阿鼻叫喚、地獄絵図、それが眼下に広がる光景を例えるのに最も適した言葉だろう。ラボ周辺から市街地までの距離を考えても、オットーが着いて数十分と経っていない。
だというのに、街には既に火の手が上がり、誰もが混乱の最中にあった。
転がるのは頭を割られた死体、中心から力任せに左右に引き裂かれた死体等、様々である。
腹に風穴が空いた死体はその割に出血が少ないが、よくよく見ると、穴の周囲が焼け焦げている。戦闘機人でさえ、その惨状を前に僅かとはいえ絶句した。
「レイストーム……」
光線に貫通されればこういった死体が出来上がる。それはオットーがあのような姿になってなお、ISを使用していることを示していた。
デモニアックと化したオットーは浮遊しつつ周囲を見回している。
それを見下ろせるビルの屋上、そこに九人の戦闘機人は集う。
「チンク……あれはまだオットーなのか……?」
問うトーレに対し、チンクは唇を噛み締め、無言で俯いている。
それが答えだった。あれは最早自分達の知るオットーではない。戦闘機人ですらない。死と破壊を撒き散らす悪魔だ。
「それでトーレ姉……どうするの?」
そう言ったのはセイン。気づけば全員の視線がトーレに向いている。特にディードのそれは指示を仰ぐものではなく、トーレのある言葉を懇願していた。
トーレは数秒間思案した後、
「捕獲を試みる。ただしオットーだと思ってかかるな。四肢を中心に攻撃、破壊しろ」
捕獲という決定を下した。我ながら甘い判断だと思う。ディードの視線に負けたというのもあるが、甘いと思いつつも、何もせずに切り捨てることはしたくなかった。
あからさまに不満顔のクアットロを除いた他の姉妹は、やや不安そうに頷いた。それを確認して、トーレも指示を出す。
「私とセッテが左右から仕掛ける。ウェンディとディードは正面から援護、ノーヴェは地上から奇襲、セインとチンクは二人で背後に回れ。
クアットロは接近するまでの撹乱、その後の指揮は任せる。ディエチは指示があるまで狙撃態勢で待機。以上だ」
クアットロとディエチを残し、姉妹は散開する。オットーを殺すのではなく、助ける為に。
果たしてそんなことが可能なのかと、トーレは自分の判断を疑った。
これだけ殺しておいて、おめおめと戻ってくることができるのか。そんなことが許されるのか。
戦うことしかしてこなかった自分達が、これまでにも多くの命を奪っておいて、姉妹だけは救いたいなどと望んでいいのか、と。
「トーレ? トーレ、行きましょう」
セッテは既にブーメランブレードを両手に構えていた。トーレもすぐに気持ちを切り替える。こんな時は迷いのない彼女が少し羨ましい。
「あ……ああ、行くぞ!」
※
トーレとセッテは急降下、オットーへ踊りかかる。それを号令にして、ウェンディとディードも中距離へ。
周囲にはトーレ達の幻影が現れ、一足先に降りていたノーヴェは旋回しながら機会を窺う。
トーレは左、セッテは右から同時にオットーに仕掛けた。腕を潰す為にトーレは回し蹴り。セッテは足を切り落とす為にブーメランブレードを投げる。
正面にはウェンディとディードが居り、ウェンディはライディングボードから直射弾を発射。
後ろに逃げればチンクが罠を張り、下にはノーヴェ。ディエチは狙撃態勢で上から狙っている。
上下前後左右を塞いだ状態からはそう簡単には逃げられない、そう思っていただろう。トーレも、他の妹達も。
オットーが取った行動は戦術どころか、技ですらなかった。それは単純で強引な”動き”。
「なっ!?」
トーレが驚きの声を漏らす。
鋭い捻りを加えたトーレの蹴りをオットーは左手一本で受け止めた。同時に右手は迫るブーメランブレードへ。
それに気付いたセッテは直線的なブレードの軌道を曲げたが、放射状に放たれた光線によって弾かれる。
いかに軌道を変化させようと、最終的な目標部位が明らかなら、僅かな掌の動きで発射方向を修正できるだろう。
そこまでならさして意外ではなく、想定の範囲内。想定外はその先にあった。
ウェンディのエネルギー弾がオットーの胸に着弾。それは体表に傷を作ったに過ぎず、動きを止めるには至らなかった。
トーレの巻き添えを防ぐ為に強力な砲撃を避け、威力も抑えたが、それを差し引いても異常な強度の皮膚である。
オットーがトーレの足を掴んだ腕を振り下ろす。その力はあまりに強く、トーレは大きく回転した。
セッテによる二発目のブレードよりも素早く、オットーはディードとウェンディに飛ぶ。
オットーの機動力に二射目は間に合わないと判断し、ウェンディはボードを”砲”ではなく”盾”として使う。 ボードを倒し攻撃に備えた瞬間、オットーがそこへ突っ込む。
