ジルグに関する最初の報告がはやてにもたらされたのは
彼を部隊に預けてちょうど一週間後の夜の事だった。
「一週間でデバイス起動かぁ~、すごいセンスやね」
「ええ、それも人一倍頑張って認識しようとしてたって感じじゃないのがね」
ギンガの報告はジルグが部隊で扱われている
一般隊員用のストレージデバイス起動に成功したと言うものであった。
「普通にやっとったら一週間で出来るようなりました、かぁ」
「1日目である程度の手応えは掴めてたって言ってたわね
本人は「別に急ぐような事でもないから普通にやってた」って言ってたけど」
通常デバイスの起動には1~3ヶ月かかるのが普通である。
高町なのはのようにその場で起動した例もあるにはあるがそれはあくまで例外であり
一週間でデバイスを起動させるというのは相当なセンスの持ち主である証拠だ。
「起動自体は今日でほぼ完全に出来るようになったみたいだから
お父さんと話して明日から基礎的な戦闘訓練をするって言ってたけど」
「そら興味あるなぁ、そういえば専門分野って聞いとらんかった
ギンガは聞いとる?」
「ううん、まだ聞いてないわ
デバイス起動に関しては私が手伝えるようなことは無いし
ジルグさん一人でやってたのもあるから……まだあまり話もしてないのよね」
自分の仕事もあったし、とギンガは付け加える。
「他の人達とも話はしてへんの? 人見知りするタイプには見えへんけど?」
「それは…無いと思うけど。
どちらかと言うと気が付いたらいなくなってる感じね」
容易に想像つくなぁ、と飄々としたジルグの物腰を思い出す。
「何か教えれば全部覚えちゃうし、必要なことは簡潔に聞いてくるし
私としては手がかからなくって良いんだけど…あの人本当に時空漂流者?
普通別世界に飛ばされた、なんて事になったらもっと戸惑うと思うんだけど……」
「まぁ……ジルグさんやしなぁ」
「その一言で片付けちゃうのね……」
「なぁなぁ、そういえばうち明日は休みやねんけど様子見に行ってもええかな?」
「私は別にかまわないわよ。お父さんも別に何も言わないと思うし」
「そっか、ならお土産でも買うてくわ。また明日な」
「ええ、おやすみなさい」
電話を切りはやては考える。
これは思った以上の逸材のようだ。
いまだにイマイチ人物像が掴めないのが不安材料ではあるが…
「そういやなのはちゃんとフェイトちゃんも明日休みやなかったかな?」
思い立ったが吉日。
早速なのはとフェイトに連絡を取り始めるはやてであった。
「よう久しぶりだな、って言ってもはやては一週間しかたってねぇけどな」
「お久しぶりですゲンヤさん」
「そういえばゲンヤさん、ギンガはいないんですか?」
高町なのはとフェイト・T・ハラオウンを(半ば強引に)連れてきた上に
ヴォルケンリッターまで引き連れて押しかけた八神はやてを
陸士108部隊の部隊長室で迎えたのはゲンヤ・ナカジマ一人であった。
この騒ぎの原因であるジルグの姿も見当たらない。
「ああ、ジルグの奴には開始時間を伝えてあるから時間になったら来ると思うぜ。
ギンガはデバイスの準備だ」
「結局デバイスは何を使うか決めたん?」
「それがあいつ「あるものを全部見せてくれ」って言い出してな。
んでギンガは一般隊員用のストレージデバイスを片っ端から揃える準備に追われてるってわけだ」
「自信がないから一番使えそうなのを選ぶ気なんじゃねーか?」
思いっきり失礼なことを言うのはパッと見子供にしか見えない外見からは想像も出来ない怪力で
愛用デバイス『グラーフアイゼン』を振り回すヴォルケンリッターの一人ヴィータである。
「もしくは…有り得ないとは思うが全て扱えるか、だな」
こちらはヴォルケンリッター最強と噂される烈火の将 剣の騎士シグナム。
「なんだかドキドキしますね~、どんな人なんでしょう?」
優しげな表情を崩さない、同じくヴォルケンリッターのシャマル。
「一週間でデバイスの起動を成功させるような男か、見込みのある奴だと良いがな」
いn(ry もとい闇の書の守護獣、ザフィーラ。
「私はジルグさんを見たことないからわからないけど…
ジルグさんってなのはが保護したんでしょう? 何か聞いてないの?」
と、なのはに問い掛けたのは金髪のツインテールが印象的なフェイト・T・ハラオウンだ。
知る人が見れば何事が起こったのかと思うであろう面々である。
