『マクロスなのは』第12話その2
(早く・・・・・・!)
既に機体はこの高度での最高速度マッハ5を記録している。
普通なら機体の耐熱限界を超えているが、なんとかPPBSで空気との摩擦を減らす。
視線の先の速度計がゆっくりと上昇していく―――――
マッハ5、5・・・・・・5、8・・・・・・
マッハ5、9に突入した瞬間それは高度10000で炸裂した。
その白い魔力衝撃波は周囲の雲をも吹き飛ばし、こちらに迫る。
『本当に非殺傷設定なんだよな・・・・・・あれ・・・・・・?』
天城の声だ。確かにあの壮絶な破壊力は反応弾すら顔負けだ。
そしてそれは遂に、こちらに追いついた。
『うぁぁぁーーー!』
『助けてくれぇぇぇーーー!』
『操縦不能、操縦不能ぉぉぉ!』
絶叫する無線。
後方の小隊、いずれも1期生を小隊長に据えるトーラス小隊、ジェミニ小隊の機体から黒い煙が上がる。そのまま撃墜判定を受け、本当に危ないのか地上に控えていた地上部隊の転送専門部隊によって安全空域に強制転送された。
その後なんとか命からがら高度2000メートルに逃げ切った彼らだが損害は大きかった。
トーラス、ジェミニ両小隊が全滅。合計6機が犠牲になった。
『もういやだぁー!こんな鉄の棺桶の中で死ぬなんてぇー!』
1人の1期生が発狂寸前の声で叫ぶ。
「落ち着け!これは演習だ。まだ誰も死んでない!」
アルトが怒鳴りつけると彼はやっと気づいたようで、なんとか落ち着いた。はやての爆撃は死をまじかに感じさせるリアリティがあった。
『こちら『ホークアイ』。すまないが悪い知らせだ。2時、4時、8時そして10時の方向に敵が出現。10時の1群を除く他3群に1人ずつSランク魔導士の存在を確認した。また、他は全てオーバーAランククラス。数は1群につき約50人。合計約200人!』
この演習にはクラナガンの部隊のみが参加している。そして現在地上部隊の首都防空隊などクラナガン付近の部隊に所属する空戦魔導士の数は約3000人。内、Aランク魔導士は約250人程だ。地上部隊は本業そっちのけで先ほどの囮と合わせて約220人、つまり90%をこちらに注ぎ込んだことになる。
『ハハハ、ここまでやるか・・・・・・』
ミシェルが呆れたように呟く。
20数機に対して200人を超える地上部隊の最精鋭を注ぎ込んだのだ。また、Sランク魔導士などというものはクラナガン付近の地上部隊には1人もいない。つまり六課の隊長・副隊長陣であることは間違いない。
ともかく、この数の差はさすがにやりすぎであることは明らかであった。
「・・・・・・ミシェル、とりあえず上昇して体勢を立て直そう。魔導士はなかなか上がってこれないはずだ」
彼らはまだ低空を飛行しているし、バルキリーほどの上昇力はない。
彼らはバリアジャケットによって気密は保たれているが、高空では超高ランク魔導士以外は力を出しにくい。
対してハイパワーを誇るバルキリーは有利だった。しかし低空では大差ないため理論的には互角なはずだが、技量で負けているバルキリー隊に不利だろう。これもリークした情報のひとつだった。
おそらく彼らははやての爆撃によってバルキリー隊を低空に引きずり下ろし、一気に方をつける魂胆なのだろう。
『しかし高空では八神二佐の攻撃にさらされるんじゃないか?』
当然の反応だった。おそらく彼らはそれを狙ったのだろう。しかしアルトは知っていた。彼女の弱点を。
「大丈夫だ。八神二佐の攻撃にはチャージが必要なんだ。5分ぐらいな。その間にまた低空に降りて後ろから奴等を蹴散らせばいい」
対魔導士との低空戦はこの1週間みっちり特訓したため、50人ぐらいなら拮抗、もしくは上回る自信があった。
(各個撃破なら勝機がある!)
