此処は首都グラナガンから少し離れた地区、辺りには廃墟ビルが立ち並び
その上には高速道路が牽かれ、其処ではスバルとノーヴェが戦闘を行っており、
後方ではギンガが二人の戦いを腕を組みながら見守っていた。
リリカルプロファイル
第三十一話 軛
戦況は白熱しておりノーヴェの左ハイキックをスバルは右手で受け止め、
左足でノーヴェの右足を蹴ると体勢を崩しノーヴェは仰向けの状態で倒れ
其処に間髪入れずスバルは右拳を振り下ろすが、ノーヴェはバク転のような
弧を描いて起きあがる動きを用いて、右のつま先でスバルの顎を狙う。
しかしスバルは頭を左に振り、かすめる程度で終わらせるとスバルの右拳は地面に突き刺さり
体勢を立て直したノーヴェは右腕を向け光弾を連射、スバルは右手をかざしプロテクションにて攻撃を受け止める。
するとノーヴェは徐々に距離を詰めていき、薙ぎ倒すかのような水面蹴りを放つ
…がスバルは飛び跳ねて回避、更にウィングロードにて空を滑走しノーヴェも負けじとエアライナーでスバルの後を追った。
スバルは後ろから追いかけてくるノーヴェに対し目線だけ向けると、
前方に大きく上へと弧を描いたウィングロードを作り出し滑走、後ろを取ろうとした、
…がノーヴェはエアライナーを右へ弧を描くように伸ばしそのまま滑走
そして弧を描いた先にある直線部分のウィングロードへエアライナーを交差させて、そこを目標に右拳を握り始めていた。
だがスバルは直線部分のウィングロードを捻らせて逆さまになって滑走
ノーヴェの攻撃を回避すると、更に右斜め上へと弧を描くように伸ばして滑走
ひねり込むようにしてノーヴェの下へ向かい攻撃を仕掛けるが
ノーヴェは加速して更にエアライナーを上に向けて弧を描き滑走、スバルの攻撃を強引に回避した。
「くぅ!やるなぁ!」
スバルは一つ舌打ちを鳴らしながら後ろに気配を感じ振り向くとノーヴェが追いかけてきており、
右腕をかざして光弾を撃ち出そうと構えていた。
するとスバルはついて来いとばかりに急上昇、更に鍔を返すように急下降して、廃ビルの群の中へと突撃
ゴミを撒き散らしながらビルの裏路地を走り、カーブ部分ではウィングロードの面を斜めにして縫うように滑走、
そのまま大通りを抜けてウィングロードを上空へ向かうように伸ばし一気に上昇
ノーヴェも後に続くと、スバルは大きく弧を描き、ノーヴェは逆さまになってスバルとは逆方向に弧を描くと
ウィングロードとエアライナーの先端がぶつかり合い、ノーヴェは右拳を構え振り抜くが、スバルは右手で受け止める。
しかしノーヴェは左ハイキックをこめかみに向け蹴り上げるが、スバルは腰を落とし頭を下げてて回避
そしてマッハキャリバーを用いて逆時計回りでスピンしながら左裏拳をノーヴェの腹部を打ち抜こうとした。
ところがノーヴェは左ハイキックの態勢から右足を逆時計回りにスピンさせて、左回し蹴りに切り替えてスバルの裏拳を受け止める。
互いの一撃は互角であったが、ノーヴェは踵に取り付けられているジェットエッジのブーストを点火し、
噴射の力を利用してスバルを高速道路に向けて吹き飛ばすがスバルは途中で態勢を立て直し着地、構え始める。
スバルの反応にいらつきを見せているノーヴェは高速道路に降りると、
その足でスバルに向かい左拳を振り下ろし、更に振り上げるストームトゥースを打ち抜くのだが
スバルはスウェイバックを用いてノーヴェの攻撃を回避しつつ右腕のスピナーが回転、リボルバーショットを撃ち抜く
するとノーヴェは右腕を盾にしてリボルバーショットを防ぎ分散させると、お返しとばかりに光弾を連射する
ノーヴェの攻撃に対しスバルは右にウィングロードを伸ばし回避しつつノーヴェの頭上でウィングロードを途切れさせ
飛び降りる形で右足によるかかと落としを狙うがノーヴェは左に回避お返しとばかりに右のミドルキックを決めようとする
だがスバルはウィングロードにてノーヴェの蹴りを防ぎ
