んな世界に色んな文化があるんで結構面白いんですよ」
「そうなのか?それは興味深いな」
「はい、だから隊長さんの世界のこ…。あ、着きました。ここがそうです」
 お互いに会話が弾みだしたところで、目的地に到着してしまった。少々名残惜しいが、続きはまたの機会にしよ
う。自動ドアが開き、部屋に入ると見慣れた顔が揃っていた。
「お、見ろよ。隊長様が女の子連れてるぞ」
 ブレイズに対するチョッパーの第一声は、彼に対する冷やかしともとれる発言だった。隣にいるスバルは若干困
惑した様子だが、彼は至って冷静だ。ここで引き下がるようではウォードッグ隊の隊長は務まらない。
「ああ、八神部隊長が気を利かせてくれたらしい。部屋の割り当てに関してもそうだ。おかげで騒音公害に悩まさ
れずに済んだ」
「どういう意味だ!ったく俺なんて眼鏡のがり勉君なのによぉ」
 チョッパーが自らの待遇に不平を漏らす。相手に失礼かどうかなんてお構いなしだ。それにしても、『眼鏡のがり
勉君』とは一体誰なのだろう。そんな人物を見た記憶はブレイズには無かった。
「それって、グリフィス・ロウラン準陸尉ですか?」
 そこにスバルも加わってくる。ここで名前が挙がってきたわけだが、それでも心当たりは無かった。
「おお!確かそんな名前だったな。まぁなんとも事務的な対応してくれたぜ。お堅いのはうちの石頭だけじゃなかっ
たみたいだな。もっとも、ああいうタイプはいじり甲斐があるってもんだ」
 なんとも意地の悪そうな表情で何かやらかしたことを仄めかしているが、口調からして既に手遅れのようだ。真面
目であることはそれ自体が取り得であると言える。グリフィスという人物が真面目な気質の持ち主なら、チョッパー
のような人間は苦手な部類に入るかもしれない。
「何か仰ったんですか?」
「ああ、ちょっとな。なかなか面白い反応だったぜ。へへっ、あの手の話題は苦手と見た」
 どうやら大方の予想は当たっていたようだ。得意げにその状況を語るチョッパーと興味津々と言わんばかりに先を
期待しているスバル。グリフィスという人物には気の毒だが、これからしばらくはネタにされてしまうだろう。
「あ、じゃあ私はこの辺で。もうすぐ隊長達もお見えになると思います」
「そうか、ありがとう。また近い内に話でもしよう」
 スバルが立ち去り、後にはウォードッグ隊のメンバーのみが残された。それと同時に、先程までの雰囲気とは打って
変わり静寂が訪れる。ブレイズは部屋の中心付近のソファーに腰掛けると、全員の顔を見回し口を開いた。
「世界が違う、か。我ながら出来の悪い夢でも見ているようだ」
「ここにはオーシアもユークも無い。…私達の世界のものは何も無い」
 ナガセが自分達の状況について、そう呟いた。そんなことは既に理解できているが、最も重大なことであるのも
事実だ。オーシア連邦やユークトバニア連邦共和国、ベルカ公国、ウスティオ共和国、サピン王国、こういった国々
が一切存在しない世界であるということは、ブレイズ達の身の安全を法によって保障してくれるものが無いという
ことだ。
 自分達の世界でない以上、それぞれの国の法が機能するわけでもなければ、国際法が機能する筈もない。或いは、
何か違反行為を犯したとしても罰せられることは無い。法を執行する存在が無いからだ。その逆もまた然りだ。彼ら
に何か不都合が起こっても、それを自分達の世界の法を根拠に解決を図ることはできない。この世界にはこの世界の
法があることは確実であるから、オーシアの法を持ち出しても無駄ということだ。
「隊長はどう思いますか?僕らがどうなるか…」
 これに尽きる。時空管理局という名の組織があるからには、なんらかの法がこの世界にもあることは間違いない。
それがブレイズ達にも適応されるかどうかは別問題だが。適応されない場合はこの世界の法に関して気にする必要は
無いかもしれないが、何の恩恵も受けられないしどこかに隔離される可能性もある。適応される場合は、この世界の
法が身の安全を保障してくれるかもしれないが、それに従うことを求められる。
 無論、従えと言われたならおとなしくそうするが、何を規律し、何を禁止し、何を保障しているのか全く分からな
い。自分の知る法が、ここには存在しない。それは言い知れぬ恐怖となって降りかかって来る。考えようによっては、
