――アークルが、警告を伝えている



世界は夜の闇に覆われ、嵐が荒れ狂っていた。
夜空の光は空を包む暗雲によって、奪われてしまっている。
雨粒はたった一粒浴びただけで、一瞬で身体が凍り付いてしまうほど冷たかった。
凍てついた寒さに満ちた町の中で、純白の衣服を纏った一人の青年が、腕を翳す。
その瞬間、辺りは一瞬で炎に包まれた。
あちこちの建物は音を立てて崩壊し、平穏を打ち砕く。
人々は逃げまどうが、間に合わない。
青年は自らの身体を異形へと変えながら、ぼんやりと待った。
遥か昔、自分のことを封印した宿敵を。
あの時の決着を付けるために。
すると、異形の思いに答えるかのように、一人の戦士が姿を現した。



ある者は瓦礫に押し潰された。
ある者は炎に包まれた。
ある者は暴虐によって散った。
煉獄の焔によって火の海となった町は、この世の地獄と呼ぶに相応しい。
何もかもが紅蓮に飲み込まれ、何もかもが壊される。
その中で、二つの影が対峙していた。
片や、黒の金の力を手にした、瞳を赤く輝かせるリントの戦士クウガ。
片や、白い外骨格に包まれ、額で黄金の四本角を輝かせているグロンギの王。
人々の笑顔のために戦うクウガは、自らの笑顔のために殺戮を行うグロンギを相手に、拳を振るう。
しかし、いくら打ち込もうともグロンギは微動だにしない。
対するグロンギは、ほんの少し力を込めただけで、クウガに致命傷の傷を与える。
負けじとクウガは掴みかかるが、呆気なく吹き飛ばされてしまう。
グロンギは倒れたクウガを踏みつけ、異形の仮面の下で微笑みながら呟いた。



――どうしたの もっと強くなって、もっと僕を笑顔にしてよ――



グロンギは圧倒的な殺意を放ちながら、腕を前に向ける。
放たれる火炎は人々を容赦なく飲み込み、逃げることを許さない。
苦痛の悲鳴をあげる暇もなく、命が消える。
純粋無垢な笑顔を浮かべながら、同族すらもその手にかけた。
クウガは、守ろうと動く。
苦しみながらも戦う。
しかしグロンギはそんな彼を嘲笑うかのように、破壊を続けた。
やがてベルトで輝く希望の霊石に、亀裂が刻まれてしまう。
暴力の前に、クウガすらも炎の犠牲となってしまい、地面に倒れた――




――白き闇




イメージの流れは、唐突に終わる。
ハッと目を覚ましたクウガの前では、異形が群れを成して進軍していた。
その光景を前に、彼はほんの少しだけ呆然とするが、すぐに戦闘の構えを取る。
いけない、こんなところで立ち止まっている場合じゃない。
奮い立たせるように心中で呟くが、彼の中では疑問が満ちていた。

(何だったんだ……今のは)

ほんの一瞬だけ、脳内に流れ込んだ光景。
黒い鎧を身に纏うクウガが、破壊活動を続ける白いグロンギを相手に戦い、敗れる姿。
今までに見たことのないグロンギ。
そして、今まで一度も起こった事のない謎の現象。
だが、今はそんなことを気にかけている場合ではない。
目の前からは、二メートルを超す巨体を誇る、グロンギが迫っているからだ。
鋭く尖るクチバシ、白装束に包まれた漆黒の筋肉、コンドルを髣髴とさせる黒い翼。
警察から「未確認生命体第47号」と呼ばれ、ゲゲルを行う「ゴ」のグロンギが殺した人間をカウントする判定人、ラ・ドルド・グ。
ドルドは胸部に飾られた装飾品を、両手に一つずつ取る。
それらは一瞬で巨大化し、鋼鉄製のトンファーへと形を変えた。

