「はあぁぁっ!」

ディケイドは裂帛の気合いと同時にライドブッカーを大きく振り上げて、サリスワームの硬い皮膚を横一文字に斬り裂いた。
左肩から右脇腹には火花が迸り、体勢を大きくぐらつかせる。その隙を狙って、ディケイドは左足による鋭い前蹴りを腹部に放った。
八トンの衝撃によってその巨躯は呆気なく吹き飛んでいき、容赦なく地面に転がっていく。
その直後、彼の背後からはモールイマジンが飛びかかり、鋼鉄の爪を振るおうとした。
しかしディケイドは瞬時に振り向いて、ライドブッカーを横凪に振るう。
空気が裂かれ、異なる材質で出来た互いの得物が激突し、甲高い音が鳴り響いた。
衝撃は互いに伝わっていき、モールイマジンは怯んでしまう。しかしディケイドは何事もなかったかのように、勢いよく刃を振るった。
モールイマジンの皮膚をジャケットごと斬って、力を込めて左胸を突き刺す。そのままディケイドはライドブッカーを引き抜いて、再度斬りかかった。
激痛によってモールイマジンは蹌踉めき、数歩後退ってしまう。
そのまま異形の身体が爆発する様子には目を向けず、ディケイドは北西の方向を目掛けて前進する。
そしてライドブッカーの煌めく刃を用いて、ラットファンガイアの胴体を斜め上から斬り裂いた。
そこから流れるような勢いで得物を横薙ぎに振るって、皮膚に傷を付ける。
ラットファンガイアの巨躯が衝撃によって遠くに吹き飛んでいくのを確認すると、彼は別の異形に目を向けた。
視界を切り替えるのと同時に、ライドブッカーを腰に戻す。
蓋を横に開いて、一枚のライダーカードを取り出した。
それには、ワームと戦い続けた赤い仮面ライダーの顔が描かれている。

『KAMEN RIDE』

ライダーカードをディケイドライバーの上部に挿入した。
『KAMEN RIDE』の文字がベルトの中央に浮かび上がり、電子音が発せられる。
それにより、いつの間にか開いてしまったサイドハンドルを再び押した。

『KABUTO』

同じ音程の声が、ディケイドライバーから鳴り響く。
その直後、サイドハンドルに埋め込まれた六つの宝石が光を放ち、カブトの世界を象徴するマークが浮かんだ。
腰に巻かれたベルトからはタキオン粒子が噴出され、ディケイドの身体を包み込む。
粒子は一瞬でヒヒイロノカネと呼ばれる物質に変換され、それを元に装甲を精製する。
やがてディケイドの全身は、ベルトを除いて完全に形を変えていった。
そして、顎からは角が真っ直ぐにせり上がり、瞳が輝きを放つ。
天に向かって力強く伸びたカブト虫を思わせる一本角、角によって仕切られている青い複眼、太陽のように赤く染まった装甲、四肢を守る銀色のプロテクター、脚部を包む漆黒の特殊スーツ。
今のディケイドの姿は、宇宙より現れた人類に牙を向けた異形、ワームと戦った仮面ライダーに酷似していた。
機密組織ZECTによって生み出され、太陽の神の名称を与えられた戦士、仮面ライダーカブトの姿に。
その名を、仮面ライダーディケイド・カブト・ライダーフォーム。
ディケイドカブトへと姿を変えた彼は、ライドブッカーから一枚だけカードを出す。
それが示すのは、カブトの世界に存在する仮面ライダーが使うことを許された、時間流を自在に行動できるようにする加速能力。

『ATTACK RIDE CLOCK UP』

先程のように、ライダーカードをディケイドライバーに差し込む。
ベルトにはカブトの世界のマークが再び浮かび、人工音声が発せられた。
それによってディケイドカブトの全身に、大量のタキオン粒子が流れていく。
全ての神経と血液に駆け巡った直後、彼の運動速度は一気に上昇していた。
ディケイドカブトは剣を構えるように、ライドブッカーを握る。
そのまま彼は、素早く地面を蹴って疾走を開始した。
――それはまるで、仮面ライダーカブトへと変身したソウジのように。

「ふんっ!」

目の前で群がる怪人達の皮膚を、気合いと共に切り裂く。
ディケイドカブトが薙ぎ払う得物の衝撃によって、異形の巨体が次々と宙に浮かんだ。
その姿は、客観的からは一陣の鎌鼬にしか見えない。
これは、カブトの世界に存在する組織ZECTが生み出した、クロックアップを模した力。
他者には視界に捉えることすらも、不可能とさせる程の速度で戦闘を行う。
故に、超越した速度を持つディケイドカブトに反応することなど誰にも出来なかった。
怪人達の間を縫うように、真紅の影となった彼は凄まじい速度で駆け抜ける。
同時にライドブッカーを左から右、上から下へと自由自在に振るった。
刃で切り裂かれたことにより、怪人達の皮膚からは次々と火花が飛び散る。

