「…どうした?もう終わりなのか?」
 「ブッ!ブラッドヴェイン!貴方喋れるの?!」

 しかしルーテシアの質問に答えず同じ質問を投げかけると、小さく頷く。
 既にルーテシアは罪を自分の過ちに気づき、これ以上戦いを続ける理由はなかった。
 するとブラッドヴェインはルーテシアを睨みつけ、見下すような笑みを浮かべる。

 「そうか…ならば後は勝手にやらせて貰うぞ!!」
 「えっ?!」

 次の瞬間、ルーテシアのリンカーコアに接続されていたレリックが胸元から姿を現し
 レリック出現と共にルーテシアの全身から魔力が溢れ出し、レリックを刺激してエネルギーを放出し始めた。

 「はぁ!ああああああああああっ!!!」
 「まさか!暴走!!」

 ブラッドヴェインはルーテシアが使えなくなった事を知るや否や
 召喚における精神・魔力の繋がりを利用して自分の魔力を送り込みルーテシアの魔力を強制解放、
 そしてレリックを剥き出しにして魔力に晒す事で暴走させ、
 更に暴走し溢れ出たエネルギーをルーテシアを介して自分自身に取り込み始めたのである。

 「満ちる!俺の力が満ちていく!これならば!!」

 力を増加させたブラッドヴェインは雄叫びを上げると、ルーテシアの後方に巨大な召喚魔法陣を広げ、
 そこから半透明の膜上羽に強固な肉体を持ちヴォルテールとほぼ同じ大きさを誇る召喚虫を呼び出した。
 白天王、ルーテシアの究極召喚で管理外世界における第一種稀少個体である。

 だがその瞳には赤い血の涙のようなものを流していた、
 それもそのハズ、本来では契約者であるルーテシアの呼び声のみ反応するのであるが
 今回はルーテシアを媒介にしてブラッドヴェインが強制的に召喚してしまったからである。

 そして他の召喚虫達にも異変が起き始めていた、先程倒壊した施設が立ち並ぶ地域から場所を移し
 公園周辺でエリオと激戦を繰り広げていたガリューは急に苦しみ出し、
 地面に膝を付くなり丸く身を屈めると体のほぼ全ての武装を解放、その後に立ち上がりその瞳からは同じく血の涙を流していた。

 ルーテシアを媒介にした召喚の影響は白天王だけでは止まらなかった、
 ブラッドヴェインはルーテシアと召喚虫との繋がりに侵入して自分のモノにした事により、
 ガリューや地雷王すらも手中に収めたのである。

 本来の主とは違う存在に使役される事、それはガリュー達にとっては屈辱以外の何物ではなかった、
 その屈辱さが血の涙として表していた。
 その涙を見たエリオはガリューの苦しみを救う方法は無いものか模索していた。

 一方でキャロは白天王の大きさに戸惑い不安の色を見せている中で
 メルティーナは一人、現状の分析と対策を考えていた。

 恐らくブラッドヴェインはルーテシアとの契約を利用して白天王達を、そしてルーテシアの魔力を操っていると考える。
 つまりブラッドヴェインを倒せば召喚虫達を解放され、ルーテシアの魔力も収まる事が出来る。

 しかしブラッドヴェインを倒すまで他の召喚虫、特にガリューは抑えなければならない、
 其処でガリューの相手は引き続きエリオが行う事となった。
 だが、レリックはもはやルーテシアの魔力とは関係無く暴走している。

 其処でメルティーナがレリックのエネルギーを拡散し、キャロがレリックを封印する事となったのだが、
 ルーテシアは白天王に護られており近付くのは容易ではない、其処で白天王の相手をヴォルテールに任せるという。

 「それじゃ、ブラッドヴェインの相手はどうするんですか?」
 「まぁ、見てなさい」

 キャロの疑問にメルティーナは軽く答えキャロの額にデコピンをすると
 ユニコーンズホーンを地面に突き刺し巨大な青い召喚魔法陣を広げ詠唱を始める。

 「大気と冷気の英霊よ!我橋渡しとなり願うは婚礼の儀式…汝ら互いに結びつき
  其の四方五千において凝固し、我前に姿を現せ!!魔狼召喚!フェンリル!!」

 すると魔法陣の中心に氷が集まり出し巨大な塊になると動物へと姿を変える。
 そして氷が砕け散ると中から青い毛に覆われ真っ赤な瞳が特徴的な巨大な狼が姿を現した。

 魔狼フェンリル、ミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山に住む
 人々からその傲慢な態度により畏敬の念を持たれている狼である。

