第4章「再会の刻」
セネリオはある疑問を抱いていた。すなわち、アイクの体から出た青い炎である。
あの炎は間違いなく、女神ユンヌのものであった。そう考えると、あの炎は負の気、または「女神の加護」そのものである。
だったらなぜ、今更彼の体から青い炎が出たのか。それが知りたかった。
「アイク、ちょっとこっちへ。」
倒したばかりのシグナムの無事を確認すると、アイクはセネリオに引かれ路地裏までやってきた。
「単刀直入に聞きます。あなたの体から見える青い炎の正体・・・」
「気づかれたか。・・・」
どうやらアイク自身も気づいていたようである。
「あの青い炎が出た一瞬、なぜか全身の筋肉が力を帯びる、というか、無駄に力が入るというか、奇妙な感じになる。」
「恐らく、「女神の加護」が関係しているのでしょう。奇しくもその2つの剣は2人の女神の加護を受けているのですから。」
そう、エタルドとラグネルは女神ユンヌと女神アスタルテの加護を受けている。
今はもうこの世に、いや、どの世界を探しても絶対に見当たらない2人の加護である。
ある意味ではこの双剣はデギンハンザーよりもレアなのでは。
と、茶化している場合ではない。
「とにかく、アイク。その炎の原因がわかるまで天空を使わないほうが――――ぐっ!?」
突然セネリオが苦しみだす。
それにつられるようにアイクも苦しみだす。
「うっ・・・」
そしてそのまま、2人は気を失った。
(ここは・・・?)
アイクは闇の中にいた。
(アイク・・・?)
ふと、セネリオの声が聞こえた。どうやらセネリオもこの中にいるらしい。
――――――心配しないで。あなたたちは気絶しているだけ。
(!!)
2人が驚き、声のした方向を見つめる。
だが、そこに広がるのは闇だけで何も見えない。そんな心を察知したのか、
――――――わかったわ。いま、姿を見せてあげる。
突然、すさまじい光が現れ、アイクとセネリオ、そして名も知らぬ女性の姿が浮かび上がった。
(アンタは誰だ?)
――――――私の名はアスタテューヌ。アスタルテとユンヌが一つになった完全体。
(それで、その女神が僕たちに何のようですか?)
――――――実はあなたたちのことをサナキたちが心配していてね。様子を見に来たんだけど、大丈夫そうね。
(サナキたちが?)
――――――ええ。サザ、とか言う子も心配してたわよ。
(それで、僕たちが変える術はあるんですか?)
――――――今のところ私自身がそっちに出向いて二人をこっちに送るしかないみたい。でも、難しいのよ。
(何故だ?今は俺たちの意識に直接語りかけているのに。)
――――――あなたたちの意識には入りやすいのよ。二人とも「女神の加護」を受けてるでしょ?でもね。
私が干渉できるのは意識まで。あなたたちのいる世界を特定するにはとても時間がかかるの。
(それじゃあ、僕たちは?)
――――――しばらくはここで過ごして。そして、一つ頼みごとがあるの。
(何だ?)
――――――私の力であなたたちの意識に入り込んでるけど、嫌な予感がするの。まるで、その世界が消え去ることになりかねないことが起きる予感がするの。
そんなことは絶対にさせたくないわ。だから、あなたたちでそれをとめてくれない?
(もちろんだ。)
(了解しました。)
――――――ありがとう。それとアイク。あなたの体から出ている炎は間違いなく、私の加護のもの。
(何っ!?)
――――――あなたの体内から出る青い炎はユンヌとアスタルテの加護の反発。お互いがお互いを滅ぼすために作られた加護。
アイク。あなたはその剣を通してどちらかの加護が体内に流れ込んでしまったの。恐らく、この反発の力・・・アスタルテね。
(それで、俺はどうなるんだ?)
――――――アスタルテの加護が体内に流れ込んでユンヌの加護を受けた剣を使う・・・。それだけであなたは反発の対象になっている。
これからもうしばらくは大丈夫だとは思うけど、そのうち剣と体の「拒絶」が始まるわ。
(その「拒絶」は一体どんなものなんですか?)
――――――その剣を使えば使うほど、自分の体を傷つける。果てまで行くと、寿命を縮めることになるわ。
それでも、戦おうと思う?