「んっ!?」

その最中、ディケイドカブトの発達した聴覚が、複数の足音がこちらに近づいてくるのを察知した。
振り向いた先からは、数匹の異形が姿勢を低くしながら駆け抜けている姿が見える。
それはディケイドカブトの元であるライダー、カブトの世界に存在する怪人、ワーム。
超高速の世界への介入を可能とする能力、クロックアップを使用したワームは皆、殺意を込めた視線を向けている。
しかしそれで狼狽えるようなことはせずに、ディケイドカブトも怪人達を睨み付けた。
まず最初に、迫り来るジオフィリドワームの拳をライドブッカーで弾く。
激痛によって、ムカデを彷彿とさせる姿の異形は体勢を崩した。
その隙を逃さずに、ディケイドカブトは刃を腹部に狙いを定めて、縦に振り下ろす。
勢いが衰えないまま、そのまま得物を横に薙ぎ払った。
敵が吹き飛ぶ姿に目を向けず、ディケイドカブトは疾走を続ける。
クロックアップの世界の中で、彼は周囲を囲っているワーム達を相手に剣を振るい続けた。
前方に立つランピリスワームには、諸手突きを。
左より迫るアラクネアワーム ルボアの拳を払い、胴体に袈裟切りを。
右から迫り来るアラクネアワーム フラバスの攻撃を、身体を横にずらすことで避ける。
そこから瞬時に異形の皮膚を、横一文字に切り裂いた。
周りにいたワーム達に攻撃を与えたディケイドカブトは、ライドブッカーを腰に戻す。
箱の蓋を開き、ライダーカードホルダーから、カードを手に取った。
それに描かれているのは、金色に輝くカブトの紋章。

『FINAL ATTACK RIDE』

ライダーカードをディケイドライバーに挿す。
『FINAL ATTACK RIDE』の文字が、バックルの中央に浮かび上がった。

『KA、KA、KA、KABUTO』

クロックアップの世界に、機械音声が響く。
ディケイドライバーにカブトの紋章が浮かび上がった瞬間、大量のタキオン粒子が噴出された。
青白い稲妻の形を取ったそれは、音を鳴らしながらディケイドカブトの全身を通って角へ流れる。
到達した瞬間、粒子の塊は来た道を戻るようにベルトを通り過ぎ、そのまま右足へ向かった。
膨大な力が足に纏われていくのを、ディケイドカブトは感じる。
その瞬間、彼は左足を軸としながら背後に向かって身体を大きく翻した。
振り向いた先には、こちらに飛びかかってくるレプトーフィスワームの姿が見える。
紫色の皮膚に染まった怪人が反応する暇も与えず、ディケイドカブトは強烈な回し蹴りを叩き込んだ。
――それはまるで、仮面ライダーカブトへと変身した天道総司のように。

「ギャウッ!?」

ワームの口から、醜い悲鳴が漏れた。
必殺の一撃を受けたことによって、レプトーフィスワームの皮膚から体内へと、タキオン粒子が一気に流れ込んでいく。
そのままワームの身体は、ディケイドカブトの蹴りによって左に大きく吹き飛んでいった。
レプトーフィスワームの巨体が、勢いよく地面に叩きつけられる。
それを合図とするように、ディケイドカブトの周りで群がっていたワーム達の身体は、派手な轟音と共に粉砕された。
凄まじい熱風が吹き荒れる中、クロックアップの時間が終わりを迎え、彼は元の世界へ帰還する。
自身の速度が通常の状態に戻るのを感じると、ディケイドカブトの鎧は音を立てて崩れていく。
体の表面を覆っているヒヒイロノカネは分解され、その姿はディケイドの物に戻った。
元の形態に戻った彼は、剣を持つようにライドブッカーを再び構える。

「デヤァッ!」

ディケイドから少し離れた位置では、シンケンレッドが使い慣れた己の武器を手にして、怪物達を斬り捨てている。
両手で握るシンケンマルを振り上げて、その刃でサリスワームの胸部を縦に斬り裂く。
ワームが怯んだその隙を突いて、彼は遠心力に任せて素早く横に刀を振るった。
その衝撃によって、サリスワームは遠くに吹き飛んでいく。数秒の時間が経過した直後、轟音と共にその体が粉砕されてしまった。
瞬間、爆風は周囲に広がり、群れを成している異形を次々と飲み込む。それによって、数十匹のモールイマジンとナナシ連中もまた、命を散らせた。
連鎖的に爆発が起こる現象に気を取られずに、シンケンレッドは武器を構える。
彼の視界は、闇の中より新たに姿を現したグロンギを捉えていた。
バッファローのような逞しさを持つ二本の角、赤い輝きを放つ瞳、大量に生えた顎鬚、異様なまでに発達した土色の筋肉、多くの装飾が付いた全身を覆っている外骨格、腹部に装着されたグロンギを象徴する印、両手首に巻かれた汚れの付いた白い布。
警察からは「未確認生命体第45号」と呼ばれて、過去に地下街の出入り口を塞いで多くの人間を虐殺した怪人だった。
グロンギの中でも上位の実力を持つ証明である「ゴ」の位を与えられたその怪人の名は、ゴ・バベル・ダ。
シンケンレッドの鋭い視線を真っ向から浴びているバベルは、異形の顔面の下で笑みを浮かべていた。
この軍勢を相手に、リント達は一向に怯むことなく立ち向かっている。
そして赤い装甲に包まれたリントの戦士が、自分の前に現れた。
これだけの戦力差がありながら切り抜けたのなら、自分の相手に相応しい。
欲を言うならば、別世界からやって来たと言われるもう一人のクウガと戦ってみたかったが、それは後の楽しみとして取っておこう。

