―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part6
宮田司郎 蛇ノ首谷/折臥ノ森
初日/0時36分24秒
「ばかな……」
俺は目の前の光景に呆然とした。
な、なんてことだ……。
ぽっかりと地面に開いた穴。
脇に乱暴に投げ捨てられたブルーシート。
使ったシャベルもいつのまにか無くなっている。
お、俺は確かに埋めたはずなのに!
…………を!
先程のサイレンがして、地震が起きたかと思ったら気絶していた。
どこからか女の悲鳴が聞こえて、目を覚ましたら……この有様だ。
気絶している間に何が起きたのかを把握しようとした。
まさか、俺が気絶している間に誰かが掘り起こして……?
そんなことは……。
俺は冷静になろうと、目を閉じた。
その時、奇妙なことが起こった。
いきなりテレビの砂嵐のような画像が映ったかと思うと、すぐに別の映像が映る。
どこかを走っている……誰かの視線。
見た限り、長袖の濃い青色系統の服を着ていて、黒い手袋をしているようだ。
そして、左手には……ナースシューズ!?
そこで再び砂嵐が映りこみ、元通りの俺が見ている視線に戻る。
な、何なのか、これは?
一瞬俺は何が起こったのか分からなかった……。
他人の視点で物を見る能力が備わったとでも?
馬鹿馬鹿しい。
幻覚か……と思ったが、先程見えた映像に気になるものが映りこんでいたのを思い出す。
あのナースシューズに書かれていたイニシャル……明らかにあれは……。
てことはまさか……こいつが地面を掘り起こして……?
そうでなくとも、一部始終を見ていて、証拠として持ち去った!?
まずい!
これは想像の域を越えないものの……こいつは俺のしたことを知っている可能性が高い。
処理しておいた方がよさそうか……。
俺はすぐさま駆け出した。
※※※※
トーレ 上粗戸/眞魚川護岸工事現場
初日/1時02分42秒
まさに最悪。
今の私の状況をいえば、こんな形になるのだろう。
ISは全く使用できず、体自体も疲労のあまりろくに動けず……。
おまけに左腕は撃たれて、目の前には私に銃口を向けている警官が……。
意識を朦朧とさせながらも、私は視線を周囲に向けた。
――武器に使えそうなものは……ない……。
内心でため息をつく。
万事休す……か?
「……抵抗するなら……射殺だ……」
警官はゆっくりと拳銃の引き金に力を入れだした。
――いや……この体の状態でやるにはリスクは高すぎるが……やるしかない。
私は力を振り絞って……警官の足をめがけて蹴りを入れた。
パーン!
銃弾が発射される乾いた音。
ただし、警官が狙っていたのとは、まったく違う方向に向けて。
そのはずだ。
蹴りを入れて、警官が姿勢を崩して倒れる際に発射されたのだから。
警官は手足をじたばたさせながらも、私をぼんやりと眺めていた。
私はすかさず、重い体をゆっくりと起こすと、ふらつきながらもその場を後にする。
「……こらぁ……逃亡するなら射殺だ……」
背後から警官の恨めしげな威嚇の声がする。
が、私はそれに振り返ることなく、ひたすら木の茂みの中に飛び込んだ。
パーン!
再び乾いた音。
「うっ!」
右足に激痛が走る。
銃弾が掠ったのだ。
痛みのあまり立ち止まりそうになるが、それを押してなおも前進を続けた。
背後からは私に向けた懐中電灯の光が差し込む。
く、くそ……なんとか逃げなければ……。
正直、抵抗する体力はない。
逃げるだけでも精一杯だ。
茂みを掻き分けながら、なおも前に進むが……。
――!!
足を踏み出したときには遅かった。
地面が……なくなっていて、私の体はそこから下へと転げ落ちていった。
し、しまった……。
崖を転げ落ちながら、そう思った。
受身の姿勢なんか……到底取れそうに無い。
やがて、水に飛び込んだ感触とともに、落下した衝撃が体に伝わると……そのまま意識を失った……。
※※※※
クアットロ 刈割/切通
初日/1時44分42秒
な……どうなっているのよ、これ……。
目の前に広がる光景に、呆然としてしまうあたし。
山の斜面に作られた段々畑。
捨てられて、荒れ果てていた畑だが……それら全ては真っ赤に染まっていたのだから!
下らないホラー映画のセットか何かのつもり?
