―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part8
フェイト・T・ハラウオン 合石岳/蛇頭峠
初日/2時13分33秒
どうなっているの……さっきも同じところを通った気がしたのに……。
目の前には……何かしらの神をかたどった石像。
確か……道祖神とかいったかな。
この石像を見たのはこれで4回目。
まさかさっきのものとは違うものか……と淡い期待を抱くものの、それはすぐに打ち砕かれる。
右隅に目印として積み上げた数個の小石……これが、先程も訪れた所であることをはっきりと示していた。
おかしい……ここからはほぼ直線に進んだはずなのに……。
とすれば、考えられることは一つ。
この空間が何かしらの力で捻じ曲げられて、閉鎖空間と化しているという可能性。
思えば、あのサイレンが鳴って、墜落して、気絶して……目が覚めたころから……様子がおかしかった。
雨が頬に叩きつける気配がして目が覚めたのだが……。
その時目にしたのは……赤い雨。
そして、その背後には夜空を不気味に照らす……赤い空。
確か……かつて私がこの世界にいたときは……こんなことはなかった。
さらにおかしいと思えることはまだまだある。
上空を見上げると、さっきまでいたはずのフリードリヒの姿が無い。
ついで、スカリエッティ一味の召喚師の召喚獣の姿も、無数に空を埋め尽くしていたガジェットも見かけない。
それどころか、気配すら感じない。
キャロとか、なのは達に連絡をとろうとしても、まったく出来なかった。
なぜか、通信用の空間モニターは起動せず、念話すらできないのだから。
どう見ても……時空の歪みが生じて……異空間に放り込まれたのだろう。
過去数回に発生した例は報告されていたが……私が巻き込まれるとは。
迂闊だった。
私はため息をつくと……そのままその場に座り込んだ。
1時間近く延々と歩き回ったのだ。疲れるのも無理は無い。
なにせ……飛行魔法も使えないのだから。
ついで、魔法攻撃も……ほぼできない。
辛うじてバリアジャケットを装着できているのみ……そんな状態だった。
バルディシュも……同じような状態だった。
形こそ保っているものの、本来の3%しか起動していない……状態表示を見た限り、そんなところだった。
外部からの何かしらの力によって……デバイスに対して、97%もの制限がかかっている。
しかも、魔法を発動させても、なぜか直後に全身に激しい疲労が襲い、胸が苦しくなり、呼吸困難を起こしかねない状態になる。
まるで、最大級の破壊魔法を命と引き換えといわんばかりに全力で放ったかのように。
それは……先程、自分の身をもって実証したばっかりだった。
「……ふへふへふへ……」
背後から……不気味な笑い声。
生気が抜けていて……生きている者が発しているとは到底思えない、しわがれた声。
――!
すかさず背後を振り返った。
そこには、斧を持った……男性。
服やつけている帽子は土まみれで、破れも目立ってボロボロだった。
赤いシミまでも無数についている。
そして……肌は青白く、目からは赤い液体を目から流している。
……懲りない連中ね……。
私はため息をつきながら、バルディッシュを足元に置くと……もう一方の手で持っていた鉈を振りかざした。
「……ふへふへふへ……」
そいつはなおもひるむ様子はなく、へらへらと笑いながら、斧を振り上げてきた。
その隙を逃さず、そいつの脇腹に鉈の刃を叩きつけた。
「ぐぇっ!」
不快なうめき声とともに、手には肉の潰れる感触が伝わってくる。
ぐじゃりという、肉の潰れる音が、なおも不快感を掻き立てる。
だが、そいつはなおも斧を私に振り下ろそうとした。
すかさず私は鉈をそいつの脇腹から抜いて、足に勢いよくぶつける。
「ぎゃっ!」
そいつは斧をなおも握ったまま、その場に転げ落ちる。
間髪いれず、私はそいつの頭に……ためらい無く鉈の刃を叩き込んだ。
「ぎええええええ!」
絶叫とともに、そいつは動かなくなった。
私はそれを見届けると、置いていたバルディッシュを手にして、すぐさまその場から逃げ出した。
しばらくしても……傷を元通りに治して、何事も無かったかのように、襲い掛かってくるのは目に見えているから。
まるで……ホラー映画なんかに出てくる、ゾンビやグールみたいに。
さっきから、すっとこんな調子だった。
出会う地元の人間は……こんな生ける屍ばかりだった。
倒しても、5分もしないうちに元通りになって動き出す。
とんでもない生命力を持った奴らだった。
最初、奴らは集団で出てきたので……プラズマスラッシャーで攻撃した。
ためらいこそはあったものの……私に攻撃しようとしたから。
奴らはすぐさま倒れたが、同時に先述のような激しい疲労が私を襲った。
しかも直後に別の生ける屍どもが襲い掛かってきたときに、魔法を放とうとしても……発動すらしなかった。
おまけに、倒した屍どもが何事も無かったかのように立ち上がって、襲い掛かってきたのだった!
