『マクロスなのは』第6話その2



「リパーシブシールド最大!」

『Alright.』

1週間前、ランカのデバイスと一緒にレイジングハートにかろうじて装備されたOTである薄緑色の全方位バリアは即座に展開され、超音速で飛来した弾丸を容易く弾く。しかしそれと同時にカートリッジが2秒に1発、湯水のように消費されていった。
元々マクロスフロンティア船団でもバトルフロンティアの大型反応炉を使って無理やり発生させるシールドだ。被弾しながらのエネルギー消費は半端ではなかった。
加えてベルカ式カートリッジシステムのカートリッジは、決して魔力の電池のような物ではない。
例えば、リンカーコア出力がクラスBの魔導士がカートリッジを大量に用いれば、なのはクラスの砲撃が放てるだろうか?
実はそれは出来ない。
それを行えば、魔法を行使する際に発生するフィードバックに魔力コンバーターたるリンカーコアが耐えられないからだ。
これは奇しくも、シャーリーの事故によって証明されている。まだ試作されて間もなく、ノウハウのなかったベルカ式カートリッジシステムは彼女の絶好の研究課題だった。
しかし、無知による大量消費によって彼女のリンカーコアは田所の説明通り8割も小さくなってしまったのだ。
つまり、ベルカ式カートリッジシステムは有効な手段だが、使用法を誤ると大変な傷痕を残すのだ。
なのははリンカーコア出力がS+のためリンカーコアはこの連続消費に耐えうるが、そのフィードバックは想像を絶する痛みに還元されて彼女の端正な顔を苦悶の表情に歪ませた。
しかし彼女は朦朧とする意識の中、視界の端にキラリと光る物を捉えた。

「鳥・・・・・・?」

大きく翼を広げたそれは周囲に大量の光の球を生成、その光球は青白い尾を引いて攻撃に夢中のガジェット達をぶっ叩いた。

(*)

「間にあったか・・・・・・」

アルトは呟く。
VF-25にはOT『アクティブ・ステルス・システム』の最新バージョンが搭載されており、『隠密接近すればゴースト(新型空戦ガジェット)のセンサーには探知できないだろう』と思い試したが、予想通りの成果をあげてくれた。
アルトは落ちていくゴースト達を見送る。1機は煙を引きながら雲の下に、もう1機は空中分解を起こしてバラバラになっていった。

「大丈夫!?」

親友の危機に、急いで自らに残った2機のゴーストを撃破し、急行してきたフェイトがなのはに問う。

「私は大丈夫・・・・・・それより4人の支援を!」

なのはは山の向こう側に行ってしまったリニアレールの方向を見る。

「うん、わかった。アルト君、なのはをお願い」

そう言い残し、フェイトはリニアレールへと飛翔していった。
アルトは彼女を見送ると、毅然とその後ろ姿を見送っていたなのはを流し見る。
無傷のようだが、かなり無理をしていることがうかがえた。足首に浮かび上がる桜色の羽も小さくなり、点滅している。
アルトはホバリングするガウォーク形態のVF-25のキャノピーを開き、エンジン音に負けないぐらい大きな声で呼び掛ける。

「キツいならなら無理するな!乗れ!」

アルトの舞台で鍛えられたよく通る声に、なのはは微笑みを返してくる。しかし、突然浮力を失ったように倒れ込みながら半回転し、そのまま頭を下にして自由落下を始めた。

「おいっ・・・・・・!」

アルトは慌てて180度ロールするとスラストレバーを押し出す。機体はエンジン噴射によって自由落下を上回る速度で急降下すると、落ちるなのはを通り過ぎる。そこで再び180度ロールして制動掛けつつガウォークの腕を伸ばす。そして彼女がバルキリーの装甲に頭を打たないよう、慎重に受け止めた。

「ああ、ごめんね・・・・・・カッコ悪いところ見られちゃったな~」

なのはは水平飛行に戻ったガウォークの手のひらに座り込むと、頭を掻きながら恥ずかしいような笑顔をこちらに向ける。しかし、その笑顔とは対照的に息が上がっていた。やはり相当な無理をしていたらしい。

「・・・・・・大丈夫だ。新人とかフェイトには山で隠れて見えなかっただろうし、俺はあいつら―――――ゴーストに撃墜(おと)される奴を何人も見てきた。だから初見で撃墜して、尚生きてるお前をカッコ悪いとは思わないさ」

アルトは励ますつもりで言ったのだが、当のなのははクスクス笑っている。

「・・・・・・な、何がおかしい?」

意味がわからず問うアルトに、なのはは暖かい目をして答える。

「いや、優しいんだね。アルト〝くん〟は」

アルトは予想外の答えに顔を真っ赤にして押し黙る。それがまた面白いのか、彼女はまだコロコロ笑っていた。

(*)

その後、この事件―――――リニアレール攻防戦は、あっけなく終わる。
はやて達の属する後方指揮・支援分隊『ロングアーチ』の報告によると、キャロの持ち竜である『フリードリヒ』が谷底に落ちる間に主人を助けるため覚醒。
その覚醒したフリードリヒの働きによって運転室のガジェット達を掃討した。
その後スターズ分隊が運転室を制圧して列車を停め、今は合流した第256陸士部隊の本隊と共に列車に残る陸戦型ガジェットの殲滅戦を行っているそうである。

「―――――だってさ。俺達が合流する必要はないな。俺はこのまま六課に帰投するが、お前はどうする?」

アルトは後ろに座るなのはに呼び掛ける。
彼女は今、魔力の回復を早めるためにバリアジャケットを解除して、元着ていた服に戻っている。どうやら訓練の真っ最中に出撃命令が下ったようだ。その服は青白の教導服だった。

