『マクロスなのは』第3話その2
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その後ヴァイスのフランクな性格が功を奏し3人で仲良く話し込んでいたが、クラエッタの方は彼女の友人でありロングアーチ分隊の通信士を務めるというルキノ・リリエ二等陸士と共に他の所へ行ってしまった。
そこでヴァイスと話を弾ませていると、こんな話題が登った。
「―――――おまえのバルキリーだったか? あれには敵わんが、俺にも遂に新鋭機が回って来たんだ」
「ほう・・・・・・どんな?」
「いままで乗ってたちゃっちい小型ヘリじゃねえ。輸送ヘリでな、デバイスとのリンクで飛躍的に機動力があがるんだ。 これならランカちゃんやなのはさん達を運ぶのに安心だ。それになんでもPP・・・・・・何とかってバリアが張れるらしい」
「なに?」
一瞬OTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)のPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)だろうか?と危惧したが、それを問う前に人が来た。
「早乙女先輩!」
そう呼びながら近づいてくる2人組。こちらを呼んだ青い髪をした少女には見覚えがある。あの襲撃のとき敵に囲まれて進退極まっていたスバルという管理局の少女だ。
それを見たヴァイスは、
「じゃあ、また」
と言い残し、サッと姿を消す。
「お、おい!ったく・・・・・・」
気がまわるのも、時たま罪だ。
「早乙女先輩、あの時はありがとうございました!」
深々と頭をさげる青髪の少女。それを隣のオレンジ色の髪をツインテールにした少女は、そのあまりの元気のよさにあきれたのか微笑を浮かべながら見守っている。
「あたし、スバル・ナカジマっていいます!コールサインはスターズ3です!」
「あぁ、よろしく。あと、早乙女はやめてくれ。アルトでいいぞ」
「はい!」
(ほんと元気なヤツだな・・・・・・)
ランカとはまた少し違う彼女の元気のよさに、少々感心しながら挨拶を返す。その時、スバルの同僚がじっとこちらを凝視していることに気づいた。
どうやら彼女が見ているのは、上着の内側に掛けられた拳銃らしい。これはSMSが護身用に配給した5.45ミリ『SIG-2000』というもので、バイナリー(二液混合)火薬式の質量兵器だ。しかし今はアルトの魔力で電磁気を作り出し、それによってゴム弾を高速で打ち出すレールガンのような非致死性の魔導兵器に改良されている。
ちなみにVF-25のガンポッドも現在この方式に改良されている。
「・・・・・・スターズ4のティアナ・ランスター二等陸士です」
明らかに不満のあるように名乗り、敬礼すると、答えも聞かずスバルを引っ張って行く。
「え?ちょっとティア、今のはマズイよぅ~!」
というスバルの悲鳴が聞こえるが、ティアことティアナは我関せずとばかりに立ち去る。
スバルは申し訳なさそうにこちらに頭を下げると、彼女を追っていった。
(お、俺が何をした!?)
百戦錬磨のアルトの頭の中は、ゴーストV9に狙われた新人バルキリー乗りのような恐慌状態に入っていた。
(最初から機嫌が悪かったのか?いや、スバルを見守るティアナは確かに笑ってたよな・・・)
そしていくつかの可能性が脳内会議で上がるが1つ1つ消えていき、やがてそれは堂々巡りになる。
その思考から抜け出せたのは誰かが彼の肩に触れたからだ。
振り返るとそこには心配そうにこちらを覗き込むなのはの姿があった。
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「そっか・・・・・・ごめんね。ティアナは、こういう質量兵器が嫌いなの」
事情を聞いたなのはの手が、アルトの懐に鎮座する拳銃に当てられた。
「昔彼女には、地上部隊の空戦魔導士・首都防空隊にいたお兄さんがいてね。両親を早くに亡くしたから、ずっとそのお兄さんと2人暮らしだったの。でもある時お兄さんが質量兵器を扱う商人の大捕物をして、お兄さんをその時に・・・・・・。でもね、根はいい子だから、ゆっくりでもわかってあげて」
なのははそれだけ言うと、
「ね!」
とウィンクして立ち去った。
しばらく立ち尽くしていたアルトだったが、一通り挨拶してまわると、自らの愛機の待つ格納庫へ向かった。
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外は既に日が暮れ、空はあかね色に染まっていた。そして風に乗ってやってくる心地よい潮の香り。しかしそんな美しい空も香りも、この胸のうちを快晴にすることはできなかった。
アルトは胸に焼き付く悶々とした気持ちを飛ぶことで解消したいと思ったが、それは無理だった。EXギアがあの襲撃事件からすぐ、地上部隊の技研(技術開発研究所)に送られてしまっているからだ。
VF-25は格納庫で眠っているが、EXギアなしで操縦するのは不可能だった。
フロンティア船団の新・統合軍が装備するVF-17をデチューンした現主力人型可変戦闘機VF-171『ナイトメアプラス』であれば、EXギアなしでも何とかなるが、マニュアルのVF-25では真っ直ぐ飛ばす事すら難しいだろう。VF-25はそれほどのじゃじゃ馬だった。
