『マクロスなのは』第6話「蒼天の魔弾」



地球環境の破壊が叫ばれる今日この頃。
その森は広大で、自然保護区にでも指定されているのだろうか? この時代にあって人工物がほとんど見られない。
だが唯一、明らかに人工物とわかる幅5メートルぐらいのコンクリート製の溝が山から山へと渡っていた。
その溝の上に1羽の小鳥が羽根を休めている。しかし何か危険を感じ取ったようだ。それは溝から飛び立つと空中に退避した。直後、小さく〝キーン・・・・・・〟という空気を切り裂く音と共に静かに鉄の箱が通り過ぎていく。
鳥は

「近所迷惑だ!」

とでも言いたげにそれに爆撃すると、豊かな緑に包まれた安住の地へと飛翔していった。

(*)

山間部を時速70キロメートルで走る貨物用リニアレールは戦場と化していた。
ヘリから飛び降りたティアナ達は、上空に展開するガジェットⅡ型を警戒しながら10両目に着地。なのは達の支援砲撃でガジェット達が気を取られている隙に10両目の車両の中に滑り込んだ。

「うわ・・・・・・」

ティアナは床を見て顔をしかめた。
そこには寝かされた陸士達の姿があった。全員出血性の外傷があるところを見ると殺傷設定で戦闘不能にされたらしい。
続いて突入してきたスバル達も血臭ただようこの車内で、真っ赤になってなお血の滴る包帯を顔面蒼白になりながらも必死に抑える者など痛々しい光景に絶句してしまったようだった。
その時まるで工事現場のような轟音を轟かせながら敵を迎撃していた前線から声が聞こえた。

「あぁ、増援か!」

最前線の9両目から1人の陸士が仲間に援護を頼み、敵の怯んだ隙にこちらへ走って来た。

「我々は第256陸士部隊、第5小隊所属、第1分隊だ。増援に感謝する」

どこか・・・・・・いや完璧に非魔法文明の意匠のバリアジャケット。質量兵器を忌み嫌うティアナはあまりいい気はしなかったが、ヘルメットの下に見えた彼の顔からは見捨てられていなかったことへの歓喜の表情がうかがえた。
どうやら猫の手も借りたい状況らしい。待ちに待った増援が子供であったことすら気にしていない様子だ。

「機動六課、スターズ、ライトニング分隊です。現状は?」

簡潔な状況確認要求にすぐ彼は応じ、開いたホロディスプレイを指差しながら説明する。

  • 現在、運転室を含む前方8両は敵に完全制圧されていること。
  • 撤退しながら構築した9両目の臨時トーチカ(防衛陣地)が最前線であること。
  • 9両目で切り離すと電力供給が止まり、電磁気で浮いている車体がレール(溝)に墜落、大破してしまうのでできないこと。
  • 敵はⅠ型だけではなく、新型(仮にボールと呼ばれている)が混じっており、逆侵攻はできないこと。

説明を聞くうちに、ティアナ達は素直に陸士部隊の手際に感心した。
もし、訓練でガジェットとの戦闘に中途半端に慣れた自分たちが守っていたとしたら彼ら陸士部隊のように臨機応変に行動出来ただろうか?
答えは否だ。
おそらく力を過信して突撃、その新型の返り討ちにあっただろう。
特に彼らの造った臨時トーチカの完成度は手放しで賞賛できるものであった。
彼らはリニアレールで唯一大型貨物が集中している9両目に初期の頃から陣地構築を計画。形勢不利とみるとすぐさまトーチカの構築を始め、撤退中に完成させた。
それは狭い入り口から入ってくるガジェット達に対応不能なほどの十字砲火(クロスファイア)を行えるように巧みに計算し、構築されていた。
しかしそれだけでは持ちこたえられなかったろう。〝従来の〟陸士部隊の装備なら。
予算の問題が解決した陸士部隊は、急ピッチで装備の改変が行われている。
デバイスはほぼ全員がアップデートしており、それらは対AMF戦を想定した設計になっている。現在彼らの撃ち出すのは魔力砲撃や魔力弾だけではなく、〝フルメタルジャケットの徹甲弾〟だ。