更にウィングロードはスバルを中心に半月を描くと、そのままスバルは右足を乗せる
そして左足の右回転と右足を加速させた高速スピンによる回し蹴りがノーヴェのこめかみに突き刺さり
ノーヴェはそのまま吹き飛ばされ対面の高速道路の壁に激突した。
そしてスバルの目の前で土煙が舞う中でノーヴェがゆらりと起き上がりスバルを睨みつける。
スバルの実力はノーヴェが考えていた以上に向上していた。
しかも地上本部壊滅の際に起動させた戦闘機人の能力を使わずにである。
更にいえばエアライナー、いやウィングロードの使い方が今までとは全く異なっている。
何故此処まで強くなっているのかは分からないが、どちらにしろ此処で負ける訳にはいかない、
そう考え腹を決めるノーヴェ、一方でスバルもノーヴェの動きに対して考えていた。
ノーヴェの動きはギンガの動きを模倣した印象を受けていた。
恐らくギンガとの模擬戦によってノーヴェが参考したのであろう。
しかしギンガ程の鋭さは無く荒削りなところも多い、
しかし…打撃を主としたシューティングアーツを蹴撃に変えてある発想は驚くものがある。
それでも此方は本家、更には創始者との実戦も行っている…負けるハズがない
そんな事を考えているとノーヴェのジェットエッジから一対の黄色いエネルギー翼が展開される。
その姿はまるでA.C.Sドライバーを彷彿しており流石にスバルも驚きの様子を隠せないでいた。
「A.C.S!ドライブイグニッション!!」
ノーヴェは一気加速してスバルに迫ると右ハイキックにてスバルのこめかみを蹴り抜き吹き飛ばす
だがスバルは高速道路の壁に激突する前に止まりノーヴェを睨みつけるが既に姿は無く
目の前に姿を現すと右回し蹴りにて今度は脇腹を蹴り抜き、またもや吹き飛ばされる。
だがノーヴェは追撃とばかりにスバルを追いつき右の踵落としの体勢を取っていると
スバルのマッハキャリバーから一対の魔力翼A.C.Sドライバーを起動させて
左足を軸に腰をひねり右拳をノーヴェの鳩尾に叩き込むとそれと同時にノーヴェの踵落としが左肩に入る。
しかしスバルは気にすることなくA.C.Sドライバーを起動させて一気に加速、そのままの体勢で高速道路の壁に叩き付けた。
そしてスバルは距離をあけると、飛び出す形でノーヴェが現れ右のミドルキックでスバルの腹部を狙うがプロテクションにて止められる。
しかしノーヴェはジェットエッジのブーストを点火させて威力を高めプロテクションを打ち砕くが
スバルはA.C.Sドライバーを用いて後方へ回避
ノーヴェは追いかける形でA.C.Sを起動させるが、スバルは鍔を返すように突進、
右腕のスピナーが回転し始めるとノーヴェもまた左足のスピナーを回転させる
「ブレイクギアァ!!」
「リボルバーキャノン!!」
互いに気合いを込めた一撃をスバルは右側に広げたプロテクションで、ノーヴェは右腕のガンナックルを盾にして受け止めた。
するとノーヴェはブーストを点火させて一気にプロテクションを破壊、スバルの頭部にノーヴェの一撃が迫る中、
スバルはガンナックルを破壊、ノーヴェの懐に素早く入り込みノーヴェの一撃から間一髪逃れると
左拳を開き手の平の中で増幅・加速させた魔力球をノーヴェの腹部に押し込め、更に突き上げるかのように持ち上げる。
「一撃必倒!!ディバインバスタァァァァ!!!」
左手から繰り出されたディバインバスターはノーヴェの体を持ち上げ更に高々と上っていき背後にある廃ビルに激突、
ノーヴェは壁にめり込む形で意識を失うと、スバルはギンガの立つ場所に目を向ける。
ギンガは一部始終残さず見ており、組んでいた手を解くと左手を伸ばし手招く、
それを見たスバルは気合いを入れ替えるように目を鋭くさせて、ギンガが待つ場所へ足を運んだ。
一方でティアナはウェンディとディエチの相手をしていた。
ウェンディはライディングボードの面に対消滅バリアを張り滑走、そのままティアナに迫るが