「それが何にも話してくれなかったんだよね~。
はやてちゃんには普通に話してたのに」
未だに根に持っている様子のなのはを見てはやては苦笑する。
「まぁいきなり知らん所にきたら警戒するのも当然やろ。
今日は必要なことならちゃんと話してくれると思うし
いつまでも根に持つのはなのはちゃんらしくないで」
「う~ん…そうだね。あの時は何がなんだかわからなかったのもあると思うし……」
ジルグの素性ははやてから全員簡単な説明を受けている。
シグナムなどは「異世界の騎士の実力」に興味津々のようである。
そこにギンガが疲れた表情で現れた。
「準備できましたよ~…ってジルグさんまだ来てないんですか?」
「おう、ご苦労さん」
ゲンヤがギンガを労う。
普段なら他の隊員に準備させてもいいのだが
今日はいわゆる公休日である。
最小限の隊員が持ち場についているだけで、手の空いている隊員はいない。
なのはやフェイトがこの場所にいるのもそれが理由である。
もちろん管理局の性質上、完全に局員が休みになるはずもなく
入れ替わり立ち代りの休みになるわけだが
それでも他の日より人員の数は少ない。
ギンガやゲンヤも扱いとしては休日であったが、
ジルグの世話半分、実力見たさ半分で訓練場の空いている休日に
職場に足を運んだのであった。
「それにしても遅いわね。そろそろ時間……」
「すごい数だな。宴会でもやるのか?」
時間ちょうどにどこからともなくジルグが登場した。
「もう、どこに行ってたんですか?」
ギンガの問いには笑って答えず、ゲンヤに声をかける。
「準備は終わってるのか?」
誰のために準備したと思ってるんですかー!!と叫び出しそうなギンガを横目に
「ああ、ギンガが頑張って終わらせたんだ。
礼くらい言ってやっても罰はあたらんと思うぜ」
「なるほど、ありがとう」
すました顔ニッコリ笑うとしれっとギンガに礼を言う。
横の面々には目もくれない。
「ジルグさん、デバイスの起動に成功したんやってな。おめでとう」
無視され若干仏頂面のはやてが棒読みでジルグに声をかける。
「おかげさまで」とまるで初めて存在に気づいたかのように
小憎たらしい程の笑顔で礼を返す。
相変わらずこの男は考え方が掴めない。
「とりあえずみんなを紹介するわ。なのはちゃんは最初にジルグさんを見つけたから面識はあると思うけど」
「ああ、ジルグだ。よろしく」
「う~…よろしく」
ものすごく納得がいかない顔でなのはが礼を返す。
ジルグの方はというと、挨拶はすれど握手の一つもする気はないようだ。
はやてが順番に面子を紹介していき……
「リインフォースですぅ~ よろしくお願いしますぅ~」
八神はやてのパートナーことリインフォースがはやての陰から飛び出し
ジルグに向かってペコっと頭を下げた。
「…………」
さすがのジルグも絶句したようだ。
してやったりという表情をするはやて
まるでお伽話の絵本から飛び出てきましたと言わんばかりの大きさ
これは当然の反応…
「……これがユニゾンデバイスという奴か。さすがに実際に見ると驚くものだ」
「え! なんで知っとるん!?」
「『管理局の八神はやて』で調べればある程度の情報はわかるからな」
ジルグの住んでいた世界ならばともかく、ミッドチルダにはネットワークも当然普及している
例えば自分を保護することになった人物がどのような人物なのか
完全な情報を求めるというのは無理でも、
便所のラクガキにはしばしば真実が隠されているように(大半はデタラメだが)
情報というのはどこかしらか必ず漏洩するものだ。
ましてやはやてを始めとした、ここにいるメンバーは揃いも揃って有名人である。
ネットワークのない世界から来た人間としては
驚異的なスピードでこの世界に適応しつつあるジルグが
自分の接触した人物に関して調査を行っていたとしても当然であった。
それにしても、と多少感心したようにジルグが感想を返した。
「管理局の主力魔術師の面々に立ち会ってもらえるとは光栄な事だな」
「まぁ別に興味本位で身に来ただけやし、気にせんで訓練してや」
「そうさせてもらう」
「さて、そんじゃ始めるとするか」
ゲンヤの言葉を皮切りにジルグ、ゲンヤ、ギンガは訓練場内に
他の面々は訓練場を見下ろせる部屋に移動した。
最終更新:2010年07月31日 21:23