夢を、見た。
今までのようにトラウマにとらわれた夢ではなかった。
それは、見ている者からすればほほえましくなるほどの平凡な夢。
朝起きて、家族と共に過ごして、笑いあい、生きていく。
そんな、普通とも言える幸せな夢。
だが、彼は知っていた。本来の自分には、そのような甘い幸せが訪れないことも、訪れてはいけないことも。
夢の中で、笑いながら過ごしている自分を見つめながら思う。
―――本当だったら、こんな風に過ごしていたのかもな―――
常人とはかけ離れた生活を送り、常に生死の境を彷徨うような戦場にいた。
もし、俺に戦いが無かったら。もし、俺が傭兵では無ければ。
こんな生活を送っていたのかもしれない。
だが、今の彼は戦いの意味を知ってしまっていた。
いまさら、こんな幸せにありつこうとは思わない。何故なら、
「俺は、殺人者だからな――――――――――」
第16章「再開する勇者達」
久しぶりに寝覚めが良かったので、アイクは一人で河原に向かっていた。
「…平和、だな。」
アイクは昇りつつある朝日を見ながら一人、呟く。
それは、何とも美しい景色。
彼は戦うことを決意してから、どれほどこの景色を見たのだろうか。
戦いの間でこういった景色を見ることはあっても、何も考えずにこの景色を見るのは初めてではないだろうか。
ふと、黒い気持ちが流れ込んできた。
オマエハ夢ノ中デミタ、アノヨウナ家族ヲイクツモ破壊シタ。
――黙れ
イマサラ、平和ヲ夢ミタトコロデ、オマエハ幸セニナル権利ガアルノカ?
――…黙れ
ソウダ。オマエノ居場所ナド、戦場シカナイ。
平和ナド、所詮幻想ニスギナイ。ソンナ下ラナイ物ノ為ニ、己ノ剣ヲ振ルウノカ?
――確かに、平和は幻想だ。だが、それを実現させようと頑張るのが俺たちだ。
オマエハドウダ?ソレデ満足カ?
――どういう意味だ?
オマエハ戦イヲ求メテル。ソウダロウ?
無用ナ戦イハ避ケナガラモ、敵ト対峙シタ時ニハ容赦ハシナイ。
ソレハ、ツマラナイ戦イハシタクナイト言ウコトダロウ?
――…
ソウダ。我慢ヲスルナ。罪ナドキニスルナ。タダ、戦イヲ求メテ―――
そこで、アイクは思考を打ち切った。これ以上考えたら、自分が自分ではなくなるだろうと思ったから。
暫くして、アイクはようやく自分の姿に気づく。
先ほどの心の対話で強い恐怖がにじみ出ていたのか、彼の体は汗だらけだった。
「戦いを求めている、か…」
否定ができない。
確かに、彼は強者を求めている。平和という幻想など望んでいない。
だが、一つだけ間違っている物がある。
「罪は、償うべきだ…例え、神が許しても、罰が恐くても―――――」
俺の犯した罪は、消えないのだから――――
「あの…セフェランさん。ここは、何処、でしょうか…」
ペレアスがおずおずと口を開く。無理もない。
誰だって、見ず知らずの場所にいきなり飛ばされたら同じことを思うだろう。
そもそも、ここは彼等からすれば「異世界」だ。
誰に聞いても仕方がないのだが、それでも聴かずにいられないのが人間の性である。
「すみませんが、私も分かりません。ですが、ここまで科学が発展している世界ならば、地図の類のものは探せば出てくるでしょう。」
そう言ってセフェランは目の前の光景を見渡す。
走る自動車に、信号。高層ビルや、
その他もろもろ。
ペレアス達にとって、カルチャーショックを受けざるを得ない光景だった。
「しかし…科学はここまで発展できるのか…」
ショックを隠しきれない表情でニケがつぶやく。
アイク達の世界ではどちらかと言うと魔法が発展してきた世界だ。
いや、魔法を使わず、魔法の様なことができる、と言った方が的確か。
「ニケさん、できればオオカミのお姿でいてください。町中に耳や尻尾をはやした人は奇異の目を向けられますよ。」
「それもそうだな」
ニケは機嫌を損ねたそぶりを見せず、オオカミの姿に変わる。
彼女はいまだに「王者」であるため、化身に精神集中はいらないのだ。
だが、セフェラン達も各々の姿をよく見るべきであった。
マントを着て魔道書をもつ男と、見るからに優しそうな司祭。そして、剣を持ち歩く袴姿のイケメンな剣豪、そしてオオカミ一匹。
…彼らはそのまま街を出歩き、警察官に任意同行を求められたのだった。
「はーい、じゃ、朝の訓練始めるよー。今回は、ライトニング&スターズ対アイク達とギンガの模擬戦。これから10分後に始めるから、各自、用意は整えてね。」
「「「「はい!」」」」
「アイクさん、よろしく!」
「ああ」
「よろしくお願いします。」
………たったそれだけの自己紹介。ある意味、彼ららしいといえば、彼ららしい。
「では、今回の作戦を言います。ギンガさんは…」
セネリオが切り出す。今回の模擬戦も退屈しなさそうだと、アイクはひそかに思った。
「じゃ、いくよ。模擬戦…」
スタート、という直前で通信が入る。
『なのはさん、フェイトさん!!旧市街地にガジェットドローンⅢ型、30機が出現!!直ちにスターズとライトニング隊をつれて現場に急行してください!!』
「「了解!」」
その通信を受けて全員が用意を始める。
この時からすでに、終焉へと向かう歯車は回りだしていた。もう、すでに止まらない。
行きつく先は滅亡か、それとも別の終わりか。
少なくとも、今この時は彼らがそれを知ることはなかった。
「!!」
「どうした、セフェラン。」
「何かの気配を感じます。恐らくは、先日戦ったあの機械か、その類か。」