防御してもなお凄まじい衝撃に、ウェンディは身体ごと弾かれ落下する。
残されたのはディード。形こそ双剣を構えているが、戦意に乏しいことは明白だった。
「ディードォ!!」
叫びながらノーヴェはエアライナーを伸ばし、走る。しかし、どれだけ急ごうとも間に合いはしない。
オットーは一瞬にして距離を詰め、双剣を振り上げようとしたディードの両手首を掴んだ。
そして不可解な事に、じっくり舐め回すように顔を観察している。
「クアットロ! どうする!?」
隣でディードが指示を求めるように名を呼ぶが、答えはしなかった。
撃てるはずがない。どうしたってあの距離ではディードを巻き込む。
両方とも殺すつもりで撃たせるのが最善だが、どうせ言ってもやらないだろう。つまり、ここにいる自分達に打つ手はないということだ。
おそらく、このままディードは死ぬ。だから言ったのに、とばかりにクアットロは渋面を作った。
戦闘機人よりも、デモニアックよりも、強く、硬く、速い。なんのことはない、単にすべての能力が規格外であったというだけのこと。
戦闘機人を上回るほどの圧倒的な野性。スカリエッティが興味を引かれるのも分かる気がした。
いくら戦闘機人が機械に適合した素体として生み出され、頻繁なメンテナンスや副作用が解消されたとはいえ、結局は肉の身体。
大きな障害でないにせよ、多少なりと齟齬は生まれるものであり、調整も必要となる。
だがデモニアックは違う。もとより金属に近い身体を持ち、無機物と完全なる融合を可能にする存在。
機械と肉の垣根をいとも容易く飛び越え、その結果生み出される力はこの光景を見れば一目瞭然。
即ちデモニアックこそが戦闘機人の完成型。理想の姿であると言えよう。
「でも……まだ足りないわ……」
そう、これだけでは足りない。いくら強かろうと、鋼の身体を持とうと、制御できないのでは使えない。
デモニアックの身体を持ち、自分達のように命令を解し、自ら思考するのであれば或いは、それこそが究極の生命体と呼べるだろう。
そんな存在がいるのなら、是非一度お目にかかりたいものだ。
そう思っていると、その存在は自分からクアットロの前に現れた。
ディエチのイノーメスカノン、ノーヴェのエアライナー、セッテのブーメランブレード。それらが一点で交差する。
しかしディードを救ったのはその誰でもない。
豪快な噴射音に気付いた時、それはオットーとディードの目前まで迫っていた。
オットーの左側面から高速で飛来する黒く大きな物体。
それはバイクと呼ぶには巨大であり、どこか生物的で禍々しい。その上には一体化するように黒い影が隠れている。
バイクはオットーに対し速度を落とすことなく、逆に速度を上げて撥ね飛ばす。
横からの衝撃をまともに食らい、地面に叩きつけられるオットー。バイクはオットーから距離を取り、ノーヴェの前に降りた。
初めて全員が影の正体を確かめる。バイクに跨っていたのは黒い鬼。刺々しい鎧の全身には蒼い光の線が走り、右目だけが赤い。
多少形は違えど、それは明らかにデモニアックであった。
※
「ジョセフ、この娘達……」
「ああ、わかっている」
大型バイク『ガルム』に映るホログラフィの少女エレアが言いかけた言葉を、デモニアックの姿を取ったジョセフは途中で遮った。
戦闘機人。噂にしか聞いたことがなかったが、見た目には少女にしか見えない。
だが全員が武装し、飛行している者もいる。何よりデモニアックを前に逃げもしないことを考えれば、ただの一般人でないことだけは確か。
理由は分からないが、彼女達はこのデモニアックと交戦している。これだけ武装した戦闘員が集まって倒せない、眼前のデモニアックはそれほど手強いのだろうか。
疑惑と驚愕に満ちた視線を感じる。ジョセフは説明をしようとは思わなかった。彼女達が何者かは知らないが、自分はデモニアックを斬る、それだけだ。
「お前……何者だ?」
「……俺はお前達と戦うつもりはない」
ジョセフはリーダーらしき年長の女にそう答えたが、彼女はまだ納得いかないという風な顔をしている。しかし構うものか、どの道援護は期待していない。
それに話している時間も与えてはくれなかった。起き上がったデモニアックは戦闘機人ではなく、ジョセフのみを見ている。
ジョセフは横目で頭上を仰ぎ見る。頭上の少女、特にデモニアックに捕らえられていた髪の長い少女は、完全に放心状態にあるようだった。
狙いがこちらにあるならいっそのこと、デモニアックを引きつけて離れる。放心状態の少女を巻き込むこともなければ、後ろから撃たれる心配もない。
ジョセフはアクセルを吹かし、急発進。案の定、デモニアックも追ってくる。
