ブレイクブレイド StrikeS
第9話「入局試験」

「一ヶ月と言うのは意外と早いな」
相変わらず他人事のように呟くジルグ。
彼が立っている場所は管理局内にある入局試験場、
陸戦魔導師Bランク試験のスタートラインである。

筆記の方は先程終わった。
特に問題はないだろう。
むしろ、入局を志して挫折する者が多いのは
この実地試験の方なのだ。

自分をモニターしている画像の前には
この間、訓練場で自分を見物していた連中が揃っている事だろう。
自分の前に試験をした二人組の後始末で多少時間が押しているようだが
特に気にしてはいない。
さて……とジルグは試験の内容を反芻する。
スタートしてから沸いて出るオートスフィアの攻撃を潜り抜け
決められたターゲットを撃破し、時間内にゴール地点に到達する。
ルールは至ってシンプルだ。

手持ちのストレージデバイスは標準的なミッド型カートリッジ式ライフルの銃身に
近接攻撃用であるベルカ式のダガーを組み合わせたもの
バリアジャケットは標準レベルの強度だが
特定方向からの攻撃を防ぐための魔力障壁展開用に
左腕にシールド状の補助デバイスを装備している。
展開範囲は大きくないが、試験で出てくる敵相手の攻撃なら
ピンポイントで防御すれば十分防げる。

ジルグの前の組であるティアナとスバルの試験を終えて
戻ってきたなのは達を含め、
モニター室にはジルグの想像通りの面々が揃った。
「さて、無事にあの子らも試験を終えたことやし
そろそろジルグさんのお手並み拝見といこか……」
楽しそうに呟くはやて。
ジルグの魔力ランクはA+ランクである。
強力なデバイスを渡せばジルグの事だ
あっさりと使いこなし、簡単に試験に合格するだろう。
だが、あえてはやてはジルグに魔力ランクを知らせずに
出力に制限のある標準タイプのストレージデバイスを使用させることを選択した。
実戦の場において最後にものを言うのは経験と技量である。
ただ大きいだけの魔力を考え無しにばら撒いて戦っても
それでは最終的に事態を収束させることは出来ても
味方や周囲へ甚大な被害が出てしまう。

前回の訓練で、ジルグが並々ならぬ技量を持つことはわかった。
今日はそれをさらに拡大させてジルグの技術を試すためのもので
実際のところはやてとしてはジルグが合格するか否かと言うのは
さほど重要なことではなかった。

「じゃあジルグさん、用意はいい?」
「いつでも良い、始めてくれ」
「じゃあいくよ……スタート!」
なのはの声が試験場に響いた瞬間
ジルグがライフルを携えて疾走を始める。

「相も変わらず見事な腕だ」
ザフィーラが感嘆の声を漏らす。
今のところジルグの被弾は0。
移動の妨げになるオートスフィアとターゲットのみを
射程に捕らえた端から撃破している。
「いいルート選択だね」
フェイトの言う通り、ジルグは頭に叩き込んだルートから
敵の抵抗とゴールまでの距離を計算した上で
最適なルートを進んでいた。
自分にとっては迎撃が容易で身が隠れやすいルートを選択し
足を止めずに走ることでタイムを稼いでいく。
最もスバルのマッハキャリパーのような補助推力を持たないジルグとしては
必然的にそうせざるを得ないのであるが……

「後ろに目がついてるみてーだな」
ヴィータが評するように、死角に回り込もうとするオートスフィアは優先して撃墜している。
だがそれ以上に特筆すべきことは、必要以上のオートスフィアを撃破しようとしないことである。
後方にいても攻撃範囲外であれば無理をして迎撃せず
前進し、障害物を利用することで距離を離して攻撃そのものを無効化する。
こうすることで何よりもカートリッジの消耗を防ぐことが出来る。

「ここまでのタイムはあの二人よりずっと早い、さすがだね」
ストップウォッチを片手になのはが呟く
「さてと、一つ目の難関。ジルグさんはどうやって突破するかな?」

一つ目の難関、それはビル上の死角に本体が設置された固定砲台型のオートスフィア
ジルグ用にとわざわざ用意したはた迷惑な代物である。
まだ空を飛ぶ手段を持っていないジルグにとっては厄介な敵だ。
固定砲台からジルグの頭上に向かって魔力弾が降り注ぐ。
「ちっ……」
やむを得ず前進を止め、遮蔽物に身を隠しつつ砲台に向かって射撃する。
だが、魔力弾は砲身に当たるが新たな砲身が現れてジルグを狙う。
「…………なるほど」
ババババッ!
物陰からライフルを連射するジルグ。
砲台を逸れて抜けるかと思われた魔力弾は
急速に角度を曲げ、数発が命中しオートスフィアは破壊された。