 しかし今のフェンリルはメルティーナの使役獣として契約を行っている為、
 逆らう事が出来ないようになっていると自慢するように説明を終える。

 「まぁ、それは良いとしてフェンリル!アンタの相手はあの不死者よ!!」
 「チッ!獣使いの荒い女だ……」

 一言だけ愚痴を漏らすとフェンリルは飛び出すようにしてブラッドヴェインの前に対峙する。
 そんなフェンリルの行動を皮切りにそれぞれは割り当てられた相手へと赴き作戦を実行し始めた。


 エリオは完全武装したガリューを目前に今のままではきついと考えエクストラモードを起動
 バリアジャケットの白いコートが電気化してエリオの身を包み込み、辺りを黄色い稲光で照らす
 そして右手にはシンプルに小型化されたストラーダが握られており、
 準備が整ったエリオは構え、右足に力を込めて地面を蹴る、
 すると身に纏っていた稲光が相まって黄色い閃光となってガリューに襲いかかる、

 そしてエリオの一撃が振り下ろされる瞬間、それを狙っていたとばかりに
 両掌を合わせ刃を受け止めるとそのまま地面に叩き付ける。
 エリオ地面との接触による衝撃で体が宙に浮く中、ガリューは追い打ちとばかりにエリオの腹部を踏み降ろす。

 「ガハッ!!!」

 エリオは口から血を吐き出して苦しむ中、更にガリューがエリオの頭部目掛けて踏み降ろそうとしたが、
 すんでのところで右に回転しながら回避、難を逃れると起き上がりジグザグ走行で再びガリューに迫る。

 エリオのジグザグ走行は残像を生み出しガリューの周りでフェイントを掛けながら走り抜くと
 ガリューエリオを残像ごと叩き落とそうと攻撃を仕掛け続けていた。

 その中でエリオはガリューの異変に気が付いた、先程まで戦っていた際は相手を冷静に見つめ隙を付き戦法を投じていた。
 だが今は目に映る全てに攻撃を仕掛けている、恐らく本来とは全く異なる命令などにより混乱もしくは暴走していると判断した。
 となれば気絶させる事で一時的に命令を遮断する事が出来るのではないか?

 「試してみよう!」

 エリオは速度を維持しながらカートリッジを二発消費、左手に黄色い稲妻を纏わせる
 そして行動と合わせるようにして紫電一閃を後頭部に打ち抜く。
 しかしエリオの攻撃は一撃には終わらず、右頬、背中、腰、鳩尾、最後に右胸と連続に打ち抜く

 エリオの攻撃によってガリューの体に黄色い稲光が立ち、至る所から黒い煙が立ち昇り
 意識を失ったかとエリオは不用意に近付くと、エリオの攻撃に耐え抜いたガリューが動き出し左拳を腹部に突き刺し

 吹き飛ばすと公園の中心に備え付けてある噴水に直撃、噴水は無残にも砕け散った。
 そして噴水から大量の水が吹き出ている中でエリオは立ち上がり、目の前にはエリオの下へ近づくガリューの姿があった。

 「くっ!紫電一閃じゃ届かないのか!」

 エリオの紫電一閃はオリジナルであるシグナムの技とは異なり雷による加速重視の技
 故に一発の威力ではオリジナルには劣るのであるが、

 連続的に攻撃を叩き込む事によりオリジナルと大差ない威力を誇るのである。
 だがそんな攻撃を耐え抜いたガリュー、今のガリューは暴走状態である為に肉体の耐久力が予想以上に高くなっている可能性がある。

 つまり紫電一閃では止められない、そう考えたエリオはカートリッジを二発消費させて魔力を高め
 黄色い稲妻が巨大化、辺りを黄色に輝かせると右足を踏み込み一気にガリューの懐に入る。
 ガリューはすぐさま右腕を振り上げるが既にエリオは攻撃態勢に入っており、ストラーダで一気に突き始める。

 その速度は刀身を確認出来ない程で黄色い閃光がガリューの体を幾重にも貫く。
 エリオの攻撃にガリューは動きを止め、その隙を狙って渾身の突きを貫く。

 その速度はエリオの姿すら見えぬ程に速く、ガリューを貫くように後方へと移動、
 その瞬間、強力な衝撃波が発生してエリオの髪を靡かせると

 ガリューは力無く膝を付き前のめりで倒れ、ガリューの武装が解除され辺りは沈黙に包まれる。
 その姿を目の当たりにして、ようやく気絶させる事に成功させたと実感するエリオであった。