ジョセフは内心動揺を禁じ得なかった。驚くべきことに、敵は全速のガルムのスピードに脚力のみで並走している。
通常のデモニアックならあり得ない、一部例外を除けばブラスレイターでも不可能なことだ。
追いすがるデモニアックが手刀を振り下ろす。左手はハンドルを操りつつ、ジョセフは右掌を振りかざした。
受け止めるでもなく、手刀が触れる寸前で掌が光を放ち、そこに剣が生まれた。
刀身はわずかに湾曲した片刃、シミターと呼ばれる類の曲刀。生まれた剣はうねり、ジョセフの手に握られる。
「はあああっ!」
手刀を気勢を込めて剣で薙ぎ払うジョセフ。
手応えはあった。硬く高い、金属質の手応えが。
通常なら腕が飛んでいるか、そうでなくとも体勢を崩す程度のことはできる。しかし結果はどうだ。斬れるどころか互角に競り合い、恐ろしい力で押され始めた。
「ちぃぃいっ!」
ジョセフはハンドルを握る左手も添え、両腕の膂力でもって押し返す。全力で剣を振ると、デモニアックはバランスを崩したが、ジョセフも大きく揺らいだ。
独楽のように回転するも、不思議と転倒することはない。両足を完全にガルムと一体化した為だ。
なるべく融合を使いたくはなかったが、使わざるを得ない状況まで追い込まれてしまった。
「ジョセフ、忘れたの? デモニアックの能力は元の人間に比例すること」
エレアの声で以前にも同じことがあったのを思い出す。あれは確か、木こりか何かのデモニアックだった。
大柄で、ブラスレイターの自分をも抑え込むほどの力があったのを覚えている。これは全てにおいてそれを上回っていた。
素体からして人間離れした身体能力、となれば大方の察しはつく。
「戦闘機人……」
彼女らがこれと戦っていたことから考えても、これも元は同類なのだと。
攻撃を弾いた結果、デモニアックとの距離が離れ一安心かと思いきや、デモニアックの右手に翡翠色のリングが現れる。
ジョセフはハンドルを切り、ガルムを急旋回。横転する限界までマシンを倒し、路面を削る脚部が摩擦で激しく火花を散らす。
ジョセフがスラスターを点火させるのと、リングから無数の光線が拡散して放出されたのはほぼ同時。
それは云わば経験に基づく勘。正体を知らずとも自然と危険信号が発された。
急加速によってほぼ直角に曲がったガルムに対し、歪曲して光線が迫る。皮肉なことに、曲線を描く軌道はさながら牙を剥いた大蛇。
「ジョセフ!!」
エレアの声で咄嗟に思い出す。ガルムに隠された機能を。
一条、また一条とガルムを追う光線は路面を抉る。誘導でもされているのか、爆発は確実に近づき、最後の光線がついにジョセフを捉えた。
しかし、光線がジョセフに届くことはなく、ガルムに当たる直前で拡散し、消滅する。気づけば周囲に薄いフィールドが張られていた。
「まったく……危なっかしいわ、ジョセフ」
スラスターの噴射による飛行と同じく、ガルムに備え付けられた機能の一つ。知ってはいたものの、自在には使えなかった機能でもある。
ジョセフは未だにガルムのスペックの全てを引き出せてはいない。今回もエレアのナビゲートが無ければ危うい状況だった。
「すまない、エレア」
「これ以上直撃したら流石に耐えられないわよ、それに……」
いつの間にかデモニアックは距離を詰めていた。ガルムに再び並走し、そして進行方向を見越しての跳躍。両手を組み合わせて振り上げたハンマーナックルの構え。
「あれは防げないわ」
先の攻撃で速度を落としていたガルムでは振り切れない。防御しても防ぐのはまず不可能。ならば、
「承知!」
ジョセフは一言エレアに返すと、握った剣を捨て、右手をかざす。掌には青い光。
ただし今度は剣ではない。伸びた光が鞭となって、蛇のように敵の脚に絡みつく。
ジョセフは力の限り光の鞭を引く。滞空しているデモニアックは抵抗できるはずもなく、地面に叩きつけられた。
誘導する光線を見ていなければ咄嗟に思いついてはいなかっただろう。
蛇、それは悪魔アンドロマリウスが持つとされるもの。そしてアンドロマリウスはジョセフのブラスレイターの象徴である。
叩きつけてもまだ終わりではない。ガルムを加速させ、立て直す余裕を与えない。
その間にジョセフは観察する。デモニアックは道路を跳ねながら、なんとか踏ん張ろうとしている。
その両手だけが鏡面の如く光を反射していた。すぐに何らかの金属と融合しているだと気付く。これで剣を防いだのだ。
ただの鉄やガラスならば剣で斬れないことはない、考えられるのは特殊な金属。ならば街中に転がっているものではなく、元々所持していたか、或いは”体内に仕込んでいた”か。
