『マクロスなのは 第1話その2』


(*)

 同時刻 時空管理局本部ビルの近くの喫茶店

その喫茶店の席の一角では1人の女性が携帯に耳を当てていた。

『こちらエコー7、爆弾の設置完了しやしたぜ!』

『エコー3も同じく!』

『こちらエコー12。設置は完了したんですが、住民の抵抗に会ったため彼らを捕縛。指示をくだせぃ』

無線より届く物騒な報告を表情1つ変えずに彼女は聞くと、

「その辺に転がしておきなさい。騒がれると面倒だから」

とまるでゴミを扱うように指示する。続いて彼女はすべての工作員に1つの命令を発した。「即時撤退」と。
彼女は携帯電話代わりにしていたストレージデバイスをポケットへしまうと、店内に展開されたホログラムのテレビ画面に目を向ける。
そこでは時空管理局本部ビルのデモの様子が生中継されていた。
どうやら予想通り首相はあのプランも譲歩も却下したようだ。デモ隊と防衛隊が開戦。双方発砲を始めていた。

(首相、あなたの唯一の間違いは私達次元海賊を甘く見たことよ)

彼女はあの邪魔だった地上部隊がいなくなると改めて考えると、静かに笑った。そして店を出て人の雑踏へと紛れていった。

(*)

 時空管理局本部ビル正門前

そこにはバリアジャケットに換装した3人の姿があった。
そして事態は首相の思惑通りに進行していた。
はやてが拡声器で自分のプランが完全に却下されたこと。そしてデモ隊が自分達の仕事生命すら人質にして願った譲歩すら得られなかったこと。そして無条件で即時デモ隊を解散せよと伝えた。するとデモ隊のタガが外れるのは一瞬だった。
自棄(ヤケ)になった1人の陸士隊員がデモ隊リーダーが厳重に科していた発砲規制を破って発砲。推定Bランクの魔力砲撃は時空管理局本部ビルの強力なシールドに阻まれ四散する。しかしそれに神経が敏感になっていた防衛隊が反射的に応射してしまうのは仕方ない事だった。
数本の魔力砲撃、数十の魔力弾が発砲した陸士隊員の周囲に着弾。彼と周囲にいた十数人に非殺傷の魔力ダメージを与えた。
するとデモ隊は倍近い数の火砲で報復。それに防衛隊が―――――と言うように友軍同士で撃ち合い、あっという間に全面的で壮絶な撃ち合いへと発展してしまった。

最早一刻の猶予もない。

全体数がデモ隊より少なく火力がほぼゼロである治安隊の比率が高い防衛隊が破られるのは時間の問題。今はまだ双方とも非殺傷というタガを外していない。しかしデモ隊、防衛隊に関わらず追い詰められればあるいは―――――
それはなんとしても防がねばならなかった。

「行くよ!なのはちゃん、フェイトちゃん!」

頷く2人。そして彼女達は、実力行使のために各々魔法の詠唱に入った。
デバイスに連続ロードされるベルカ式カートリッジ弾。その数は半端ではない。あちらのシールドは人数が多い分、そして非殺傷でぶち抜かねばらなぬ分、かの暴走した闇の書防衛プログラムより強大だ。手加減など出来ない!

「全力全開!ディバイン―――――!」

「雷光一閃!プラズマザンバァ―――――!」

「響け!終焉の笛―――――!」

桜色、金色、そして白色の眩い魔力光を放つミッドチルダ式、ベルカ式両魔法陣。
そしてそれらを解き放つまさにその時、それは空から降ってきた。
時系列は30分前に遡る。


(*)

 VF-25 アルト機

「畜生!どういうことだ!?」

彼の機体はまだフォールド空間を航行しているが、どうもおかしい。見えるべき僚機は見えず、機体も不規則に激しく揺られ、計器もめちゃくちゃだ。
バックミラーを流し見てランカの無事を確認すると、自機の安定を保とうと制御に集中する。しかし、一向に事態は好転せず、更に悪いことが重なった。


ギシ・・・・・・


それが機体上部に接続されたスーパーフォールドブースターの止め金の音と気づくのに1秒かからなかった。

(おいおい、嘘だろ!?)