「それは最早質量兵器ではないか!?」

という反対を押しきって採用されたそれは、バルキリーと同じレールガン型発射方式だ。(この方式は最低のCランク魔導士でも使用でき、うってつけだった)
反動を伴ってしまう物質投射型武器のノウハウのなかった管理局が参考にしたのは、第97管理外世界のJSSDF(ジャパン・サーファス・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国陸上自衛隊。)の装備だった。そのため使用時形態のそれはJSSDFの制式装備である『89式小銃』と『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』に酷似していて、事実そう呼ばれる。
機能もほぼ同じで、配備数は89式小銃の方が多い。なぜなら分隊支援火器と呼ばれるMINIMIはいわゆるマシンガンで、稼動を始めたばかりの弾丸製造工場への負担が大きいからだ。
ちなみにティアナ達は知らなかったが、バリアジャケットも同様にJSSDFの装備を元にしている。
ともかく、彼ら陸士の善戦は彼ら自身のたゆまぬ努力と新装備によって支えられていた。

「佐藤陸曹、弾を持ってこい!もうすぐ弾切れだ!」

前線からの要請。佐藤と呼ばれたさっきの陸士は、床に転がる弾丸ケースを抱えると敵のレーザーの雨を掻い潜って前線に届けようと走る。
しかし、一瞬停まった所をレーザーが狙い撃ちした。
展開した魔力障壁もAMF下では敵の集中射には耐えられず貫通。胴体はバリアジャケットの分厚い防弾チョッキがそれを受け止めたが、リンカーコア出力が低いと薄さに比例してバリアジャケットも弱くなってしまうため、足に着弾したレーザーが貫通してしまった。
しかし、4人の対応は早かった。
足の速いスバルが倒れる彼を抱き止め、負傷者の待つ後方へ。エリオが彼の仕事を継ぎ、ケースを前線に届ける。キャロは応急の治療魔法にティアナとフリードリヒはその間の援護射撃。
絶妙な連携で敵を退け、友軍である陸士を救う。この勇気ある組織立った行動が陸士達の若すぎる彼らに対して抱いていた評価を変えた。

「痛っつぅ・・・・・・!」

「・・・・・・あの、大丈夫ですか?」

足を抑える佐藤に、治療魔法をかけるキャロが心配そうに呼び掛ける。

「・・・・・・ああ、助かった。ありがとう」

彼は礼を言うと、八角形をした箱を指差す。

「あれが連中の狙っているロストロギアの入った箱だ。なんとか守ってほしい」

そうして佐藤はスバルに止血帯を絞めて止血してもらうと、足を気遣いながらも再び戦線に復帰した。
ティアナは3人に床に積まれた弾丸ケースのピストン輸送と負傷者の治療などの指示を出すと通信を放つ。

「こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!」

ティアナはクロスミラージュにカートリッジを装弾すると陸士逹の戦列に加わった。

(*)


 10分後

防戦が続くが、全く突入のタイミングが計れなかった。そのもっとも大きな理由はボールの存在だ。
そのボールは後に『ガジェットⅢ型』と呼ばれ、強力なAMFと帯のような格闘兵装がある。そのためレーザーを撃つだけのⅠ型と違って数段に戦いにくい相手だった。
おそらくスバルの突貫力でも1体倒したら進撃が止まってしまうだろう。

(でもなんとかリニアレールを停めなきゃ、みんなが・・・・・・)

リニアレールを停められれば、地上からの増援も期待でき、負傷者の搬送もできる。
先ほどティアナはなのはに支援砲撃の要請をして、

「わかった」

と返事が得られた。しかし例の新型空戦ガジェットに苦戦しているらしい。5分待ってもなのは達は来なかった。
すでに後ろには防衛していた第1分隊12人のうち7人が寝かされている。時折聞こえるうめき声が彼らの負傷の大きさを物語った。
それに敵のAMFはランカのSAMFと違い魔法の発動ができる。しかしいちいち干渉して体力を削るため、忌々しい限りだった。

