「さて、一通りのデバイスは準備したがどれを使う?」
「そうだな、まずはこれを試させてもらう」
まずジルグが選んだのは狙撃用のデバイスだった。

「ほう、むこうじゃ狙撃専門だったのか?」
ゲンヤの問いに
「ああ、『もともとは』遠距離狙撃兵だった」
と返すジルグ。
「なるほど、んじゃギンガ説明頼むわ」
「ええ、そのタイプのデバイスは射程が長いですが
その分魔力弾を発射するために多量の魔力を消費します。
それにあまり連射もできません。
まぁ…説明するよりも実際に使ってもらったほうが早いかもしれませんね」
「確かに」
ギンガがコンソロールを操作すると遠くに狙撃用の的が出現する。
「かなり遠いな」
「それはまぁ…そのデバイスの訓練用の的ですからね」
そしてジルグはデバイスを起動させ狙いをつけたのだが……

「あれ? どうみても的じゃないところ狙ってるよね?」
「そやな、あ! も、もしかしてすでに誘導弾が使えるとか!?」
「いや、いくらなんでもいきなりそんなことが出来るってことはないと思うけど…」
心中でおまえが言うな!という突込みをなのはに入れるほかの面々。
そしてジルグは魔力弾を発射したが、当然のように狙いをつけていた明後日の方向に魔力弾は飛んでいった。
「アッハッハッハ! いくら眼鏡掛けてるっていってもありゃねーだろ!」
腹を抱えて笑い転げるヴィータ。
他の者もジルグの意図を測りかねている。

「もしも私の勘が正しければ…次は当てるな」
一斉に視線を集めたのはシグナムである。
「いやー、いくらなんでもそりゃねーだろ
だって、的が見えてるかどうかもわかんねー方向に撃ってるんだぜ?」
「まぁ見ていろ」
ジルグに注目するシグナム。

一方ジルグは数秒間思考し、ギンガとゲンヤに質問を投げかけた。
「魔力弾には重力や空気抵抗の概念はないのか?」

ああ、そういうことか
と、はやて達と同じようにジルグの射撃に疑念を抱いていたゲンヤとギンガは
ジルグの問いの意味を理解した。

全てが石英で構成されるクルゾン大陸の戦闘において
プレスガンの弾も当然石英製である。
しかも形状が四角と四角柱を合わせたような組み合わせで空気への抵抗も強いし
回転しないため軌道も安定し辛い。
そして出力も空気圧である為、魔力弾どころか火薬を使った銃器に対しても射程ははるかに短い。
そこにプレスガンの性能や搭乗者の魔力の大小という要素が加わる。

射程は銃身の長いロングプレスガンや取り回し重視の短銃でもなければ
口径が違わない限り限界性能は変わらないが、
当然の事ながら距離によって射角を微調整する必要がある。
これはゲンヤたちが知っている普通の銃にも言える事で
特にスナイパー用のライフルなどは湿度などにも考慮して狙いを定めなければならない。
だが魔力弾はそのような概念はなく、撃たれた方向に直進する。
魔術師の能力やデバイスの性能によっては誘導能力も持たせられる。
使用感が違いすぎるとはいえ、
ジルグが明後日の方向に銃口を向けたのはある意味当然であった。
「そうだ、魔力弾は撃った方向に飛ぶ。弾道に抵抗の概念は無いといってもいい。
ある程度熟練した魔術師なら撃った弾を誘導させて相手を追わせる事も可能だ」
ゲンヤの説明に「なるほど便利なものだ」とうなずくジルグ。
「じゃあ、次の的を出しますね」
「ああ、わかった」

ギンガの指がコンソロール上を踊り
さっきと少し横にずれた位置に的が出現した。
直後流れるような動きで狙いを定め、タメもなくライフルを発射するジルグ。
魔力弾は寸分違わず的の中心を打ち抜いた。

