『マクロスなのは』第2話その2
(*)
30分後
アルトはガウォーク形態のVF-25を、超低空で飛行させながら郊外へと向かわせていた。
管理局の広報担当者曰く、
「例えあなた達の物でも、質量兵器を管理局本部ビルの前に置くのは体面もあり困ります。だから受け入れ先が見つかるまで、郊外の施設中隊のヘリ格納庫に移動してください」
との事であった。
また、今後VF-25は機体自体がシール(封印)されるか、武装が全て撤去されてしまうそうである。
「しかし、魔法の世界とはなぁ・・・・・・」
簡易的な検査によると、俺とランカにもクラスオーバーA相当のリンカーコアが存在することが確認されていて、この世界でも十分やっていけることがわかっていた。
(EXギアなしで空を飛べるのか・・・・・・)
この青い空を風を切って飛ぶ自分の姿を想像して内心ほくそえんでいると、レーダーに映る多数の小さな機影を発見した。
そちらの方向をみると、人間ほどの大きさの全翼機、魚でいうエイのような形をした航空機がいた。数は60機ほど。それらは綺麗な編隊を組んで飛んでいた。
(管理局のゴースト(無人機)か?)
そんなことを考えるうちにそれらは急降下し、レーザー様のものを撃ち始めた。
(なに・・・・・・?)
驚愕しつつもモニターで彼らの行方を追う。着弾地点はどうやら学校だ。どう見てもそこは軍事基地には見えないし、下で逃げ惑う子供は小学生程度にしか見えなかった。
そこでは警備の者が散発的な対空射撃を行っているが、当たらないのかそれらはびくともしない。
そのゴーストは後に『ガジェットⅡ型』と呼ばれる機体で、速い上にAMFとシールドを展開しているので全く歯が立たないのだ。
防衛側は徐々にそのレーザーに倒れていく。建物に当たってもなんともないところを見ると非殺傷設定のようだが、それは子供に当たれば後遺症を残すに十分だろう。なぜなら彼らはバリアジャケットと呼ばれる装甲服を着ていないからだ。その程度のことははやてやなのは達からこの世界のこととして説明されていた。
いますぐ反転して救援しに行きたい衝動にかられるが、はやて達から厳重に質量兵器(VF-25)の使用禁止命令を受けていたため、あと1歩を踏み出せずにいた。
その時、視点がそのある一点に止まった。運動場の端の小屋からみんなのいる校舎に逃げ込もうとしたのだろう。子供が1人、運動場の真ん中を走りながら横切っていた。
(バ、バカ野郎!小屋にいれば安全なのに!)
もちろん思いは届かない。
また、更に悪い事に彼は転んでしまった。それに興味を持ったのか、数機のゴースト(ガジェット)達が子供へと向かい、撃ち始める。
そこに1人の警備員が校舎から駆けつけた。彼は全方位バリア(魔力障壁)を張って子供を庇う。
しかし、ゴースト達は執拗だった。何発も何発もレーザーを撃ち込む。それは無人機が行うのに殺意すら感じられる。
その猛攻は遂にバリアを破り、レーザーが子供に覆い被さった彼の身を焦がす。
その光景はかつてフロンティアを襲った第2形態のバジュラの大群が、そこを蹂躙する光景をまざまざと蘇らせた。それと同時に、恋人を守って宇宙に吸い出されていった親友であり戦友であった者の姿が、その警備員と重なった。
瞬間、彼の中で何かが切れた。
45度傾いていた左手のスラストレバー(エンジン出力調整レバー)をさらに倒して真横に。
するとガウォーク形態だったVF-25は即座にファイター形態に可変した。続いて空力特性を悪くする翼下のフォールドスピーカーをパージ、スラストレバーを押し出しA/B(アフターバーナー)を点火。後ろから蹴られたかのように一気に増速する。しかしその手はコックピット前面の多目的ディスプレイを操作し続け、全ての兵装のプロテクトを解除していく。
多目的ディスプレイに映る兵装モニターが緑色の〝SAFETY(セーフティ)〟の文字から赤い〝ARM(アクティブ)〟という文字に変化する。
そして現場への到着と同時にさっきの2人とゴーストの間をわざと飛び、フレア(赤外線誘導型ミサイル回避用の高熱源体)を数発撒き散らした。
すると、予想通り危険度の優先順位を再設定したゴースト達は、こちらを追ってきた。その数は総数の半分程度にすぎないが、2人が逃げ込むには十分な隙を与えたはずだ。バックミラーで2人の退避を横目で確認すると、一路、海を目指す。
(こんなとこに墜とせるかよ)
下は住宅地。ゴーストが墜ちたらその被害は計り知れない。また、VF-25の装備するFASTパックの追加武装であるマイクロミサイル型HMM(ハイ・マニューバ・ミサイル)は、対バジュラ用のMDE(マイクロ・ディメンション・イーター)弾頭を搭載している。