「斬れる……!」
たった一言呟いた。自らに言い聞かせるように。
融合して金属で手を覆っている、それは逆に考えればそのままでは受けられないという証。そして両手以外であれば斬れるということ。
それ以上の観察はデモニアックも許さなかった。バウンドしながらも立ちあがったデモニアックは足に絡む鞭を引き返す。
単純な力比べで勝てるはずがないと、危うく鞭を消すジョセフ。が、既に遅く、ガルムの向きは90°近くずれた。その先には、
「ジョセフ! 前!!」
ビルの壁が数メートルの距離まで迫っていた。エレアに言われるまでもないと、ジョセフは速度をわずかに殺し、前輪を持ち上げてタイミングを合わせる。
減速して方向転換していては、また追いかけっこの続きだ。光線も今度は避けられるか分からない。
タイヤが壁面を噛んだ瞬間、三度目の噴射。爆発的な推進力を得たガルムは無理矢理重力に逆らい、空を目指して壁面を駆ける。
「まだ追ってくるわ、ほんとしつこいんだから……。これは一筋縄で行きそうにないわね」
後ろを振り向く余裕はないが、エレアの声と音で判断できた。
飛行が可能なら付いてくるだろうとは思ったが、どうやら敵はこの曲芸走行にも付き合うつもりらしい。
断続的なガラスの割れる音。足場を力強く踏みしめる音が忙しなく続く。それが背後から聞こえると言うことは、つまりそういうことなのだろう。
やれやれ、と溜息混じりに言ったエレアの言葉に内心ジョセフも頷いた。
※
「なんだあれは……」
オットーと黒のデモニアックは現在、ビルの壁面を縦に走りながら戦っている。
同じく重力に逆らう行為。しかし飛行ではなく走行であるということが異様さを掻き立て、トーレを含むナンバーズを唖然とさせた。
突き出た障害物や窓は回避しながら走りつつ、それでいて攻撃が途切れることはない。
交わされる拳と剣。
一撃をいなして一撃を放つ。その応酬は激しさを増す一方で、目で追うのが精一杯だ。
速度を落とし、手を緩めれば決定的な隙を晒す。手足を止めれば死に繋がる。だから止められない。
屋上に差し掛かろうかという時、黒のデモニアックが進路を変えた。オットーを右に見ながら、バイクを横に傾ける。
上の様子がどうなっているか分からないなら、一片の隙も作りたくないのだろう。
壁を垂直に走ることに比べれば、横に走るのは格段に楽。尤も、あれなら天井であっても逆さに走りそうだが。
オットーも負けじと食い下がる。互いに窓を踏み荒らし、ガラスというガラスが砕け散るが、そんなことは障害にもならないらしい。
それはまさしく縦横無尽。さながら二人で一つの嵐。荒れ狂う暴風は近寄れば誰であれ、何であろうと吸い込み、切り裂く。
それほどに異形同士の戦闘は他者の介入を許さない。
「トーレお姉様。あれ、どうしますの?」
「クアットロか……」
どうするも何も、あれでは近寄ることすら難しい。それほど危ういバランスの上に成り立っている。
トーレの迷いを見抜いたのか、クアットロが呆れたような声で言う。
「お姉さまぁ、オットーはもうあのデモニアックに任せておいたらいかが?」
なんなら両方ディエチちゃんでふっ飛ばしちゃいますか? とでも言うかと思ったが意外と大人しい発言だった。
「それでもいいんですけど……あのデモニアック、ドクターが知ればきっと興味を持つと思いまして」
だろうな、と素っ気なく返事をした。今頃この状況を嬉々として見ているに違いない。
だが、今はどうやってオットーを止めるかが先だろうとトーレはしばし熟考に入る。
「あれが我々を攻撃しないという確証はないが……あれが倒されたら、結局は我々が戦うことになる。
それまでにオットーが消耗していなければ勝ちは薄いかもしれない。あれの手にも余るようなら、いっそ共闘しよう」
あれ、というのは当然、黒のデモニアックである。戦闘の様子を見ていると、先に息切れするのはそちらの方だと考えた。
「どうせなら利用する、と仰ればいいのに」
彼女らしい発言に、同じことだ、とトーレも返す。
「どちらにせよ、もう捕獲は諦めた方がよさそうですわ」
「そうだな……」
その先を口にするには勇気が要った。自分の一言で姉妹達はオットーを敵と認識し、殺す。それがどれほど重いことか、なまじ宿った人間性を呪いたくなった。
クアットロは言わずもがな、セッテやチンク、ディエチも内心ではわかっている。
状況を考えればノーヴェやセイン、ウェンディも渋々ながら納得するだろう。しかしディードはどうだろうか。
時間に差はあれど、仮にもこれまで姉妹を見守り鍛えてきたと自負していた。ディードとオットーの関係に関しても理解しているつもりだ。
