そうしてヴィータがでじこに連れられて歩いていると、正面から何か
緑色の霧の様な物と共に異臭が漂って来たでは無いか。
「うっ! 何だこの匂いは!」
「臭い! 臭いにょ!」
その異臭の臭さと来たらたまった物では無い。二人は思わず鼻を摘んでしまった。
するとどうだろう。正面から一人の和服を着た長髪で頭にアンテナの様な物が付いており、
また少々劇画タッチな雰囲気をかもし出す中年男が現れたのである。
しかも異臭はその男を中心にして漂っている様子であった。
「何が臭い物だ! かぐわしい良い香りでは無いか!」
「くっ臭弁星人にょー!!」
「何者だコイツは!?」
「臭い弁当持ってる宇宙人にょー!!」
確かに目の前の中年の男は弁当箱の様を物を持っているし、異臭はこの弁当箱から漂っている。
しかし、ヴィータでさえ鼻を摘んでしまう程の異臭をかぐわしい香りと言ってしまう
この男…臭弁星人とは一体何者なのか…
「これは臭い物では無い! 美味い物だ!! ニンニク納豆ドリアンライス!!
ゲボリゲル風味!! これを暖めるとかぐわしい香りと共に美味しく食べられるのだ!!」」
臭弁星人は異臭を放つ弁当を口の中に掻き込み始めたでは無いか。
そうなれば異臭はおろか中身そのものまで周囲に飛び散ってしまう。
「うわっ臭い!」
「臭いにょー!」
余りの臭さにヴィータとでじこは鼻を摘みながらその場にのた打ち回る。
しかし、まだそれはまだ良い方だ。ただ臭いだけなのだから。
そしてこれからヴィータは臭弁の本当の恐ろしさを知る事になる。
臭弁星人が激しく掻き込む際に飛び散った臭弁内の汁が地面のアスファルトに
飛び散った時…忽ちそれは緑色の水蒸気を放出しながらアスファルトを溶かしたでは無いか。
「うわぁ! 道路が溶けやがったぞ!! 良くあんなもん食えるな!?」
そこが臭弁の不思議な所である。万物にある様々な物を溶かしてしまうと言うのに
何故か人体には無害で、むしろ味は素晴らしく良いのである。
匂いが凄まじくアレなので食べたい奴は稀であるが…
「とっとにかく逃げるにょ!」
「ああ! これ以上ここにいたら鼻が腐っちまう!」
身の危険を感じたヴィータとでじこは大急ぎでそこから走り去った。
臭弁の恐怖からの脱出に成功したヴィータとでじこであったが、
臭弁の異臭によってただでさえ空気の悪い場所を全力疾走した物だから
すっかり息を切らしてしまっていた。
「ハア…ハア…ハア…まったく何なんだこの商店街は…。」
まさかあのような恐ろしい生命体がこの世に存在するとは…
ヴィータはすっかり真っ青になっていた。が…
「わっ!」
突然何者かがヴィータの髪の三つ編みを引っ張ったでは無いか。
「誰だ!? って…これは…。」
ヴィータの背後にピンク色の小さな物体が立っていた。それがヴィータの髪の
三つ編みを興味深そうに掴んで引っ張っているのである。
「アマアマ~…。」
「な! こら! 引っ張るな! 何だコイツは!」
「こいつはあまえん坊にょ~。」
「あまえん坊?」
「すぐ甘える困った奴だにょ~。でじこも尻尾を引っ張られて大変な目にあったにょ~。
きっとあまえん坊はお前の髪の毛を欲しがってるんだにょ~。」
「何? って痛い! こら! 引っ張るな!」
思わずヴィータはあまえん坊を張り倒してしまった。それが行けなかった…
「ビャァァァァァァン!!」
あまえん坊は忽ち泣き始めてしまった。それも周囲に聞こえる程の大声で。
「あら嫌だ…あの赤い髪の女の子が小さい子を泣かしてるわ。」
「ママ怖いよ~…。」
「え!? え!? アレ!? ええ!?」
周囲が明らかに白い目でヴィータを見ている。ヴィータにとっては自分の身を守る為の
行為だったと言うのに…何故か周囲にとってはヴィータの方が一方的な悪者になっていた。
「ち…違う! 元々コイツが私の髪を引っ張るからいけないんだ!」
「いじめっ子は誰でも自分が悪くないと言うザマス。ねぇお隣の奥さん?」
「まったく…親の顔が見たいザマス!」
「えええええ!?」
ヴィータは愕然とした。そして周囲の視線が痛い。痛すぎる…。
おまけにその間もあまえん坊は泣き続けていた。
「畜生! でじこお前なんかとしろって…。」
隣にいたでじこにすがろうとしても、その時にはでじこの姿はは無かった。
「全く酷い奴もいたもんだにょ~。」
「こらぁ! 他人のフリするんじゃねぇ!」
何かいつの間にかでじこもヴィータを白い目で見る大衆に紛れ込んでいたから性質が悪かった。
「あ~も~!! これやるから!! このお菓子やるから泣き止んでくれよ!!」
まねきねこ商店街が海鳴市から離れている事もあって、途中でお腹が空くだろうと
ヴィータははやてからおやつの方も渡されていたのだが、それを渋々あまえん坊に
渡して何とかここは抑えてもらって欲しかった。
「ウ…ウ…ウマ…ウマ…。」
「ふぅ…。」
何とかあまえん坊は泣き止んでくれた。それと同時に周囲からヴィータを白い目で睨んでいた
大衆も姿を消していく。これでヴィータも一息付く事が出来た。
「まったく何なんだこの商店街は…ここは魔界か?」
「あまえん坊くらいでそんな事言ってたら生き残れないにょ~。」
「え…もっと凄いのがいるのか?」
「にょにょにょにょ~。」
でじこはただ薄ら笑いを浮かべるだけでそれ以上答える事は無かった。
最終更新:2007年08月14日 17:24