バジュラの反乱に備えて改良と生産の続くこの弾頭は1発、1発が超小型のブラックホール爆弾のようなものだ。そんなものが万が一外れて民家に当たったら・・・・・・と思うと背筋が寒くなる。
幸い海までは10キロなく、すぐに眼下は青く染まった。
「ここなら・・・・・・!」
呟くと、押し出していたスラストレバーをフルリバースして簡易ガウォーク形態(噴射ノズルのついた足を展開するだけで、腕を省略した形態)に可変して足を前に振り出し、強烈な逆噴射を行う。それによって、従来の戦闘機のエアブレーキとは比較にならない加速度で減速、さらにバックした。
対してVF-25を全力で追っていたゴースト達は当然そんな機構などなく、勢い余って通り過ぎていった。
その航跡を目で追いながらミサイルのスイッチに指をかけると、ゴースト達を流し見る。するとそれに連れてコンピューターが敵にマルチロックオンを掛けていった。そして数にして10強の敵をロックオンレティクルに収めたのを確認した。
「アタァークッ!!」
掛け声と同時に、VF-25のエア・インテーク(吸気口)上に装備されたミサイルランチャーの装甲カバーが〝ガパッ〟と開く。
それと同時に内部のHMMが飛翔していった。
音速を遥かに超える戦闘機やバジュラに対抗する為に作られたこのミサイルは、内蔵するAI(人工知能)によって回避行動をしつつ1機につき3発ずつ、着実に命中した。
炸裂と同時に30もの紫色の異空間が出現し、空間をえぐりとっていく・・・・・・
あっという間に10数機の友軍を失ったゴーストだが、学校からやってきた分隊との合流を果たすと再び向かってきた。
これにはさすがに焦った。
VF-25は単体としてミサイルを搭載していないが、ブースター以外パージしていなかったFASTパックの追加武装によって肩部に38発のマイクロミサイルを搭載している。こちらの圧倒的な力を見せて撤退に追い込もうと思って、その数の4分の3強にも上るミサイルを一斉に使う大盤振る舞いをしたのだが、相手は損害をまったく恐れていなかったようだ。
また、MDE弾頭はお世辞にも安全とは言い難い。大気圏内で空間を抉り取れば、そこにあった大気は当然消滅する。すると気流がめちゃくちゃになり飛行を妨害する。
炸裂と同時に放射される大量のフォールド波の奔流も人体に悪影響を及ぼさないという保障はない。
それらを勘案して残ったミサイルの斉射を見送ると、兵装をチェックする。
「ガンポッドとビーム機銃、あと格闘でしのぐしかないか・・・・・・」
VF-25は再加速して敵に対峙した。
(*)
5分後
残る敵の4分の1を撃破したが、ガンポッドの残弾はすずめの涙となっていた。
撃破した敵に比べて弾の消費が多いのは、ここが大気圏であるせいだった。普段無重力で、ほぼ真空である宇宙での戦闘に慣れているためその修正に多くの弾を割(さ)いてしまったのだ。
また、敵もこちらが完全無欠の質量兵器だとわかったのだろう。エネルギーを防御力に転換するアドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)にかかる負荷が先ほどから大きくなっていて、構造維持のキャパシティ確保を脅かしている。これは相手の攻撃が殺傷(物理破壊)設定になったという事だろう。
そして転換装甲にエネルギーを回したため、両エア・インテークの隣(バトロイド時は腰)に装備された2基の『マウラーROVー25改 25mm荷電粒子ビーム機銃』、2門の頭部対空レーザー砲『マウラーROVー127C 12.7mmビーム機銃』も打ち止めだ。
脚部の装甲兼用のコンフォーマルタンクに入った推進剤もこの戦闘機動を続けるには残り少ない。通常飛行なら無尽蔵に存在する空気を圧縮膨張させて推進剤にすれば十分だが、通常の推進剤を使えば推進力は空気に比べて約6割アップする。またVF-25の各所に装備された高機動スラスターを作動させるにも推進剤は必要だ。自らを数倍する敵にあたるには推進剤に頼る他に選択肢はない。
しかし、ガンポッドに残る弾同様、推進剤はほとんどなくなってしまっていた。
「おっと!」
敵の激突覚悟の特攻攻撃に、ファイター形態のまま可変ノズル基部に装備されたスラストリバーサを吹かして急減速。そのままバトロイドに可変して肩すかしを食らったゴーストに射角を調整すると、『ハワード GU-17V ガンポッド』を一斉射。装填されていた対バジュラ用58mmMDE弾で大穴を空けて撃墜した。
