第6章「心の叫び」




 ホテル・アグスタでの事件から数日後。起動六課はホテル・アグスタ周辺の現場調査を命じられていた。
 そこには、ライトニングとスターズの部隊もいた。
「それじゃ、この辺の警備をお願いね。何もなかったら、撤収だから・・・」
 ふと、なのはが落ち込んでいるティアナを見る。そんな彼女を見ながら微笑んで、
「それから、ティアナはこれから一緒に私とお散歩しよっか♪」
 ティアナが顔を上げ、悲しそうな顔でうなずく。
 そんなティアナに気を使ったのか、それともただ話すことがなかったのか、他の人たちは一切なにも話さなかった。


 一緒にお散歩しようと言っても、いろいろ話があるのは目に見えている。
 チームメイトだからなのか、あるいは傭兵としてアドバイスを聞きたかったのか、アイクとセネリオもこっそりついてきた。
 傍から見たら、ちょっとおかしいストーカーだろう。
 幸いなことに、彼らが現場検証を行うとさらに現場を悪化させる危険性があるとして、何も命令は下されなかった。
 そんな扱いが少し不満だったのか、セネリオは少しむくれた顔をしている。
 ある程度歩いたとき、ティアナとなのはが足を止めて話し始めた。
「ヴィータ隊長に叱られたから反省はしていると思うから、改めて怒ったりはしないけど、ティアナは時々、一生懸命すぎるんだよね。」
 その言葉に伏し目がちになるティアナ。
 そんな彼女の肩に手を置いてなのはが続ける。
「でもね、覚えておいて。ティアナは一人で戦ってるんじゃない。集団戦での私達のポジションは前後左右が見方なんだから。
 その意味と、今回のミスの理由・・・それを考えて、今回と同じ事を繰り返さないってこと・・・約束できる?」
 その問いに対してのティアナの答えは決まっていた。
 アイクに言われた言葉。あの時、誓ったのだから――――
 悲しげながらも、しっかりとした瞳でなのはを見据え、
「ハイ…」
 と答えた。
 その言葉を聞き、なのはが微笑んだ。どうやら、これで正解だったらしい。
 その後、二人な何を話すわけでもなくそれぞれの任務に戻っていった。

 アイクは不快感を感じた。
 理由は、さっきの会話。
(何で・・・あいつらは、こんな?)
 疑問に重い、不快に思ったこと。
 それは、なのはの接し方である。
 アイクにも、確かに家族はいる。だが、その家族は戦場に立った瞬間から「仲間」に変わる。
 簡単に言えば、「家族」と「部隊の仲間」をはきちがえることがアイクにとっては不快なのだ。
 アイクはれっきとした考えを持っている。血の繋がらないグレイル傭兵団のみんなを家族と思ったのも、戦場に立った瞬間から仲間に変わるのも。
 それは、アイクが目の前で両親をなくしたからだ。
 幼い頃、アイクの目の前で父が母を刺した。といっても、思い出したのは最近なのだが。
 それから十数年後、またもや彼の目の前で父が漆黒の騎士に刺された。
 今思えば、あの瞬間は似ていたように思える。
 何にしても、父を失ったときから決めていた。
 『もう、自分の感情のせいで誰かを失いたくはない』と。
 なのに、この二人はそれを怠っている。
 アイクと同じ事を繰り返そうとしている。それだけは絶対に許していいことではない。
 セネリオも同じ事を考えていたようである。
「アイク・・・彼女たち、どう思いますか?」
 感情のない瞳でたずねてくる。
「俺と同じことが繰り返されるのはゴメンだが、しばらくは様子を見ることしか出来まい。」
 今、下手に手を出したらティアナが壊れてしまう可能性がある。 
 それを危惧して、あえてなのはには言わないでおいた。
 それを数日後、アイクとセネリオは後悔することになる――――――――。





「ティア、あっちで休んでていいよ。検証の手伝いは私がやるから。」
 優しい言葉をかけてくれる相棒に優しく微笑み、ふっ、とため息をつく。
「大ミスしておいてサボリまでしたくないわよ・・・一緒にやろう。」
 ティアナは笑いながらスバルに言った。
 スバルの顔が輝き、元気のいい返事が返ってきた。
(そう、私は一人じゃない。) 
 アイクがあの苦しみを受け止めてくれたから、なのはさんが私にアドバイスをくれたから、
 そして、スバルという最高のパートナーがいてくれたから私はここにいる。
 もっと昇華すればいい。それだけのこと。
 ティアナは心の中でつぶやいた。
(ありがとう・・・)
 それは誰に対していったのか。誰に感謝したのか。
 それはティアナに聞いてもわからないことだった。
 だって、感謝するべき人がいっぱいいるのだから。