帰れるまで隔離施設にでも放りこまれているほうがマシかもしれない。
「どうだろうな。高町一尉や八神部隊長は俺達の身の安全を保障すると言った。今はそれを信じるしかないんじゃな
いか」
 自信の無い発言に自分でも頼りなく思うが、それくらいしか言えなかった。これからどういう扱いを受けるかは分
からないが、少なくとも彼女達は約束してくれた。何も頼るものが無いブレイズ達には、それだけが拠り所だ。
「そうね、心配していても始まらない。今は待ちましょう」
「そうそう、金髪の姉ちゃんも言ってたしな。俺みたいにどーんと構えてりゃいいんだ」
「お前は少しぐらい遠慮ってものをだな。…ん?」
 ふと、ここで初めてチョッパーが手にしている物に気が付いた。色は青く、形状は長方形に近いが全体的に薄
い。底部から伸びているコードはイヤホンのようだ。
「あ、それiPodですよね。去年リリースされた最新モデルのようですけど、どうしたんですか?それ」
「あぁ、これか?昨日没収されかかったんだが金髪の姉ちゃんに頼み込んでなんとか返して貰ったんだ」
 そう言うと、彼は奪還に成功した私物を愛おしげに見つめる。昨日の夜に見かけなかった理由はそれだったの
か。一つの疑問が解けたが、ブレイズにはもう一つの疑問がある。
「俺としては、お前がいつそんな物を持ち込んだのかが知りたいな」
「何言ってんだ、俺はいつも肌身離さず持ってるぞ」
 隊長の目の前で堂々と内規違反を宣言するあたりはさすがというところだろうか。それも毎回とは筋金入りも
いいところだ。
「機内への私物の持ち込みは内規違反に当たるんじゃない?」
「細かいことは気にすんな、こいつは俺のお守りみたいなもんだ」
 これ以上追求するのは無駄だろう、ブレイズはチョッパーの執念に免じて見逃すことにした。どのみち、ここ
にはオーシアの法は無いので制裁を下す存在はいない。ただ、次に何かを見つけたら迷わず没収することを心に
誓う。それにしても、そこまでして取り返したかったということはよほど大事な物でも入っているのだろうか。
「少尉、それに入ってる音楽ってもしかして…」
「察しがいいな、こいつには俺の魂が入ってんだ。おかげで昨日は良く眠れたぜ」
「ロックか…。お前も好きだな」
 趣味がロックレコード集めだけあって、サンド島基地のチョッパーの部屋にはロックに関するポスターが貼ら
れていたり、その他コレクションの数々が並べられていたのを前に見たことがあった。
「当然だろ。俺からロックを取ったら何が残るんだ?」
「言うと思ったよ…」
 ブレイズは呆れた表情を浮かべながらソファーに深く腰掛ける。足を伸ばそうとしたところで、右足のポケッ
トに違和感を感じ、昨日から気になっていたことを思い出した。
「そういえば、昨日廃空港でこんな物を拾ったんだが何だと思う?」
 彼はポケットから何かを取り出し、皆に見えるように掲げて見せる。
「銃弾?でも弾頭はまだ付いているようね」
「何だそりゃ?ブービー、お前の私物はずいぶんと物騒だな」
「生憎と不用品を溜め込む趣味は無いんだ。グリム、何だと思う?」
 見たところ自動拳銃用の薬莢のようだが、全長はマグナム弾のように長くなっており、何より大きさがショッ
トシェルぐらいはある。弾頭部も通常弾と比べるとかなり平たくなっていて、空気抵抗は悪そうだ。
「何でしょう…。ショットシェルには見えないし、拳銃弾にしては大きいです。この世界の銃弾はこんな形状な
のでしょうか?」
 この謎の銃弾にはグリムもお手上げのようで、良い回答は得られなかった。銃弾の類であることは間違いない
のだが、どんな銃に使用されるかまではわからなかった。その正体について不審に思いながらもブレイズはポケッ
トへと戻そうとしたが、ここでようやく目当ての人物達がやってきた。
「やっときたか、もう待ちくたびれたぜ」
「あはは、お待たせしました。今から始めますよ」
 はやて、なのは、そしてフェイトが順に応接室へと入ってくる。改めてこの三人と顔を合わせることとなったが、
全員若く、その表情にはあどけなさが残っているように見える。昨日のヘリで同席した少女達も幼かったが、彼女
達も十分若い。それでも、自分達より階級が上なところを見るとよほど優秀なのだろう。
「さて、まずはあなた方の世界についてお聞きしたいと思いますが、隊長さん?」
「ブレイズでいいよ」
