メダロット。それは、テクノロジーが生み出した全く新しいロボットである。
ティンペットと呼ばれる基本フレームに人工知能メダルを搭載、
さらに多種にわたるパーツを組み合わせることによって、
無限の能力を引き出すことができるのだ!
おみくじ町のとある公園、子供たちの声と射撃音が聞こえる。
「メタビー、サブマシンガン!!」
ズガガガガガガガガッ!
『頭部パーツ、ダメージ100。機能停止』
腕時計から発せられる電子的な音声とともに、シアンドッグは糸が切れたように
ばたりと倒れる。
と同時に、背中から『キュピンッ』と音を立てて何か光るものが飛び出した。
「あぁっ、シアンドッグ!」
少年がボロボロになった相棒へ急いで駆け寄る。心底心配そうな面持ちだ。
「いよっしゃあ!! またオレたちの勝ちだな」
「ってかイワノイ、お前もパーツの組み合わせ考えろよな。
サルメダルと射撃パーツは相性が悪いってのに」
腰に手をあてて満足げに勝ち誇っているのはメタビー。
ボディは全体的に明銅色で、右腕には単装の、左には二連装の銃身を装備している。
そして頭部には一対の大型バレルを備えたツノ。
一見するとカブトムシを思わせるフォルムだ。
そして、呆れ顔でアドバイスをしているのはイッキ。
頭のチョンマゲが特徴的な、メダロット大好き少年(小3)である。
「うるさいっ! 誰に何と言われようと、パーツを換えるつもりはないね。
俺はこのシアンドッグが好きなんだ!」
シアンドッグのメンテをしていたイワノイは、説教をタレるイッキに言い返した。
髪をデー○ン閣下よろしくカッチリ立てたヘアスタイルの、ややツリ目な少年だ。
いったい何を使えばそこまでソリッドに立ち上がるのか、作者に問いただしたい。
「まぁ、前よりは射撃の精度も上がってきてはいるけどな。
回避のタイミングとマスターの指示がまだまだってとこだな~」
メタビーのダメ出しにイワノイは反論しようとしたが、
言われたことはほぼ的を得ているため、歯軋りをするしかない。
「ほい、お前のメダル。確かにパーツ自体は性能良いけどさぁ、
負けてばかりじゃお前の相棒もいつかグレちまうぜ?」
イッキは落ちていたサルメダルを拾って手渡す。
「へん!余計なお世話だ」とか言いながらイワノイは乱暴に受け取った。そこへ――
「あ、いたいた。ふーん、この様子だといつもどおりみたいね」
「イワノイ、また負けたのかい!? 情けないね~まったく!」
声がする方向へ振り向くと、
そこに2人の少女と1人の少年が近づいてくるところだった。
「あらら~、シアンドッグもボロボロじゃない!イッキ、手加減してやんなかったの?」
「ロボトルに手加減などない!
メダロッターなら知恵と勇気で勝負ってもんだろアリカ」
「何よそれ?ワケわかんないわ・・・・」
目を炎にしながら熱く語るイッキをジト目で見るのは、
今どき珍しいオーバーオールを着ている少女、アリカ。
イッキとは幼馴染&お隣さんであり、幼少時代からの腐れ縁である。
「イワノイ。あんた、また今度負けでもしたら本気でスクリューズから除名するよ!!」
「ひぇええ~、オヤビンそれだけはー!」
あちらでイワノイに激を飛ばしているのはキクヒメ。
ウェーブのかかった茶髪、首元に下げたサングラス、
パンツルックの服装・・・・と、男っぽい格好をした女の子である。
その横でキクヒメの付き添いのように居るのはカガミヤマ。
少々ポッチャリしている少年で、どうやら物言いは少ないようだ。
ちなみにスクリューズとは、キクヒメを頭にイワノイ・カガミヤマの3人で構成された
悪ガキグループである。
名前の由来はお酒の『スクリュードライバー』から来ているとか何とか・・・・
「まぁいい、かわいい子分の仇討ちだ。あたしとも勝負しなイッキ!」
さすがはリーダーとでも言うべきか、キクヒメがリベンジを申し出る。
「お、オヤビン・・・・一生ついて行きやす!!」
キラキラした目で自分のリーダーを崇めているイワノイ。
連戦はちょっとキツイんだけどな~とかイッキは考えていたが、
「上等だ、連戦連勝で返り討ちにしてやるぜ!」
とかメタビーがヤル気満々で言い返したもんだから、もう取り返しがつかない。
「ま、いいか。相手になるぜ」
「いい気になってんじゃないよ!メダロット、転送!!」
キクヒメの腕時計・メダロッチから閃光が走り、メダロットが転送される。
赤いボディに愛くるしい大きな目、特徴的な耳と尻尾のあるネコ型メダロットだ。
『合意と見てよろしいですね?』
どこからともなく声が聞こえる。メダロッターなら必ず聞き覚えのある、あの声。
ズバーーーーーッ!!!