いっそのこと、オットーを放置しておくという考えが頭を過ぎる。
あの戦闘力だ、魔導師達やXATに壊滅的深手を負わせる可能性は十分にある。始末もできて一石二鳥、とまで考えて、
「……何を考えているんだ私は!」
馬鹿げた考えだと、頭を振って一蹴する。そんなことをそれば、オットーは魔導師に止められるその時まで、更なる破壊の限りを尽くす。
既に数十はゆうに越えている民間人の死者が幾百になるか知れない。
スカリエッティの命ならばともかく、トーレ個人としてそれは容認し難かった。
自分達はスカリエッティの手駒となって人を殺すこともある戦闘機人だが、無差別な虐殺を撒き散らす悪魔ではないのだから。
「トーレ、オットーを破壊しましょう」
「セッテ……」
隣に立ったセッテはトーレを見ない。正面を、戦闘だけを見て、冷静に分析している。
「私と貴女で再度挟撃を。あのデモニアックも加えれば先程よりはこちらに利があります」
「セッテ……お前は……!」
オットーを破壊する、あまりに平然と口にするセッテにトーレは顔をしかめた。
何故正しい判断であっても迷うのか、彼女は理解していないのだろうか。その決断を下す辛さを。
以前、彼女に機械的過ぎると注意したことがあった。本当にあの時からまるで変わっていないのか。トーレは落胆し、叱咤、もとい八つ当たりしそうになったが、
「他の姉妹にはやらせられませんから」
その一言で飲み込んだ。
セッテは自己の感情の揺らぎの少なさを自覚している。その上でそれが最も確実で効率的だと判断した。
他の姉妹の精神的ダメージを軽減する為に、なるべく手を下すのは自分であるべき。それが己の役割であり、それをトーレも理解しているだろうと考えている。
その相棒にトーレを選んだ。それはトーレの役割でもあると、自らの責を果たせと暗に語っているように思えた。
それに比べると、迷っていた自分はなんて矮小だったのだろう。感情に流されず、現場で最善の決断を下すのは自分の役割だというのに。
ならばもう迷わない。純粋に己の責務を果たすことを考えよう。トーレは大きく息を吸って宣言した。
「捕獲は断念だ! オットーをデモニアックと判断、破壊処分する!!」
ノーヴェやウェンディが何か言いたそうに顔を上げるが、それも目で黙らせる。
オットーを野放しにはできないなら、せめてこの手で破壊する。それが自分の責任。
「チンク! 今どこにいる?」
『今奴らが暴れているビルの屋上だ。上がってくるかと思ってヒヤヒヤした』
通信を通したので話は聞いていただろう。チンクが何も言わないから、トーレも何も言わない。淡々と状況報告を交わす。
『中はデパートか何かのようだな。セインと確認したが、フロアはそれなり広く、騒動で商品が散乱している。
だが、仕切りが少ないから戦闘は十分に可能だ。上部三階には生きている人間はおそらくいない』
黒のデモニアックの戦闘形態から考えても、戦うなら接近戦だ。
それなりに広いとはいえ、屋内であればレイストームは軌道が制限され、自在には使えまい。最適な条件だと言えた。
「では作戦を練ろう。その前に……ディード、お前は待機だ」
一人俯いていたディードは、それでも顔を上げることはなく、トーレの強い口調に気圧され、むしろより深く沈みこむ。
唇をきつく噛んでいるのは、せめてもの意思表明のつもりか。
「異論はないだろうな」
トーレは鋭く睨みを利かせる。それはディードのみならず、ウェンディやノーヴェに対して言った言葉でもあった。
そして数秒間の沈黙。やがて彼女の口は注視しなければ気付かないほど小さく、了解、と動いた。
トーレは決戦の場となるビルを見上げた。正確にはそこで戦う二人の悪魔を。
この決定は、双子の彼女にオットーを殺す任を背負わせたくないからではない。
その感情は指揮官として相応しくない。ただ単に不確定要素を塗り潰す為、足を引っ張る可能性のある因子を排除する為。
そう考えることにした。
※
ビルの壁面を往復する間も、数えきれないほど剣を振るった。互いに決定打のないまま、十分程が経過しただろうか。感覚では、もう何時間も戦っている気すらする。
膠着した戦況で、徒労と知りながらも、それでも動きを止めることができないというのは予想以上にジョセフの消耗を早めていた。
相手は両手を使えるが、こちらは右手一本なのだ。
例の光学兵器を使用してくれば隙も生まれるというのに、どうやら近づけば格闘戦、離れれば光線という単純な思考で行動している。
融合すれば接近戦でも銃を使おうとするデモニアックも多いが、この場合、中途半端に判断力が残っているのだろう。それ故、逆に戦い辛い。
剣を振るう腕が重い。