「うん、六課までお願い」

「りょう解」

くだけた調子で言い、アルトはVF-25の機首を六課に向けると、ガウォークからファイター形態に可変。空域からのおさらばを決め込む。
しかしその時、安心したアルトの耳にけたたましいミサイルアラートが入った。

「畜生!」

反射的に180度ロールし、スラストレバーを絞る。そしてチャフ、フレアを発射しつつ下降した。
数発のマイクロミサイルが目標を見失うかフレアに釣られて無益に爆発する。
後ろから来たミサイルはゴーストの物だ。どうやらまだ生きていて、身を潜めていたらしい。
元の機体もそのリフティングボディ(機体全体で揚力を得ようとする形状)にある程度のパッシブ・ステルス性は有していたが、これほどではなかった。
となれば最低でもAVFのYF-21クラスのアクティブ・ステルスシステムを搭載しているようだった。
それを証明するようにゴーストが1機、雲のカーテンから出てくるが、レーダーに映るその機体は全長1メートルの鳥程度のレーダー反射しか捉えられなかった。
そしてその1機は迷わずこちらを追ってくる。
迎撃しようにもVF-25は今、大量に迫るミサイルの回避に専念しており、ひどく遅い。それは高熱源になるアフターバーナー使わず、赤外線探知型ミサイルの探知から逃れるためだったが、それが仇となっていた。
迎撃しようにも、ロールしたため頭部対空レーザー砲は射角に入れない。また、自慢の高機動で逃げようにも、EXギアを着けていないなのはは無事では済まないだろう。ベルトに押さえつけられて肋骨を2,3本〝持って〟いかれるかもしれない。
そのため速度も上げられず、ゴーストから見ればこちらはのろくさい的だった。

(仕方ないか・・・・・・すまん、なのは)

このまま撃墜されては元も子もない。断腸の思いでスラストレバーを押し出そうとした時だった。
前方の森の中から青白い光を帯びたものがこちらを目掛けて飛んでくる。しかし反射的に避けようとする手を彼の奥底に眠る何かが止めた。
果たしてそれはVF-25の機首スレスレを擦過していく。
そしてそれは回避運動という名のダンスを踊るミサイル群を目前に、ベルカ式カートリッジシステムのカートリッジ弾を散布し、花火のように自爆した。それは5~6発のミサイルを道連れにした。

(あれは・・・・・・対空散布弾か?)

対空散布弾とは第25未確認世界に存在する対地、対空用の弾種でバルキリーやデストロイド(人型陸戦兵器)から発射される。内部に多数の子爆弾を内蔵していて、主に敵バルキリーなどの近くで本体から子爆弾が散布され、敵に当たると炸裂。それに被害を与えるものだ。
同様の砲撃があと2回続き、ミサイルは全て撃墜された。
回避の必要のなくなったアルトは、アフターバーナーを焚いてゴーストに肉薄。ハイマニューバ誘導弾との連携攻撃にゴーストはあっという間に撃墜された。

「5時の方向、30度下よりアンノウン接近!速度500キロ!」

どうやらフェイズドアレイレーダー(三次元レーダーの一種)の見方と使い方を知っているらしいなのはからの報告。
アルトは通信で所属を訊くよう彼女に頼むと、いつ狙撃されてもいいように十分なマニューバをとる。

「こちらは時空管理局本局、機動六課所属のフロンティア1とスターズ1です。そちらのIFF(敵味方識別信号)が発信されていません。ただちにIFFを起動し、通信に応じて下さい。」

その呼び掛けに対する返事は一度で来た。

『ごめんね、まだIFFもらってなかったからさ。・・・・・・それにしてもかわいい声だね。今度お茶でもどうだい? いい店知ってるんだ』

なのはは顔を真っ赤にして

「ちゃ、茶化さないで下さい!」

と怒っていたが、アルトにはそれが誰か一瞬でわかった。しかし到底信じられなかった。

『つれないなぁ・・・・・・わかった。それらしいのがあるから送るよ。そっちの〝姫〟になら、わかるはずだ。』

なのはは

「姫?」

と首をひねっていたが、アルトの疑心は確信に変わり、IFFによってそれは証明された。
そのIFFはフォールド発信式でこの世界には発信及び受信する技術はない。しかし、VF-25はそれを受信した。
多目的ディスプレイに表示される機種、そこは

『VF-25G』

となっており、所属は

『第55次超長距離移民船団マクロス・フロンティア SMS所属 スカル小隊 スカル2』

と認識していた。
前方を見ると、青に塗装された機体。VF-1・・・いや、もっと大型の統合戦争で使われたVF-0『フェニックス』によく似た機体がこちらとすれ違うところだった。
その瞬間コックピットに捉えた姿はまごう事なきかつての友人の姿―――――
そして送られてくるダメ押しの通信。

『久しぶりだなアルト姫。シェリルとランカちゃんの次はその子か?』

彼の軽口に

「お前には言われたくないぜ、ミシェル!!」

と返しながらも、アルトは彼の口から再びその愛称を聞くことができて、心から嬉しいと思った。

――――――――――

次回予告

VF-0『フェニックス』で現れたミハエル・ブラン。
アルトは彼の無事を喜ぶが・・・
そして明かされる、レジアスの計画とは!?
次回マクロスなのは、第7話『計画』
今、アルトの翼に秘められた意味が明かされる・・・・・・

――――――――――




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年10月26日 21:06