ティアナは左に飛び跳ねるように回避、そしてウェンディ目掛けて右のクロスミラージュから魔力弾を撃ち鳴らすが
ウェンディは乗ったままライディングボードを傾けそのまま魔力弾を防ぎ難を逃れる。
一方でディエチは廃ビルの屋上に位置を陣取り、イノーメスカノンにてティアナを狙撃しようとしていた。
しかしティアナに隙が無く、此方の位置を把握した上でウェンディと対戦しているようである。
それを証拠に先程イノーメスカノンから誘導性を持つエネルギー弾を大回りで撃ち込んだところ、
ティアナの左のクロスミラージュから魔力弾を撃ち抜き相殺させたのだ。
そして今もウェンディと交戦しながら此方に警戒している、むしろ隙あらば狙ってきそうな気配がある。
だがウェンディには援護は必要不可欠、何故ならウェンディが追加された能力は突撃による接近戦が主
此方が相手の動きを牽制する事で、発揮する能力である。
…それにウェンディは細かい誘導などが性格的に苦手で猪突猛進バカである。
まぁ、そこが可愛さなのではあるが今は相手が悪い、現にウェンディの突進は軽々と避けられ、
エリアルショットとフローターマインは相殺、エリアルキャノンも簡単に避けられ更には反撃を食らっているという状況なのである。
「だぁぁぁ!強えぇぇぇッス!!」
ウェンディは髪を掻き揚げながら文句を叫び、その行動に言いようの無い目で見つめるティアナ。
…今までで一番やりづらい…しかし後方にいる戦闘機人の事もある、
きっとあの行動は此方の油断を誘う為の罠なのではないだろうか?
となれば隙を見せる訳にはいかない、そんなことを考え気を引き締めている中で
当のウェンディはエリアルキャノンを発射、ティアナは高々と飛び跳ねて回避すると
高速道路の壁に足をかけて飛び降り、それを見て後を追うウェンディ。
そして高速道路の壁に足をかけてウェンディは下を見ると、左のアンカーショットを廃ビルの壁に撃ち込み
右のクロスミラージュで窓を撃ち割り、弧を描きながら廃ビルの中に入り込もうとしていた。
それを見たウェンディは「させないッス」とばかりにエリアルショットを撃ち込むが
ティアナは相殺しながら廃ビルの中に身を隠す。
「くっそぉ!!後を追うッス!!」
「待って」
ライディングボードに足を掛けて飛び乗ろうとした瞬間ディエチが止めに入り、
妙案があると言ってディエチはイノーメスカノンのエネルギーをチャージを始める。
そして誘導と反応炸裂の特性を添加させるとチャージを完了させた。
「行け!」
イノーメスカノンから撃ち出されたエネルギー砲はティアナが侵入した窓へと向かい入り込むと
反応炸裂効果により廃ビルのフロア全体を爆発、
暫くして被爆した廃ビルの路地裏からティアナが逃げるように姿を現し、
それを目撃したウェンディはライディングボードに乗りティアナに迫る。
「オレンジ頭!覚悟しろッス!!」
ウェンディとティアナの距離がどんどんと狭まり、真後ろ付近まで近づくと対消滅バリアを盾前方に集め刃に変えて一気に突撃する。
するとティアナは陽炎のように姿を消し、思わぬ反応に目を大きく開き困惑するウェンディ。
そして今までの戦闘を遠くで目撃していたディエチは思わぬ結果にティアナを捜そうと立ち上がった瞬間、
首の根っこ…つまりは延髄のところに堅くて冷たい物を感じ動きを止める。
するとディエチの後ろからティアナがゆっくりと姿を現し始める。
ティアナは廃ビルに潜り込んだ後、一階に降りてフェイクシルエットで自分の分身を作り出し
更に自身をオプティックハイドで包み込み身を隠すと、廃ビルに衝撃が走り
それを合図に分身を走らせて、更に自分はディエチのいる廃ビルに向かいアンカーショットで屋上まで上り
ゆっくりとディエチの背後に近づき左のクロスミラージュを向けたという事である。
「これで終わりね、あなたを逮捕する!」
「ディエチ姉!!」
「動かないで!!」
ウェンディが上空からディエチを助けようと迫っていると
