幕間 アルハザードへのW訪問者


その空間は、晴れることのない暗闇と、タールのように粘る空気に覆われていた。ここは、一切の人間が存在することを許されないアルハザードと呼ばれる世界。
そんな環境の中で、深々と生い茂っている緑色の密林が存在していた。
異様な形状の大木が数多く並び、蜘蛛の巣が無数に垂れ下がる森林の中を、木の根と土を踏みしめながらその一人の青年が足を進めている。
禍々しい雰囲気を放つ周囲の環境に対して、彼の格好はあまりにも不釣り合いなものだった。若干のウェーブがかかった豊かな黒髪、余分な脂肪が殆ど存在しない戦いによって鍛えられた身体、それを包む黒いジャケットとジーンズ。
辺りの風景を遮るほどに漂い流れ、手で掻き分けることの出来そうな濃霧からはまるで獰猛な野獣が潜んでいるかのように錯覚させてしまう雰囲気を醸し出しているが、それを浴びる青年は恐怖という感情は抱いていない。
むしろ、彼は無邪気な子どもを思わせるような好奇心に溢れる笑顔を浮かべていた。青年がこの世界に訪れた理由はただ一つ、この世界に存在する未知の秘宝を手に入れること。
彼の中にあるのはそれだけだった。故に、この世界に如何なる怪物が待ち構えていようとも、それは宝を手にするまでの障害としてしか考えていない。
これは彼が宝を手にする為に数え切れないほどの世界を渡る内に、自然に作られていった考えだった。
一見すると、現代社会の繁華街で多く見られる若者という印象を与えるかもしれない。しかし彼には常人とは違う力と、数多くの配下を従えていた。
彼の右手にはその証である蒼く彩られ、青年が被る仮面を思われる紋章が描かれた拳銃に近い形状を持つ武器、ディエンドライバーが握られている。
森の中の道を辿っていく内に不気味に澱んだ沼が現れ、ほんの一瞬だけ青年は足を止めてしまうが、それを軽く飛び越えていく。沼地の向こう側の地面に足を付けることに成功すると、何事もなかったかのように足を進めた。

「アルハザードか………まるでネガの世界のようだ………」

森林の中を歩む青年は、笑みを浮かべながらぽつりと呟く。
ネガの世界――それはこのアルハザードと同じく、一切の人間の存在を許されていない世界。
かつては人間が暮らしていたが、ある日から仮面ライダーダークキバが率いるダークライダーの支配によって人類の大半が抹殺されてしまう。しかし自分と彼らがネガの世界に介入することによって、人間達に微かながらの希望を残すことという結果を残した。
いや、もしかしたらまだ日の光が射し込まれていた分あちらの方がマシかもしれない。このアルハザードの空は不吉な予感を象徴するかのように荒れ果てており、天空を覆う黒雲は西から東へと凄まじい勢いで通り過ぎながら、落雷を起こしている。
とはいえ、すぐにこの世界を去る自分には関係のないことだろう。目的は財宝を見つけることで、別に彼のように世界の破壊者として動くわけではない。それにこのアルハザードはあの写真館に描かれたから来た世界ではなく、前々から目を付けていた世界だ。
このアルハザードも数多に平行して存在する世界の中の一つだが、あらゆる世界を卓越する技術と文化を持ち、辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷と言われている。故に、彼の感情が高ぶるのも当然のことだった。
闇の中から放たれる気配に気付くのと同時に、思考する青年は足を止める。振り向くと、木々の間から怪物と呼ぶに呼ぶに相応しい異形が次々と姿を現した。
昆虫の蛹を思わせるような緑色に毒々しく彩られた体躯、両腕で顔を覆う骸骨を象ったかのような顔、右腕から鋭く生えた爪。
その異形を目にした途端、青年は目を丸くした。