このときばかりは焦った。
とにかく、逃げるだけ逃げて……しつこく追う生ける屍の頭をバルディッシュで殴った。
がむしゃらに何度も殴って、ようやく倒れた。
さすがに気分の悪いものではあったが。
だが、こんなことを繰り返していては……バルディッシュが完全に壊れてしまう恐れもある。
わたしはそいつが手にしていた鉈を奪って……次から次へと襲ってくる屍どもをなぎ倒してきたのだった。
鬱陶しい……疲れた……。
私は周囲に奴らの気配が無いことを確認すると、その場にへたりこんだ。
当初は生ける屍を倒すのに抵抗感もあったが……何体も相手にしているうちに、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
今では迷うことなく、奴らに攻撃していたのだった。
疲れがましになったころに行こうか……そう思い、目を閉じた時。
――!!
視界にいきなりテレビの砂嵐のような画像が映ったかと思うと……すぐさま別の映像が目に映りこむ。
な、なに……これ……?
自分の目に何が起こったのか……最初はまったく理解できなかった。
ノイズが混じっていたものの……誰かがどこかを見ているような目線。
「……へへへへへ……」
荒い息とともに、気の抜けた笑い声が聞こえる。
視界にはそいつが手にしていると思える……猟銃の筒先が見えた。
そして、その手は傷まみれで、骨が露出していた。
――おそらく、生ける屍のもの……?
その視線の先には……森の中を通る砂利道。
その中に人影が一つ。
気を背にして座り込んでいる……金色の髪をツインテールに結わえた女性。
黒いリボンをつけていて、白いマントを羽織っていて、杖状のものを脇に立てかけて……って、見覚えが……。
――バルディッシュ!?
ということは、映っているのは私自身!?
そこで再び砂嵐が映りこみ……視界が私のものに戻った。
全身に寒気が走る。
途端に、後ろを振り返ると……そこには猟銃を構えた生ける屍が!
狙いを私に定めて、今にも発砲しそうだ!
――しまった!
やたらと冷たい汗が頬を伝う。
私が咄嗟に木陰に隠れた直後に……乾いた銃声がした!
――鉈は……置いたまま。
取りに行ったら、間違いなく撃たれる!
生ける屍はじりじりと私に近づいてきた。
銃を乱射しながら。
猟銃だから恐らく弾切れを起こして、弾を装填せざるを得ないから……その隙を狙うしか……。
そう思った時だった。
パーン!
どこからともなく、別の銃声がした。
「ぎええええ!」
私を狙っていた生ける屍は、絶叫を上げながらその場に勢いよく倒れこんだ。
――!
すかさず、銃弾が放たれた方向に向き直る。
「……他所者か……?」
その先には猟銃を構えた……高齢の男性が立っていた。
手にしている銃からは、煙がゆらゆらと立ち上がっている。
目つきは鋭く、かなりの歳と思えるが背筋をしっかりと立たせている。
身なりからして猟師のようだ。
そして……目から赤い液体を流していて、肌は青白く……なんてことはなく、見た限り生気のある人間のようだ。
私はほっと胸を撫で下ろすと同時に……次に何をしていいのか思い浮かべず……ただじっとしているだけだった。
「どうやら大丈夫なようだな」
その老人は鷹のように鋭い視線を私に向けていた。
―to be continiued―
最終更新:2007年08月14日 17:06