ティアナは右のクロスミラージュを向け制止を促し目を向ける。
その時、ディエチはティアナの目線がウェンディに変わったことを察し
頭を下げ腰を下ろし低姿勢をとりながら左に高速回転、そして右足でティアナを蹴り飛ばし
腰に添えてあったスコーピオンに手を伸ばし撃ち抜く。
しかし全てとっさの動きであった為に命中率低く、ティアナの足下を撃ち抜のみであったが威嚇としては十分であった。、
その為ティアナは危機感を感じ、屋上から飛び降りて先程と同様に
アンカーショットと魔力弾を用いて足場であった廃ビルの中へと飛び込んだ。
ティアナを逃がしたディエチであったが、すぐさまウェンディを呼びつけ
自分を乗せてティアナを追うように指示すると、ウェンディは頷きライディングボードを駆りティアナの後を追う。
その時ウェンディの後ろに乗っているディエチは考え事をしていた。
…あの女は姿を消したり自身の分身などの幻術を多様に使用する。
此処で逃がせばまた幻術を使われ動きが把握出来なくなってしまう。
そんな事を考えているとライディングボードの動きが急に止まり
ディエチはウェンディの背中に額をぶつけ、手で額を撫でながらウェンディに問い掛ける。
「どうしたの?急に止まって」
「ディエチ姉…アレ……」
ウェンディは驚いた様子で目先を指で指すとその方向をじっと見つめるディエチ、
二人の目の前には多数のティアナが二丁のクロスミラージュを向けて佇んでいた。
「うっうわあああ!!撃ってきたッス!!!」
「落ち着きなさい!ウェンディ!!」
ティアナのシューティングシルエットから無数の魔力弾が襲い掛かり、ウェンディはライディングボードを横に傾け盾にして攻撃を防ぐが
ウェンディは慌てふためいており、ディエチはウェンディを窘めるように叱りつける。
恐らくアレは幻術の類、故にウェンディの目に搭載されている索敵センサー
特に赤外線センサーを用いて調べるように指示、早速ウェンディはディエチの指示通り赤外線センサーに切り替え盾の向こう側を調べる。
そしてシューティングシルエットの中に移動する物体を発見し、ウェンディはディエチに伝える。
「ディエチ姉!此処から二時の方向に発見ッス!」
「分かった」
ディエチは一言で答えると盾にしているライディングボードからスコーピオンだけを覗かせ、実弾を連射させる。
スコーピオンからは勢い良く薬莢が排出されていき、その一つがウェンディの頭を直撃したらしく熱さと痛さに頭を押さえていた。
一方でティアナはスコーピオンから発射された実弾を回避、
または左のクロスミラージュで撃ち落としながら近くにあった剥き出しの柱を盾にして隠れ込む。
そして使い切った右のカートリッジバレルを取り出し新しいのに入れ替え、ロードしながら左のクロスミラージュで牽制を促す。
その行動の最中、ティアナは二人の行動を分析していた、
濃いピンク髪の方はスバルと同じ猪突猛進型で考えるより行動なタイプ、自分にとっては楽な相手である、
だがもう一人の茶色の髪方は冷静沈着で頭の回転も早い、故にピンク髪の暴走を止める事が出来るようである。
「さて…どうしようか?」
左のクロスミラージュを撃ち終わりティアナ一言呟くと素早く柱に隠れ
空になった左のカートリッジバレルを排出、新しいのに入れ替えロード
足下に魔法陣を広げてクロスファイアの体勢に入ろうとした瞬間
左右から大きく弧を描いてエネルギー弾が迫ってきており、ティアナはクロスファイアを中断
すぐさま両銃を向けてエネルギー弾を相殺、その場から避難すると今まで存在していたライディングボードが無いことに気が付く。
するとティアナの後方からウェンディがライディングボードに乗って姿を現し
ライディングボードの先端部分には対消滅バリアがまるで両刃のように形取ってティアナに迫る。
しかしティアナはすぐさま転がるようにして回避すると、ウェンディはライディングボードから降りて手に持ちそのまま振り抜いた。
「とぉぉぉりゃあああッス!!!」