「畜生!〝虫〟の次は機械かぁ!どうして俺はいつももこうなるんだぁ!俺らは〝フロンティア〟でも、ミッドでも、ただ平和に暮らしたいだけなのに!」

ティアナの隣の陸士が叫ぶ。彼女には彼の真意は理解できなかったが、極度の緊張で発狂しそうなのだろうと結論づけた。
そしてそれがさらに「時間がない!」と彼女を焦らせた。すでに陸士達の生命線である弾丸ケースも残り少ない。
そうして上を見上げると取っ手があった。それは整備用のハッチで、大柄な陸士と違って小柄な六課の4人なら上にあがれそうだ。
ちなみに入った時のハッチは場所が悪く、降りられても登れなかった。
ティアナは即座に判断すると、陸士部隊の隊長を探す。

「隊長は俺だ」

名乗りをあげたのは、さっき〝虫〟とか〝フロンティア〟とか訳のわからないことを口走っていた人だった。
しかし確かに階級章は部隊で最高位の准陸尉だ。それに思ったよりまともな応対をしていた。
ティアナは意を決し、作戦を話した。

「・・・・・・つまり君らが、上に登って直接運転室を制圧するんだな?」

「はい。それまでここをお願いできますか?」

彼は床の弾丸ケースや自身のマガジンを確認する。

「・・・・・・持って、15分だ。それまでに頼む」

「了解!後方へ行くので3秒間援護願います」

「わかった。・・・・・・お前ら!5秒後に3秒間入り口に向けて全力射撃!給弾忘れるな!」

「「了解!」」

彼はMINIMIを持つ隊員2人に叫ぶように命じると、カウントしつつ彼自身も床に転がっていたMINIMIに箱型弾倉を装着。ジャラジャラうるさいベルトを給弾部に装填した。
自分もいつでも飛び出せるよう身構える。

「―――――2、1、GO!」

途端地獄の釜を開けたような轟音が車内を包んだ。3挺の機関銃のそれぞれから毎分750発にも昇る弾丸が飛び出し、敵の頭を完全に押さえ込んだのだ。
そしてティアナは「GO!」のカウントと同時に迷いなく遮蔽物から走り出し、規定の3秒経つ前に10両目に飛び込んだ。

(*)

「しかし隊長もお人が悪い。この残弾じゃ、あと25分以上は持ちますよ」

先ほど彼女らに助けられた佐藤曹長が発砲音に紛れぬよう、耳元で言う。
スバルという少女が10両目に積載していた弾丸ケースを次々ピストン輸送してくれたおかげで、前線には十分長期戦に耐えうる数がそろっていた。

「まぁ、お手並み拝見ってことだ。15分過ぎてもあの子達が到達できなければ侵攻して援護してやろう」

「了解!」

佐藤は答えると、憎憎しいガジェットⅠ型に89式小銃をぶっ放した。

(*)

ティアナは10両目につくと、弾丸ケース運びに勤しむスバル、負傷した陸士達に治療魔法を行使し続けるエリオとキャロに指示を出す。

「スバル、このハッチを吹き飛ばして。エリオとキャロも行ける?」

「「はい!」」

2人の元気のよい返事に、破砕音が混じる。
スバルのリボルバーナックルが、ハッチをロックごと吹き飛ばしたのだ。そこからのぞく南海の海のように透き通った青い空。
ティアナは頭を慎重に出す。ガジェットⅡ型はなのは隊長達によってほとんど掃討されたはずだが、油断はできない。
果たして打ちもらしが1機飛んでいた。
ティアナは素早く照準し、一発ロード。それを対AMF炸裂弾1発で見事撃破した。

「よし!」

自らを勇気付けるようにかけ声を上げると、這いずるように外に躍り出る。暴力的な風が吹き荒れているが前に進めない程ではない。
周囲を警戒するうちにスバルも登って来て、エリオ、キャロもすぐに引っ張り上げられた。

「行くわよ!」

上にいても聞こえる『タタタッ』という三点射のスタッカート。それが聞こえている間は、彼ら陸士達の生存の証だ。
陸戦型ガジェット達も上がって来れないらしく、順調に行軍は続いた。
余談だがこの時キャロが鳥のフンに滑って谷底に落ちそうになるというハプニングがあったが、その他には問題なく、運転室まであと2両に迫っていた。

(このまま行けば・・・・・・!)

