第11章「戦場の駆け引き」
「みなさん、お待たせしました。」
遅れてセネリオがやってくる。アイクが呼んだため、多少待たざるを得なかったのだ。
しかし、ただ遅れたわけではない。
「?セネリオ、何でエタルドを。」
「いえ、ラグネルがなかったので。アイクがもし、武器を持っていなかったらいけないと思って。」
つくづく優秀な参謀である。そこをアイクに見込まれたのだから。
「さ~て、みんな。短い休暇は楽しんだ!?」
「「「はい!!」」」
元気のよい返事が返ってくる。
そしてそのまま、各々のデバイスを掲げ、バリアジャケットに着替え……ようとした。
なぜ着替えないかというと…
「………」
「?」
ティアナがアイクに視線を送っている。それも、顔をほんのり赤らめて。
その意味をアイクより早く理解したセネリオは
「アイク、作戦の提案があります。少しいいですか…」
とアイクを路地裏から連れ出してくれた。ティアナとしても、想い人にほぼ全裸を見られるのは恥ずかしいところだろう。
もっとも、想い人、といっても向こうがそれに気づいていないのだが。
そうして雑念を振り払い、全員がバリアジャケットを装備する。
「…終わりましたか。」
「ええ、ありがとうございます。」
「……あなたの思いがアイクに届く確率はかなり低いでしょう。」
「!?」
唐突にそんなことを言われる。ティアナは勢いよく振り返ってセネリオを見る。
「向こうの世界でも、アイクに想いを伝えた人は居ます。ですが、結局彼はその意味を誤解したままでしたから。」
「そ、そうだったんですか……」
戦いに行く前というのに、思い人がどーのこーのと、ティアナはひどく場違いに思えたが、好きなのだから仕方がない。
それでは…と悩んでいると、不意にセネリオが微笑を浮かべる。
「あなたには少し、期待しています。がんばってみてください。」
「…ありがとうございます!!」
セネリオによって元気づけられたティアナだった。
ビルの屋上でなのはとフェイトが話をしている。
「フォワードのみんな、頼れる感じになってくれたかな?」
「ふふっ、もっと頼れるようになってもらわなきゃ。それに、他に優秀な人材もいるしね。」
「アイク達のこと?」
「そう。あの人たちは、あの子たちをうまく導いてくれそうな気がするの。」
「そうね、それじゃ…」
「行こうか。」
二人はバルディッシュとレイジングハートを取り出し、バリアジャケットに着替える。
理由はもちろん、空から襲ってくるガジェットの大群に対抗するためだ。
この二人がほぼ敵をせん滅するだろう。
そうすれば、残る不安分子は地下にいる彼女たちだけ。
「さっさと終わらせて、またあの子たちに休暇与えなきゃ。」
「そうだね。」
そうして二人は親友同士の会話を楽しみながら、空から襲いかかる機械の群れ達の中に突っ込んでいった。
アイク達は地下を走りながら移動する。ギンガと合流して情報の提供と戦力を補充をしてもらうためだ。
だが、その途中で奇襲があるとも考えられる。
「いいですか、ティアナは先頭に。あなたが敵だと判断したものは迷わず撃ってください。
次に、エリオ。君はティアナの援護役です。前方からの敵と交戦状態になった場合、第一にティアナの援護をお願いします。
その次に君です、キャロ。君はこの隊列の中心に位置して、みんなの先頭をサポートし、攻撃をよけることに徹底してください。
キャロの後ろは、スバル、あなたに任せます。あなたは横を見張ってください。何か現れたら容赦なく叩き潰してもかまいません。
後ろから2番目は、アイク、あなたです。主に、全員への指示と僕のバックアップをお願いします。
最後尾は僕です。魔法が使えるので中、遠距離のものは任せてください。
……さあ、行きましょう。」
簡単に列の説明をして隊列を組む。実質、この並びには隙がなかった。
前方に現れた敵はティアナ、エリオがつぶす。
横から現れた場合はスバルとキャロがつぶす。
後ろから現れたらアイクとセネリオが消し飛ばす。
非の打ちどころがない、ともいえる隊列の組み方であった。
「ギンガさん、お久しぶりです。ひとまず、南西のF94区画を目指してください。そこで合流しましょう!」
「ええ、わかったわ。」
そういうと、ギンガはバリアジャケットを装備し、目的地へと向かう。
そのころ、空では大掛かりな陽動が行われていた。
「はやてちゃん!?どうして騎士甲冑?!」
「今回は私の出番や。遠距離広域魔法はうちの分野やで。」
「でも、はやて…限定解除の承認が必要なんじゃ…」
「その点はオッケー。クロノ君とカリムさんからの承認を得たからな。というわけで、なのはちゃんはヘリへ。
フェイトちゃんは地下にいるライトニングとスターズの応援に行って!」
「「了解!!」