「やはり、な」
「どうしてさっきは変な方向に撃ったのかしら?」
フェイトの疑問にシグナムは答える。
それは先程ジルグとゲンヤのやり取りと似たようなものだ。
「我々は普段から魔力を使った戦闘をしているから忘れがちだが
本来、弓矢や銃はただ的に向かって撃っても当たらない。
離れた的に当てるためには距離に応じた角度を取らねばならない。
恐らくジルグの世界の銃もそのようなものだったのだろう」
「なるほどぉ~」と感心しきりのリイン。
シグナムの説明でゲンヤたちと同じように納得する面々。
「…ってことはさ」
先程大笑いしていたヴィータが呟く。
「もしかしてとんでもない凄腕って事か?」
「さてな、今のは動いてもいない的だ。まぁこれからわかるだろう」
はやて達は再びジルグに注目した。

「魔力弾の性質とこのタイプのデバイスの性能に関しては大体は理解した。
つまりここにある銃型のデバイスの差異は
あくまで射程と込められる魔力の差ということで合っているか?」
「そうですね、もちろん短銃身のまま高威力長射程を実現することも可能ですが
性能を保ったまま小型化するとなるとコストもかかりますし
何より使用者を選ぶため、量産には向きません。
基本的に使われている銃型のデバイスはその認識であっていると思います」
ギンガの言葉に少し思案したジルグは
「了解した、次は動く的を出せるか?」
「ええ、出来ますよ。距離と数はどうします?」
「距離は中距離で、数は適当でいい」
と言って汎用性の高い中距離型のライフルタイプのデバイスを手に取った。

「今度は動く的みたいね」
「さっきの様子だと楽勝じゃねーか?」
腹を抱えて笑った事をすっかり忘れたように
ジルグの腕前に興味津々なヴィータ。
「恐らくは、な」シグナムも同様の感想を抱いているようだ。

「あっさりだったね」
「こら掘り出しもんかもしれんなぁ」
数体の的を10秒かからずあっさりと撃墜したジルグ。
その腕前にフェイトとはやても感嘆する。
「う~ん、でも今までジルグさん動いてないよね?
実戦だと相手も攻撃してくるし、攻撃されながらあんな風に正確に当てられるかな?」
そう言うなのはの顔はすっかりドS教官の笑みを浮かべている。
どうやら悪い虫が起きてしまったようだ。
「安心しろ高町、どうやら期待に応えてくれそうだぞ?」
苦笑いを浮かべたシグナムが訓練場の方を見やった。

「どうします? 拳銃型のデバイスもありますけど」
「射程的に実戦向きではないな、それよりこの訓練場で実戦的な訓練は可能か?」
「出来ないことはないですけど、まだやめておいたほうが良いですよ。
防御力の高いバリアジャケットを展開させてるならともかく、
その状態で魔力弾を食らったら出力を下げていてもかなり痛いと思いますし」

ジルグが纏っているバリアジャケットは陸士108部隊をはじめとして
多くの部隊で使われている動きやすさを重視した軽装のバリアジャケットである。
もちろん普通の隊員達はこれで任務をこなすのだが
いくら一週間でデバイスを起動させたとはいえ、
ジルグは魔術師としては初心者もいいところだ。
安全面を考えれば、ギンガの心配も当然といえた。
「面白そうじゃねぇか、やってみろジルグ」
面白がってジルグをけしかけるゲンヤ。
「ちょっとお父さん、いくら他人事だからって…!」
無責任…と言いかけたギンガの声を遮ったのはジルグだった。
「確かに面白そうだ、やってくれ」

「お、ホンマにやるみたいやで」
「大丈夫かしら? あのバリアジャケット、陸士部隊の標準品よね?」
「ふむ…これである程度の実戦能力がわかるな」
どうやらAIを搭載したオートスフィア相手の模擬戦をする様子の訓練場を眺める一同。
こちらはこちらで気楽な観戦モードである。
しばらくするとギンガとゲンヤが外に下がり
都市部的な障害物が置かれた訓練場に移るジルグ。
一人残ったジルグの周囲に6体のライフルが装備されたオートスフィアが配置され、
ギンガの声が訓練場に響く。
「では始めますよ、スタート!」