 一方でフェンリルはブラッドヴェインと対峙している中、ブラッドヴェインが先手を打ち口から業火を吐き出す。
 しかしフェンリルは口から吹雪を吐き出して業火を相殺、辺りに水蒸気が舞う中で
 ブラッドヴェインが飛びかかるように襲い掛かり鋭利な爪が輝く右腕を振り下ろす。

 しかしフェンリルは不敵な笑みを浮かべると一瞬にして姿を消し、
 そしてフェンリルはブラッドヴェインの後ろに姿を現すと
 その口元は赤く染まり更には何かを食べているかのように動かし飲み込む。

 「…不味いな、ドラゴンってのは美味ってぇのが相場なんだが……」

 すると次の瞬間、ブラッドヴェインの左肩から大量の血が吹き出す、
 フェンリルは通り抜けた際にブラッドヴェインの左肩を噛み切ったのである。

 ブラッドヴェインは噛み切られた左肩をキュアプラムスで癒すと反撃とばかりにイグニートジャベリンを撃ち出す。
 しかしフェンリルは左前足を振り抜きイグニートジャベリンを叩き落とし、またもやブラッドヴェインに襲い掛かるが、

 ブラッドヴェインは右拳を振り下ろしフェンリルを地面に叩き付けると、先程と同様イグニートジャベリンを撃ち出す。
 しかしフェンリルはすぐさま起き上がり右へと移動、イグニートジャベリンを躱すと

 大地を蹴り一瞬にしてブラッドヴェインの背後をとり、その強靱な爪で背中を切り裂く。
 だがブラッドヴェインも負けておらず、すぐさま振り向きファイランスを直撃させ、更に背中の傷を治療した。

 「ちっ!手強いな」

 ブラッドヴェインの肉体はフェンリルが思っていたよりも強靱で更には治療魔法によって傷口を癒してしまう。
 …となれば、傷口を癒せぬようにしてしまえばいい、

 そう考えたフェンリルは先程とは異なり全身に冷気を漂わせる。
 そしてブラッドヴェインの周囲を跳ねるように飛び回り攪乱させると左の二の腕を噛み切る。

 「舐めるな!この程度の傷など!!」
 「それはどうかな?」

 フェンリルは不敵な笑みを浮かべると左腕に違和感を感じ目を向け驚愕する。
 何故なら噛み切られた左の二の腕は凍結しており、再生出来なくなっていたからである。

 フェンリルは通常の攻撃では直ぐに再生されてしまうと考えた為、その身に冷気を纏うことによって凍結効果を持つ
 フロストベイトと呼ばれる攻撃方法に切り替え、傷口を凍結させる事で再生出来ないようにしたのである。

 「こんなモノ!すぐに溶かしてくれる!!」

 そう言ってブラッドヴェインは二の腕の凍結を解除する為、口に業火をため込むと
 その瞬間を突いたかのようにフェンリルは吹雪を吐き出し、ブラッドヴェインはすぐさま切り替え業火にて吹雪を相殺、
 先程と同様に水蒸気が発生して二体を飲み込み、視界が悪くなっていると

 フェンリルは鼻を頼りにブラッドヴェインの懐に入り左前足の爪でその身を切り裂き
 首元に噛み付くと、ブラッドヴェインもまたフェンリルの首元に噛み付き
 首を噛み切られると判断したフェンリルは牙を離すと、ブラッドヴェインは尾でフェンリルの腹部を強打、

 更に振り下ろしフェンリルを頭から地面に叩き付けた。
 そしてブラッドヴェインはフェンリルに向けて手をかざし詠唱を始める。

 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!!」

 そしてブラッドヴェインの目の前には巨大な黒い球体が姿を現し
 フェンリルは見上げる形でその物を見つめていた。

 「このまま散るが良い!グラビティブレス!!」

 ブラッドヴェインが撃ち放ったグラビティブレスは吸い込まれるかのようにフェンリルに迫り
 フェンリルはその場から避難しようとしていたのだが、
 地面との衝突の影響で頭がふらつき、起きあがるのが精一杯の状況であった。