「来い、リントの戦士……『スーパー戦隊』」
「…………」

バベルは呟くが、シンケンレッドは特に何も返さない。
互いの鋭い視線が、ほんの一瞬だけ交錯する。そこから先に駆け出したのはシンケンレッドの方だった。
彼は息を吐きながらシンケンマルを斜めに振るい、バベルの硬い皮膚を斬ろうとする。
しかしバベルは全身の重心を左にずらして、難なく避けた。
シンケンレッドはそれを気にせず、疾風の速度でシンケンマルを振るい続ける。
まず初めに胸部を狙って横に斬りかかった。
金属同士のぶつかる高い音が周辺に響き、重厚な鎧に傷が刻まれる。
続けるように同じ場所を目指すように、シンケンマルで突きを繰り出す。
バベルが反応する暇すらも与えずに、刃はあっという間に突き刺さった。
その衝撃によってバベルは微かに怯んでしまい、呻き声を漏らす。
シンケンマルを握る腕を素早く引いて、鎧の中央を縦に斬ろうとする。
頑丈そうな鎧といえど、一箇所を集中的に狙えばヒビが入り、決壊するはずだ。
それを狙ってシンケンレッドは三発目を放とうとするが、それが届くことは無かった。

「ッ!?」
「悪くはないな、リント」

シンケンマルの刃先が届こうとした直前、バベルはそれを受け止めて、勢いを止める。
シンケンレッドの視界には、その光景が映っていた。
振りほどこうとしても、全くビクともしない。
その最中、シンケンレッドの頬に強い衝撃が走り、視界が空へ向く。
自分が殴られたことを理解する中、彼はふらふらと数歩だけ後退ってしまう。
それでも何とか意識を保ち、すぐに体勢を立て直す。
微かにぼやけた視界は、悠然と佇むバベルの姿を捉えていた。

「良いだろう、面白い!」

短い怒号と同時に、バベルの両眼と筋肉が黒く染まる。
それに伴うかのように全身の骨格も大きさを増して、両肩からは一組の角が飛び出していく。
これは、ゴの称号が与えられたグロンギの中でもほんの僅かしか出来ない、形態変化の能力だった。
通常の格闘体から、全ての力を解放した剛力体の形態へと、バベルは姿を変える。
その直後、先程シンケンレッドが与えた胸の傷が、何事もなかったかのように消え去っていた。
唐突な現象によってシンケンレッドは胸中で微かな驚愕を抱いたが、それを表に出すことはしない。
姿を変えたバベルは、胸板に付けられた装飾品を一つだけ外す。
左手の中に納められたそれは、一気に大きさを増していき、数秒も経たない内に金槌の形に変貌した。
巨大なハンマーを両手で構えながら、バベルはゆっくりと歩み始める。
それに対応するためにシンケンレッドは、シンケンマルに装着された秘伝ディスクを、右手で勢いよく回した。
回転と同時に刀身から光が放たれ、巨大化していく。
モヂカラが流れ込むことにより、火の文字と富士山の模様が刻まれた大剣、烈火大斬刀へと瞬く間に変形していった。

「烈火大斬刀!」

叫びと同時にシンケンレッドはバックルを開いて、赤い色を持つ秘伝ディスク、獅子ディスクを取り出す。
自身の身長ほどの長さを持つ烈火大斬刀にそれを取り付けて、両手で力強く握った。

「ほう……?」

予想外の現象にバベルは足を止めて、シンケンレッドに感心したような呟きを漏らす。
だがその直後、彼もまた己の武器を力強く構えた。
シンケンレッドとバベルは冷たい闇の中で、再び互いの顔を睨み合い、勢いよく地面を蹴る。
彼らは自らの巨大な得物を大きく横に振り上げて、勢いよく斬りかかった。
鋭い金属音が聴覚を刺激し、激突した部分からは火花が飛び散っていく。
そこから鍔迫り合いの体勢になり、互いに全ての力を両腕に込めて押し合う。
その力比べが長く続くことは無く、彼らは同じタイミングで後ろに跳んだ。
微かに距離が開いてから、先手を打ったのはシンケンレッドの方からだった。

「ハアッ!」
「フンッ……!」

気合いと共に、烈火大斬刀を横からバベルに叩き込む。
しかしバベルはそれを金槌で防ぐと、大剣を一気に押し返した。
シンケンレッドは僅かに蹌踉めいてしまい、数歩後退ってしまう。
バベルはその隙を逃すことはせず、敵を砕かんとハンマーを振り上げた。
シンケンレッドはすぐに体勢を立て直し、迫り来るバベルの攻撃を刀身で防ぐ。
その途端、烈火大斬刀から鈍い衝撃が伝わり、彼の両腕を通って全身に流れ込んだ。