「驚いたな、この世界にもワームがいるとは」

青年は異形を見て感心したかのように口を開くが、口で言うほど感情は動いていない。
その怪物の正体を彼は知っていた。数多く訪れた世界の中の一つ、カブトの世界における脅威であり、擬態能力を用いて人類を襲う悪魔の生命体――ワーム。
数が十体に達する異形に囲まれながらも、青年は思考を巡らせる。この世界にワームがいると言うことは、アルハザードの財宝とはかつて手にし損なったクロックアップシステムに関連、あるいはそれに変わるほどの物も含まれているのか。
考えに至った途端、次第に青年の中で感情が高ぶっていく。あの時は彼から貰ったバスコ・ダ・ガマが命がけで探し求めたという伝説のスパイスで代償したが、今度こそあの素晴らしいお宝をこの手に収めることが出来る。
青年が笑みを強めていると、サリスワームの群れに続くかのように一人の男が姿を現す。まるで空の暗闇から切り離したかのように漆黒のビジネススーツに全身を包んでおり、その右目には同じく黒の眼帯が付けられていた。
次の瞬間、男の輪郭がドロドロと音を立てながら崩れていき、瞬き一つを許さないほどの時間でその姿を変えていく。
それは、周りを覆う異形の仲間と呼ぶに相応しい怪物だった。葡萄根アブラムシを思わせるような醜悪な顔付きと異常に発達した二本の触覚、髑髏を思わせる胸の模様、両腕にそれぞれ付けられた左右対称の三本のかぎ爪、不気味に筋肉が盛り上がった両足。
フィロキセラワームの名を持つ怪物へと姿を変えた男の行動は早かった。すぐさまその左腕を構えながら青年に詰め寄り、勢いよく振るっていく。
しかし、爪が肉体もろとも洋服を切断すると思われたその瞬間のことだった。青年はほんの僅かな隙を見計らいながら両足に力を込めて、空を目掛けて勢いよく跳躍する。
巨大なフィロキセラワームの爪による一撃は空を斬るだけに終わってしまった。自らの攻撃が空ぶったことを察知したフィロキセラワームは姿を消えた青年を捜すように辺りをキョロキョロと見渡す。だが青年の姿は見られない。

「やれやれ、折角士の邪魔が入らないと思ったから来てみたけど……しょうがないな」

頭上から溜め息が混ざったような声が聞こえ、怪物達は上を振り向く。見ると、木の棒の上には青年がその場を見下ろすような体勢で突っ立っていた。
彼は懐から一枚のカードをワーム達に見せつけるかのように取り出す。それに描かれているのは、青年が被る仮面と『MASKED RIDER  DIEND』の文字。

『KAMEN RIDE』

青年が取り出したカードをディエンドライバーの側面に差し込み、銀色の銃身を引き延ばす。
その動作によって人工音声が鳴り響き、彼の聞き慣れた電子音が周囲に響き渡っていく。それに反応するかのように、左手に持つディエンドライバーには赤く書かれた『KAMEN RIDE』の文字が浮かび上がる。
ディエンドライバーから放たれる音声は青年を戦いへと誘う合図であり、彼が通りすがりの仮面ライダーであることの証明でもあった。
徐々に広がるその音をしっかりと聞き止めながら、彼は左腕を漆黒に広がる天空へと掲げる。そして、青年は眼下に群がるワーム達に言い聞かせるかのようにその言葉を力強く継げた。

「変身!」
『DIEND』

それは幾度と無く彼が脅威を打ち破る為に口にした言葉。
引き金を引いた瞬間、ディエンドライバーの銃口からは彼のもう一つの名を示す甲高い電子音が放たれ、仮面に酷似した青い紋章が青年の頭上に浮かび上がる。同時に人の形をしたような複数の鏡像がディエンドライバーから出現し、青年の身体を通り抜けながら何度も駆け巡っていく。
漆黒の空に浮かぶ紋章に描かれた全ての線が、一本ずつ寒色のプレートへと形状を変えていく。その枚数は一三枚。
やがて周囲を走る七色の影は青年の身体に重なり、黒き鎧へと形を変えていった。それに続くかのように鎧を纏った青年の頭上に浮かぶプレートは降り注ぐように青年のマスクに装着されていき、無機質な鎧に明るい青色が彩られ、双眸が藍色の輝きを放つ。
全ての過程を終えると、数多の世界を渡る仮面ライダーが顕在していた。
水色と黒を基調とした鎧、丸みを帯びたマスク、黒い仕切りを付けられたかのような二つの碧眼、両手首に巻かれた黄金のブレスレット、胸部から両肩を守るかのような凹凸状の鎧、両肘の裏側から腰を通って両足の脇に彩られた青色、腰に巻かれたベルトのバックルに彫られた彼の仮面を象った群青の刻印。
このアルハザードに現れた青年は数え切れないほどの世界を股にかけ、財宝を狙う大泥棒。
その名は海東大樹。またの名を世界の破壊者に対局するように存在する終焉の名を与えられた戦士、仮面ライダーディエンド。
ディエンドの名を持つ仮面ライダーへと姿を変えた海東は、右手に持つディエンドライバーの銃口をワームに向け、引き金を引く。放たれた弾丸は眼下で群れているワーム達に降り注ぎ、着弾したヶ所に火花を飛び散らせた。
ワームが怯んだ隙を付くかのようにディエンドは歪んだ木の枝を勢いよく蹴りつけながら跳躍し、空中で身体を捻りながら一回転すると、左脚をフィロキセラワームに目掛けて地面に向かって飛び込んでいく。
その体勢は異世界に存在する数多くの仮面ライダーが使う必殺技、ライダーキックに酷似していた。