「もう一人の、クウガ……」
「え?」

地の底から響くようなドルドの声に、クウガは呆気に取られてしまう。
その直後、闇の中から一筋の熱線が放たれた。
ドルドの横を通り過ぎながら、光はクウガに襲いかかる。
反射的に身体を捩ることによって、真っ直ぐに突き進んでくる閃光を避けた。
標的を失ったそれは地面に着弾し、爆音を鳴らす。
続くように、暗闇で複数の光が煌めいた。
吹き荒れる台風のように、光線はクウガを向かって突き進む。
彼は卓越した身体能力で左右に跳躍することで、それら全ての回避に成功。
粉塵が周囲に広がる中、金属を鳴らしたような複数の音が聞こえる。
それらが足音だと気付いたのは、かつてウルトラセブンと戦った人型の二足歩行ロボットが、姿を現してからだった。
銀色に輝く三メートルに達しそうな巨体、顔の位置に付けられたガラスカバー、その下で稼動している大量の機械、胸に書かれた奇妙な模様、金に彩られた四肢、右手に備えられた銃、左手に付いた丸い鉄球。
それは地底ロボットユートムと呼ばれ、ウルトラ警備隊が地下深くより発見した、謎の都市を守護する戦闘兵士。
横一列に整列するユートム達は、一斉に銃口をクウガに向けた。その数は五体。
先端が煌めき、閃光が放たれた。着弾しようとした直後、クウガは高く跳躍する。
熱線により爆発音が響く一方、彼はその身体を地面に転がす。
彼の手には、ナナシ連中の遺品とも言える刀が握られていた。
右手に力を込めながら、クウガは唱える。

「超変身!」

闘志に満ちた声に答えるように、アマダムは光を放つ。
直後、両眼と霊石は赤から紫へと染まり、クウガを守る鎧の形を変えていく。
紫色のラインが刻まれ、銀色に染まった装甲はより厚さを増し、両肩が大きく突き出した。
今の彼は、タイタンブロッカーの名を持つ鎧に守られた、大地を司る戦士。
『邪悪なる者あらば、鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を斬り払う戦士あり』の伝説が示す、紫のクウガ。
タイタンフォームの形態へと、クウガは姿を変えた。
それに伴うように、右手に握っていたナナシ連中の使っていた刀が光に包まれる。
瞬く間に形を変えていき、大きさも増していった。
輝きが収まった瞬間、クウガの手にあるのは金色の装飾が備えられた大剣、タイタンソード。
闇の中で、鎧と同じ紫色の刀身と宝玉が煌めく剣を構えながら、彼は前進する。
ユートムの軍団も拳銃をクウガに向けると、その口が光った。
放たれた光線は容赦なく着弾するが、怯みすらもしない。
爆音が鳴り響くも、痛みは全くなかった。
タイタンフォームの堅牢な鎧の前では、それは火の粉にも満たない攻撃だった。
未だに攻撃を続けるユートム達との距離を、クウガは確実に縮めていく。
やがて一歩前までに迫ると、彼はタイタンソードを力強く横に振るった。

「うおりゃあっ!」

叫びと同時に、刀身をユートムの頭部に叩き込む。
刃は鋼鉄を豆腐のように切り裂くと、その中で蠢いている機械までも両断。
それによって、大量の火花が血液のように飛び散った。
頭部の上半分が切断されたユートムは両膝を地面に落とし、前へ倒れる。
それを最後に、二度と動くことはなかった。
別個体のユートムが、光線銃を構える。
閃光が放たれようとする前に、クウガはタイタンソードを高く掲げた。
そのまま刃をユートムの頭部に叩き込んで、身体を真っ二つに斬る。
切断面からは電流が迸るが、それを気にかける者はいない。
両断されたユートムが土の上に倒れた後、クウガは得物を振り続けた。
右の方向から鉄球を掲げながら、また別のユートムが襲いかかってくる。
クウガは下から上に掬い上げるようにタイタンソードを振って、それと激突させた。
鈍い激突音が鳴るのと同時に、鋼鉄が粉砕される。
その勢いを保ったまま、紫の刃はユートムの頭部から胴体の部分を砕いた。
脇腹からタイタンソードを引き抜いたクウガは、体の向きを変える。
振り向くのと同時に、両手で力強く取っ手を握り締めながら、刃を四体目のユートムへ向けた。

「でやあっ!」

渾身の力を込めて、タイタンソードの先端をユートムの腹部に突き刺す。
背中まで貫いた刃から、封印エネルギーが流れ込み、紋章が刻まれた。
力はユートムの内部を縦横無尽に暴れまわり、蠢くように稼動する機械が次々と破壊されていく。
そこから数秒の時間が経過した後、衝撃に耐えることが出来ずに、その巨体が爆発した。
タイタンフォームの決め技、カラミティタイタンによる爆風に巻き込まれるも、クウガには傷一つのダメージも負わない。
粉々となったユートムの破片が地面に散らばる中、炎が風によって消えていく。
膨大な熱の塊から姿を現したクウガは、タイタンソードを横に払った。
その餌食となったユートムの胸部はあっさりと裂かれ、膨大な火花を散らす。
衝撃に耐えることが出来ずに、機械で構成された身体は一瞬で爆ぜていった。
最後のユートムが吹き飛んだ瞬間、クウガの聴覚は空気を裂くような音を察知する。
振り向いた先からは、巨大な翼を羽ばたかせているドルドがハングライダーのように滑空していた。
高速の勢いで迫るドルドを見たクウガは、タイタンソードを構える。