 その為になす統べなくグラビティブレスに呑み込まれ
 着弾地点では驟雨の如く雷が打ち付けており、それを上空から見下ろし高笑いを浮かべるブラッドヴェイン。

 「フハハハハッ!!勝ったぞ!!」

 グラビティブレスが直撃した地点はクレーターとなり果て、
 それを目の当たりにしたブラッドヴェインは勝利を確信し、ゆっくりと地上に降りる。

 そしてその足でクレーターの元へ向かい始めた瞬間、地面から鋭利な氷の槍が姿を現しブラッドヴェインの体を貫く。
 突然の攻撃に動揺を隠せないブラッドヴェインの前に、クレーターからゆっくりとフェンリルが姿を現した。

 「バカな!まさか生きていただと!?」
 「…流石に今の一撃はきつかったがな」

 フェンリルはグラビティブレスを回避する事が出来ないと考え、体の周囲に氷を張り防御に徹した。
 そして倒されたフリをしてブラッドヴェインを近づけさせて

 地面を介してハウリングハザードと呼ばれる攻撃でその身を封じたのである。
 そしてハウリングハザードは凍結効果も持っており、徐々にブラッドヴェインの身を凍らせ始める。

 「おのれぇ!この俺様がこんな奴に!!」

 ブラッドヴェインは憎まれ口を叩くも体は凍り続け、とうとう顔まで凍り付き、その顔は悔しさを浮かべていた。
 そしてフェンリルはブラッドヴェインに近付くと大きく口を広げ、その首元に噛み付き砕くと

 凍り付いた頭部が地面に落ちて砕け散り、それを合図に光の粒子となって消滅
 フェンリルはその場を後にし、場には氷の塊のみが静かに佇んでいた。


 場所は変わりフェンリルがブラッドヴェインを倒した事により、白天王の呪縛が解け温和しくなっていると同時に
 ルーテシアの魔力の暴走が止まったのであるが、レリックの暴走は未だ止まっていなかった。

 しかも今までは魔力の暴走が結果的に障壁となりルーテシアの身をエネルギーから皮肉にも護っていたのだが
 今はその魔力の暴走も停止し、魔力の障壁も無くなった為

 エネルギーをその身に浴びる事になり非常に危険な状態となり
 キャロ達は早急にレリックを封じなければならなくなったのだ。

 「ルーちゃん!今助けるから!!」

 暴走により生まれたエネルギーの渦の中心部にいるルーテシアの下へ向かう為、
 メルティーナはユニコーンズホーンを向け、レリックのエネルギーを拡散しつつ近付いていき
 その後ろにはキャロも一緒に近づいて来ていた。

 そしてルーテシアの目の前まで移動しエネルギーの渦の中心であるレリックを見つけると
 キャロはサードモードを発動、先ずはレリックとルーテシアのリンカーコアを繋ぐ術式を解除し

 次にレリックの周囲を強固な障壁、ブースデットプロテクションで囲みエネルギーを押さえ込む
 続いて外側をクリスタルケージで囲い、縮小させて掌サイズにすると
 最後に封印処理を施してレリックを一時的に凍結させた。

 本来であれば活動している物を封印させる事は不可能なのであるが、
 バリア、結界の力により外面上安定した状態にさせる事により封印処理が可能となったのである。

 そしてレリックから解放されたルーテシアは力無くキャロに寄りかかり
 ルーテシアの姿にメルティーナは駆け寄りキャロはルーテシアの体の具合を調べた。

 「大丈夫…体は何ともないようです」

 ルーテシアの体は疲労感が残っている程度で止まっており
 命の心配は無いと告げるとホッと胸をなで下ろすメルティーナ。

 すると次の瞬間、封印処理されてあるレリックの結界にひびが入り始める、
 どうやら中のエネルギーが面に出ようとしているようで

 メルティーナはキャロからレリックを受け取るや否や大空に投げつける、
 そしてユニコーンズホーンを天に向け魔法陣を広げた。

 「この!消えて無くなれ!!」

 そしてユニコーンズホーンから直射砲が発射される、
 その姿は細く鋭くまっすぐ伸びていき、レリックを貫くと一気に爆発、そして消滅した。

 暫くするとガリューを支え歩いているエリオとフェンリルが姿を現し更にルーテシアも目を覚まし、
 彼女の周りにはガリューと白天王が心配そうに見守っていた。

 そして彼女の目の前にはメルティーナが座り目を向けており、ルーテシアは動揺を隠せない表情を浮かべていると
 メルティーナはルーテシアを強く抱きしめ、その温もりに大粒の涙を零し何度もメルティーナの名を呼ぶルーテシア。
 そんな姿にエリオとキャロも涙を浮かべていると、円満な空気を断ち切るようにフェンリルは言葉を口にする。