「てやぁっ!」

息と共に凄まじい勢いで放たれるディエンドの足は焦げ跡が残るフィロキセラワームの胸部に沈み込んでいき、その巨躯を吹き飛ばす。数トンもの威力を持つその蹴りを受けてはいくらワームといえども無傷では済まず、高速の勢いで歪んだ樹木に叩き付けられていった。
異形の衝突により樹皮が沈み、木の葉が舞い落ちる中にディエンドが地面へと着地する。そこから流れるような勢いで銃口をサリスワームの群れに向け、銃弾を撃ち出していく。
サリスワーム達は身体の痛みがまだ癒えていなかったのか、無尽蔵に放たれる光弾を前に反応が出来ず、程なく四肢を着弾していった。
銃口が瞬いた音が響いたのはほんの数回のように思えたが、実際には毎秒ごとに百発を上回る弾が嵐のように降り注いでいく。
濃緑の皮膚が破裂するたびにまるで血液のように火花が吹き出し、身体を痙攣させる。しかし火力と勢いが足りないのか、その命を奪うにはまだ至らないようだ。
ディエンドライバーの反動に耐えながら考慮していると、彼の研ぎ澄まされた聴覚が遠くより雑草を踏むような複数の足音を捉える。それを察知したディエンドは直ぐさま人差し指に込める力を緩め、その方向を振り向く。
銃口の勢いが止まる中、彼の思った通り地面に倒れたサリスワームに酷似する昆虫の蛹を思わせるような怪物が木々の間から次々と姿を現した。援軍と思われるワーム達は周りを囲みながら、殺意が込められた視線をディエンドに向けている。
常人ならばほんの一瞬で正気を失うだろうが、数多くの死線を潜り抜けた彼はそれを浴びたところで特に何の感情も抱いていなかった。
しかし、徐々に増えるワームを見てディエンドは煩わしさを感じ、仮面の下で軽く表情を顰める。脅威ではないにしても、これほどの数では流石に面倒だ。

「全く、一体何処から湧いてくるんだろうね」

軽く愚痴を吐きながら、彼はベルトの脇に付けられた四角形のホルダーに手を付け、二枚のカードを取り出す。そこには、異世界に存在する仮面ライダーの顔が描かれていた。
ディエンドライバーの銃身を左手で再び引き延ばし、一枚目の『MASKED RIDER G』の名が記されたカードを装填させる。

『KAMEN RIDE G』

ディエンドが描かれたカードの上に乗せるように差し込むと、電子音声が鳴り響く。それに反応するように銃の側面にはアルファベットのGを思わせるような紋章が浮かび上がる。
続くように、二枚目の『MASKED RIDER NEW DEN-O』の名が書かれたカードを同じ部分に挿入させた。

『KAMEN RIDE NEW DEN-O』

カードが入れられたことにより、ディエンドライバーに大きな丸い模様が浮かび上がった。それはかつて海東が訪れた電王の世界を象徴する印。
音声と共にディエンドは右腕を真っ直ぐに伸ばすと、銃のトリガーを引いた。銃口からは二つの光が弾丸の勢いで放たれていき、ワーム達の目前で破裂する。
球状の輝きが崩壊した途端に人型の虚像が多数現れ、木々の間を縦横無尽に走り出す。幾重の残像は重なり合い、瞬く間に二つの鎧へと姿を変えていった。
それはディエンドライバーの力によって呼び出された異世界の仮面ライダー。ディエンドの間を挟むように立つ二人の戦士はそれぞれの両眼を輝かせる。