「グッ……!?」

あまりの重量でシンケンレッドは呻き声を漏らすが、必死に耐える。
速さこそは互角だが、一撃の威力ではバベルに分があった。それでも渾身の力を込める。
その甲斐があってかシンケンレッドは力比べに打ち勝ち、バベルの身体を吹き飛ばす。
姿勢が崩れた隙を付いて、烈火大斬刀の刃先を堅牢な装甲に突き刺した。
バベルの胸部からは火花が飛び散り、衝撃によって微かに怯んだ。
それで止まることはせずに、シンケンレッドは烈火大斬刀を振るい続ける。
対するバベルも負けじと、己の持つ巨大な得物で迫り来る攻撃を受け止め続けた。
シンケンレッドが烈火大斬刀で斬りかかるたびに、バベルはそれをハンマーで弾く。
バベルがハンマーで敵を叩き潰そうとしても、シンケンレッドは烈火大斬刀の刀身で防ぐ。
鍛え抜かれた強者たる彼らの戦いは、自らの誇りとも言えるような武器同士が激突することを繰り返すだけで、未だに決定打の攻撃を放つことが出来ない。
それでも、休むことなく互いに得物を振り続けていた。

「GOAAAAAAAAAA!」

シンケンレッドとバベルが幾度となく金属音を鳴らしている中で、無数の怪人達は叫び声をあげ続けている。
しかしそれに臆する者は一人たりとも存在しない。
その事実に怪人達は苛立ち、より強い殺意の感情を表すように地面を駆け抜ける。
そんな異形の群れを目掛けて、キュアピーチは姿勢を低くしながら全力で突っ走った。

「だあああああぁぁぁぁっ!」

冷たい空気を震わせるような咆哮を、彼女は喉の奥から発する。
そのまま怒涛の勢いで群れの中に飛び込む直前に、拳を作るように右手を握り締め、顎を軽く引きながら腰を右に回す。
そこから一歩だけ踏み込むと、脇を締めながら拳をサリスワームの胸部に叩き込んだ。
神速の勢いで放った一撃で、二メートルを超えるその巨躯を突き飛ばすと、キュアピーチは視線を別の敵に移す。
その先には多種多様の外見を持つ異形の群れが、少女を睨み付けながら己の武器を構えていた。
モールイマジンとラットファンガイアが同時に爪を浴びせようとするが、キュアピーチは決して臆することはせずに、身体を後ろに反らす。
彼女が体勢をずらしたことによって、二つの凶器を掠めることもなく避けることに成功した。
その瞬間、キュアピーチは両足で地面を蹴り、凄まじいほどの速度でモールイマジンの懐に潜り込む。
そして勢いが衰えぬまま、胴体を狙って左膝を振り上げた。
キュアピーチの放った飛び膝蹴りの衝撃によって、モールイマジンは体内に蓄積された酸素を吐き出してしまう。
それによって怯む様子に目を向けずに、ラットファンガイアの立つ方に顔を向ける。
数歩ほど離れた距離を一瞬で詰めながら、流れるように左腕の肘を打ち付けた。
助走によって通常より威力を増したエルボーによって、ラットファンガイアは遠くへ吹き飛んだ。
しかし、それで敵の攻撃が止まることはない。キュアピーチの周りを囲む怪人達は、一斉に飛びかかってきた。
三六〇度全ての方向から迫る異形の数は、二桁を優に達している。
それでもキュアピーチは狼狽えることなどしない。
彼女は頭上を見上げながら、ゆっくりと膝を下げる。
怪人の群れはキュアピーチを目掛けて、反応する暇も与えないように攻撃を放った。
しかし彼女を捉えたはずの攻撃は、空を切るだけになってしまう。
数多くの拳と凶器が命中しようとした瞬間、キュアピーチの姿が突然消えてしまったからだ。
地面に着地した怪人達が貫いたのは、彼女の残像のみ。
次の瞬間、攻撃に加わっていた一匹のレイドラグーンの首に衝撃が走り、大きく横へ吹き飛んでいく。
それはほんの瞬く間に上へ高く跳躍し、怪人の死角へ回り込んだキュアピーチの回し蹴りによるものだった。
続くようにキュアピーチは、四肢を用いた攻撃を次々と敵に放つ。
自分の周りを囲っていた怪人達の間を縫うように、一筋の影となる勢いで駆けながら。
その最中、迫り来るラットファンガイアの爪を、キュアピーチは身を捩りながら左に回避する。