 「…貴様の目的も果たしたようだな、では俺は帰るとするか…」
 「はあっ?……フェンリル、アナタの住処はもう無いわよ?」
 「なん………だと?!」

 此処へ来る途中でドラゴンオーブの砲撃に遭い、フェンリルの住処は無くなったと言う情報を聞いたと
 メルティーナは説明すると、流石にフェンリルも動揺を隠せずにいた。

 …何故ならこれから先も、この女について行かなければならない事を意味し
 頭を悩ませている表情を浮かべるフェンリルであった。


 場所は変わり北西に存在する森林地帯の上空では、未だにトーレの戦闘が続いていた。
 しかし戦況はトーレの劣勢である、しかしセッテの仇であるこの二体は命を懸けても倒さなければならない。

 トーレは顔を叩いて気合いを入れ直しライドインパルスを起動、セレスの後ろをとり左のインパルスブレードを振り下ろそうとしたが、
 逆にクレセントがトーレの後ろをとり、後頭部目掛けてシルヴァンスを振り下ろしており
 トーレはセレスからクレセントへ目標を切り替え右のインパルスブレードにてクレセントの攻撃を受け止める。

 するとセレスは半歩後ろに下がり刀身を魔力で覆い突撃、ミスティックファントムで攻撃を仕掛けてくる。
 しかしトーレは左手一本でセレスの攻撃を受け止めるが、今度はクレセントが半歩下がり下から上に切り上げる。

 そこでトーレはライドインパルスにて後方へと移動、同士討ちを狙うが寸でのところで止まり、
 トーレに向けて魔力のナイフ、サプライズスローとマジックロックを次々に投げつける。

 だがトーレは両手のインパルスブレードにて叩き落としていくが、先程右肩をやられた為か右腕の動きが鈍く
 そこに目を付けたクレセントはセレスに足止めをお願いしソニックムーブにてトーレの右に移動、刀を一気に振り下ろし

 このタイミングでは回避する事が出来ないと悟ったトーレは
 死を覚悟を決めた表情を浮かべながら歯噛みすると、突然クレセントの両脚が切り落とされる。

 クレセントの両脚を切り裂いた正体は十字に合わせたブーメランブレードで、
 トーレのピンチにセッテが最後の力を込めて投げた一撃であったのだ。

 突然の不意打ちを受けたクレセントは動揺を隠せずにいると、
 セッテの渾身の一撃によって生まれた隙を無駄にしないと、右のインパルスブレードでクレセントの首元を狙う。
 しかしクレセントはトーレの動きに気が付きシルヴァンスを振るい、刀身はトーレ右の二の腕を半分程斬りつけて止まる。

 「…このまま振るえば、アナタの右腕は切り落ちるわよ?」
 「右腕一本…貴様にくれてやる!!」

 トーレは躊躇なく振り切りクレセントの首を跳ね飛ばすと同時に、右腕が切り落とされる。
 そして切り落とされた右腕から血が夥しく流れ落ち、血を止める為に右腕の戦闘スーツの圧力を上げて
 流れ落ちる血液を止めると残りの一体セレスに目を向ける。

 「よくもクレセントを!!」
 「次は貴様の番だ!!」
 「黙れ!片腕で何が出来る!!」
 「貴様如き…片腕で十分だ!!」

 トーレはセレスを挑発すると左のインパルスブレードの出力を上げ更には巨大化させる。
 その中でセレスはシルヴァンスを構えソニックムーブを起動、トーレの懐に入り左から切り上げるが

 トーレは攻撃を受け止め更にスムーズに攻撃を受け流し、
 逆にセレスの懐に入ると左拳を握り締め裏拳の応用でインパルスブレードを突き刺そうとする。

 しかしセレスはトーレ攻撃が直撃する寸でのところで後ろに逃げ込み難を逃れるが、
 トーレはライドインパルスにて追い掛け、追い討ちとばかりに胸元目掛けて左から右に振り払い
 セレスの騎士甲冑を切り裂くが本体は半歩下がっていた為傷は浅く、逆にセレスが半歩前に出て振り下ろす、