(・・・俺は今まで「死」はいくらでも感じてきた。戦に生き、戦に倒れる。それが俺の人生だ。
――――――・・・わかったわ。また今度にあなたに加護を与えることにするわ。ユンヌとアスタルテの反発を抑え、力の全てを引き出せる加護を。
今は、反発を抑えるのが・・・精一杯。それじゃ、しばらくがんばってね。
ああ、それと1つ言い忘れたわ。
「彼」は今、仮初めの生に支配されている。彼も開放されることを望んでいるわ。
彼を助けてあげて。あなたがあの塔で殺した彼を。
(ちょっと待て!!それはどういう・・・)
アイクが言いかけた瞬間、辺りが急速に暗くなっていく。
そして2人の意識はまたしても闇に堕ちることになった。
気がついたとき、医務室のベッドの上にいた。
アスタテューヌとの話を全て覚えているということは、これはただの夢ではなさそうだ。
隣でセネリオも寝ている。ラグネルとエタルドがベッドの近くに立てかけてあった。
……誰かが運んでくれたのだろうか。
ちょうど思考が完全に回復し、セネリオが目覚めた瞬間だった。
「アイクさん!!大丈夫ですか?」
エリオが入ってきた。続いてキャロ、スバル、ティアナという順で二人のベッドの脇に立つ。
「どうしたんですか、いきなり2人してぶっ倒れて。おかげであの剣、運ぶの大変だったんですよ!」
「スバル!2人はきっと疲れてるんだからそういう子といわないの!・・・すみません。こんなこと言わせちゃって。」
「熱中症ですか?健康には気をつけてくださいね。」
などなど彼女らはアイク達にしゃべっていた。
だが、アイクにはそんな言葉はもはや届いていなかった。
「セネリオ、お前、さっきの事・・・」
「ええ。覚えていますよ。僕もあの場にいたんですから。」
「・・・そうか。」
と二人して意味深な会話をする。
4人はそのムードに気おされたのか、話す事を止めた。
そのときだった。
「スバル、ティアナ、キャロ、エリオ、そこにいる!?」
突然、なのはから通信が入った。何事かと全員がティアナのモニターに釘付けになる。
「大至急、モニタールームに来て!アイクとセネリオは出来ればでいいわ。町に正体不明のアンノウンが出現!何人かの航空魔道士を派遣したんだけど、
全員死亡したの。とんでもない強さよ。ポイントは市街地のここ。」
そういってモニターの絵が変わり、地図のあるポイントを示す。
「ここにそのアンノウンがいるわ。これが、その写真よ。」
そういってなのははアンノウンの写真を送ってきた。
だがそれは、アイクたちにとっては驚くべき人物が写っていた。
いや、彼らの事情を知っているものがいたら、驚かない、ということは絶対にありえないだろう。
何故ならそこにいたのは――――――
「何で・・・奴がここに・・・」
そうつぶやいた後、ラグネルを持って走り出す。
同様にセネリオも風魔法「レクスカリバー」を持って医務室を飛び出した。
「あっ、アイクさん!!」
ティアナが止めようとしたが、時すでに遅し、二人はそのポイントまで行ってしまった。
「なんで、あいつが生きている・・?」
それが今この瞬間で最大の疑問だった。
自分が殺した師。父の弟子だった人物。そして、アイクの敵であり、超えるべき存在。
「漆黒の騎士・・・ゼルギウス!!」
その名を怒り半分喜び半分で呼ぶ。
それが聞こえたのか、目の前にある黒い鎧を身にまとい、赤いマントを着た人物がゆっくりとこちらを向く。
その手には見慣れぬ剣が握られていた。
「アイク殿・・・貴殿ともう一度会えるのを楽しみにしていた。もう一度、お相手願いたい。」
あの頃と全く変わらない声で、あの時とほとんど同じ事を言う。
だが、今は何故彼が生きているかが一番知りたかった。
「ゼルギウス・・・何故生きている!?」
「私は地獄のそこから甦った。・・・いや、甦らされたというべきか。」
「なら、何故こんなことを!?」
見ての通り、その道一帯は炎に包まれていた。
本来のゼルギウスならこんなことはしない。
「私は甦らされた。だから、私を甦らせた人物に中を尽くす必要がある。」
そういって剣を振りかざした。
そして、その剣からエタルドと同じような衝撃波が出てきた。
「この剣は限りなくエタルドを模して作られている。もし、少しでも甘く見たら、貴殿は死ぬことになろうぞ。」
冷たく言い放ちながら彼は剣を振ってくる。
アイクはあの時と同じように飛び上がりゼルギウスを斬りつけようとする。
しかし、はじき返され、力比べの様子を見せた。
その一瞬、アイクはゼルギウスの瞳を見た。
その目は、救いを渇望していた。
突然、ゼルギウスが後方に下がり、アイクに言った。
「貴殿とはまた近いうちに会うことになるだろう。それまでに強くならねば、私を倒すことなど到底出来ぬ。」
そういって、彼は足元に魔方陣を展開し、ワープして消え去った。
「一体、何が起こっているんだ・・・」
そうつぶやくアイクに答えを与えることの出来るものは少なくともここにはいなかった。
街での騒動がひとまず落ち着きを取り戻した。
起動六課は復興作業に追われているようだ。
だが、そんな中でアイクとセネリオだけは復興作業を行わなかった。
なのはたちから待機命令を出されたのであった。
それにはさすがに逆らえない。
だから、彼らは部屋でおとなしくしていた。
(ゼルギウス・・・何故今になって俺の前に現れる?)
もう何がなんだかわからない。だれか答えを教えてほしい。
だが、それは許されない。強くなるためには自分で答えを掴み取るしかない。
だからこそ、
(ゼルギウス、待っていろ・・・)
心の中でゼルギウスに、そして立てかけてあるエタルドにアイクはつぶやいた。
to be continued....
最終更新:2010年09月06日 20:56