なのはとフェイトははやての広域魔法の着弾地点ギリギリの位置に待機する。
「ほな、いくでぇ~」
そして、はやての顔から笑みが消え去り、魔法の詠唱を始める。
「フレスベルグ!!!」
「!!何か来ます!」
キャロがそう叫ぶ。その一言で隊列を組んでいたみんなは戦闘態勢に入った。
刹那。
とてつもない轟音が地下の壁を破壊する。
そこから現れたのは、
「お待たせ。一緒にケースを探しましょう。」
「ギン姉!!」
「ギンガさん!!」
ギンガこと、ギンガ・ナカジマ。
「はじめまして、アイクさん。それと、セネリオさん。ギンガ・ナカジマです。」
ギンガは丁重に二人へ挨拶をする。
「はじめまして、と言いたいのは山々ですが、この状況を切りぬけてからにしましょう。」
「…それもそうですね。」
「くぅっ!!」
エリオが押し寄せてくるガジェットの群れに苦戦しつつある。
「これじゃきりがありませんね…」
ぽつりとセネリオがつぶやく。
「スバル、一撃で決めて!!」
「おうよ!!」
ギンガが大型のガジェットの腕を粉砕する。そのすきに間髪いれず、スバルが大技を仕掛けた。
「ディバィィィン…バスタァァァァ!!」
派手な音とともに大型のガジェットは跡形もなく吹き飛んだ。
「ぬぅん!」
大きな声が聞こえたと思うと、先ほどの大型のガジェットが3つまとめて吹っ飛んで行った。
「この程度か…」
「あの人…一体何者?」
そのパワーに驚きと感嘆を示すギンガだった。
「あの人はたぶん…ううん、この部隊で間違いなく最強の人、だよ!」
高らかにスバルが説明をする。なにしろ、蒼炎の勇者なんだから、と。
その異名の由来は分からずとも、凄さと派手さは少なくとも理解できたようである。
「あった!ありました!」
キャロがレリックが入っていると思われる箱を拾う。その瞬間だった。
(…ん?)
アイクが違和感を感じる。ここの下水は意味もなく跳ねるだろうか。
それは、水だけではなかった。壁からも音がする。しかも、だんだんとキャロの方向へと向かっている。
(まずい!!)
そう感じ、ダッシュでキャロのもとへ駆け寄った。
「?」
走ってくるアイクを不思議そうにキャロが見つめる。
その刹那、上から黒い魔弾が降り注ぐ。
「!!!」
その様子を見て、キャロはようやく自分が狙われていることを理解した。
タッチの差で、間に合わなかった。
「きゃああぁぁ!!」
轟音とともにキャロが吹き飛ぶ。
その様子を見て、アイクは身を毟る嫌悪感にさいなまれたが、同時に蒼炎の勇者としての実力を発揮した。
瞬時に射線をとらえ、その方向に無理やり体をひねり、飛ぶ。
そして、見えない「何か」にラグネルをぶつける。
相手からは見えているのだが、こちらからは見えない。
それはアイクを吹き飛ばすのに十分な理由になった。
「ぐおっ!」
吹っ飛ばされたアイクだが、受け身をとって次の攻撃に備える。
見えなかった相手の実態が少しづつ見えてくる。
それは人間でもなく、機械でもなかった。
どさくさにまぎれて、少女がレリックのは言っている箱を持ち出そうとした、がティアナにクロスミラージュを突きつけられる。
「それは本当に危険なものなの。悪いことは言わないわ。それを置いていって。」
それを聞き、少女が顔をほんの少しゆがめた時だった。
(ルール―、1,2,3で目ぇ瞑れ!)
心話が少女に聞こえた。
(1,2…)
そのタイミングで少女は目を瞑る。
その違和感に今度はセネリオがいち早く気づいた
「危ない!!」
が、一瞬遅かった。辺り一帯は火の海につつまれる。
「くっ!」
とっさにブリザードを使い、辺り一帯の炎をかき消した。
火が収まり、ティアナは再びレリックを持っていこうとする少女に狙いをつける。
だが、クロスミラージュを構えた瞬間、先ほどの人間とも機械ともいえぬ何かがティアナめがけて突進してくる。
(やばい…!)
やられる、と思った瞬間だった。
アイクが駆けつけ、ティアナをお姫様だっこで救い出す。
戦場とは言え、好きな人に突然だっこしてもらって赤面しない、という女性は居ないだろう。
ティアナも例外ではなかった。
「あ、ありがとうございます…」
照れながら、礼を伝えたが、アイクは全く聞いていない。
アイクの視線は上方に注がれていた。
そこには、赤い紙と羽根を持つちっこい人間がいた。
「ここからは、烈火の剣聖、アギトさまの出番だ!!」
剣聖、という言葉にアイクとセネリオが反応する。
あの体で、奥義・流星を使いこなすのか…と考える。まぁ、アイクの世界とこちらの世界の剣聖は違うのだが。
「さあ、どんどんかかってこいやぁーーーー!!」
少なくとも、先ほどより面倒に、そして厄介になったのであった。
to be continued....
最終更新:2011年03月21日 23:26