ウェンディは気合いと共に次々に振り払い、柱を切り裂き、壁を砕き、床を貫き、ティアナを窓まで追いつめると、
覚悟とばかりにライディングボードに乗りティアナに迫る。
だがティアナはクロスミラージュをダガーモードに変えて目の前で交差、
ウェンディの突進を受け止めようとするが、抑えきる事が出来ず窓を突き破り外へと飛び出す。
…このままでは地面に激突する、其処でティアナはダガーモードを解除、
アンカーショットを壁に撃ち抜き登り始め、開いている窓へ飛び込もうとした。
しかしその先にはディエチがスコーピオンを構えていた、彼女の後ろには大きな穴が空いており、
どうやらウェンディを囮にして先に上へと移動、指示を促しながら此処へ誘導されていたようである。
「くっ!!」
「遅い!!」
ティアナは右のクロスミラージュをディエチに向けるが、既にスコーピオンを向けていたディエチには叶わず流石に覚悟を決める。
しかし次の瞬間、ディエチの後方から無数の魔力の矢が襲い掛かり
ディエチの身を掠め、両肩・腿・腕を貫き、前のめりで倒れると背中には多数の矢が突き刺さっていた。
そしてディエチを貫いた矢はティアナにも襲いかかり、魔力弾を撃ち鳴らし次々と相殺していった。
そしてディエチの後方には一つの影が佇んでいた、エインフェリアの一体リディアである。
「一石二鳥……とはいかなかったか」
「ディエチ姉!!」
リディアは残念そうな表情を浮かべる中、ライディングボードを駆りディエチの下へ急ぐ
そしてウェンディはディエチの姿に慌てふためいていると、其処にティアナが現れディエチの様態を調べる。
ディエチの様態は思わしくないが、どうやら急所だけは免れた様子であった。
その内容にウェンディはほっと胸をなで下ろしリディアは舌打ちを鳴らす、
その音を耳にしたウェンディはゆっくりと立ち上がり怒りの眼差しで睨みつけていると
ティアナも立ち上がりリディアにクロスミラージュを向け始める。
「手伝ってくれるんッスか?」
「あなた一人じゃ勝てないでしょうから」
それに利害も一致している為、一時休戦が妥当であるとティアナが提案すると
ウェンディは腕を組み考えるポーズをとりながらも直ぐに二つ返事で答え
余りにもの判断の素早さに苦笑いを浮かべるティアナ。
先程まで命のやりとりをしていた相手の提案を素直に受け取る、
何も考えず答えたのか、それとも利用出来ると踏んだからなのか…どちらにせよ戦力としては十分な相手である。
「宜しくッス!え~っと……」
「ティアナよ」
ティアナは名乗るとウェンディも自分の名を名乗って左拳を作り、ティアナは右手にクロスミラージュを持ちながら
軽く拳を合わせ挨拶を交わすと目の前にいるリディアと対峙するのであった。
場所は変わり東地区パークロード、地雷王によって破壊された施設上空ではエリオがガリューの相手をしており、
デューゼンフォルムを起動させて飛び回りつつ攻撃を仕掛けていた。
しかしエリオの攻撃は直線的でガリューのような単独で飛行できる相手では分が悪い、
それでもエリオは破壊された施設を足場にしてUターンを行ったり、バーニアの逆噴射を利用したりと奮闘していた。
一方でキャロはフリードリヒに乗りルーテシアと戦闘を行っていた。
ルーテシアはクールダンセルを唱えると目の前に氷人形が現れ、キャロに襲い掛かるが
キャロはフリードリヒにブラストレイを指示、巨大な火球がクールダンセルを溶かし
ルーテシアに迫るが、左手を払い衝撃波を放ちブラストレイを相殺、
更に右手からファイアランスを放つとキャロは手の甲の魔力の翼から魔力弾シューティングレイを撃ち抜き相殺させた。
そんな攻防戦を繰り広げている中でキャロはルーテシアの説得に努めていた。
「どうして!どうしてこんな事をするの!!」
「博士の命令だから」
「命令だからって……命令なら人を殺してもいいの!?」
キャロの言葉にルーテシアは小さく頷く、今まで自分はそういう風に生きてきた、