 元の世界について説明して欲しいと言われたので、ブレイズは自分達の世界の文明や国家、そして情勢について可能
な限りを話した。中でも文明について語った時に三人それぞれが驚愕や動揺といった表情を一瞬覗かせたが、彼には
その意味は分からない。そして彼の祖国を取り巻く状況、四日前にユークトバニア連邦共和国が宣戦布告、戦争状態
に陥った件を話すとそういった感情がより顕になった。このミッドチルダに飛ばされるまでの経緯を一通り話すと、
フェイトが口を開いた。
「では、あなた方は…」
「ええ、まだ実戦経験が一週間ほどの新兵ということになるわね」
「グリムなんて五日ぐらいだっけか?」
「はい、確かそれくらいです」
 年齢で言えば自分達よりも上だが、こと実戦経験で言えば僅か十日にも満たないという。しかし、フェイトには目
の前にいる人達がそうだとは信じられなかった。元の世界から飛ばされるという異常事態に遭遇していながら、彼ら
は終始パニックに陥ることも無く冷静な対応ができていたことからベテランだと思っていた。予想外のことも含めて
全て初経験であるのに、こうも余裕を持った冷静な態度をとることができるのだろうか。
 話を聞きながら記録を取り続けていたはやてが、確認を取るようにブレイズに尋ねる。
「なるほど、事情はよく分かりました。つまり、弾道ミサイルによる攻撃が終わった直後の光に巻き込まれ、気が付
いたらミッドにいた、と」
「あの時は死んだかと思ったよ。まぁ、今の状況を思えば大差無いかもしれないけどね」
 オーシアのある世界から消えたことは、事実上死んだことと同義だ。ブレイズ達は確かに生きているが、帰れない
ことには死人と変わらない。今頃オーシア本国ではイーグリン海峡での戦闘で撃墜された他の友軍機共々MIA(作戦行
動中行方不明)、あの状況ならばKIA(戦死)として処理されているかもしれない。
「俺達の世界についてはこんなところだ。次はそっちのことを教えてくれないか?」
 最大の懸念事項は、この世界がどういうところで時空管理局とは何なのか、他にも知りたいことや知っておくべきこ
とはあるかもしれないが、ブレイズを始めウォードッグ隊の全員が優先して知りたかったことはそれだった。助けてく
れたことには感謝しているが、得体の知れない組織を信用することは難しい。幸い、彼女達からの丁寧な説明で当初の
疑問や不安は解消されたが、語られた内容は予想を遥かに上回る荒唐無稽とも思えるものばかりだった。
「魔法!?」
 突如として飛び出した信じがたい言葉に、グリムが声を上げる。世界は複数あって次元世界と呼ばれていること、時
空管理局はその次元世界での問題に対処する巨大な組織であること、ブレイズ達の世界は管理外世界である可能性が高
いこと。これだけでも理解不能に近いというのに、そこへさらに魔法とは。
「はい、こういうのがそれに当たりますね」
 なのはは人差し指を差し出すと、そこに桜色の光球を出してみせる。それを見たウォードッグ隊の面々は全員がそれ
を凝視し、手品ではないことに驚愕した。
「おいおい、SFなのかファンタジーなのかどっちかにしてくれよ。俺はトリック映画の方が好きなんだがな」
「でも、これで信じて貰えましたか?」
「手品でなければ、もう信じる以外にないでしょう?」
 未だ信じがたいと言いたいようだが、ナガセは諦めたように返答する。
「しかし、魔法の世界とは…。そんなものが本当にあるなんて思わなかったよ」
「普通はそうだと思いますよ、私も初めて魔法と出会った時はびっくりしました」
「そうか…。あぁ、そうだ、ついでのようで悪いがこれが何かわかるかな?」
 ブレイズは、再びあの謎の銃弾を取り出しなのはに見せる。彼女はそれを観察する内、一瞬固まったように見えたが
直ぐに気を取り直し、ブレイズに尋ねる。
「これをどこで?」
「昨日の廃空港だよ、隕石か何かが貫通したような形跡があった場所に落ちていたんだ。そこから先は崩壊が激しいし、
照明が無かったから進めなかったが」
 それを聞いたなのはは、感慨深げにその銃弾を見つめる。それもほんの数秒、再度彼と向き合うとその正体について
教えてくれた。
「これは、カートリッジという魔法の補助に使う物なんです」
「魔法?銃に使う弾薬じゃないんですか?」
 形状から見ればどう見ても銃に使う以外の使用法は無さそうだが、なのはによると違うようだ。