度重なる攻防の反動で握る手が痺れてくる。
ジョセフにとっても、それは初めての感覚。それもそのはず、これまで通常のデモニアック一体にこれほど苦戦したことなどない。これまで自分を下したどの敵ともタイプが違う。
一人は全てにおいて絶対的なまでの力量差。
一人は届かぬ空を舞い、風と一体の如き速度。
これはそのどちらでもない。凶暴で獰猛な勢い、それは”野性”と呼ぶのが適当な気がした。
「このままじゃ埒が明かないわね。ガルムもそろそろ限界かしら」
エレアに構う余裕も今はないが、言っていることは尤もだ。無茶の連続でガルムの負担もかなりのもの。
何でもいい、何か状況を一変させる為の切欠が必要だった。
壁面を斜めに切り上がり、空が近くなった時、程なくしてそれは来た。
それは弾丸や砲弾ですらなく、言うなれば光の波。莫大なエネルギーの奔流。
ジョセフの目の前で、丸太よりも太い光の束がビルを貫いた。下から上へ、斜めにビルを撃ち抜いた光は、すぐに空に吸い込まれて見えなくなった。
ビルはその衝撃で大きく揺れ、轟音はビルごと崩落するかと思うほど激しい。特に外壁のジョセフにとっては振動は凄まじいものだった。
二輪で走行していたジョセフは勿論のこと、四足で這っていたデモニアックも同様に振り落とされる。
「来い!!」
落ちる瞬間、声が聞こえた。声の主は戦闘機人のリーダー格の大柄な女。
端的な言葉だが、一瞬で意味を悟るジョセフ。それは声がジョセフに向けられていたこと、そしてジョセフがこの状況を待ち望んでいたからに他ならない。
ビルを揺るがした巨大な光は、言うなれば互いの間に打ち込まれた楔。反撃に転じることのできる絶好の機会だった。
それだけに行動に転じるのも速い。悲鳴を上げかけているガルムのアクセルを捻り、スラスターを噴射、破片をかわしながら崩れた壁の大穴に駆けこむ。
人で賑わっていたはずのフロアは閑散とし、そこに待っていたのは声を掛けた女ともう一人、ピンクの髪の戦闘機人だった。
ガルムを降りたジョセフの側に、大柄の方の女が近づく。
「ここで奴を仕留める。お前も協力しろ」
あの程度で死ぬとは思えない。むしろ怒りを燃やし、今にも登ってきていることだろう。それをわかっているからだろう、女は簡潔かつ一方的にジョセフに命令した。
高圧的な物言いだが、その程度で腹を立てている状況ではなく、別段異論があるわけでもない。一点、ジョセフが気になるのはただ一点だけだった。
「あれは……お前達の仲間じゃないのか?」
「だから始末をつける。それが我々の責任だ」
質問を予想していたのか、答えはすぐに返ってきた。その答えに達するまでには苦悩も葛藤もあったのだろう。
だが、ジョセフにそれを問う権利などなく、黙って頷いた。
「いいだろう、だが止めを譲るような余裕はない。奴の狙いは俺だ」
「それで構わない。私はトーレ、こっちはセッテだ、呼ぶ必要があれば呼べ。お前の名は聞かなくていい」
「他には?」
「それぞれ待機している。しかし前衛として戦うのは我らともう一人だけだ。識別の為の名乗りなら必要ないだろう」
つまり、あくまで混戦時に必要になるかもしれないから名乗っただけ、ということ。尤もそれ以上はジョセフも求めていなかった。
会話は数秒で終わり、それぞれに沈黙する。聞こえてくるのは、遠くからでも不思議と届く悲鳴と慟哭。しかしそれも数秒と持たなかった。
「エレア、バイクを頼む」
「わかってると思うけど、乗っていないとフィールドは使えないわよ。ガルムも、あなたもね」
それだけ言うと自動で離れていくガルム。見送ることもせず、ジョセフは剣を構えた。
ひりつく殺気が近づく。隠しもしない暴力的な気配が膨張する。
ぎり、とジョセフとセッテが武器を握り直すと同時に、気配が弾けた。
飛び込んできた白い影は一直線にジョセフに跳びかかる。突き出してきた拳をジョセフは剣で弾く。剣は両手持ち、下半身も安定していればさほど難しくはない。
ジョセフが拳をいなすと、不意に右にいたトーレの姿がぶれた。否、高速での移動と気付いた時には、手首の光の翼が刃物のナイフのように振り下ろされていた。
取った。ジョセフも、おそらくトーレそう思ったはず。
しかし、デモニアックの左手はトーレの拳を握り、押さえていた。続いてベキベキと空き缶を潰すような嫌な音。
「あぐっ! あぁああ……!!」
そして苦悶の声。トーレの拳は、デモニアックの桁外れな握力の前に空き缶程度でしかなかったらしい。
トーレの拳はジョセフにすら見えなかった速度、反射神経だけでなせる技ではない。ジョセフに注意を払いつつ、見て捉えることは不可能。
