第13章「望まぬ英名」
「あの小さな子達が…いません!!」
「何っ!?」
確かに、リィンがバインドをかけたはずだったが、それでも逃げだした。
恐らく、捕まる寸前に逃げたのだろう。
そんな報告を受けている最中であった。
突如、地面が揺れ始めた。
「何!?」
「上で何が…」
「とりあえず、脱出しましょう!」
パニック状態に陥ることなく冷静に判断を下すティアナ。
彼女はスバルにアイコンタクトで指示を出す。
「「ウィングロード!」」
スバルとギンガが、さっきヴィータ達が降りてきた穴に螺旋状のウィングロードを展開する。
「全員、後に続いて!」
ギンガが指示を出す。
その前に、ティアナとキャロはやることがあった。
「キャロ、このレリックの封印作業、頼める?」
「はい、もちろんです!」
二人は二人で、新たなことを画策していた。
「急がなきゃ…アイクさんたちも早く!!」
発破をかけるティアナだが、アイクとセネリオはそれに動じなかった。
「いえ、僕たちはここで上の敵を叩きます。心配しないでください。」
「そんな!すぐにここも崩れて…」
しかし、そんな心配など無用、とも言うようにアイクが諭す。
「ティアナ、俺達は大丈夫だ。俺達にも考えがある。…行け!」
ここまで言われてしまうと、もはや退くしかなかった。
「わかりました…気をつけて!」
そう一言残すと、スバルの展開したウィングロードを駆け上がっていった。
「さて、アイク。『アレ』は大体どの辺りでしょうか?」
「予測でしかないが、もう少しだ。」
二人は地下道を歩いていく。
すると、局地的に天井がへこんでいる部分が見受けられた。
「ここですね…」
「できるか?」
「できなかったら、初めからここに留まったりなどしません。」
ほんの少しの皮肉をこめて返すセネリオ。
「フッ…そうだな。じゃ、頼む。」
「ええ。」
その手には、トルネードの魔道書が握られていた。
そして、魔法陣が展開される。その際に、セネリオはつぶやいた。
「陽光」
「なぁ、ルールー、いくらなんでもこれはまずいって~。」
そうルーテシアに話しかけるのは、赤い髪をした小さなもの。
アギトであった。
「…あのくらいなら、死なない。」
「それでも、この瓦礫の山からケースをどうやって探すんだよ~?」
案の定、道路の上に大きな蟲――ジライオンと呼ばれている――がいる。
アギトの忠告に耳を貸さず、ルーテシアはガリューに撤退を命じた。
その時だった。
ジライオンが桃色の鎖によって、動きを封じられた。
「!?」
動揺するルーテシアとアギト。
二人はビルの屋上に立っているキャロを見つけた。
その瞬間、キャロの背後から二つのウィングロードが伸びてくる。
スバルと、ギンガだ。
さらに、ティアナが援護射撃をする。
ルーテシアとアギトが廃棄された高速道路に降り立ったとき、だった。
「陽光」
どこからともなくその声が聞こえたかと思うと、ジライオンのいた場所から竜巻が発生する。
ただの竜巻ならよかったものの、それはセネリオが起こした魔法だった。
さらに、これは「奥義」である。
ジライオンはなすすべもなく、地面ごと吹き飛んでいく。
その姿に呆然とした二人をエリオとリィンがホールドアップをした。
起動六課の、完全勝利だった。
「子供をいじめてるみたいでいい気はしねーが、市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、
その他もろもろで逮捕する。」
アイクは、いや、恐らくその場にいた全員が、子供はお前だ、と思ったのだが、あえて口には出さない。
その辺の気遣いはできる男だ。
そのころ、とあるビルの屋上で二人の女性が話をしていた。
「ディエチちゃん、ちゃんと見えてるぅ~?」
「ああ、問題無い。」