内心舌打ちする。本当はこの程度の揺れで壊れるようなものではないはずだが、現実はそうでもないと否定している。

「整備不良かよ・・・・・・」

揺れにうめきながら整備員を呪った。そしてそれと同時に視界に、あるボタンが入った。

(えぇい、一か八か!)

迷わずそのボタン―――――緊急デフォールドボタン―――――を押し込む。このままフォールド空間にいても、フォールド機関の剥離、喪失によって機体が空間の圧力に押しつぶされるだけだったからだ。
眼前にフォールドゲートが開き、そこを通り抜ける。その際、一際大きな衝撃が機体を襲った。その衝撃にスーパーフォールドブースターが根底から外れ、ゲートに吸い込まれていった。
そして、悪いことは重なるものだ。ブースターは外れる拍子に、VF-25の推進剤(燃料)が入ったメインタンクに大穴を空けていったのだ。
VF-25の装備する熱核バーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン)は大気圏内では無限の航続能力を誇るが、やはり何もない宇宙空間では作用反作用を利用するため、推進剤を使うのだ。
振動は収まったが、燃料計が急激に減っていき、遂に無くなった。残るはFASTパックのブースター一体型のタンクと、エンジンナセル(バトロイド時の脚)に装備された装甲兼用のコンフォーマルタンクのみ。
これでは長い時間宇宙に留まれないだろう。そう思い周囲を見渡すと、そこには〝地球〟があった。

(変だな?フォールドは途中でやめたはずなのに・・・・・・んだがあれは南アメリカ大陸だよな・・・・・・?)

軌道を半周してみても大陸の位置など知識としてある地球と寸分変わらない。しかし軌道上に常備されているはずの地球絶対防衛圏の防衛衛星や艦隊もなく、フォールド通信で呼びかけても応答はなかった。(この時アルトは月が2つ以上あることに気づいていたが、天体としての地球をよく知らなかった彼はおかしいとは思わなかった。)
だが現状迷っている暇はないと判断したアルトは、デッドウエイトになるFASTパックのブースターをパージ。即座に降下シークエンスに入った。この分なら半周して〝日本らしき所〟の上空に着くはずだ。
大気摩擦でプラズマ化した外気がVF-25を包む。

(何度見ても飽きないな・・・・・・)

そのプラズマの尾が織り成す美しさにしばし緊急時を忘れた。
VF-25のエンジンが推進剤を必要としなくなったのは高度が1万メートルになった時だった。

「ふぅ・・・・・・」

水平飛行でようやく人心地ついた。そして作動させていても仕方ないと目前の多目的ディスプレイに指を走らせ、ランカのコールドスリープを解除。続いて彼女が起きるまでの間に自機の位置を知ろうと機器を操作する。
しかし驚いたことにわからなかった。
機器に異常はなかったが、銀河内であればフォールドクォーツのおかげで、タイムラグなしで繋がるはずのGPS(ギャラクシー・ポジショニング・システム。全銀河無線測定システム)からの応答がなかったのだ。
また、フォールド通信機など相手がいて初めて意味のある各機器も軒並みブラックアウトしていた。
仕方ないので少しでも状況を知ろうと、機体の高精度カメラを下に向ける。するとそこには都市があった。それも広大な。

「わぁ、きれい・・・・・・」

起き抜けのランカが座席のベルトを外したのか、後ろから座席越しにのぞき込むようにして画面を見て言った。
確かにその都市は、かつて地球にあった大都市や、現代のどの都市とも違う洗練された機能美があった。だが―――――

「・・・・・・あれ? なんだろう、この光?」

ランカの指差す先には群衆が1000メートル程の大きさのビルの前に大挙していた。そこでは光の筋の様なものが飛び交っている。

「・・・・・・レーザーだな。 ここでも戦争か・・・・・・」

まったくいやなものだ・・・・・・と、ため息をつく。その時ランカが大きく身を乗り出してきた。そして何事かと振り返った自分を真っ直ぐな目で見つめると、言い放つ。

「止めよう、アルトくん」

そう言う彼女の赤い瞳には意志の力がみなぎっていた。

「・・・・・・わかった。それじゃあ行くぞ!」

言うと同時に機体を水平に保つため機体を旋回させながら降下を開始する。緊急時の武装と翼下のフォールドスピーカーのチェックを済ませた頃には高度は2000メートル程になっていた。
後ろを見るとランカはすでに宇宙服を脱いで、下に着ていたステージ衣装に衣替(ころもが)えしていた。