地中から土を舞い上げ、現れたアノ人とは・・・・
『Mr.うるち!!?』
「暖かいご歓迎ありがとうございます!
只今この戦いは真剣ロボトルと認定されました。よってこのMr.うるちが
レフェリーを務めさせていただきます!」
「誰も歓迎なんてしてないわよ・・・?」
うるちにさりげなく突っ込みを入れるアリカ。
なるほど鋭いな、さすがは未来のジャーナリスト。
「こ、細かいことはどうでもよろしいのです!
ルールは簡単、互いのメダロットを戦わせ、先に機能停止させた方が勝ちです。
よろしいですか~?」
「おうっ!!」
「いつでもかかってきな!」
「それでは、ロボトルぅ~~・・・フ ァ イ ト ぉ ! ! !」
カンッ!
ゴングが鳴り響いた。誰が鳴らしたのかは突っ込まないで頂けると幸いである。
「ペッパーキャット、速攻で勝負をつけるよ!」
「了解ですおやびん!」
戦闘開始と同時に、ペッパーキャットは持ち前のスピードでメタビーに迫る。
「メタビー、相手の足元を狙え!動きを止めるんだ!」
「分かった!」
狙いを定めてサブマシンガンを連射する。が、
ペッパーキャットはネコ並みの俊敏性で弾幕をジグザグにすり抜ける。
「懐に飛び込んでライトジャブ!」
「はい!」
右腕パーツ・ライトジャブに紫電をまとわせ、メダビーに飛びかかった。
「バックステップでかわせ!!」
間一髪で後ろに飛び退き、電撃を回避するメタビー。
しかし、接近戦においては格闘型の相手のほうが上手だった。
「次!ライトブローだよ!」
先ほどより一回り大きな電撃がキャットの左手から発生する。
左腕パーツ・ライトブロー。威力が大きい分、右より攻撃スピードは劣るが
バックステップから体勢を立て直せていないメタビーに当てるには十分だった。
バ チ チ チ チ チ ッ !
「ぐわあぁぁあっ!」
「メタビー!!」
横殴り気味のブローはメタビーの頭にヒット、そのままの勢いでぶっ飛ばされる。
『頭部パーツ、ダメージ52』
「っく、痛って~・・・・」
どこかの回路が軽くショートしたのか、視界に砂嵐が混じっては消える。
「さすがオヤビン、その調子!」
イワノイが歓声を上げ、カガミヤマも『うんうん』と頷いている。
「おい大丈夫か!?」
「あぁ・・・・ちょっと油断しちまったな」
心配するイッキに、かろうじて余裕を含めた返事をするメタビー。
本当はモニターの調子が思わしくないのだが、そのことはあえて言わなかった。
一応の安心をした後、イッキはこの後どうするかを思案する。
(あの機動性じゃ、おそらくリボルバーもそう当たらないはず。
せめて動きを鈍らせられれば・・・・そうだ!)