「これには圧縮魔力が充填されていて、魔法を行使する際に使用する補助器具みたいな物ですね」
「じゃあ銃弾て言うより、電池ってことか?」
「えっと…、まぁそうなります」
 電池という表現に対し回答に窮してしまったが、言われてみれば確かに電池に近い。装填方法等は限りなく銃弾に近
いが、その本質は電池と言ってもいい。銃弾とカートリッジの共通点は、消耗品であり使用すれば中身が無いというこ
とだ。
「もう魔力はありませんが、どうします?」
「君に渡しておくよ、俺が持っていてもしょうがない」
 弾頭部が銀色のその銃弾もといカートリッジは、既に役目を果たした後らしい。使用済みで、その上魔法に使う
物などブレイズには用が無い。彼は生まれてこの方、魔法に関する小説や映画には随分と接してきたが、本物に
お目にかかったことは無かった。
「ブービー、記念に貰っといたらどうだ?」
「言ったろ?不用品を集める趣味は無い」
「それに、記念になりそうな物なら他にもありますよ、ダヴェンポート少尉」
「あぁっと、それは間違いだ」
 会話に入ろうと試みたはやてだが、突如遮る様にチョッパーが何かを否定した。話の流れからして、カートリッ
ジを持ち帰ることだと彼女は思ったが、彼はそんな難しいことを意図していなかった。
「俺を呼ぶときは、『チョッパー』で頼む。それ以外だと返事しないかもしれないぜ」
 実に悪戯っぽく、意外とも思えるほどの笑みを浮かべたチョッパーが自らの通称を名乗る。もう部隊内ではTAC
ネーム兼ニックネームともなっているこの呼び名を彼女達にも求めた。それが意味するところは信頼か、単なる社
交辞令なのかは、はやてにはまだ判断しかねるが、少なくとも距離が縮まったことは確かだ。
「それと、そんなに敬語使わなくてもいいぜ。もっとこうオープンにいこう!」
「わかりました、『チョッパー』さん。…やっぱ面白い人やなぁ」
「だろう?それが俺のいいところなんだ」
「私語が多いですけどね」
 この先グリムは突っ込み担当になるのだろうか、一応の上官であっても容赦無い。何にしても、チョッパーのお
かげでより接しやすくなった。ブレイズは彼のそういう誰とでも仲良くなれるような社交性の高さを羨ましくも思う。
ただ、人には良い面があれば当然ながら悪い面もある。そして、今はその悪い面が隠されることも無く表に出てしまっ
ている。つまり、会話の脱線だ。ハイスクール時代はどうだの、好きな音楽は何だの、チョッパーとはやては楽しそう
に雑談に花を咲かせている。
 最初に話を分断したのはブレイズ自身で、聞いていて楽しいがそろそろ止める必要がある。はやての両隣に座ってい
る二人も困惑した表情で、止めたいがそれができないでいるようだ。自分で止めに入ることを決意したところで、刃の
ように鋭い言葉が雑談の連鎖を断ち切ってくれた。
「話がずれているようだけど?」
 たった一言、それだけだ。ナガセの言葉で気が付いた二人はわざとらしい咳払いを交えてソファーに座り直した。
「つまり、俺達の身分や安全は保障してくれると?」
「あ、はい。当分はここで過ごして頂くことになると思いますが、日常生活には何ら支障は出ません」
 一番知りたかったことをフェイトが答えてくれた。収容所生活を送る必要が無くなったことにまず安心した。
「それに、本局の方から『丁重に扱うように』ってお達しが来とったからね」
 本局、つまりここの本部のことなのだろう、巨大な組織と言われる割にはなかなかの対応の早さだ。安堵の表情を浮か
べるウォードッグ隊のメンバーとは対照的に、なのはとフェイトは唖然としている。
「え…。はやて、そうなの?」
「あれ?知らんかった?昨日クロノ君に暫定報告した直ぐ後に本局の方から連絡が来たんよ。おかしいとは思ったんや
けど、言われんでもそうするつもりやったしな」
「どうして本局が…」
質量兵器で武装していたとは言え、ただの次元漂流者の待遇に何故本局が言及してくるのか。本来なら六課を始めそれ
ぞれの部署が出身世界の特定や送還等を除けば個別に対処すればいいだけで、今回の件も例に漏れずそうなる筈だった。
この異例な事態に疑念が深まるばかりだ。
「あ、八神部隊長。今朝からサンダーヘッド他AWACSの乗員の姿が見えませんが、彼らはどこに?」
「はやてでええよ、グリム君。あの人らなら朝早くから別室で会議やってるみたいや…?」