それに自分には目的がある、それを叶える為には博士やドクターの協力が不可欠
博士達も自分の力を必要としている、お互いが利用し合う事で協力体制を保っていると語る。
キャロは困惑していた、人殺しをしても叶えたい目的とは一体…
興味本位…一言で言えばこれに尽きるが、それでも罪を背負ってでも叶えたい目的とは何か
キャロは恐る恐るルーテシアに問い掛けてみる事にした。
「アナタの…それ程まで叶えたい目的ってなに?」
「………………お母さんの病気を治す為……」
ルーテシアは一言答えるとしばらく沈黙し、意を決した様に言葉を口にし始める。
母は重い病気を患っており、治すにはレリックが必要不可欠であると
母を救う事が出来れば一緒に暮らす事が出来る、
だから…その為であれば、たとえ自分の手を血に染めても構わない
ルーテシアは凛とした表情でキャロ達を見つめ説明を終えると、
ガリューと戦闘を行いながらルーテシアの話を聞いていたエリオが叫ぶように応える。
「そんなのは間違っている!そんな事で救えても君のお母さんは喜ぶハズが無いよ!!」
それにあの男…レザードやスカリエッティが言った言葉が本当である保証は無い
それに治療法はそれ一つではないハズ、きっと他の治療法があるハズだ
だからこの場を納めて欲しい、これ以上母の為にと罪を重ねて欲しく無い…
エリオの悲痛な願いが込められた言葉には偽りの色は無く、本気でそう考えている事がルーテシアに伝わる中で、
エリオの説得に呼応するかのようにキャロが説得を促す。
「私達が!アナタのお母さんの治療法を見つけるから!!」
その言葉にルーテシアは動きを止め俯くと小刻みに震え始める。
ルーテシアの変化に自分達の想いが伝わったと考えたキャロはフリードリヒに命じルーテシアに近づき、
右手をルーテシアの肩に伸ばし優しく触れるとルーテシアもまた右手でキャロの手を取る。
…しかし次の瞬間、ルーテシアはキャロの手首を強く握り締め、その痛みに苦痛を浮かべつつキャロは戸惑っていると
ルーテシアは顔を上げ怒りに満ちた表情を浮かべていた。
「じゃあ聞くけど…どうやってお母さんを助ける気なの!!」
「そっそれは……」
キャロはルーテシアの質問に答える事が出来ず沈黙すると
その反応にルーテシアは怒りを通り越し憎しみに満ちた表情を浮かべフリードリヒから引きずりおろす。
するとフリードリヒはキャロを助けようとルーテシアに襲い掛かるが、
左手からライトニングボルトを撃ち出され呆気なく撃ち落とされる、
その光景にエリオはキャロの元へ向かおうとしたが、ガリューに行く手を阻まれ苦虫を噛む表情を浮かべ
キャロは右手を掴まれたまま宙を浮かせられている中で、ルーテシアは吐き捨てるかのように言葉を口にする。
「答えられないの?そうよね…所詮はただのその場任せの言葉だものね!!」
キャロはルーテシアの答えに反論できず沈黙を続ける中で更に話を続ける。
…所詮貴女達は私を哀れんでいるだけ、確かに方法は一つだけじゃ無いかもしれない。
だが他の方法を見つからない事だってある、その時貴女達はどうするつもりなの?
レリックはロストロギアである、つまりレリックを用いた治療法は管理局は許さない。
だが博士達はレリックを安全なエネルギー資源に変える事に成功している。
つまり安全なレリックを実現させた今、管理局よりも博士達の方が母を助ける事が出来る可能性が高い。
だから自分は博士達について行く、どれだけ手を血に染めても母が助かる可能性を信じて……
「そんな易い言葉で……私を惑わすな!!!」
そう言うとルーテシアはキャロを投げ飛ばし、地に向かって落ちていく中、気が付いたフリードリヒがキャロをその身で受け止め、
キャロはフリードリヒに礼を述べつつルーテシアを見上げると
ルーテシアは決意ある瞳で見下ろしており、その姿に戸惑いつつも更に説得を続ける。
「だからって自分の我が儘の為に召喚獣をこんな風に操るなんて!