「やあっ!」

そこから気合いと同時に、固く握りしめた拳でラットファンガイアの左肩を叩いた。
微かな悲鳴と共に、パンチの威力によって巨体が倒れる。
右足を軸にして、流れるように全身を大きく回転させると、キュアピーチは左に立つ怪人に見向いた。
この場にそぐわないような白に彩られた筋肉、ゴキブリを思わせる額から生えた二本の触覚、悪魔を連想する醜悪な顔面、全身の至る所から生えた棘、鋭く尖った両手の爪。
その怪人は全てのアンデットを封印したブレイドの世界で、邪神フォーティーンの力を得ようと企んだアルビノジョーカーの尖兵、アルビローチ。
アルビローチはキュアピーチに迫りながら、発達した白い右腕を勢いよく掲げる。
乱暴に近づいてくるその拳を前に、キュアピーチは姿勢を左にずらして避けた。
彼女はアルビローチの側面へ回り込むと、勢いよく踏み込みながら右フックを放つ。
空気を裂くような速度で突き出された拳は、異形の肩に命中し、衝撃によって身体を蹌踉めかせた。
続くようにキュアピーチは鋭い視線で、他のアルビローチに振り向く。
東の方向より距離を詰めてくる白い異形は左手を繰り出すが、キュアピーチは姿勢を低くすることでそれを避けた。
しかしそれで終わることはなく、彼女の周りで群がっている醜悪な怪人達が攻撃を仕掛けようと、襲いかかってくる。
同時に、常人ならば恐怖のあまりに一瞬で失神してしまうほどの殺気も放たれていた。
だがキュアピーチはそれを真っ向から浴びながらも、ゆっくりと構えを取る。
そして、目の前まで迫ってきた怪人達に、両手両足を余ることなく使った打撃を打ち付けた。
まず、サリスワームの巨大なかぎ爪を左側に回ることで避ける。
すぐにキュアピーチは延髄を目指して、大きく回し蹴りを放った。
容赦のない一撃目によって、サリスワームの身体は地面に叩きつけられていく。
そのまま続くようにキュアピーチは二撃目の拳を、神速の勢いでレイドラグーンに振るう。
彼女の拳が硬い皮膚にぶつかる音が響いた瞬間、レイドラグーンの身体が遠くへ飛ばされていった。
次の瞬間、キュアピーチは背後から殺気が放たれているのを感じ取る。
それは、世界制服を企んだ謎の秘密結社、ショッカーのナノロボット技術によって生み出された戦闘員によるものだった。
薄汚れた金色に輝く鉄仮面、眉間から左右に伸びた二本のアンテナ、漆黒の複眼、胸と四肢に備わったプロテクター、銅色のラインが入った黒の戦闘服、首に巻かれた黄色のマフラー、腰に顕在する銀色のベルト、その中に埋め込まれた風車、両手と両足を包むグローブとブーツ。
ショッカーの裏切り者である、仮面ライダー1号と仮面ライダー2号を始末するために生まれたその兵士の名は、ショッカーライダー。
一切の暖かみの感じられない無機質な目を向けながら、ショッカーライダーは拳を握り締める。
そのまま腰を捻り、生まれた反動と共にストレートを放った。

「――ッ!」

標的となったキュアピーチは、後ろより迫りくる一撃の気配を感じ取る。
空気を裂くような音を捉えた彼女は、体の姿勢を素早く右にずらす。
それによってショッカーライダーのパンチは、キュアピーチの髪を掠めるだけに終わった。
ショッカーライダーは攻撃を避けられた直後、隙を見せないために全身を一回転させる。
そして、亡霊のような冷たさが放たれている黒い瞳を、キュアピーチに向けた。
その直後、ショッカーライダーの横に並ぶように、闇の中から新たな異形が姿を現す。
横一列に整列するそれら全員が、ショッカーライダーだった。
同じ仮面を被り、同じ装甲で四肢を守り、同じグローブとブーツを身につけており、同じ漆黒の両眼をキュアピーチに向けている。
全員が全員、似たような格好をしているので、彼女は薄気味悪さを覚えてしまい、眉を顰めた。
僅かに違いがあるとするならば背丈のみだが、それでも嫌悪を抱くことには変わらない。
六体のショッカーライダー達は、同時に地面を走り出し、左右へ三対三で分かれた。
左から迫る一体目のショッカーライダーは、無言で拳を打ち出す。
キュアピーチは真横に飛ぶことによって、回避に成功。
両足が地面に着いた途端、上空より迫り来る気配を感じる。
首を上げると、十五メートルもの高さまで跳躍した二体目のショッカーライダーが、左足をこちらへ真っ直ぐと向けていた。
弾丸の勢いで迫り来る蹴りを見て、キュアピーチは上半身を後ろに反りながら、地面を勢いよく蹴る。
そこから両手を地表に付けて、両肘を曲げた。
生じる反動を利用して、後方転回を行う。彼女の視界が、空と大地で目まぐるしく何度も切り替わっていく。
その動作を数回繰り返し、キュアピーチはショッカーライダーから数メートルほど距離を取った。
ショッカーライダーのキックが地面を砕く一方、キュアピーチは体勢を立て直す。
だがその途端、二体のショッカーライダーが脇を締めながら、それぞれ左右から飛びかかってきた。
迫り来る二つの拳を見たキュアピーチは、微かに膝を屈める。
体勢が低くなった彼女の頭上では、標的を失ったショッカーライダーの鉄拳同士が激突。
衝撃によって火花が散り、何かが砕けるような鈍い音が響いた。
その隙にキュアピーチは両手を強く握って、ショッカーライダー達の鳩尾に向かって勢いよく放つ。
彼女の一撃によって、敵は宙に飛ばされていき、大きく地面を転がった。
一方で、五体目のショッカーライダーが土に倒れた仲間の上を跨ぎながら、標的を始末するために前進している。
そのまま真っ正面から突撃を開始し、身体を回転させながら、キュアピーチを狙ってストレートを繰り出した。
遠心力によって威力を増した左の拳は、容赦なく迫り来る。
しかしキュアピーチは、体勢を微かに右へずらすことでそれを避けた。
ショッカーライダーの拳がほんの一瞬で、視界の横を通り過ぎていく。
そこから彼女は間髪を入れずに左手で敵の手首を取り、右手で腕を掴んだ。

「でやああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

雄叫びの声と同時に、キュアピーチはショッカーライダーの身体を高く振り上げると、背負い投げのように投げ飛ばす。
華奢な外見からは想像できないほどの力によって宙を舞った後、六体目のショッカーライダーに激突し、二体揃って地面に倒れた。
それを見たキュアピーチは微かな隙が出来たと確信して、両腕を頭上に向かって真っ直ぐ伸ばし、音を鳴らしながら手の平を合わせる。

「悪いの悪いの、飛んでいけっ!」

強い力が込められた魔法の言葉を口にしながら、腕をゆっくりと下ろしていく。
そのまま胸の前までに持っていくと、両手でハートの形を作った。
キュアピーチは意識を手の平に集中させる。彼女の中に込められた力は暖かい光へと変わり、周囲に溢れ出した。

「プリキュア――!」

キュアピーチは言葉を紡ぎ続ける。
周囲の闇を照らすような桃色の輝きは、より一層増していく。
それは初めてプリキュアに変身し、ラビリンスとの戦いに身を投じたあの日から、数え切れないほど放ち続けた愛の光。

「ラブ・サンシャイィィィィィンッ!」

気合と共に両腕を前方に向かって大きく広げる。
それによってキュアピーチの手中に蓄積されてきたエネルギーは、一気に開放された。
愛の力を原料とした光は辺りに拡散すると、異形の集団を次々と包み込んでいく。
彼女の放った魔法の輝きは、敵に回避する暇も防御する暇も与えなかった。
眩しい光の奔流に飲み込まれた怪人達の身体は、瞬時に浄化されていく。
彼女の周囲で群がっているアルハザードの怪人達は、世界を覆いこんでいる闇を素材として生まれた存在。
言うならば、かつてプリキュアと戦ったラビリンスが生み出した、人々に不幸を植えつけるナケワメーケを初めとした魔獣に近い。
故に、キュアピーチの放った光を浴びてしまえば、消滅するしかなかった。
数が三十を超えていた集団を浄化した彼女は、すぐさま別の敵に振り向こうとする。
しかし足を動かそうとした途端、空気を震わせるような轟音が響き渡り、鼓膜が刺激された。

「はっ!?」

キュアピーチが立つ地面の両脇からは、突如として数本の火柱が勢いよく昇り、膨大な熱気が肌に刺さる。
土が容赦なく抉られていき、辺りに砂煙が舞い上がった。
次々と吹き荒れる爆風によってツインテールが流され、発生した炎が面積を増していく。
そんな中、キュアピーチは両腕で顔を暴風と熱から守りながら、上空を見上げた。

「SYAAAAAAAAAAAAA!」

視界の先では、暗雲で覆われている天空を背に、シビトゾイガーとドビシの群れが咆吼を発していた。
巨大な両翼を広げている異形の軍勢は、獰猛な野獣のような瞳で地面に立つキュアピーチを睨み付けている。
シビトゾイガー達は叫びと同時に大きく口を広げ、勢いよく球状の噴気を吐き出した。
膨大な熱量を持つ破壊光弾ゾイガバルは、大地を容赦なく焼き続ける。
嵐のように空から降り注ぐ炎の間で、キュアピーチは助走を付けて走り出した。
彼女が駆け抜けた場所は瞬く間に、シビトゾイガーの放つ光弾によって次々と爆ぜていく。
その餌食とならないように、キュアピーチは疾走の勢いを一気に上げた。
降りかかる火炎は爆音を鳴らし、ラインを作るように背後から迫り来るが、それを全力で振り切る。
やがて何度目になるか分からない駆け足の後、彼女は両足で力強く踏み込む。
それによって、膨大な推力が生まれるのをキュアピーチは感じた。

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

花火を思わせる程の爆音をかき消すような咆吼と共に、反動を利用して地面を蹴る。
空気が破裂する音が鳴った瞬間、キュアピーチの姿は地上から消え去っていた。
そのまま彼女は流星のような勢いで、真上に向かって突き進んでいく。
一メートル、十メートル、五十メートル、百メートルと、留まることを知らない。
凄まじい速度で地上から離れていくことによって、キュアピーチの鼓膜が大きく震え、視界に捉える異形の姿が徐々に肥大する。
無論、そんな彼女を黙って見ているわけはない。空に羽ばたくシビトゾイガー達はキュアピーチを狙って、触れた物全てを破壊する火球を放った。
着弾しようとした瞬間、キュアピーチは空中で左腕を横一文字に振るう。
それによってシビトゾイガーの放った炎は崩れてしまい、火の粉となって宙に散らばった。
続くようにキュアピーチは、反対側より迫り来る紅蓮の弾丸を右手で力強く薙ぎ払う。
それでも、シビトゾイガーの群れは口を大きく開きながら、熱の塊を吐き続けた。
まるで噴火によって放出される火山弾のように、高く跳躍するキュアピーチを目がけて襲いかかる。
しかし、暴風雨のように襲いかかる凶弾は、一発たりとも彼女を止めることは出来なかった。
その大半は加速するキュアピーチの勢いについていけずに、掠ることなく避けられてしまう。
まれに命中すると思われた炎も存在したが、それは彼女の手刀によって粉砕されてしまっていた。