(まさか本当にミシェルと同じことをするはめになるとは・・・・・・)

と苦笑すると、ランカはにっこり微笑み返してくれた。
その微笑みに一瞬我を忘れてしまうが、すぐに目的を思い出す。急いで外気圧を確認してキャノピーを開き、スピーカーの電源を入れ―――――

『私の歌を、聞けぇーーー!!』

そこに彼女の声が響き渡った。

(*)

ここで時系列は戻る。
はやて達にとって変化は突然だった。

「え!うそ!?」

隣のなのはの困惑の声と同時に詠唱中で集束されていた魔力がコンマ数秒の違いがあれど3人とも一瞬で霧消した。
彼女達にはこの現象によく似たものに覚えがあった。

「「「AMF!?」」」

しかし低ランク魔導士ならいざ知らず、リミッター解除の自分達がこうも一瞬で魔法を解除させられるはずはない。
しかもあれは空気中の魔力素の結合を阻害するもの。つまり結合して既に魔力と化した魔法には手が出せないはずなのだ。
だが魔法は幻だったかのように霧消し、新たに魔力を発生させることも出来ず、もはや各人のデバイスはただの鉄の棒と化していた。
デモ隊やはやて達を含む防衛隊がこの状況に唖然とするなか、空から大音量で音楽が流れて来る。

「あれは―――――?」

なのはが空の一点を指差す。そこには戦闘機に足が生えたような小さな航空機。刹那、大音量のイントロが放たれた。

『みんなぁ、抱きしめて!銀河の、果てまでぇー!』

荒んでいた人の心という名の水面が揺れて、大気に輪を広げていく。
それは魂を震わせる青い電流。
彼女の歌声が周囲を満たしていく。誰かを暖かく思う気持ち、心の底から幸せを願う気持ちがハートに響き渡る。
そして防衛隊とデモ隊との間に着地した航空機から1人の少女が舞い降りて歌い続ける。
それは後の人々も語る奇跡のようなひとときだったという。
 ・・・・・・こんな時、これほど早く事態が沈静化してしまうとは思っていなかった者達の時限式置き土産が発動した。
大地揺るがす爆音と共に時空管理局本部ビルに近い一軒家やマンションなど民家十数棟から爆炎が上がる。
これにはさすがの少女も歌い続ける事は出来ず、爆発の衝撃波に煽られペタンと座り込んでしまった。
本来戦闘中であれば混乱の中でこの爆弾テロは無視されて地上部隊の失態となっただろう事柄だが、幸運にも歌によって正気に戻った以上に、自らの使命を思い出した彼らにとってこれは任務以外の何物でもなかった。
地上部隊全員は再び杖で武装。
どうやら魔法妨害は解除されたらしく問題なく魔法が行使できた。
そしてデモ隊、防衛隊関係なくすぐに指揮系統を確立。あるものは突入班として炎上する民家に突入して救助にあたり、あるものは救護班として負傷者の応急治療に当たり、空戦魔導士達は病院へと重傷者を空輸し、またあるものは消火のために水や冷却属性の魔法を行使したり、延焼防止のため安全確認後魔力砲撃で家を最小限の被害で吹き飛ばした。
これほど早く、的確に動けたのは日頃の訓練の賜物と言えよう。対テロ・対武力・災害救助に特化した部隊。それがこの地上部隊の真価であった。
先ほどまでの敵味方が瞬時に結束し、民間人を必死に救おうとする姿はマスコミに余すところなく撮影、生中継された。
一方治安隊は何が起こったのかわからずしばらく思考停止していて、見かねた地上部隊隊員から「早く交通整理と犯人の捜索を手伝え!」と怒鳴られてようやく動き始めたというのだから、それを見た視聴者達の反応は時空管理局本部ビル内の会議室を含め、言わずもがなであった。

(*)