 突然空間ディスプレイが現れたことにより言葉を遮られてしまった。そこに映し出された人物は酷く焦っているようで、
落ち着けと言っても聞き流されてしまいかねない。
「どないしたんシャーリー?そんな慌てて」
「そ、それどころじゃないんです!これを見て下さい!」
 画面が移り変わり、今度はどこかの港の風景が映った。建物の配置や港の設備からしてここから近い港湾地区のようだ。
何も変わった物は無い様に思えたが、画面の奥に見える物体を見た彼女は言葉を失った。
「これは……!!」
「シャーリー!この奥の部分を拡大して!」
 フェイトの指示に従い、指定された部分が拡大されていく。舳先で波を蹴散らし、白い航跡を残しながら悠々と
海原を進むそれはどう見ても『船』だ。ただ、彼女達が知っているような豪華客船や貨物船とは全く異なることは明ら
かだ。全部で五隻のその異形の『船』達は、陣形を組むようにして首都クラナガン近郊の港へ向かっている。
 先頭を行く船は、テレビのニュースでも度々目にする極めて有名な船と似た形状をしている。前方の構造物は垂直
になっていて、窓の下辺りに八角形の板の様な物が設置されている。その船のやや後方には左右に展開するように
少し小型の船が航行している。最後尾にいる船はかなりの大きさであり、この船もまた非常に有名な種類だ。前方から
見ると二つの四角い構造物が背負うように配置され、電柱よりも太く長い物がそれぞれ三本ずつ伸びている。それよりも
後方には司令塔と思しき構造物が、まるで高層建築物のようにそびえ立ち、優美さの中にも力強さを見せている。
 そして、それらの船の中央に位置する船。周りの船と比べても非常に巨大で、明らかに格が違うといったようだ。特徴
的な点は甲板が平らで、航空機の発着の為と見られる設備が多数見られることだ。それは、まるで海上を移動する飛行場
であるかのようだ。
「この中央の巨大艦、航空母艦だよね…」
「うん、アメリカ海軍の原子力空母に似ているみたいだけど」
 なのはとフェイトは空間ディスプレイに映った艦隊に見入っていた。テレビや本ぐらいでしか見かけない、どこか遠い世界
にいるような存在がすぐそこまで来ている。空母やその前方にいる艦は海鳴でも極稀に見かけることがあったが、あくまでも
陸地から遥か遠方の海上を航行する姿のみだ。
「なるほど…。本局がいつになく神経質やったんはこのせいなんか」
 首都近海に正体不明の艦隊が出現、それも全艦が質量兵器を満載した戦闘艦だ。万が一対応を誤って戦闘にでもなれば
民間人に被害が出る可能性がある。本局が事を穏便に済ませたい理由もこれで納得だ。
「空母だって?」
 それまでの話を聞いていたブレイズ達も、空母を始めとする艦隊が現れたと聞いて集まってくる。はやての背後から画面
越しにその空母を見たブレイズは、両親と再会したような感覚を覚えた。フライトデッキの艦首付近に白く縁取りされた
『30』の艦番号、艦載機の姿はほとんど見えないがその名を忘れたことは一度も無い。
「ケストレル!?」
「無事だったのね…!」
 あの日、イーグリン海峡で僚艦共々弾道ミサイルの攻撃に晒された空母ケストレルは、こうしてミッドチルダで健在な
姿を見せていた。僚艦のヴァルチャーとバザードは撃沈されたが、ケストレルだけは奇跡的に助かったようだ。
「知っているんですか?」
「ええ、僕らの前の任務はあの艦を守ることだったんです。それにしても、本当に良かった…」
 ウォードッグ隊の護衛対象だったのなら、友軍と見て間違いない。それを確認したフェイトはシャーリーに状況を聞く。
「あの艦隊への対応は?」
「現在地上本部が交渉中とのことです。それ以上のことは現時点では…」
「地上本部か…」
 はやてはその組織の名を呟くと、一度ブレイズ達に目を向ける。そして、決意したかのように顔を引き締めると指示を
下し始めた。
「シャーリー、地上本部に連絡入れといてくれへんかな。その交渉、六課も参加させて貰う」
 視線の先には、港湾地区を目指して航行を続けるケストレルの姿があった。異界の艦隊が残していく白き航跡は、波に
あおられ儚げに消え去っていく。




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最終更新:2009年11月25日 21:53