ならば、おそらくは直感、或いは経験則。
デモニアックの左手を切り落とさんと、ジョセフは剣を上げかけたが、直前で跳び退る。理由は背後から聞こえる風切り音。
視線をやると、セッテのブーメランが正面から縦に回転し、デモニアックに迫っていた。
なんの打ち合わせも合図もなくとも、避けると思ったのか。ともかく、鋭く回転する刃は、デモニアックの腕のガードごと切り裂くだろう。
無論、戦闘機人の身体ならなおのこと。
トーレの身体が振られ、ブーメランの軌道に引きずり出される。掴まれた拳のみで、トーレは操作されたのだ。
「ッ!」
これにはセッテも表情を変え、手に持っていた予備のブレードで、自ら放ったブーメランを相殺、叩き落とす。
その隙にトーレの左足は跳ね上がり、拳を握ったままの腕を狙う。足首にも同様の翼のような刃が生まれている。
が、切断される寸前でデモニアックはトーレを解放。素早く手を引き、勢いよく振られた足が通り過ぎた瞬間、
「がっあああああ!!」
握り拳に変えて突き出す。それは空振った左足の膝を強打、またも骨が砕ける音が響いた。
全てが五秒にも満たない攻防。そしてその間も、右手は常時ジョセフを警戒している。
右手と左足を潰され後退したトーレに従い、セッテも様子見。
戦いは再びジョセフとデモニアック、一対一の図式に戻った。
※
黒のデモニアックは一人でオットーを抑えているが、長くは持たないだろう。じりじりと後退している。
「くそ! なんなんだ、あの強さは!」
「トーレ、退いて下さい。その傷では戦力になりません」
セッテはいつも歯に衣着せぬ物言いをする。悔しいが、トーレには何も言い返せなかった。
情けないことに、右手と左足が使い物になりそうにない。体術を武器とするトーレにとっては致命的な負傷だ。
「わかっている……! セッテ、奴の援護を頼むぞ」
「わかっています」
「ブレードは投げるな。二本以上使うのも危険だ」
セッテが伏し目がちに頷くのを確認すると、トーレは飛行しながら後退、戦いを遠巻きに見守る。
ブレードを投擲すれば、奪われる危険が高くなる。融合されれば取り返せず、最早手が付けられなくなる。
それくらいわからないセッテではないと思うが、自分が危機に陥った時、オットーから助ける為に咄嗟にブレードを投げたのだろう。
元はと言えば自分の不甲斐なさが蒔いた種。あまり責めるのは気が引けた。
「もう少し……もう少しで……」
トーレは祈る思いで天井を見つめる。ディエチの射撃の影響で、天井には大穴が空いた箇所があり、周辺はパラパラと破片が落ちる程脆くなっている。
張られた罠の範囲に、オットーが足を踏み入れるのは時間の問題。後はそれまでに二人が倒されないことを願うしかない。
一歩、踏み込んで右の手刀を繰り出す。
二歩、手刀を剣で弾かれ、セッテのブレードを左手で受け止め押し返す。
三歩、セッテのもう一方のブレードで足を浅く斬られ、バランスを崩しながらも攻撃を試みる。
四歩、踏み込んだ瞬間、
「離れろ!!」
トーレが声を張り上げると、爆音と閃光が頭上で炸裂した。爆発によって脆くなった天井は崩落を引き起こし、巨大な瓦礫がオットーに降りかかる。
視界を埋め尽くすのは閃光と粉塵。備えていても、視覚と聴覚が元通りになるまでには数秒を要した。
崩落は上階に配置したチンクのランブルデトネイターによるもの。彼女の能力なら脆くなった天井の崩落を起こすことは容易い。
トーレが回復しても、未だ粉塵は晴れていない。爆発の一瞬、デモニアックはセッテに腕を引かれ脱出。
自身でも危機を悟っていたように見えたので大丈夫だろう。問題はオットーだ。
耳を澄ますと、粉塵の中から甲高い金属音が響いている。トーレは、嗚呼、と天を仰ぎたい気分になった。あの中ではまだ戦闘が続いているのだ。
ようやく視界が晴れた時、そこには新たに一人、爆発の前まではいなかった短い赤髪の少女が。ノーヴェは足に付けたジェットエッジから鋭い蹴りを続け様に繰り出していた。
オットーを仕留められなかった場合の保険だったが、戦闘しているということは不意打ちには失敗したということ。これで二つ、チャンスが潰えたことになる。
「トーレ、負傷しているのか!?」
声を掛けたのは眼帯をした少女、ナンバーⅤ、チンク。失敗に気付いて上階から降りてきたのだろう。横にはナンバーⅥ、セインもいた。
「私のことはいい! お前も戦闘に加われ!」
そう言ってチンクを追い払う。チンクは一度セインに目配せすると、離れていった。代わりにセインがトーレの肩を担ぐ。
「トーレ姉、一旦離れよう。ここにいたんじゃ危険だよ」
「ああ、わかっている。セイン、頼む」