しかしその機動でほとんど空中に止まってしまったことにより、ゴースト達は集中砲火を浴びせようと反転してくる。だがそれを甘んじて受け入れるほど馬鹿ではない。
即座にガウォークへと可変していたVF-25はその場から滑るように急速に離れ、こちらの動きについて来れなかったらしい1機のゴーストをバトロイドに可変してマニュピレーターで鷲掴みにする。
そして真後ろからこちらを追尾してきた3機のゴーストに向き直ると、フリスビーのように投げてやった。
金属同士がぶつかり合う鈍い激突音。
3機は密集していたため即席フリスビーは見事ゴースト達の追尾を阻止していた。続いて止まったそれらをガンポッドで照準、スリーショットバースト(3点射。3発だけ連続で撃つ事)を行う。しかし58mmMDE弾の狭い炸裂範囲に4機全機を見事に巻き込んでこれを海の藻屑とした。
だがその戦果に満足することなくすぐにファイターへ可変し、位置を変えた。次の瞬間にはその場所を敵の集中砲火が覆った
周囲を警戒しつつガンポッドに残る残弾を確認。
(もう持たないな・・・・・・)
さきほどのフリスビー戦法も拳やコンバットナイフを用いた肉弾戦も加速や制動の多いせいで推進剤を大量に消費する。かといってガンポッドは残り1秒ぐらい全力で斉射すれば無くなるほど弾が欠乏していた。
(残った推進剤を全部注ぎ込んで一気に戦線離脱するしかないか・・・・・・)
と思い始めた時、陸の方から飛んでくるものがあった。目を凝らすと、人が音符のような杖を持ち、編隊を組んで空を飛んでいる。ようやく管理局の空戦魔導士のご登場らしい。
「ほんとに新・統合軍みたいに遅いやつらだ」
フロンティアのそれを思い出して呟く。そしてそれゆえに内心気が気でなかった。空戦魔導士部隊を擁する地上部隊は新・統合軍とは似た苦境であるという。そして統合軍はバジュラに手も足も出なかった。だからどうしても彼らが統合軍と重なって見えて、
「あいつらにゴーストが落とせるのか?」
と心配になった。
その結果はすぐ出た。
ゴーストに対して魔力ビーム(砲撃)による攻撃が行われるが、AMFによって出力を下げられ決定打にならない。そこで魔導士達は2人1組になって1機に同時に着弾させる事によって初めて撃墜することに成功した。なるほど、その技量はなかなかのものだ。しかし、いかんせん数が足りなかった。
速度もゴーストの方が速く、5~6機撃墜したあとその機動力で連携を崩され、逃げ惑うばかりになった。
「・・・・・・やっぱりか」
仕方なく虎の子のミサイル8発を、彼らの後退を援護するように全弾発射。必要なくなったミサイルランチャーをパージする。
この援護によって魔導士のほとんどが敵の追尾を逃れたが、1人だけ孤立してしまった魔導士の少女がいた。
彼女は他の魔導士のように飛ばず、足元に道を展開しつつその上を走るように移動する方法をとっていた。
また、敵を撃破するときも魔力弾や魔力ビームでなく、直接殴って撃破するという珍しい戦い方をしていた。それゆえ1人でも撃破率は高かったが、移動方法は効率が悪く、MDE弾頭の起こした気流の激変に煽られて逃げ遅れたらしい。
周囲は彼女を助けようと援護するが、彼女は周囲の敵の数に翻弄されて動けなかった。
(*)
彼女の名はスバル・ナカジマといい、今回の出撃は有志だった。なぜなら通常スクランブルするはずだった空戦魔導士達はさっきまで労働争議をやっていて、疲労のため使い物にならなかったからだ。
彼女は『ミッドチルダ防衛アカデミー』と呼ばれる管理局員を養成する学校の3年生である。
防衛アカデミーの推薦を獲得した彼女は、最後の実習地として『本局第1試験中隊』と仮称で呼ばれているはやての部隊を彼女の親友と共に志願していた。と言っても教官からは難しいかもしれない。期待しないでくれ。と言われていたが・・・・・・
まだ実績もない、難しいと言われる部隊であることに級友たちが敬遠する中、彼女がそこを強く志望した理由は簡単だった。それはガイドブックの教官の欄に、彼女の尊敬する「高町なのは」の名があったからだ。
(最後にもう1度、なのはさんに会いたかったなぁ・・・・・・)
時折ベルカ式魔力障壁を越えてくるレーザーに身体を焼かれる痛み。それは徐々に彼女の気力を奪っていき、観念しかけていた。
しかしその時、ノイズ混じりの念話が入った。
『(させるか!)』
どこだと思い発信源を辿ると、こちらを援護してくれていた質量兵器からだった。それは機関砲を乱射しながらこちらに突撃してくる。そして自分のすぐ隣を擦過していった。
よく見れば、質量兵器はその間にいた航空型魔導兵器を全て蹴散らしていて、そこにはぽっかりと切り開かれた道があった。
(チャンス!)