「メタビー、反応弾だ!」
「何ぃ?アレが当たると思ってんのか!?」
「いいから!発射機能はまだ大丈夫なんだろ?」
『反応弾』。メタビーの必殺武器とも言える大火力の武装。
確かに当てればほぼ一撃だろうが、問題はその『当たるかどうか』なのだ。
しかし、イッキの顔は何か自信と確信に満ちている。
イッキの様子に訝しがりながらも、メタビーはペッパーキャットに照準を合わせ、
「いっけぇ!」
「ハンノウダン!!」 ドシュゥッ!
大型バレルから2発のミサイルが黒煙をまとって飛び出し、
真っすぐにペッパーキャットへ突き進んでいく。
「ほーぅ、お得意の反応弾かい?ま、当たるつもりはないけどねぇ」
目前1メートルまで迫った刹那、キャットは垂直に跳び反応弾を回避。
いかに火力がある武器といえども、避けられてしまっては意味はない。
「残念だったねぇ~。さて、そろそろ仕留めるよ!」
「はいっおやび/ドゴォォォン!!」
突如、爆炎が立ち上った。背後からの爆風で吹き飛ぶペッパーキャット。
そこに、
「メタビー、リボルバー連射!」
「もらった!!」
ガッチリと右腕を構えたメタビーは照準を合わせ、連撃を放った。
「あ痛っ!」
「ペッパーキャット!!」
『脚部パーツ、ダメージ53』
脚部にダメージを受け、思わず膝をつくペッパーキャット。
「いよっしゃぁー!!」
「なーるほど、考えたじゃねぇかよ」
わざと相手の背後付近に着弾させて爆風を起こし、バランスを崩した隙に攻撃する。
――イッキの考えたアイデアは見事に成功した。
「へぇー、やるじゃないイッキ」
観戦していたアリカも、イッキの戦法に少し感心する。
「やってくれるねぇ。次はこうはいかないよ」
「ああ、ここからが本当の勝負だぜ!」
互いに向き直り、改めて攻撃タイミングを見測るキクヒメとイッキ。
先に動いたのはキクヒメだった。
「反応弾はもう当たらないよ。いいね?ペッパーキャット!」
「了解おやびん!油断はナシです」
ステップを利かせてメタビーに迫る。照準を絞らせないつもりだ。
しかし、相手の動きを見てイッキは何かに気付いた。
(脚部パーツにダメージがあるからか?さっきよりもスピードが少し落ちてる)
よくよく見ると、若干だがキャットの動きにスキが生じている。
「脚が弱ってるなら、こっちの攻撃も当たりやすくなってるはず。メタビー!」
イッキの呼びかけに、
「分かってるさ。オレ様の射撃の腕をなめんなよ」
威勢よく左手のサブマシンガンを構えるメタビー。
その間にも、右に左に動きながらペッパーキャットは距離を詰めてくる。
と、やはり脚部の異常か、一瞬だけステップにブレが生じた。そこを見逃さないイッキ。
「今だ!」
「くらえっ・・・・う!?」
まさに決定打を撃とうとした矢先、メタビーのモニターが再び砂嵐に襲われる。
視界の定まらない中で闇雲に撃ったマシンガンは、相手に当たることはなく・・・・
ガガガガッ――ドバァー!!
「んな?何やってんだお前ー!?」
公園の中心にある噴水の土台に命中。生じた亀裂から、大量の水が噴き出す。
そしてその水は、
「うわぁっ冷てー!!」
「な ん で 俺 ま で ~ ! ?」
噴水を破壊したメタビーと、すぐ隣にいたイッキへと降り注いだ。
「何やってるんでしょう?メタビー達」
突然の相手の自滅に、唖然とするペッパーキャット。
「あ~・・・・よく分からんが、とにかくチャンスだ!ライトジャブ!」
「はい!」
キクヒメも同様に呆れていたが、これ見よがしと攻勢に出る。
「げぇ~、びしょびしょだ・・・」
濡れそぼった服の感触にぼやくイッキ。と、
「おいイッキ!ボヤボヤしてんな!」
キャットの接近にいち早く気付いたメタビーが警告を発する。
「や、やばいぞ!こんなに濡れてるときに電撃なんか食らったら・・・・」
なんて考えている間に、目前まで迫る赤い猫。右手には紫電をまとっている。
「とにかく回避だ、走れメタビー!!」
「よしっ・・・・っておわぁー!」 べちゃっ
大量の水でぬかるんだ地面に脚を取られ、盛大にコケるメタビー。
「決まりだねぇ。とどめだよ!」
キクヒメの勝利宣言と同時、ライトジャブがメタビーを捉えた。
ちょっと待てよ?
