第3章「理由なき戦」





 ラグネルとエタルドを見つめながら思った。
 俺は本当にこの剣を受け継いでいいものなのだろうか。本当に俺はこれを使いこなせる器があるのだろうか。
 アイクは悩んでいた。
 昨日斬ったあの機械。あれは確かに強いといえば強いのだが、接近戦に関していえばこちらのほうが断然強かった。
 だが、あれは恐らく捨て駒だろう、と容易に想像できる。
 なぜなら、公共の施設を乗っ取ってテロのようなことを起こしたければあんなに弱いものを配置するわけがない。
 これから大きな事件が起こるだろう、とアイクは予想した。
 だが、アイクの悩みの理由はそれではなかった。
(あの一瞬・・・)
 奥義「天空」を使ってあの機械を斬ろうとした瞬間だった。
 あの一瞬、アイクの体内でわけがわからないことが起こった。
 一瞬ではあるが、青い炎が見えたのだ。しかも、自分の体内に。
(俺は・・・)
 自分で自分の手を見つめる。鍛え、磨き、ボロボロになった手を。
 ついでラグネルとエタルドを見つめる。二つで一つの双剣を。
「双剣か・・・」
 そう、この剣はもともと双剣なのだ。 
 だが、その一本一本が重過ぎるため、これらは一本の剣として扱われていた。
 新たな戦闘スタイルを試すのも修行か、と微笑しながら思う。
「もうすぐ時間か・・・」
 そういいながらアイクは右手にラグネルを、左手にエタルドを担ぎながら居住区を後にした。




 ロングアーチに行ったらなにやら人が増えていた。しかも、オレンジの髪をしたちっこいのが。
「おう、アンタがアイクか。」
 と突然呼び捨てにされる。アイクとしても相手に礼儀を重んじる性格ではないのでどちらかというと、こちらのほうが話しやすい。
「誰だ?」
「アタシはヴィータ。ヴォルケンリッターの1人で今は、お前らの教官だ。」
 つまりは、指導教官が増えた、というところだろうか。
 セネリオも静かな目でヴィータを見据えた。
「なんだ?アタシじゃ不服か?」
「・・・いえ、そういうことでは。」
 頭に?を浮かべていたヴィータだが、なのはがやって来て訓練開始となった。
「アイクと、セネリオはちょっときて。」
 なのはに呼ばれ2人はなのはの元に行く。
 他の4人とフェイト、ヴィータも何事かと思いやって来た。
「今の二人のポジションを決めたいから、いろいろな訓練を覗いてほしいんだ。自分がどこに一番あっているかを自分で見極めてね。」
 といって離れようとしたときだった。
「アイクさん、その剣は・・・?」
 ティアナがようやくアイクのちょっとした変化に気づいた。
 そしてみんながアイクの左手に注目する。そこには白い剣が握られていた。
 しかも、形だけはほぼラグネルと同じといってもいいような。
「これはエタルドという剣だ。細かいことは省くが、この剣はもともと双剣だ。」
 だが、一同は信じられないという目で見てくる。
 試しにラグネルをスバルに持たせてみる。
 ラグネルを受け取ったスバルは突然ラグネルを両手で一生懸命正眼に構えた。
「これ、・・・すっごく重い・・・」
 その言葉を聞き、ティアナ、エリオ、キャロにも持たせてみた。
 だが、その3人ともラグネルは重いといった。アイクにしてみればあまり重くはないらしい。
 ここにいる全員がアイクがムキムキになる理由がわかったような気がした。
 まあ、実際彼は両手剣を片手で振り回すような男なのだから。
「さて、訓練始めるよ~。」
 となのはの声で皆、我に帰り訓練の準備をした。
 なのははこの後思い知ることになるのは、とても大きな悩みと困惑だった。







