二階にあるジュンの部屋までやって来た時、そこではジュンが部屋に閉じこもってパソコンをしていた。
「本当に引きこもってるんだな。」
「何だよ…文句あるのかよ?」
ジュンはヴィータの顔を睨み付ける。睨めっこなら元々から目付きの悪いヴィータの方が上手だが
ヴィータは別に睨めっこをする為にここまで来たのでは無い。
とりあえずヴィータはジュンのベッドの上に座った。
「なに人のベッドの上に勝手に座ってるんだよ。」
「別に良いだろ? 今お前パソコンやってんだから。」
「ダメな物はダメだ! 第一お前居候のクセに…。」
と、ジュンが怒って立ち上がろうとした時に突然ドアが開いて雛苺がやって来た。
「わ~い! ジュ~ン! あ~そぼ!」
「わっ! 雛苺! 何でこんな時に!」
雛苺はジュンの頭に飛び乗っており、もはやヴィータに対して怒りをぶつけるどころでは
無くなってしまった。しかしそれだけに終わらない。今度は真紅が来たのである。
「ジュン、紅茶を淹れて来て頂戴。」
「あーもー! そういうのは姉ちゃんに頼めば良いだろ!?」
「一々煩い下僕ね。私はジュンに頼んでいるのよ。早く紅茶を淹れてきなさい。」
「わ~い! ジュン登り~!」
「あーもー!」
「な…何なんだいきなり…。」
突然大騒ぎになり出してヴィータも唖然としていたが、そこで翠星石までやって来るでは無いか。
「女神の様に優しい翠星石は卑しいチビ人間にも分け隔てなく慈愛を与えるです。
さあ翠星石の作ったスコーンをありがたく頂くが良いですよ!」
と、何か翠星石は焼きたてのスコーンをジュンに渡していた。
「え? 一体どうなってるんだ?」
先程ヴィータに対してチビ人間Ⅱ号呼ばわりしていた時はジュンの事をチビ人間と
馬鹿にし、まるで毛嫌いしている様だったと言うのに、今はまるで違う。
確かに口は相変わらず悪いが、まるで大切な人にプレゼントを贈るような…そんな感じだったのである。
「早く食べやがれです!」
「ジュン登り~!」
「ジュン、早く紅茶を淹れて来なさい。」
「あーもー! 何で三人一度に来るんだよぉ!」
色々あって真紅・雛苺・翠星石の三人がジュンの部屋から出て行き、
またもヴィータとジュンは二人きりになった。先程人形達に振り回された為に
ジュンはヴィータに対して文句を言う気力も無くなる位疲れたのか
相変わらずジュンのベッドに座るヴィータに文句を言う事無くパソコンに向かっていた。
「全く不思議な奴だなお前は…。」
「何だよいきなり…。」
「だって考えても見ろ。お前学生なのに学校にも行かずに部屋の中に引きこもって
ずっとパソコンばっかしてるんだろ? 普通ならそういう奴は嫌われる。」
「何が言いたいんだよ…ああそうだよ! 僕は引きこもりだよ! それがどうした!」
ジュンは逆切れしていたが、ヴィータは手を左右に振った。
「まあ待て待て。まだ話は途中だ。」
「何?」
「普通ならお前みたいな引きこもりは皆に嫌われて相手にされないはずだが…
実際はどうだ。あんなに人形達に好かれてるじゃないか。一体どんな魔法を使ったんだ?」
「はぁ? 何を言ってるんだ! あれの何処が好かれてるって言うんだ!
むしろ迷惑してるのが分からないのか!?」
ジュンはやっぱり怒っている様子だったが、ヴィータは呆れて眉を細めていた。
「お前それ本気で考えてるんなら…おめでたい事だな。」
「はぁ?」
「だってそうだろ? 本当に嫌われてるなら相手にされないって。」
「…。」
ジュンは黙り込んだ。
「それだけお前は大切にされてるって事だ。だから不思議なんだよ。普通なら嫌われる
要素の方が大きいはずなのにお前はあんなに好かれてる。」
「別にあんなのに好かれたって嬉しくない! だって相手は人形だぞ!」
「それがどうした。」
「…。」
これは双方の文化の違いと言う奴なのかもしれない。
ミッドチルダには使い魔やらの人造生命はいくらでもいるし、
ヴィータもまた人型のプログラムと言う人造生命。そしてミッドチルダの文化は
余程の事が無い限りこの手の人造生命にも人権が与えられる。
だからこそヴィータは例え人形であろうとも生きているのならば…
と言う事でローゼンメイデンと人間を同一に見ていたのだが、
そういう文化の無いこちらの世界の人間であるジュンにその考えは受け入れられない様子である(?)
「(はぁ…はやてはプログラムの私も家族として扱ってくれたのに何かこいつは…
まあ色々な奴がいるって事か…。)」
ヴィータが一階に下りると、真紅・雛苺・翠星石の三人は居間でソファーに座り、テレビを見ていた。
その番組は「くんくん」と言う犬の探偵が主人公の推理人形劇。
「人形が人形劇見てやがるよ…。」
ヴィータにとって眉を細めてしまう光景であったが、三人は手に汗握る程
真剣に見入っているのだからそこまで否定するつもりは無かった。
そして番組も終わり、三人が一息付いた時に雛苺がヴィータの方に気付いていた。
「あー! ヴィータがいるの! ヴィータ抱っこしてなのー!」
「ええ!? いきなり何言ってるんだよ!」
「嫌なのー! 抱っこしてくれなきゃ嫌なのー!」
「あーもー! わかった! わかったから!」
三人の中でも雛苺が一番外見的にも内面的にも子供な事はヴィータも悟っていた事だが、
あんまり泣き声がうるさい事もあってヴィータは仕方なく雛苺を抱いてソファーに座った。
「これで良いんだろ? これで…。」
「わーい!」
「おい…。」
先程まで泣いていたのが嘘のように雛苺は笑い出し、ヴィータは呆れてしまった。
「あのね、あのね、ヴィータってジュンに似てるのー。」
「はぁ? 何処がだよ。」
突然の雛苺の言葉にヴィータは呆れて眉を細めながら首をかしげた。
「え~? でも本当なの。本当に似てるのー。」
「だから何処がだよ。」
普通ならそう考えるだろう。ヴィータとジュンは全く似ていない。
容姿だって性格だって全然違う。なのに雛苺はヴィータが雛苺と似ていると言う。
「とにかく何処が似ているのか具体的に説明してもらおうか?」
「うんとね~、声が似てるの!」
「声…翠星石の奴も言ってたけどそんなに似てるか?」
「似てるのー!」
雛苺は笑いながらそう答えるばかりだったが、そこで真紅が割り込んで来た。
「二人とも静かにしなさい。」
と、真紅達は今度はビデオに録画していた方のくんくんの視聴を始めていた。
最終更新:2007年08月14日 17:27