「今、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える!」

Gの文字に酷似したマークが刻まれたプロテクターを纏う仮面ライダーは、サリスワームの群れに言い聞かせるように威風堂々と叫ぶ。
彼はある世界の秘密結社によって改造人間にされ、愛する者を守る為に超人的身体能力で悪に戦いを挑むライダーを模した戦士。
その名は仮面ライダーG。
Gは己の胸に左手を近づけると、真紅のオーラと共に取っ手がGの形状を模した剣が現れ、それを掴む。

「カウントは……8でいいや」

鋭角的な真紅の両眼を目の前の異形に向け、群青の装甲に電車の線路を思わせるような胸板が付けられた二人目の戦士はその手に持つ銃剣を左肩に乗せ、静かに告げる。
どんな時間の干渉も受けない存在、特異点だけがなることを許された存在。時の運行を守る使命を帯び、時間の流れを守り続ける仮面ライダーの一人。
仮面ライダーNEW電王。

「頼んだよ、君たち」

ディエンドが左手の人差し指をサリスワームの群れに突き出しながら二人のライダーに告げる。それを合図にするようにGとNEW電王はそれぞれの武器を構えて、走り出した。
主に仇なす敵を葬る為に。
同じように徒党を組んだワームも爪を翳しながら突撃を開始した。

「うりゃぁあ!」
「はあぁあっ!」

仮面ライダー達は咆吼を上げながら、サリスワーム達の元へ駈け出していく。
マチェーテディの名を持つ剣を振りかぶりながら、ワームの胴体を目掛けてNEW電王は斬りつける。その一撃は、振りかぶる際による遠心力によって威力と勢いが充分な程込められていた。
鋭利な刃を浴びたサリスワームの表面は切り裂かれ、激痛によって体勢を崩してしまう。続くようにワームの爪は無数に迫り来るが、それら全てをNEW電王は身体を捻るようにして軽やかに避け、そこから流れるかのように剣を持つ腕を振るう。
一匹、また一匹と深緑の皮膚を斬り裂くと、自身の最後を告げるようにその身体は爆発し、いとも簡単に消滅した。
同じようにGもソムリエナイフを思わせるような剣先を持つ刃先をサリスワームの腹部に突き刺し、体組織をえぐり出すかのように左斜め上の角度で切り上げていく。断末魔の叫びを上げながらワームの身体が炎と消えていくのと同時に、Gは向かい来るサリスワームの脇にコルクスクリューに似た形状の柄を叩き込む。
そこからテコの原理のようにGは鮮やかな動きでワームの背後に回り、横一文字に胴体を一閃する。それに続くように周囲を囲むサリスワーム達を次々と斬り裂いていった。
二人の仮面ライダーが戦っている脇で、ディエンドはリーダーと思われるフィロキセラワームを目掛けて駆け抜ける。道を塞いでいたワームの数が減少したので、通り抜けるのはそれ程難しいことではなかった。
ディエンドライバーの銃口をフィロキセラワームの巨体に標準を定め、引き金を引く。放たれる弾丸は空気を裂くような勢いで着弾すると、異形の身体は仰け反ったかのように折れ曲がる。
一瞬の隙が出来た瞬間に、ディエンドは姿勢を低くしながらフィロキセラワームの懐に潜り込みながら左手で握り拳を作り、顎に狙いを定めて叩き込む。
アッパーのようにディエンドが勢いよく拳を打ち込むと、数トン分の重さによってワームの身体が吹き飛ばされていき、自らの重量によって次々と倒れていく木々の中に埋もれる。
ディエンドはその様子を見ながら呼吸を整えるが、決して気は抜いていない。直後、フィロキセラワームが巨木を吹き飛ばしながら立ち上がり、直ぐさま突進を開始した。
それを目にした彼は脇のホルダーからディエンドの紋章が金色に描かれたカードを取り出し、ディエンドライバーに差し込む。