「てえいっ!」

そしてキュアピーチは気合と共に一つ、また一つとシビトゾイガー達が放つ破壊の弾を両手で叩き、砕く。
常人ならば一瞬で蒸発させてしまうような灼熱も、プリキュアである彼女には意味を成さない。
空中を飛ぶ内に、空いていた異形の群れとの距離も目と鼻の先となっていた。
到達しようとした瞬間、キュアピーチは身体を一回転させて、両足をシビトゾイガーに向ける。
そのままキュアピーチは全身を押し込むと、膝を屈めた。
生じた反動を利用してシビトゾイガーを蹴りながら、彼女は再び跳躍。
素早く流れていく視界の先に存在する、ドビシとハイドラグーンの群れに向かって。
その距離はすぐに縮まっていき、先程と同じように全身を捻って足をドビシに突き出す。
キュアピーチは力の方向を変えながら、ドビシを利用して更に跳び上がる。
それによって、彼女の勢いは更に増していく。
しかしその一方で、突撃するキュアピーチを向かって別の異形が空気を裂きながら大群で迫り来る。
キュアピーチは意に介せずに、遠くより吐き出されるシビトゾイガーの炎を四肢で弾きながら、無数の攻撃を放つ。
まず西方向より戦闘機の如く突進してくるハイドラグーンに対して、真っ直ぐに拳を叩き付けて吹き飛ばした。
続いて前に姿を現した二匹目のハイドラグーンには、下から掬い上げた左足で胴体を打つ。
鋭い蹴りによって、異形の身体は大きく曲がった。

「とおりゃあっ!」

次にキュアピーチは、右手で作った手刀をドビシの背中に打ち込み、空中から叩き落とす。
そのドビシは別の異形に激突すると、宙で身体をふらふらと揺らしながら落下した。
一方で、敵の艦隊は雪崩のように押し寄せてくるが、キュアピーチはすべて吹き飛ばしていく。
正拳突き、裏拳、肘打ち、手刀、背刀、下突き、ハイキック、踵落とし、膝蹴り。
神速の勢いで次々と放たれる彼女の攻撃は、空を占領した異形の怪物達を墜落させるのに、充分な威力を持っていた。
飛翔するキュアピーチは方向転換のために、全身を回しながら二つの踵でハイドラグーンを踏みつける。
そこからまた、別の異形に振り向きながら全力で飛んだ。
一体、また一体と無数にいる異形を蹴りつけるたびに、キュアピーチの勢いは更に増す。
彼女が知る由はなかったが、攻撃と方向転換を繰り返したその数秒間で、百匹以上の敵を撃墜させていた。
それでも、敵の勢いを止めるまでには至らず、どれだけ蹴っても向かってくる。
ならば、攻撃を続けるまで。
異形の間を跳び上がり続けるキュアピーチは、地上で戦ってたときのように両手を組む。
そのまますぐに、全身の力を手の平に集中させた。
直後、眩しいピンクの光が放たれていき、異形の群れは目を細めていく。

「プリキュアッ! ラブ・サンシャイン!」

キュアピーチは活力に溢れた声と共に、膨大な力を右手に流し込んで、球状に圧縮した。
異形の間を飛び続けながら、固めたエネルギーを強く握り締める。
そして、目の前にいるシビトゾイガーに向かって、彼女は右腕を強く突き出した。
光のボールは大きく開いたシビトゾイガーの口に入り込み、喉を通って体内へと進入する。
その途端、胃の中でエネルギーが一気に拡散し、皮膚に亀裂を入れた。
シビトゾイガーの身体は風船のように膨れ上がり、ヒビの形に沿うように光が漏れ出していく。
そのままキュアピーチの放った桃色の輝きは、闇を切り裂きながら周囲の敵に向かう。
弱点とも呼べる光に飲み込まれた異形達の身体は、まるで雪のように溶けてなくなった。
浄化されたことによって空にいる敵の数が減ると、キュアピーチは地上に降りる。
未だ百体を超える軍団の方へ振り向いて、そちらに向かって全力で駆け抜けた。

「おおぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」

亡者を思わせるような、不気味な鳴き声を発する異形の群れの中で、場違いとも言えるような雄叫びが聞こえる。
声の主であるクウガは助走の後に跳び上がって、右の拳を握った。
その勢いを保ったまま、眼下に立つナナシ連中の顔面にパンチを繰り出す。
三トンの重さを持つクウガの攻撃を受けたことにより、その巨体が遠くへ吹き飛んだ。
地面に降りた彼はすぐさま左に振り向き、サリスワームへ蹴りを放つ。
クウガの左足が腹部に沈み込み、十トンの衝撃がダメージとなって、呻き声を漏らした。
ふらふらと後退るサリスワームの後ろから、三体のレイドラグーンが姿を現す。
異形達は三方向に分かれると、爪の尖った腕をクウガを狙って振るった。
しかし力に任せただけの攻撃など、数多の戦いを乗り越えてきた彼にとっては脅威にならない。
乱暴に迫る三つの拳を、クウガは卓越した身体能力で軽々と回避しながら、攻撃を放った。
前方のレイドラグーンが縦に振るう爪は、一歩だけ後退することで空振りに終わらせる。
そこからカウンターのように右ストレートを、レイドラグーンの頬に叩き込んだ。
顔面に強い衝撃が走り、後ろに飛ばされる。
右方向から向かってくるレイドラグーンも上から爪を振り下ろすが、クウガは横に回り込むことでそれを避けた。
そして、左足を軸にしながら身体を大きく回転させて、回し蹴りを脇腹に打ち付ける。
遠心力によって威力が増えた一撃によって、レイドラグーンの巨躯が横に転がっていった。
左から襲いかかる三体目のレイドラグーンは、左から右へ薙ぎ払うように爪を振る。
全身に張り巡らされた神経によって、視界の外から迫る凶器の存在をクウガは察知した。
彼はすぐに振り向いて、両膝を屈めて体勢を低くする。右肩のアーマーが掠ったが、問題はない。
それによって生まれた反動を利用して跳び上がりながら、右手でレイドラグーンの下顎を叩く。
アッパーの威力に耐えることが出来ずに、レイドラグーンの身体は宙に飛んでいった。
三体のミラーモンスターが地面に倒れた直後、クウガは顔を右に向ける。
視界の先からは、地面を駆け抜けているショッカーライダーの姿が飛び込んできた。
一瞬で距離を詰める異形はパンチを繰り出すが、全身を左にずらすことでクウガはそれを避ける。
だがそれで終わることはなく、ショッカーライダーは右手を用いたストレートを放った。
クウガはそれに対抗するように、気合を込めて拳を突き出す。

「だあっ!」

ライダー同士の拳が激突することによって、鈍い打撃音が響く。
その直後、クウガの拳がショッカーライダーの指を折り、右手を砕いた。
しかしそれだけでなく、拳は腕を構成している機械を次々と貫き、右肩を破壊する。
クウガは沈み込んだ腕を引き抜くと、砕いた部分からは血飛沫のように火花が迸った。
それによって、ショッカーライダーは揺れた足取りで数歩だけ後退ってしまう。
対するクウガは、軽く息を吐きながら両腕を左右に広げて、ゆっくりと腰を落とした。

「はああぁぁぁぁっ………」

彼はアマダムに蓄積された封印エネルギーを、右足に流し込む。
意識を集中させることによって、心臓の鼓動が強くなり、強い熱が発せられた。
それはすぐに火炎となり、足の裏へ向かって集まる。
燃え上がる熱い炎は、古代リントの紋章を作り出した。
そんな感覚を覚えた彼は、真紅の両眼を異形の群れに向ける。
そのまま力強く、一歩目を踏み込んだ。
灼熱の炎が宿る足で、大地を駆ける。
一歩、また一歩と走るたびに、火炎が足跡のように地面へ残り、赤く燃え上がる移動の軌跡を作り出した。
数メートルの疾走を終えた後、ショッカーライダーの目前でクウガは高く跳び上がる。
そこから空中で前方宙返りをして、右足を真っ直ぐに突き出した。

「だあぁぁぁりゃあぁぁぁっ!」

喉の奥から放たれるのは、渾身の力を込めた雄叫び。
回転運動と重力によって勢いが増し、封印エネルギーによって生まれた炎が込められた足は、ショッカーライダーの装甲を貫いた。
マイティキックと名付けられた必殺の一撃を受けたことにより、胸部に「鎮」の紋章が刻まれる。
同時に、ショッカーライダーの身体は大きく後ろに弾き飛ばされていき、異形の群れの中へ飛び込んだ。
三十トンの衝撃と、封印エネルギーが体内で暴走することによって、爆音と共にその身体が粉砕された。
同時に膨大な爆風と炎が生じて、周囲に群がっていた怪人達を容赦なく巻き込む。
それにより、十体以上いた敵の身体もまた、呆気なく吹き飛んでいった。
蹴りの反動によって空中を一回転しながら、クウガは片膝を地面につけながら着地する。
前方より吹き付けてくる熱風と振動が身体に突き刺さるも、彼は微動だにしない。
怪人達が爆発したことにより燃え上がる炎は、辺りの闇を少しだけ照らす。
敵の数は減ったものの、クウガは決して気を休めていない。
立ち上がった彼の視界には、闇の中から現れた新たな怪人が映っていたからだ。
振り向いたクウガは、一歩踏み込もうとする。
その直後だった。

「――ッ!?」

突如、クウガの全身に悪寒が走る。
まるで、体に流れる全ての血液が凍り付いてしまうと、錯覚してしまうほど。
唐突過ぎる出来事によって、彼は足を止めてしまう。
クウガの鎧の下で、ユウスケの全身から冷や汗が吹き出していた。
そんな彼の脳裏に、ある一つの光景がイメージとなって流れ込んでいく。




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最終更新:2010年08月26日 20:52