しかし検討する間も敵は迫っている。距離は視認距離である10キロを切る寸前だ。
『了解、アルトを信じよう。全小隊、10時の敵部隊に向け上昇。なお、これより10時にいる敵部隊から時計回りにA、B、C、D群と呼称する。上昇後A群の後ろに回り込み、これを叩く!』
ミシェルの指示に無線から元気な声が入る。
『スコーピオンリーダー了解!』
『スカル小隊一同、どこまでも中隊長に着いていきます!』
『アリースリーダー同じく!』
『アクエリアス小隊もであります!』
全員の声が活気づいている。先ほどまで下がっていた士気は再び上がり、戦闘体勢が整っていく。
アルトは2機の列機にアイコンタクトすると通信機に吹き込む。
「サジタリウスリーダー了解!」
『よし、地獄までついてこい!各小隊、上昇開始!』
フロンティア基地航空隊全機はアフターバーナーを焚き、青白い粒子の尾を引きながら猛烈な勢いで上昇していく。もちろんそんな強烈な推進力のない魔導士部隊には追随できなかった。
(*)
高度8000メートル。そこまで登って来るには普通の魔導士なら3、4分はかかるが、バルキリー隊は1分弱で実現した。現在A群の上空を飛行しており、下から突き上げる魔力砲撃が歯がゆい。
しかし後ろから追ってきた者は普通の魔導士ではなかった。
レーダーに写るそれぞれの群から抜け、猛烈な速度で追いかけてくる3つの光点。それはどれもオーバーSクラスのリンカーコア出力を示す赤色に輝いている。
『後方に敵影。放出魔力量より、機動六課と思われる!』
ホークアイからの報告に隊は来るべきものが来たと身構える。しかしミシェルの通信が全員での迎撃を否定する。
『俺とサジタリウス小隊のみで迎撃する。他はスコーピオンリーダーのライアン二等空尉を隊長に予定通り行動せよ』
『しかしミハエル中隊長・・・・・・』
心配をする各機から反対の声が上がる。
『バカ野郎、俺とアルトがやられるわけないだろう?それに下の連中ならお前らで十分だ。さっさと片づけて追いつくから、今のうちに臨時ボーナスを稼いどきな』
ミシェルの機体近くにスコーピオン小隊の小隊長機であるVF-11Sが来て敬礼する。
『スコーピオンリーダー了解。航空隊を預かります。ミシェル隊長、ご武運を』
ミシェルはサムズアップすると翼をバンク(ロールを左右小刻みに行い翼を上下に振ること)させ180度旋回。アルト達サジタリウス小隊も続いた。
直後航空隊はスコーピオンリーダー指揮の下、急降下ミサイル飽和攻撃に突入していった。
(*)
近づくにつれて相手がはっきりしてきた。アルトはさくらのVF-11Gの高精度カメラから送られてきた映像を確認する。その姿は紛うことなき彼女達だった。
「前方9000に遷移する敵部隊を機動六課、なのは、フェイト、ヴィータと確認!」
『了解!ファーストストライク、レディ、ナウ!』
ミシェルの合図と共に4機からありったけの中HMMとマイクロハイマニューバミサイル(以下MHMM)、合計約30発が連続発射された。
ミサイルの内蔵するAIが自身を回避運動させる。
しかしミサイル達は桜色の(魔力)素粒子ビームと金色の矢。そして赤い魔力光を放つ鉄球に捉えられそのすべてが叩き落とされた。
『ブレイク(散開)!』
ミシェルの指令にミシェル、アルト、サジタリウス小隊の2機にそれぞれ分かれた。
六課はこちらの挑戦に乗ったようだ。各個撃破せず、同じように散開する。
右に旋回したミシェルにはなのはが。下に降下したアルトにはヴィータが。そして右に旋回したサジタリウス小隊の2機にはフェイトが向かった。
ミシェルのVF-11SGが直進しながら後方のなのはにハイマニューバ誘導弾を叩き込む。追うなのははそれを回避しながら打ち返す。しかしお互
いまったく当たらないし危なっかしい感じもしない。
これはアルトやサジタリウス小隊の方でも同じだ。
この予定調和のとれた攻防には理由がある。それはアルトが情報をリークした時にある条件を設けたことにあった。
その条件とは
『六課の隊長・副隊長陣は、仕掛けられた場合必ずタイマン勝負に乗ること』
である。
だが彼はなぜそんな条件を設けたのか?
それは、アルトが六課戦力を十二分に憂慮していたことにある。
クラスSのリンカーコアであれば高高度でもほぼ通常機動でき、それぞれの攻撃もバルキリーとて転換装甲を抜けて一撃で落とす威力を秘めている。こうなるとバルキリー側の有利な点が全て対等になってしまう。
すると技量で圧倒的に劣る新人達には対応不能である。
しかし幸運なことに地上部隊にはクラスSのリンカーコアを保有する魔導士は存在しない。しかし六課の隊長格は全員がクラスSだ。
もしそんな六課戦力がゲリラ的活動をし始めたら数の少ないバルキリー隊はあっという間に壊滅してしまうだろう。
そこでアルトは
『六課戦力には表舞台に出てもらって自分やミシェル、それと対六課戦の特訓を施した数人と真剣勝負をしてくれた方が扱いやすい』
そう考えたのだ。
ともかくタイマンのためにはまず、お互いに影響が出ないように離れる必要があった。
(*)
『(俺の相手は君か、なのはちゃん)』
ミシェルが攻撃の合間に念話を放つ。
『(うん、よろしくね)』
なのはは笑顔で応じた。
(*)
『(さて、あの時の再戦といこうか)』
こちらはヴィータがアルトを追いつつ放つ。
『(望むところだ)』
アルトはコックピットでニヤリと微笑んだ。
(*)
『(お手柔らかにお願いします)』
右に旋回したさくらは翼をバンクさせつつ念話を放った。
『(うん。アルト君の秘蔵っ子の力、見せてもらうよ)』
フェイトもまた笑顔で応じた。
(*)
そしてそれぞれ十分離れた事を確認すると八百長試合は終わり、本格的に開戦する。
『いっけぇー!』
タイマン勝負は幾重の爆風の中から始まった。
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最終更新:2010年11月22日 21:42