「くっ!」

甲高い金属音が鳴り響き、微かな火花が迸る。
それはクウガのタイタンソードと、ドルドが握る二本のトンファーが激突することで起こった現象だった。
直後、互いに押し合い、力の拮抗が始まる。
だがすぐにタイタンフォームの姿であるクウガに軍配が上がっていき、ドルドが押されていった。
いくら強靱な戦闘力を持つグロンギといえども、力に優れた形態には敵わない。
それを察したドルドは背後に高く跳躍。翼を動かしながらクウガから距離を取った。
そのまま地面に着地しながら、トンファーを構え直す。
クウガは得物を横に振るが、ドルドは再び飛び上がった。
そのまま頭上を通り抜け、反対側に回り込む。
同時に右肩部分の鎧に、トンファーを叩き込んだ。
ドルドの攻撃によって金属音が響き、クウガの神経に微かな痛みが伝わる。
衝撃により身体が僅かに揺れるが、すぐに振り向く。
見ると、既にドルドは自分から数メートルも遠くに離れていた。
重厚な鎧に守られたタイタンフォームは、攻守の性能に優れている。
しかしその重さの分、俊敏性が犠牲となっていた。
おまけに相手は翼で空を飛ぶことが出来るため、このフォームで戦っては不利になるだろう。
判断を下したクウガは、タイタンソードを地面に突き刺す。
先程破壊したユートムの残骸である光線銃を拾って、右手に力を込めた。

「超変身ッ!」

クウガは合言葉を再び唱える。
彼の意思に答えるために、アマダムは緑色の輝きを放つ。
それに伴うように鎧の形が変化していき、瞳が霊石と同じ色へ変わっていった。
アマダムの光はクウガだけでなく、破損された銃すらも包み込み、その形状を変える。
すると、ベルトから放たれる緑色の光彩は収まり、超変身が終わった。
右肩の装甲が薄くなったのに対し、左肩の装甲が鋭く突き出している。
今のクウガは、視覚と聴覚といった感覚神経が極限まで研ぎ澄まされた、風を司る戦士。
『邪悪なる者あらば、その姿を彼方より知りて、疾風の如く邪悪を射抜く戦士あり』の伝説が示す、緑のクウガ。
ペガサスフォームの姿に変わるのと同時に、その手に握る光線銃も形を変えていた。
ボウガンを思わせる黒い銃身、古代文字が彫られた金の装飾、埋め込まれたエメラルド。
クウガはペガサスボウガンを構えると、銃口をドルドに向ける。
右手の人差し指を引き金にかけて、反対の手で後ろのパーツを引いた。
弓矢のように引っ張ることによって、前方の装飾が畳まれていく。
クウガは全身の神経を、ペガサスボウガンに集中させる。
それにより、銃口に大気が流れ込んだ。
目の前からは、黒い翼を羽ばたかせているドルドが接近する。
高速の勢いで迫る敵を前に、クウガはチャンスを待った。
全身の神経を集中させる古代戦士は、グロンギと睨み合う。
やがて、空中より迫るドルドはトンファーを掲げ、勢いよく振り下ろした。
その瞬間、クウガは両足をバネにして高く跳び上がる。
ドルドの一撃が空振りに終わる一方で、ペガサスボウガンの銃口を下に向けた。

「はっ!」

瞬時にボウガンの引き金を引いて、左手を離す。
クウガの右手に僅かな衝撃が伝わった途端、空気を破裂させる音が響いた。
それは、ペガサスボウガンの中で圧縮された大気が塊となって、弾丸のように発射されたことで鳴った音。
封印エネルギーと共に撃ち出された、ブラストペガサスの一撃は音速を超える勢いで進む。
一発の弾丸は、標的となったドルドの背中を貫き、紋章を刻んだ。
そのまま脊髄を砕きながら体内を進み、一瞬で腹部を突き破る。

「ガアッ……!?」

ペガサスフォームの必殺技を受けたドルドは、苦悶の声を漏らした。
グロンギにとって猛毒とも呼べる封印エネルギーが体内を暴れ回ることで、飛行が困難となる。
ドルドは勢いよく地面に激突し、それを合図に爆音を鳴らしながら巨体が粉砕された。
まるで弔いのような炎が燃え上がるが、一瞬で消えてしまう。
クウガが地上に着地するのと同時に、アマダムから赤い光が放たれる。
マイティフォームの形態になった途端、ペガサスボウガンは元の壊れた光線銃へ戻った。
必要の無くなった残骸を捨てると、彼は別の敵に向かって走り出す。


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最終更新:2010年08月26日 20:57