即座に自身の移動魔法『ウィングロード』を開けてもらったその包囲の穴に高速展開し、その上をインラインスケート型の簡易ストレージデバイスで駆け抜けていく。
しかし、そこに1機の航空型魔導兵器が体勢を立て直し、立ち塞がる。
(ここで止められてたまるか!!)
カートリッジを2発ロード。その間もレーザーが身を焼いたが、かまわず最高速で走りながら篭手型のデバイスを着けた右腕を振りかぶる。
「一撃、必倒!ディバイィン、バスタァァーーーーー!!」
右腕から発射されたゼロ距離の魔力砲撃は、粗いながらも強靭な破壊力を見せ、シールドを貫通。それを粉砕した。
その後抜け出るまでの包囲の穴の保持は友軍と、いつの間にかロボットに変形した質量兵器がやってくれたらしい。
それ以上詳しい事は分からなかった。なぜなら抜け出すと同時にさっきとは違う念話が入ったからだ。
『(総員直ちに射軸上から退避してください)』
それは聞き覚えのある声だった。同時に出現したホロディスプレイの射軸線を頼りに発信源を辿ると、地上の海岸線だった。果たしてそこには巨大な魔力球が集束されつつある。それはオーバーSランクレベルの魔力砲撃を示唆していた。瞬間、誰もが射軸上から逃げ出す。
自身も友軍に肩を貸されて退避しつつ、あの魔力球に不思議な懐かしさを覚えていた。桜色の魔力光。あの声。そしてSランクの魔導士。それらは1本につながった。
「(あれは、)なのはさんだ!」
その名を叫ぶのと、なのはが発砲するのは同時だった。
空を切り裂く一条の桜色の光は、あやまたずガジェット達に突き刺ささった。そしてそれらの展開するシールドを易々と貫き、その3分の1を一瞬で叩き落とした。
スバルはそれを神を見るかのように見つめ、次の瞬間にはやってきた傷の痛みと安心感で意識を喪失した。
(*)
少し離れたところで、ガウォークに可変してそれを眺めていたアルトは驚愕した。
ガンポッドに残る全弾を注ぎ込んで管理局の魔導士を助け、機体の通信システムのプロテクトをスルーして出現したホロディスプレイの退避要請に従って退避してみればこのビーム砲撃だ。
VF-25のセンサーによると、VF-27『ルシファー』の重量子ビーム砲と比べても、見劣りしない数値を叩き出していた。
(いったいどんな兵器だ?)
そう思い、モニターで発砲地点の倍率をあげる。するとそこには、自身の特徴的な杖から大量の煙を出し、構えを解いた高町なのは一等空尉の姿があった。しかし彼女の顔は先ほどまでランカと談笑していた少女の顔ではなく、歴戦の戦士の顔がそこにあった。
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その後残るゴーストの掃討は彼女の参加で拍子抜けするほどあっけなく終わった。
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気づくと私は寝かされていた。全身が痛みに悶えるが、なんとか目を開けてみる。はたして視界には青い空。どうやらまだ外らしい。しかし素手で触った寝床の感触は布だった。
そして見回してみると、ここは海岸で自分は救急車に乗るために担架に乗せられていたようだ。というような状況把握がどうでもよくなるような光景があった。
「なのはさん・・・?」
おもわず救助隊員に簡単に負傷場所と理由を説明していたらしい彼女の名を呼んでしまった。
「ん? 大丈夫だった?」
なのははこちらの意識が戻ったことに気づいて、こちらへやってきた。それだけで全身の痛みを忘れてしまうほどパニックに陥ってしまった。
私がなのはを尊敬し、憧れる理由。それは6年前の事故がきっかけだった。
その日デパートに家族と出かけていたが、運悪くはぐれ、これまた運悪く火災にまかれてしまったのだ。
この時まだ幼かった私を救助に来たのが、当時出世街道を順調に登っていたエース。高町なのは二等空尉だった。
記憶に残る彼女の姿は凛々しく、カッコよくて、それ以来なのはに憧れ続けた。
私はクラスAのリンカーコアを持っており、成績も主席、次席クラスと、極めて優秀だったため、再三再四
「次元宇宙で働かないか?」
