―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part7

 ルーテシア  羽生蛇村小学校折部分校/校庭
         初日/1時26分30秒

「…………」
 何も言うことはおろか、何もすることが出来ずにいた。

 あたしに勢いよく振り下ろされる血のついた鑿。
 その動きは極めてゆっくりしているような気がした。
 死ぬ直前には目に見える動きがスローモーションみたいになるって聞いたことがあった。
 そんなことあるわけないと思っていたが……まさか自分が体感しようとは。

 あたしは……思わず目をつぶった。
 途端。

 パーン!

 背後から乾いた発破音がした。
 思わず目を開けると……。

「ぐあああああああ!」
 目の前であたしに鑿を振り下ろしていた人間が、顔を押さえながらもがき苦しんでいた。

 ――何!?

 ふと、背後を振り返る。
 その時!

 パーン!
 銃弾が発射される音が周囲に響く。

「ぐえええええええ!」
 直後、しわがれた絶叫が、周囲に漂っていた静寂をつんざく。
 それは――鑿を持っていた人間が発したものだった。

 あたしはすかさず、撃たれてもがき苦しんでいた人間の背後に潜り込んだ。
 正直、人間を盾にしてしまったが……この際は止むを得ない。

 多分……死なないだろうし。

 そうしている間にも、ライフルを持った人間はあたしに照準を向けようとしていた。
 鑿を持った人間は痛がりながら、その場に崩れ落ちる。
 おそらく、また数分で立ち上がるのだろう……。

 その隙に……あたしはその場から走り去り、建物の陰に身を潜めた。

 パーン!
 直後、銃弾が放たれる乾いた音が響いた。

「……ちょこまがど、動くなああああ!」
 そいつは叫びながら……ライフルを私のいる方向に向けて、なおも銃弾を発射させる。
 そして……あたしのいる方へと追いかけてきた!

 あたしは全力で走り……建物の中に駆け込んで、ドアを閉めた!

「……どこ行っだあああああ……」
 そいつは異様に息を荒くして、ドアの前あたりをうろうろと歩いていた。

 とにかく、このままやり過ごそう。
 あたりを見回すと、真っ暗ではあるものの、天井がかなりの高さにあり、床の面積も広いようだ。
 床は板敷きで、白い線で丸や四角の図形が描かれている……どうやら、学校か何かの体育館のらしい。

 壁を背にして、そのまま座り込み……ふと目を閉じた。

 ――!!
 途端に、視界に砂嵐のような映像が見えた。
 そして、瞬時に切り替わった。

 ノイズ交じりの中、見えた……あたしがいる建物の外。

 誰かの視線?
 どうやら、あたしじゃない他人の見ているものが、そのまま見えているらしい。

 視線はふらふらとしていて、息はやけに荒い。
 左手にはライフルを手にしていて、筒先が時折視界に入る。
 時折、あたしが先程閉めたドアをじろじろと眺めているが……すぐに他の方向へ視線を向けたりしていた。

 再び砂嵐がうつり……目を開けると、視界はあたしのものに戻った。
 何なの、これ?
 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 映りこんだノイズ交じりの視界は……どうやら、あたしを追いかけていた人間のもの?
 この世界では、そんな能力が身につくの?

 あたしはふとそんな突拍子も無い推論を打ち立てた。
 そして、それを確かめようと、再び目を閉じる。

 すると……再び砂嵐が映り……。

 ――?
 映った視界の先は真っ暗。
 ただ、懐中電灯を手にしているらしく、それが照らし出した先だけがはっきりと見える。
 白い線が無数に描かれた板敷きの床。

 まさか……あたしが今いる建物の中?

 そう思いながら、さらにあたしの目に映りこむ『誰か』の視界を見ることに集中する。 

 息が異様に荒い。
 さらに、動きもやけにふらついている。

「……はるみちゃんは……どこかなぁ~」
 しわがれた男の声。
 どうやら、先程あたしを狙った人間と同じ系統の奴だろう。

 そいつは懐中電灯をやたらと振り回すかのようにしていたが……とある一点で止めた。

 その先には……床に座り込んでいる、紫色の髪の小柄な人物……。

 ――あたし!?

 そこで砂嵐が映りこみ、途端に目の前がまぶしくなる。
 思わず、手で顔をかざしてしまう。

「……きみは……だれかなぁ~……迷子になったのかなぁ~」
 光をあたしに向けている人物は、やけにゆっくりとした口調で話し掛けてきた。

 まぶしさで思わず目がくらみそうになる中、その人物になんとか目を向ける。

 頭はすっかり禿げた中高年の男。
 シャツとズボンといういでたちで、肩にタオルを掛けていた。
 左手にはあたしを照らす懐中電灯を持っていた。

 そこまでは普通なのだが……

 シャツは赤いシミが大きく付いていて。
 右手には……赤いシミのついたバット。
 さらには……肌は青白く……目は白目を剥いていて、赤い水を流していた!

 全身がぞわっとして、鳥肌が立つのを感じた。
 ま、まずい……逃げなきゃ……。

 だが……体が思うように動かない。
 まるで蛇に睨まれた蛙のように。
 その男が放つ異様さと……不気味さのあまり、思わず心の底から不快に近いような……ぞわぞわとした感情がこみ上げる。

「かわいいねぇ~……せんせいのところにおいでぇ~!」 
 男は不気味な笑みを浮かべて、バットを振り上げながら……あたしに走り寄ってきた!

 ※※※※

 前田知子  蛇ノ首谷/折臥ノ森
        初日/0時42分45秒

 は、はやく家に帰らなきゃ……。

 わたしは森の中を駆け足で進む。

 家出しなきゃよかった……。
 お父さんとお母さんとけんかして、家を出て行った。

 そこから……何かがおかしかったような気がするの。

 空は曇っていて気持ち悪かったし、おまけに、何か飛行機みたいなものがたくさん飛んでいた気がしたの。
 変なことになったの、なんて思っていたら、サイレンが鳴って、地震が起こって、気絶して……。

 目が覚めて、家に帰ろうと思ったら……村の人たちの様子も変だったし!
 だって、包丁や鎌を持って襲い掛かってくるんだから!

 泣きそうになりながらも、森の中をさらに走っていると……前の方に人がいるようだった。
 わたしはびっくりして、思わず近くの木の陰に隠れた。

 その人は……病院の看護婦さん?
 服は物凄く汚れていて、なぜかシャベルを手にしていて、じっと前にある木の茂みに近寄っている。
 恐る恐る、わたしは看護婦さんの顔を見ると……目から赤い涙が流れて!

 ああ、この人もおかしくなっちゃってるんだ……。
 わたしはそう思いながら、看護婦さんに見つからないようにして、そうっと木の茂みの中を進むが……。

 バキッ!

 枝が折れるような音がした。
 靴で踏みつけてしまったのだった。

 わたしは思わず息を飲んだ。
 そして、思わず看護婦さんの方を見ると……。

 ――!!

 そこには……赤い涙を流した、青白い看護婦さんの顔。
 気持ち悪く笑った顔と、思わず視線が合ってしまい……わたしは動けなかった。

 看護婦さんは……ゆっくりとわたしのところに近づいてきた!

「い、いやあああああああ!」
 わたしはありったけの叫びを上げると、すぐに走り出した。

「……せんせぇ……どこにいるのぉぉぉ!」
 看護婦さんはものすごい勢いでわたしを追いかけてきた!

 もう、嫌!はやく家に帰りたい!
 ごめんなさい!もう許して!

 わたしは、ただあてもなく、看護婦さんから逃げようと、全力で走った。

 ―to be continiued―

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最終更新:2007年08月14日 17:05