  デイン:デイン王城


「それで、私は何をすればいいのかしら?」
 ミカヤが微笑みながらサナキを見つめる。
 その微笑で不安が解けていくかのような不思議な感覚に包まれた。
「姉上。頼みごとはただ一つ。・・・女神を呼んでほしいのです。」
 その発言に驚いたようにサザがたずねてきた。
「なぜ、今更女神を呼ぶ必要があるんだ?」
 サザがサナキにたずねた。今はミカヤは「神使の娘」ではなく、「デインの王女」である。
 だから、立場を無視した要求にサザは少し怒りを覚えていた。
 だが、その怒りはすぐさま消えるものとなる。
「実は―――――」
「アイクがどこか異界の地へ飛ばされたのですね。」
 それを答えたのはミカヤであった。
 予想もしなかった方向から答えが聞こえてサザとサナキは驚いた。
 だが、損なのは気にしない、といった様子でミカヤは話し続けた。
「つまり、異界へと飛ばされたアイクを助ける方法は現時点では存在しない。だから、女神に助けてもらおうと、そういうことでしょう?」
 さらりと言ってのけるミカヤ。
 理由がわかってサザも落ち着きを取り戻したようだ。
「団長は本当に助かるのか?」
「わしもわからぬ。じゃが、女神アスタテューヌなら・・・」
 文字通り、一縷の望み。
 だが、そこに賭けずに入られなかった。
「わかったわ。やってみる。」
 ミカヤが目を瞑り、女神と心話をはじめる。

(女神アスタテューヌ、どうか聞いてください・・・)
――――――何かしら?
(我らの勇者アイクが異界の地へと送られてしまったのです。どうか、彼を助け出していただけないでしょうか?)
――――――確かに、私の力なら異界へ飛ばされた彼を救えるでしょう。しかし・・・
    空間や時間に干渉することはとても危険です。それを承知の上ですか?
(・・・はい。彼は、私たちにとってはなくてはならない存在です。)
――――――・・・わかりました。時間はかかりますが、彼を探してみましょう。
    なんたって彼は、私にとっても特別な人ですから。
(ありがとうございます。)
――――――さて、久々の仕事ね。張り切らないと。じゃあ、ミカヤ。さようなら。――――――


「・・・姉上?」
 サナキが心配そうに覗き込む。と、その瞬間。
 ミカヤの目が開いた。
 サナキが驚いて後ずさるがサザは大して気にしなかった。
「OKよ。アスタテューヌが探してくれるって。」
 二人とも安堵の息をつく。
「速く帰ってきてくれよ、団長・・・」





  起動六課:食堂

 朝の訓練終了後。
 なのはは頭を抱えていた。
 理由はただ一つ。アイクにぴったりなポジションが見つからないからだ。
 セネリオは一人で2役ほど出来るので重宝するのだが、彼にいたってはどうしようもない。
 そもそも、自分にあったポジションを見つけろといったのは自分なので、ポジションがない、といった事態は想定していなかった。
 しかも当の本人はこれでもか、というくらい肉を食い漁っている。
「どうしよう・・・」
 悩んでいたそのときだった。
「どうかしたのか?」
「シグナム。・・・ちょっと悩みがあって・・・」 
 シグナムが通りかかった。
「・・・・・・そうだっ!!!」
「??」
 この手があった。彼をシグナムに任せるという手が。
「シグナム、ちょっとお願いがあるんだけど・・・」


 アイクは昼の訓練にて一人だけお預けを喰らっていた。
 何でも、アイクにぴったりの教官を連れてくるとのこと。
「俺より強ければいいがな。」
 と一人つぶやいた。
 10分ほどしただろうか、なのはがピンクの髪をした女性を連れてきた。
「お待たせ、アイク。彼女はシグナム。シグナム、この人はアイク。とんでもなく強いから注意してね。」
「・・・承知した。」
 アイクはこのたった数秒の会話の中でシグナムの強さをある程度理解した。
 ある程度の死線を乗り越えた人物だけがもてる気迫というか、そういったものを感じ取ったのだ。
「・・・よろしく頼む。」
 アイクが軽く告げる。
「ああ、こちらこそ、な。」
 次いでシグナムも不敵な笑みを見せながら一言返した。
 恐らく、シグナムがアイクの訓練をするのだろう。
 最初に何をするのかは全てシグナムにかかっている。
「じゃあ、まず私と模擬戦を行う。本気で行くからな、準備しておけ。」
 なのはが驚いた表情でアイクとシグナムを見た。きっと、本気で行く、からだろう。アイクにとっては好都合だ。
「いいだろう。だが、生憎俺は準備は出来ている。さっさと行こう。」
 そうして二人はロングアーチ(旧市街)へと歩き出した。