彼等は道具じゃない!彼等だってこんな風に使役されたくないと思っているハズだよ!!」
「……また哀れみ?それに…ガリュー達は自分達の意志で私に使役されている」
ルーテシアの台詞に呼応するように他の場所で戦っているガリューは小さく頷き、それを目撃するエリオ。
しかしガリューの考えはそれだけではなかった、ガリューはルーテシアの母メガーヌの真相を知る存在である。
だがガリューはルーテシアに真相を話す事は無かった、何故ならもし真相を知れば、ルーテシアは逆上しレザードに襲いかかるだろう。
しかしガリューはレザードの実力を鱗片とはいえ知っており、十中八九返り討ちに合う。
それは前のマスターであるメガーヌが望むところでは無い…
故に仇をとる事より生きる事を優先させたのである。
しかしガリューはスカリエッティ、ましてや仇であるレザードの為には動かない。
結果的にあの二人に力を貸す事になっても、自分のマスターはルーテシア只一人である。
その誇りを持ってガリューは行動しているのである。
話は戻り、たとえ犯罪に協力する形であっても決して絆を断ち切られる事は無い
そう強くルーテシアは言葉を口にする、しかしそれでもキャロは納得した表情を浮かべる事が出来なかった。
「それでも…私はアナタにこれ以上手を汚して欲しく無いの!!」
「これ以上の問答は…無意味ね」
ルーテシアは呆れた様子を浮かべると右手を下にかざし足元に巨大な召喚魔法陣を広げ
キャロもまた足元に巨大な召喚魔法陣を広げ詠唱を始める、そして――――
「邪竜召喚…ブラッドヴェイン!!」
「龍騎召喚…ヴォルテール!!」
互いに巨大な竜を召喚すると肩に乗り対峙する。
先ずはブラッドヴェインは巨大な炎を吐きヴォルテールを包み込むが、
元々火竜であるヴォルテールには効かずブラッドヴェインの下へと迫る。
其処でブラッドヴェインはヴォルテールに向けてイグニートジャベリンを放つが、
ヴォルテールは平然と受け止めつつブラッドヴェインの懐に入ると、その鋭利な爪でブラッドヴェインの皮膚を切り裂く。
しかしブラッドヴェインはキュアプラムスを唱え傷口を瞬時に治す
キュアプラムスとはレザードがいた世界で使われている治癒魔法でその治癒能力は目を見張るものがある。
そして傷を癒やしたブラッドヴェインは左拳でヴォルテールの顔面を強打
更に右のフックに左のアッパーという連打を叩き込み顎を跳ね上げると、勝機とばかりに追い打ちを掛けようとした。
だがヴォルテールは両手を合わせ巨大な拳を作り上げると一気に振り下ろしブラッドヴェインの頭部を強打
ブラッドヴェインの癖である優勢の場合に起こる油断をつかれた為、なす統べ無く大地に叩き付けられた。
そしてヴォルテールを見上げる形でブラッドヴェインは位置に立つとルーテシアはグラビディブレスを指示、
ルーテシアの行動を見たキャロはグラビディブレスに対抗する為、ヴォルテールにギオ・エルガを指示する。
ブラッドヴェインは詠唱を始め目の前に黒い球体を生み出し、ヴォルテールもまた地上の魔力が集まり
目の前で強力な炎が集まっていく、そして準備が整うと互いに手を向けて発動させた。
「グラビディブレス!!」
「ギオ・エルガ!!」
両者の広域攻撃魔法は放たれ両陣営の中心でぶつかり合い、広範囲に渡って炎と雷が混じった衝撃波が辺りを吹き飛ばす。
その中でブラッドヴェインはヴォルテールの懐に飛び込むと右拳でヴォルテールの左頬を殴りつける。
だがヴォルテールは怯むことなく左アッパーでブラッドヴェインの鳩尾辺りを殴りつけ、
ブラッドヴェインは体を九の字に折るが、臆すること無くヴォルテールの左の二の腕に噛みつき肉を引き千切る。
左の二の腕から大量に出血する中で、ブラッドヴェインは素早く弧を描く様に回転、巨大な尻尾でヴォルテールの腹部を強打した。
ブラッドヴェインの攻撃は重く九の字のまま吹き飛ばされるヴォルテールに、追い打ちとばかりに迫り右拳を振り下ろし
更に右拳を押し込み、その巨体を大地に突き刺し、巨大なクレーターを生み出すと