 それから数時間後。ユーノとなのはが事件の結果とそれについての考察を述べ、アクオス査察官とはやての会話がカフェで行われた後。
「起動六課の皆さん。撤収準備が出来ました。」
 とアナウンスが流れる。
 アイクとセネリオは準備を済ませ(といっても持ってきたのはラグネルとエルウィンドだけなのだが)集合場所に向かう。
 森の中を歩いているまさにその途中だった。
「――――元気そうだな。」
 背後から突然声がする。
 そこには黒い鎧をまとった戦士がいた。
 赤いマントをなびかせ、剣を地面に突き立てている。
「漆黒の騎士・・・!」
 とっさにラグネルを構え、いつどんな攻撃が来てもいいようにする。
 セネリオは距離をとり、エルウィンドを撃つ準備をした。
「フッ・・・待たれよ。私は今、戦いに来たのではない。」
 漆黒の騎士が言い放つ。
 だが、アイクにはどうしても信じられない。
「何っ!?」
「私は忠告をしにきたのだ。」
 そういって漆黒の騎士は剣を振り上げ、何もない方面へと衝撃波を繰り出す。
 轟音がとどろき、何本もの木がなぎ倒される。
 その音に気づき、何事かと何人かがやってくる。
「私は今回、貴殿らに忠告をしにきたのだ。」 
 そういってやってきた数人を剣で指す。
「貴殿らは事の重大さがわかっていない・・・私が以前、町を焼いたときと全く変わっていない。
 それではこれから起きる事件に対応は愚か、事件そのものを解決することすらできぬぞ。」
 そこに、なのはとフェイトがやってくる。前見たアンノウンということを思い出したようだ。
 二人はシャーリーに許可を取り、バリアジャケットとデバイスの起動をする。
「二人とも、止めろ。」
 戦闘体制になった二人に待ったをかけたのはアイクだった。
「コイツは俺が闘る、いや、俺にしかあいつは殺せない。」
「アイク殿はしかと理解できているようだと見た。」
 漆黒の騎士がアイクに剣を向ける。
「コイツの鎧には女神の加護がついている。これは俺のラグネル化エタルドでなくば壊せん・・・」
 漆黒の鎧は女神の加護がなければ壊すことは出来ない。すなわち、この男はアイクにしか殺せないというわけだ。
 一触即発の状態になった刹那、何かが飛来してきた。
「私達は航空魔道士です。無駄な抵抗は止め、おとなしくしなさい!」
 上空から航空魔道士隊がやってくる。シャーリーが増援を要請したのだ。
 デバイスの先端を向け、漆黒の騎士におとなしくするよう呼びかける。
 だが――――――――
「愚かな」
 そう一言いうと、漆黒の騎士は剣を振り上げる。
「伏せろ!!」
 何が起こるのかいち早くわかったアイクは伏せるよう呼びかける。
 そして、漆黒の騎士は剣を振りぬき、衝撃波を浮いていた彼らに当てていく。
「ぐあああぁっ!」
 高威力の衝撃波を喰らい一人、また一人と打ち落とされていく。
 恐らく、彼らは助からないだろう。
「身の程をわきまえよ。一応、命だけは助けてやった。速く手当てをすれば、まだ助かるだろう。」
「アンタは、何がしたいんだ!?」
「最初に言ったはずだ・・・忠告をしにきたと。」
 漆黒の騎士は剣を再びアイクに向けて言い放った。
「今度の事件はこの程度では済まぬぞ。いくら貴殿の体内に女神の加護が流れようとも・・・」
 絶句した。
 なぜ、そのことを知っているのだろうか。
「忘れるな・・・」
 漆黒の騎士の地面に魔方陣が描かれ、ワープする。
 待てっ、と声を張り上げたものの、その声もむなしく漆黒の騎士は去っていった。


 起動六課本部に戻り、なのはから午後の戦闘訓練中止を言い渡される。
 だが、それではアイクの気は収まらなかった。
「俺は少し修行をするが、構わないか?」
「う~ん、まあ、問題はないと思うけど、速めに切り上げてね。」
 ロングアーチを借りる時の注意事項を聞かされ、そこに向かう。
 その後、シャーリーを呼び出した。
「アイク、どうしたの?」
「ヴァーチャル訓練をしたい。ガジェット、80機だ。場所は旧市街地。頼むぞ。」
「え、ちょっとまっ・・・」
 そんな声も聞かず、無線をきる。
 数分後、ロングアーチに建物が映し出される。ちゃんとOKが出たようだ。
 アイクは颯爽とその中に入っていった。



 ティアナはスバルに一言告げてから、ロングアーチに向かった。
 ティアナは奇妙なことに気がついた。
(ロングアーチの場所から建物が・・・?)
 少し早足で駆けつけてみると、中から爆発音と雄たけびが聞こえる。
 アイクが闘っているのだ。
 ロングアーチのタスクを開き、設定を見てティアナは愕然とした。
(こ・・・これって!?)
 無理もない。
 ガジェット80機なんて半端ではない数だ。
 それをたった一人で現在では残機25機という数に減っていた。
 しかも、ここに来るまでたった10分程度。
 その10分でアイクは設定した数の半分以上をもしとめてしまっているのだ。
 ここでまた、ティアナが戦力の差を感じる。
 だが、負けてられないのだ。ここで強くならなければ・・・。
 そう決意し、旧市街の中へと足を踏み出していった。



 ティアナが見たのはまさに修羅だった。
 一度の剣の振りで5~6機を仕留めるような動きだった。
 背後の敵も上手く切り裂いていく。
 気がつけば、今ので10機仕留めていた。
 最後の1体はとても強力なのがやってきた。
 恐らく今の自分、いや、今の部隊であっても倒せるかどうか怪しいくらいの強さを誇るものだった。
 だが、
「ハァァッ!!!」
 雄たけびと共にすばやい一撃を繰り出す。
 その後にバク転を繰り出し、高く飛ぶ。そして、急降下しながらガジェットを切り裂く。
 ガジェットは爆発し、訓練が終わった。
「ティアナ、出てきたらどうだ?」
 アイクはティアナに気づいていた。洞察力が異常である。
 少し、悲しそうな顔をしているのに気づき、アイクが話しかける。
「ティアナ。これから追加で練習をするんだが、一緒にしないか?」
 ティアナが顔を上げ、真剣な瞳で
「はい!!」
 と返事をした。
 いい返事だ、と微笑みながらアイクはさらにガジェット60機を追加する。
 二人はその後、夜11時まで練習をすることになった。




 そのあと、二人がなのはたちのお叱りを受けたことは言うまでもない。


 to be continued......





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最終更新:2010年09月12日 00:28