 アイクの模擬戦は他の4人とセネリオの訓練終了後に行われる。シグナムが本気を出すといった以上、ここら一体は危険地帯と化すからだ。
 他の5人とフェイト、なのは、ヴィータはとあるビルの屋上に待機している。
 この二人がどのような戦闘を行うのか興味心身なのだろう。
 シグナムがバリアジャケットに着替え、(その間、アイクは後ろを向いていた)彼女のデバイス、レヴァンティンを構える。
 なのはが細かいルール説明をしてきた。
「ルールを説明するね。シグナムはデバイスの変形は禁止。ただし、魔力を流し込むのはOK。アイクはラグネルとエタルドの同時使用は禁止。
 以上だよ。それじゃ、模擬戦・・・スタート!!」
 ホイッスルと共に模擬戦が始まった。
 開始と共にシグナムが剣から衝撃波を飛ばしてきた。アイクはすぐさまラグネルから衝撃波を出し、相殺する。
「遅い!!」
 シグナムは衝撃波と共に前に飛び出していた。そのままアイクの首筋に剣を振りかざす。
 だが、アイクの反応も早く、首筋に迫るレヴァンティンを回転斬りで叩き落す。
 そんな剣を使った応酬が何度か行われた後、二人ははじかれたように後ろに飛び、剣に力をこめる。
 そして、それがぶつかり合った。
 ギィン、という重い音と共に力比べの形相を見せる。
 力比べではアイクの勝利だった。アイクはラグネルを振りぬき、シグナムを空中に吹き飛ばす。
「甘い!!」
 シグナムが空中でレヴァンティンを振る。
「飛龍、一閃!!!」
 という掛け声と共に炎をまとった衝撃波がアイクめがけて放たれた。
「ヤバイですね。」
 セネリオが静かに言った。
「確かに、アイクさんピンチかも・・・」
「いえ、そうではありません。」
 ティアナの言葉をさらっと否定するセネリオ。
 その瞳からは答えが読み取れない。
「強いて言えば、シグナムさんがピンチです。」
 セネリオがそういった瞬間、炎をまとった衝撃波が地面に叩きつけられ轟音を発した。
 だが、轟音が上がったのは他の理由のようだ。
 アイクはフルパワーでラグネルを地面に叩きつけ、地面をえぐり飛ばした。それを衝撃波に当てたのだ。
 それを一瞬で理解したシグナムは驚愕した。自分の技がこうも簡単に破られるとは思いもしなかったからである。
「終わらせてもらうぞ!」
 アイクはシグナムに告げる。そして、ラグネルを空中へと投げ出した。
「!?」
 一瞬なにをしたのかよくわからなさそうだったが、ラグネルを目で追っていく。
 と、そこにはさっきラグネルを投げたはずのアイクが降下しながらシグナムにラグネルを叩きつける。
「天空!!!」
 レヴァンティンで何とか防いだものの、そのまま地面へと叩きつけられる。
 受身を取って構えなおそうとした瞬間、
「ぐっ!?」
 予想だにしない方向からラグネルを叩き込まれた。
 さっき防いだ力の比ではない。思いっきり腹にラグネルを叩きつけられてシグナムは吹っ飛ばされた。
 アイクはそこでまたしても、自分の体とラグネルから青い炎が出たのを見逃さなかった。
「そこまで!!」
 なのはが模擬戦終了の一声をかける。
「強いな・・・」
「いや、何の制限もなく戦ったら負けたのは俺のほうかも知れん。」
 アイクはこの模擬戦で彼女が本気ではないことさえも見切っていた。
「フッ・・・」
 シグナムは軽く笑いつつ、身を起こした。
 その中でただ一人、セネリオは渋い顔をしていた。





「目覚めたかい、ゼルギウス君。」
 そこにはある男がいた。
「ここは・・・?」
「君は生き返った。さて、突然だが、君の記憶と力を見せてもらうよ。」
 そういい、ゼルギウスにある機械を取り付ける。
 そして、彼が見たものは……。
「すばらしい・・・すばらしいよゼルギウス君。」
 彼は満足し、その能力をレポートにまとめ、ゼルギウスに人体実験を行った。
 そして、彼は新たな力を手に入れた。
「女神の加護」という力を。



   to be continued...




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年09月01日 17:31