 だがトーレは右足を軸に右回転、セレスの刃を交わしつつ切り上げるようにして左腕を斬り落とした。

 だがセレスは怯むことなく振り下ろした刀身を切り返し、下から上へと切り上げ
 トーレはインパルスブレードにて受け止めるが、出力が上がらす砕け散り、胸元を深く切りつけられた。

 「…これでアナタの武器は無くなった!」

 確かにセレスの言う通り右腕を無くし左手のインパルスブレードも一回のみ形成できる程のエネルギーしか無い、
 更に胸元には深手、相手も左腕を失ってはいるがまだ余裕があるようにも思える。
 だが…だからといって引き下がるつもりもない、何か手はないか…

 そう考えている内にトーレはある案を編み出す、だがそれはとても危険な案で命に関わるものであった。
 だが既に此処まで深手を負っている以上、命の心配をするのは愚問かもしれない、

 そう自分に言い聞かせ自分が考案した案を実行するため、残りのエネルギーを左手一本に集中させる。
 それを見たセレスはこの一撃に全てを掛けていると判断し、シルヴァンスのカートリッジを消費すると魔力を帯び始め先手を打つ。

 魔力によって強化された速度は瞬時にトーレの懐に入り衝撃波を放ち、次に突きそして蹴り上げ、
 全身に帯びた魔力が刀身に集まり嵐のように吹き荒れそのままトーレに向けて振り下ろした。

 「奥義!ウィーリングリッパー!!」

 するとトーレを中心に竜巻が発生してその身を切り刻みスーツもボロボロになっていく。
 そして攻撃を撃ち終わったセレスは確信にも似た表情を浮かべていると、徐々に驚きの表情に変わる。

 何故なら目の前にはセレスのウィーリングリッパーを耐えきったトーレの姿があったからである。
 その姿に恐れを抱き半歩下がるセレスに対し、トーレは渾身の力を込めてセレスの胸元の傷を狙う。

 しかしトーレの渾身の一撃は致命傷とはいかずインパルスブレードは無惨にも砕け散り
 その代わりとばかりにセレスは大きく振り上げトーレの左肩に狙いを定めて振り下ろす。

 だがセレスはウィーリングリッパーの影響の為か思っていた程の力を出せず
 左肩の肉に食い込み止まるが、今のトーレにとって十分な致命傷であった。

 「どうやら此処までみたいね」
 「いや………まだだ!!」

 するとトーレは何を思ったか左手を胸元の傷口に突っ込み何かを引きずり出すように手を引き抜く、
 そして掌の中にはコードで繋がれたままのレリックが握られていた。

 「これで最後だ!!!」

 トーレは正真正銘最後の力を振り絞り、拳を握ると、
 セレスはトドメを刺そうと刀身で押し切ろうとしたが微動だにせず
 その行動を後目にトーレはセレスの傷口目掛けて拳をめり込ませる。

 「ぐあああっ!!!」
 「このまま!消し去ってくれる!!」

 そしてセレスの断末魔を合図にトーレはレリックを暴走させて、その大量のエネルギーはセレスを中心にして徐々に広がり
 トーレは達成感からか少し微笑みを浮かべ光に包まれていくのであった。




 「…………姉………レお姉様…………トーレお姉様!!」
 (…………………セッテ?)

 まどろみの中…聞き覚えのある声を耳したトーレは、自分に意識がある事に気が付きゆっくりと目を開ける、
 するとそこはベッドの上で、自分の横にはヘッドギアを外し病院服を着たセッテが
 心配そうな表情を浮かべ自分の名を何度も呼ぶ姿があった。

 そしてトーレは自分の体に目を向けると戦闘スーツは脱がされ、セッテと同じく病院服が着させられており、
 上半身は包帯に巻かれ、体のあちこちにガーゼが張られ、右腕に目を向けると二の腕から先が無い為か裾が余り
 左手を自分の目線まで向けると手首から先が無くなっており、包帯が巻かれていた。

 そしてトーレはゆっくりと体を起こし始め辺りを見渡し、此処が医務室である事を確認すると
 二人がいる部屋の扉が開き眼鏡をかけた一人の女性が姿を現す。

 「流石は戦闘機人、もう目が覚めたのね?」
 「………貴様は?」

 トーレは目に力を込め睨みつけると、女性は笑顔で応え名を名乗る。
 彼女の名はマリエル・アテンザ、周りからはマリーと呼ばれている機動六課の一員で
 主にデバイスの整備などを請け負う整備員で、スバルやギンガの定期検診にも手を貸しているという。