事態の推移に着いていけず唖然とする人は治安隊だけではない。ランカもまたその場を動けずに15分ほど眺めていた。
そんな時、ようやく余裕が生まれたのか、1人の女性が地面に座り込む自分に近寄ってきた。
彼女は長髪の金髪を持つ美しい女性で、先ほどまで空を飛んで炎上する家に突入して人命救助に貢献していた。どうしてその身1つで空を飛べるのかわからなかったが、地球ではアルトくんのEXギアの進化系が開発されているのだろうと考えた。

(アルトくんなら知ってるのかなぁ・・・・・・)

推進排気すら出さずに空を飛ぶ飛行原理についてアストロノーツ(宇宙移民者)としての好奇心が騒ぐが、事態はそんな単純ではないようだ。
彼女を制止する声が主観で上から聞こえる。見ると、バルキリーの操縦席のアルトが拳銃をぴたりとその女性を照準していた。

「アルトくん!?」

自らの非難する声に彼は応える。

「すまないがランカ、言い忘れてたことがある。ここは地球じゃないんだ」

「え!?あれって演出じゃ・・・・・・」

「あんなマジな演出あるかよ!」

アルトは怒鳴りつけるように言ってため息をつくと、その女性に向き直る。

「待たせたな。それで、ここはどこで、お前は誰だ」

「ごめんなさいね。自己紹介が遅れて。私は時空管理局、本局所属のフェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン執務官です」

アルトの拳銃を向けるという威嚇行動にも全く怒った様子を見せず、その女性はむしろ手慣れた様子で自己紹介をした。

「それと場所ですが・・・あなた達の言う地球は太陽系第3惑星の地球でしたか?それと、この星によく似ていませんでしたか?」

「全く同じだ。珍しいこともあるもんだな」

「なるほど・・・・・・大体の事情は飲み込めました。ともかくあなた方の安全は私が保証します。今は少し取り込んでいますので、しばらくお待ちください」

どうやら事情はわかってくれたようだ。彼女はニコリと笑うと、安心させるように言う。アルトも元より丸腰にしかみえない相手に銃を向けることに抵抗を感じていたのか、すぐに構えを解いた。
すると、心に1つの不安が生まれた。ここが地球でなかったのなら自分がやったことが正しかったのか?という不安に。そう思うと居てもたってもいられなかった。

「あの・・・私ってお役に立てたのでしょうか?」

するとフェイトと名乗った彼女は大きく頷いて、

「ええ、もちろん。私達はもうお互いで戦うことは無いでしょう。あなたが、そう教えてくれたから」

と、それこそ満面の笑みを見せて答えた。

(*)

その後初期動作が早かったため事態発生からたった30分で収束。首相も報道によって地上部隊隊員達の献身に心動かされたのか、予算問題についてあのプランを含めて前向きに検討し、1週間以内に対応するとデモ隊と国民(カメラ)の前で確約した。
続いて彼はその足で着陸したバルキリーに近づき、そこで待機していた自分にマイクで呼び掛けてきた。

『ああ、ランカ君・・・・・・と呼んでいいかな?』

「は、はい!」

『君は私の凝り固まった目を覚まさせてくれる手伝いをしてくれた。本当にありがとう。・・・・・・そこでどうだろうか?彼らの新たな第1歩を記念して、もう一度歌ってくれないか?』

その提案と同時にデモ隊と防衛隊(フェイトに簡単な事情を説明してもらった)が一斉にアンコールを始めた。その中にはあのフェイトの姿も見つかった。
なんか内心恥ずかしいが、こうも熱烈に求められては断れなかった。

「えっと、アルトくん」

「ああ、わかってるよ」

答えると同時に流される音楽と、開きゆくキャノピー(風防)。そして―――――

「よっしゃぁ!みんな行くよ!私の歌を、聞けぇ!!」

「「「うぉぉぉーーー!!」」」

その後ランカのファーストライブは半時にも渡った。



次回予告

魔法の世界に飛ばされた事に驚愕するアルト達。
しかし敵はすでに行動を開始しようとしていた─────
次回マクロスなのは、第2話『襲撃』
今、禁じられた道具の火蓋が切られる・・・・・・



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最終更新:2010年09月21日 17:21