ちなみに先の設立式では、実はアルトは民間機よろしくあらかじめプログラムしたオートパイロットの見張り役とミサイル(花火)発射のボタンを押しただけで〝自由に飛ばした〟わけではなかった。ヴァイスへの返事がおざなりになったのもそのせいだ。
空を1週間も飛べていない事と、さっきのティアナの事が重なり、更に彼の胸の内を悶々とさせた。
「アルトくん!?」
そんな時に声をかけてきたのは、シャーリーの愛称を持つ、六課の管制及び技術主任だった。
彼女とは、バルキリーの改修でよく相談するため、比較的顔を合わすことが多かった。ちなみに、先のレールガン型の発射方式を考案したのも彼女だった。
どうも予想外の遭遇だったのか落ち着かない様子で、目を逸らしてもじもじしている。しかし何かを決意したように口を開く。
「あのね、EXギアのことなんだけど・・・・・・」
アルトの長年の役者のカンが、一斉に非常事態宣言を発した。『彼女はこれからそのEXギアに関して物凄く嫌なことを言うであろう』と。しかし次の問いを出さずにはいられなかった。
「・・・・・・どうしたんだ?」
「実は・・・・・・」
彼女の視線が、VF-25の入った格納庫とは違う格納庫で止まる。確かあそこはヴァイスの新型ヘリが入ることになっているはずだが・・・・・・
彼女に促されるまま格納庫のドアを開ける。
なんにも見えないぞ」
外の明るさに慣れた目は格納庫内部の弱い光を感知しなかった。
「ごめん。今電気点けてくるから・・・・・・」
外に設置されている配電盤のところへ行こうとしたシャーリーだが、一瞬立ち止まると、
何があっても、絶対に驚かないでね!」
と言い残し、今度こそ出ていった。
(おいおい、何があるってんだよ・・・・・・)
不安と暗闇の中待っていると、突然辺りが閃光に包まれた。
アルトは目が慣れるのを待つと、目の前に鎮座する多数の用途不明の部品類を見渡す。それらは床に敷かれた防水シートの上に綺麗に並べられており、丁寧に分解されたらしく壊された形跡はない。しかし1つだけ、原型がわかるものがあった。あれは―――――
「熱核反応エンジン・・・・・・?」
しかもそれはEXギア用に開発された小型のものだった。
原子炉にOTMの重力制御技術を組み込んだ反応炉(核融合炉。反応弾と違い物質・反物質対消滅機関ではない)というエンジンには複雑すぎて手が出なかったらしい。
しかし近づいて見ると、しっかり炉心は止まっている。残留熱もないようで、止められたのが1日以上前であることがわかる。
「本当にごめんなさい!」
戻ってきたシャーリーがドアの前で両手を合わせ、深々と頭を下げている。
「本当はもう3日前にはEXギアは返って来てたの。その時はこう・・・・・・じゃなくてまともな状態だったんだけども、ちょっと魔がさして・・・・・・気づいたらバラしてて・・・・・・直そうにも上手くいかなくて・・・・・・」
彼女の声がどんどん小さくなっていく。どうやらEXギアを解体した張本人は技研でなく彼女らしい。
「はぁ・・・・・・部品が全部あるみたいだから元には戻せるとは思うがな、この炉の火を完全に消すと、また点けるのにどれだけ苦労すると思ってるんだ?」
「・・・・・・」
「ここの設備じゃ1ヶ月はかかるだろうな。どうしてくれるんだ?」
うつむくシャーリーを責め立てるアルト。
しかし実は大嘘も良いところ。
確かにこの世界で最もポピュラーな発電方法である核分裂炉を1基を貸してくれるなら別だが、それ以外の方法では数十万度という必要な熱がなかなか手に入らない。
そして、これを組み直すのには1週間ぐらいかかるかも知れない。しかしVF-25の熱核反応炉を繋げてスターターにすれば10秒かからず炉は再稼働するはずだった。
もしここにランカがいれば、それぐらいの知識は常識としてあるため
「やっぱりアルトくん、意地悪だよぅ~!」
と、言った事だろう。しかしシャーリーには代案があったようだ。
「だから、これを作ったんです!」
彼女がポケットから〝何か〟を出す。アルトは手を伸ばし、シャーリーの出した物を受け取った。それは技研にフォールドクォーツのサンプルとして差し押さえられたシェリルのイヤリングだった。
やがてそれは光り始めるが、すぐに収まった。
「これはインテリジェントデバイスです。今ので登録が終わったわ」
「お、おい、ちょっと待てよ。これってデバイスだったのか!?」
「・・・・・・?ええ、技研の解析結果にはその石はデバイスのフレームと同素材ってなってたわよ。確かに中には解析不能なすごく小さなデータと基本的な人格サブルーチンが入ってたけど、容量がほとんど空いてたから新品のインテリジェントデバイスだと思ってたんだけど、違ったの?」
(そうか、コイツ俺が次元漂流者って知らなかったんだったな・・・・・・)
しかしこれはバジュラしか生成できないフォールドクォーツだったはずだ。シェリル自身は母の形見と言っていたが・・・・・・
ともかく詳しい入手経路をシェリルに会った時に聞こうと決意していると、 それが青白い光を点滅させた。それと同時に聞こえてくる声。