 「では私達を助けたのは貴様なのか?」
 「私は処置を施しただけ、助けたのは――」

 そう言うと扉が開く音が聞こえ目を向けると、其処には二人を助けた人物シャマルが姿を現す。
 シャマルは思っていた以上に早く意識を回復させた二人に驚いていると、
 トーレは自分達が此処にいる説明をシャマルに投げかけると、快く応じ説明を話し始める。


 …時間は遡りナンバーズとエインフェリアが戦闘を行っている情報を耳にしたシャマルは、
 その地域へと向かうとエインフェリアの一体、クレセントの両脚が切り取られた状況に遭遇する。

 そして森の中にうつ伏せの状態で倒れているセッテを発見、治療を施し七割方治療を終える頃
 トーレはセレスのウィーリングリッパーを耐え抜いた時であった。

 そして眠りについているセッテから寝言でトーレの名を聞き、上空にいるナンバーズがトーレであると判断するが、
 トーレは自爆を行おうとしている事を察し急いで旅の鏡を準備
 そしてトーレの最後の攻撃の際に生まれた隙をついてトーレの背後に旅の鏡を配置し

 レリックのエネルギーが完全にトーレを包み込む前に引き寄せ、
 暴走したレリックを握った左手首を斬り落とすように旅の鏡を閉じて二人を救出、

 そして二人を病院に運び入れ、治療対象が戦闘機人であった為、
 マリーと連絡を取り、その後マリーの手によって治療を施したのだという。


 「…そうか、だが何故敵である私達を助けたのだ?」
 「たとえ敵でも味方でも怪我人には違いないでしょ」

 医者として怪我人を放っておくのは矜持に関わる、故に助けたのだとシャマルは話を終えると、
 今度はマリーは二人に今の肉体の状況を説明し始める。

 先ずセッテであるが、胸元を大きく開けた傷口は、
 レリックのエネルギーを用いて強化した再生能力により、ある程度再生されていた。

 だが…その代償に肉体の細胞は劣化、戦闘行動に耐えられる肉体では無くなったと言う。
 しかし日常生活においては問題ないと説明を付け足した。

 寧ろ問題はトーレの方である、肉体の耐久力を超えるエネルギーの連続使用
 そして大きな深手に両腕の消失、更にはコードを繋いだままの自爆の影響で

 基礎フレームに亀裂と歪みが生じ修復するのはほぼ不可能
 現状では立つ事すらままならず、長いリハビリが必要であると告げる。

 「…そうか」
 「取り敢えずその両手から修理を―――」
 「いや、このままで良い」

 マリーの申し出を断るトーレ、幾ら意識を失っていたとはいえ敵に情けを掛けられ、これ以上掛けられる訳にはいかないと話す。
 だが両手が無いままでは生活に支障が出ると告げると、セッテがトーレの面倒を見ると志望する。

 今までずっとトーレに世話になりっぱなしであった、故に今度は自分がトーレの世話をする番
 自分の分まで動いてくれたトーレに少しでも恩返しがしたいのだという。

 セッテの決意を秘めた瞳にマリーとシャマルは折れた形で承諾すると、
 もう一つ伝える事があると言う、それは二人の処分である。
 管理局の意向は意識が戻り次第、ミッドチルダの混乱の関係者として逮捕すると言うものであった。

 「…そうか、では潔く捕まろう」
 「思っていたより素直ね、てっきり抵抗するのかと」

 シャマルの言葉にトーレは少し笑みを浮かべながら自分の考えを話し出す。
 今の状態で抵抗しても無駄である事は明白、しかしそれだけではない。
 敵とは言え治療を施して貰った恩を仇で返すのは、戦士としての矜持に反すると答えセッテもまた深く頷く。

 その言葉はマリーとシャマルを信用させるには十分足るものではあるが、一応規則である為に部屋の四方に結界を張り
 出られないようにしてからマリーとシャマルは別れの挨拶と共に部屋を後にすると
 トーレは少し頷きゆっくりと横たわりセッテもまた自分のベッドに戻り眠りにつく。



    …こうして二人の戦士は休息を得るのであった……






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最終更新:2009年10月24日 11:12