ティアナの中でフォワードの初陣を白丸で飾れると期待が膨らんだ。

(*)

漆黒の邪悪なる翼はすぐそこまで迫っていた。
しかし、4人にそれに対する効果的な対処法はなかった。

(*)

ティアナがジェットエンジンの轟音に気づいて音源を視認した時にはもう目と鼻の先だった。
突然山肌から出てきたのは例の新型空戦ガジェットらしかった。それはアルトがいればすぐに、統合戦争で使われた統合軍無人偵察攻撃機「QF2200 ゴースト」だと看破しただろう。
このゴーストは未確認情報だが、統合戦争末期に当時の先行試作人型可変戦闘機、VF-0『フェニックス』のブースターパックとして無理やり装備されたことがあるという。
しかし装備は当時のものより遥かにグレードアップしている。ミサイル数発、12.7mm機銃1挺だった武装はマイクロミサイルシステムの進歩によって装弾数が数倍にはね上がり、機銃は魔力素粒子ビーム機銃に換装されている。更に機体下部には20mm3連装ガンポッドが追加装備されていた。
また、運用当時以上の高機動で長時間の飛行を維持していることから推進系も通常のジェットエンジンからバルキリーと同種の熱核タービンに換装されているようだった。
無論そんな考察はティアナ達には行えなかったし、ガジェットの5~6倍は大きいその機体に圧倒されて声もあげられなくなっていた。
そのゴーストは、マイクロミサイルを乱射すると即座に退避した。
置き土産たるミサイルは直後到着したなのはの支援砲撃と、ティアナのとっさの迎撃が食い止める。しかし、ワンテンポ遅れてやってきたミサイル1発は運悪く撃墜出来ず、4人の足下に着弾した。
恐らく殺傷設定だったミサイルだが、デバイスが緊急展開したシールド(シールド型PPBと魔力障壁)が破片を防ぐ。しかし、爆発の衝撃までは殺しきれなかった。
結果として着弾地点からリニアレールの前方にティアナ。後方にスバル。そしてエリオとキャロは谷底へ落ちていった。

(*)

頭がクラクラする。意識も混濁し、視界もブラックアウトしたまま回復しない。どうやら頭を打ったらしい。しかし自分がなぜこんなことになっているかがわからなかった。

(あれ・・・・・・なんで・・・・・・)

「ティア!」

「!」

親友の呼び掛けによって前後の記憶が蘇る。
こうしてはいられないと頭を振って視界を回復させると、すぐに立って対応をしようと手を床に付いた。瞬間、自分を優に越える大きさの影が覆った。
例の新型空戦ガジェットだ。おそらくトドメをさしに来たのだろう。しかし迎撃しようにも、気づいたときには手の内にクロスミラージュがなかった。どうやらさっきの衝撃で落としたらしい。
視界の端にスバルの姿が写る。彼女は自分の元に駆けつけようと急いでいるが、穴から出てきた新型、ボールに阻まれ間に合いそうもない。
自分の名を叫ぶスバルの悲痛な声が聞こえる。その間にゴーストのセンサーがこちらをロック。その重たそうな3砲身の銃口が向けられ、回転を始める。
デバイスのない今、兵器レベルの物理投射攻撃を受ければおそらく即死。自らの体はバラバラになり、原型が何かすらわからないだろう。

(・・・・・・痛くなければいいな)

頭も依然として朦朧とするし、助かるはずもない。完全に観念して瞼を閉じた。
しかしそこで彼女はあり得ないものを見た。
大好きだった兄と誰かが肩を取り合って笑っている。あれは―――――

(アルト先輩・・・・・・?)