オートスフィアが一斉にジルグに射撃を開始する。
ジルグは近くの障害物に身を隠し、射撃を回避した。
「まずはセオリーどおりか」シグナムが呟く
私なら開始したところでまとめて吹き飛ばすんだけどなー
とか言ってる悪魔の事はみんなで無視することにする。

ジルグを狙ってオートスフィアが障害物に回り込もうとした瞬間、
物陰から銃身とほんの少しだけ体を出したジルグがオートスフィアを一体撃ち抜いた。
そしてオートスフィアが散開して攻撃体制に入る間に距離を取るようにビル郡に体を飛び込ませる。
「確かあのオートスフィアの思考パターンは…」
悪魔モードからようやく戻ってきたなのはが呟く。
「ああいうビル型の障害物に隠れた場合
無理に障害物の中に追って入らずに、対象が飛び出す位置を予測して動くんだよね」
「狭い場所に誘い込まれ、数を生かせない状況で各個撃破されるのを避けるためか」
なのはの呟きにシグナムが応える。
「うん、あのビル群は3列×3の9個だから出口は8箇所
ジルグさんはどの位置から出るかな?」

相手が誘いに乗ってこない以上自分が打って出るしかない
だが数は相手が勝る上に自分一人、陽動などは無理だ。
射程の設定は互角、得意であろう遠距離狙撃は使えない。

「……いた!」
ヴィータの叫びに皆が注目するジルグが飛び出した場所はオートスフィアとだいぶ離れた位置。
目視は出来るが射程は微妙に届かない。
ジルグを発見したオートスフィアが距離を詰めてジルグに向かう。
それを見たジルグはライフルを構え、後方に飛びながらライフルを数回発射した。
オートスフィアに届かず消滅する魔力弾、
最後に放った魔力弾がオートスフィアをカスるも有効射程外であり
大したダメージにはなっていない。
機動力に勝り距離を詰めようとするオートスフィアに対し、
ジルグはまたもビル群に隠れる。

「このままだとジリ貧やな」
はやてが呟く。
「私なら…」シグナムが口を開く
「回り込む方向を予測し、一番近い出口から飛び出して接近戦を挑みますが
武器の性能が同じで数に勝る相手となると…」
そこで言葉を区切り考え込む。

「被弾覚悟で正面から打ち合いを挑むか」
防御力の高いバリアジャケットを装備していたり
高密度の魔力障壁を張れるならそれも可能だろう。

または人間離れした身体能力があるなら、敵弾を避けつつ撃ち合いに持ち込める。
だがジルグを見る限り運動神経は良いようだがあくまで人間基準で良いと言う話であって
通常タイプのバリアジャケット装備で5体の敵に撃ち合いを挑むのは自殺行為だ。

オートスフィアの思考自体は至ってシンプル。
『姿を現した所で有効射程内に接近し敵を撃つ』
だがこの場合、身体能力的にはただの人間であるジルグにとっては
単純な思考そのものが脅威である。
少なくとも観戦している者はそう考えていた。

「また出た!」
ジルグが姿を現した場所は先程と似たような距離。
「無策…か」
誰もがシグナムと同じ感想を抱いた、が…
「え?」
ヴィータが間抜けな声をあげる。
ジルグが行った行為は先程と変わらない。
追ってくるオートスフィアに対し後方に飛びながらライフルを数射する。
だが先程と違うのは…
「先頭のオートスフィアが……落ちた?」
オートスフィアはまだ射撃を開始していない。
つまり有効なダメージを与えられる範囲にジルグはいない。
だがジルグの放った魔力弾はオートスフィアを撃ち抜いた。

「魔法でも使ったのか?」
お前は一体何を言っているんだ?
という突っ込みが入りそうなヴィータの発言に誰も何も言わない。
オートスフィアを撃墜したジルグはすぐさま別の入口に身を隠す。
「何故あんな芸当が出来たのかはわからんが……」
シグナムが一息置いて告げる。
「残りは見る必要がないな、同じ事の繰り返しだ」
その言葉のとおり、まるで記録映像のリプレイでも見ているかのような攻撃が繰り返され
オートスフィアはなす術もなく全滅した。

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最終更新:2010年07月31日 21:25