仕込んだ策は尽きた今、ここにいても足手まといになるだけ。後は四人に託すしかない。口惜しさを堪えて、トーレは戦場を後にした。
※
黒のデモニアックとセッテ、ノーヴェは入り乱れながら戦う。前後左右、入れ替わり立ち替わり、それでも決定打には至らない。
硬く、速く、重い。たったそれだけのことが高い壁だった。
ノーヴェがガンナックルで射撃。オットーは両手を他の二人に向けている状態、回避は間に合わない。
オットーは頭部に被弾。大きくのけ反ったところへ、ノーヴェは追撃のハイキック。
当たっていれば勝敗は決していただろう。しかし、決することは無かった。
手応えを確信したノーヴェの表情が驚愕に歪む。額から煙を昇らせるオットーは、特に堪えた様子もなく、その手はノーヴェの足をしかと掴んでいた。
ガンナックルでは威力が足りなかったのだ。
そして、デモニアックやセッテの剣速に慣れたオットーには大振りなハイキックは緩慢な動きでしかなく、軌道予測も楽だったことだろう。
ノーヴェの抵抗など意に介さず、オットーは足を掴んだノーヴェを持ち上げ、振り回した。
もがくノーヴェを片手で制しつつ、棍棒代わりにセッテらを薙ぎ払う。
「ノーヴェ!」
叫んだところで、どうなるものでもないが、チンクは思わず叫んでいた。
回避の遅れたセッテは、ノーヴェの頭で顔を打たれ、倒れこむ。デモニアックは斬るのを躊躇し、後ろに跳んだ。
払った勢いもそのままに、オットーはノーヴェを投げ捨てる。
遠心力を加えて投げられたノーヴェは、声もなく回転しながら2~3m床を滑り、壁に当たると動かなくなった。強かにセッテと頭をぶつけたのだから、昏倒しても不思議はない。
チンクは改めて戦慄した。戦闘力にではなく、その戦い方に、である。姉妹を棒きれの如く扱い、使い捨てる化け物は、オットーと呼ぶことすら抵抗を覚える。
チンクはナイフを握り締めた。殺気が、憎しみが抑えられない。これがオットーだということも忘れそうになる。
オットーは姉妹の癖や戦法を熟知している。ガンナックルといい、ブーメランブレードといい、初見であそこまで対応できるものではない。
しかし、そこには感情は無い。戦う為の情報だけを残し、他はノイズでしかないのだ。
背中を向けたオットーに、チンクはナイフを構える。そこに迷いはなかった。
本当は雄叫びを上げたい気分だったが、代わりに刃に怒りを乗せて投げ放つ。
ナイフはチンクの思いを表し、一直線に飛ぶ。決して逸れることなく、オットーの背中を目がけて。
オットーは残る一人、黒のデモニアックに注意を向けようとしていた。ノーヴェが音を立てて転がった瞬間、音で判断して避けられるはずがない。
はずがないのに。
オットーはそれすらも避けて見せた。
「馬鹿な!?」
オットーは左にステップ、ナイフはその横を掠めて通り過ぎる。偶然ではなく、明らかに察知していなければできない行動。
まさか避けられるとは思っていなかった。回避できる要素などなかった。視覚、聴覚共に反応せず、精神的にも敵をあらかた一掃した直後である。欠片の油断も無いとは思えない。
驚きが支配し、一瞬思考が止まる。そしてナイフが通り過ぎた後になって、絶好の機会を逃したことに気付く。
爆風だ。直後なら直撃でなくとも傷は負わせられたのに。
遅いかも知れないが、今ならまだ間に合う。
チンクは投げナイフ、スティンガーを起爆させ、爆弾と化していたナイフはその場で中規模の爆発を起こす。質量の割に大きな爆発はオットーを巻き込み、フロアの壁を吹き飛ばした。
「やったか!?」
と喜んだのもつかの間、爆発の余波を受けたのは他の者も同様。
倒れていたセッテとノーヴェは大したことはないが、オットーの向かいに立っていたデモニアックは破片と爆風の直撃を浴びている。
まさかナイフが爆弾だとは思わなかっただろう。ダメージで言えばオットー以上だ。
動く者のいなくなった戦場で、チンクはがっくりと肩を落とす。
軽挙妄動とはこのこと、明らかな失態だ。冷静さを欠いた浅はかな行動が招いた結果。
急速に冷めていく頭が一つの答えを導き出す。何故、オットーはナイフを避けたのか。
それは殺気、ノーヴェを武器にされたことへの激しい怒りがオットーに気付かせたに違いない。
外から吹き込む風によって、呆然としていたチンクは正気を取り戻し、そしてチンクは自分が攻撃に巻き込んだ妹達の確認を優先させた。させてしまった。
トーレやセッテならば真っ先に標的の確認をしただろう。意識を失っているノーヴェに駆け寄るチンクは、オットーが未だ塵と化していないことに気付かなかった。
最終更新:2009年11月21日 01:19