刹那、爆音のような発砲音が耳を塞いだ。
しかし、体を裂くような感覚はやってこなかった。
瞼を開けると、目の前のゴーストが真横からハンマーで殴られたようにひしゃげている。おかげで射軸から逸れたらしい。その打点とおぼしき場所には見覚えある青白い尾を引いていた。

『(無事かティアナ!?)』

同時に念話が届き、ひしゃげてバランスを崩していたゴーストを純白の巨人が殴り飛ばした。
ティアナはしばらく惚けたようにその機体を見つめていると、やっと何が起きたかを理解した。

『(は・・・はい!)』

やっとの思いで返事をすると、VF-25は安心したようにバトロイドからファイター形態に可変。
アルトは

『(あの機体には気をつけろ)』

と言い残し飛び去った。おそらくなのは達の支援に行ったのだろう。
ティアナは救援に来たスバルが彼女の肩に触れるまで、その後ろ姿を見つめていた。

(*)

そのガジェットは手強かった。
まず機動が読めない。敵はなんらかの慣性制動装置と多数のスラスターを併用して、無人機最大の強みである機体の耐G性能の限界まで引き出し、大気圏内にもかかわらずほぼ直角の回避運動を行う。
ちなみにこの武装、スラスターを含むオーバーテクノロジー系列の慣性制動システム、そして反応エンジンは元の設計にはなかったものであり、スカリエッティの改良の成果だった。
今回のデバイスの改良で多数のOT・OTMを装備したフェイトは、彼ら相手にほぼ互角の戦いを繰り広げていた。
フェイトが銃撃しながら接近してきたガジェットに攻撃するため逆に肉薄する。
機械の軌道理論と確率論に沿った火線を避けることは、神速を誇る彼女には容易いことだ。しかしそれが2本、3本と増えると事情が変わってくる。
次の瞬間にはフェイトに向かい、違う射角から2本の集中射が襲う。
なのはとしても他の2機の突入を阻止するのが精一杯でそこまで手が回らない。
フェイトは自身の超高速移動魔法によって稲妻のようなハイマニューバでその火線から逃れるが、肉薄していたガジェットがマイクロミサイルを斉射。8発ほどのミサイルが白い尾を引いてフェイトに迫る。
このまま突入するのは危険だ。しかし、いかが彼女の超高速移動魔法でも前進へと向けられた音速レベルの慣性を瞬時に消滅させることはできない。
そこでフェイトは1発ロードしてOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』を最大。そして今回の改修で新たに装備されたOT『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』を起動する。
このシステムは第25未確認世界ではクァドランシリーズの慣性制御装置として使われ、安価でVF-25のISC(イナーシャ・ストア・コンバータ)に劣らぬ性能を誇る。しかし、ミッドでは技術的な問題から最大出力での稼働時間が極端に短い。そのためここぞというときに使う装備だ。
起動と同時に2発ロード。その能力を保持するため魔力で形成された黄金色の羽根のようなフィンが足首に展開され、時をおかずに急制動を掛ける。
音速で飛行していたフェイトは1秒でその速度を零に持ってくると、周囲にプラズマランサーのスフィアを生成。それを置き土産に一気に反転して全速で離脱する。
すると彼女を追っていたミサイルはフェイトの狙い通りスフィアの目と鼻の先を通り、直前に射出されたランサーがその全てを見事に叩き落した。
ミサイルを発射してそのまま直進してきたガジェットにもその必殺の矢が4本ほど向かうが、元来直進しかしないそのランサーは容易くかわされてしまった。
フェイトの命令さえあれば再び方向転換して再追尾できるのだが、残念ながらランサーはガジェットが出しうるらしい音速の2~3倍という速度についていけない。これが対魔導士を念頭に置いて開発された現状の魔法の出しうる限界値だった。
こうしたことが続き、敵もこちらの支援砲撃が邪魔で5対1による物量戦術には訴えられず、フェイトもまた敵を捉えられなかった。
しかしガジェットと違い生身であるフェイトの消耗は目に余る。
例え魔法と新装備である各種慣性制動システムを全力で駆使しようと、音速レベルではその慣性を全て吸収してはくれない。
さきほどの緊急制動では単純計算で34G掛かる。各種慣性制動システムを使って軽減しても少なくとも5G、最悪10G近い重力加速度がフェイトの華奢な体にかかっていた。
このような状況では自分が支援砲撃をしなければ彼女は1分ほどしか持たないだろう。
ティアナの砲撃要請を受けていたなのはだったが、そのためこの戦線から抜けられず、どうにもならない気持ちにイライラしていた。
そこに自分達から遥か遠方で現場の指揮を取るロングアーチ分隊から緊急通信が開いた。