眼鏡をかけた女性がディエチ、と呼ばれる女性に話しかける。
彼女たちは一見して普通ではなかった。
ボロボロのマントに、何よりも奇妙な色のボディスーツに、ネックに刻まれたローマ数字のナンバー。
そう。彼女らはまた、『人間ではない』のだ。
と、眼鏡の女性に通信が入る。
「クアットロ、ルーテシアお嬢様とアギトが捕まったわ。彼らのサポートをお願い。」
「了解しました~。」
終始、お茶らけながらクアットロは受け応えをする。
そして、ルーテシアに心話を開始した。
(は~い、ルーテシアお嬢様。クアットロがサポートいたしま~す。)
(ん…お願い…)
(わかりました~。では、私の言う言葉を、その赤い騎士とごつい筋肉さんに伝えてあげてくださ~い。)
恐らく、紅い騎士はヴィータ、ごつい筋肉とは、アイクのことだろう。
他の物で注意をそらし、その隙に救出、といった手口だ。
ディエチが銃のチャージを始める。単発の威力なら、推定Sランクだ。
狙いは、少女とレリックを積んだヘリ。
「逮捕は…いいけど…」
ここにきて、ようやくルーテシアが口を開く。
「大事なヘリは、放っておいていいの…?」
「!!」
ヴィータ達が一斉に動揺した。
クアットロが言わせているのだ。
そして、アイクを見る。
「あなたは勇者のくせに…また、見殺しにするの?」
その一言に反応し、全員が一斉にアイクを見る。
アイクは渋い顔をして、ルーテシアを見つめる。
その次の瞬間、砲撃がヘリを狙ってしゃしゅつされ、轟音が鳴り響いた。六課は、全力でヘリを確認しようとする。
そこに、通信が入ってきた。
「こちらスターズ1、ギリギリでヘリの防御成功!!」
その言葉に、緊迫していた全員が安堵した。
「ふぅ……」
と、ため息をつくヴィータ。しかし、まだ終わりではなかった。
ギンガが、あるものを発見する。それは、『指』だ。しかも、道路を移動する。
「エリオ君!!」
その声に反応したエリオだが、反応できても、対応ができなければ意味がない。
水色の髪をした女性に、レリックの箱を奪い取られた。
(ルーテシアお嬢様、ディープダイバーで救出しますから、フィールドとバリアをオフにして、じっとしててください!)
その指示どおり、ルーテシアは静かに待つ。
すると、先ほどの女性が出てきて、ルーテシアとレリックの箱を持ち去ってしまった。
そのころ、なのはとフェイトの部隊も、ヘリの狙撃を行った犯人たちを取り逃がしていた。
報告等が終わり、なのはは聖王医療院に来ていた。あの少女が心配になったのである。
途中、ぬいぐるみを購入して、その子の枕元に置く。すると、寝言が聞こえた。
「ママ…」
その様子を見て、なのはがほほ笑む。
「大丈夫だよ。ここにいるよ…」
なのはの瞳には、この子を守りたい、という母親の様な光が宿っていた。
一方その頃、アイクは河原に来ていた。
(また、見殺し…か。)
結果的にヘリは無事だったが、それでもシャマルやヴァイスが危機に陥った事に変わりはない。
(…俺は…)
アイクは自分の手を握り締める。
父と母を見殺しにした。その事実は変わってはくれない。過去を受け入れるといっても、アイクにとってはトラウマでしかない。
それに、アイクには戦う理由がなかった。ただ、眼前の敵を切っただけなのだ。
(俺は…ただの、殺人者…か)
その様子をこっそり見守る影があった。それは、ティアナだった。
帰還してからのアイクの様子がおかしかったのでついてきたのだが、その理由は明らかだった。
「アイクさん……」
そう呟いては見るが、自分には何もできない。こればっかりはアイクが答えを見つけるしかないのだ。
そう、戦う理由、という名の『今までの自分への言い訳』が。
to be continued......
最終更新:2011年04月04日 23:53