一瞬、あたしはそんなことを思ったが、それはすぐには違うと実感させられた。
「……ぐああああああ……はがを荒らすなぁぁぁ……」
背後からババアらしきしわがれた声。
後ろを振り返ると……血に染まったナイフを持ったゾンビが!
ぱっと見、人間の老婆らしいが、服はボロボロ。
おまけに肌は青白く、白目を剥いていて、明らかに死んでいると分かる……
そいつが赤い液体を流した目で、あたしを睨みつけ、息を荒げながら、あたしにナイフを突き刺そうとしていた。
「うざいのよ!いい加減にして!」
あたしはすかさず手にしていた鉄パイプをゾンビババアの頭に振り下ろした。
ぐしゃりという嫌な感触とともに、ババアは一瞬ひるむものの、すぐに立ち直り、ふたたびあたしに襲い掛かってきた。
あたしは容赦なく、何回も老婆の頭に鉄パイプを叩きつけた。
「……ぐえええええ……」
低いしわがれ声の悲鳴とともに、ババアの体はすぐに崩れ落ちた。
頭は形が崩れて、砕けた骨が外に覗かせている状態。
とっくに死んでいるだろう……それが普通の人間だったなら!
あたしはそれを見て、すかさず逃げ出した。
そのままいても……数分もしないうちに、また立ち上がって、何事も無かったかのように襲い掛かってくるんだから。
本当に鬱陶しいったらありゃしない。このゾンビどもは。
一体、何してるんだろ……あたし。
赤い水の張られた畑の脇の畦道を駆け出しながら、ふとそんな事を思った。
あのサイレンが鳴ってから……おかしくなっちゃったみたい。
いきなり、ISの効果がかき消されて、地面に墜落して気絶。
目覚めて、お嬢様やトーレお姉様に妹達を探していたのだけど……出会うのはこのゾンビどもばかり。
最初はシルバーカーテンで姿を消してやり過ごそうとしたが、ものの数秒で効果が切れてしまう有様。
おまけに胸が締め付けられるぐらいに息苦しくなって、思い切り疲れるものだからたまったものじゃない。
しばらくは木陰に身を隠して、やり過ごしていたが、ふとしたはずみで崖底にこのゾンビを突き落としてしまった。
最初こそ、やっちゃった……なんて思ったけど、すぐさま自ずと傷を回復させて、何事も無かったかのように歩き出す様を見たときは、正直驚いちゃった。
さすがに埒があかなくなって、落ちていた鉄パイプを拾って、襲ってくるゾンビどもを殴り倒している。
ドクターの指令とは……到底かけ離れたことをしている、そんなあたしだった。
本当に、サイアクよ!
レリックどころじゃないわ!
心の中で恨み言を呟きながら、なおも走っていると、頬に冷たいものが濡れる感触がした。
どうやら、雨が降り出してきたみたい。
そう思って、ふと空を見上げようとしたとき……その様子にまたびっくりさせられた。
何せ……赤い雨が降っていたのだから!
気色悪いわよ!何、これ?
どこまでふざけているのよ、この世界は!
ホントにサイアクよ!
このまま、赤い雨に濡れているのも気持ち悪いので、とにかく雨宿りが出来そうな場所を探す。
やがて、目の前に大きな建物が見えた。
聖堂教会の分教会の建物とよく似ている。何かしらの宗教施設?
まあ、いいわ。ここで雨宿りさせてもらおうかしら。
やがて、入口らしきドアの前まで辿り付く。
鍵は掛かっているようだった。
ちなみに周囲にはあのゾンビどもはいない。
「誰かいるの?開けてよぉ!」
あたしはドアを乱暴にたたきながら、ひたすら声を掛けた。
だが、数分くらいそれを続けても、ドアが開かれる気配は全く無い。
「いないの?だったら、窓を叩き割るけどいいの?」
あたしはすかさず、脇に廻って、本当に窓を鉄パイプで叩き割ろうとした、その時。
ギギギ……。
重苦しい軋みとともに、ドアがゆっくりと開く。
「だ、誰ですか……」
開いた入口から顔を覗かせたのは……一人の男性。
髪をオールバックにして、黒い服を着た……見るからにひ弱そうな若い男だった。
顔に生気はあり……どうやらまともな人間のようだった。
「いるなら返事してよぉ。とにかく中に入れて!」
「え……あ、あなたは……」
あたしはすかさず、入口に駆け寄ると、あたしに尋ねかける若い男に構わず、中へと入り込んだ。
―to be continiued―
最終更新:2007年08月14日 17:05