『敵の新型空戦ガジェットが1機、リニアレールに接近中!屋根から運転室を奪取しようとしているスターズ、ライトニング両分隊に奇襲をするつもりのようです!』

通信士を務めるルキノがガジェットの機関銃のように報告する。
新型の空戦ガジェットは周囲1キロ近くの全周波を常に撹乱―――――つまりジャミングしているので遠距離にいた自分に通信を送ってきたようだ。
気づけばフェイトと戦闘している敵が4機に減っている。
なのははルキノの滑舌のよさと、一歩下がった位置で戦局を冷静に見てくれている友軍がいることに感謝すると、リニアレールに飛ぶ。
4機ならばフェイトは少なくとも1分は持ち応えられる。しかしあの4人では10秒持つかどうか・・・・・・
ロングアーチの警告通りリニアレールを襲ったガジェットのミサイル迎撃を支援する。
だが、自分にはここまでしかできなかった。
いつの間にかフェイトと交戦していた4機のうち2機が、そして列車を攻撃していた1機が自分を包囲。徐々に範囲を狭めつつあったからだ。
スケジュールの関係でまだ大規模なOT・OTM改装の進んでいないレイジングハートには、フェイトや新型空戦ガジェットのような超高速の戦闘機動を行えなかった。また、能力限定リミッターがかかっていることも彼女の足を引っ張った。
空戦ガジェットから伸びる光の矢。受け止める魔力障壁が不自然に歪んだ。

(これは魔力レーザー? いや、実体弾みたいだね)

正体を見切ったなのははシールド型PPB(ピンポイントバリア)に切り替える。連続的で強力な物理攻撃に対して魔力障壁はあまりに脆かった。
なのははカートリッジを2発ロードするとレイジングハートを胸に抱き、突撃体勢をとる。

「レイジングハート!」

自らの呼びかけに、レイジングハート本体の赤い球がわかったように点滅する。そして時を置かず杖の後方に魔力球が出現。瞬時に自爆して突発的な魔力爆発を起こした。
なのははそれにバインドを掛け、四方に広がろうとする爆圧を後ろに集束させた。それによってレイジングハート・エクセリオンのSランク時のA.C.S(瞬間突撃システム)に匹敵する莫大な推進力を得たなのはは目前のガジェットに突撃する。
これまでの戦い方からこちらが間接攻撃しかできないと認識していたらしいガジェットは、突然の特攻に対応が遅れている。
その隙を突いてバルキリーのPPBパンチの要領でPPBをレイジングハート先端部に集中、泣けなしで相手の発射した機関銃弾数発を弾くと、あやまたずそれは機体本体に直撃する。
結果、AMFもPPBSもないガジェットの外壁をそれはいとも容易く貫いた。

「シュート!!」

宣言と共に放たれたゼロ距離砲撃によって機体のメインフレームを寸断。10メートル近い巨大な黒鳥は空中分解しながら急速に金属部品へと還元していった。
しかし、残り2機が機首に付けられたカナード翼と三次元推力偏向ノズルを上向き最大角にし、ほぼ機首を軸に急旋回。おそらく動きの遅くなったなのはを機銃弾で一気に撃破する腹づもりなのだろう。
なのはは2方向からの同時攻撃には通常バリアでは対応できないと判断。カートリッジのロックをフリーにしてレイジングハートに命令する。




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最終更新:2010年10月16日 17:31