「何にしても、こ奴らをどうにかせねばその場に行けぬぞ。」
「ちょっと、何を話してるか知らないけど…」
言いかける警察官の目の前にセフェランが杖を突き付ける。
次の旬がん、警察官な音もなく倒れ伏した。
「ソーンバルケさん、何か言いました?」
「セフェランさん、法律スレスレじゃないですか?…」
セフェランがスリープの杖で眠らせた警察官をかわいそうに見つめるペレアス。
先ほどの警察官から聞いた話では、「公務執行妨害」とか言っただろうか。
「さあ、余談はここで終わりです。行きますよ。」
さっき押収された武器類を取り返し、セフェランについていく二人と一匹。
その向かう先は、地図によると旧市街地。
その先にはアイク達がいるのだが、今の彼らには知るすべはなかった。
「アイクさん、伏せて!」
「ッ!!」
ティアナとアイクがコンビネーションを駆使して確実に敵を撃破していく。
「あの二人、すごくいいコンビネーションね…」
「そりゃそうだよ!!だって、もうこの隊の中では公認カップルだもん」
「確かに…でも、アイクさんはティアナの気持ちに気付いているのかしら?」
「…そこが問題なんだよね~。アイクさんは心の機微には凄く鋭いくせに、恋愛に関しては驚くほど鈍いんだもん。」
スバルとギンガがお互いに背中を預けながらしゃべりあう。
仮にも、ここは戦場なのでそう言った油断は危険極まりないのだが、残りはアイクとティアナが相手にしている3体のみ。
「ハァッ!」
大きな声がしたかと思うと、残りの3体が一気に爆発して飛び散る。
「いや~突然だったから何があったかと思ったけど、行ってみれば大したことは―――」
「ッ!スバル、後ろ!!」
安心したようなスバルの背後から2体のガジェットが飛び出てきた。
スバルはそれに気づくには遅すぎた。
「!!」
それに気づいて振り向いたが、それはすでに攻撃態勢に入っていた。
とっさに防御魔法を展開したとしても間に合わないだろう。
激痛を覚悟して、スバルは目を瞑る。
いつまでたってもその痛みがやってこないことを変に思い、そっと目を開ける。
ガジェットはその場から1ミリも動いていなかった。いや、動くことができなかった。
スバルは遅れて、そのガジェットに横一文字に切れ目が入っていたことに気がついた。
真っ二つにされたがジェットが少しずつスライドして向こう側にいた人が見えてくる。
そこには、緑の髪をした袴姿の剣士が立っていた。
「どうして…お前が…」
アイクが絶句する。
「ソーンバルケ、なぜお前がここにいる!?」
「アイク、その話は後だ。今はこいつらを斬るのが先だ。」
ソーンバルケは言いながらも、獲物を見定めてヴァーグ・カティを構える。
そんな彼らにガジェットは何も考えずに突っ込んでくる。
だが、この二人に挑むこと自体がこの兵器にとっては運の尽きだった。
ガジェットは音もなく、二人によって複数の塊に変えられた。
「私に挑むというのなら、剣の腕で勝負願いたいものだな。」
「フッ、お前に勝てる奴なんて数えるくらいしかいないだろう。」
軽口をたたきあい、何事もなかったかのように剣を鞘に納める。
「あの、アイクさん。そちらの方は…」
「紹介が遅れた。剣聖のソーンバルケ。まぁ、…あちらの世界で彼とともに戦った仲だ。」
「さっきも聞いたが、なぜお前はここに…」
言いかけた時に、後ろの建物の陰から気配を感じ、振り返る
そこには。
「久しぶりだな、アイク。剣の腕は衰えては無いようだな?」
「…アイク、久しぶりですね。」
「えっと、お久しぶりです、アイクさん!」
ニケ、セフェラン、ペレアスが陰から姿を現す。
本来ここにいるべきではない人物が4人もいることにアイクもセネリオも驚きのあまり、言葉を失っている。
そんな中、おずおずとティアナが切り出す。
「あの…立ち話も何なので、六課で話を聞いてみませんか?」
ここは闇の中。
その中でゆらりと蠢く影があった。
「彼等も来たか…」
ゼルギウスは手にかけたエタルドから手を離し、呟く。
その視線の先には、アイク、ニケ、セネリオ、、ソーンバルケ、ペレアス、そしてセフェランがいた。
「あの方も来るとは思わなかった…だが、これで。」
―――私の目的が果たせる。スカリエッティにも伝えたあのことを、彼にも伝えれば。
「全ては、女神のため…か。私にとってはさしずめ、もう一度「死ぬ」ためか。」
この計画はしくじってはならない。もし失敗すれば、少なくとも2つの世界が「奴ら」の手に落ちる。
そうなったら、誰も「奴ら」を止めることはできない。
「支配欲に取りつかれた愚かな者どもに世界を握られるくらいなら、私は。」
―――我が身の破滅と引き換えに、この世界を束縛から解き放つ。
ゼルギウスは身を翻し、一度は光に染まりかけた心を無理やり闇に沈め、影の中へと戻って行った。
「それで、この人たちがアイク達の世界から来た人たちなんやな?」
執務室にてアイク達一同がはやてと向き合う。
「そうです。私たちは女神の意思により、この世界にやってきました。そして、ある重要なことを伝えに来ました。」
そう言って、セフェランは表情を引き締める。
次の瞬間、その場にいる人たちからは考えられない言葉を発した。
「そう遠くないうちに、私の世界とあなた方の世界の、戦争が始まります。」
To be continued……
最終更新:2011年07月20日 22:17