魔法を使用するにあたって、重要な要素の一つがイメージ力である。
飛行魔法にしても、どれほどの速度でどのように飛びたいのか?
それらを上手くイメージできなくては、浮くことが出来たとしても
運転経験のない人間がいきなり車を運転するようなもので
基本的に上手くいくはずがない。
だが自分のイメージを魔力を通して石英靭帯に伝え、
ゴゥレムを動かし戦闘をしていたジルグにとっては
用いる道具と性能が変わり、出来ることが増えただけのことだ。

「誘導弾は既に使えるようになっていたようだな」
「でもさっきまで全然使ってなかったのは何でだ?」
ヴィータの疑問になのはが応える。
「あのデバイスで撃てる魔力弾だと誘導に魔力を割くと
一発で相手を撃破出来なくなるからね。
出来るだけカートリッジを温存しておきたかったんじゃないかな」
「そして使うべきところでは躊躇なく使った、か」
「なかなかやるね、でもまだ試験は終わってないよ」

再び走り出すジルグの前方に広場が現れる。
そして広場の中央にある大型のオートスフィアにはご丁寧にシールドが設置され
無数の魔力弾が周囲に発射されていた。
「これを全て避けるのは難しいな。
テスタロッサクラスの機動性があるなら容易だろうが…
時間を掛ければ後ろから残したオートスフィアが追いついてくるか。
さてどうする?」
「んなもん一気に突っ込んでぶっ壊しゃ……」
ヴィータがシグナムに言うが早いが……
「本当に突撃した!?」
フェイトが驚きの声をあげる。
足を止めず、身を低くしたジルグはシールドデバイスに魔力障壁を展開させ
一直線に大型オートスフィアに向かって突っ込んでいった。
当然被弾はする、が身体にはせいぜいカスる程度だ。
魔力弾のほとんどは魔力障壁によって阻まれる。
そのまま一気に距離を詰めたジルグは
大型オートスフィアの横を、すれ違い様にダガ―で斬り抜け撃破した。

「なるほど英断だ」
「ホントに突っ込みやがったよ……」
頷くシグナムと呆れるヴィータ。
だが、時間制限を考えれば確かに英断だ。
無数の魔力弾をいちいち避けていてもいずれは被弾する。
逆にいえば攻撃が来る場所さえわかっていれば
防ぐ手段を持っているのだから被弾を恐れず進めばいい。
あとは度胸の問題だ。
「どうやらヴィータちゃん並の度胸は持ってそうよ?」
と可笑しそうに言うシャマル。
「むぅ……」
自分の発言直後にやられたのだからヴィータも黙るしかない。

「残り時間は……余裕だね」
「意外とあっさりやったな」
多少ペースを落とし、ゴールに向かうジルグ。
自分でも大体の残り時間はわかっているのだろう。
「ふう……」
ジルグは身体的には体内に変な細胞が繁殖していたりナニカサレタり
特別な血を引く勇者だったりはしないただの人間である。
さすがにあの距離を連続して走り続ければ息も切れるだろう。
息絶え絶えと言うほどではないが、
ゴールした後呼吸を整えるのに多少の時間を要した。

「おめでとさん、バッチリやったで」
「それはよかった」
誰にとってよかったのか、
というニュアンスも含めてはやてに言葉を返すジルグ。
「おめでとう、ちょっと想像以上だったわ」
「流石だった、大したものだ」
「やったな! なかなかやるじゃねーか」
賛辞を送る面々を見つつ
「つまんないなー、色々『教えてあげられる』と思ったのになー」
と気のせいかドス黒いオーラが見えそうになっている者もいるようだが
きっと気のせいだろう。

こうしてジルグは無事Bランク試験に合格した。
これで期待の新人達も含め、機動六課は順調な船出を迎えられそうだ。
はやてはそう思っていた。

……だがその期待は他ならぬジルグ自身によって粉々に砕かれることになる。

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最終更新:2010年08月01日 22:31