『Nice to meet you. sir.(よろしくお願いします。サー)』
アルトは物が話しかけてくるという現象にすこしたじろぎながらも、イアリング型デバイスに
「・・・・・・あ、あぁ、よろしく」
と返すと、シャーリーに向き直る。すると彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。
「それじゃあバリアジャケットに着替えてみて。もうイメージデータは入れてあるから」
「わかった・・・・・・セットアップ!」
皆がそうするようにデバイスを掲げてこう宣言した。
(なんかオールドムービーで見た光の国から来た巨人みたいだな)
そんなことを一瞬考えるがデバイスは再び光り始め、
「Yes sir.」
といって四散する。そしてその青白い光が一瞬で視界を塞いだ。数瞬後、光が収まった時最初に感じたこと、それは身体の一部であるかのような着心地だった。
「これは・・・・・・EXギア・・・・・・!」
それは分解された軍用EXギアと寸分変わらぬ形状をしており、パワーアシスト機能も健在だ。
「そう。さすがに反応エンジンは無理だったけど、あなたの魔力でそれを代替して空を飛べるし、ミッド式の魔力障壁も展開できるわ。もちろん、元の機能は全く同じよ」
シャーリーは自らの端末を操作してマニュアルを呼び出す。
「武装は、あなたのバルキリーに搭載されてたリニアライフルをモデルに作ったけど・・・・・・はい!」
そういって彼女は紙飛行機のように視覚化した光子データストリーム(ホログラム内にデータを内蔵して送信する短距離可視通信方式)を端末で放るようにこちらに飛ばす。それをEXギアでキャッチすると、自動的に消失して中身のデータを読み込んだ。
そのデータに入っていたマニュアルからリニアライフルの記述を探す。どうやらそういう追加装備は「~装備」と言うだけでいいらしい。早速
「リニアライフル装備」
とデバイスに命令を発する。すると青白い光の粒子が右手に集まり、瞬時にそれを生成した。
「おっと・・・・・」
突然かかったリニアライフルの質量にすこしよろけるがすぐ持ち直す。元素から再固定して作られたとは思えない本物のような重さだ。
「発射するのは普通の魔力弾だけど、弾頭の生成の時に色々な弾種を選択できるわ」
マニュアルによると、通常の魔力弾や魔力砲撃、対AMFシールド貫通弾と多彩だ。
「あと、あたしの自信作がこれ!」
そういって示されたのはマニュアルの項目。タイトルは『PPBS』とあった。
「ピンポイントバリアシステム・・・・・・」
「そう!EXギアのデータベースを解析したら、その基礎理論と実用化例があって、作っちゃった♪」
どうやらこれの犯人もコイツだったらしい。ヴァイスのヘリに付けられるバリアはおそらくピンポイントバリアシステムだ。
EXギアのデータベースにはパスワードをかけたSMSの機密情報と美星学園の卒業試験突破のために教科書が一通りアップロードされていた。
確かその教科書のなかには最新のOT(オーバー・テクノロジー)とOTMの基礎理論と実用化した例の写真があった。だがこのOT・OTMという技術自体人類全体の機密だ。
(しかし・・・・・・)
もし基礎理論だけで彼女がこれを作ってしまったのなら冗談抜きで天才だ。あれら超科学には理論だけでは解析不能なところがあったためだ。
「これで許してもらえる・・・・・・かな?」
そう上目遣いで聞いてくるシャーリーを見ていると、機密などどうでもよくなった。
(どうせ同じ人類で、しかも敵意はなさそうなんだし・・・・・・)
そう思い礼を言うに止めた。
それを許してもらったと解釈したシャーリーは、
「ありがとう。じゃあ、また明日ね~」
と言い残し、宿舎に退散していく。おそらくこの3日間不眠不休だったのだろう。今思うと彼女の目の下には隈があった。
「・・・・・・そう言えば、おまえの名前は?」
リニアライフルに付いた青い宝石に問う。
『I don't have name. Please regiter.(名前はありません。登録してください。)』
「名前か・・・・・・そうだな・・・・・」
しばし黙考すると、VF-25のペットネームを思い出す。
「・・・・・・じゃあ『メサイア』でいいか?」
『No problem.(問題ありません。)』
心なしか嬉しそうに見えた。そして、未だにあかね色に染まる空を見上げると、当初の予定を思い出す。
「メサイア、いけるか?」
新しい相棒にはそれだけでわかったようだ。主翼を広げ、スバルと同じような魔法による道ができる。しかし、それはひたすら真っ直ぐで取っ手がついている。まるでどこかにあるカタパルトのように。
『All the time.(いつでも。)』
メサイアの歯切れの良い返事とともに、取っ手を握る。
「よし!」
掛け声とともにEXギアは急激な加速に入り、その青年の体は暮れかけの空を舞った。
次回予告
遂に始まるフォワード4人組に対する熾烈な訓練。
そしてその訓練の一環として模擬戦が行われることに。
しかしその相手は─────!
次回マクロスなのは、第4話『模擬戦』にご期待ください!
最終更新:2010年09月23日 21:26