『FINAL ATTACK RIDE』

聞き慣れた電子音声が彼の耳に響くのと同時に、ディエンドライバーの銃身を引き延ばす。
その直後、カードに込められた力がディエンドライバーの中に流れ込み、側面には黄金色に描かれたディエンドの紋章と『MASKED RIDER DIEND』と『FINAL ATTACK RIDE』の文字が浮かび上がる。
ディエンドが向かい来るフィロキセラワームに向けて腕を伸ばすと、目前にはライダーの描かれたカードの形状をしたエネルギーが並び、辺りの大気が吸い込まれるかのように銃口に集中していく。
それに伴うかの如くGとNEW電王の身体は粒子へと昇華していき、ディエンドライバーの前に浮かぶエネルギーに吸収されていく。

『DI、DI、DI、DIEND』

全ての過程を知らせるようにラップ調の機械音声が発せられ、ディエンドは引き金を引いた。
刹那、ディエンドライバーの中に蓄積された全ての力が銃口から放たれ、一筋の熱線へと変異しながら迫り来るフィロキセラワームの身体に浴びせる。
波動と共に放出されたディメンションシュートの名を持つ光線は異形の皮膚を焼き、体内の組織を縦横無尽に破壊しながら骨と肉を貫いていく。
フィロキセラワームは身体を悶えさせるが、すぐさま爆音と共に炎へと消えていった。
その様子をディエンドは最期まで見届けると、残るサリスワームの群れに視線を移すように背後を振り向く。あれほど群がっていた異形の数は、自らが呼び出した仮面ライダー達によって十匹にまで減っている。
彼が歩を進めた途端、ワーム達は身体を震わせていき、蜘蛛の子を散らすかのように木々の奥へと素早く逃げ出した。

「おやおや、何処へ行くんだい?」

ディエンドはワームを見つめながら軽く呟く。
ここから逃げ出した後、恐らく増援でも呼ぶつもりなのだろうが逃がすつもりなど無い。
ワーム達の背中にディエンドライバーの標準を合わせ、引き金を引こうとしたその時だった。
周囲の地面に木の葉が舞い落ちる中、突如として風の音をかき消すかのような轟音が響く。それは森林の奥に向かって駆け抜けているサリスワームが爆発する音だった。
そこから寸陰の間に、次々とワームの命が奪われていくことを知らせる爆発音が、仮面の下で海東の耳をつんざく。

「ッ!?」

猛烈な勢いで砂埃が飛び掛かる中、ディエンドは反射的に両腕を交差させながら足を止めてしまう。
巨木が次々と音を立てながら倒れていき、暗闇の中で風が吹き荒れ、足音と共にシルエットが浮かび上がる。
ディエンドが両腕の交錯を解くと、漆黒の中から現れた存在にマスクの中で目を丸くした。

「何……?」

目の前に姿を現したのは人ではなく、異形と呼ばれるような姿だった。しかしワームを初めとする怪人のように醜悪なそれではなく、むしろ仮面ライダーに近い。
闇の中で鮮紅の輝きを放つ両眼、額に付けられたW型のアンテナ、首に巻かれた銀色のマフラー、縦半分に別れて緑と黒に彩られた鎧、腰に巻かれたベルトのバックルに装着された真紅の輝きを放つUSBメモリーを思わせる機械。
現れた仮面ライダーは目線をディエンドと合わせるが、互いに何の行動も起こさない。
残ったワーム達は彼が撃破したことをディエンドが察知する中、仮面ライダーは踵を返して並ぶ木々の間へと引き返していく。
ディエンドはその背中を見つめるだけで、追うことはしなかった。向こうからは敵意が感じられないし、こちらに用事が無いのなら無理に追う必要もない。
その姿が見えなくなるのと同時に結論を付け、彼は再び宝が眠る場所に向かって足を進めた。
財宝へのゴールは近い――



アルハザードの一角に生い茂った森林の中を、彼は足を進めていた。
凍り付きそうなほどに冷たい風の勢いに首のマフラーは靡き、サイクロンジョーカーの名を持つ鎧は常闇の中で眩い光を放っている。
彼は自身が元いた世界で多発している異変を突き止めている内に、突如としてこの場所へと流れ着き、遭遇したあの異形と戦った。
途中で目撃した銃を持った群青と黒の鎧に包まれたあの戦士の正体を、彼が知ることは出来ない。けれども、あの仮面の下から敵意は感じられなかった。
それだけでも分かれば、充分だった。
彼は二人で一人の仮面ライダー、その名は――




――仮面ライダーW


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最終更新:2009年08月09日 18:16