と本局の誘いが来た。しかしそれを全て断り、わざわざミッドチルダを守る道を選んでいた。それは陸士部隊の部隊長である父や、同じく陸士部隊に籍を置く姉の影響もあったが、同じぐらいに大きくなのはの存在があった。
それほど自分の人生を大きく左右した憧れの人が目の前にいる。
パニックに陥るには十分な理由だった。
『は、はい!いえ、あの、高町教導官・・・・・・一等空尉!』
痛みを忘れたといってもやはり無理に動けば痛いもので、上体を起すことが精一杯。しかもその痛みとパニックでなのはに関する知識がこんがらがり、状況に合わない「教導官」という役職が出てしまった。
しかし彼女はそんな小さなことを関しないかのように答える。
「なのはさんでいいよ。みんなそう呼ぶから。・・・・・・6年ぶりかな?大きくなったね。スバル」
「!! えっと・・・あの、あの・・・」
「うん。また会えて嬉しいよ」
その笑顔を伴ったセリフと、頭に置いてくれた手は反則的なまでのスピードで私の心に深く染み渡った。おかげで涙腺が瞬時に決壊。止まらなくなってしまった。
そんな私をなのはは、救急車に担架と共に搬入し、担架の横にある席に座りながらながら根気よく落ち着くのを待ってくれていた。
(*)
海岸にはなのはの要請した救急車が待機している。そこには先ほどの傷の酷かった魔導士の少女が担架に乗せられて救急車に搬入された。
しかしなかなか搬送されない。様子を見に行こうにもガウォーク形態で着陸するVF-25の周りには先ほどの空戦魔導士部隊が質量兵器使用でこちらを警戒するように配備されているため動けない。それでも理由を知りたくなったアルトは、高感度指向性マイクを照準した。
すると少女の声に混じり、なのはの声が聞こえてきた。
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『私のこと、覚えててくれたんだ』
『あの・・・覚えてるって言うか・・・・・・あたし、ずっと、なのはさんに憧れてて・・・・・・』
『嬉しいなぁ。バスター見て、ちょっとびっくりしたんだよ』
『んあっ!』
〝ガタッ〟という、その救急車を大きく揺らすほどの彼女の驚きは、
「なんだ元気そうじゃないか」
と、彼女を心配していたらしい周囲の魔導士達に笑顔をよんだ。
『す、すみません。勝手に・・・・・・』
『うふふ。いいよ、そんなの』
『え、でも、その・・・・・・』
『まぁ、確かに独学で使うには少し危ないかな。これから〝私が見ていてあげられる〟から、一緒に頑張っていこうね』
『はい!・・・・・・え!?』
『ふふ。隊員さん、この子の搬送、よろしくお願いします』
『了解しました』
――――――――――
なのはを降ろした救急車は一路、病院へと走っていった。
(*)
その後、VF-25に関する事情がなのはの口からその場の空戦魔導士部隊の隊長に説明された。
そしてなのはが責任を持ってVF-25を格納庫までエスコート・・・・・・と言えば聞こえがいい。しかしそれは見かけだけだが、機体をバインドする強制連行になった。
これは
「『質量兵器は禁止』という主張を堅持するための体面的なものだろう」
と、たかをくくっていたアルトはその後質量兵器、とくにD(ディメンション・次元)兵器の使用について(「次元震が起こったらどうするんや!」とかで)はやてから恐ろしいお叱りを受ける事になるが、それはまた別の話である。
(*)
現場から少し離れたビルの屋上には、事件のすべてを見ていた1人の人影があった。
「またあの子達?まったく恐ろしい程の悪運ね」
彼女は普段のキャリアウーマン風の緑色のスーツに身を包み、呟く。
いつもならここで遠いい所から見ている〝彼ら〟が茶々を入れる所だが、今彼女は時空どころか次元おも通り越してしまっている。そのため、いかがフォールドクォーツを使用した精神リンクと言えど繋がらなかった。
「まぁ、その方が面白いわ。健闘を祈るわね。フロンティアと、ミッドチルダの皆さん」
転送魔法が行使される。そして彼女、グレイス・オコナーのいた痕跡を何一つ残す事なく、いずこかへ消え去った。
次回予告
踏み出した歩み。
彼らを待つものとは―――――
次回マクロスなのは、第3話『設立、機動六課』
ミッドの空に、彼らは何を描くのだろうか?
最終更新:2010年09月23日 21:26