大量の水でメタビーとイッキはびしょ濡れ。しかも地面も水浸し。
ということは――
「「あぎゃぁぁぁぁあ!!」」 バリビリビリ!!
二人そろって感電していたりするわけで。
「えっ?ちょ、イッキ!?」
アリカが思わず叫ぶ。と、
ド ガ ァ ァ ァ ン ! ! !
何故か派手な爆発が起き、辺りは爆煙に包まれる。
やがて煙が晴れ、黒コゲになったペッパーキャット、そしてイッキとメタビーが――
イッキとメタビーが、いなかった。
『え・・・・?』
その場の一同は、ただただ呆然とするだけだった。
「・・・・とりあえず、この試合は没収試合とさせていただきま~す~」
所変わって、ここは海鳴町。とある民家の子ども部屋。
「んーっ、宿題終わり~!」
週末用に出された宿題をやっつけ、なのはは大きく伸びをした。
『Good job. Master(お疲れ様です。マスター)』
机の上に置いてある赤い宝玉が労いの言葉をかける。
「ありがと、レイジングハート。さてとっ、夕飯まで何しようかな~」
現在時刻は午後4時30分ほど。涼しい時間帯を使って宿題を終わらせたなのはだが、
これから特に何をするという用事はなかった。すると、
『How will be a walk? It is good a change after study.
(散歩はいかがでしょう。勉強後の良い気分転換になると思います)』
と、レイジングハートが提案する。
「ん、そうだね。さっきの問題解くのにけっこー頭使っちゃったし」
パートナーを首にさげて、なのはは家を出た。
またまた所変わって、ここは時空管理局所属の巡航艦、アースラ内ブリッジ。
艦長のリンディ・ハラオウンは、キャプテンシートに座っていた。
「ここのところ大きな異常はなし。いいことねぇ~」
と言って、日本茶の淹れてある湯飲みに手を伸ばす。
そのまま飲むのかと思いきや。角砂糖を2個、さらにミルクをたっぷり注いだ。
そしてよくかき混ぜ、一口。
「うん、美味しい」
『本当に美味しいのか?』と突っ込みたくなるが、そこは暗黙の了解というやつで。
「あ、艦長!お疲れさまですっ」
「あら、エイミィ早いわね。もっとゆっくりしてても良かったのよ?」
ブリッジのドアが開き、入ってきたのはエイミィ・リミエッタ。
ショートカットに1本ハネた癖っ毛(?)、活発そうな顔立ちの少女だ。
「ご心配なく!ちゃーんと休憩はしてきましたから。それに・・・・」
と、彼女はそこで言葉を切って顔を引き締めた。
「それに?」
急に真面目な表情になったエイミィに、リンディは疑問符を浮かべる。
「何だか落ち着かないんですよ。オペレータとしての勘っていうか――」
優秀な管制官である彼女の経験と勘が、何かを訴えていた。
「こういう『異常なし』って日が続いてると、『唐突に何かが起こる』って」
「ぇ・・・・」
一時の静寂がブリッジを包んだ。
「――なーんちゃって!やだなぁ艦長、冗談ですよジョーダン!」
自分の言葉を間に受けてしまったらしい艦長に、
エイミィは『あははは』と苦笑いながら前言を撤回。したつもりだったが、
ヴィー!! ヴィー!!
突如としてアースラの管制システムが異常を感知した。
「ありゃ、当たっちゃった?」
タラ~ッと、エイミィの頬に一筋の汗が流れた。
最終更新:2007年08月14日 16:55