ブラッドヴェインは飛び立ちキュアプラムスで傷を治しつつプリズミックミサイルを撃ち込んだ。
だがヴォルテールはゆっくりと立ち上がりブラッドヴェインを睨みつけようとしたが体が言う事を聞かず膝を付き
更に体全体も重く体力が削られていくのを感じていた。
どうやら先程受けたプリズミックミサイルによって麻痺と毒を貰ったようである。
其処でヴォルテールの苦しみを取り除こうとキャロは治癒魔法を掛けている中で、未だにルーテシアの事を諦めきれずにいた。
だがルーテシアには強い決意と意志がある、自分達では説得出来ない、
このまま戦うしかないのか…そんな矢先、周囲に大きな声が響き渡る。
「ルゥゥルゥゥゥゥゥッ!!!」
「……メル……姉?」
ルーテシアは声が響いた方向へ目を向けると其処には黄緑色の長い髪に
左手には金の腕輪、右手にはユニコーンズホーンを携えた人物メルティーナが佇んでいた。
メルティーナは地上部隊の援護を行う為に本局から派遣されたのだが
キャロとルーテシアの会話を聞き、その話の内容に怒りと言うより呆れ果て、
ルーテシアを叱りつける為、そして真相を話す為に此処へ赴いたのである。
「メル姉―――」
「ルールー!この大バカ!!」
メルティーナの怒りにルーテシアは身を竦めると呆れたようにメルティーナは真相を話し始める。
先ずメガーヌは病気などになっていない、メガーヌはレザードの手によって魂を抜かれた状態であると、
次にレリックであるが、レリック自体は高エネルギー結晶体、
たとえ安全なエネルギー資源になったとしても傷はともかく病気を治す確証など無いと
最後にメガーヌを助け出す方法であるが、既に実行していると告げる。
メルティーナの同期にアリューゼと呼ばれる人物がおり、彼は常にゼストとメガーヌの魂を御守りとして身につけているという。
その彼は今ゆりかご内に潜入していている、目的はゼストに会う事であるがそれだけではない。
五年前のゼストの行動とその際にルーテシアが念話で告げた言葉、そしてレザードとスカリエッティへの協力、
それらを統合すればゆりかご内にはメガーヌの肉体が存在しているという考えに至る。
そしてアリューゼならメガーヌを助ける事が出来る、寧ろ助けだそうとするだろうとルーテシアに力強く告げた。
「つまり!ルールーは騙されていたのよ!!」
メルティーナはルーテシアに杖を向け断言するとルーテシアは俯き頭を押さえ
必死に何度も横に振りメルティーナの言葉の前に混乱していた。
何故ならここで認めてしまえば自分がしてきた事は無意味になる、
それだけではない、その為に沢山の人々を殺してきた、
人を殺すのは罪である、しかしルーテシアは自分の目的を名目として罪を背負ってきた。
しかし今、その目的が偽りで自分の行動が無意味であった事を知る事で
本来の罪の重さが全身にのし掛かり、その苦しみから逃れる為メルティーナの言葉を必死に否定し始める。
「そんな………そんなの嘘だ!!」
「何言ってんの!私の言葉が信用出来ないの!!」
「だって…メル姉は本当の姉――」
「いい加減にしな!!!」
ルーテシアは必死に否定の言葉を浮かべるがメルティーナは一喝すると、身を竦め動きが止まり言葉を紡ぐ、
その行動にメルティーナは目を瞑り暫く沈黙すると、意を決した様に言葉を口にする。
「血が何!確かに血は繋がっていないけど………アンタは私の“妹”なのよ!!」
自分にとって大切な“妹”がその手を血に染め罪を重ねている、しかも誤った情報に踊らされて…
罪は償わなければならない、だからルーテシアを止める、局員として姉として……
凛とした表情でメルティーナは言葉を口にし、ルーテシアはその瞳に迷いも偽りも無い事を知ると、不意に涙がこぼれ始める。
それは今まで押し殺してきた感情が溢れ出した結果であり、
己が罪を認め今まで着込んでいた鎧を脱ぎ捨てた結果である。
「ご…めんな………さいごめん…な……さい」
そして何度も何度も声を引き付かせながら謝罪を口にすると、周囲に低い声が響き渡る。
最終更新:2009年10月24日 11:11